( ^Д^)と(*゚∀゚)は魔界のならず者のようです

613: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 14:47 DTJnA/g4O

第十六話 『「聖獣」、目醒める』



その人物は、村の長老とは到底考えられないほど若い男だった。
どちらかというと痩せ気味の身体で、布で作られたごく一般的な服を着ている。
だが、そのごく普通な姿にはどこか妙な雰囲気が漂っていた。
それもそのはず―――彼は、ある時から年を全くとっていなかったのだから。

いつの日か理由さえも解らぬままに『転生』という形で蘇り、それから百年以上が経つ。
痛みなどは感じるため不死ではないことは確かだが、老衰によって命を落とすことは絶対にないらしいのだ。

|  ^o^ |「(しかし、この方達はそれだけの年月を生きている私を見ても不思議に思わない……やはりこの世界の住人ではないのでしょう)」

魔界ではこのようなことが普通なのだろうか。
対するタカラ達は彼の秘密を知ってか知らずか、男に視線を集中させたまま沈黙を守っていた。



614: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 14:52 DTJnA/g4O

|  ^o^ |「…さて、先ずは自己紹介からしましょうか」

彼は姿勢を正し

|  ^o^ |「我が名は『ブーム』。有り得ないくらい若い姿ですがこの村の長老です。
       『ブームくん』なんて呼び方もありますが、今はそれどころではないのでそれなりの態度をとらせていただきます」
( ^Д^)「平和ボケしてた感丸出しだな…まあ、いいか」

その後タカラ、でぃ、のー、モナー、高岡も簡単な紹介を済ませ、すぐに本題へと移る。

|  ^o^ |「単刀直入に聞きますが、貴方がたがここを訪れた理由というのは…村に眠る『力』の確保ですね?」
(#゚;;-゚)「…そうだよ」
|  ^o^ |「即答ですか…」



615: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 14:55 DTJnA/g4O

彼は僅かではあるが表情を変え

|  ^o^ |「失礼ですが、この村の歴史等についてはどれほどまでに御存知で?」
( ^Д^)「? そんなこと聞いてどうしようってんだ?」
lw´‐ _‐ノv「…解らないかな」

突如、ブームの横にいたシューが割って入ってくる。

lw´‐ _‐ノv「簡単に持ってくって言うけどね、お前達はあいつの力がどれほどのモノか知ってて言ってる?
      私の祖父母とその仲間達が約百年前に再度封印した時だってめっちゃくちゃ大変だったらしいんだから」
|  ^o^ |「私に変わっての説明、ありがとうございます」



616: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 14:58 DTJnA/g4O

それは明らかに、タカラ達を試すような言い様であった。
いくら魔の力を持した存在であろうと、あの獣を扱うことは容易というレベルではない。
彼等は魔界に迫る侵略者を撃退するためにその力を使うと言うが、最悪それは望みとは真逆のケース―――破滅を近付ける結果にもなりうるのだ。


だがそれでも、タカラは引くことをしない。

( ^Д^)「シュー、と言ったな……お前にはここに来る途中で話したよな。
     俺とのーがその百年前の戦いに関わってたってことを!」
lw´‐ _‐ノv「…他には?」
(;^Д^)「(何だよこいつ…)」

どうやら自分が完全に納得するまでは何が何でも認める気はないらしい。
それを悟ったタカラは他の仲間にはしばらく黙るように言い、そして問答が始まった。



617: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:01 DTJnA/g4O

( ^Д^)「お前達が言うこの村の魔獣ってのは、元々百年前なんかよりもずーっと昔に暴れてた奴なんだ。これは当然知ってるよな?」
|  ^o^ |「ええ、知ってますとも」
( ^Д^)「んじゃ、それを踏まえて言う。
     その大昔、最初に魔獣を村に封印した軍s……じゃなくって勇者さんの内の一人の魂が現在魔界にいる、って言ったら信じるか?」
lw´‐ _‐ノv「!」

ブームとシューが二人して訝しげな表情を僅かにみせたのを見逃しはせず、タカラは続ける。

( ^Д^)「時間ねえしじれったいからよ、もうこの際俺が知ってることなら洗いざらい告げてやる。何でも聞きやがれ」



618: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:06 DTJnA/g4O

そのどこかズレた発言に、二人は一瞬戸惑うも

|  ^o^ |「では念のために一から…この村の名は?」
( ^Д^)「知ってるとも…『今北村』だろ。
     俺が当時の人間のダチから聞いた話じゃ、勇者さんの末裔の魔法使いがこの村に住むことにしたらしいな。今はもういないだろうけど」

