( ^ω^)ブーンの人生は運に恵まれていないようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:17:41.49 ID:NCtkRLhkO
1992年12月28日

「ブーン、酒がなくなった」

ああこの言葉を聞くのは何度目だろう

「おいブーン」

もう聞き飽きてしまった

「ブーン?」


「ブーンッ!!」

ガチャガチャッ

母が怒りを込めて叩いた机の上で鳴った音で僕は考えを止め、視線を上げた

从 ゚∀从「酒が切れた。買ってきて」

( ^ω^)「もうお金が無いんだお」

从 ゚∀从「この前しぃから借りた金があるじゃねぇか」

( ^ω^)「でもあれは……」

从 ゚∀从「うるせぇ!!とっとと買って来い!!」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:19:20.60 ID:NCtkRLhkO
母はいつもああだ

仕事も長続きせず、酒が切れれば怒鳴り散らす


もはやお得意様となった酒屋でいつもの酒を買って代金を払う

しぃおばさんから酒代に使わないことを理由に借りたお金
支払う時に心が痛んだ

いつものことなので小学生の僕が酒を購入することに店員は疑問を持たないようだ

帰り道
瓶の中で揺れる液体を見て思った

この液体が母さんをあんな人にした―――

本来憎むべきなのだろうが
この液体が無いと母さんは生きていけないのだ

果たしてこの半透明の液体に感謝をするべきか―――

すでに何回目かのこの問答―――

答えはやっぱり出ない



6: ◆E6cMliFHiE :2007/08/15(水) 22:22:00.42 ID:NCtkRLhkO
最近ブーンがあの男に似てきた

顔つきもそうだがそれよりも
喋り方やちょっとした仕草
その中にあの男の影が見え隠れする

それもこれも全部

あいつが

从 ゚∀从「変な見栄はりやがって……」

でも今はそんなことよりも

从 ゚∀从「ブーンはまだか……」

空き瓶片手に呟く
空っぽなのはこの瓶か―――
それとも、自分の心か―――

酒が自分を駄目にしている
そんなこと分かっていた

それでも自分が酒を飲み続けているのは

もしかして

あいつの

从 ゚∀从「だぁーっ!!やめだやめだ!!」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:23:29.71 ID:NCtkRLhkO
从 ゚∀从「こんなこと考えたって酒には酔えねぇんだ」

その声も空き瓶の中で木霊する

从 ゚∀从「……にしても金がねぇな」

从 ゚∀从「昔はいくらでも男が貢いでくれたんだがなぁ……ん?男?」

あったじゃないか

今までどんな仕事も酒絡みで駄目にしてきた自分が

金を稼ぐ方法が

从 ゚∀从「ハッハッハッハッハ!!」

从 ゚∀从「そうだよ簡単じゃねぇか!!」

从 ゚∀从「道具は自分が持ってるじゃねぇか!!」

言うが早いかすぐに部屋を飛び出した

昔持っていたはずの女としてのプライドは―――

とうの昔に捨ててきた―――



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:25:39.46 ID:NCtkRLhkO

( ・∀・)「はいもしもし〜あ、アスカちゃんですね〜すぐ送ります〜」

ガチャッ

( ・∀・)「これで四件目っと」

薄くタバコの香りがするせまい部屋
そこが俺の仕事場だ
と言ってもただのボロアパートだが

そんな部屋での仕事は
寂しい独り身の男性に自宅で楽しむ相手を提供するというものだ

世間からは斡旋業と呼ばれるこの仕事は
俺一人で行っているわけではない
少し離れたところに事務所があり
そこから女の子をお客様に『提供』するのだ

その事務所には俺を含めて四人が働いている



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:27:14.15 ID:NCtkRLhkO
経理が一人
女の子を送る係が一人
事務的な仕事が一人
そして電話応対係の俺

この四人で仕事を続けているが
いずれは足を洗う時が来るだろう

その時、この汚れた足でどこまで歩けるだろうか―――

そんなことを考えてはいつも未来への不安を感じていた

( ・∀・)「ちっ、タバコが切れちまった」

朝から座りっぱなしだったせいか少し痛む腰を上げ、扉にむかう

するとその扉が開いた

( ・∀・)「……誰?」

そこには40過ぎに見える女がいた

从 ゚∀从「4号室のハインだ」

そういえばこんな人もいたな。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:27:55.92 ID:NCtkRLhkO
重度のアル中だと大家が言っていた女だ

( ・∀・)「で?その4号室のハインさんが何の用だ?」

从 ゚∀从「私にも仕事を紹介してくれ」

おいおいマジかよ。
酒の金が欲しいのか?

