( ^ω^)はネクロマンサーのようです

3: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:33:51.10 ID:ScnTO3VJ0
あの日は雨が降っていたんだ。
それも、黒くて、重い雨が。お前も不安そうな目でそれを見てた。
俺もそれを見てた。
お前にはそれが同じに見えたか?いや、違うだろうな。
お前の目には、不安が広がっていただろう。それも、真っ黒で、果てしなくて、とても巨大な不安だ。

だけど、俺は違った。
真っ黒で、果てしなくて、とても巨大な不安である事には間違いは無かった。
それでも……、それでもだ。

暗雲を一筋の閃光がさした後のような……綺麗な活路がそこには見えていた。
だからそれに賭けたんだ。



5: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:35:19.36 ID:ScnTO3VJ0
朝から予感はしていた。
その日は自分が死ぬにはふさわしい日だと思っていたし、相手にとっては不足も無かった。

城の生気無い壁を血で塗りつぶせば、お前は助かる。
俺は助からない、でもお前は助かる。
ただそれで十分にも思えた。

――――
―――
――



6: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:37:05.48 ID:ScnTO3VJ0
('A`)「――んまぁ、ドジっただけなんだけどな」

青白い顔に、青白い光があたって真っ白になっていた。
身体は皮のベルトの様なものでグルグルに巻かれていて、胸には宝珠が一つ埋め込まれている。
普通のゾンビとみても、その姿は特殊であるし、それに足してゾンビがこうはっきりとした自我を持つ事も珍しい。
ゾンビと言うのは本能のまま動き、生者の肉を喰らうとされている。

ゾンビパウダーや、薬品などで人為的に作られるケースがまだ遠くの地ではあると言うが、
それも今では定かかどうかわかる事も無く、闇の中に葬られた魔術や知識の一つなのかもしれない。

いずれにせよ、間違っても表に出てくるものでは無い。

( ^ω^)「こうやって死んでからズルズル引きずってるから、ドクオはカッコツケのままなんだお!」
(#'A`)「ンだとぉ!?俺は今も現在進行形だ!!」



8: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:39:16.89 ID:ScnTO3VJ0
('、`*;川 「意味がわからん……」
/ ,' 3「ま、まあ前向きに捕らえていてよいじゃないか」

('A`)「……っと、ややっ!いつぞやのおっぱいさん。あれからお怪我は――」
('、`*;川「おっぱ…え…!?えっと、大丈夫です。ってついさっきだし」

/ ,' 3「陽気なネクロマンサーとゾンビとはのう。もうこの先出会える事もなかろうに」

('A`)「そもそも!こいつがおかしいだけなんだ。俺が使い魔をしてきた中で、こうやって馬鹿みたいに明るいのはこいつくらいだよ。
    もちろん俺も含めてネクロマンサーなんてのは、根暗陰険な人間が適しているってもんだ。いや、自慢とかにはならないけどさ」

するとブーンはある事を思い立ったように、ドクオに近寄って耳元で話をしだす。
何を話しているかは聞き取れそうにも無かったのでスカルチノフは小屋へと戻ってコーヒーを取ってきた。
『年寄りに寒さは大敵じゃ』と言うと、ペニサスはクスリと笑う。腕を組んで吐いた息は少しだけ白くなった。

もう冬も近いのだろうか?秋は駆け足で駆けていく気がして、自分に残された時間がまた一つ少なくなったのと、
新たな景色、季節が来るのを楽しみにしている自分がいるのを感じた。



11: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:41:05.83 ID:ScnTO3VJ0
('A`)「……いいんじゃねえの?タイミング的に」
( ^ω^)「そうかお。じゃあ聞いてみるお」

