( ^ω^)はネクロマンサーのようです

4: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:11:04.43 ID:8laWem7b0
男の名前はブーン。聞いた事が無い。
スカルチノフは不思議に思ったのだ。これほど変わった者であるならば、名前くらい聞いた事があるだろう、と。
名前を偽っているとも考えたが、この間の抜けた顔を見て、それは無いと考えた。

麦で作ったパンを一齧りすると、ブーンはたいそう大きな声を出してはしゃぐ。
『うまいお!うまいお!!』その声は深夜の樹海に響き渡った。
聞きたい事が沢山あったのだが、スカルチノフはその無邪気な顔を見て、何か思い出が蘇るかのような錯覚にも陥った。
少し掠れた音のレコードが流す田舎の音楽。あの頃の自分を愛してくれたあの人を思い出した。

/ ,' 3「――。そんなにこのパン、美味しいのかのう」
('、`*川 「えっ!美味しいじゃないですか!!訓練が終わった後に珈琲とパンを食べるとほんわかしちゃいますよ」

少し艶を持った白い色をしたカップを口に運び、一口分流しいれるとペニサスは、パンを黙々と食べるブーンをチラリと見る。
先ほど月夜の下で見たときより、照明のせいであるのだろうが更に若く見えた。

一つ年下であることは本人の口からわかった事なのであるが、それでも幼すぎるような気もする。
容姿はまあ放っておいていいのだろう。

言動がやはり子供臭い。変わり者だから?ネクロマンサーだから?
どちらにしろ興味がある魔術師なのには間違いは無かった。



6: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:13:01.25 ID:8laWem7b0
('、`*;川 「――まあ、今日は別ですけど……あんな事もありましたしぃ」
( ^ω^)「……お?」

/ ,' 3「そ、そろそろいいものかの。ブーンとやら、お主の使ったその魔法について、色々と教えてはくれんかの?」
( ^ω^)「……わかったお。助けて貰った恩もあるお……」

('、`*;川 「……ゴクリ」

(;^ω^)「とりあえず、もう一枚パンを頂けないでしょうかお……?」
('、`*;川 「……」

『パンが無ければ!ケーキを食べればいいじゃない!!!』
どこか心の奥から導き出された言葉は、胸から喉を伝い、震わせて音になる。ペニサスはそう、高らかに叫んだ。

ケーキは無かったのであるが。

/ ,' 3「わ、わしのを食べりゃええ!!」
( ^ω^)「すみませんお!!すみませんお!!何せ食べ盛りで……」
('、`*川 「21で食べ盛り……。何かペースが狂っちゃう……もう」

ため息をついてペニサスはいつものように見ている魔術書を手に取る。
魔法使いにしては教科書のようなもの。日々見る事を癖付ける事が上達への近道だとスカルチノフが言っていた。
傍から見ればエロジジイの妄言なのであろうが、ペニサスは堅著にその教えを守っている。



10: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:15:03.74 ID:8laWem7b0
('、`*川 「でもあなた……変わった瞳の色してるわね」

( ^ω^)「そうかもぐもぐお?僕もぐもぐの故もぐ郷じゃこんもぐな顔もぐばっかりだおもぐもぐ?」
('、`*;川 「いや別に顔の話はしてないんだけど……でも綺麗。魔術師で初めて見たわ。その赤い瞳」

( ^ω^)「もぐもぐお。もぐもぐお」

ブーンの瞳は深い赤。赤より紅いその瞳は何もかもを変えて移しそうな程澄んでいた。
魔法にかけられた蛇の魔物のように純粋で、それでかつ狡猾なイメージ。余り関わりすぎてもいけないという印象。
興味をそそり、踏み込ませようとしているその対象には、余りにも複雑すぎる、初見での判断にペニサスも戸惑ってはいたのだ。
ミステリアス?でも不細工であった。

( ^ω^)「そんなに変わってるかお?おーん」
/ ,' 3「……さて。話を本筋へと戻そうかの」

スカルチノフには知りたい事が目の前に沢山山のように積まれている状況であった。
焦らさずにすぐにすぐに聞きたかったが、魔術師には気の難しいものが少なくは無い。

機嫌を損なわれるのも何だったのであろう、急かすことなく順序だてて聞こうとしていた。
そして聞きたい事、知りたい事というのが……。



14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:17:00.09 ID:8laWem7b0
/ ,' 3「とりあえず……じゃ。お主のその魔法は誰に教えてもらったのかの?
    独学などではたどり着けないレベルじゃ。誰か高尚な魔術師に教わったに違いない」

( ^ω^)「この死霊魔術は村の長老に教えてもらったんだお」
/ ,' 3「ほう……。して、その長老の名前はなんと言うのじゃ?」

( ^ω^)「ばあちゃん、じゃなくて長老の名前はフォックス。僕にこの魔術を教えてすぐに死んじゃったお」
/ ,' 3「そうか。フォックス……、聞いた事の無い名前じゃ。いや、土足で色々と君の思い出に干渉してすまんの。
    差し支えなければもっと話を聞かせてはくれんか?南の地では死を扱う者がこれほどまで長けているとは……」

