( ^ω^)はネクロマンサーのようです
- 7: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:00:35.49 ID:dVcu7Ui40
- アニジャは少しだけ見上げる。
今、男が切り口を入れた供給柱が崩れ落ちてしまわないのか不安になったのだ。
見る限り、ただただ水がはみ出るほどの薄く長い切り口が入っているだけのようだった。
アニジャは安心するが、少し不安にもなった。
なぜならそれは、同時にドクオのあの刃の切れ味の強烈さもわかってしまうからだ。
何とは言わないが、一瞬にして脂汗が額に浮かぶ。目の前にいて、今から相手をしようとしているこの男は、
隊長と戦っている魔術師よりもずっと不気味で、ずっと"不自由"そうであったのだ。
その不自由が何を指すかは、まだアニジャの中で漠然としたもので、はっきりとしたイメージを掴める物では無い。
(;´_ゝ`)「……オトジャ。大丈夫か!?」
- 10: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:02:00.18 ID:dVcu7Ui40
- 水はまだ、勢いよく貯水場に噴出している。
壁にぶつけられたその衝撃で、意識が朦朧としていたオトジャを助けようとしたが、一歩先に進めば、一歩横に足をずらせば、
目の前にいるその不自由な男に首でも腕でも吹き飛ばされそうな予感がしていた。
男は何も言わず、ただただその兄弟の行動を楽しむかのように眺めている。
(´<_`;)「あ、あぁ。俺は大丈夫だ。だが……」
オトジャは少し小さめな声で、噴出す水、そして量を目で見て言う。
こうやって膝をついて立っていて、回復を待つのもいいだろう。だが、この水量では、空間が持ち堪えられない。
そして何より、あの男が黙っていない。
男にはまだ何かある。
- 14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:02:52.99 ID:dVcu7Ui40
- 兄弟そろって、男から出ている空気を感じ取っていた。
それに反してこの男ドクオ。
('A`)「……」
邂逅から二言三言、口を開いてからは全く喋る事は無く、どうやって来るのかを待っているのでも無し、
自分から仕掛けるのでも無し、ただボーッとしているようにも見えた。
( ´_ゝ`)「俺が何とかする。その間に回復しろ」
(´<_` )「……すまない」
アニジャが一歩、少し背筋を襲う悪寒に負けないように踏み出す。
その手で握る大剣を、上に構える。
肩を大きく上げ、体における防御を捨てるような体制をとった。
- 17: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:04:12.38 ID:dVcu7Ui40
- ('A`)「……」
( ´_ゝ`)「余裕……といったところか?」
また一歩。
ジリジリと近づいていく。
聞こえるのは、金属が水と石を踏みつけるような、どこかもどかしい音。
気づけば、もうアニジャの踝程まで水が迫っていた。
なぜか景色は変わらず、ドクオの目にはただアニジャがそこに構えて止まっているように映る。
( ´_ゝ`)「……答えもしないか。ならば……!!!」
アニジャの体が、急に滑り出したかのようにドクオに迫る。
ズイ、と一気に近づく。
- 21: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:05:08.54 ID:dVcu7Ui40
- ドクオはその体が近づいた事より、アニジャの発している熱気のようなものにいち早く敏感に反応した。
だがもうその時には、アニジャの大剣は"ぶれて"おり、ガードもカウンターも出来ない状況。
ドクオの体が後ろに動いたその直後に、足元が大きく割れた――。
('A`)「……!!」
もうあと一瞬遅ければ、体の前半分が引き裂かれていただろう威力。
腹の底に溜まるような、重い音、そしてその威力が空間に響き渡った。
何が起こったのか、ドクオにはよく見えず、よく理解できなかった。
いや、振り下ろしたのはわかる。だが、振り下ろしたまでの過程がよくわからなかったのだ。
