( ^Д^)と(*゚∀゚)は魔界のならず者のようです

511: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:07 iTz+ue1CO

第十三話 『過去を見ず今を生きろ』


時は真夜中。
その時間帯を示す藍色の空に見えるは、静かな光を放つ月と無数の星。
鬱蒼と生い茂る木々は夜の闇のせいで怪しい雰囲気を醸し出し
遠くから不気味に響く野鳥の鳴く声が、より恐怖感を引き出していた。


そこは、魔界ではなく現世である。

暗夜に包まれた森の奥深く、人里離れたこの場所には侵入者を待ち受けるかのようにぽっかりと口を開けた洞穴。
そこは人々が恐れて近づこうとしない禁断の地とされ、一度足を踏み入れて戻った者はいないとまで言われていた。



512: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:11 iTz+ue1CO

そんな、地獄への入口を思わせる穴の正面に、現在人のようであって人らしからぬ影がある。

( ФωФ)「…ふむ、こいつが『現世の魔境』だな」

両手を腰に当て、しかし他の腕を組んで堂々と立っている人型の魔物―――ロマネスク。

現世にいるという友人を呼び戻すため、ヒッキーによって現世のこの場所へ飛ばしてもらってから既に五分。
人間ばかりのこの世界にも、こんな物騒な地があるものだと感心の念を抱きながら、先程から洞窟の入口をまじまじと眺めているのである。

そして洞穴内から流れてくる怪しげな空気で彼は判断していた。
ここはとてつもなく禍々しく、そして危険な洞窟である、と。
並の人間ならば恐れをなして逃げ出すのが普通だろう。
しかし魔物という、そもそも人間でさえない生物であるロマネスクはその恐怖感を感じて、思わず口元に笑みを浮かべてしまうのであった。



513: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:14 iTz+ue1CO

( ФωФ)「…さて」

ふと、彼の目つきが真剣なものとなる。
これは任務だ。
決して遊び半分で進めてはならない。
その辺りの『けじめ』というものが、ロマネスクにはあった。

( ФωФ)「そう…これは軍師さんが俺に与えた試練のようなモンだ。俺がやらずに果たして誰がやる?」

辺りに誰もいない中で、彼は言葉を紡いでいく。

( ФωФ)「俺は魔軍の隊長…つまり魔界では魔王さんと軍師さんの次の位な訳だ。
       そんな奴が尊敬する者の命令一つ聞けないようじゃ情けねえよな。必ずやってやろうじゃねえかよ」

そんなことを言いながら四本の腕を背に遣り、背負っていた四本の巨大トマホークを一度に構えた。
そして大きく一呼吸し

(# ФωФ)「時は来たり! 魔界軍隊長ロマネスク参るッ!」

そう叫ぶも、その木霊した声を聞いた者はいない。
何時ものやかましい兵士達さえ率いていない今、当然応じる声が唱和されることはなかった。

( ФωФ)「…ちっ、なーんか調子狂うな」

何だか空しくなってきたロマネスクは、さっさと先に進むことにした。
目指すは、『現世の魔境』の奥深く。



514: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:17 iTz+ue1CO

………………………

( ФωФ)「おーい、何かいるんなら出て来いや。
       これじゃ折角気合い入れた意味がねえだろ」

呆れ気味に独り言を吐く。
曲がりくねった道をひたすら進み続けてもう数分は経つはずなのだが、未だ何者にも襲われていない。
辺りには確かに怪しげな気配が漂っているのだが。

