( ^ω^)はネクロマンサーのようです

4: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:11:05.54 ID:xi2RZUCV0
――はっ、はっ。

もうどれくらい走ってきただろうか?
"あいつ達"は夜毎に僕を襲ってくる。なぜなのかはわからない。

夜に幅を利かせているあの爪の煌めきを見れば、僕は背筋も凍るほどの恐怖を身に叩きつけられる。
わかっている。わかっているさ――。

僕がどうしようも無い人間だって事。
そして、今、この状況を生きて帰って、勇敢な者達の物語として詩吟で語り継ぎたいという事。

(;^ω^)「ドクオ!!!ミルナを!!」

('A`)「あいよォ!!!!!」
(;゚д゚ )「はァっ!!はァッ!!!……うわぁっ!!」



5: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:12:55.90 ID:xi2RZUCV0
タイトルはどう付けよう?
そうだ。この前読んだ物語にこういう言葉があったな……。

頭に浮かんでくる……。
すぐにでも口に出し、言葉にして、人に伝えたい!!



ああ!!なんと美しきかな言葉!!!
身体が震え、今僕は大地と共鳴しているじゃあないか!!!




( ^ω^)はネクロマンサーのようです      第1章『詩吟と死霊魔術編』



7: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:15:40.41 ID:xi2RZUCV0
――――



ブーンがスカルチノフの元を旅立った日の太陽が沈み、赤々とした夕焼けが辺り一面を照らす。
樹海を抜け出し、魔術師のあてを無くした二人は、その場所から最も近く、大きな都市である"プラス"へと足を運ぶ事にした。

別名"審判都市"と呼ばれているそのプラスには大きな"神判堂"と呼ばれる建物があり、
各地で凶悪な犯罪、咎を犯した者達を集め裁くとされている。

ブーンはその入り口。
大きな石で積み上げられた壁に組み込まれた門を遠めに見つめながら、草の上に尻をペタンと置いて座っていた。
やがて日が沈みはじめると、街は建物の明かりで淡く光を持ち出す。

棺桶からドクオを呼び出すと、今からプラスに入る事を説明した。



9: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:16:34.62 ID:xi2RZUCV0
('A`)「プラスねぇ……。魔術師がホイホイ入っていける場所じゃ無いような気もするんだが」
( ^ω^)「昔はそうだったみたいだけど、そんな事は無いようだお」
('A`)「どうして言い切れるんだ?」

( ^ω^)「ここに着くまでに旅人にいくつか話を聞いたんだお」
('A`)「ほうほう」

ブーンがその旅人から聞いた話と言うのが、プラスには"プラス騎士団"という、滅法強い人間達の集団がいるという。

( ^ω^)「そしてその騎士団が滅法強いとされる力の秘密が"力を持つ三剣頭"と"魔術師の影"だそうだお」
('A`)「……ってぇ事はアレか。騎士団には雇われ魔術師がいるってのか?」

( ^ω^)「まあ、人づてに聞いた話だから信用性なんてのは皆無だお。でも、今スカルチノフさんの場所を離れてから、
       何もアテの無いこの状況だと、そんなわずかな情報でもすがりつくしか無いんだお」



10: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:18:12.95 ID:xi2RZUCV0
ドクオは少し考えるようなポーズを取ってから、自分の意見を口に出す。

('A`)「……でもまあ俺は勧めねーぞ。魔術師の名前も、どんな魔法を使うのかも、前情報何にも無しじゃあ危険すぎる。
   魔術師なんて言ってみりゃ狂った連中だ。俺たち含めてな。こんにちはーって行って、即首でも跳ねられてみろ?洒落にもなんないぜ」

(;^ω^)「それもそうだお。で、でも接触するとはまだ決めていないお!
       とりあえず街に行って情報収集も兼ねてって事だお」

草叢がふわりとした風に靡かされる。
樹海のあのひんやりとした空気もそうであったが、やはりこの"ニュウス"は全体的に冷たい印象を受けた。
それがなぜそう感じるのかは、まだわからなかったのであるが。

