( ^ω^)はネクロマンサーのようです

40: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:29:14.90 ID:ZfUoVmtg0
『樹海は、良き死の宝庫である』

これは誰が言った言葉であるのだろうかは知らない。
だが、すごく納得のいく一言である事は、死を扱う魔術師は皆わかっていた。

( ^ω^)「ドクオ。やっちまうお!!」

魔術師は陰気で、暗い世界を好んだ。
そこが樹海であろうと、貧民街であろうとだ。自己の存在である、魔法を身近に感じていたいから。
どれだけ強かろうと、心が満たされていないと魔法は使えない。孤独から生まれる魔法は、魔法などでは無いのだ。

『魔術師は夢を見る。人より綺麗な夢を見る』

これもまた、誰か名の無い魔術師が残していった言葉。
今や魔導書の隅に書いてある程、有名な言葉になってしまったのであるが、その言葉には、歪みが感じられない。
純粋な言葉である。



42: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:31:43.26 ID:ZfUoVmtg0
('A`)「今日は随分といい"毒気"じゃないか。俺と同じように死んで逝った奴らの力で溢れてるぞオイ」
( ^ω^)「ドクオが疲れたとか言うからわざわざここまで来てやったんだお。感謝するお」

('A`)「あったりメーだ。俺がいなきゃ何にも出来ない癖になに言ってやがんだ」
(#^ω^)「五月蝿いおブサイクの癖に!!ブサイクの癖に何口だけいっちょ前なんだお!!」
(#'A`)「や〜かましい!!豚の癖に何言ってやがんだ!!豚の癖に!!豚の癖に!!」

('、`*#川 「何喧嘩してるのよ!!早くコイツを……ってきゃあ!!!」

鎌男が、待っているのも飽きたのだろうか、スカルチノフを庇うペニサスのローブを掴んで持ち上げた。
まるで市場に売られている鳥のような体制になり、ジタバタと抵抗する。

左手で鎌を短めに持ち、ペニサスの首筋に宛がう。ドッと嫌な汗が身体中から噴出し、歯が震える。

(;^ω^)「そ、そうだった喧嘩している場合じゃないお!!ドクオ!!あの人を助けないといけないんだお!!」
('A`)「なんでよ?」

( ^ω^)「……。なんでだっけかお」
( 、 *;川 「た、助けて……」



44: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:34:04.91 ID:ZfUoVmtg0
その瞬間。
ドクオとブーンの目に、予期せぬ物が飛び込んできたのだ。
それは、ローブの隙間から覗く、二つに分かれる豊満なる丘。生の象徴。慈愛という名の身体の一部。名付けるならば母なる愛。
まだ発展途上であったが、類まれなる『乳』の才能を持っている、そう感じた。

ダメだ。ここでこのような母なる愛を持つものの命を絶やすわけにはいかない。

絶対にだ。
二人はしゃべりもせず、目も合わせることなく、動じる事も無く全て通じ合った。

('、`*川 「え?な、何何」
( ^ω^)「お嬢さん。そこを動かないでもらえますか」
('A`)「さあ信頼なる相棒。我輩に"2番"の魔器を――」

男は小汚い鞄から、両刃のついた小さな道具を取り出すと、そのゾンビに放り投げた。
軽く受け取ると、背後で男が詠唱を始める。
禍々しい魔法陣がゾンビの胸に広がり、その持ち手の両刃にまで達した瞬間、その道具が姿を変えた。

( ^ω^)「うぅん我輩絶好調である!!」
('A`)「ははは。それは二人が一心同体だと言うわけだね相棒。これでぶつ切りにしてあげましょうではないですか!!」
( ^ω^)「ははは。頼むよ君ィ」



45: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:36:47.60 ID:ZfUoVmtg0
( ^ω^)('A`)「ははは」

('、`*;川 「はははじゃ無いわよぉ!!!た、助けてもう首に冷たいの……え?」
('A`)「ははは」

ペニサスは驚愕した。
召喚魔法というのは、召喚された獣だったり過去の英雄だったりするのであるが、行動一つ一つ命令しなくてはいけないのだ。
レベルの高い、位の高い召喚師などは召喚獣と呼ばれるものと意思疎通していて一挙手一投足通じ合っている事がある、という話は聞いた事があった。
それでも高尚な者のみであって、滅多に人里に現れるような事が無い珍しい存在なのである。

それにも関わらず、目の前にいる福与かな不細工は笑いながら、何一つ命令をする事が無かった。
はははと笑っていたのだ。自分の首筋にあった、確かにあったあの鎌の冷たい感覚でさえ残ったままで、気づいた今さっき。
その鎌男の腕は地面に落ちていたのだ。もちろん鎌男もそれすらに気づいていなかった。
ペニサスを抱えながら、奇妙なうなり声をあげていたのである。今から食事をする、といった意気込みと共にだ。

