('A`)駄目人間は覚悟するようです
- 3: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:20:15.16 ID:RaBOMk590
- 【続・高校二年 夏の話】
(´・ω・`)「さて、どうするか」
('A`)「そりゃあ、覚悟くらい、する、けど……」
(´・ω・`)「まぁ気負う必要はないけど、大変かもしれないとだけ」
ぼくはごくりと生唾を飲んだ。
目が覚めてから――ここに来てからどれくらい経ったのだろう。
窓の外は胡散臭いほどに青い空が広がっていて、
だけど、聴こえてくるはずの部活に励む生徒の声は、なかった。
真夏の放課後、あと少しで夏休みというこの時期に。
なぜぼくはこんな目に合っているのだ。
正面に神妙な顔で座るショボンの言葉を信用するならば
今ぼくたちがいるのは「時空の狭間」である。
('A`)「ここから……出るのか。ツンデレさんはどうすれば?」
見た雰囲気は学校の図書室だが、それはどうやら見せ掛けだけだそうで、
実際は舞台に大道具を並べたように、この偽物の図書室が成り立っているという。
つまり図書室から廊下へ出たとき、そこがどうなっているのかは計り知れない。
- 4: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:22:31.24 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「彼女は……連れて歩きたいところだけれど、
触れると僕たちまでああなってしまう可能性がある、かも」
('A`)「うわ……」
ぼくたちのいる机は扉のすぐ横に位置した。
ぼくの背後には貸し出しカウンター、
そしてツンデレという女生徒が佇んでいるのだが。
彼女がいなければぼくはここが時空のなんたらだなんて信じなかったと思う。
だって、今のツンデレは寒天の如く透明な人間。決定的に異常だろう。
('A`)「お、おれたちは図書室を、出るのか?いまから?」
(´・ω・`)「うん」
('A`)「……そうだ。元の世界は今どうなってるんだよ。
おれたちはいなくなって、でツンデレはどうなってる?」
(´・ω・`)「んー精神と時の部屋って知ってる?」
('A`)「あぁ外での一日が、部屋の一年になるやつ」
(´・ω・`)「ここはそれがバージョンアップしたような状態なんだ。多分ね。
以前、僕は、僕の部屋から別の時空に行った事があるんだけど」
この男は、自ら進んで、ふざけた空間に出入りしているというのか。
そう聞くと、何故だか現状がショボンのせいだというような気がして、
ぼくは心の中で恨めしく思った。
- 7: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:25:04.93 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「そこで一日ほど過ごしたように感じていたのに、
元の世界に戻って時計を見ると、秒針さえ進んでいなかった」
('A`)「つまりだ。ここでの一日はあっちでの一秒以下?」
(´・ω・`)「そもそも、時間という概念が違うんだろうね」
時間だけはたっぷり用意されているというわけか。
難しい話をされてもわからないので、それ以上詳しく聞くことはしない。
もちろん問い詰めたい事は山のようにあったが、
ぼくが今するべき行動じゃないというのは理解している。
(´・ω・`)「さっき言ったように、ぼくはよく自分の部屋から
別の時空とやらに出入りしていた。
ちょっとしたツテから、図書室でも同様の遊びが出来ると聞いて
今日はそれを試してみるつもりだったのさ」
('A`)「ツテ?誰。だいたいさ、そんな簡単なことなのかよ」
ぼくは幽霊やら怪奇現象やらを真っ向から否定するような狭量な人間ではない。
だから時空の狭間というものが存在しても、おかしくないと思う。
自分が直面してもこれほど落ち着きを装えるのだ、
案外適応力は優れているのかもしれない。
しかし、ぼくのクラスメイトがそんなおかしな遊びをしているだなんて、
流石に聞き返したくもなるものだ。
('A`)「いつからそんなことしてるんだよ」