- 25: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:06:27.30 ID:dVcu7Ui40
- ただ、あのアニジャの足捌きだけが印象に残る。
( ´_ゝ`)「我々の事は知っているな。我らプラス騎士団"三剣頭"の事を」
('A`)「……ああ。少しだけ聞いたよ」
ドクオが口を開く。
今まで何を考えて話そうとしなかったのかは定かではないが、アニジャの力量を見極めていたのか。
それとも、また別の、他の何かであるのか……。
だがドクオなら、何も考えていない、が妥当である。
( ´_ゝ`)「ならば……、ならばわかるはずだ。お前のした事の重大さを。
俺は嫌いだ。そこに正義の無い暴力は!!!答えろ!!!なぜこんな事を……」
スッと、胸の鎧に継ぎ目に刃が入り込む。
人を舐めるように見る、その目、口がニヤリと笑う。
- 26: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:07:40.86 ID:dVcu7Ui40
- ('A`)「俺達の正義は知らんぷりか。いい主観を持ってんじゃん」
( ´_ゝ`)「……!!」
アニジャがその刃を払いのけようとする前に、ドクオは腕についた異形の刃物を引っ込めた。
そして少し距離を置き、もう一度構えを元に戻す。蟷螂のように、刃を力なく前に突き出す。
力なくとは言うが、そこには昆虫独特の柔軟な力が見受けられる。
('A`)「次はねぇぞ。俺は"少しだけ"お人よしなんだ。
それでもまだゴチャゴチャ喋るようなら、今やった先の事をする」
ドクオが、何か急ぐように口を進める。
- 30: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:09:02.78 ID:dVcu7Ui40
- だがそれに、アニジャが答える事は無かった。
もう一度、同じ構え。ドクオが見極められなかった、あの振り下ろす感覚。
構えを使う本人にはよくわかっていた。筋肉が鳴動し、喜び勇んでいる事を。
力が心臓に集まり、また全身に広がっていくその感覚。
『もう少しだ』
そう、アニジャは心の中で呟く。
雄としての噴気が、そこまで迫っている。
( ´_ゝ`)「……ふっ……ふーっ」
もちろん、アニジャ自身もそう思っていた。
今はこのプラス騎士団として戦っているが、一つ刃を浴びせてからは、それが少しずつ変わってきたのだ。
目の前にいる不審者はそれだけでは済ませない何かを持っている。
それが例え些細な事だとしてもだ。見逃してはいけない。
全力でぶつからなければいけない。
- 34: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:11:17.18 ID:dVcu7Ui40
- (#´_ゝ`)「ふぅぅううん!!!!!!」
もう一度、あの足捌き。
右足を滑らせ、左足はそれを食い止めるかのような置き方。
目標はドクオの脳天だけ。
押しつぶすようにその大剣の先端から力をぶつけるだけ。
('A`)「同じ――!!」
結果で言うと、アニジャの斬撃は外れる。
いや、外れたのでは無く、受け流された。
(;´_ゝ`)「一回!?いや、二回目でッ!!」
そのドクオの右腕についた刃が超重量の大剣を見事に受け流したのだ。
ガリガリ、といった重い音、そして火花を少しあげて大剣は地面に叩きつけられる。
- 41: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:13:43.00 ID:dVcu7Ui40
- 泥水のしぶきが大きくあがり、双方に飛び掛った。
ドクオはそのまま受け流した刃をくるりと翻し、反撃に移る。
大剣の重さ、鈍さを利用した"1番"による怒涛の攻撃。
なんとかアニジャは刃を大剣で受け止めるが、足が気になる。水が増えてきたのだ。
(;´_ゝ`)「くっ……!!」
水が増えてくるだけ、それならまだいい。
問題は……。
('A`)「随分、鎧が重たそうだなぁ!!!」
鎧の足甲部分に水が入り、思うように足が動かせないのだ。
かと言って、戦闘中に脱ぐのを待ってくれるお人よしなどいない。
- 45: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:16:00.95 ID:dVcu7Ui40