( ФωФ)「この雰囲気は見かけ倒しか?
       ったく、『現世の魔境』の名が聞いて呆れる――」

悪態をついたその時。
ロマネスクはふと耳をすまし、そのまま警戒態勢をとる。
どこからか地を這うような音が聞こえてくるのだ。



515: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:21 iTz+ue1CO

( ФωФ)「…そうだよな、そうこねえとな」

武器を強く握る。
応じるように、闇から聞こえる音が大きくなる。

( ФωФ)「……」

ほんの数秒とも、数分とも感じられるような錯覚の中。
その発生源の位置をある程度特定できる程になった時

( ФωФ)「そこだッ!」

暗闇に向けてトマホークを投擲。
それは回転しつつ飛び込んでいき―――少し遅れて何かのけたたましい悲鳴。

( ФωФ)「手応え…アリだな」

納得するように頷く。
地の這う音の消失と、暗闇の中の何かが発した断末魔が、敵の絶命を証明していた。



516: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:22 iTz+ue1CO

だが

( ФωФ)「…おかしいな。確かに仕留めたはずなんだが」

拾い上げたトマホークを見つめながら、ロマネスクは首を傾げる。
その刃は血に塗れてはいるが、しかし死体はどこにもなく血溜まりが残っているのみ。
倒されたと見せかけてどこかへ身を潜め、反撃の機会を虎視眈々と狙っているということも考えられるが―――

( ФωФ)「それにしちゃ動作が速すぎる……しかも隠れる場所なんてどこにもねえしな」

敵の正体さえも掴めていない状況。
訳が解らぬまま、ロマネスクは一つの結論を出す。

( ФωФ)「…よし、無視しよう」

厄介事には下手に首を突っ込まない。
油断は禁物だが、時間もあまりない今は些細なことを気にしている場合ではなかった。



517: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:25 iTz+ue1CO

……それからロマネスクはさらに進み続けるが、一向に先は見えてこない。

(; ФωФ)「…どうなってやがる! さっきから同じところを進み続けてる気がするぞ!」

せっかちな彼を咎める部下は残念ながら今はいない。
何かの罠なのではないかと思い前後左右を見回すが、あるのは吸い込まれそうになるような暗闇ばかり。
道が分岐していることもなく、先へ進む道と戻る道の二つしかない。
つまり

( ФωФ)「畜生、とりあえず進むしかない訳か!」

諦め、彼は暗闇の中を進み続けた。



518: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:27 iTz+ue1CO

半ば苛つきはじめた頃、彼はようやく一つの場所へと辿り着いた。

( ФωФ)「こいつは…」

そこは先程までの狭い道より、いくらか広い空間。
足下には、生物の骨と思われるものが散乱している。
気味が悪いな、と思いながらロマネスクは前方に目を遣る。

( ФωФ)「あっ、面倒なのが居やがるよ…」

何かが行く手を塞いでいる。
少し離れたこの位置からも、その姿を確認できた。

蜥蜴をそのまま巨大化させたようで、しかし背部には皮膜の大きな翼を生やし
さらには何故か二本の足で立ち、口からは鮫のような鋭い刃を覗かせている。
それは、現世の生物とは到底思えない怪物であった。



519: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:31 iTz+ue1CO

( ФωФ)「ほう、こいつが俗に言う『キマイラ』って奴か」

ロマネスクは怯みもせずにその妙な生物に近づき

( ФωФ)「やいてめえ! 俺の邪魔をしようってのか?」

いきなり喧嘩腰で言葉を吐く。
それに対して、返ってきたのは叫びのような鳴き声。
こちらの言葉を理解していると感じたロマネスクは怪物に要求する。

( ФωФ)「この先にいる奴に用がある。通せ!」

ロマネスクも、この時ばかりは魔軍隊長らしさをみせる。
しかし対する怪物は道を開けようとはせず、代わりに「進みたければ自分を倒してみろ」と言わんばかりの雄叫びをあげた。



520: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:33 iTz+ue1CO

( ФωФ)「…そうか」

短く呟き、彼は態度を一変させる。

(# ФωФ)「そんなに死に急ぎたいか!」

一方的にキレたロマネスクは地を這うように接近し、そのまま怪物目掛けて横薙ぎにトマホークを振るう。
しかし相手は素早く跳んで回避し、着地と同時にロマネスクへと飛び込んでくる。

