( ^Д^)と(*゚∀゚)は魔界のならず者のようです

197: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 19:12 c1nNg9XgO

第六話 『魔界軍師』


城下町方面からは雄叫びや悲鳴が聞こえ、戦闘の激しさを物語っている。

それとは対照的にどこからか吹いてくる静かな風が支配する城門前で、二人の男女が対峙していた。

爪゚ー゚)「先に聞いておきたいことがある」

刀を構えたまま、じぃは前方の男―――ビコーズに問う。

爪゚ー゚)「先程お前が口にした組織…一体何が目的だ?」
( ∵)「…我に答える義務はない」

無表情のまま言うも、考え直したように再度口を開く。

( ∵)「…これだけは言っておこう。
    我々はある人物によって造られし存在。当初から身体などなく、あるのは魂と意思のみ」
爪゚ー゚)「…?」



198: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 19:18 c1nNg9XgO

対し、じぃは小さく首を傾げるのみ。
ビコーズの言葉が全く理解できないからだ。

自分も今では魂だけの存在であるが、魂を人為的に造り出すことなど魔王ですら不可能なこと。
疑問はさらに増えるだけであった。

爪゚ー゚)「それだけでは何一つとして事を理解できないな。さらに説明願おう」
( ∵)「…これ以上は言うものか」

拒絶され、彼女は状況に似合わぬ苦笑いを浮かべる。

爪゚ー゚)「そう固いことを言わず、教えてくれないか。どうせお前と会うのもこれが最初で最後なのだから」
( ∵)「…黙れ」



199: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 19:36 c1nNg9XgO

瞬間、ビコーズが大きく跳躍。
その無駄のないステップはたった数歩で距離を詰め、そのまま突撃するような動作でじぃ目掛けて短刀を繰り出す。

爪゚ー゚)「…やはり駄目か」

短く呟くと同時に刀を握っていない左手を上げ――

( ∵)「なっ」

彼女は自分に向けられた短刀をその手で直接掴んでいた。

爪゚ー゚)「っ!」

刃が左手を切り裂くが、彼女は動作に支障を来すことなく右手の刀をビコーズへと振り下ろす。

( ∵)「ちっ…!」

短刀を押さえられているビコーズは咄嗟に懐から新たな短刀を取り出しガード。
が、衝撃までは防ぎきれずに後退させられる。



200: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 19:39 c1nNg9XgO

爪゚ー゚)「そう早まるな。焦りは全てを狂わし、遂には自身を滅ぼす」
( ∵)「…敵に送る言葉ではないな。それに、下準備にぬかりはない」

言われて、じぃは初めて異変に気付く。
彼女は下に降ろした己の左手に目を遣った。

爪゚ー゚)「…成る程な」

納得したように呟く。
彼女の左手の感覚が殆どなくなっていた。

( ∵)「…この短刀には対霊体用の魔力が篭められていて、同時に麻痺作用のある毒も塗り込んである。
    …無論、お前のような相手にも効果を表す強力なものをな」

防御に使った短刀をしまいつつ言葉を出す。

爪゚ー゚)「……」

恐らく先程短刀を掴んだ際に麻痺毒が入り込んだのだろう。
相手を惑わし、弱りきるその時まで虎視眈々と必殺の機会を狙い、そして仕留める。
流石は暗殺者といったところか。

己の判断の甘さに、じぃは心の中で悔やむ。



201: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:26 c1nNg9XgO

だが彼女はその心情を表に出すことはない。

爪゚ー゚)「…ならば左手を使わず、毒が全身に回るまでに終わらせれば良いこと。治療など後でも問題ない」
( ∵)「…嘗められたものだ」

じぃの澄ました様が気に障ったのか、無表情のまま再び殺気を静かに纏わせ

( ∵)「そう簡単にできると思うな」

真上に跳び、懐から手裏剣を複数取り出しては横薙ぎに放つ。
それらは普通に投擲したとは思えぬ速度でじぃへと迫る。
だが彼女は焦ることはなかった。

爪゚ー゚)「甘い!」

言葉と同時にじぃの姿が掻き消え、直後に金属を弾くような鋭い音が連続で鳴り響く。

( ∵)「!」

ビコーズが反射的に振り返ると、そこには片手で器用に刀を鞘に納めているじぃの姿。
さらに先程まで彼女がいた位置に再び目を遣ると、その付近に両断された手裏剣が転がっていた。



202: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:30 c1nNg9XgO

爪゚ー゚)「仮に私が暗殺者ならば、相手に殺気を悟られる前に一気に仕留めると思うが…どうか?」
( ∵)「お前…何者だ?」
爪゚ー゚)「はは…魔界軍師、とでも言えば良いのかな」