('A`)「とりあえず、俺がこの街を見た感じ……。毒気は多いぜ」
( ^ω^)「……ドクオもわかるかお。少なくとも魔術師は一人じゃないお。この街には何かあるお」

ドクオがため息を一つ。
知ってて情報を小出しにするのはブーンの悪い癖であった。
仲間なのだから、思った事をすぐ口にすればいいのに、ブーンはなぜか自分が気づくのを待っている。
人一倍"何か"に敏感なのはドクオもわかっていた。それほど短い付き合いでも無い。



11: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:22:15.02 ID:xi2RZUCV0
('A`)「じゃあ、俺が出たまま行く訳にも行かないしな。棺桶戻るわ」
( ^ω^)「わかったお」

ジャラジャラ。
鎖が棺桶に絡まりつき、ドクオは棺桶の中に収まる。
棺桶を持ち上げると、ブーンはローブを目深く被り、街門へと向かった。

空は濃い群青。根元はまだ紅い。
それほど夜は深くない。

ガラガラと音を立てて前を行く牛車の横につけ、ひっそりと街の中へと入るブーン。
石の門は分厚く高く、兵士が交代二人いるようであった。
門を抜けるとそこは赤煉瓦で組まれた趣のある家が、規則正しく並んであり、中央の噴水までぐっと見る事が出来た。
プラスに来るのは初めてで、ブーンの胸も、遊びで着ているのではないとわかっていつつも、躍ってしまう。

( ^ω^)「凄いお……」

独り言を口から漏らす。
それもそのはず。この審判都市プラスは、ある地理学者の提案に基づいて建設されたのだ。
中央にある大噴水を囲むように、家屋や店が存在し、噴水から北の高台へと長い石階段が続く。
階段を上った先には、象徴でもある"神判堂"がある。白い壁が特徴的で、一日に4回、街に鐘の音を響かせている。



13: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:25:02.26 ID:xi2RZUCV0
だが今はもう夜に差し掛かる直前。いや、もう夜である。
さすがに神判堂の壁の色まで綺麗には見えなかったが、すれ違う人や、活気のある声がそこいらに聞こえており、都市である事を再認識させた。

『おっ!そこの黒いローブ着た兄ちゃん!!よかったら薬の元にうちの薬草買ってくんないか!?安くしておくよ!!』

露天を出している、頭に布を巻いた男がブーンに薬草を売ろうと声をかけた。

( ^ω^)「いえいえ、今は間に合ってますお。ここいらに宿ってありますかお?」
『宿ならこの噴水まで行けばすぐわかると思うぜ!また何かあったらウチに寄ってくれよ!!』
( ^ω^)「ありがとうございますお!」

ブーンはとりあえず宿をとろうと考えた。
どこを探索するにしても、拠点は必要だからだ。棺桶を持ってブラブラできるのにもやはり限界がある。

そして、人ごみを慣れない足取りでフラフラとかわしていき、ようやく噴水にまでたどり着く。
するとちょうど正面。噴水をはさんだ向側。大きな石階段の右隣に『頬の宿』と書かれた看板の宿屋を見つけた。



14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:27:22.88 ID:xi2RZUCV0
手際よく一室を取ると、ブーンはその建物の二階へと上がっていく。
木で出来ているせいか、壁は薄く、隣の部屋の会話も割と筒抜けであった。
まあ街の中心であるし、少し高くついたがしょうがない。

( ^ω^)「……ふぅ。もう少し夜が更けるのを待つお」

安物の布のベッドに腰をかけると、少しの間呆けていた。
右隣の部屋からは賞金首がどうのだとか、そういった話が聞こえてくる。どうやら賞金稼ぎのようだ。
そして左側からの部屋からは、何かブツブツと呟くような声……。

まあそれもさておき、ブーンは少し横になる。

天井を見上げると、そこは見慣れたあの家の天井では無く、その日限りの天井。
目を瞑り、慣れない空間、慣れない空気を身に感じながら故郷に思いを馳せた。



15: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:29:59.31 ID:xi2RZUCV0
――いつしか感傷的になっていた。
らしくない自分を垣間見たようですぐに身体を起こす。

( ^ω^)「……ドクオ、ドクオ。出てくるお」
('A`)「……んあぁ、何だもう夜か。で、何すんのよ」

部屋に備え付けられた蝋燭に火をふっと灯し、ローブを上に着込む。
ドクオに窓の外を見るように指で指図する。

('A`)「何がある……ってああ」

この審判都市の特徴は、神判堂や"プラス騎士団"などの公的なものだけでは無い。
それだけでは、犯罪者の訪れる事の出来ない"お堅い都市"として、それ以上の成長は望めないからである。
ではなぜ、この樹海に近い都市にこれほどまで行商人などが集まるかというと理由がある。