/ ,' 3「何じゃ?何か聞きたい事でもあるのかの」
( ^ω^)「少しだけ失礼かもしれないお。スカルチノフさん、気を悪くしないでくれお」

/ ,' 3「お?うむ……遠慮はせんでよいぞ」
( ^ω^)「スカルチノフさんはさっきのスケルトンとの戦いで全然魔法を使えなかった。なぜだお?」

少し真面目な声を出し、ブーンがスカルチノフに問う。
少し間の悪い顔をして俯くスカルチノフにさらに質問を続けた。

( ^ω^)「もしかして、魔力タンクに魔力が湧いて来ないのかお?もしくは、その量が極端に少ない……?」



12: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:43:14.53 ID:ScnTO3VJ0
/ ,' 3「……!!」

('、`*川 「ちょ……、ちょっとアナタ何をいきなり」
/ ,' 3「いや、良いのじゃ」

( ^ω^)「それはいつからだお?もしくは、何が起きてからだお?」
/ ,' 3「……その言い方だと、色々と知っているようじゃの」

観念したのか、杖で一回トンと地面に叩くと真っ直ぐブーンの方を向いた。
さすがに二百年も生きていると背中が曲がってしまうのだが。身体に魔力はほとんど無くとも、目は本物である。

ブーンは半分だけ嘘をついていた。
本当はこうやって、樹海の大魔導を尋ねに来ていたという事。そして、そのついでにドクオの"毒気"を貯めに来たという事。
目的が無ければ、わざわざ南の地"ザツダンツ"から、海を越えて、山を越えて……。この中央大陸"ニュウス"には来ない。

( ^ω^)「もしかしたら、ブーンが追っている魔術師と一緒なのかもしれないお」
/ ,' 3「――。そうじゃの、お主が追っている魔術師は『呪術師』であれば……の話じゃが」



13: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:44:45.09 ID:ScnTO3VJ0
目の色を変えて二人がその言葉に噛み付く。

('A`)「…おいおい」
(;^ω^)「な、名前は何て言うんだお!?」

/ ,' 3「名前は――わからん」
( ^ω^)「……っ」

/ ,' 3「だが……あやつの放った魔法ならまだわしの心の中に巣食うておる」
('、`*川 「師匠……」

魔導書を開くと、淡い光と共に綺麗な色をした球体が現れる。
これはスカルチノフの魔法タンクを具現化したもの。心の中枢。魔術師の源。
輝きを放つその球体に見とれていたその瞬間。

蛇のような"闇"がグルグルとその球体を縛り付けて行く。

(;^ω^)「……!!」
('A`)「こりゃビンゴだな」



14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:47:09.88 ID:ScnTO3VJ0
/ 3「こ……こいつが、わしを…ッ。追いやった魔術師じゃ」
('、`*;川 「師匠!!無理はしないでください!」

フッと魔導書から光が消えると、それと同じくして球体も、渦巻く闇も消える。
スカルチノフは全身に脂汗を大量にかき、その場に膝から崩れ落ちた。
ペニサスがすぐさま駆けつけて身体を支えるが、スカルチノフはその手を払いのける。

/ ,' 3「す、すまんの……。みっともない所を見せてしまったようじゃ」

( ^ω^)「いえ、ありがとうございますお。スカルチノフさんの身体を巣食っているのは、
       僕達が追っている呪術師"モララー"が放ったものと同じ呪いですお……」

/ ,' 3「あの男……、名前はモララーというのか。しかしこの呪いを受けてしまってからもう5年も経っておる。
    もうどこにいるのでさえも、生きているのかどうかさえもわからぬ。力になれんのは悔しいがの……」



16: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:49:09.66 ID:ScnTO3VJ0
( ^ω^)「よかったらその時の話、詳しく聞かせてくれませんかお?」
/ ,' 3「……そうじゃな。ではまた小屋に戻るとしよう。今宵は月が見えておる……、不安でしょうがない」


三人とゾンビ一匹は小屋へと入ると、椅子に深々と腰を下ろしたスカルチノフが話を始める。
それはまだ、ペニサスを弟子として受け入れてすぐの、樹海の大魔導として秩序均衡を保っていた頃の話。