('、`*川 「は……早い!?」
('A`)「ささおっぱげふんげふん……お嬢さん。お手を」

すっと、顔色の悪い。いや、ゾンビなので悪いのが当たり前なのだが。
礼儀正しく左手を差し出していた。右手には大きな鋏のようなもの。そこには切り裂いた腕から滴り落ちていた体液がベットリとついていた。

しかしその直後。ゾンビの身体が大きく吹き飛ばされる。
ゆるい弧を描き、木の幹に大きく鈍い音を立てて叩きつけられた。



49: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:38:43.36 ID:ZfUoVmtg0
( A )「……っふ」

ペニサスを乱雑に放り投げ、怒りに任せた鎌男はそのまま追撃に走る。
尻餅をついたペニサス。スカルチノフはゆっくりと立ち上がり、ペニサスの元へと向かった。
強力な右ストレートが、木にもたれ掛かるゾンビの身体にぶち当たる。背後の木までも巻き込んで、そのまま殴り飛ばした。

『ウォォオオォォオ!!!』

かすれた叫び声。
何かに渇きを覚えた、飢えた叫び。
ゾンビはなすすべも無くその場に突っ伏し、対照的に声一つあげない。
そのゾンビの窮地に、男は何も言おうとはしなかった。

( ^ω^)「……うーん」

何も言わない男に、ゾンビも何も言わない。
覆いかぶさられ、そのまま右腕のみで乱打、乱打を続ける。ズシンズシンと、一発毎に低い音が響き渡る。



50: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:41:02.47 ID:ZfUoVmtg0
/ ,' 3「……大丈夫かい。おっぱ……ペニサス」
('、`*川 「し、師匠。大丈夫です、尻餅ついただけですし……。それより……」

夜の樹海。普段なら草木のどよめきでさえその耳に聴く事の出来るこの環境なのに、今日は違うのだ。
スカルチノフは少しだけうれしそうな顔をしていた。

それが、今日起きたこれからの出来事。これからの出来事で、一番ペニサスの印象に残っていた。

('A`)「……っ。ぐぅ……」
( ^ω^)「もう少し待つお。ドクオ」

何を悠長な事を言っているのだろうか。
仲間が、たとえゾンビだとは言えやられているのに、一つも動じないなんて。何か欠けているとしか思えなかった。
ペニサスは、自分の中で魔力をこねてみる。

……まだいける。
まだ少しだけなら撃つ事が出来る。



52: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:43:15.97 ID:ZfUoVmtg0
('、`*川 「……っ」
/ ,' 3「止めておくんじゃペニサス。よく見てみなさい。あのゾンビを」
('、`*川 「え?」

チラリとゾンビに目をやる。
もう何発目なのだろうか?どれだけ打ち込まれたのかわからない程の右拳をくらわされているかわからないその状況。
よく見ると、地面に減り込んでいっている。鎌男もがむしゃらにただ拳を振るっているだけ。
そのボロボロの鎧がへこんでいて、原型も見受けられなくなってきていた。

('、`*;川「な、なおさらダメじゃないですか。ボコボコにされているじゃないですか」
/ ,' 3「あの男。抜けた顔をしているんじゃが、よくやるようじゃの」

('、`*川 「???」

ペニサスがよくわからない、といった意味合いの顔をしたその時、男が急に詠唱を始める。
時が来た、と言わんばかりの顔。口ぶり。自信が溢れたその姿。
ゾンビもそれに呼応する。ペニサスがその目を疑ったのは、そのゾンビが"呪文"を一緒になって唱えていたから――。



53: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:44:51.48 ID:ZfUoVmtg0
('A`)「これ、時間かかるのよ。終いにしよう」
『グ……ゴァ……!!!』

鎌男の身体の節々を、七色に輝く魔方陣が包み込んでいく。
氷が割れるような音と共に、封殺していくのだ。もちろん、身動き一つ取れてはいない。鎌男はその場で苦しみの声を放ち、
膝を地面につき、腕を魔方陣にへし折られる。スケルトンなので関節という概念は無いのだが。

その鎧が圧力によってグシャグシャにへこまされていく。
男はニヤけた顔で、指を鎌男に向けながら一歩一歩近づいていく。ゾンビの方は余裕綽々といった所か。
これにはさすがのスカルチノフも驚いた。
今まで、二百年も生きてきた中でこのような複合魔術は見た事が無かったからだ。

魔法の世界は広い。それは表の世界に存在する影の数だけあるといわれている。
それでも、知識ならスカルチノフは少なからずの自信があった。それでさえも、裏切ってしまう。
このネクロマンサー。何を考えているのか。どうしてここまで行き着いたのか。何を学んできたのか。
全てが謎に包まれている。

『ァ……グギ……!!』

徐々に、苦しみの声が断末魔に変わっていく。
動きを止める封殺呪文であるには間違いは無いが、余りにも強力。

('、`*川 「何よ……あれ!!」
/ ,' 3「……」



54: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:46:20.33 ID:ZfUoVmtg0
( ^ω^)「……ようし、捕まえたお」

