(#゚;;-゚) でぃが笛を吹くようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 00:54:34.09 ID:IpG2Im2OO
  その笛の音は 私の心をポロンと弾いた


 (#゚;;-゚) 「綺麗だったな……」


  その笛の音は 私の心をポロンと弾いた


 (#゚;;-゚) 「また……逢いたいな」


  その笛の音は 私の心をポロンと弾いた


 (#゚;;-゚) 「また……聴きたいな」



  その笛の音を



 (#゚;;-゚) 「また―――――



  私が誰かに聴かせたいと想った



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 00:56:47.04 ID:IpG2Im2OO

子供の頃に、村に行商人がやってきた。
小さな村だったから、私はその人を不思議に見ていた。

背中のリュックにたくさんの荷物を飛び出るくらいに詰めたその人は、
朗らかな笑顔で村の人たちに物を売っていた。

やがてパンパンだったリュックは萎み、代わりに行商人さんは色んな物を持っていた。
隣のお家で取れた野菜とか、赤く紅葉した裏山を描いた絵とか。
たくさん、たくさん持っていた。

交換し貰った村の特産品をリュックに詰めると、もっと朗らかな笑顔をして、その人は村を出て行った。

私はそれを、家の影から見つめていた。
じーっと、見つめていた。





(#゚;;-゚) 「お母さん……」

もうすっかりぺったんこになった布団。
お母さんはその寝床から、動く事ができない。
お母さんが動けないから、布団も干せない。

だから布団はぺったんこ。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 00:58:07.88 ID:IpG2Im2OO

(#゚;;-゚) 「お母さん、ごめんね」

お母さんは動けない。
動けないから、布団はぺったんこ。
動けないから、布団が干せない。

動けないから、ここに置いていく。


(#゚;;-゚) 「ごめんね……お母さん」

もう何度謝っただろうか。
謝っても謝っても遣り切れない気持ちは、私にもっと謝れと告げる。

意味はないのに。

(#゚;;-゚) 「ごめんね……ごめんね……」

「でぃ! 早くしろォ!!」

私を呼ぶ声がする。もう来るんだ。
逃げなきゃいけない。村を捨てて。

お母さんを、捨てて。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:00:01.91 ID:IpG2Im2OO

(# ;;- ) 「…………」

「おい! でぃ!!」

……私には、できない。

(#゚;;-゚) 「……私に構わず、行ってください」

待ちきれなくなり、家に飛び込んできたおじさんに言った。
おじさんは暫く黙って私を見つめ、すまないと呟くと、唾を返し外へと向かった。

(#゚;;-゚) 「遣り切れない気持ちがあるなら……。
      私は、最後までお母さんを見捨てない……」

自分に信じ込ませるように言い、お母さんへと近づく。

(#゚;;-゚) 「一緒に行こう、お母さん」

横になっているお母さんをおんぶするのに時間がかかったが、何とか担ぐ事が出来た。

よたよたと開けたままの扉に近付き、外へと出る。
既に村の人たちは避難した後らしく、静まり返った村は普段見慣れない分不気味だった。

(;#゚;;-゚) 「ふぅ……ふぅ……」

歩いていては、すぐに捕まってしまう。
でも走れ走れと身体に命令しても、私にお母さんを担ぎながら走る力など無い。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:02:09.31 ID:IpG2Im2OO

そんな事は分かっていたし、分かっている。
でもここまで育ててくれたお母さんを見捨て生きる事の方が、私は辛い。

(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……」

村自慢の噴水がある広場。十字に道が広がっている。
いつもは誰かしら此処にいて、話に花を咲かせていた。
でも今は……言うまでもない。

よたよた……よたよたと進む。
皆が目指したのは王都VIPだろう。だから私もそこを目指す。

だが誰が見ても、私の速度は亀よりも遅い。
いずれ追い付かれ、殺されるのがオチかもしれない。

でも私は……私は……

(;#゚;;-゚) 「ッ! キャッ!?」

ズサッと、地を滑る音。右肘が熱い。膝もだ。
足を躓き転んだと気付くのに、暫くかかった。


でもあの足音に気付くのは、そう長くなかった。


(;#゚;;-゚) 「……ッ!? ……来た」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:04:01.76 ID:IpG2Im2OO

地を踏みならすように、定期的な足音が遠くから聞こえる。
まだ視界には入らない。向こうからも入っていない筈だ。

(;#゚;;-゚) 「今の内にッ……!」

もう逃げ切る事は出来ないだろう。
私はお母さんを肩に担ぎ、村近くの山を目指す。
山奥にまで行ければ最高だけど、行けて林、行けなくて草むらだろう。

とにかく早く、早く足を動かす。
次第に足音が大きくなり、恐怖が襲ってくる。
心音がバクバクと煩い。

息も煩い。

呼吸を止める。

苦しい。

息を……呼吸を……


あれ?


