( ^Д^)と(*゚∀゚)は魔界のならず者のようです

827: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:40 rzk6qSolO

第二十二話 『激昂』



从;゚∀从「…幾ら何でもこれはねえだろ常考…」

威勢良く扉をくぐった高岡であったが、しかしそんな彼女でさえも思わず言葉を失ってしまうような光景が、扉の先にあった。

今、彼女が立っている足場の、そのまたさらに下。
異様なまでの熱を発しているのは、真っ赤な流体―――マグマとしか言いようのないモノであった。

先程から妙に熱気が充満していた原因は、やはりこれが通路の下を流れていたからなのだろうか。
建物内にいながら、まるで火山の火口の真上にいる―――そんな錯覚に襲われそうだった。



828: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:42 rzk6qSolO

さて、視界を前方に戻す。
部屋の奥には、先のフロアへと続いている扉が小さく見えた。

从 ゚∀从「…んで。誰もいないのか?」

この部屋の中央は円形型をした平らな地形となっており―――
厨臭い喩えで所謂『戦闘フィールド』とでも言いそうなそれを見る限りでは普通に敵が現れて襲ってきそうな感じがするのだが。

そう思いながらも、高岡は一歩前に出る。
が、何も起こらず、何も現れない。
不信感を抱きつつ、さらに一歩。
…やはり状況は変わらない。

从 ゚∀从「本当に、これだけなのか…?
     だとしたら先進んじまうぞ」

わざわざ確かめるように言葉を発する。



829: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:44 rzk6qSolO

こんなところで何時までもぐずぐずしている場合ではない。
そう思いながら、部屋の中央に足を踏み入れた時だ。

「待てぇッ!」
从 ゚∀从「!?」

どこからか、女性の大きな声が飛んできた。
反射的に声の主の居場所を特定すべく高岡は周囲を見回すが、その姿を確認する事は出来ない。

从 ゚∀从「…おい! どこの誰だか知らねえが姿ぐらい見せろや!」
「私はちゃんとここにいるぞッ!」

今度こそ、高岡は声がした方を見る。
部屋の上方だ。



830: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:48 rzk6qSolO

ノパ听)「ふっふっふ……ようやく気付いたか!」

妙な光景がそこにあった。
声の主であろう女が、『炎の翼』としか喩えようのないモノを背から生やし、それによって滞空しているのだ。

从 ゚∀从「な、何なんだお前!」
ノパ听)「今教えてやろうッ!」

空中でそう叫ぶと同時、彼女は高度を下げて高岡の前方に降り立つ。
そして

ノパ听)「私こそはッ! 霊機械兵団幹部の一人ッ! 『MSP-H08』こと、ヒートだぁぁぁッ!!」
从;゚∀从「(また、しかも唐突に変な奴が現れたな)」



831: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:52 rzk6qSolO

本当に変な奴だった。
全身から闘気を滲み出しながらもその顔には僅かな幼さがあり、見た目は高岡よりも若干年下にさえ思える。
その両腕にはタカラが使う武器と同じような形状の、しかし真紅に染まった金属製の鈎爪を装着しており
長い赤茶色の髪の頭には羽根飾りをつけ、両耳にはピアスといった具合で、人の姿をしていながらも野生的な感じさえした。

ノパ听)「さて、お前がここに来た理由はもう解っている!」

そして今、ヒートと名乗ったその少女は挑戦的な視線を高岡に向けていた。
対し、高岡もまた恐れることはせず

从 ゚∀从「…ああそうさ、俺はてめえらをまとめてるボスを叩き潰しに――」
ノパ听)「私と戦いに来たんだろう!?」
从;゚∀从「…は?」



832: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:57 rzk6qSolO

一瞬の沈黙の後

ノパ听)「お前は、この部屋が私の持ち場だと知ってて入ってきた。そうだろうッ!?」
从;゚∀从「いや待て。俺はお前に会うの初めてだし、ここがお前の部屋だなんて知らねえし。
     そもそも今は先を急ぐ身だから!」
ノパ听)「今更嘘をつくな! ここに足を踏み入れるということは、私に戦いを挑むということだッ!」
从;゚∀从「話通じてねーし!」