それは"公認の"闇市。

( ^ω^)「何か情報が転がっているかも知れないって事だお。
       そして、皆決まってああやって黒いローブを着て、目深くフードを被り、
       おのおの買いたい人が来るまで待っているんだお」



17: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:32:09.41 ID:xi2RZUCV0
ドクオが見下ろしたそこは、まるで鬼火が空をふわふわと舞っているかのような明かりの数々。
そして振り返ると、ブーンがもう一つ、黒いローブを持ってニヤニヤと笑っていた。

('A`)「ああ着ればいいんだろ。俺がゾンビってバレてもしんねぇかんな!!」
( ^ω^)「バレりゃそのままドロンしか無いお。こういう時は損より得を優先するんだお。さあそれ着て、魔術師の話聞きに行くお」

カチャリ……。
軽い金属の音が少し鳴り、自分の部屋のドアを開く。
すると偶然、隣の部屋に泊まっている男と鉢合わせた。

( ゚д゚ )「おや。アナタ達ももしかして……、いや、闇市へ行くのですか?」

ブーンとドクオの身形を流すように見てから、男は言った。
ええ、そうだと答えると、男は少しうれしそうな顔をして話を続ける。

( ゚д゚ )「いやぁ偶然ですね。私はミルナ、詩吟をしながら各地を渡り歩いている者です。よろしく」
( ^ω^)「……あ、えっとよろしくだお。ブーンと言いますお。こっちはドクオ」

('A`)「……どうも」



18: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:33:01.17 ID:xi2RZUCV0
気さくな男、という印象。
このミルナという男も同じく闇市へ行くとの事だが……。

(;^ω^)「……」

黒いローブを着ていない。

( ゚д゚ )「え?ああ、ハハッ。用意しようと思っていたのですが、途中少しゴタゴタがありまして、無くしてしまったんですよ」
(;^ω^)「それじゃあ出られないお。そのまま行けば騎士団に捕らえられるお」

( ゚д゚ )「うーん。やっぱり、駄目ですかね?」

なんだろう。少し苦手だと、ブーンは考えた。
ドクオは言わずもがな。いや、人間と接するのが苦手なんだろう。

なんとなく、このままこの場所から離れるわけにも行かなくなってしまった。
そしてこの男の視線。独特なものがあって突き刺さるような感じだ。



19: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:36:39.41 ID:xi2RZUCV0
(;^ω^)「あ、あまりそうこっちをじっと見ないでくださいお」
( ゚д゚ )「ああすいません!!生まれつきこんな目を持ってしまって困っているんですよ」

ブーンはドクオを自分の顔のそばへと引き寄せる。

(;^ω^)(なんかもう逃げられない感じがするから、ドクオが着てるソレをこの人に貸してあげる事にするお)
(;'A`)(でぇぇ!?本当に言ってんのかよ)

(;^ω^)(もうしょうがないからドクオは棺桶の中に入ってくれお。もし闇市でローブがあればすぐに買うから……)
(;'A`)(なんでお前がそこまですんだよ……ったく。厄介事に巻き込まれたりすんじゃねーぞバカ!!)

( ゚д゚ )「?」
(;^ω^)「い、いやぁミルナ君!!よければローブが一つ余ってるんだけど、使わないかい!!?」
( ゚д゚ )「ほ、本当ですか!?是非使わせて下さい!!」

棺桶に入っていくゾンビを見られるのもアレなので、ブーンはドアを閉めて、その前にズイと立った。
ドアの向こうで鎖のジャラジャラという音が鳴っているのを誤魔化そうと、必死に咳き込む。

(;^ω^)「ん゛んっ!!!んあ゛〜〜げふんげふん!!!じゃ、じゃあとってくるお!」
( ゚д゚ )「お願いします!いやぁ嬉しいなぁ。心が躍るよホラ、何か素敵な音色が聞こえてきそうだ」



20: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:39:25.18 ID:xi2RZUCV0
ベッドの上に置いてある棺桶と、乱雑に脱ぎ捨てられたソレを見て、ドクオの心象が伺えた。
いそいそと棺桶とローブを部屋の外へと運び出すと、ミルナに渡す。

