( ^ω^)はネクロマンサーのようです

1: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 21:54:11.25 ID:ZfUoVmtg0
白い髭を胸の位置まで蓄えた老人は、過ぎ去って行くその日々を、後の魔法の使い手の為に使っている。
時間というのは有限である事物の代表的なものであり、時の流れを知るものは、皆それを大切にしたのである。
この老人もそうであり、広がった樹海の先。魔力によって隠された小さな家屋に学の扉を開き、知識を受け継いでいた。

老いた男の名前はスカルチノフ。
齢二百と少し。有限の時を満喫している。
過ぎ行く月日をかみ締めている。

/ ,' 3「……外の世界は、相変わらず忙しく、慌しい。表の者共は今もその手に剣を握り、鉄の筒を構え……。
    その欲を満足させるために戦っておる。無限、無尽蔵のものを欲して延々と戦う。これは、どれだけ愚かな事か」

その"師匠"の問いに答えるのは、まだまだ駆け出しの魔術師。
金髪の長く伸びた髪を、後ろで括っている女。魔術師の正装である、魔羊の黒毛糸で作られたローブを身に纏い、首には飾り物を垂らす。

椅子に腰掛けながら、まるで家族のように接していた。
この学の扉で、日々励んでいる魔術師の卵は二人いる。その内の一人は、食料などの買い付けに街へと出ているようであるが……。



2: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 21:56:23.10 ID:ZfUoVmtg0
('、`*川 「それでも師匠。今は人間の戦いに、秘密裏に我々魔術師が参加しているだとか……。
      時代は変わってきているみたいですよ。色々と、ゆっくりですけど」

/ ,' 3「……それが一番愚かなのじゃ。有限と無限の区別がついているはずの魔術師血族であるからこそ、
    このような無益な戦いに参加しないのが至極当たり前の事だというのに。そして、それはお主が言う昔からなどでは無い。
    遥か遥か昔から、そういう事に首を突っ込む、愚かな魔術師が現れては消え、現れては消え……。結局何も学んでおらんのかもしれん」

('、`*川 「そうだったんですか。初耳です」

パタリと音を立てて、老人は分厚い書物を閉じた。
少し古かったものなのか、埃を立てて、それが煙たかったのか少し咳き込む。

窓の外を眺める。
今宵も、樹海が遮る歪な月は、者達に魔力を与えるのだ。
夜に人は眠る。夜こそが、人、魔術師共に安息を与える時間。



4: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 21:57:44.37 ID:ZfUoVmtg0
/ ,' 3「それでは、今宵も魔術の修練を始める。ペニサス、先月言ったとおり、詠唱文字配列の簡略化に励みなさい」
('、`*川 「はい。それでは庭へ出てきます」

/ ,' 3「それと……」
('、`*川 「……?なんでしょうか?」

/ ,' 3「今日の下着の色は何色かの」
('、`*川 「師匠。今画期的な詠唱法を思いつきました。どうせなので、今師匠との壁を乗り越えるべく、
      撃たせていただこうと思うのですが、どうしましょうか?すごく痛いと思いますが、どうでしょうか?」

/ ,' 3「……すまんかった」


それは、まだ魔法が存在し、裏側を制していた時代。
世の中は、少しの陽気と、少しの蟠りが作っていて、多くの人間。そして、人間では無い少しの数の人間が暮らしていた時代。
少し覗けば、剣や槍、魔法や魔物が見える。びっくり箱のようなその世界。

そして、無限と有限が渦巻く世界。



6: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 21:59:48.06 ID:ZfUoVmtg0
('、`*川 「……えぇい!!!」

ペニサスの左腕に備えられた腕輪が輝きを放ち、真っ直ぐ前を向けた手のひらに力が集まる。
すると、少しの反動と同じくして、その手のひらから少し離れた箇所から雷鳴が轟いた。
その間およそ二秒。見習いにしては、初級魔法にかかる詠唱、威力と共に十分なものであった。

/ ,' 3「……よし。その威力、速度を保ったまま、あの"魔吸の木"に向けて全力で何発撃てるか試してみなさい」
('、`*川 「はい!!えやぁあ!!」

一発、二発……四発。
次々と手から雷鳴が放たれ、魔吸の木に吸い込まれていく。
魔法を唱えている本人にはよくわかることであるが、魔力というのは各々の体の奥底。

人間とは少し違う、魔術師達の体には魔力を溜め込む仮想タンクのようなものがあり、普通の魔術師はそこから魔力を汲み取って力に変えるのだ。
そしてペニサスが身に着けたこの腕輪であるが、これはまだ身体への魔力供給がうまくいかない場合の魔術師見習い達の為に魔具師と呼ばれる者達が造り上げた物。
色々と種類があるのだが、魔術師体内にある仮想タンクに呼びかけ、魔力循環を活発化させる。