どうやら(ある意味)話し合いの通じる相手ではないらしい。
それを肯定するかのように、ヒートは既に両腕の武器を構えており

ノパ听)「では、早速始めようじゃないかッ!
     私はたとえ相手が人間であろうと手加減はしないッ! だからお前も全力でぶつかって来い!」
从;゚∀从「おーい! 展開早すぎだろ作者ぁぁ!」



833: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 20:59 rzk6qSolO

ノパ听)「何をごちゃごちゃと言っている! 来ないというなら、こっちからいくぞッ!」

そう叫ぶなり、いきなりヒートが走り込んでくる。
その気迫にはやはり、どこか獣を彷彿とさせるモノがある。

从 ゚∀从「…ったく、しょうがねえな」

だが、流石にこれ以上言葉を吐くことは無駄だと判断した高岡は突き出された鈎爪を冷静にかわす。
そのまま両腕に橙色の光を纏わせ

从 ゚∀从「お前自体何なのか解んねえけど、どの道今の俺にとっちゃ邪魔だ。だから早いとこ潰してやるよ」
ノパ听)「やっとその気になったか…そう来なくちゃなッ!」
从;゚∀从「……」



834: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:01 rzk6qSolO

何なんだこいつは、と早くも心の底から思う。
奴は最初から戦意を剥き出しにし、明らかにこれからの戦闘を楽しもうとしている―――即ち、戦闘狂だ。
咄嗟にそんな言葉が頭に浮かんだ理由は、今までにも何度か同類のような奴を目の当たりにしてきたから。

だが、それらが脳裏に浮かぶ以前に、そもそも高岡自身が戦闘狂である。
これ以上無益な殺傷は出来る限りしたくないと自らに誓いはしたものの、人間という生き物が僅かな期間で根本から変わることなど出来るはずもない。
それ故、挑発めいた言葉を受けた高岡が次にとる動作は自ずと決まっていた。

从 ゚∀从「…言っておくが、俺は強いぜ?」
ノパ听)「構わない。そうでもないと、私も熱くなれないからなッ!」
从 ゚∀从「そうかよ。だったら―――」

彼女の表情が、鋭くなる。

从 ゚∀从「遠慮なく殺らせてもらうぜ」



835: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:06 rzk6qSolO

次の瞬間、高岡の両腕の先から『魔力』という爆弾である橙の光弾が複数放たれる。
無論その狙いは前方にいるヒートだ。

ノパ听)「ほぅ、面白いことをするなッ!」

突然の動作と初めて目にする攻撃で一瞬動作が遅れるが、それでもヒートは真上に高く跳んで光弾を回避。
標的を外れた魔力が次々と爆発を引き起こすのを尻目に、彼女は反撃に出る。

ノパ听)「今度はこっちの番だッ!」

空中で一瞬停滞したかと思うと、そのまま風をきりつつ一直線に高岡目掛けて突進を繰り出した。

从 ゚∀从「おいおい、普通人間がそんなことやるかっつーの!」

割と余裕な口調で呟きながら、高岡は突進を受け流す。

その人間には到底不可能な動作を現実としているのは、ヒートの背から生えた炎の翼。
どうやら、つーやのーが持つ翼と同様、自由に出現・消滅させることが可能らしいが――



836: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:10 rzk6qSolO

ノパ听)「言っておくが、私は人間などではない! とある方によって『造られた』、魂だけの存在だッ!」
从 ゚∀从「そんなこと、百も承知だバーカ!」
ノパ听)「ならば、何故さっきあんなことを言った?」
从 ゚∀从「てめえが人の姿形してっからだよ!」