( ゚д゚ )「おや?その入れ物のようなものは?」
(;^ω^)「こ、ここにはホラ、あの〜……、そう!売り物が入ってるお!!」

( ゚д゚ )「あとお連れさんの姿も見えないようだけど……」
(;^ω^)「あ〜……、アイツはなんか急に眠たいとか言って、もう寝るとかなんとか。気にしないでいいお」


そう言って、気持ち早めにその宿の廊下を歩いていくブーン。
……ミルナは予想通り後ろをついてきた。



21: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:40:28.73 ID:xi2RZUCV0
(;^ω^)「そのローブはまた明日にでも部屋の前へ置いておいてくれればいいお。だからミルナ君はミルナ君で闇市を楽しめばいいお」

遠まわし、遠まわしに一緒にいたくない事を伝えようと必死だった。
だが、この男にはそのような事が通じない。

( ゚д゚ )「ブーンさん。いや、ブーン……。君はとても優しい……。
     僕達はわかりあえるとは思わないかい!?」

(;^ω^)「え……?」

とんでも無い奴に出会ってしまった。
ブーンは一瞬で後悔する。
まともな人間なら幾分かはマシだろう。だが、これは"範疇"を超えていた。詩吟だとか、そういう物事の量りでは無い。

( ゚д゚ )「君は運命の数刻を共にする価値のある人間だ!!そうだろう!?
     夜に咲く、あの水の花のように、一瞬だけでも輝きたい、そう願っているものなんだ!!」


死霊魔術師は、詩吟に出会う。
それはここでの出来事が始まる、引き金へと変わるのであった――。

( ゚д゚ )「ああそうさ……。この掌の中にしか生まれない時間があるとすれば、それもまた運命……。
     アアアッ!!!どうしてこの世はこれほどまで儚げで、虚ろかなのだろうかァッ!!!!!!」

(;^ω^)「た、頼むから静かにしてくれお!!」



22: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:41:56.79 ID:xi2RZUCV0
――――
―――
――

そして更に時は遡る。

ニュウスの南方に広がる樹海。
原生生物が行く手を阻み、方角すらも知らせないという恐ろしい空間。
そのちょうど中心から、少しだけ西にあたる場所に、小屋がある。
そこには"樹海の大魔導"と呼ばれた魔術師が住んでいて、森の秩序を守っている。

近くにある村や町に、そういう言い伝えがあるという。


('、`*川 「……おはようございますゥ師匠」
/ ,' 3「よく眠っておったようじゃのペニサス。もうあの者共は行ってしまったぞい?」

('、`*;川 「えっ!?本当ですか!!?なんで!!」

眠気眼をこすり、ペニサスはスカルチノフが座っている椅子に詰め寄る。
窓から少しだけ、だが強い光が差し込む。もう昼を少し過ぎていた。



25: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:51:28.61 ID:xi2RZUCV0
/ ,' 3「まあ最初からゆっくりとはしていなかったようだしの。ペニサスによろしくと言っておったよ」
('、`*川 「……っ。そうですか」

/ ,' 3「なんじゃ?何か用でもあったのかの?」
('、`*川 「いえ、ありませんけど……」

/ ,' 3「ほっほ。それと、もうツンが帰ってきておるぞ。今川へ水を汲みに行っておる、手伝って来てあげなさい」
('、`*川 「はい、わかりm……」

『もう終わったわよ』

小屋の入り口のドアが開く。
そこには、ペニサスと同じ、金髪のさらりとした神を持った女がいた。

ξ゚听)ξ「アンタ全くいつまで寝てんのよ。だらしない」
('、`*川 「う、うるさいわねぇ……。ちょっと寝すぎちゃっただけよ!」

昨晩泣きじゃくって、疲れて寝てしまったなんてペニサスが言えるわけも無く、ツンが口による攻撃を始める。

ξ#゚听)ξ「ペニサス、アンタが寝てるから私が街へ買出しに行って帰ってきてすぐに、
     水を汲まされに行くハメになったんだからね!次はアンタが両方行きなさいよ!」

('、`*;川 「むぅ……。わかったわよぉ」



26: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:52:02.22 ID:xi2RZUCV0
完全に言いくるめられているペニサスを見て、スカルチノフは少しだけ笑う。
そんな、樹海の魔術師達の戯れ。日常。