9: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:02:09.98 ID:ZfUoVmtg0
そして、撃ちつづける事のべ30数発。
放った雷鳴が逸れてしまい、樹海の中に飛び込んでしまったのである。
そして間も無く聞こえる……。

『あお゛ぉ〜ッ!!!!!!』

('、`*;川 「……え!?」
/ ,' 3「な、何が起こったんじゃ!?下着の色を教えなさい!!!」

もう一つ聞こえる声。

/ 3「あ゛ぉお〜ッ!!!」
('、`*#川 「死……ああっ、エロジジイじゃなくて師匠!すいません、つい……!!」

/ 3「い、いいんじゃ……。向こうで声が聞こえた…、もしかすると人間かもしれん。早く見てきなさい」
('、`*川 「わ、わかりました」

少し考えればその時にわかっていた事であったのだが、このような樹林に足を踏み入れるような人間は、人間では無い。
まあ、それもすぐにわかるものなのだが。



11: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:03:34.18 ID:ZfUoVmtg0
地面を走った後の、焦げた雷の痕跡を目に入れながら『あお゛ぉ〜ッ!!!!!!』と聞こえた場所へと駆けていく。
するとそこには男が一人。少し小太りで、外見は若めのそれが、尻を突き出して気を失っていたのである。
ペニサスは不審がりながらも、その男に声をかけてみることにした。

('、`*川 「あ、あの……大丈夫ですか?」
(  ω )「……」

お世辞にも、その男が綺麗な身なりをしているとでも、お金持ちだとも見えなかった。
ただ、そこいらに散らばっている持ち物であろう薬品と、大きく、少し茶こけた棺おけのような大きな入れ物から見て、
普通の人間で無い事だけはわかった。どうやら、ここに紛れ込んでしまったらしい。

経験の無いものが樹海に足を踏み入れて出られるものはいないのだが、
ここにたどり着けたのは運がいいというか、雷をくらって失神してしまっているのでどっちにしろ運が悪いというか、複雑なものであった。



12: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:06:20.41 ID:ZfUoVmtg0
体をゆすってみるも、男は目を覚まさない。
もう一度雷を、何か腹立たしいこの尻に蹴りをぶち当てようとも思ったが、さすがにあれだけ撃ったのだ。
身体が疲れきってしまっていた。ふぅ、と一つため息を漏らすと、ペニサスはとりあえずスカルチノフを呼びにいく事を決める。

――――

('、`*川 「師匠。やっぱり魔法を当ててしまったみたいで……。男の人が一人、失神してしまっています」
/ ,' 3「なんと……。ではわしが運んで、目を覚ますまでここで手当てするしかあるまい」

('、`*川 「でも師匠……。今日は月が……」
/ ,' 3「そのようなものどうとでもなるわい。さあ、場所を教えんか」
('、`*川 「は、はい」

そして、杖と魔導書を持ったスカルチノフを連れたペニサスが、先ほど男が倒れていた場所へ行くも、そこには誰も、何も無かった。
最初から幻惑だった事は無い。なぜなら、月に照らされた地面の草に、人が倒れていた痕跡があった。

周りを見渡すペニサス。



14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:07:51.98 ID:ZfUoVmtg0
('、`*川 「あれ……?いたはずなんですよ。確かにここに」
/ ,' 3「どういうことじゃ?あのレベルとはいえ雷鳴を直撃したら無事ではすまぬはず……」

すると、足元からひっそりとささやく様な声が聞こえ出した。
何を言っているかはわからない。ただ、穏やかな様子では無かった。
ペニサスとスカルチノフが周りをもう一度見渡すも、そこには何も無いし、誰もいない。
空には月と雲があるだけ、地面には鬱蒼と生い茂った植物と骨……。

('、`*;川 「……骨?」
/ ,' 3「……骨、じゃな。ペニサス、この年で人を……」

('、`*#川 「するわけ無いじゃないですか!!さっき見たときは福与かな体つきの男の人でしたよ!!」

ペニサスが気味悪がってその場を離れる。
骨は古いもので、風化しかかっていたのか骨に厚みは感じられず、皹も入っており、ここに埋まっていたものでは無いかと考えた。
それがなぜ、今この場に現れてきたのかは謎である。