- 9: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:27:43.49 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「……いつからだろ。それはわかんないけど。
ツテっていうのは……ツンデレさんだよ」
('A`)「はあああああああ?」
ツンデレ。透明な少女。
彼女が、こういう空間の存在を知っていることや、来たがっていたこと、
というか、本来ならぼくの代わりにここに来ていた筈だということは
先程ショボンから聞いたとおりなのだろう。
('A`)「なにそれ?え、電波カップル?」
だが、ぼくはてっきり、彼女は時空の話をショボンから聞き、
それに半信半疑ながら興味を抱いて……うん、やはりそんな展開を思い描いていた。
(´・ω・`)「彼女は、相当なオカルトマニアなんだよね。
ツンデレさん自身は霊感もないし単独でここに来る事も出来ない」
('A`)「オカルト……はぁ」
あくまでもぼくのイメージとしては、ツンデレはロジカルで
オカルト方面に長けているように見えない。
(´・ω・`)「先月の頭くらいかなぁ。たまたま廊下でぶつかっちゃってね。
彼女のノートから切れ端が落ちたんだけど、
ツンデレさんは気づかずに行ってしまって」
- 11: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:29:06.24 ID:RaBOMk590
- ('A`)「切れ端?」
この状況で、二人の馴れ初めなぞ聞いている場合ではないのだが、
ショボンの語り口は滑らかで、不思議と話に耳を傾けてしまう。
話上手というやつか、これだから女の子のモテるのだろう。
母以外の女性とまともに会話できないぼくからしたら羨ましい限りだ。
(´・ω・`)「それがね、なんかメモ帳の切れ端なんだけど
『今月買いたい本』って書いてあってさ」
('A`)「ゴクリ」
(´・ω・`)「黒魔術入門だとか、宇宙人大解剖だとか、ミステリーサークルを作ろうだとか」
(´・ω・`)「そのメモを返すついでに、ちょっと話題を振ってみたら盛り上がってね。
それ以来、図書室でオカルティックな会話をする仲なんだ」
('A`)「えーなんかやだなぁそんなコイビトって」
(´・ω・`)「?」
('A`)「まぁいいや。ツンデレはオカルト好きなのね。
じゃあ、あれでも本望かもな」
ぼくはカウンターで相も変わらず透けているツンデレを指差すと、席を立った。
ここに座っていたらいつまでもショボンの話に夢中になってしまいそうだ。
- 13: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:30:57.77 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「まぁ……とにかくさ」
ぼくにつられるようにショボンも立ち上がる。
のん気にも欠伸と伸びのコンボをかましたあとで、
(´・ω・`)「よし!」 」
ショボンはガッツポーズを作った。
特に意味はないのだろう、気合を入れたのかもしれない。
今度はぼくのほうがつられてしまって、
無意識に掌を握り締めていた。
('A`)「ツンデレさんは……このままで」
(´・ω・`)「うん。僕たちが帰るまえに、もう一度ここに来ればいい」
('A`)「っつーかこれからどこいくの。覚悟が必要なとこ?」
ショボンは辺りを確認するかのように落ち着きなく、
扉のほうに進んでいく。
置いていかれたら堪ったものではないので、
ぼくもそれに従いながら、しかし疑問は頭に残ったままだ。
ツンデレを放置して行くのは、もちろん気が進まないが
彼女がオカルトマニアだとか、そんな話を聞いたあとでは
憐れむ気持ちも僅かに薄らいでいる。
- 15: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:32:25.41 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「これから……管理者を探す。時空管理者」
('A`)「は?」
(´・ω・`)「さっき言ったの覚えてるかな?