- 重たい体に、重たい武器を持ち、素早い体を持ち、素早く攻撃を繰り出してくる男と戦わなければいけないのだ。
右から、左から……。撓るような刃が飛び交う。
それをアニジャは間一髪のところで防ぎきる。目がめまぐるしく動き回り、一撃一撃は小さいが、翻弄するには十分である。
そして、徐々にドクオが圧していく。
回転しながら攻撃を加えるドクオに翻弄されながらも、アニジャはその堅牢な防御を崩す事は無い。
アニジャも、防御一辺倒でいるつもりは無い。ただ、このドクオの息切れを狙っていた。
当てる事が出来れば、間違いなく一撃で葬り去れるのであるから、相手のペースさえ掴めてしまえば決める事など容易であると考えた。
(;´_ゝ`)「……っ。く、ふん……!!」
('A`)「もうすぐ、壁だぜぇ……!!!」
しかしこの男に息切れやってこない。
同じアニジャは、この素早い連続攻撃を防ぐだけで息があがりそうだと言うのに、ドクオにはそれが無い。
刃一つ振るうのに、緊張、殺意、その他の全てが体に負担をかける。
それを無視しているかのような、最初からの"飛ばしっぷり"に疑問を抱く。
- 54: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:21:13.99 ID:dVcu7Ui40
(;´_ゝ`)「こいつは……!!!」
アニジャが地面に刃をつけるかのように防いだ瞬間。
ドクオは器用にアニジャの持つ大剣の樋に刃をひっかけ、そのまま反動を力にし、空中へ飛び跳ねた。
(;´_ゝ`)「何者だ……ッ!!!」
とっさに上を見上げるアニジャ。
するとドクオは天井にぶら下がっていた。
よく見ると、刃の形状が微妙に変化しているのが見受けられる。
さっきまでは少ししなりを持った刀剣のようだったのだが、
今はそれとは違い、まるで鉤爪のような形をしていた。
(´<_` )「……アニジャ。すまない、迷惑をかけた」
オトジャがゆっくりとその場から立ち上がり、斧を構える。
ズン、と大きく地面に石突の部分を叩きつける。自らを鼓舞するかのように力を入れると、オトジャの目に火が灯った。
それは戦いの炎。こうまで舐められておいて、怒らない騎士などいない。
- 58: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:22:47.58 ID:dVcu7Ui40
- ('A`)「あんな水でぶっ倒れるお前に、俺が倒せるとは思えないな」
鉤爪をひっかけたまま、ぶらりと垂れ下がり相手を挑発するドクオ。
ただその挑発は安っぽいもので、二人が乗るはずも無かった。
天井までは約4メートル。
(´<_` )「さあ、次は俺と勝負だ。降りてきてくれないか」
(;´_ゝ`)「おいオトジャ……。そんな余裕がある状態では無い!!」
('A`)「そうだぜ。そいつが言うとおり、斧のアンタじゃどうかとは思うz……」
言葉を切る。
その表現が正しいかはわからないが、ドクオの顔のすぐ隣を手斧が通過した。
天井に深く刺さった手斧は鈍く光っている。
(;'A`)「……よ、よっしゃ。じじ、じゃあやってやんよ」
- 64: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:25:45.32 ID:dVcu7Ui40
- (´<_`#)「アニジャ。アニジャは今頭に血が上っている。それではこいつに勝てない」
(;´_ゝ`)(お、お前だろう上っているのは……)
戦斧を片手で地面に引きずるように構え、オトジャは言う。
アニジャはここで言っても聞くような奴では無いと諦め、水が増えつつあるその空間、貯水場の入り口にどっかり胡坐をかいて座った。
('A`)「なんなら、その足、脱ぐの待ってやるぜ」
(´<_` )「そんな事をせずともお前の首は軽く跳ねられる。さあ、始めよう」
('A`)「言うじゃないか!」
ドクオは体をかがめるようにして走り出す。
水面に展開される波紋より速く、オトジャに近づいていく。
斧の範囲に入る瞬間に、ドクオは右方の壁へと飛んだ。そのまま壁をつたい後方にまで回り込む。
その一連の動きを、自分の目を確かめるかのように追うオトジャ。
先程の汚名を返上しようと必死になっているのか、それとも冷静になって物事を見据えようとしているのか。