('、`*川 「でも、どこへ……?」
/ ,' 3「……ペニサス」

('、`*川 「は、はいなんですか?」



16: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:09:44.26 ID:ZfUoVmtg0
スカルチノフが下を指差し、一言『伏せなさい』と言った。
何だかよくわからない内に、ペニサスが足を曲げ、少しだけ体を伏せたその瞬間。

頭上すぐを、錆付いた鎌が薙いだのだ。

('、`*;川 「!!!???」
/ ,' 3「――どうやら向こうは敵とおもっとるらしい。離れておるんじゃ」

大きく、少しさび付いた鎌を肩に担いでいたのは、同じく、さび付いた軽装の鎧を身に着けた男。
月夜のせいで、色付きなどはよくわからなかったが、不敵に笑うその歯は白く、光り輝いていた。

動物達の鳴き声も止み、死者の笑い声が周りに響きだす。
一瞬、雲間に隠れそうになった月夜の光が照らしたのは、先ほど地面に転がっていた骸骨の顔。
何かが掘り返させられた、こんもりと膨らんだ茶色い土。

そう、ここは樹海。
死を欲する者、そして死を拒む者が一同に解している場所なのだ。

魔力の源泉ともなるこの樹海に、死者が存在していないわけが無い。
死者の生きていた頃の思い出、肉体のエネルギーこそが、魔力へと変換されるべき事項なのであるから。
ここまで来て、今ペニサスの首を狙った者が、ネクロマンサーだとわかる。
死者、呪術を使うとされる、この地方では余り存在しない類の魔法使い。



19: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:11:22.74 ID:ZfUoVmtg0
/ ,' 3「その鎌をおさめなさい。お主らを狙って撃った訳ではないのじゃ」

鎌を抱えた男は何も喋らない。
少し間を置いて、男がもう一人、奥の樹林からでてきたのだ。
ペニサスは『あっ』と声を出す。

そう、さきほど倒れていた男と同じだった。
おそらく、雷鳴を喰らった後、ペニサスが確認しにきた時に気絶したフリをしていたのであろう。
ひょこひょこと、こちらへと近づいてくる変な男であった。

(;^ω^)「……本当かお?」
/ ,' 3「お主が、こいつを操っておるネクロマンサーか?」
('、`*#川 「ちょっとアナタねぇ!!いきなり私を殺そうとした訳!?ガミガミガミガミ!!」

/ ,' 3「驚いたわい。いきなり鎌を持った男が背後にいたからのう……」

そう言って、スカルチノフは鎌男に近づき、鎧部分をポンと叩いた。



21: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:12:41.29 ID:ZfUoVmtg0







( ^ω^)「……それ、僕の作ったスケルトンじゃ無いお」








25: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:14:27.54 ID:ZfUoVmtg0
/ ,' 3「ま、また冗談を言いおって……。じじいびっくり。そうじゃ、じじいびっくりじゃ」
('、`*;川 「し、師匠はとりあえず離れましょう、ね?ね?」

/ ,' 3「そうじゃな……。じじい離れる。そうじゃな。じじい離れるじゃ」
『グオォォォォォオオオオォォ!!!!』

/ ,' 3「じ、じじいびっくりぃぃ!!!」
('、`*川 「師匠!!!」

鎌男がその手にもつ鎌をスカルチノフに向けて振り下ろす。
すかさずスカルチノフは、魔導書を開き、杖を振りかざと詠唱を始めた。

/ ,' 3「ううむ!驚きはしたが唱えさせる時間を与えるのが下級魔である証拠よ。
    ――炎よ。遮る者を炎縛せよ!!その身を焦がせ!!」

詠唱と共に、渦を巻いた炎が鎌男の鎌をぐるぐると縛り上げ、その場で炎上を巻き起こす。
悲鳴をあげる鎌男に畳み込むように、老人は先ほどとはうってかわって目を輝かせ、なびくローブがその力を象徴していた。
次々と濃い赤色をした炎が、その鎧に叩き込まれていく。一撃一撃が命中する度に、声にならない声をあげる。