僕たちは、人の家に裏口から勝手に上がり込んじゃったんだ、
家主に頼めば、出してもらえるけど……って話」
ぼくは思い出す。
ショボンが現状を説明するために言っていた言葉だ。
正面玄関から入ればよかったけど、裏口からだから泥棒みたいなものだ、
たしかそんな内容である。
('A`)「そのじくうかんりしゃ?それが家主にあたるわけ?」
(´・ω・`)「違う。時空管理者は、ハウスキーパーみたいなもの。
僕たちは泥棒なんだから、家主に見つかったらただじゃ済まないよ」
(;'A`)「……」
ショボンが図書室の扉に手をかける。
ゆとり高校の教室はどこも引き戸になっていて、ここ図書室も例外ではない。
窓の外には元の世界と変わらない青空が見えるので、
この扉の向こうは白い廊下以外に想像がつかなかった。
ここは偽物の図書室だなんて言われても、
初めて時空の狭間とやらに来たのだから
どんな世界なのかよく知らないし、
ましてやオカルトマニアでもないぼくには予想することさえ難しいのだ。
- 16: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:34:37.74 ID:RaBOMk590
- 急に怖気づいたぼくを知ってか知らずか、
ショボンはやたらに緩慢な動作で扉を開く。
徐々に広がる、壁と扉の間のスペースから見えたのは……。
('A`)「ん?」
それはもう、腰が思いっきり引けていて
身体の多くを出来るだけショボンの影に隠れさせていた情けのないぼくだったが
扉の外の様子に、思わず目を凝らした。
(´・ω・`)「足元気をつけて」
時空といわれて想像するのは、黒やら紫やら群青やら、そういう暗い色が
ぐるぐるに混ざり合ってマーブルみたいになっている空間で、
しかしぼくの視界に入ったのは、まるで
ファンタジーの舞台にでもなりそうな、ヨーロピアンな町並みだった。
('A`)「え?ここはどこ?」
(´・ω・`)「早く出なよ」
早くも煉瓦のストリートを歩き出すショボンに、
ぼくは慌ててついて行く。
- 18: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:36:37.22 ID:RaBOMk590
- ('A`)「なんっか……イギリスってかんじ」
踏みしめる道は、まさしく煉瓦で、陽射しの温かさまでリアルだった。
下を向くと、当たり前だがぼくたちは上履きのままなので、
一瞬悪い気がしたが、それも脳裏に浮かんだ疑問に掻き消される。
('A`)「これもハリボテなの?」
ぼくたちの居た図書室がハリボテだというなら、
今見ているこの町並みも、やはり偽物なのだろうか。
(´・ω・`)「わからない。多分、そうだと思うよ」
('A`)「ほぇー」
ぼくは間抜けな声を出しながら再び目線を下ろした。
あまりキョロキョロするのは不安がっているように見えるだろうし……。
しかし、ぼくが俯くのも紛れもない不安からだった。
町並みは生き生きしているのに、ここにはぼくたち以外に人間がいないのだ。
それが不穏な雰囲気を醸し出していて、正直、怖い。
('A`)「おれたち以外に、人はいないのか」
(´・ω・`)「……そうそう時空の狭間に落ちる人ばかりじゃないんだろうね」
('A`)「あぁ……」
- 20: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:38:48.19 ID:RaBOMk590
- 幾らか歩いても町は変わらずに続いていて、
曲がり角や分かれ道が一つもないのが印象的だった。
ふと、爪先を見つめながら言う。
('A`)「今、上履きはいてるじゃん?これも偽物?
着てる制服とか、むしろおれたちとか?」
(´・ω・`)「……わかんない。でも意識はあるでしょ?
聞いたら答えるでしょ?だから多分本物」
('A`)「なんか哲学なかんじだな」
(´・ω・`)「うーん」
道は整備されていて、すこぶる歩きやすい。
始めは珍しさからか、それとも緊張からか、あまり時の経過を意識していなかったが、
足に疲労を感じるようになった頃、ぼくは恐る恐る聞いた、
('A`)「どこに行くの?あとどれくらい?」
腕時計は四時三十分から止まったままだ。
('A`)「なんか疲れてきた」
元来、めんどうくさがりやで出不精で、超がつくほどインドア派のぼくは
そろそろ歩く事も放棄したくなってきている。
下手したら生命の危機である現状でも、ぼくの性根は治せないらしい。
- 22: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:40:37.77 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「疲れた?じゃあ、肉体も偽物じゃないんだ。
っていうことは、元の世界に僕たちはいなくって、
ツンデレさんは二つの時空で割ったような薄さな訳で……」
('A`)「ど!こ!に!い!くの!」
(´・ω・`)「あぁ、適当」
('A`)「はああああああああああああ?!!!」
ぼくはショボンに掴みかかった。
頭のなかでぷつんと音がした。急に無気力な気分になったのはこの前触れだったのか。
そもそもこんな異常事態の中で、今までよく切れなかったな。
己を褒めたい。
(#'A`)「適当ってなんだよお!馬鹿やろう!」
(;´・ω・`)「あわわわわ」
ショボンをガクガク揺さぶりながら、思いつく限りの罵声を口にする。
ショボンは大人しく揺れながら、それでも手を挙げて弁解を始めた。
(´・ω・`)「あああごめん嘘、適当じゃないチガウ嘘うそ」
(#'A`)「おれもう疲れたよ、歩きたくないんだよ!
当てもないのに歩くのは嫌だ!」
- 24: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:42:26.45 ID:RaBOMk590
- ('A`)「今日の夕飯はコロッケだから早く帰るんだよ!!