その魔法使いには、ブームにも心当たりがあった。
そして未だに覚えていた彼女の名を口にする。

|  ^o^ |「…しぃさんですか」
( ^Д^)「しぃ…そうそうそいつだ! 雷ドカドカぶっ放すデンジャラスガールだったっけな!」
lw´‐ _‐ノv「…む」

その時代にシューは存在していなかったため、この手の話になると彼女も蚊帳の外になりつつあった。



619: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:11 DTJnA/g4O

そんな、どこか悔しげに見えるシューを視界に入れたブームは

|  ^o^ |「因みにシューさんはドクオさんとクーさんの孫ですよ」
( ^Д^)「な、それは本当か!」
|  ^o^ |「本当ですとも。二人共長生きでした」

言われて、タカラは時代の流れを改めて痛感する。
やはり彼等はもういないし、死後の彼等にもきっと会うことは出来ないのだ。

( ^Д^)「やっぱ百年も経ちゃ生きてねえよな…両親はいねえのか?」
lw´‐ _‐ノv「死んだよ…村が変な機械兵士に襲われる前に、病気でね」
( ^Д^)「そうか…悪いこと聞いちまったな」


彼女に物心ついたとき、既に祖父母であるドクオとクーはいなかった。

さらに幼い頃に両親を亡くし、一人ぼっちであった彼女はブームに育てられて今に至るという。



620: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:38 DTJnA/g4O

( ^Д^)「…話を戻そう。
     魔獣が復活しちまったのは百年前、この村の祠に世界を支配するとかほざく馬鹿が入り込んだのが始まりだ」
|  ^o^ |「知ってます。私もその時いましたから」
( ^Д^)「はぁ? 俺がお前に会うの初めてなんだが…どういうことだ?」
|  ^o^ |「それはとりあえずは秘密です。
       因みに私は貴方のことを知ってますよ。それから、そこにいる女の方も」
(*゚A゚)「…それ、自分ですか?」

きょとんとして訊ねる彼女に、ブームは黙って頷く。

( ^Д^)「気持ち悪い奴……人間のくせに俺達みたく年をとらない理由は聞かないでおくぜ」

この家を取り巻いている結界を見れば、ブームが普通の人間でないことは明らかであった。
それ以上追求する理由などないし、する必要もないだろう。



621: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:41 DTJnA/g4O

|  ^o^ |「…ところで貴方とのーさんの他に、もう一人危ない方がいたと思いますが」

今度はブームの方から問う。

( ^Д^)「あぁ、あの馬鹿なら今頃魔界で寝てるぜ。
     こっちだって厄介事起こしたくねえからな、置いてきた」
|  ^o^ |「そうですか」

言いながらブームは思う。
どうやら事を大きくしたくないのは向こうも同じらしい、と。
やはりタカラ達の世界にも侵略の危機が迫っているのかもしれない。
それも、自分達の村を破滅寸前まで追い込んだ正体不明の機械兵士達によって。



622: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 15:42 DTJnA/g4O

|  ^o^ |「(だとすると、こんな馬鹿な会話を続けている場合ではないんでしょうけど…)」

タカラとのーのことは確かに知っている。
正直、その時点でブームは目の前にいる彼等を信用できた。
一度この今北村の危機を退けた者達の一部なのだから、魔獣の力を正しく扱うことができるだろう。
そう判断したブームは

|  ^o^ |「…かなり遠回りしましたが、見当違いかどうかを確かめるため最後に一つ問います。
       百年前に邪悪な魂によって復活し、猛威を振るったその大魔獣の名は?」

対し、タカラは一瞬訝しげな表情をした後にその答えを口にした。

( ^Д^)「…『ギコ・フッサール』だ」



623: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 16:54 DTJnA/g4O

(*゚∀゚)「…どーしたら良いものかねぇ」

背から生えた翼を羽ばたかせ、のんびりと飛びながら彼女はそうぼやく。
地下から飛び出して砂漠地帯へ向かったはいいが、空から見回しても怪しいものや興味をそそるものは何一つとして見当たらない。