――――

/ ,' 3「あの日は――」

あの日は、少しだけ黒い雨が降っておった――。
何だったかは今もわからん。だが、それでも少し異様な空気が流れておったのは間違いなかった。
そしてわしは外へ出た。その日はツンとペニサス二人とも街へと出させておっての、わしは一人ぶらぶらしようと思っていた。
空を見ると、渦巻く分厚い入道雲がわしを見下ろしているようでの、少しおかしくなって笑っておったんじゃ。

すると、目の前に一人。
黒い雨の中に、真っ黒のローブを着て、フードを頭に被った男が一人そこにはおった。



18: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:51:24.28 ID:ScnTO3VJ0
/ ,' 3『――どちらさんかの』
(  ∀ )『いえ……。少し通りかかったら小屋が見えたもので。少し雨宿りさせていただこうと思ったのです』

その言葉は、どう考えても敵意が丸出しで、あやつもそう思っておったのじゃろう。
自信がその口ぶりに表れておった。

/ ,' 3『……なんじゃ。やるのなら、さっさとかかってこんか』
(  ∀ )『いえいえそんな滅相も無い。相手はかの有名な"樹海の大魔導"様ではありませんか。
      私のような三流魔法使いでは泥を舐めさせられるのがオチ。私も馬鹿ではありません』

/ ,' 3『ならなぜこんな辺鄙な場所へと足を運ぶ?街ならここから反対じゃ。帰るがよい』
(  ∀ )『いえ……。もう街で用事を済ませてきましたぁ……。ですので次の用事を済ませにね』

何を言いたいのか、イマイチわからなかった。
企んでいるのはおそらくわしを倒す事。何かわしがいると困るのであろうというのはわかっておった。



19: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:53:11.65 ID:ScnTO3VJ0
/ ,' 3『……言いたい事があるのなら、早く言わんか』
(  ∀ )『そんな三流魔法使いでも……、馬鹿では無い私ならあなたを倒せるという事をお教えに参りましたぁ……』

/ ,' 3『……ほう。ならば試してやろう!!』

手には魔導書が無い……。
だが杖はある。十分だろう。
相手は雰囲気からしてネチネチとした攻撃をしてくるに違いない。

先手必勝――!!

/ ,' 3『往け――光塵の矢を』
(  ∀ )『おっと……、その前にこれを見てください。わかりますかね?ふふふ』

/ ,' 3『……!!!』

だがそれを見せられたわしは動けんかった。
わしには、動けんかったんじゃ。

――――



22: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:56:27.33 ID:ScnTO3VJ0
( ^ω^)「何が……あったんだお?」
('、`*川 「……」

ペニサスは俯く。
ローブの裾を握り、拳を作っていた。
ふがいない自分を思い出すのは嫌だった。

/ ,' 3「あやつは……、ペニサスを盾にしおったんじゃ」
( ^ω^)「!!!」
('A`)「……クズだな」

ただ、これを言っているスカルチノフに、決してペニサスに向けた感情があるわけではない。
見たもの、感じたものをそのままこのネクロマンサーに伝えれば、何かに繋がるかもしれない。そう思ったのだ。
自分の今の力が無いこの現状、そして特殊なゾンビ――。
何かを感じずにはいられなかった。

こうやって尋ねてきたこの者こそ、体の深くに眠って落ちていってしまった魔術師としてのプライド。
あの男に対する闘争心を呼び覚まそうとしているのだ。
たとえこれからも自分が非力であったとしても、そのプライドをネクロマンサーに託す事が出来れば何かが変わると考えた。



24: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 20:59:09.94 ID:ScnTO3VJ0
('、`*川 「私が……未熟だったの」
/ ,' 3「そんな気で言っている訳では無い。ちゃんとお前にも言えんかった言葉、今言わせてもらおう」