ビコーズの問いかけに対し、じぃは自嘲じみた笑いを浮かべながら答える。

爪゚ー゚)「それにしてもビコーズとやら、質問に質問で返すのはルール違反だぞ。是非とも行いを改めることを推奨する」
( ∵)「……」

無言の返答。
それは即ち怒りと憎悪を表し、無表情とはいえ強く、そして禍々しく伝わってくる。



203: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:34 c1nNg9XgO

( ∵)「…」

『寡黙』とはこういうことなのだろう。
ゾッとさせられる程のオーラを纏いつつ、短刀を振りかざして風の如く突っ込んでくる。

爪゚ー゚)「…そうか」

残念そうに呟くと共に、左方に跳んで突進を回避。
同時に麻痺毒が全身に回りかけているのを感じる。

爪゚ー゚)「あまり時間がない…最後の質問だ。
     仮にお前の言葉が真実だとして、誰がお前達の魂を造り出した?」
( ∵)「……」

最早何も聞こうとせず、答えようともしない。
まさに戦うことを命じられた『人形』のようである。
だが、彼は突如持っていた短刀を懐へと納めた。
そして

爪゚ー゚)「なっ…」

何ということだろう―――ビコーズの両手首が、文字通り変形を始めたのだ。
それはみるみるうちに武器らしき何かを象っていき―――



204: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:42 c1nNg9XgO

ようやく変化が止まる。
だがビコーズの腕は、もはや原形を留めていない。

( ∵)「……」

彼の両手首から先は紫の鎖の先端に、実に表現し辛い色をした大型の手裏剣を繋いだ形となっていた。
その異様な姿に、じぃはただただ呆然とする。

爪;゚ー゚)「信じられんな…アレはまるで機械ではないか」

霊体でありながら、あの機械兵のように武器と同化した腕を持つ存在など、見たことも聞いたこともない。

滅茶苦茶だ。全てにおいて矛盾している。



205: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:45 c1nNg9XgO

爪゚ー゚)「むう…」

理解に苦しむが、今は自分の常識に当てはめて考える余裕はない。
目の前にいる相手は確かに存在し、さらに言えば時間もない。
あと五分もすれば、麻痺毒は完全にじぃを蝕むだろう。

( ∵)「……」

瞬間、ビコーズが鎖手裏剣と化した右手を伸ばした。
どうやら鎖の長さを調整することによって、先端に繋いだ手裏剣の飛ぶ距離を自由にコントロールできるらしい。

爪゚ー゚)「っ!」

脚部も少しずつではあるが感覚が消えつつある。
回避は危険と判断し、じぃは刀で手裏剣を往なす。
だが、今度は左の手裏剣が襲いかかる。



206: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:49 c1nNg9XgO

爪゚ー゚)「…!」

連撃を防ぎきれず、痺れに耐えつつ後方へと跳ぶ。
だが相手も即座に距離を詰め、執拗に二つの大型手裏剣を放ってくる。
意思を持つかのように飛んでくる手裏剣と、それを繋ぐ鎖を打ち払いながらじぃは思う。

爪゚ー゚)「(そろそろ決めないとまずいな)」

表情には出さないが、彼女はこの戦闘で初めて焦りを感じていた。
焦りは己を滅ぼすと言っておきながら、この有り様は何なのだと自身に問う。

爪゚ー゚)「(そうだ…冷静にならなくては)」

刀を正面に構え、静かに目を閉じる。
痺れを強引に振り切り、彼女は全神経を集中させた。



207: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:53 c1nNg9XgO

( ∵)「…諦めたか」

彼女の、ある意味予想外の出方に対してビコーズは小さく呟く。
そして真上に高く跳び、身体を独楽の如く横に回す。
その回転半ばで、止めを刺すべく右手である手裏剣を放った。

