(^o^)ノ<じぇんとるまーん

4: 名無しさん :01/29(火) 22:59 T6TGCdYZO

 
 
第一話 [世界]
 
 
雲一つ無い快晴。
太陽により、アスファルトが熱せられ、先に見える道路の表面がゆらゆらと揺れる陽炎を作る。
しかし、太陽は真上に昇りきっておらず、気温もまだ上がるだろう。
蝉の鳴き声が響き渡り、まだ昼前だというのに、小学生くらいの少年達が走っている。
そして、その横を中学生くらいの少女が歩いて通り過ぎる。
今は夏休みに入り、大半の学生が休みの喜びに浸っている季節だろうか。
 
ξ(゚、゚*ξ「……」
 
中学生くらいの少女が古い建物の前に立ち止まり、何かを決心したかのように頷いた。
そして、神妙な面持ちで中へと入って行った。



5: 名無しさん :01/29(火) 23:01 T6TGCdYZO

 
大通りの商店街から小道に入ると、閑散とした広い通りに出られる。
その通りは車があまり通らないために、小さな子供達の遊び場となっていた。
通りの小脇には、一昔前に戻ったかのように思える古本屋があった。
 
古ぼけた店内は小さなコンビニほどの広さ。
店内には、人が一人通ることが出来るであろう限界の幅で本棚が置かれていた。
 
本棚には沢山の古書。
大半は小説だが、調理書や軍記物、一昔前の遊戯解説書、女性を口説く本等もある。
 
古本屋独特の埃と古い紙の匂いが漂い、暗い雰囲気を醸し出している。
だが、店内は外の熱気とは程遠い冷気で満たされていた。
 
古ぼけた古本屋には全く似合わないエアコンが、冷気の風を出し続けている。
そんな店内には一人の青年がレジの椅子に腰掛け、学校で出されたのであろう課題を解いていた。



6: 名無しさん :01/29(火) 23:03 T6TGCdYZO

('A`)「やべぇ……こんな事で人生の貴重な時間が消えていく」
 
歳は高校生くらいだろうか。
そんな事を呟きながら黙々とシャーペンを走らせる。
 
古本屋は祖父の趣味で家の裏に建てた。
基本的に接客等はしない為、来た客は勝手に入り、立ち読みし、気に入った本を買って行く。
 
常連もいるようで祖父と話しているのをよく見かけていた。
そして店の戸が開いた。
 
静かな店内に軋んだ音が響き、客の訪れを告げた。



7: 名無しさん :01/29(火) 23:04 T6TGCdYZO

 
('A`)「ん……?」
 
子供の気に入る本は全くと言っていいほど無い。
だから子供を見かけることは殆どと言っていいほど無かった。
 
自分も小遣いを渡され、祖父に任されなければ店番をしようとは思わなかった。
だから奇妙だったのだ。
 
中学生くらいの少女が中に入って来ることは、本当に珍しい。
 
('A`)(万引き……なわけ無いよなぁ)
 
本はお世辞にも面白いとは言い難く、むしろつまらない上に難しい為に近所の子供から敬遠されていた。



8: 名無しさん :01/29(火) 23:07 T6TGCdYZO

 
ζ(゚△゚*ζ「これで……」
 
少女が戸の前で屈み込み、何かを行った後、店内から直ぐさま出て行った。
青年は訝しげに少女が先程まで居た場所を探る。
 
何も見付からないので、諦めてレジに戻ろうと立ち上がる。
そして気付いた。
 
('A`)(色が、違う……?)
 
木造建築なので床も一緒に造ったため、同じように汚れているはずだった。
だが、少女が屈んでいた約一メートル四方の床が、周りより目立つ程に綺麗な色をしていた。



9: 名無しさん :01/29(火) 23:08 T6TGCdYZO

 
ずっと同じ場所を見ていたので気付かなかった。
入念に調べると、周りの床と色違いの床とでは手触りが違う事に気付く。
 
('A`)(お、めくれる)
 
シールを剥がすように、色違いの床が剥がれていく。
すると、表れたのは他の床と同じ色をした床。
 
期待して損をしたとばかりに踵を返した。
レジへ戻ろうとし、気が緩んだ刹那、背後が光ったかに思え、焦げ臭さが広がる。
 
何事かと振り返った。
 
('A`)(なんだ……これ)
 