どちらかは定かではないが、確実に先程のオトジャへの攻撃が通ったのは不意打ちだったから、という事で間違いは無いようだ。
- 68: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:28:53.23 ID:dVcu7Ui40
- (´<_` )「小細工か……。ならばこちらも、少し変り種を出す」
すると、オトジャは素早く肩甲を外し地面に放り投げる。
(´<_` )「プラス騎士団というのは、こういう輩からこのプラスの秩序を守るために存在している」
('A`)「――?」
そしてドクオの攻撃が始まろうというその時に、オトジャは言い聞かせるようにプラス騎士団のあり方を話し出した。
頭の打ち所でも悪かったのだろうか?そうドクオは考えながらも、壁を蹴り放ち、高速でオトジャに接近する。
肩甲を外したオトジャは、そのまま騎士団の説明を口で呟きながら、斧で突くような体勢に変える。
(´<_` )「まず正義というものが、我々のすぐそばにある事を知っておかなければならない――」
('A`)「一気に――!!!」
三角形を描くように円形の空間を壁伝いに飛び、オトジャの斜め右から一気に攻め立てた。
大きく振りかぶった右の刃は、先ほど壁に捕まったあの鉤爪のように変形しており、引っかかればそのまま肉をそぎ落とされるのは避けられない。
しかしオトジャはその方向をしっかりと見極め、ドクオに立ち向かうように構えを崩さない。
- 73: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:30:59.93 ID:dVcu7Ui40
- ('A`)「一人目!!!」
(´<_` )「……今ァ!!!」
ドクオが振るうその一筋の刃がオトジャの首筋目掛けて放たれる。
しかしその攻撃はオトジャに到達する前に、ある結果を受けた。
('A`)「……な!!」
ドクオは見た。
己の目の前で"1番"が削り取られるように無くなっていくのを――。
(´<_` )「いいか教えてやろう。吹き飛ぶ前にな。祈るのもいい」
メキメキと、音を立ててバラバラにされる刃。
その場から離脱しようにも、何かが掴んで話さない。
ドクオは焦りを覚える。
それは、今このオトジャが言った吹き飛ぶという事。
わずかに感じられた瞬間の風。
- 77: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:33:03.23 ID:dVcu7Ui40
- (;'A`)「……ッ!!」
(´<_` )「なぜ三剣頭と呼ばれるか、それは……」
(;'A`)「な、ならもう片方で……っ!!!」
(´<_` )「個々が独立した、秘技を習得しているからだ」
その瞬間。
ドクオは数刻、意識を失う――。
復活したとき、ドクオは体を石壁に減り込ませ、その場に打ち付けられたかのようになっていた。
カラカラ、と音を立てて落ちる石破片。オトジャは、突っ込む前の体制そのままであった。
少し霞む視界。
水の流れる音が妙に頭に響いた。
何をされたか、なぜこうなったかなど、わかるわけも無かった。
魔術かとも考えたが、すぐに頭の中で却下する。魔力を少しも感じないからだ。
オトジャは人間、人間なのだが、人間以上の力を持っている、という所までは理解ができた。
こんな人間は……いた。
昔から。
それをドクオは少しだけ思い出す。
- 81: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:34:43.17 ID:dVcu7Ui40
- そしてドクオがグラリとした状態で立ち上がろうとしている所に立て続けに、何か素早い物が接近するのがわかった。
体が鈍い。動く前に声が出た。
(;'A`)「ちょッ……!!!」
防御する暇も無く、再度壁に大きく叩きつけられるドクオ。
飛んできたのはおそらく風の刃。衝撃波。
体の周り、石壁にひっかいたような後が無数についた。
(;'A`)「げッほ、げほ……ぐぅっ」
体を見ると、細かい傷がいくつも入っていた。
自分がゾンビでなければと考え、ドクオはゾッとする。
『痛いのは嫌なのです』
それがドクオの死後のポリシーである。
実にわかりやすい。