(*゚∀゚)「…あーあ」

落胆と失望が篭もった溜め息。
いつもならば寄ってたかって喧嘩を売ってくる不良共も、現状が現状なので今は大人しくなってしまっている。

――正直、退屈だった。



624: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 16:56 DTJnA/g4O

(*゚∀゚)「なんかこう、私を楽しませるようなことは…ないかな」

要は何か起きてほしかった。
しかし何も起こらない。
考えた挙げ句、彼女は地獄にでも行ってみようかなどと思い始める。

最近あまり顔を出していないが、あっちの世界には死後の罪人達が有り余るほどに右往左往している。
それらを傍観するのも良いのだが、気の合いそうな悪魔や他の死神なんかもいて、つーからしてみれば色々な意味で楽しい世界なのだ。

(*゚∀゚)「…行っちゃおうかな♪」

そう言うと、彼女は一旦砂漠に降り立った。



625: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 16:59 DTJnA/g4O

――が、そこまでしたところで彼女は不意に動きを止めてしまう。

(*゚∀゚)「……」

大胆不敵且つ怖いもの知らずな彼女にも、トラウマといえる経験がただ一つあった。
つーは一度、地獄にて多くの罪人達を巻き込んだ戦闘行為を(楽しみ目的で)行ったことがある。
向かってきた罪人の魂をどれだけ砕いたのか解らないほどだった。
だがそうして意気揚々と魔界に戻ると、当然の如く魔界軍師に叱られる。
しかしその時気が高ぶっていたつーは、無謀にも彼女に攻撃を仕掛けた。

結果―――つーは彼女に返り討ちにされてしまう。

死してなお聖なる力を扱う魔界軍師が放つ雷は、つーにとってはこの上なく凶悪な存在。
本気とまではいかなかったその一撃でも、再起不能になりそうなくらいにこたえたことを今でも覚えている。

(;*゚∀゚)「…アヒャヒャヒャ……」

その一部始終を思い出してしまったつーは、乾いた笑い声を漏らす。



626: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 17:02 DTJnA/g4O

(;*゚∀゚)「遊びに行きたいけど…軍師さんは怖いよね」

(;*-∀-)「次同じ事やられたら怖くてもう軍師さんに近付けなくなるよきっと」

(*゚∀゚)「けど、今は何もなくて暇だし…」

(*゚∀゚)「やっぱり遊びに行きたいよね」

砂漠地帯のど真ん中にて、本気で悩むこと数分。
幸いというべきか、その何時になく妙な彼女を傍観する者はいない。


しかし

「そこの姉ちゃん。こんなとこで何を考えてんだ?」

やがて彼女の背後から声をかける物好きが、ついに現れた。



627: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 17:08 DTJnA/g4O

妙に馴れ馴れしい口調だが、つーは相手の確認すらせずに背を向けたまま

(*゚∀゚)「いや、私は今ちょっと分かれ道の前に立っててね…大事な局面を迎えているのさ」
「そっか。そんな時は…こいつで決めたらどうだ?」
(*゚∀゚)「んー…?」

背後で何かを投げる音を耳にしたつーは咄嗟に振り返り、飛んできた何かをキャッチする。
流石に日頃から戦闘に執着しているだけあって、その反射神経は見事なものであった。

(*゚∀゚)「…何だいこれは」

手にしたものを目の高さまでもっていく。
つーには何だか解らないが、それは硬貨らしきものだった。

「コインだ。下手に悩むよりそいつでバッサリ決めた方が気が楽になるんだぜぃ」
(*゚∀゚)「そういうアンタは一体……っておい!」

今度はその相手に目を遣り、そして思わず声を荒げる。
声の主は――

[゚д゚]「よっ」

フランケンの姿をした魂―――もとい、デフラグだった。



628: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 17:10 DTJnA/g4O

(;*゚∀゚)「いや、『よっ』じゃなくて。
     何がどうしてアンタがここにいるのさ」
[゚д゚]「居ちゃ悪いのか?」

何故、といわんばかりに言葉を返すデフラグ。
初対面時は上半身しか確認出来なかったが、今は飛行物体には搭乗していない、そのままの姿があった。
やはり縫った跡のある頭には金属の物体が痛々しく突き刺さっており
灰色の両腕は鉄屑の集合体に等しく継ぎ接ぎ、指先だけが本来の形状をとっていた。