それから、スカルチノフは少しの間ブーンの魔術の事について話を聞いていた。

ネクロマンシー。

別名死霊魔術と呼ばれるこの魔術の類は、ペニサスのような魔術師とはまたベクトルが違ってくる。
基本的な事から徐々に伸ばしていく魔法。自然の力を己の体内で作り出し、エネルギーに変えるのが"魔法使い"や"魔術師"と呼ばれる者。

そしてブーンのような、死や生を扱う者達は、その基本の修得を才能や癖で飛ばす事が出来る。
1を知り、2を知るのであれば、1や2を無かった事にし、Aを覚えるといった具合だ。
なので万人が受け入れられるスタイルなどでは無い。



18: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:20:14.18 ID:8laWem7b0
('、`*川 「紋章……」

( ^ω^)「そうだお。ブーンは大地からエネルギーを、特殊なゾンビであるドクオを使い魔として扱えるように制約を受けたんだお」

/ ,' 3「やはりお主だけの力では無いと言う訳じゃな。まあ強い力を得るには、それなりの代償が付いて回るもんじゃ。
    その若さで詠唱可能のゾンビを扱う。武具を媒体とした戦闘方法。そしてあの強力な緊縛魔法……。ブーンと言ったかの、実力は半端では無いの」

( ^ω^)「そうかお?じゃあパンもうイチマーイ!!」
('、`*;川 「どこからパンが出てくるのよ……もう無いし」

夜が更けていくが、魔術師達は眠らない。
月が出ている間は、その身に月の力が降り注がれるからだ。

本当に微弱ながら日々その恩恵を受けて魔術師達は暮らす。
故に"月"を冠した事物を神聖なる物とし、崇拝する者も少なくない。

ペニサスの首にかけられている首飾りもそうだ。
どこか安心するとされているその形が、魔術師達に心の安息を齎すのやもしれない。



24: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:22:13.62 ID:8laWem7b0
( ^ω^)「冗談だお。いやぁ久しぶりに美味しい物を食べられて感謝してるお。ありがとうだお」
/ ,' 3「いやそのような礼を言う事は無い。弟子がお主の尻に電撃を撃ち込んだのがいけないんじゃ」

( ^ω^)「……電撃?」
('、`*川 「……」

( ^ω^)「……」
('、`*;川 「……」

(*^ω^)「お姉さま……」
('、`*;川 「ひ、ひイッ!?そそ、そうだ!あなたのゾンビもう一度見せてよ!!」

( ^ω^)「ドクオかお?いいお」

ブーンは椅子から立ち上がると、壁に立てかけておいた棺桶に手をかける。
ゴチャゴチャとした小屋の中を、紙や本を踏まないようにソロソロと歩くと、外へと出て行った。
スカルチノフもそのまま付いて行く。ペニサスは一応と、ランプに火を点けて出て行く。

しかしペニサスの心配はいらず、綺麗な月の光が青白くその場を照らしていた。



27: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:25:18.28 ID:8laWem7b0
ドスン。
音を立てて地面に棺桶を半ば突き刺すように置くと、ブーンが話し始めた。

( ^ω^)「ドクオを呼べるのにはさっき言った通り制約、そして要素が必要なんだお。別に隠しておく必要も無いんだけど、
       その要素にあたるのが、この小瓶。それとこの世界どこにでもある"毒気"なんだお。じゃあ実際にやってみるお」

髭を手持ち無沙汰に触りながらスカルチノフはその光景を見ていた。
どう言えばいいのかはわからないが、こう、身体全身に鳥肌が立つような……それでも嫌な感じはしない。

悪寒などではない不思議な感覚。長く生きてきた上で出会った事の無いタイプの魔力であった。
ネクロマンサーなどそれこそ何人もいて、無数のスケルトンを生み出し、街一つを牛耳るような者とも戦った。

しかしそのような者達から感じたのは死の恐怖。
圧倒的な物量による力だけ。


( ^ω^)「さあ。出てくるおドクオ――」

それでは、これは一体何なのであろうか?
スカルチノフの身体を渦巻く何かが、そこにはあるというのに。



28: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:27:27.03 ID:8laWem7b0
(#'A`)「――お前なぁ」

明らかにさっきの事を引きずっているドクオ。

(;^ω^)「ま、まあ落ち着くお。今この二人にご馳走してもらったんだお。お礼に僕の魔術を見せるんだお」
('A`)「はぁ……。でもお前、そうやってすぐに手の内を見せるのもどうかと思うんだけどなぁ」