(# ФωФ)「小賢しいわ! 魔軍隊長嘗めんなッ!」

二つのトマホークをクロスさせて突進を受け止める。
勢いまでは殺せず吹っ飛ばされそうになるが足を踏ん張って耐え、残った二本の腕のトマホークで殴り飛ばすように敵を斬りつけた。
その力任せの攻撃を受けた怪物は血をぶちまけながら吹っ飛び、岩壁に叩きつけられる。



521: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:42 iTz+ue1CO

( ФωФ)「っしゃあ、門番一匹ぶっ殺してやったぜ」

吹っ飛ばした相手を見据え、完全に倒したと思い込んだロマネスク。
だが敵はまだ絶命しておらず、今度は翼を広げて空を滑るように突っ込んできた。

( ФωФ)「…あぁ、まだ来るのか!」

トマホークを二つ同時に投擲。
しかし空を飛ぶ相手を捉えるのは難しく、それはあっさりとかわされる。

( ФωФ)「んだとお!?」

そう言っている間にも、敵は動作を止めることなく迫ってくる。
大口を開け、その鋭い牙でロマネスクを噛み千切ろうと―――



522: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:45 iTz+ue1CO

( ФωФ)「…なーんてな」

飛びかかろうとしてきた相手を目前に引きつけて、ロマネスクは咄嗟にトマホークを横に振るった。
ドサリ、という音と共に怪物の首が地に落ちる。
当然、二度と動くことはない。
突進、噛み付くといった原始的な攻撃を繰り返すだけであった怪物は、ある意味不意打ちともいえるロマネスクの攻撃に対処する術を持ち合わせていなかったのである。

( ФωФ)「…悪く思うなよ。『邪魔者は排除』が俺のやり方だ」

吐き捨てるように言いながら、ロマネスクは死体を睥睨する。



523: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 15:50 iTz+ue1CO

だが次の瞬間、彼は思わず目を丸くしてしまう。
突如としてパチン、という泡が割れるような音がしたかと思うと、目の前の死体が消えたのだ。

( ФωФ)「これは…?」

後には血溜まりが残るのみ。
間違いなく、先程暗闇に潜んでいた敵と同じ状況がここに出来上がっていた。


結局そのまま先を急ぐことにしたものの
先程暗闇の中に潜んでいた敵と同じ現象を目の当たりにしたロマネスクは、今度こそ疑問を感じずにはいられない。

そして結果的に、消える死体の謎も『現世の魔境』とされるこの洞窟を突破するまで解らずじまいであった。



524: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 19:32 iTz+ue1CO

从 ゚∀从「……」

魔界の地下。
貞子が住む家の、カウンターの奥にある多くの個室の内の一つ。
六畳程の割と広い部屋に、高岡は適当な姿勢で座っていた。
そこには何故かシャワールームもついており、現在シャワーの音だけが静かに聞こえてくる。
そして、今そこに目的の人物がいるのだが。

从 ゚∀从「…なあ」

ようやく、高岡はドア越しの相手に声を掛ける。



525: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 19:36 iTz+ue1CO

応答はすぐに返ってきた。

『…誰だい、私のシャワータイムを邪魔するのは?』
从 ゚∀从「俺だ」

それを最後に、再びシャワーの音だけが部屋を支配していたが、やがてそれも止まり

『そこで待ってなよ。すぐ行くからさ』
从 ゚∀从「三十秒で来な」

そう言ってふと部屋内を見回していると、色々と不気味な物が目に入ってくる。

从;゚∀从「…何で棺桶がこんな所にあるんだよ」
『それは私の寝床だから、覗いたりしたら文字通り地獄に連れてくからね』

直後にバタン、とドアを開ける音。

(*゚∀゚)「うーん、やっぱりシャワーはいいよねぇ。そう思わないかい?」
从 ゚∀从「…そうなのかもな」

シャワールームから出てきたつーを、高岡はただただ見据える。
肉体を持たぬ存在である彼女が果たしてシャワーを浴びる意味はあるのか、などというややこしい質問は敢えてしなかった。