( ・∀・)「何故アンタが俺の仕事を知っているかは知らんが……その願いは聞き入れられない」

从 ゚∀从「何でだ?」

( ・∀・)「そりゃあアンタが昔良い女だったってのは分かる」

( ・∀・)「でもアンタは年をとりすぎだ」

( ・∀・)「いくら年上好きがいるとはいえ……無理だな」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:28:33.87 ID:NCtkRLhkO
从 ゚∀从「そう言うなよ。頼む酒代がいるんだ」

この女もしつこいな

( ・∀・)「だから無理だって……」

なかなか引き下がらない女に苛立ちだしたとき
俺と女の終わりの見えない言い合いを止めたのは
子供の声だった

( ^ω^)「母さんどうしたんだお?」

从 ゚∀从「ブーンは関係無……そうだ!!」

何かを閃いた女は子供を俺との間に引っ張る

从 ゚∀从「コイツならどうだ?こういう“男”好きもいるだろ?」

( ・∀・)「おいおい本気か?実の息子だろ?」

从 ゚∀从「構いやしないさ。それに実の息子じゃ無いんだ」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:31:00.66 ID:NCtkRLhkO

……え?
実の息子じゃ無い?

僕が?

じゃあ誰の子供なんだ?

それじゃあ今まで母さんと呼んできたあなたは

一体僕の何なんだ?

从 ゚∀从「……何見てんのよ」

从 ゚∀从「アタシはアンタが嫌いなんだ」

ねぇ

そんなこと言わずに答えてよ

アンタが僕を嫌ってるのは知っていた

だけど僕がアンタの子供じゃないのは知らなかった



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:31:49.15 ID:NCtkRLhkO
ねぇ

答えてよ

真実を知るのが恐くて開かない口の代わりに

あなたに向けている視線に

答えてよ

( ・∀・)「……じゃあコイツは預かる。坊主、ついて来い」

結局答えは聞けなかった―――



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:33:33.92 ID:NCtkRLhkO
( ・∀・)「……………」

( ^ω^)「……………」

( ・∀・)「……………」

( ^ω^)「…………」

( ・∀・)「……なあ」

( ^ω^)「なんだお?」

( ・∀・)「嫌なら嫌って言えよ。帰らしてやるから」

何でこんなことを言ったんだろうか
言ってすぐ自分で後悔した

何をしている
コイツは商売道具じゃないか
これで稼ぎが減ったな
そう考えていた

( ^ω^)「この仕事したらお金が稼げるんだお?」

( ・∀・)「まあそうだな」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:36:24.74 ID:NCtkRLhkO
( ^ω^)「お金稼いだらお母さん喜ぶお。それならやるお」

( ・∀・)(コイツ……)

何てガキだ……
覚悟があるなんてもんじゃねぇ
この年でこの世の負を全て背負ってやがる

( ・∀・)「……そうか……なら頑張れ」

( ^ω^)「うん!!頑張るお!!」

( ・∀・)「ほら、事務所についたぞ」

仕事の内容の説明は、しなかった

いや、できなかった



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:39:22.67 ID:NCtkRLhkO
ブーンを連れて事務所に入る
ガチャッ

( ・∀・)「おーっす。おっ、四人が揃うのは久しぶりだな」

( ,'3 )「ようモララー、ん?そのガキは?」

( ・∀・)「あ?コイツは……」

(’e’)「隠し子?隠し子?」

( ・∀・)「違うっつーのコイツは……」

( ^ω^)「ブーンですお。ここには仕事をもらいに来ましたお」

( ・∀・)「…というワケだ仲良くしてやれ」

( ^Д^)「……モララー冗談だろう?」

( ・∀・)「何が?」

( ,'3 )「だってどうみても……」

( ・∀・)「確かにコイツ11才だ」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:42:18.25 ID:NCtkRLhkO
( ^Д^)「だったら何で……」

( ・∀・)「だからこそ、だよ。こういうガキが好きな野郎もいるだろ?」

(’e’)「確かに今までの客にもいたが……」

( ・∀・)「そういう奴のところに連れてくんだ。プギャー頼む」

( ^Д^)「えっ?今すぐ、か?」

( ・∀・)「コイツはすぐに金がいるんだ。なあブーン?」

( ^ω^)「そうだお。プギャーさんお願いしますお」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:45:01.98 ID:NCtkRLhkO
( ^Д^)「……分かったよ。」

そう言ってプギャーはブーンを連れて行った

( ,'3 )「かわいそうにな……アイツ……」

( ・∀・)「……………」

(’e’)「ちょっとだけでも金多めにやるか?」

( ・∀・)「いや、その必要はない」

(’e’)「でもそれじゃあ……」

( ・∀・)「……まあいい子にしてたら」



( ・∀・)「ガムでもやるかな」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/15(水) 22:47:15.16 ID:NCtkRLhkO
( ^Д^)「ついたぞ、この家の人と仕事だ」

家に入るととても太った人が出迎えてくれた

豚「ゲヘゲヘゲヘいらっしゃい」

ああこの人と仕事か……

豚「優しくしてあげるよ〜」

僕はここで考えるのを

完全に

やめた



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい忘れたい

そこからのことは覚えていない

気がつくと僕はガムを噛みながら家の前にたっていた

ほのかにグレープの味がした



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