人の姿さえしているものの、彼の身体は人間のそれとはかけ離れており、現に人間ではない。



629: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 17:14 DTJnA/g4O

(*゚∀゚)「悪いも何も、私達とアンタらは一応敵同士だよ?
     敵の陣地にノコノコ入ってくるっていうのは自分を殺せって言ってるようなものじゃないかい」
[゚д゚]「敵同士、ねぇ」

何やら悲しそうに言葉を漏らす。
それは単なる軽口なのか、或いは心の底からの気持ちなのかは解らない。
しかし

[゚д゚]「…少なくとも俺はあんまし他人を憎んだり争ったりするのは好きじゃねえな」
(*゚∀゚)「…はぁ?」

彼は、後者を裏付けるような言葉を口にした。

[゚д゚]「どうってこたぁねえよ。俺は単にお前さん達を敵だとは思いたくねえだけさ」



630: ◆wAHFcbB0FI :01/13(日) 17:18 DTJnA/g4O

訳が解らない。
唐突に敵の口からそんな言葉を出されても、それを理解するのには時間を要する。
そんなことを思っていると

[゚д゚]「確かに俺達とお前さん達は敵同士っていう位置関係だ……けど俺は内心団長さんや総帥殿の考えがよくわかんねえ。
    俺が単に間抜けだからかな? ハハハ」
(*゚∀゚)「(…何この雰囲気)」

別に嫌いなものではないが、どうにも対処しにくい。
そもそも「争いを好まぬ優しさ」という選択肢をデフラグが口にしないところがまず謎だ。
しかし、それでもつーは

(*゚∀゚)「…よし。私の退屈を紛らわせてくれるっていうなら、アンタのことは内緒にしといてあげるよ」

とりあえず襲ってくる様子は皆無なので、つーは暫し敵である彼の話相手をしてあげることにした。



631: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 15:58 9pUayXklO

|  ^o^ |「この村が侵略者達の襲撃を受けたのは、あなた方がここを訪れるほんの少し前でした」

ブームの住む家(と思われる建物)に隠されていた地下へと続く螺旋階段を下りながら、彼等は言葉を交わしていた。
辺りには深い闇が広がっているため、ランタンの光だけが頼りである。

( ^Д^)「あいつら…現世にまで手を出すなんてな」

侵略者である機械兵士達は突然沸くように現れた。
文字通り血も涙もない相手であり、平和だった今北村を躊躇いもなく壊滅状態まで追いつめ、幾多の村人命を奪い去った。
さらに機械兵士達を指揮していたのは一人の女で、何故か彼女は戦闘で瀕死状態となった村人達を狙って漆黒のサーベルで次々と殺めていったという。
そんな阿鼻叫喚の地獄がひとまず終わりを告げて間もない時にタカラ達は村を訪れた、という訳だ。



632: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:02 9pUayXklO

从 ゚∀从「しっかし、この惨劇を引き起こしたのが人間じゃなかったのは不幸中の幸いだな。
     人間ここまで堕ちたかと思ったが俺の勘違いだったみてえだ」
lw´‐ _‐ノv「あんまり人間を馬鹿にするでない」
从 ゚∀从「済まねえ、堕ちてるのは俺の方だったな。
     …ところでさっきの話に出てきたドクオとクーって誰だ?」

その問い掛けに、タカラが反応する。

( ^Д^)「昔、俺のダチだった人間の男女だ。
     百年前にこの村で共闘した奴等の一部でもあって……特にドクオとは仲が良かった」
从 ゚∀从「そうなのか? じゃ、もしかして俺もそいつらn」
|  ^o^ |「貴女は性格からして違いますね、確実に」

即答され、高岡は何故か悔しげに舌打ちした。



633: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:04 9pUayXklO

( ^Д^)「ハイン、お前の先祖……曾祖父さんはきっとジョルジュって奴だ」
从 ゚∀从「へぇー…どんな奴だったの?」
( ^Д^)「そうさな…確か」


………………………

おっぱい!おっぱい!
  _  ∩
 ( ゚∀゚)彡
 ( ⊂彡
 |  |
 し⌒J


………………………

( ^Д^)「…って感じの奴」
从;゚∀从「マジかよ…聞かなきゃよかったかな」
( ^Д^)「そう言うな。
     結構…というかかなり凄い奴だったんだぞ。良い意味でもアレな意味でもな」