息の仕方が……分からない



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:06:05.12 ID:IpG2Im2OO


(;#゚;;-゚) 「ッハ!? ハァ……ハァ……!!」

落ち着いて……落ち着いて……

前を目指し歩く。右足を出し、次に左足。

よし、大分近付けた。
細いけど木もあるし、草むらも深い。

ここでならなんとか……それにもう……

(#゚;;-゚) 「……疲れたよ」

お母さんを静かに降ろし、少しでも隠れるように雑草を抜き、お母さんにかけた。
私も腰を降ろし、伏せる。

正直、コレでやり過ごせるなら苦労はないだろう。
でもコレが、私の精一杯だった。

(;#゚;;-゚) 「ふぅ……ふぅ……」

荒くなった息を抑える。
心音も少し収まり、初めて草の香りが鼻をついた。

もう鳥すらも逃げたのだろう。
聞こえるのは、アレの足音のみ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:08:26.67 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「…………」

近づいてくる、少しずつ。
草むらの隙間から見える、私の村。右に家、左にも家。
家に挟まれたおかげで道が見えるのは視界の半分程。

そのちょうど真ん中に、噴水。


ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ


これは私の心臓の音? なら治まって。


ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ


これは奴らの足音? なら……。


(;#゚;;-゚) 「帰って……!」

静かに願う。
頼んで聞いてくれるのならば、私は喉が枯れるまで叫ぶだろう。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:10:16.63 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「……!」

近づいてる、間違いなく。もうそれは、すぐそこにまで。

来る……来る……来る……!




来た。




(;#゚;;-゚) 「……ッ」

ソレは、黒かった。
まるで影のように黒く、悪魔のような禍々しさをその躯から発している。

アレが……

(;#゚;;-゚) 「浸透者……」

実物は始めて見た。絵では見た事があるけど。
でも本物は、絵なんかとは比べものにならない程に、恐ろしい。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:12:03.00 ID:IpG2Im2OO

まるで黒く塗り潰された騎士。

足取りは緩慢だが、一度獲物を見つけると逃す事はないと言われている。
だから絶対に見つかっちゃいけない。

(;#゚;;-゚) 「すごい数……こんなに……!?」

既に最初に視界に入った浸透者は見えなくなった。
それからも数体が、右へと抜けていく。
まるで死者の葬列のように、ゆっくりと。

隊列を組んでいるのか、横からではその人数は数えきれない。
でも、多い。それは確かだ。

(;# ;;- ) 「恐い……恐いよ……お母さん」



浸透者は、突然この世界に現われた。

王都VIPを囲むように点在する村々、その一番北の、一番端。
名前は知らないその小さな村から、突然村民は姿を消した。

それがいつ消えたのかは分からない。
VIPの軍が村の隅々を調べたらしいけど、結果は0。

そう、0。
その村から、軍は帰ってこなかった。調査に行ったきり。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:14:17.66 ID:IpG2Im2OO

VIPはその不思議な村の周りに近づく事を禁じ、その村は魔界に繋がっていると噂された。

そしてその村の周りを警護していた兵士が、最初の浸透者の目撃者となる。

半狂乱状態でVIPに戻ってきた兵士は、叫ぶように言った。

「この世界に浸透する闇が来た」

それから浸透者は、村々を襲い始めた。
100はあったこの国の村も、今では半分。
抵抗もしたらしけど、結果は散々たるもの。

王都の、その堅高な壁に入りたいと願う人たちは多かった。
だけどそんなに広くはない王都。村人を全員収容するなど、到底無理な話。

だから浸透者が来たら、逃げ込む事を許可された。
それまでは浸透者に怯えながら村に居ろ、という事だ。


(;#゚;;-゚) 「……」

どれだけの時間が過ぎただろうか。
私はジッと、奴らがコチラに来ないかどうかをただ警戒するだけだった。

しかし神経をすり減らすほどに注視してたせいか、少しの変化だけど、
さっきまで欝陶しい程聞こえた足音は小さくなっているのに気付いた。
よく聞けば、左の音より右の方が大きい感じも……。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:16:02.24 ID:IpG2Im2OO