テストの点数よかったから母ちゃんに見せたいんだよ!
はやく帰りたいんだよおおお」
あとエロゲもしたいんだよ、という言葉は飲み込んでおく。
こんな状態でも分別は付けなきゃあならない。
(´・ω・`)「どっくん……」
('A`)「ちくしょおおおお」
ほんの数分前まで……いや、ここの時間の概念は知らないのだが、
体感でそれくらい前まで あんなに冷静で居られた自分が嘘みたいに
感情が高ぶっていた。
不甲斐ないが、涙まで出てきそうだ。
('A`)「ここはどこなんだよ……」
(´・ω・`)「……僕たちがしなきゃならないのは、時空管理者を探す事だ。
所有者に見つからずに、管理者を探さなくてはならない。
家主に見つからないようにハウスキーパーを探すんだ」
('A`)「……」
(´・ω・`)「僕の部屋から繋がる時空は、一見真っ白で何もない世界なんだよ。
でね、そこの所有者は渡辺さんっていう人。
人間って呼べるかはわからないけど、見た目は日本人の女性」
- 27: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:43:47.43 ID:RaBOMk590
- ショボンは急に思いついたとでも言いたげな口ぶりで、
ぼくに語りだす。
感極まっていたぼくは、それを怪訝な目で見返した。
その視線を気にする事もなく、道の真ん中に座り込むとショボンは続けた。
(´・ω・`)「僕がそこにお邪魔するたびに、いろいろな話を聞かせてくれる。
僕の知る時空の知識は、ほとんど彼女から教わったものなんだ」
いくら誰も居ないから、といえども
腰を下ろすのにいささか抵抗のあったぼくは、
仕方ない風を装いながら彼の横にしゃがみ込む。
ショボンが座っていて、ぼくは立っているという状況は、
なんだか見下しているみたいで、ぼくからして居心地が悪かったのだ。
('A`)「その話に意味はあるわけ?」
刺々しい物言いは華麗にスルーされた。
ぼくが掴んだせいで乱れた襟を正しながらショボンは尚も喋る。
(´・ω・`)「それでね、渡辺さんの空間を管理しているのが、長岡さん。
こっちは男性。聞いたところによると日仏ハーフらしいけど
冗談かもしれないね、だって時空を管理する人が地球人かなぁ」
- 29: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:45:29.52 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「その、長岡さんから、時空管理者の仕事を、いくつか聞いたことがある。
案外ややこしい話じゃなくって、
それは時空の掃除だとか、調整だとか、修理だとか。」
('A`)「ほんと管理してるってだけなのか」
(´・ω・`)「管理者がどこにいるかはわからない。
でも管理者は時空を管理する人なんだから、
壊れてる部分があったら修理しにくるでしょう」
それは、道理だ。
そもそも仕事が「管理」らしい その、見も知らぬ管理者たちは
一体どのような姿で、そしてどのように時空を掌握しているのか。
時空が何とかという割りに、今ぼくが踏みしめている場所が
元の世界に似通っている事だし、やはり人間の容姿で考えてよいのだろうか。
(´・ω・`)「僕は今、時空の綻びを探しているんだ。つまり、管理者が直しに来るような。
そういうのを探す程度の力は、どうやら持っているんだ。
だけど、時間がかかる。その分待つ覚悟も必要だ」
ぼくは『覚悟』という言葉を口の中で繰り返した。
なぜか、その単語が頭に引っかかっているような気がするのだ。
(´・ω・`)「同じ場所にいるよりも、当てはなくても、歩き回ってたほうが
綻びを見つけやすいんだ。僕の場合は」
- 31: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:47:22.35 ID:RaBOMk590
- そういえば、この男は『ちょっと幾つか変なことが出来るんだけど』なんて発言をしていた。
幾つか、ということはそれこそ魔法使いや超能力者みたいな力を持っているのだろうか?
マジシャンも真っ青の不思議な出来事が、彼の周りで起きるのだろうか?