( ∵)「…さよならだ」

遠心力によって威力は数倍に膨れ上がり、その破壊の力は手裏剣を繋ぐ鎖が伸びるにつれてさらに強まる。

轟音をあげ、全てを粉砕せんとする勢いの刃はやがてじぃへと至り、その魂を微塵とする―――はずだった。



208: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 20:57 c1nNg9XgO

事は次の瞬間起きる。

爪゚ー゚)「!」

迫る刃を察知したじぃが、突如目を開いた。
そして手裏剣が命中する寸前に、彼女の姿が掻き消える。

( ∵)「…何だと――!?」

狼狽の声をあげた直後、ビコーズの右腕の感覚が消え失せる。
見ると、鎖付き手裏剣と化した右手首が、半ばで綺麗に切断されていた。

(;∵)「…馬鹿な、それ程度の集中でそのような速度など――」

続いて激痛が走る。
重心を失い、ビコーズは地に落ちていく。
そして彼の目には地に降り立ち、刀を構え直すじぃの姿が映った。

爪゚ー゚)「…出来るさ、その気になれば」



209: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 21:06 c1nNg9XgO

精神を統一し、集中力を高めることによって生み出された雷光の如き斬撃が、無防備となっていたビコーズの右の鎖を一閃した結果だった。

本来ならば攻撃の見切りから反撃までを一瞬でこなすほどに集中力を高めることは、この短時間の精神統一では不可能。
だが、じぃの並外れた精神力がそれを可能としたのだ。

そして片手を失い、墜落するような形で地に落ちたビコーズの隙をじぃは見逃さない。

爪゚ー゚)「……」

起き上がろうともがいているビコーズに目を遣りつつ、静かに刀を天へ掲げ

爪゚ー゚)「大いなる精霊達よ…このような身に堕ちてなお、力を行使しようとせん私を、どうか御許し願おう」

祈るように言葉を紡ぐ。
そしてそれに呼応するように刀が強く発光。
それは魔界の住人にとって快いとはいえない、聖なる力の象徴。
だが彼女はその力を拒絶することはなく、力が彼女を拒絶することもない。

未だ起き上がれず、しかし危険を察知したらしいビコーズへ刀を向け―――

爪゚ー゚)「受けるが良い…神々の裁きを!」

一瞬の静寂。
そして次の瞬間、轟音と共に空より降り注ぐ何かがビコーズを呑み込んだ。



210: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 21:08 c1nNg9XgO

身の毛が弥立つ程の轟音は、一つの戦闘の終結を象徴するかの如く魔界全土に響きわたり
それを耳にした者達は一瞬意識を奪われる。

( ФωФ)「おーすげぇ、さては軍師さんだな。
       しかも久々に戻ってきて早々荒技ぶっ放すとか流石としか言いようがねえ」

城下町の中央にて、複数の武器による攻防の中、ロマネスクは畏敬の念を篭めて呟く。
それとは逆に、ぃょぅは顔をしかめて呟く。

(=゚ω゚)ノ「(あそこに向かったのは確か…)
     くそっ、ビコーズの奴しくじったのかょぅ!」
( ФωФ)「あ? まだ何かいたのか。だとしたらそいつは最高級の大馬鹿野郎だな」



211: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 21:18 c1nNg9XgO

鍔迫り合いをしたまま不敵に笑い

( ФωФ)「彼女はてめえら如きが勝てるような相手じゃねえ。
       ついでに言うと、てめえを潰すのはこの俺だ。軍師さんが出る幕じゃねえからな」
(=゚ω゚)ノ「なら、僕はお前を潰してやるょぅ!」

馬鹿にされて躍起になったらしいぃょぅに対し、ロマネスクは嘲笑するように付け加える。

( ФωФ)「よーくわかったぜ…てめえじゃ逆立ちしたって俺すら倒せねえことがな!」

それを最後に言葉が切れ、再び殺気が辺りを支配していった。



212: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 21:23 c1nNg9XgO

空より降り注いだ『何か』の正体は、触れたもの全てを無に帰すかと思える程の、雷の柱。
空を突き破り落ちてきたそれは、ビコーズを一瞬にして消し去った。
彼がいた地点は大きく抉れており、紫色の光が空気に溶けるように消えていく様子が確認できた。
そしてその有り様を視界に収めるじぃ。

爪゚ー゚)「……」

ビコーズのいた位置へと歩み寄り、黙祷を捧げるように目を閉じる。
仮に来世というものがあるのならば、戦いとは無縁の形で幸せになってほしいという祈りを篭めて―――



213: ◆wAHFcbB0FI :09/01(土) 21:29 c1nNg9XgO

爪゚ー゚)「……」

青く澄んだ目を開ける。
自分が止めを刺しておきながら、何とも理不尽で身勝手だと思う。

爪゚ー゚)「いつまでもここにいる場合ではないな…」

複雑な思いを振り切り、刀を鞘へと納めつつ呟く。
だが

爪゚ー゚)「くっ…」

緊張が解れたのか、無理に抑えていた痺れが戻ってきた。

爪゚ー゚)「油断したな…一旦治療しなくてはならん」

まだ動くことは可能なので、ひとまず城内に撤退することを考える。

爪゚ー゚)「(『MSP-B04』ビコーズ…一体奴等は何者だ…?)」

先程までの戦闘で明らかとなったことは、ほんのごく僅かにすぎない。
だが敵が存在している以上、いずれ全てを知ることになる―――いや、知っておくべきだろう。

そして何より、一刻も早くこの戦を終わらせなくてはならない。
様々な疑問や思いを抱きつつ、彼女は周囲に敵がいないことを確認し、その場をあとにした。



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