( ^ω^)「紋章と要素、制約。それにドクオで無いと真似の出来るものでも無いんだお。だからいいんだお」

やけに真面目な顔をして説明を始めるブーンにドクオは呆れた。
普段は抜けている、いや抜けきっているというのにこうやって人に物事を話す時、たまにこうなるのだ。
教えたがりなのか、まだまだ子供と言う事なのだろうか、一人前には程遠い。

( ^ω^)「ドクオをこの場に呼び出すには、さっきも言った"毒気"が必要なんだお」

('、`*川 「その毒気って何なの?」
( ^ω^)「これはブーンが生まれた地方でしか通じない意味を持つものなのかもしれないお。
       意味は『死した者の後に残る物』といって、残留思念だとか、死んで肉体が土に還った後に残るかたちを持たない物の事だお」



32: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:30:14.32 ID:8laWem7b0
/ ,' 3「なるほどの。我々が使う魔法にある魔力のタンクが自然そのものにある、という事かの」

( ^ω^)「その通りだお。その土に還った"毒気"を、僕の魔力で引っ張り出すんだお。
       そして一定量溜まるとドクオの意思を呼び覚ます事が出来るんだお」

そう言って、ブーンは小瓶をちらつかせる。
中身にはプルプルした液体が入っていた。

('A`)「で、俺が代々こいつらの死霊崇拝の対象となっているって訳だ。
    聞いたんだろ?フォックスのババアの事。ブーンで5人目だな。もう俺何年やってんだろ」

(;^ω^)「ババアなんて言ったらどっから矢が降ってくるかわかんねお。口は災いの元だおドクオ」

/ ,' 3「では、お主は普通の死霊魔術には長けておらぬのか?話を聞いただけだと、ドクオ殿を操るだけに聞こえるが」
( ^ω^)「できるお。でも、そこに僕の制約が絡んでくるんだお」

強い力を得るのに一番手っ取り早いのは、自分の命をささげる事。
悪魔に魂を売り、闇の力を得るものが耐えないのはそういう話が今も信じられているし、それが確かであるから。

独裁者と呼ばれる者はその心を悪魔に売り、神に喧嘩をふっかける。己の心で無くなれば、いくらでも残虐な事もできよう。
己の心で無くなれば、家族や仲間という縛りに苦痛を覚えなくなるからであろう。



33: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:32:15.90 ID:8laWem7b0
制約というのは非常に幅が広いのだ。

今述べたように、魂を売るようなものから始まり、日常における細かい制約もある。
ある者は影の中でしか生活できなくなる事で暗殺者としての道を究め、ある者はその歌声を手に入れる事で容姿を捨てた。

そんな制約がブーンの中にもある。

( ^ω^)「僕の制約は二つあるんだお。一つは"通常死霊魔術の回数制限"。
       これは明確な制約では無くて、一日に○○回って言った具合に回数に制限がかけられているんだお」

/ ,' 3「その回数の基準はあるのかの?」

( ^ω^)「それがまだ正確にはわかっていないんだお。ただ"魔力を多く使う場合は比例して回数制限が厳しくなる"
       これくらいしかわかっていないんだお。そしてこの制約を破ると、そこから大体3日は魔法が使えない日が続くお」

ブーンはお腹を指して、魔力タンクがその間空になる。と言った。
そしてすぐ、もう一つの制約の事についても話し始めるが、その内容にスカルチノフとペニサスは驚愕する。


余りにも酷すぎる制約。



35: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:33:44.95 ID:8laWem7b0
( ^ω^)「もう一つはこのドクオに関しての制約だお」
('A`)「……ッ」

( ^ω^)「それは"太陽が出ている間にドクオを呼び出さない"という事だお。
       この制約自体、それほど厳しいものでは無いんだお。でも、破るとキツいんだお」

/ ,' 3「……聞いてもいいのかの?」


( ^ω^)「死ぬんだお」


('、`*;川「……!!」
/ ,' 3「なんと……」

( ^ω^)「死ぬだけじゃ無いお。術者はゾンビと化し、永遠の時を死で過ごすんだお」
/ ,' 3「……そこまでして、なぜそのような危険な魔法を修得したんじゃ?20歳に背負わせるには重過ぎる」

杖をグッと握り、眉をしかめてスカルチノフは言う。
出会ったばかりの怪しい魔術師に同情してくれている、というのがわかったブーンは少しだけ悲しい顔で微笑むとこう言った。



36: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/07(金) 22:35:28.50 ID:8laWem7b0
( ^ω^)「ドクオに……、ドクオに存在価値をあげたいんだお」
('A`)「……」

その言葉でペニサスはピンと来た。
制約を破るとゾンビになる?永遠を死で過ごす?
ならば繋がっていく欠片同士が持ち合いだす意味が徐々に明らかになるのだ。

('、`*川「あなた、もしかして……」
/ ,' 3「!! そういう事か……」




( ^ω^)「ドクオは、昔にその制約を破った男だったんだお」





( ^ω^)はネクロマンサーになるようです第3話 『制約遵守教室』 終



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