28: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:16:30.63 ID:ZfUoVmtg0
/ ,' 3「先ほどは遅れをとったが、腐っても、年老いてもわしは樹海の大魔導スカルチノフじゃ!!」
('、`*川 「でも……決定打になってない……!!やっぱり、師匠さ……」
/ ,' 3「黙っておれ!!ふぅん!!」

炎が、龍の形を模してその空間に現れる。
その場に倒れこんでいる鎌男へと首を向け、きりもむようにして胴体まで炎で形成していく。
スカルチノフは、杖の先をふりながら、器用に炎龍を造り上げていった。
まるで、粘土をこねるかのように、何か大きな手にこねくり回されているかのようにだ。

今夜は――少し肌寒い。
だが、その炎の熱さ故か、はたまた、魔力の消費しすぎなのであろうか。
ペニサスは、スカルチノフの額に一筋の汗が流れるのを見た。
そして、謎の男もそのままその場所に突っ立っていて、動こうとも、逃げようとする気配も見受けられなかった。

( ^ω^)「……」
('、`*川 「ち、ちょっとあなた!!師匠は今……今は」

( ^ω^)「知っているお。この人には今、魔力を感じられないお」
/ ,' 3「……っ」
('、`*;川 「なっ、なら助けてよ!!私はさっき全部使い果たしちゃって……、あなたしか頼れる人が今いないの!!」

男は首をかしげるような仕草をとる。
どうしようか?そう言わんばかりの純粋な迷いの顔であった。
別に、自分達の足元を見ているような様子でも無いし、力が無い、といった訳でも無かった。



29: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:17:38.53 ID:ZfUoVmtg0
(;^ω^)「さっき雷がお尻に当たって集中できないんだお……ヒリヒリするお」
('、`*;川 「あああ謝るから!!!謝るから集中して!!!お願い!!」

/ ,' 3「くっ……。やはり、もう……」

炎の龍が、徐々にその姿を消していく。
魔力が足りなかったのであろうか、中抜けた魔力が空中に飛散してしまったのか。
そして、それと同時に鎌男の炎縛も解ける。中身の無い魔法を当てても、さほどダメージにはならないのだ。
スカルチノフが片膝を、その少し外気によって冷えた雑草につける。杖を地面に立てて、すがるようにしてその場に座り込んでしまった。

溶けそうな色をした月。
広がりを知らない、空。

それを男は見上げ、見下ろしていた。
そして、抱えるようにして持っていた棺桶を、地面にズンと立てる。
先ほど見た時とは少し違った印象。鉄のような重い質感を持ったそれが、今少し輝いたように感じられたのだ。
月の光に照らされて見えるのは、何重にも巻かれた太い鎖。
そして、真ん中に記された意味不明、解読できそうにない文字である。



30: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:20:07.24 ID:ZfUoVmtg0
('、`*;川 「……お願い」
( ^ω^)「今日はいい月だお」

ふと下を見る。
すると、何かもやのようなものが、地面から集められるかのようにして棺桶へと集まっていくのだ。
『ヒッ』と少し声をあげるペニサス。魔法は信じるが、こういう霊的なものは余り信じたくないという。
そのような矛盾はいいのであるが、驚いている間に、鎌男の縛りは解け、もう一度、その鎌を振り下ろさんとする。

『グォォオオォォオオ!!!!』

息の荒いスカルチノフをかばう様に、その場で抱きしめるペニサス。
男は、鎌男の背後でニヤリと微笑んだ。


――ここは美しく燃える森。


死者が行き場を失った、悲しき、大きな墓場。
命が燃え落ちた、最後の受け皿なのだ。



33: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:21:41.07 ID:ZfUoVmtg0
( ^ω^)「やっぱりイキがいいお。三日分くらいすぐに集まったお」

呪文を一つ、静かに唱える。
死を扱い死に没頭する者、ネクロマンサー。
鎖をゆるりと解き、その封印を解こう。

さあ、出ておいで。


( ^ω^)「ドクオ。やっちまうお!!」

ズシン。
ズシン……。

音を立てて、一本。また一本と鎖が地面に落ちていく。
接合面を見る限り、魔法による金属接合であろう。呪文を唱えれば、術者の意思が継続する限りその拘束を解放する。
一種の緊縛魔法。傀儡師などがよく使う、基本といえば、基本である。
そしてその基本である呪縛を解けていく。
蓋が開くと、男が一人その中にいた。


('A`)「……いや、まあがんばるけどさぁ」


間の抜けた、ゾンビ――。



( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第1話『樹海甦り教室』 終



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