('、`*川 「え……」

そう。
守るのは、過去や今ではなく"これから"だ。
無限など無く、有限が目の前に広がるのであれば……。

わしは、未来が明るく広がる事を願う。

/ ,' 3「わしはの……、ペニサス、ツン。お前達二人の弟子を愛しておる」
('、`*川 「……!!」

/ ,' 3「わしは、お前達が生まれるずっとずっと前に家族を失った……。失う怖さを知った」



27: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:01:42.34 ID:ScnTO3VJ0
( ^ω^)「……ドクオ、出るお」
('A`)「んぁ?ああ」

ブーンとドクオは静かに小屋から出る。
見れば見るほど青白い月だ。不気味にも感じる。

そして、スカルチノフの話は続く。
勢いに任せて、言えるだけ言おうと考えていた。
後々思い出せば、頬を赤らめてしまうような内容かもしれない。
だが、今言わなければいつ言えというのだ。そういう考えがスカルチノフの頭を過ぎった。

/ ,' 3「失うというのは、恐ろしいんじゃ。もう会えない、もう話せない。
    わしは臆病になった……。家族をこれ以上失いたくは無かったんじゃ。
    だから、あの時の事を、これからもお前に悔いていて欲しく無い。わしの弱さが、この結果を生んだんじゃ」

('、`*川 「でも……でも師匠は……!!」
/ ,' 3「安っぽい言葉ではあるがの。
    お前がこれから成長していってくれるのが一番……」

/ ,' 3「嬉しい」



30: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:04:10.28 ID:ScnTO3VJ0
( 、*川「!!!」

一筋の涙が、老人の頬を伝い、その長く伸びた白髭に絡まりつく。
言いたい事を、ようやく言えたそのうれしさもあったのであろう……、まっすぐとその愛している"子供"の一人を見詰める。
200年もの時を生きているスカルチノフにすれば、ペニサスとツンを弟子に迎え入れた数年など、ただの人生の余剰分にしか過ぎないだろう。
だが、人生というのは長さではなく、密度で語られるのだ。

いくらその長い時を過ごしたとしても、空虚な時間は人間に虚無感しか与えない。

( 、*川 「私は――、私は、なんて師匠に謝ればいいのかわからなかった」
/ ,' 3「そう考えておるのは、ずっと知っておる。謝らずともよい、わしはお前達が大事じゃ。
    ……それで十分じゃろ?命や知の財産など、お主ら愛する者達にとってはくらべる価値も無いもの。時間は無限ではないのじゃ、ペニサス」

ペニサスはスカルチノフの胸元に飛び込んだ――。
そこまで愛してくれた師匠を、今知る事ができたのだ。
涙では流れない何か大切な物が、その胸の中に宿っていた。



31: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:06:53.14 ID:ScnTO3VJ0
( 、*川 「……っく。……ご、めんなざい……」
/ ,' 3「ほっほ。もう21歳だと言うのに、お前は、あの頃のままじゃの」

金髪の髪を、人生を知る手が、すっと梳く。
そう、あの頃から変わっていない。
二人は……、いや、自分も含めた三人はあの頃から――。

――――

('A`)「……さみィよ」
( ^ω^)「ゾンビの癖に何言ってんだお。ブーンの方が寒いに決まってるお」
('A`)「まぁ、そりゃそうか」

あれから30分ほどであろうか?
小屋のすぐ近くにあった岩に腰をかけて、夜空を見ながらダラダラと雑談をしていると、スカルチノフがこちらへとやってきた。

/ ,' 3「いや、すまんの」
( ^ω^)「大丈夫だお。あそこに僕達がいるのは文字通り場違いだったお。ペニサスさんはどうしたんだお?」
/ ,' 3「あの後子供のように泣いてしまっての。この先の話はペニサスにも辛いじゃろう。だからもう今夜は寝るように言っておいたんじゃ」



34: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:10:46.34 ID:ScnTO3VJ0
('A`)「……あんた、随分と気にかけてるな、その弟子二人の事」
/ ,' 3「そうじゃの……。家族に飢えておるのかもしれんの、わしの本質的な何かが」