635: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:11 9pUayXklO

そんなことを言ってる間にも、一同は螺旋階段を下り終えていた。
今、彼等の前にあるのは威圧を放つ巨大な鉄の扉。

|  ^o^ |「この先に魔獣ギコ・フッサールが封印されています」
lw´‐ _‐ノv「…私もこの先に入るのは初めてだな」
( ´∀`)「流石、雰囲気出るモナ。本当に入って大丈夫モナ?」
(#゚;;-゚)「…大丈夫だとは思うよ」
(*゚A゚)「信じられへんなあ…また猫さんと御対面か」

皆が思い思いに言葉を交わしていると

从;゚∀从「おいおい…あんな木の家の地下がこんな広いことについて何とも思わねえのか?」

ただ一人、変に疑問を抱く者がいた。

|  ^o^ |「確かに妙といえば妙な話でしょう…昔は封印地点と私の家は別々の場所にあったんですけどね」

しかし

|  ^o^ |「それでは祠を見張る事が出来ません。また百年前のように魔獣を悪用しようとする者が現れてしまいます」

そこで、魔獣の封印地点の地上にある祠を立て直して家にしてしまったのである。
改造したのはそこだけであり、地下は全く手を付けていないために昔のままなのだ。



636: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:14 9pUayXklO

|  ^o^ |「しかしこの封印の役目も、今日ここで終わる」
( ^Д^)「わかったわかった。わかったからさっさと開けてくれ」
|  ^o^ |「鍵の入った箱はシューさんが管理しています。という訳でシューさんどうぞ」
lw´‐ _‐ノv「…把握した」

そう言ってシューは扉へと向かっていき、スカートのポケットから小さな箱を取り出した。

lw´‐ _‐ノv「(…開けるなって言われてたから何が入ってるのかと思ったら鍵なのか。どんな風なのかちょっとwktk)」

そんなことを思いながら箱を開け、しかし中にあった問題の鍵を見て、彼女は振り返りつつ言う。

lw´‐ _‐ノv「…鍵、曲がってるね。しかも結構有り得ない曲がり方」
|  ^o^ |「なんというドジっ子」



637: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:22 9pUayXklO

从 ゚∀从「おいおい、何やってんだ」
( ^Д^)「早くしてもらわないとこっちはヤバいぜ」
|  ^o^ |「ちょっと待っててくださいね」

急かしてくるタカラ達を何とか押さえ、ブームはシューの元へ駆け寄る。
そして彼女が手にしている鍵を見てみると、それはまるでこんがらがった糸の如く曲がりくねり、さらには捻れていた。
それは原型が解らぬ程で、確かに有り得ない曲がり方だ。

lw´‐ _‐ノv「私は悪くない。この鍵が悪いのだ。
       …そもそも箱に鍵を入れっぱなしにしておいて、何をやったら曲がるのだ」
|  ^o^ |「そういえば、簡単に開けられないように超強力万力でねじ曲げておく…と昔Dr.モララーが言ってたような。
       私の勘違いでした、ドジっ子は取り消します。そしてここではアレを使います」



638: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:25 9pUayXklO

そう言うとブームはシューから鍵を受け取り、同時に棒らしき奇妙なモノを取り出した。

|  ^o^ |「スイッチ、オン」

馬鹿らしい決まり文句と共に電源を入れ、棒は淡い光を纏い始める。
それを鍵のねじ曲がった部分に当て続けると、有り得ない鍵の曲がりはみるみるうちに直ってしまった。

|  ^o^ |「あらゆる物質を曲げる、或いは捻れを戻してしまう万能機械です。Dr.モララーからの戴き物です」
lw´‐ _‐ノv「…それ何てソニックドライバー?」
|  ^o^ |「少人数の方々しか解らないようなマイナーネタを使うのはお止めなさい。
       それにアレは鍵を開けたりも出来ますがこっちはそんなこと出来ません」



639: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:27 9pUayXklO

さて、問題を解決した二人は待機しているタカラ達に向き直る。

|  ^o^ |「皆さんお待たせしました。今から扉を開けますので引き続きついてきて下さい」
( ^Д^)「やっとか。何やってたんだ?」
lw´‐ _‐ノv「…気にしたら負け」