/ ,' 3「……」

これもいい。

/ ,' 3「ペニサス。さっきのお前の、あの二人が何も言わずに行ってしまった事への動揺」
('、`*川 「……?」

これもいいが……。

/ ,' 3「どういう意味合いが含まれておった?」
('、`*;川「え、それは……」
ξ゚听)ξ「?」

/ ,' 3「わしは思うんじゃ。あの二人は、色々な意味で何かを変えてくれるとな。
    それがどんな些細な事か、どれだけ大きな出来事かはわしにはわからん。
    だが、それに追随するのもいいと、わしは思っておる。ペニサスにも当てはまる事じゃ」

やはり、時というのは有限。
あるべき箇所に、あるべき物が無い期間というのは、妙に耐え難いもの。
だが、それもまた、一つの形なのだ。



28: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/27(木) 23:56:33.76 ID:xi2RZUCV0
/ ,' 3「言いたい事はわかるの。ペニサス」
('、`*川 「でも……」

/ ,' 3「行って来い」

そう言って、椅子から立ち上がると、呆然としているペニサスを抱きしめる。
その細い腕は、多くを知っていて、ペニサスを優しく包み込んだ。

( 、*川 「そ、そんな急に言われても、私はまだ魔法も一人前じゃないし……」
/ ,' 3「いいんじゃ。それでもいい。お前の心に生まれた感情があるじゃろう?それに素直になればいい……」

確かに、ペニサスは昨晩の二人に何か興味を惹かれた。
自分が知っている世界から、一歩踏み出せそうな、そんなきっかけを与えてくれたような気もしていた。
だからと言って、今のこの状況から抜け出したいという訳でも無く、この二人と別れたくも無い。

そう考えているペニサスの心の鍵を、一つずつスカルチノフは、的確に解いていく。

/ ,' 3「これは別れでは無いぞ。ペニサス、お前は少し長い間だけ、修行に行くんじゃ」
('、`*川 「!!」

/ ,' 3「辛くなったら帰ってきても良い。今はお前の気持ちに嘘をつくべきでは無いと思うんじゃ」
ξ゚听)ξ「……」

そこまで言われたら、もう決めるしかない。
見えない先の、霧を払って、新しい世界を見よう――。



29: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/28(金) 00:02:13.68 ID:AL37vWL40
('、`*川 「――わかりました。あの二人を追いかけます!!!」
/ ,' 3「そうと決まれば、あの二人の居場所を教えようかの」

ξ゚听)ξ「ちょっと待ってよ」

ずっと黙っていたツンが口を開く。

ξ゚听)ξ「……本当に行くの?」
('、`*川 「ええ。今、決めたわ」

ξ゚听)ξ「……そう」

一言だけ吐くと、ツンは小屋の奥へと行ってしまう。
やれやれ、と言った顔をすると、スカルチノフは、ブーンに渡した物と同じ首飾りを、ペニサスに渡す。

('、`*川 「これは……?」
/ ,' 3「ブーンと同じ首飾りじゃ。それは少しだけ魔法効果を持たせておっての、その石を持ってぐるっと周ってみてくれんかの」

言われるがまま、ペニサスは右手で首飾りを持ち、ぐるりと一周回ろうとする。
少しだけ周ったその瞬間、石が熱を持った。



30: ◆Cy/9gwA.RE :2008/03/28(金) 00:02:39.66 ID:AL37vWL40
/ ,' 3「その首飾りを持った者の方向へ向けると、埋め込んだ石が熱を持つんじゃ。
    近くにいけばいくほど、温度が上がるようになっておる。方角から見て、プラスに違いないじゃろう」

その首飾りを胸に押し当てる。
もう、後には引けない。
自分の目の前に広がる、未知の世界を考えると、胸が躍ってしまう。

('、`*川 「……わかりました」
/ ,' 3「ここに餞別じゃが、少しだけ置いておく、準備をしたら行きなさい。時間は有限なんじゃからの」


見習い魔術師のペニサスは、その日樹海の外へと旅立つ。
それはしばしの家族との別れ。
己の探究心が尽きぬ前に、その見ぬ世界のドアを叩く。


( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第5話『狂騒狂想共走教室』 完



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