526: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 19:41 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「…さて、話というのは何かな?」
从 ゚∀从「単刀直入に言う」

僅かではあるが、この時高岡の目から敵意のような何かを感じ取れた。

从 ゚∀从「てめえは何故、あの時俺を殺さなかった?
     あれだけ野蛮な戦闘狂が、俺を殺さなかった理由は何だ?」
(*゚∀゚)「…わざわざそんなことを聞きに来た、と?」

呆れ気味に言葉を吐き

(*゚∀゚)「単なる気紛れ。それだけだよ」
从 ゚∀从「冗談はよせ。
     てめえは今まで気紛れで殺しを繰り返してきたとでもいうのか?」
(*゚∀゚)「きっとそうだけど、何か?」

即答。
当たり前のように言い放ったつーに対し、高岡の中には不思議と憤りの念が生まれた。



527: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 19:49 iTz+ue1CO

从#゚∀从「…てめえは――」

衝動的に沸き上がる怒りを露わにしつつ叫ぶ。

从#゚∀从「命を、一体何だと思ってやがる!」

それは汚い世界で生きてきた高岡の、しかし心の底からの叫び。
対し、つーは意に介さない様子で言葉を返す。

(*゚∀゚)「命の見方は人それぞれ。因みに私にとっては戦いに必要不可欠な、大事な存在かな?」

そして

(*゚∀゚)「逆にこっちからも聞く。アンタは人を殺したことってあるかい?」
从#゚∀从「……!」
(*゚∀゚)「ない訳がないよね。この世界に転がり込んでくる人間は大抵現世で何かやらかした奴だし。
     アンタみたいな野蛮じみた性格の奴は特にそうさ」
从#゚∀从「違う! 俺はな……」
(*゚∀゚)「大方生き延びるためには仕方なかった、とか言いたいんだろうけどね」

そのままの口調で、しかし冷たく言い放つ。

(*゚∀゚)「五十歩百歩だよ。
     結局のところは私もアンタも殺人者であることに変わりないのさ」
从#゚∀从「……」

そう言われて、高岡は言い返すことは出来なかった。



528: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 19:58 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「…で、言いたいことはそれだけ?」

その後の沈黙を破ったのはつーの方だった。
彼女のその言葉を否定するように、高岡も再度口を開く。

从 ゚∀从「…俺とタイマン張った時、てめえは『楽しい』みたいなこと言ってやがったよな。
     どうやったら、命懸けのはずの戦いでそんなことが言える?」
(*゚∀゚)「そりゃ今のアンタと同じ理由だと思うけど?」
从 ゚∀从「んだと…」
(*゚∀゚)「そう言うアンタこそあちこち吹っ飛ばして面白がってたし
     何より先に喧嘩売ってきたのそっちだよ?」
从 ゚∀从「…っ」

言われてみればその通りである。
自らの力で周囲を爆発に巻き込む時など、胸がすくような気分。
さらに言えば、あの時の自分はひたすらに強者を求め、自らつーに喧嘩を売った。
生き延びるためだけに殺し合いに手を染めてきたはずの自分は、何時の間にかそれを楽しむようになっていた。


そして言葉に詰まった高岡をさも面白そうに見据えながら、つーは言う。

(*゚∀゚)「もうさ、変に思い悩んだりすんの止めちゃいなよ」
从 ゚∀从「…?」



529: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:05 iTz+ue1CO

意外な言葉に対して訝しげな表情の高岡に構わず、つーは問いかける。

(*゚∀゚)「アンタ…この世界に来てから、結構投げやりになってるっしょ?」
从 ゚∀从「…俺が自棄起こしてるとでも言いやがるのか?」
(*゚∀゚)「ああ、そうだねぇ」