左から続々と現われていた浸透者。
途切れる瞬間、私が待ち望んでいた瞬間が。
やっと、やっとやって来た。

(;#゚;;-゚) 「アレで最後……! 行って……!!」

最後列に位置していた浸透者。
体躯は鎧の所為か大きく、右手に持つ黒塗りの剣は光を反さなくても鋭く恐ろしい。

それは鎧が擦れる音も立てず、ゆっくりと前へと進む。
するのは足音だけ。しかも一体だけだと、それも聞き取りにくいほど小さい。

(;#゚;;-゚) 「早く、早く行ってよ……!」

依然浸透者の足取りは重たい。

いや、重すぎる。
先に行った浸透者達の足音は小さく、奴の前に居た浸透者達すら視界から消えていた。

奴一体だけが、噴水の前で歩みを止めていた。

(;#゚;;-゚) 「…………」

私の方は見ていない。ただ正面を見ているだけ。
ならなぜ止まるの? あそこで何をして……?

ハッと気付き、音を立てないように首だけで周囲を確認する。
周りに浸透者はいない。少し草を被ったお母さんが寝ているだけだ。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:18:03.55 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「……ふぅ」

一息つき、また噴水の方を見る……。

(;#゚;;-゚) 「ッ!?」

浸透者が、こちらを見ていた。

首だけをこちらに回し、ジッと見つめている。
首から頭までを一つに纏う兜をしているから、目は確認できない。

でも確実に、コチラを見ている。

距離はわりとある。

 逃げる?
  逃げなきゃ。
   逃げよう。

歩伏前進の体勢から、横に移動する。
視界から浸透者は外さない、外す事が出来ない。

少しずつ、少しずつお母さんに近づく。
さっき擦り剥いた肘と膝がズキンズキンと痛い。

その痛さと恐怖のせいで、知らずに涙が頬を伝う。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:20:02.42 ID:IpG2Im2OO

(# ;;- ) 「ッ!……ハァ……ハァ」

ズリと地を擦る音が続くが、浸透者はさっきから動く気配を見せない。
横を見てお母さんの位置を確認し、視線を戻す。

まだ、コチラを見ているだけだ。

ゆっくり、ゆっくりとお母さんに近づく。
やっと手が触れる事ができ、一気に安堵感が私を襲う。

ぐっと力を込めながらお母さんを寄せる。
浸透者は……

(;#゚;;-゚) 「!!」

その黒い躯を、こちらに向けていた。

もう、時間などない。奴はこちらに気付いている。
そう思うと手が震え、額から汗が吹き出る。

なんとかお母さんを掴み、少し腰を浮かせ背負う。
まだ、浸透者は動いていない。

中腰姿勢のままゆっくり進む。
もう草からは見えてるだろう。

だけど、早く動く事が出来なかった。
走ればすぐに、アイツが追ってきそうだから。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:22:28.41 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……」

右へ、浸透者の軍隊が向かった方へ。
もしかしたら遭遇するかもしれないけど、少しでも、王都に近づきたかった。

後ろを振り向き、後方を確認。
家の影に隠れ噴水は見えず、浸透者も確認できない。
姿が見えない敵から逃げる。恐怖が、私の足を重たくする。


(;#゚;;-゚) 「はぁ……はぁ……ッ!?」

もう一度前を向き直し二、三歩進んだ所で、ガサリ、と音がした。

それはさっきまで私が立てていた音に似ていた。
それよりは少し大きい音で、後ろから聞こえた。

ゆっくりと、振り向く。

(;#゚;;-゚) 「ひッ」

浸透者が、さっきまで伏せていた場所に立っていた。
そして少しずつ首を動かし、私を見据える。

汗が吹き出し、腰が砕けそうになる。
でもここで倒れたら殺される。
今は逃げる事が、最善の一手。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:24:02.97 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「ぁ……うぁ……!?」