言い終わる前に、高岡は距離をおいているヒート目掛けて再度光弾を連射。
だが

ノパ听)「その程度の攻撃、私には効かないぞッ!」

不意打ちともいえる猛攻を、しかし空を制す彼女は当然のように全て避けてみせる。

ノパ听)「どうした、他の技も見せてみろッ!」
从 ゚∀从「五月蝿ぇ。その威勢の良さも今の内だぜ?」

悪役が言いそうな台詞を吐きつつ、高岡はなおも攻撃の手を緩めることはしない。



837: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:15 rzk6qSolO

从 ゚∀从「てめえみたいに接近戦ばっかする奴は…近付けさせなけりゃ良いのさ!」

こうも簡単に言いはしたが、無論それだけで勝てるような相手ではないはずであることは高岡も十分承知である。
まだ戦闘が開始されてから大して時間は経過しておらず、しかも互いに手の内を殆ど明かしていない。
要はまだ相手が何を仕掛けてくるか、はっきりと解らない訳で―――


ノパ听)「ならば…私はこういく!」

翼を展開し、部屋の高い天井近くまで飛び上がる。
そこで地上にいる高岡へと狙いを定め

ノパ听)「はぁッ!!」

気合いの声と同時。
両腕に装着している鈎爪が炎に包まれたかと思うと、ヒートは真下に向けてそれを放出した。
その一つの炎の塊は落下の過程で拡散し、地上にいる高岡に襲いかかる。

从 ゚∀从「ちぃ…滅茶苦茶だな」

流星の如く降り注ぐ炎の雨の隙間を縫うように地を駆ける。
それでも全てを避けきることは出来ず、彼女は軽い火傷を負った。



838: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:17 rzk6qSolO

从#゚∀从「お前マジうぜぇ! 降りて来て堂々と戦え!」
ノパ听)「言われなくとも、そのつもりだッ!」

翼を羽ばたかせ急降下。
鈎爪を前方に突き出した姿勢で高岡へ突っ込んでくる。

从 ゚∀从「それでいい! かかって来いや!」

対する高岡も先程までのように避けようとはせず、両腕に橙の光を纏わせて身構える。

ノパ听)「私の突撃を簡単に受け止められると思うなッ!」
从 ゚∀从「そいつは果たしてどうかな!」

真紅の鈎爪と橙の腕。
互いがぶつかり合う直前、高岡が引き起こした魔力爆発によって両者共々爆風に飲み込まれる。



839: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:28 rzk6qSolO

从 ゚∀从「よっと…」

煙が舞う中、爆発の衝撃に慣れている高岡は何事もないように着地する。
だが

从 ゚∀从「至近距離での爆発は流石に痛いよn――」

言い終わる前に彼女は違和感を覚える。
煙の中に、動きが見えたのだ。

流石にこの程度で致命傷になったとは考えにくいが、しかしそれなりに強烈な一撃は叩き込んだはず―――

ノハ#゚听)「とりゃあぁぁッ!!」
从;゚∀从「!?」

煙の中から飛び出してきた金属の鈎爪が、突然の攻撃に対して無防備だった高岡に牙を剥いたのは直後のことである。
慌てて右腕でガードするも、その凶悪な形状をした武器は彼女の皮膚を易々と引き裂き
防御に用いた部分―――彼女の右腕に痛々しい傷を残す。

ノパ听)「ふふ、まだまだだなッ! 炎の使い手である私が、爆風などで倒れると思ったかッ!」

痛みに悶える高岡を見下すかのように傍観するヒート。
その気迫は、寧ろ爆風を浴びたことで強化されたとさえ思わせた。



840: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:33 rzk6qSolO

何とかして反撃したいところだが、これは非常にまずい現状だと高岡は思う。

高岡の武器といえる武器は『魔力を爆発に変換する力』のみ。
それに加えて人間とは思えぬ程の戦闘力を身につけてこそいるが、しかしそれでも人間であることに変わりはない。
同じく並外れた力を備えており、さらには人間以上に戦い慣れているヒートに対して、これはかなり分が悪い戦闘なのだ。