事も無げに言い、そのまま続ける。

(*゚∀゚)「ちょっと話は変わるけど…アンタって結局どんな境遇なの?」
从 ゚∀从「両親いない
     スラム育ち
     殺しとか当たり前」
(*゚∀゚)「結構。でもさ、本当は殺しなんてしたくなかったんじゃないかい?」

その問いに、高岡は一瞬目を見開く。
彼女は小さく舌打ちし

从 ゚∀从「……そうだよ、俺だって好きで殺ってた訳じゃねえ。それが何だっていうんだよ」
(*゚∀゚)「やっぱり、本当は自分が生きるために仕方なくやってた、ってことだよね。
     何となくそんな気がしたんだよ。普通の家庭で育ってれば殺しなんてするような奴には見えないし」

己にとって一番遠い言葉である『家庭』を自分が口にしたことに、つーは内心苦笑する。

从 ゚∀从「…けっ、見かけだけで判断していいのかよ?」
(*゚∀゚)「アヒャヒャ…こっちは伊達に三百年死神やってる訳じゃないのさ」



530: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:12 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「ところでさ…私があの時アンタを殺さなかったのって何でだと思う?」

再度の沈黙の後。
最初に高岡がつーに対して投げ掛けた問いを、今度は何故かつーが口にする。

从 ゚∀从「単なる気紛れじゃねえのか?」
(*゚∀゚)「…融通の利かない奴め」
从 ゚∀从「冗談だ」

つーは高岡の横に、やはり適当且つ楽な姿勢で座る。
もしここに誰かが来れば、何やら女二人が黄昏ているようにも見えただろう。

(*゚∀゚)「…私には家族ってのがいないのは知ってるよね?」
从 ゚∀从「今初めて聞いたが、見りゃ大体解るな。
     それがどうしたってんだ? この世界の連中は皆そんなもんじゃねえの?」
(*゚∀゚)「…誰にも言うなよ」
从 ゚∀从「は?」

何故かつーの声が少し小さくなったのを感じた高岡は、半ば訝しげに耳を傾ける。
彼女の口から出た言葉は

(*゚∀゚)「…寂しいのさ」
从;゚∀从「…はい?」
(*゚∀゚)「…家族がいないってのが寂しい。もう言わないよ」



531: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:15 iTz+ue1CO

意外な言葉。
そして彼女の声色に、僅かに負の色が見え隠れしているのを高岡は見逃さない。

(*゚∀゚)「自分で言うのも馬鹿らしいけど、私って色々あって他の連中とはちょっと違う風に出来上がっちゃってるんだよね。
     何というかこう、余計に心が人間っぽくて且つナイーブみたいな?」
从 ゚∀从「とてもそうは思えねえが」

からかうような言い方だが、その表情は真剣である。

(*゚∀゚)「だから良い意味でも悪い意味でも、他の連中が考えない人間的なことを感じちゃったりするのさ。
     …あ、変な意味じゃないからな」



532: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:19 iTz+ue1CO

そして

(*゚∀゚)「もしかしたら、だけど。私がひたすらに戦いってものを好むのは、それを紛らわそうとしてることの表れなのかもしれない。
     そりゃ単にもっと強くなりたいってのもあるんだろうし、強い=名誉って感じの城下で暴れたいってのもあるんだろうけどね。アンタもそうなんじゃない?」
从 ゚∀从「……!」

心中で高岡は思う。
こいつは足掻いている、と。
表面上では『無駄に』と付け足せる程に明るい奴だが、それでもどこかに暗い影を隠しているのだ。
彼女が自身を『人間らしい』と言うのも、それを理由に家族がいないことを寂しいと感じるのも、何となくだが頷ける気さえした。

そんな彼女に対して、自分はどうか。
かつてはやむなく悪事に手を染めていたはずの自分が、いつしか破壊と抹殺を喜ぶようにさえなっていた。
それはかつての汚れた暮らしによる反動ともいえ、それに対して己自身のどこかが苦し紛れに足掻いているのでは――
―――あぁ、全く同じじゃないか。