( ^ω^)「何だおドクオその言い方は!スカルチノフさんにとって、ペニサスさんとツン?さんは家族同様なんだお。察するお!」
('A`)「……。それもそうだな」

/ ,' 3「それでは、もうここでもよいかの。あの話の続きをしよう――」


――――


(  ∀ )『さあ……、その手にある光の矢。私に放ってみてはどうです?
      その矢が私に当たるのが先か……?それとも、このかわいいかわいい見習い魔法使いの体が私の前に来るのが先か』

黒い雷が檻を形成し、その中に少女が一人放り込まれていた。
まだ魔術を齧り始めたばかり……ペニサス。その身体は震え、両腕を交差させて肩を抱いていた。
スカルチノフの腕が止まる。
唾を喉に飲み込む。奥歯が震える。

/ ,' 3『……下衆め』

ローブを深くし、顔を隠すと男は更に続ける。

(  ∀ )『まあ、あなたは賢明な大魔導。私のような三流とはまた違うのでしょうが、
      どうします?賭けますか、あなたの腕に。さぞ素早い事でしょう。その矢。さあ、決めてください。
      私はそう気が長い訳では無いのです。それにほら……』



36: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:12:54.50 ID:ScnTO3VJ0
/ ,' 3『や……止めんか!!』

モララーの左腕が、宙に浮かぶ小さな監獄の合間を縫ってペニサスの背中に押し当たる。
ぐんとした圧力。左腕には黒い炎。呪術師が放つ死の呪い。

( 、*川 『はぁっ……!!はぁッ……!!!』
(  ∀ )『後はこの炎を彼女の身体の中に埋め込むだけ……。さあ決めて下さい』

( 、*川 『し……、師匠』

涙で顔をくしゃくしゃにしながら、スカルチノフを見つめる。
その視界はぐにゃぐにゃと歪んだレンズで、スカルチノフの姿も定かではなかった。
ただ、スカルチノフは、この現状。動向を、さほど苦渋の選択とは捉えていなかった。

あの時の過ちは、もう二度とはしない。
そう胸に決めていたから。



37: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:14:10.69 ID:ScnTO3VJ0
――――

( ^ω^)「それで、奴の呪術を……?」
/ ,' 3「そうじゃ……。あやつは去り際にこう言っておった『生かせておけば、いずれその芽も変わるだろう』と……。
    今も忘れん。あの時、一つ風が吹いてローブがめくれあがった時の、悪意に溢れた笑みを」

('A`)「でもよ、何で二人を生かせておいたんだ?スカルチノフのじいさんも、ペニサス姉ちゃんも殺せたはずだろ?
    いや、それを言い出すとうちのババアにも言えるのか……?なぜ生かす?じいさんもそれを不思議に考えた事は無いのか?」

ブーンは顎に手を置いて、何かを考えていた。
それはおかしいというのはフォックス、師匠の件でもわかっていた。
わかっていたが、どうもおかしい。何か違う方向に、モララーの悪意が向いているような気がしたのだ。


/ ,' 3「それはわしも考えた事はある。わしを生かしておく事で利点があるとは思えないのじゃ。
    しかしあの時に感じた"やらしさ"は、利点や利益で動いているとは言いがたい。何か……何か違うんじゃ」

( ^ω^)「『生かせておけば、いずれその芽も変わるだろう』……。どういう事だお?
        何か考えがあって、スカルチノフさんを生かしたのかお?それも、無力化までして……」



39: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:15:19.30 ID:ScnTO3VJ0
呪術というのは、リスクありきの魔法である。
東方にある言葉『人を呪わば穴二つ』とはよく言ったもので、人を呪うという効果がある以上、呪術を使用した者にもそれと同等の価値を背負わさせられるのだ。
これはネクロマンシーと少し通ずる所もある。ブーンが言う"要素""制約"という縛りがあって力を生み出す事ができる。

ただ、ネクロマンシーは"死、死霊から力を引きずり出す"というメリットを生み出す。
それとは逆に呪術というのは"人に呪いを与え、本来のポテンシャルを損なわせる"というデメリットを生み出す。

