( ^ω^)ブーンが都市伝説に挑むようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:31:50.61 ID:fmfm7D9O0
“都市伝説”って知ってますかお?

思うに、これを知らない人はあまりいないと思うんですお。
昔からTVでもよく取り上げられているし、現代用語としてはもう随分と普及されてるはずですお。

辞書には“広く口承される噂話のうち、現代発祥で根拠が曖昧もしくは不明であるもの”、なんて風に載っていますお。
大雑把に言うのなら、“根も葉もない噂からできた御伽噺”……要するに、噂話ですお。

もし、それでもピンと来ない人がいたら、「口裂け女」の話を思い出してくださいお。
きっと聞いたことがあると思いますお。恐らく、この話は子供の頃に知った方が多いんじゃないですかお。

マスクをかけた女が「あたしキレイ?」って問いかけてくる、怪談なんて風にも呼ばれているアレですお。
聞かれて「キレイだ」と答えると、女は「これでも?」と言ってマスクを外し、そこには耳まで裂けた口がある。
恐らく、一番有名な部類の都市伝説だと思いますお。

ところで、皆さんはこの「口裂け女」の話について、他にどんなことを思い浮かびましたかお。
多分それは「ポマードと唱えれば女は逃げていく」とか、「べっこう飴を持っていれば助かる」とかなんじゃないかと思いますお。
でも、本来の「口裂け女」のルーツにそんな記述は一切無いんですお。もしそう思った人がいたなら、それは全て後付のものなんですお。

つまり、都市伝説というのはあまりオリジナルの形で残ることが少ないということですお。
そこには様々な尾ひれが付いて、当時の時代背景、色々な人の思惑が絡んで、どんどん形が変化していくんですお。

僕は、それこそ人心の成せる業なんじゃないかと思いますお。
人の心から出た言葉がオリジナルを捻じ曲げ、むしろそれが本当であるかのように変化させてしまう……それは、実に驚くべきことだと思うんですお。

時代と共に、人の心の移り変わりと共にその姿を変えていく都市伝説。
そして、その変化は時に想像も付かないような結果を招くのですお。

それは、あくまでも噂話であるはずのモノを、実際の事件にしてしまうほどに――



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:34:28.14 ID:fmfm7D9O0
「……ん……ろ……う……」

……何か、声が聞こえてくる……言っているのは……女性みたいだ……。

「……ろ……う……んたろ……う……!」

……段々声が大きくなってきた……あれ、この声はどこかで聞いたことがあるような……。

ξ#゚听)ξ「文太郎っ!!」
(;゚ω゚)「ひゃいっ!?」

眠気を根こそぎ吹き飛ばすような怒声に、僕は思わず上半身を飛び起こす。
横から伝わってくる凄まじい気迫にも、すぐに気が付いた。

恐る恐る首を動かし、確認するまでもない不機嫌な表情を覗き見る。
高鳴る心音を聞きながらなんとか笑顔を送るも、相手は頭の天辺から角が生えているようだ。
ツインテールでまとめられた眩い金髪も、今は威圧色にしか見えない。なんて心臓に悪い目覚めだろうか。

(;^ω^)「ごめんだお、昨日の仕事が夜遅くまでだったから……」
ξ#゚听)ξ「鍵開けっ放しで、無用心にも程があるわよ!?」

なるほど、昨日は鍵を閉めずにそのまま寝てしまったのだ。上着を脱いだ後、真っ直ぐソファに沈んだのが間違いだった。

金色夜叉と化している彼女の名は、津出玲子さん。僕が所長を務める(単に僕以外に人がいないだけだが)この事務所で、助手として働いてもらっている。
と言っても、正式にここで働いているというわけではなく、彼女の本職はあくまで某有名企業のOL。
どうにも僕は経営とかがからっきしなので、そういうのに詳しい玲子さんに臨時で手伝ってもらっているというわけだ。

実にありがたい存在であり、同時に全く頭の上がらない存在でもある。
一応高校時代からの友人なんだけど……よく考えたら、その頃から頭が上がらなかった気がする。
でも、なんだかんだ言って生活のキツイ時には手料理とか振舞ってくれるし、本当は面倒見のいい優しい人なのだ。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:36:48.74 ID:fmfm7D9O0
ちなみに、事務所の場所は知り合いが経営しているビルの二階を格安で貸してもらっていて、中には備え付けでキッチンや洗面台なんかも置いてある。
人一人が住むには十分なスペースがあり、そこらのボロアパートよかずっと快適な環境だ。