从 ゚∀从「くっ…人間と霊体が戦うこと自体ハンデみたいなモンなのか」

それでも、どうにか立ち上がる高岡。
ヒートは律儀にもそれを見届ける。

ノパ听)「人間にしては骨のある奴だと私は思うがなッ!」
从;゚∀从「…それ多分、敵に向けて放つ言葉じゃねえな。
     っつーか、さり気なく馬鹿にされてる気がすんだが?」
ノパ听)「それは仕方のないことだ。所詮人間など、獣のような体力もなければ、鳥のように飛ぶことも出来ない……戦いの世界ではこの上ない下等な生き物。
     だがその下等な人間でありながら、お前はよく戦ったではないか!」



841: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:37 rzk6qSolO

――何なんだ、このムカつく餓鬼は。

人間という理由で完全に馬鹿にされている。
しかも『よく戦った』などと言い、既に終わったみたいな言い様。

――実はヒートは決して挑発のつもりで言葉を続けた訳ではないのだが、それらの要素は高岡が本気でエンジンをかけるきっかけとしては十分であった。

从 ゚∀从「…どうやら人間の俺を嘗めてるようだが、てめえはもう早くも勝った気でいる訳か?」

内に宿したは表には出さず、冷静めいた口調で高岡は相手に尋ねる。
だが―――

ノパ听)「そうだッ、あまりに短い戦いだったが次の攻撃でお前は私に負ける!」
从 ゚∀从「ならこの高岡様も同じように宣言してやるよ。次で終わりだ」



842: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:46 rzk6qSolO

ノパ听)「何だって?」

たった今自分が口にしたことと同じような言葉を吐かれ、ヒートは一瞬戸惑うが

从 ゚∀从「次の攻撃で終わらせてやる、ということだ。それも当然俺の勝ちという結果でな」
ノパ听)「この状況で? 私がお前に負けるとでも?」

あぁそうとも、と手招きしつつ事も無げに高岡は言い放ち

从 ゚∀从「信じる信じないはてめえの自由だ。だが、俺はてめえのような直線的な餓鬼と違って自分の感情に左右されて滅ぶことなんざないぜ?
     …ま、来るんなら来るで餓鬼らしく持てる力全部使ってかかって来いよ。でないとつまんねえから」



843: ◆wAHFcbB0FI :05/15(木) 21:55 rzk6qSolO

ノハ#゚听)「そうか…そんなに死に急ぎたいかッ!」

自分よりも格下の存在である人間にこうも言われ、ヒートが平常心を保っていられるはずがなかった。
彼女の中に怒りの感情が生まれ、それは表にも現れたのである。
――そもそも彼女に平常心というモノがあるのかどうかが先ず不明ではあるが。

ノハ#゚听)「ならば今こそ勝負の時だ! お前が死ぬか私が消し飛ぶか! 試してみろッ!」

ともあれ、高岡が挑発めいた言葉に乗る前に、逆にヒートが高岡の挑発に乗ってしまった。
だが炎で形作られた翼を最大まで広げ、今すぐにでも自分を殺すべく必殺の一撃を繰り出してきそうなヒートを視界に収めた高岡は―――

从 ゚∀从「……」

――小さくも不敵な笑みを浮かべて身構えるのである。



846: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:35 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「さぁ、来いよ」

少なくとも優勢ではないはずの高岡は、しかし顔色一つ変えずヒートに視線を向けている。
対し、挑発に乗ったヒートは内に生まれた殺意全てを剥き出し

ノハ#゚听)「行くぞ人間ッ!」

翼を限界まで広げ、獣が吼えるような叫びを部屋中に響きわたらせる。

彼女に変化が起こったのはその直後。
ヒートの周囲から炎が発生し、それは彼女を中心として瞬く間に燃え盛る。
そうして炎がヒートを完全に包み込んだかと思うと、続いて徐々にその形を変えていく。