床には黒い、人の目のような焦げ目がついていた。
毎日とまではいかないが、時々店に顔を出す彼にとっても見たことが無かった。
 
そして、目の前の戸が小気味よく叩かれた。
そして、戸が開く。
その音は不意の来訪者を告げていた。



10: 名無しさん :01/29(火) 23:10 T6TGCdYZO

 
(・(エ)・)「失礼」
 
小柄な男が、店内へと入ってきた。
漆黒のスーツと革靴に身を包んでいる。
そして、男が微笑み、口を開いた。
 
(・(エ)・)「突然連絡も無く訪ねてすみません」
 
微笑みと物腰の柔らかさから伝わる柔和な雰囲気。
最初は幾分か警戒していた青年は、肩の荷が降りた気分だった。
 
('A`)「いえ、気にしないで下さい えっと……用事はなんですか? 祖父に用件があるなら今は留守にしているので後で伝えておきますが」
 
たが、訪ねて来た男はとても奇妙だった。
 
(・(エ)・)「私が用があるのはあなたです」
 
男は表の、しかも昼前とはいえ夏の太陽の下にいた。
それなのに、汗一つかいていなかった。



11: 名無しさん :01/29(火) 23:11 T6TGCdYZO

 
('A`)「……えっと、用とは?」
 
男の奇妙さに、呆気にとられていた青年は対応が少し遅れてしまった。
 
(・(エ)・)「簡単なことです」
 
男は微笑みながらこちらです、と一言付け加え、一つの黒い小箱を渡した。
黒い小箱は片手でも容易に持てるが、バランスを保つために両手で支えた。
あまり重くは無い、とはいえ中身が無いかのように軽いとは言えなかった。
 
('A`)「これは……?」
 
黒い小箱に視線を浴びせながら男へと質問した。
黒い小箱は外から来た男に渡された物のはずだが、なぜかひんやりとしていた。
 
(・(エ)・)「ゲーム、ですよ」
 
言葉を区切り、男が意味ありげに言った。
 
('A`)「ゲーム?」
 
黒い小箱に入っているのがゲームだと聞かされ、拍子抜けしたように聞き返した。



12: 名無しさん :01/29(火) 23:12 T6TGCdYZO

 
(・(エ)・)「ええ、ネットゲーム、ですけどね」
 
('A`)「それがなんでまた俺なんかに」
 
(・(エ)・)「テスターに選ばれたんです、このTHE WORLDのテストプレーヤーに」
 
普通の人間には特に意味も無い一言だったのかもしれない。
しかし、青年には不思議と耳に残り、小箱の重さが手に馴染むように心地よかった。
 
(・(エ)・)「では、私はこれで」
 
男は軽く頭を下げ、去って行った。
暑い日差しが、まだ気温が上がる事を示しているようだった。



13: 名無しさん :01/29(火) 23:14 T6TGCdYZO

 
('A`)「さて、と……どうしようか」
 
男が去って行き、すぐに自室のパソコンの前に腰かけていた。
机の上には黒い小箱。
開けることを躊躇っていた。
 
('A`)「……」
 
躊躇ってはいたが、自分の好奇心には勝てなかったらしい。
ごそごそと音を起てて黒い包装紙を丁寧に破る。
中にはやはり黒い小箱が入っていた。
 
('A`)「真っ黒だな」
 
意味も無く呟き、黒い小箱を開ける。
コントローラーと眼鏡を大きくし、フレームがレンズを覆い隠したようなサングラス型の機械が気泡緩衝材に包まれていた。
サングラス型の機械にはコードが幾つも伸びており、M2Dと書かれていた。
 
('A`)「他には、と」
 
小箱の中身を音を起てながら探る。
コントローラー、M2D、小さな白い冊子、そして『THE WORLD』と白い文字で書きなぐられた黒いディスクケース。
ケースの中には真っ白のディスク。



14: 名無しさん :01/29(火) 23:16 T6TGCdYZO

 
('A`)「……」
 
冊子を開くと、見開きに「ようこそ、THE WORLDへ」と真ん中に小さく書かれていた。
ページをめくり、読み進める。
 
「ようこそ、THE WORLDへ」
 
「あなたは世界の一員となり、世界に生き続ける事が目的であり、それが全てです」
 
「神の逆鱗は世界の怒りです」
 
「あなたに世界のご加護がありますように」
 
('A`)「……説明は無し、と まぁゲーム中に説明があるだろうからいいか ……ん?」
 
一枚の黒い紙が冊子から落ちる。
紙が落ちた音は消えるように小さかったが、青年のみしかいない部屋に大きく響いた。



15: 名無しさん :01/29(火) 23:18 T6TGCdYZO

 
('A`)「えっと……」
 
黒い紙には白い文字で「姫君を見つける事が君が帰る唯一の方法、そして唯一の抗う手立て」と書かれていた。
 
('A`)「わけわからん とりあえず好奇心には勝てないからゲームするか」
 
一言呟き、ゲームパッドとM2Dを繋ぎ、パソコンを起動させた。
不思議なことにパソコンは起動画面すら表れず、ソフトを入れてM2Dをかけて下さいと表示されているだけ。
疑問を抱きながら、白いディスクを入れ、M2Dをかける。
黒い画面の中心に白い空欄が表れ、名前の入力を求められた。