ξ ゚听)ξ「気を付けてよ、もう!」
(;^ω^)「はい……」

もうこうなったら、ただひたすらに謝るだけ。
玲子さんは常に正しいことしか言わないので、口答えしたところで返り討ちに遭うだけだ。
このちょっとキツイ物言いさえなんとかなればスタイルもモデルみたいだし、女優かと思うほど美人なのに……実にもったいない。
今日は休日だからもちろん私服で、白のフリルシャツとジーンズだけで見事な存在感を出している。街行く人々が何度となく振り返ったことだろう。

ξ ゚听)ξ「それで、新しい仕事はあるの?」

毎度毎度のどこか含みのあるような言い方。「どうせ無いだろうけど、とりあえず聞いてみるか」なんてことを思っているに違いない。
しかし、それを聞いて僕は得意げに「ふふん」と鼻を鳴らす。いつもは情けなく「……ありません」と言って玲子さんに呆れられる僕だが、今日は違う。
僕は仕事机の引き出しを開け、ここぞとばかりに中に入っていた一枚の紙を玲子さんに見せつけた。

( ^ω^)「これを見てくださいお!」
ξ(゚ヮ゚*ξ「わっ! やったじゃない!」

それを見た途端、玲子さんの表情がぱあっと明るくなる。取り出した紙……それは、何を隠そうこの事務所に届いた仕事の依頼書だ。
僕と玲子さんは依頼書を挟み、一緒になって小躍りする。決して繁盛している訳ではないので、喜びも一入だ。
特に給料を待ってもらっている玲子さんにとっては、待ちに待った朗報に聞こえるだろう。

彼女が動く度にツインテールがしゃらんしゃらんと激しく動き、その欲求不満が計り知れる(申し訳ない)。
ちなみに、彼女の金髪は染めたのではなく自毛だそうで、なんでも彼女の母方がイギリスの生まれなんだそうだ。
なんだか外国人の奥さんというだけですごいと思ってしまうのは、日本人の性なんだろうか。

( ^ω^)「玲子さんにも苦労をかけたお……これでちゃんとお給料あげられますお!」
ξ(゚ヮ゚*ξ「それで、内容は……」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:39:09.41 ID:fmfm7D9O0
玲子さんが僕の手から依頼書を奪い、まじまじと目を通す。すると、明るかった表情はみるみるうちに曇っていった。

ξ;゚听)ξ「い、犬探し……」

玲子さんが何とも言えない、じとっとした眼つきで僕を見る。
せっかく来た仕事だから無碍にはできないが、それにしてももうちょっとまともなのはなかったのか、という顔だ。
実に困る。この後にする僕の対応が、言い訳以外に無くなってしまう。

(;^ω^)「しょ、しょうがないじゃないかお。それしか無かったんだから……」
ξ ゚−゚)ξ「……まあ、贅沢は言えないわよね」

玲子さんはそのまま無言で僕に依頼書を返す。こういう時、美人って最高の皮肉なんじゃないかと思う。
むしろ何か言ってくれた方が気が楽だってのに、玲子さんはただ黙って無表情にこっちを見ているだけ。それでも、僕はどんどん心が追い詰められていく。
自然と頭が下がろうとするものの、そうしたところで「何謝ってるのよ」なんてことを言われて終わりだろう。
こういう時は、さっさと行動した方が良いに決まってる。

僕はソファから立ち上がり、コート掛けから茶色のロングコートと帽子を手に取る。身に付けると、姿見に映る自分はまるでドラマに出てくる探偵のようだ。
今時こんなのを着てる人はいないと思うけど、何事も形から入るのが僕のポリシーである。
まあ、服をそんなに持っていないというのもあるが。

写真の載っている依頼書は小さく折り畳み、コートの左ポケットへ。財布やメモ帳なんかの必需品は、コートの内ポケットに入れてある。
そして、出掛ける前に神棚の前で深く合掌。所謂、今日も何事もありませんようにという願掛けだ。これは仕事の前に必ずやっていることで、どちらかと言えば習慣に近い。
要するに「いただきます」とか、「おやすみなさい」なんて言うことと同じ。ところで、この神棚は僕の手作りだ。

( ^ω^)「……じゃ、行って来ますお」

背中で玲子さんの「行ってらっしゃい」という声を聞き、僕は事務所を後にする。
まずは依頼人の元へ行き、いなくなった犬について詳しい話を聞かせてもらおう。実際に探すのはそれからになるはずだ。

……そうそう、言い忘れていたが僕の名は内藤文太郎。職業は、しがない私立探偵だ。



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