その一部は翼を広げるかのように展開され、別の部分は鎌首を上げるかのように高々と舞い上がり―――



847: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:40 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「おーおー、随分と派手な演出しやがって…」

『それ』を見て、高岡は軽い口調とは裏腹に思わず息を呑んだ。
神話等に出てくるような不死鳥を彷彿とさせる、全長五メートルを超えそうな炎の鳥がそこに完成していた。

ノハ#゚听)「私を止められるというのなら! 私を倒せるというのならッ! 今すぐにでもやってみろッ!!」

そして内部で猛火―――もとい、炎鳥を自らコントロールするヒートが叫ぶと同時に『それ』は動き出す。



848: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:42 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「…その『疑似フェニックス』とでもいえるモンがてめえの切り札だな」

聞くまでもなく、そうだと確信できる。
全身から感じられる強い殺気と、今までとは比にならない程激しく燃え盛る炎を見れば、それは明白であった。

もっとも『本気と見せかけておき、しかしまだ奥の手を残しておく』という策もあるにはあるが、今の相手はそのような小細工を仕掛けてくるような奴ではないだろう。
故にあの炎の鳥こそヒートが出せる最大の攻撃であり、つまりは―――

从 ゚∀从「…これを潰せれば、早くも俺の勝ち決定ってこったな」



849: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:45 NjkgWJ+3O

ノハ#゚听)「そう簡単に出来ると思うなぁぁぁッ!」

火鳥と一体化したヒートが高岡の上方から襲いかかる。
熱も速度も増している、原始的とはいえ触れたもの全てを灰と化してしまいそうな破壊の力。

从 ゚∀从「ッ!」

が、高岡はそれを横に跳んで回避。
それまでの動作がほんの肩慣らしであったかのように、軽いステップによる避け様だ。

ノハ#゚听)「!」

次の攻撃に移るべく、ヒートもすぐさま方向転換。
休めことなく宙を駆け、嘴に当たる部分から再び高岡を焼き殺そうと高速で迫る。



850: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:48 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「…ッ!」

対し、先程から高岡が行う動作は回避運動のみ。
反撃は一切せず、ただただ回避を続ける。

こう言っては難だが、魔力弾による爆風がヒートに通用しない以上、高岡に反撃の術はない。
―――強いて言えばただ一つだけあるのだが、それを今の状況で無闇に繰り出すことは自殺行為であった。
しかし

从 ゚∀从「反撃出来ねえっていうなら、反撃出来る状況作り出せば良いよなぁ!」
ノハ#゚听)「口先だけだな…それも何時まで持つかなッ!?」

嘴部分から飲み込むかのように突撃し。
爪に当たる部分で文字通り鷲掴みにしようともし。
巨大な翼で叩きつけようともし。


――その全てが、一撃でも避け損なえば死に直結する猛攻の数々である。

だが、現在怒りで自身のほぼ全てを支配しているヒートは気付いていなかった。
常に膨大な力を維持し続ける必要のある、それらの攻撃一つ一つが彼女の体力を大幅に消費しているということに。



851: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 22:52 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「おらおら、てめえの奥の手はその程度のモンなのか?」

右腕に痛々しい傷を負い、さらに多少息切れはしているものの、まだ余裕がありそうな高岡。
それに対し、ヒートはこのまま同じ攻撃を続けても無駄だと判断したのか

ノハ#゚听)「なら、こうだッ!!」

再び天井近くまで飛翔し、そこで炎の翼を大きく羽ばたかせる。
そうして荒々しい風の音と共に発生するのは、無数の炎の羽―――回避不可能ともいえる大量の火の粉である。
それは宙を明るくも不気味に照らしながら、地上へと一斉に降りかかる。