意味深な返答に対してさらに追求を始めたタカラを、シュはスルー。
彼女が鍵穴に鍵を差し込んで回すと、重い音を立てて扉は開いた。


その先に待ち受けていたのは吸い込まれそうな闇。
しかし暗闇に慣れた一行は最早意に介すことはない。

( ^Д^)「前もこんなところだったような?」
|  ^o^ |「…そこまでは私も関わってないので多くは言えません。ですが…」

ここにきて、ブームは初めて訝しげに表情を歪める。
――不思議なことに、威圧感を感じることが全くない。
世界を破滅へ導くとさえ言われる魔獣が封印されている場所であるというのに、だ。

|  ^o^ |「(ひょっとしたら――)」

僅かな期待を寄せながら、彼は闇をランタンで照らした。



640: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:30 9pUayXklO

扉の奥の間の中央には台座があり、そこには灰色の丸い大きなカプセルが安置されている。
ゴツゴツとしたそれには呪文のような文字がびっしりと刻まれており―――やはりタカラとのーには見覚えのあるモノであった。

( ^Д^)「…見ろ、ここに奴が眠ってるんだ」
lw´‐ _‐ノv「…親切な説明、どうも」
( ´∀`)「タカラとのーちゃんは百年前に魔獣と戦ったことがあるから解るモナね。
       僕の記憶が正しければその時僕はまだ生きてて、二人の無事を祈りながら魔界にいたモナ。魔獣の姿を考えただけでも鳥肌がたったモナよ」
(*゚A゚)「そうそう…あの時のブーンはんはカッコ良かったわぁ」

過去を懐かしむように彼女は言葉を口にする。



641: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:33 9pUayXklO

(#゚;;-゚)「…因みにブーンとはどちら様?」
(*゚A゚)「百年前、一緒に猫さんと戦った方や。
    人間なのに空飛べて、しかも強くて優しい方やった」
(#゚;;-゚)「…それは頼もしいね。その人がまだ生きてれば、普段とは違ったのーちゃんが拝めたのかも」
(*゚A゚)「…それってどういう意味?」

本当に何も理解していないのーは首を傾げるが

( ^Д^)「何せブーンの奴と二人がかりで魔獣と戦ってたもんな!
     あん時は俺もお似合いだと思ったよ」
(*///)「ちょ…そういうこと言うのはルール違反やて!」

タカラが放つからかいの言葉は天然の彼女にも理解出来るのか。
――そこには普段と違う彼女がいた。



642: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:35 9pUayXklO

しかしいつまでも遊んでいれるような状況ではない。

|  ^o^ |「…で。問題はどうすれば封印が解けるのか、です」
( ^Д^)「解き方知らないのか?」
|  ^o^ |「それは私も流石に…まさか封印を解くことになるなんて思いもしなかった訳ですから」

魔獣が封じられたカプセル―――『封魔器』と称されるそれを、そっと手にとってみるがやはり解らない。

やはり、何かをする必要があるのだろうか。



643: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:38 9pUayXklO

( ^Д^)「俺が思うに、こうすりゃ良いんじゃねえかな」
|  ^o^ |「あっ」

不意にタカラがブームから封魔器を引ったくる。
そして彼はそれを縦に振り始めたのである。

( ^Д^)「おーい、出てこい」

しかしその行為は何ら事を動かすことはなく―――いや、皆が冷めた目でタカラを見つめた。


続いて彼はそれを地に置き

( ^Д^)「だったら実力行使だ! いくぞ!」

使い慣れた武器である鈎爪で封魔器に攻撃を仕掛ける、ある意味正攻法といえる手段。
が、それでも封印が解ける兆しすら見せず
さらには傷一つつくこともない。

( ^Д^)「駄目か…んじゃ一斉に攻撃してみよう。お前等も手伝え」
(*゚A゚)从 ゚∀从(#゚;;-゚)( ´∀`)lw´‐ _‐ノv「把握した!」



644: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:40 9pUayXklO

だが

鉄槌による打撃
魔力を用いての爆発
地表から突き上がる氷刃
不可視の霊力波
聖なる力を持つ刀の斬撃

それらの力を持ってしても、強固な封印を解くことは出来なかった。

(;^Д^)「くぅ…お手上げだなこりゃ」
(*゚A゚)「…もう別の手段考えた方がええと思います」

絶大な破壊力を誇る鉄槌クラッシュの一撃が通らない以上、力づくでは効果を成さないと考えたのだろう。

lw´‐ _‐ノv「もしや、封印を解く呪文みたいなのがあったりして」

刻まれている文字を見る。
しかし、ここにいるメンバーの誰一人として解読することは出来なかった。



645: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:44 9pUayXklO

( ^Д^)「モララーの奴がいれば、こんな事ちゃちゃっと終わるのにな」
|  ^o^ |「もしもの話は無意味です」
( ^Д^)「くそっ、軍師さんも軍師さんで随分迷惑な封印道具作りやがって…」