ただ、ぼくにわかっているのは、時空の狭間に来る手順を知っているらしいことと
今しがた聞いたとおり、綻びを探せるらしいということ。
('A`)「あ、あの、ショボンはそのどんな、他にどんなことが出来るんだ?」
(´・ω・`)「どんなっていうのはない……かも。
その質問は数学が得意な人にどんな問題が解けるのか聞くのに似てる」
('A`)「は?」
(´・ω・`)「出された問題が、解けるかもしれないし解けないかもしれない。
僕に解けた問題が、たまたま他の人には解けなかった問題だってだけだから」
('A`)「意味わからん」
(´・ω・`)「……とにかく移動しながらのほうが、探しやすいから、
だからここまで歩いてきた、そういうこと」
('A`)「行く当てはないけど、目的はあったってことか……」
(´・ω・`)「大丈夫さ。だから、少し休憩したら、また歩いてみようよ」
- 32: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:49:42.60 ID:RaBOMk590
- ('A`)「……あぁ、そうしよう。突っかかって悪かったな、ごめん」
彼の考えも知らないで暴走した自分を恥じ、
ぼくは素直に謝った。
最初に意図を説明しなかったショボンもショボンだとは思うが。
从 ゚∀从「ヘェソウナンダー」
(´・ω・`)「……」
从 ゚∀从「……」
突然だった。
ショボンよりハスキーで、ぼくより高い声が、
誰もいなかったはずの隣から聴こえる。
視線だけでそちらを確認すると、あぁ……誰か、知らないやつがいる。
ぼくはそいつが人間のような見た目で、しかも透けていないことと、
ぼくたちが尋ねるまでニコニコ
――いやニヤニヤと座り続けて居そうなことを確認すると
仕方なく口を開く。
(;'A`)「あ……あの……どちらさまで?」
恐怖や気味の悪さもあったが、構ってほしそうなオーラに負けたのだ。
しかし、次の言葉を聞いて、それを後悔する。
从 ゚∀从「あぁ、ハインリッヒ高岡ってんだ。時空所有者だ、よろしくな」
- 35: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:52:50.00 ID:RaBOMk590
- ('A`)「しょ……ってことは家主?!」
(;´・ω・`)「どどどどどどうしよう」
(;'A`)「逃げろ!!」
ぼくはショボンの首根っこを掴むと踵を返した。
ぼくたちの立場は泥棒だ。
そして目の前の銀髪の輩は、この時空の所有者だという。
時空に警察がいるのかはわからないが、
丁重に扱ってもらえるはずがないことは、ショボンから聞く限りは確かな事で、
だからぼくはショボンを引きずりながら走り出す。
从#゚∀从「おい!なんで逃げる!!」
ぼくは生憎、早く走る足も持たないしショボンを抱えていく力もない。
だからショボンに移動を拒まれただけで、
逃げる決意という小さな勇気を、無駄にしてしまった。
(#'A`)「なんで走らない!追いつかれただろ!」
(#´・ω・`)「どうして逃げるの!余計な事するなよ!」
从#゚∀从「自己紹介もなしに退散とは結構なご挨拶で!」
- 38: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:55:04.29 ID:RaBOMk590
- ぼくたちのすぐ後ろでハインリッヒが怒鳴っている。
もうお終いだ。
ハインリッヒの声は荒々しくて、ただ事じゃなく怒っているような気がする。
そりゃそうか、不法侵入者が見つかったのだし。
(#´・ω・`)「僕たちがここにいるのは不可抗力だって説明すれば良い!
逃げたらやましいことがあるみたいでしょ!」
(#'A`)「だって!意図的じゃないにしても裏口から入っちゃったんだろ?!
じゃあ怒られるに決まってるだろ!誰だって怒られたくないだろうが!」
一緒にいるのがショボンじゃなくて内藤なら……
あれこれ言い合うより先に逃げているはずだ。
あいつの逃げ足の速さはガチ。
('A`)「あぁ……もう駄目だ」
从 ゚∀从「おい。喧嘩が終わったならこっち向いてもらおうか」
ぼくは嫌々ながら振り返った。
時空の所有者とかいうやつが 恐ろしい化け物とかじゃなく
見たところは普通の人間と変わらないということは
今のぼくにとって確実に救いになっている。
日本語も通じるようだし、突然に取って食うようなこともしないらしい。
- 39: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:58:30.28 ID:RaBOMk590
- ハインリッヒは、白衣を纏っており、男性とも女性ともわからない、
まさに言葉の通り中性的な顔立ちをしていた。
体躯もまた、小柄な男性とも、スタイルの良い女性ともとれるようなもので、
(まぁ女性だとしたら胸はまな板どころではなく、むしろ抉れているが)
しかし、そもそも『人間』とは違うのかもしれないから
こんな考えも無駄なのだろう。
从 ゚∀从「てめーら逃げたから罪が重くなったぜ」
('A`)「あ……」
隣でショボンが「だから言っただろ」という顔をしている。
ああして逃げ出してしまったのは半ば反射的な行為だった。
浅はかな考えで逃げた事は謝るべきだろうが、
ぼくという人間の本質の部分が、
あんな瞬間に表れるんだろうなと思うと複雑だ。
从 ゚∀从「お前らに許可出した覚えないぞ。どっから入ったんだ?また欠陥か?