从#゚∀从「ちぃ…またかよ!」

ここにきて遂に、高岡は苛立ちで声を荒げる。
それもそのはず―――実質、この手の攻撃は回避不可能だからだ。
つーが使う瞬間移動術とかいうような回避手段があれば話は別だが、そんなことを人間の高岡が扱えるはずもない。
どんなに上手く回避を続けても、確実に被害を被ってしまう。



852: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 23:04 NjkgWJ+3O

だからこそ高岡はここで反撃を仕掛け、そのまま一気に終わらせようと考える。
コートのポケットから何かを取り出すような動作の後

从 ゚∀从「……ッ!」

覚悟を決め、決死の疾走を開始する。
避けきれるはずがない。
だが、致命傷を受けぬ程度に避けなくてはならない。
降り注ぐ熱さに耐えながら、彼女はふと上を見る。

ノハ#゚听)「覚悟しろぉぉぉッ!!」

そこでは火鳥―――ヒートが、戦いにケリをつけるべく急降下を開始していた。
狙う先は地で走り回る高岡だ。
その速度故、地上にいる彼女に到達し
そのままこの炎の身体で焼き尽くすまでに大した時間はかからないだろう。



853: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 23:07 NjkgWJ+3O

だが

从 ゚∀从「へっへっ…よく来てくれたな!」
ノハ#゚听)「!?」

まるで最初から予測していたかのような、実に手際の良い行動だった。
高岡は突如接近してきていたヒートに左腕を向けたかと思うと、彼女の目前で爆発を引き起こしたのである。
ヒートに対して効果はないはずである爆発の衝撃だが――

ノハ;゚听)「ッ!?」

ガクン、と全身の力が抜けたような感覚がヒートに押し寄せる。
至近距離からの突然の爆発で意表を突かれたことにより、ヒートの中で揺らぎ続けていた集中力と体力が遂に折れた結果である。
そうして、彼女が作り上げていた炎の鳥は瞬時に崩れ去り――

ノハ;゚听)「ば、馬鹿な…!」

後には体力を使いきり、戦意も喪失したヒートが茫然として立っているのみであった。



854: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 23:12 NjkgWJ+3O

从 ゚∀从「馬鹿もクソもない、俺がてめえの最終奥義とやらを潰した結果だよ。
     …っつーことで、チェックメイトなんだぜ?」

その手に黒い宝石―――予めタカラから受け取っていた暗黒石を握り、高岡は駆け出す。

从 ゚∀从「てめえと会うのはどうせこれで最後になるだろうから、最後に言いたいこと言わせて貰う」

より強く拳を握り締める。
暗黒石の特殊な力が彼女の腕に流れ込み――

ノハ;゚听)「ッ……!!?」

その闇の力に染まった拳で、ヒートの下顎に渾身の一撃を叩き入れた。
彼女が軽く吹き飛んで倒れ、気を失ったのを見届けてから、高岡は静かに言い放つ。

从 ゚∀从「…あんまし、人間を馬鹿にすんじゃねえや」



855: ◆wAHFcbB0FI :05/17(土) 23:14 NjkgWJ+3O

敵を倒したというのならば、もうこの部屋に用はない。
たとえ、その敵にとどめを刺せていなくとも。

从 ゚∀从「……」

気絶しているヒートに目を遣り、しかしすぐにその目を背ける。

从 ゚∀从「……ふん」

嘗ての自分ならば躊躇いもなくとどめを刺しているだろう。
だが、今では不思議とそれが出来ない。
先程まで『敵』として戦闘を繰り広げていた相手だというのに、だ。

从 ゚∀从「昔は昔で野蛮な奴だったが、今は今で敵を殺めらない情けねえ奴だな、俺って。
     無益な殺生しねえってのはそういうことなんだなぁ…」

複雑な思いを残したまま、彼女はこの熱気に満ちた部屋をあとにするのである。



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