- 85: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:37:25.24 ID:dVcu7Ui40
- (;'A`)「きりもみ状の風か何か……?」
(´<_` )「体の中に、何か仕込んでいたか?」
もう一撃を危険視し、すぐさま供給柱の裏へと身を潜める。
いくらゾンビといえど、体を細切れにされては攻撃ができない。ブーンによって治してもらわないといけなくなるのだ。
いや、今のこの状況でも十分迷惑をかけるだろう。
('A`)「……アイツ、何でこんな無茶するんだよ……」
ドクオは隠れ、少しブーンの事を心配な胸の内を漏らす。
そう、今は朝日が昇っている午前中なのだ。
――――
( ^ω^)『それは"太陽が出ている間にドクオを呼び出さない"という事だお。
この制約自体、それほど厳しいものでは無いんだお。でも、破るとキツいんだお』
/ ,' 3『……聞いてもいいのかの?』
( ^ω^)『死ぬんだお』
――――
もう、一人の人間を助け出す為に何度生死をかけたギャンブルをしたのかわからない。
この制約一つでも破れば、即、死が待っていたのだから。
- 90: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:39:27.52 ID:dVcu7Ui40
- ('A`)「でも、これでわかったんだよな。
"日が昇っていても、太陽の光が届いていなければ制約を破った事にはならない"って事がよ」
ドクオは腕を見る。
右腕の"1番"は完全に破壊されてしまっている。もうこの戦闘では使い物にはならない。
左腕の一本をグッと構える。
すると、催促を促すかのような風が一陣飛び跳ねた。
供給柱のすぐ隣を駆け抜け、水しぶきを当ててくる。オトジャからの挑発。
(´<_` )「さあ。来るがいい名も知らぬ人殺しよ。
我が葬り去ってくれる!!!駄目のアニジャの代わりにな!!!」
(;'A`)「……っ」
(;´_ゝ`)「……」
――――
―――
――
- 95: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:41:48.25 ID:dVcu7Ui40
- 真っ暗な道を、ただただ走り抜ける二つの足音。
北に向かっている事だけはわかるが、その先に何があるのかは二人にもわかっていなかった。
( ゚д゚ )「はぁ……はぁ。これ、道あってるんですか!?」
何も言わず、魔毛のローブを乱雑に肩にかけた鞄にしまい、木の枝程のタクトを手に持つ。
地下はなぜか蒸し暑い。それがブーン達のいきなりの頼みへの苛立ちにさらに拍車をかけた。
('、`*川 「わかんないわよ!わかんないわよ!!」
(;゚д゚ )「なんで二回……」
('、`*川 「重要だからに決まってるじゃない……はぁ。
それにしても、どこに出口があるのかしら?」
ペニサスは足を止めて、腕輪に力を込める。
そして魔力を込めてタクトで八の字に描くと眼前に小さな炎が現れた。
- 98: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:43:35.30 ID:dVcu7Ui40
- ('、`*川 「会ってすぐよ……。いきなりトラブルに巻き込まれるなんてうんざりだわ。
まああの二人についていくって決めた時点で無駄か……」
ぼやきながらもその炎を先へと送り込む。
真っ直ぐ続く水路を照らしていくが、まだ出口は無いようだ。
( ゚д゚ )「あ、あの……。ペニサスさん。一つだけ質問してもいいですか?」
('、`*川 「なに?いいわよ?」
( ゚д゚ )「ブーンとドクオ、それにペニサスさん以外にも魔術師は沢山いるんですか?」
('、`*川 「そりゃあいるわよ。人間程沢山って訳にはいかないんでしょうけど。
こうやってアナタの周りにも三人も魔法が使えるのがいるのよ?いても不思議じゃないでしょ?」
ペニサスの言葉を聞いて、ミルナの目は輝いた。
もう、爛々と。
- 102: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:45:01.69 ID:dVcu7Ui40
- (;゚д゚ )「そ、そう言われればそうだ!!僕がいた、僕が認知していた世界なんてまだまだ小さい物だったんだ!!