ったくペニサスの奴ちゃんと点検してんのかよ」
欠陥、ペニサス、点検、というワードを聞いて、
そのペニサスさんというのが
本来会うべきだった「時空管理者」なのだろうか、と考える。
どんなやつだか知らないが、そいつに会えば今よりマシな状況だったのかもしれない。
- 40: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 19:59:33.30 ID:RaBOMk590
- (´・ω・`)「僕たち、帰りたいんです。偶然にここにきてしまって」
从 ゚∀从「偶然だとしてもな、勝手に入られたら困るわけだ」
('A`)「……おれたちどうなるんすか」
从 ゚∀从「どうするかねぇ」
くっくっと声を押し殺しながら、ハインリッヒは笑った。
从 ゚∀从「どっから来たんだ。誰の空間から来た?」
('A`)「だれ……の?」
(´・ω・`)「僕たちのいた世界も、誰かの所有物で、誰かの管理下にあったってこと?」
从 ゚∀从「……はぁ?てめーら何もしらねぇのかよ」
ハインリッヒの呆れとも、驚きともとれる声色に
ぼくはまるで世間の常識を知らない子供になった気分だった。
まったく理解できていないぼくに比べて、
同じ立場でも自分なりに考察しているショボンは随分優秀に思える。
('A`)「サーセン」
- 46: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 20:01:31.58 ID:RaBOMk590
- 从 ゚∀从「ここが異空間だってのはわかってんのか?」
(´・ω・`)「それは……あ、そうだ、あの、渡辺さんってご存知で?」
从 ゚∀从「あぁ、知ってるけど、あいつの空間とここは繋がってないだろ」
(´・ω・`)「……なぜ?どういう意味ですか」
从 ゚∀从「あそこにはジョルジュがいるからな。いけすかねぇ」
眉を顰めながら言うその顔は、心底嫌がっているというよりは
面白半分という無邪気さが垣間見えた。
从 ゚∀从「ああとにかく、どこからきた?嘘吐くなよ」
(´・ω・`)「いえ。嘘とかじゃあなくて、
空間の所有者というと、渡辺さんしか知らないのです。
僕は、自分の部屋と彼女の場所が繋がっていると知り、
何度かお邪魔したことがある程度です。
こいつは、今回始めてこういった経験を」
ぼくの頭を叩きながらショボンが言う。
聞きようによっては、ぼくを庇っているような気がしないでもなく
これから先は、こいつの思惑を無下にするような行動は慎もうと密かに思わされた。
- 49: ◆Y0BMUrTaXI :2008/02/05(火) 20:02:58.85 ID:RaBOMk590
- ハインリッヒは、前髪を指で弄りながら言う。
从 ゚∀从「立場はわかってんのか?やっちゃならないことしたんだよおまえらは」
('A`)「……それはわかります。でもわざとじゃないんです」
(´・ω・`)「ごめんなさい」
从 ゚∀从「……なんだよ。こっちが悪い事してるみてぇじゃん」
ぼくたちが申し訳なさ気に頭を下げると
意地悪く笑っていたハインリッヒの口元が、一文字に結ばれる。
根は悪い人じゃないんだろう、あと一押しで何とかなりそうな気がした。
('A`)「帰りたいんです。お願いです」
从 ゚∀从「……そうだなぁあ。帰してやってもいいけどさぁ。
ただとは言えないぜ……誰んとこ帰せばいいかもわからねぇし
ある程度の苦労は覚悟してもらおうか」
覚悟。
また覚悟か。やはりその言葉は、ぼくの頭にくっついて離れない。
――つづく
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