言葉にならない呻きを上げながら、精一杯走る。
浸透者の緩慢な歩みよりも、ちょっと早いくらいの速度。

後ろを確認する。追ってきている。ゆっくりと。
慌てて前を向き、また走りを続ける。
ガサリガサリと草を踏み分ける音が耳障りだ。

(;#゚;;-゚) 「ハッ……ハッ……ハッ……」

お母さんがずり落ちはじめたから、腰を揺らし担ぎ直す。
そんな時間すらも、もどかしい。

やがて村を抜け出し、右手に広がっている山の方へと駆けた。
獣道のような足場の悪いその道でも、浸透者は容赦なく追い掛けてくる。

右に山の斜面が上り、左は下りの斜面。
このまま真っすぐに進めば森に入れる。
そうすればお母さんだって隠せるし、私も隠れられるんだ。

やり過ごせる、そんな可能性。

(;#゚;;-゚) 「ハッ……ハッ……」

苦しい……足も痛い。
でも後少し。後少しで私は……



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:26:12.49 ID:IpG2Im2OO

(;#゚;;-゚) 「うぁッ!?」


そんな少しの油断からか、私は転んでしまう。
足がもつれ、顔から地を擦る。頬が……熱い。

(;# ;;- ) 「ッ〜……」

悶える。じゃないともう、挫けそうだから。

でも奴は、そんな私の気などお構いなく、近付いてくる。
トッ トッ トッと妙に軽い足音が、徐々に後ろからやって来ていた。

(;# ;;- ) 「立たなきゃ……立たなきゃ……!」

後ろ手にお母さんを押さえていた手を解き、立ち上がろうとする。
でも人一人の体重は重く、もたつく。

(;# ;;- ) 「立たなきゃ……立たなきゃ立たなきゃ立たなきゃッ!!」

力を込め、肘を使いお母さんから体を抜かす。
やったと喜ぶ暇などない。
すぐに立ち上がり、後ろを見た。

見えたのは、右の黒剣を振り上げる浸透者。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:28:03.02 ID:IpG2Im2OO

(;# ;;- ) 「キャッ!!」

振り下ろされる瞬間を見てから、右に飛びその剣を躱す。
体が勝手に動いた。まず目の前の危険を回避するために。

次の危険には対応できない、体の仕組み。

(;#゚;;-゚) 「ッ!? うぁッ!?」

坂のような斜面に、右足を取られた。
ぐらりと重心が傾く。落ちたくなんかないのに。

その抵抗として私は、思わず俯せに倒れるお母さんを掴んでしまった。
落ちる力には逆らえず、坂に飲まれるように私とお母さんは転げ落ちる。

いつの間にか私は、山の中腹辺りまで来ていたらしい。
私はそれに、転がりながら気付いた。








31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:30:07.70 ID:IpG2Im2OO

(# ;;- ) 「…………ぅ」


(#-;;-゚) 「ん……」


頭が痛い……私は、確か……


(;#゚;;-゚) 「ッ!! 浸透者!!」

上半身だけ起こし、辺りを確認する。
浸透者はいないようだけど……傷がひどい。
所々を擦り剥いたようで、赤い血が滲んでいる。

(#゚;;-゚) 「そうだ、お母さん……!」

落ちる時にお母さんを掴んだから、二人で落ちた筈。
立ち上がり、もう一度周りを見回す。
そして丁度私の後ろに、倒れているお母さんを見つけた。

その時だった。遠くから何かの足音が聞こえたのは。

(;#゚;;-゚) 「!? 浸透者……?」

姿勢を低くし、警戒する。
どうやら山の麓まで落ちたようで、周りには家などは見当たらない。
ただ緑の、背の低い草が生え揃うだけだ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/30(日) 01:32:02.54 ID:IpG2Im2OO

次第に音は近付き、私の心臓も激しくなる。
骨は折れてないみたいだけど、もう逃げる体力は残ってない。

(;#゚;;-゚) 「……ッ!?……あれは、馬……?」

良く聞けば浸透者の足音とは違う。
それに視界奥に見えたのは、黒い馬に跨った白銀の騎士。

王都VIPの、騎士だ。

(# ;;- ) 「た……助かった……」

思わず力が抜け、その場にへたれ込む。

黒い馬は軽快な音でコチラへと走ってくる。
その歩みは速い物ではなかったが、私に気付いたのだろうか、騎士は手綱を使い愛馬の速度を上げた。

あっという間に私の傍まで馬を走らせた騎士。
浸透者のような顔を覆う兜をつけたまま、馬から降りずに声を掛けてきた。

「どうした? ここは危険だぞ」

その声は、女性の声だった。
野太い声を予想していたが、随分と耳に優しい声。
仮面のような兜を付けている筈なのに、その声は凄く澄んでいた。



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