男はそう言うと、苦しさで震えている鎌男の鎧。背中に人差し指と中指を押し当てる。
茶こけたローブの懐から羽ペンを取り出すと、その背中になにやら文字を書き始めた。

スラスラと、流れるように赤い文字で円形の列がつくられていく。
どうやらあれは呪詛の類のようだ。スカルチノフがボソリと言う。
瞬く間にその円形の文字列を書き終えると、一斉に節々を固めていた魔方陣が吹き飛ぶ。

……と同時に、鎌男はドロドロと溶け出し、最終的に小さな水滴になったのだ。
その色は深い緑色。毒のようにも見る事が出来た。男はその水滴を小瓶にすくうと、丁寧に栓をする。

( ^ω^)「オッケーだお。これでさっきのと合わせて1週間はいけるお」
('A`)「おっ。やるじゃん」

何事も無かったかのように会話を始める二人を見て、ペニサスが思わず声を張り上げた。

('、`*;川 「ち……ちょっと、あなた達は一体何者なのよ!!樹海に入って生きているわ、スケルトンは退治するわ、
      一週間がどうとか……。それに、ゾンビのあなたも魔法を唱えてたじゃない!?わ、ワケがわかんなくなってきた……」

聞きたい事が沢山あるが、それ以上に言いたい事もたくさんあった。
そして二人はペニサスの乳しか見ていなかった。
じじいもそうだった。



58: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:49:22.64 ID:ZfUoVmtg0
,' 3「(……類まれなる乳。あやつらもそれに気づくとはのう)お主らは一体……。
    ネクロマンサーが、なぜこのような所へ足を運んだのじゃ?」

( ^ω^)「なぜって……。ドクオのエネルギー補給に、森の動物達の"毒気"を分けてもらいに入ったら樹海だったんだお!」
('A`)「本当にお前はおっちょこちょいだなうふふ」
( ^ω^)「そんな事無いわうふふ」

('、`*川 「いやそういうわけじゃなくて……。まあいいわ。とりあえず感謝させて。
      私の名前はペニサス。助けてくれてありがとう。そして雷の事は忘れてね、うん忘れて」
/ ,' 3「わしの名はスカルチノフじゃ。ここ一体の樹海を取り仕切っておる魔術師じゃ」

二人が自己紹介をすると、男達もコホン、と息を一つついてから始めた。

( ^ω^)「僕の名前はブーンと言うんだお。南の地からやってきた魔術師だお。
       好きな食べ物は葫。嫌いな食べ物はカンカラネズミの燻製だお!!」

('A`)「俺の名前はドクオ。ゾンビだ!こいつの使い魔をやってる。
    ちょっと他のゾンビとはちょっと違うんだけどな。これも縁だよろしく頼む」

ペニサスはため息を一つついた。
何か、どれだけやってもどれだけ話しても通じていないような気がしていた。
これだけ変人な魔術師は、いくらこの世界を探しても5人もいないだろう。何か空しくなった。



59: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:51:16.35 ID:ZfUoVmtg0
('、`*川 「……はぁ」
/ ,' 3「お主ら、見たところ変わった魔法を使うようじゃ。興味がある。
    よければどうじゃ。今晩はうちで泊まっていくといい。深みの夜の樹海は危ない」

( ^ω^)「お。本当ですかお?これはラッキーだお!!
       ドクオやったお!久しぶりに天井があるお!!」

('A`)「ま、俺はいつも棺桶だから濡れたりしねーもん。
    生きてる人間涙目!!涙目!!ブヒヒ!!!」
( ^ω^)「深遠なる闇よ。鎖をその身に纏いし者の元へと還す――」

(;'A`)「ちょ……悪かった!!悪かったからあff;えけ;じょい、vvあ!!」

棺桶に無理やり押し込まれるドクオ。
ブーンはしてやったりという顔をしていた。

/ ,' 3「ま、まぁ戻ろうぞ。暖かい物でも口に含むとよいだろう」
('、`*;川 「ほ、本当に家に入れるんですか?」
/ ,' 3「言っちゃったし……」


('、`*;川 「……ツン、怒りそうですね」
( ^ω^)「コーシーは美味しいんだお!!楽しみだお!!」



63: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/05(水) 22:52:49.88 ID:ZfUoVmtg0
夜は寒い。
ただ、肌寒いというわけでは無く、どこか心がポッカリと開いてしまったような空虚感があるのだ。
考えれば考えるほど、心の隙間のようなものが広がる間隔があって、魔術師はそれを嫌う。

('、`*川 「それにしてもあなた、年はいくつなの?あとそれ重く無い?」
( ^ω^)「ブーンかお?ブーンは……えっと……多分20だお。
      ドクオはひょろっちぃ奴だお。軽々だお!!」

('、`*;川 「あ、あぁそうなの……はは」


21歳の乙女はこう思った。
何か、変な事に巻き込まれたのかも知れない。
それが当たりだと知るのはもうすぐだった。本当にすぐだった。

笑えないくらいすぐだった。


( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第2話『魔方陣黄泉送り教室』 終



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