しまいには責任転嫁を始めるタカラ。
さらには

( ´∀`)「…全く、どういうことモナ。傷一つ入らないなんて!」

とうとう苛々が溜まってきたのであろうか。
普段は謙虚なモナーが、地に置いてある封魔器を乱暴に手に取り

( ´∀`)「暴れたい時ばっかり出てきて肝心な時に出てこないとか…
       獣の癖に生意気もいいところモナ。とっとと出てくるモナ!」

そう怒鳴ってみるも、封魔器は封印が解ける前触れになりそうな光さえ発しない。



646: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:46 9pUayXklO

( ´∀`)「…駄目モナか」
( ^Д^)「何する気だったんだお前。ちょっと今痛い奴だったぞ」
( ´∀`)「…中に封じられてる魔獣に声が届けば出てくると思ったモナ。
       でも、ただの恥晒しに終わったモナね」

そこまで言うと、器を持つ手に力を入れ

(# ´∀`)「もうどうにでもなーれ!」

自棄っぱちな叫びと同時に、彼はそれを放り投げた。
放物線を描きながら落下していく封魔器。
当たり前のように、それは床に落ちた。



647: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:52 9pUayXklO

―――が、それと同時に事が動いた。

灰色のカプセルが床に落ちたと同時。

( ^Д^)「え」

と、思わず声を発したのはタカラだけではなくこの場にいる者全員。

モナーの言葉が封印を解く為の呪文だったのか、地に投げることが正解だったのかなど知るはずもない。
しかし、モナーがとった行動によって封魔器は現在虹色の光を放ち始め、封印が解けようとしていることは確かだった。

|  ^o^ |「まさか、あんな投げやりな言葉が呪文だったとは」
( ^Д^)「絶対に違うと思うけどな。多分投げたのが良かったんだろ。
     何にしても、でかしたぞモナー! やっぱりお前連れてきて良かった!」
( ´∀`)「いやいや、単なる偶然モナよ」

そこに

从 ゚∀从「おい、喜んでるところ悪いんだけど…」
( ^Д^)「ん、どうした?」

高岡は、問題のものに目を遣ったまま

从 ゚∀从「ここから出た方がいいかも知んねえぞ」



648: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 16:54 9pUayXklO

( ^Д^)「え?」

言われるがままに封魔器を見る。
虹色の光が、徐々に膨らんでいた。
復活の際にエネルギー爆発でも引き起こしたりするのかは解らぬが、どの道この場所にいては危険だと雰囲気が言っている。

|  ^o^ |「…ならば一旦ここから出ましょう」

皆は入ってきた巨大な扉をくぐり抜け、部屋から出た場所で待機を始めた。



――やがて、地が震えるような爆音。
そして、それが収まった後僅かに聞こえてきた獣の鳴く声を耳にしたシューは

lw´‐ _‐ノv「…もう入ってよさそうだね」
( ^Д^)「お前耳いいな」
lw´‐ _‐ノv「…そんなことで褒められても困るね」

シラッと言う彼女の関心は既に魔獣へと向いていた。
それに続くような緊張と僅かな好奇心を持って、一同は再び封印地点に足を踏み入れた。



650: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:02 9pUayXklO

ミ,,゚Д゚彡「……」

そこにいたのは人間の子供よりもやや大きい程の、獣の子だった。
だがそれはあくまで外見だけのことであり、内には強大な力を秘めた存在。

彼(?)こそが、魔獣ギコ・フッサールである。
タカラとのーは既にこの獣を知っている―――のだが。

( ^Д^)「何かが、違う…?」

今彼等が目にしている獣は、かつてのそれとは幾分異なっていた。

一つは灰色だった毛皮が、現在茶色に変化している点。
そして、かつてはあったはずの禍々しさや威圧感が、何故か全く感じられないのだ。



651: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:05 9pUayXklO

|  ^o^ |「あれが問題の……まさか私が魔獣を拝むことになるとは…」
从 ゚∀从「っていうか、あいつ本当に魔獣なのか?」
( ^Д^)「それだけは間違いねえ。昔とちょっとばかり変わったけどな」
(#゚;;-゚)「…とりあえず、近付いてみる?」
( ^Д^)「そうだな」