16: 名無しさん :01/29(火) 23:19 T6TGCdYZO

 
('A`)「名前……? そうだなぁ……」
 
「ドクヲ」
白い空欄に三文字の黒い線。
それが何か特別なものに感じられた。
 
エンターを押す。
画面が暗転する。
 
暗いままかと思われたが、水面に石を投げ入れたような波紋が広がり、目の前が真っ白になった。
M2Dはどうやらディスプレイらしい。
 
そんな事を考えていると、ノイズが聞こえてきた。
ノイズは徐々に大きくなり、脳を直接揺らしているのではないだろうかと錯覚するほどの頭痛。
 
(; A )「あぁぁぁぁ!!!」
 
あまりの痛みに思わず叫んでいた。
だが、痛みは和らがず更に強くなる。
そして突然、電源が落ちたかのように自分の声が聞こえなくなり、意識を手放した。



17: 名無しさん :01/29(火) 23:21 T6TGCdYZO

 
黒い空間。
闇だ。
その闇がうっすらと明るくなり、徐々に白を帯びる。
その白は赤く変わる。
そしてノイズ。
 
「大丈夫かお?」
 
雑音が頭に響く。
声をかけられたようだ。
誰に?
自分に?
 
「おーい?」
 
どうやら自分に声をかけているらしい。
頭痛がする。
雑音が響く。
 
返事をしなければ。
いや、その前に目を開けるとしよう。
明るくなる視界。
広がる世界。
自分を中心に植えられたのかと錯覚するほどの緑だった。
 
('A`)「これは、また凄いな」
 
自分が立っている真後ろには砂が無く、色を失った巨大な砂時計。
3mはあるだろうか。
そして砂時計を中心に草原、その先に森林が広がっていた。



18: 名無しさん :01/29(火) 23:23 T6TGCdYZO

 
( ^ω^)「目、覚めたかお?」
 
一瞬、頭が割れるほど雑音が響いた。
笑顔の男が隣に立っていた。
 
('A`)「えっと、あんたは……?」
 
痛む頭を摩る。
 
( ^ω^)「僕はブーンだお よろしく、ドクヲ」
 
('A`)「あぁ、よろしくな」
 
話していると安心する、ブーンはそんな雰囲気を纏っている男だった。
雑音が、消えた。
 
('A`)「ん? 名前をどうして……」
 
ここがゲームだということを思い出し、言葉を飲み込んだ。
 
( ^ω^)「お?」
 
自分の体を笑顔の男に向ける。
【ブーン】と名前が表示された。



19: 名無しさん :01/29(火) 23:25 T6TGCdYZO

 
(*'A`)「凄ぇ!! これがゲームだって!? 有り得ないが有り得てる 凄ぇ!!」
 
(;^ω^)「おーい?」
 
ドクヲが駆け回るのをブーンが眺めている。
ブーンの表情は少し困っていたが、嬉しそうでもあった。
 
(*'A`)「草の手触りも、指先の細かな動きも、スムーズな動きも、グラフィックスも、風の心地も、植物の香りも……え?」
 
興奮していたドクヲが立ち止まる。
表情は徐々に変わっていく。
そして口を開いた。
 
('A`)「なぁ、ブーン?」
 
( ^ω^)「なんだお?」
 
('A`)「お前、何時ここに来た? 何時からいたんだ?」
 
( ^ω^)「僕がここに来てすぐに君が倒れたまま現れたから5分くらいかお」



20: 名無しさん :01/29(火) 23:26 T6TGCdYZO

 
ドクヲが俯き、口を閉じた。
突然、風が吹き、草が揺れ、木が騒ぐ。
そしてブーンを真っすぐに見据え、口を開いた。
 
(;'A`)「俺は、おまえは、どこだ?」
 
風が止んだ。
 
( ^ω^)「何を言ってるんだお? 僕達はここにいるじゃないかお」
 
(;'A`)「違う!! コントローラーを、ゲームを見てる、ゲームをやっている、現実の俺とお前だ!! 一体どこにいるんだ!?」
 
(;^ω^)「……あれ?」
 
ブーンが一回りする。
表情が曇った。
 
(;'A`)「本物の俺は……どこに居るんだ……!!」
 
ドクヲの叫びが、木魂し、消えた。
一陣の風がドクヲとブーンの髪の毛を撫でる。
ドクヲは空を見上げた。
彼の目には雲一つ無い青空が、綺麗でとても儚いように思えた。
 
 
 
 
 
     第一話 終



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