/ ,' 3「その言葉が、モララーの意図する発言だとすれば何かの罠である事には違いない。
    じゃが、それが意図しない発言だとすれば……。その言葉には何かヒントがあると思うんじゃ……。
    わしの身体には、今もあやつの呪いが確かに存在する。それは言い換えれば"あやつは今もリスクを背負って生きている"とも言える。
    もちろん、呪術はその術者の趣味、特性、個性が埋め込まれておるからして、死んでも継続する魔法であった場合は八方塞がりじゃろう」

('A`)「可能性が少なすぎるな。もしモララーが生きていて、今も大魔導に呪いをかけつづけているとすれば……」
( ^ω^)「モララーは今も何か目的を果たすために暗躍している……って事かお?」

/ ,' 3「わしはさっき、生きているか死んでいるかわからんと言った。
    じゃが、どこか生きているような気がするんじゃ……。あの狡賢さ、闇に浸りきった心を垣間見たわしには、そんな気が……」

( ^ω^)「僕もそんな気がしますお。それに、何のためにアイツを殺そうとここまで来た意味も否定したくないお」



40: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:16:42.67 ID:ScnTO3VJ0
殺す。なんという生々しい言葉であろうか。
スカルチノフは、このブーンという青年一人に、多様な未来が待っている事を確信した。
やはり、持て余された力には、標が必要なのであろうか。そしてそれは、誰がすべき事なのか……。


('A`)「そうだな……。これで少しだが希望が見えた。樹海の大魔導は伊達じゃあなかったな、ブーン」
( ^ω^)「だお。ペニサスさんもいい電撃……。あぁ、お姉さま……」
/ ,' 3「じゃろう」

('A`)「……」
(;^ω^)「……冗談だお」

/ ,' 3(冗談じゃったのか……)

ふと上を見ると、月がもうそこには無く、山々の間、険しい山脈に太陽は飲み込まれようとしていた。
代わりに現れるのは、皆の一日を規律付ける太陽。
その太陽が昇る前に、ブーン達はこの小屋から出発する事にした。
長居は無用とは言わないが、時間は有限なのは皆が胸に一つ置いている事。スカルチノフは出発しようと準備をする二人にある物を手渡した。



42: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:17:49.72 ID:ScnTO3VJ0
( ^ω^)「これは――?」
/ ,' 3「これはわしが、この樹海の西側にある洞窟で採れる鉱石を削って作った首飾りじゃ。
    こんなもんしか渡せんが、餞別として持っていってくれい。」

牛の乳のような色をした、まろ味を帯びた丸い鉱石が皮の紐に括りつけられていた。
ブーンは笑みを見せるとスカルチノフに頭を下げた。

('A`)「……おっと。もう日が出ちまう。じゃあなスカルチノフの爺さん」
/ ,' 3「そうじゃな。また会おう。お主らの旅が実りのあるものとなるよう、わしは祈っておるよ」

ドクオが棺桶の中に戻ると、鎖がジャラジャラと一斉に絡みつく。
それを担ぐとブーンはまた頭を下げ、ニコリと微笑んだ。
もう少しで消えそうな闇に、逃げるようにして溶け込むと、その姿は樹海の中へと消えた。



43: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/16(日) 21:18:27.37 ID:ScnTO3VJ0
/ ,' 3「……それでも、復讐を人に託すような事をしたわしは、樹海の大魔導などと名乗る資格は無い……かの」

ボソリ、一言朝焼けに煙らせた――。

――――
―――
――

死者を使う、その魔術師は、次なる魔術師の元へと向かう事にした。
一歩一歩踏みしめる、その朝と夜の境目は深く、己の中に渦巻く何かを囃し立てた。
それでも進む時は絶えず。

死霊魔術師が向かうはどの未来か――?


( ^ω^)「ううん!我輩絶好調!!」



今日も首飾りは柔らかく輝く。



( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第4話『呪術呪縛緊縛教室』 終


( ^ω^)はネクロマンサーのようです 序章『樹海の大魔導編』 終



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