533: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:24 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「私は人間じゃないけど、人間らしさを持った存在。だから同じ境遇の奴は放っておけなくてよ。
     百年とちょっと昔にもそんな理由で人間の子供の世話なんかをしたこともあるよ」
从 ゚∀从「…そうか」
(*゚∀゚)「ま、そんなこんなで私はアンタを殺さなかった……というか殺せなかった訳だよ。
     くだらない上に身勝手っしょ?」
从 ゚∀从「…んなこたぁねえよ」

普段から戦いを根っからの享楽とし、しかし情によってその手を緩めるつー。
実際、それはとんでもなく勝手なエゴであることに違いないのだろう。
しかし今の自分―――彼女と同じ部分を持った自分を考えると、高岡は彼女を否定することは出来なかった。



534: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:26 iTz+ue1CO

そして深く溜め息を吐き

从 ゚∀从「…これから、俺はどうすりゃいいんだろうな」
(*゚∀゚)「…? 何をいきなり言い出すんだい?」
从 ゚∀从「俺は幾多の犠牲の上に成り立つ殺人者。そんな奴に生きる価値があるのか、って思っちまってさ。
     それにあんな後味の悪い話を聞かされちゃ、殺しも窃盗もする気になれねえだろ常識的に考えて…」

理由はどうであれ、高岡は最早無益な殺傷を働きたくなかった。
彼女が心の奥深くに隠していた本来の自分を、少しずつではあるが表に出し始めているのだ。
だが、つーはそれを知ってか知らずか

(*゚∀゚)「そんなに悩むことなんてないよ! ここは地獄じゃなくて魔界なんだから!」

少女のように無邪気な笑いを浮かべながら、そう言い放つのである。



535: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:34 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「この世界のルールは『何事もやり過ぎない』、ただそれだけ。
     だから隊長の目に余るようなことをしなけりゃ食べ物盗んだりしたってだーれにも恨まれないよ!」

とんでもないことを当たり前のように口にする。
さらには

(*゚∀゚)「この世界じゃ強い奴は賞賛される。何故って時々町に略奪しに来る不良共を返り討ちに出来るからさ。
     アンタの実力とルックスなら間違いなく城下で大物になれるよ。私と後輩の次くらいに?」
从;゚∀从「…いや、俺は大人しくしとくぜ」

なんだかよく解らないが、高岡はとりあえず適当に誤魔化す。



536: ◆wAHFcbB0FI :12/09(日) 20:52 iTz+ue1CO

(*゚∀゚)「平凡過ぎて退屈になるだろうけど、だったらこの家にいれば絶対安全さ。
     食べ物だってタダで貰えるし、ここを知ってるのはごく僅かだから苦労はしないよ」

ま、何にせよ、とつーは付け加え

(*゚∀゚)「この世界に来たからには、一々昔なんて振り返っちゃダメダメ。
     早いとこそれまでとは別の生き方に慣れて、過去を見ずに今を生きるのさ」
从 ゚∀从「……」

信じられん、といった様子で高岡はつーの言葉に耳を傾けていた。
諭すような口調のつーが普段の彼女と違いすぎて、つー本人のように思えなかった。


…のだが、そうでもないことがすぐに判明する。

或いは、と彼女は言い

(*゚∀゚)「私の奴隷二号になっても良いんだよ?」
从 ゚∀从「ちょwwwwww」

恐らく(というかどう考えても)一号はモナーであろう。
先程までの重いムードを完全に捨て去り、さらには無茶苦茶な言葉を素で連発するつーに対して馬鹿馬鹿しく思えてきた高岡は

从 ゚∀从「…それだけは丁重にお断りするぜ、つーとやら!」

と、今を生きようとしている己の、心からの笑いを少しだけしてみせた。
この際、出来る限り平凡に生きていきたいと高岡は思ったのだった。



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