一同は不思議そうに辺りをキョロキョロしている魔獣に油断を解くことなく近付く。

( ^Д^)「久しぶりだな、魔獣さんよ」
ミ,,゚Д゚彡「…?」

まだ状況が把握しきれない魔獣に、タカラは言葉を投げかける。



652: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:08 9pUayXklO

( ^Д^)「長い間封印されてて辛かったろうな」
ミ,,゚Д゚彡「フウイン…それ食えるのか?」
( ^Д^)「…何か前にも同じこと言ってた気がするのは俺だけ?」
ミ,,゚Д゚彡「よく解んねえぞ。それに魔獣って何だ?」
( ^Д^)「いや、お前のことだって。また記憶が飛んだか?」
ミ,,゚Д゚彡「オイラが魔獣? なんだそりゃ」
( ^Д^)「……」

タカラは目の前にいる獣を見てつぐつぐ思う。
こいつは何も覚えてない、と。
本来の力があった頃のことは勿論、百年前の記憶も完全に脳内から抹消されてしまっている。
それどころか―――かつての凶暴性さえもが抜けている。

この獣はもう、破壊を楽しむことはないのかもしれない。



653: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:13 9pUayXklO

( ^Д^)「…こいつは驚いたな」

かつて世界を脅かしていた存在が、ここまで丸くなってしまっていたとは。

从 ゚∀从「俺からすりゃ、獣が喋れるってことがまず驚きだけどな。でもこいつどうするよ?」
( ^Д^)「馬鹿言え、何しにこいつを復活させたと思ってんだ」

連れて帰るに決まっていると言おうとした、その時。
グゥ、という間抜けな音が辺りに響いた。

( ´∀`)「こんな時に空気読めないのは誰モナ」
( ^Д^)「お前じゃねえのか」
(; ´∀`)「違うモナ! 僕は幽霊だからお腹なんて空かないモナ!」

先程の間抜けな音は、何をどう考えても空腹を訴えるためのもの。
タカラやでぃ、のーが空腹になることは有り得ないので、人間である高岡かシューかブームの誰かであるはず。
しかし三人は首を振って全面否定。

ということは――


ミ,,゚Д゚彡「…オイラ、腹減ったぞ」



654: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:17 9pUayXklO

お前かよ、とほぼ全員が口にする。
対し、魔獣はそんなことはお構いなし。

ミ,,゚Д゚彡「なあ、何か食えるモンねえかな?」
|  ^o^ |「食べ物ですか…あります?」
(*゚A゚)「持ってませんなぁ」

壊滅状態である村に、空腹を満たせる食料があるはずはなかった。
一方タカラ達も、現在は何も持っていない。
だがそんなことは、魔界に戻れば幾らでも何とかなることであった。

( ^Д^)「よし、じゃあ俺達のとこに来いよ」
ミ,,゚Д゚彡「そうすれば何か食える?」

目を輝かせる獣に、タカラは笑って頷く。

( ^Д^)「食えるさ。その代わりちょっと俺達に協力してほしいんだがな。お前が住むには丁度良いとこだと思うぞ」
ミ,,゚Д゚彡「ホント? んじゃオイラ、お前達についてくぞ!」
( ^Д^)「おーし、よろしくな!」
(#゚;;-゚)(;*゚A゚)从;゚∀从(; ´∀`)「(そんなんでいいのかな…)」

かくして、ギコ・フッサールはタカラ達に呆気なく懐いたのである。



655: ◆wAHFcbB0FI :01/14(月) 17:24 9pUayXklO

二回にわたる封印の影響でそれまでの全ての記憶を失ったフッサールは、自分の存在意義さえも失っていた。
その結果としてフッサールは凶暴性を失い、しかし力はその身に宿したままの獣の子となった。
つまり、今ではこうして子供のように無邪気に振る舞うことが彼にとっての常であり
破壊は最早、彼の存在意義ではないのだ。

それを確信したブームとシューは、騒いでいるタカラ達を眺めながら

|  ^o^ |「何というか…仲間とは良いものですね」
lw´‐ _‐ノv「…とりあえずこいつらが帰ったら、村の復旧活動をしよう」
|  ^o^ |「ですね。我々もこうしてはいられない」



その獣は最早、破壊を目的とすることはない。
その獣は最早、世界を破滅へと導くことはない。

ここに、魔界を危機から救うという意味での『聖獣』ギコ・フッサールが誕生した。



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