魔法、剣の世界に僕は今足をつけているという事……。そして今までの小さな世界じゃなく、これからの大きな世界が、
僕の目の前に決められた道のようにではなく、まるで穴が沢山あって、道が無尽蔵にある洞穴のような……。
それも深く、大きな!!今だってそうさ!!助けてもらった。助けてもらったという事に感謝は忘れちゃいない。
その感謝の奥に、新たな探究心、可能性、全てがあるんだ!なんて素晴らしいんだろう!!涙が出そうだ!!
ペニサスさん!あなたもそう思いませんか?思いますよね、そうですよね!私もあなたも同じ気持ちです。
共有すべきは世界観。あなたの世界観のなかに足りない物を僕の世界観が持っているかは定かではありません。
ですが感覚、気持ち、思想、理念、その全ての共有をしていくことによって世界は広がり、価値観としてその人間に芽づく!
魔法があるならば、僕はその魔法の世界を見てみたい!生きて帰って、この書を見届け、託してくれたあの人にお礼を言わなければ!
魔術師というあなた達に出会えてなんとうれしい事か!この世に生れ落ちた、産んでくれた母親、父親と同等な……」
('、`*;川 「そぉい!!!」
(゚д( )「あたふっ」
反射的にミルナの頬にビンタを叩き込んでしまった。
ペニサスは、倒れて水路に顔を突っ込んだミルナを見てあたふたとする。
- 106: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:46:11.01 ID:dVcu7Ui40
- ('、`*;川 「や、やっちゃった……!!だ、大丈夫!?ごめんなさい余りにも気持ち悪……、じゃなくてええと」
( ゚д;( )「は、ははっ!虫か何かですよね!それよりさっきの話の続きですが……」
('、`*;川 「そぉい!!!!」
( )д;( )「すぐりっ」
またぶっ倒れるミルナを見て、ペニサスは心の中で『何なのこの人……』と呟く。
そして早く切り上げたい気持ちで一杯だった。
そのまま真っ直ぐ進むと、少しだけ日が差し込んでいるのがわかった。
すぐに扉が見える。
( ゚д゚ )「あっ、木の扉が見えます。あれが出口かもしれませんね」
('、`*川 「ようやく湿っぽいところから脱出ね……、って、のんびりしてる暇は無いんだったわ。
はやくドクオの所にブーンを連れて行かないと、ドクオが倒されるかもしれない!!」
- 110: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:49:20.33 ID:dVcu7Ui40
- ( ゚д゚ )「そんな……。ドクオがやられるとは思えないですよ。
あんな強さを持っているし、それにゾンビという使い魔……」
('、`*川 「それが不味いのよ。今の時間を考えてみなさい。それに、術者と"離れすぎて"る。
たとえ日中で活動できたとしても、それで本来の力が出せるなんて思えない」
ペニサスの顔が、少しだけ険しくなった。
足取りは速くなり、ミルナもついていこうと必死になる。
ペニサスの言葉が何を指しているか、ミルナもわからないなりに理解したつもりだが、ドクオが負けるなどとは考えられなかった。
扉を少しだけ開き、キョロキョロと周りを見渡す。
('、`*川 「とりあえず周りには誰もいないみたい。やっぱりブーンが起こした騒動に人が集まっているようね。
出るなら今。さあ、行きましょう。あなたは宿に戻って、私はブーンを助けに行かなくちゃいけないの」
( ゚д゚ )「……わかりました」
しかし、状況は確実に危ない方向へと向いていく。
- 114: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 21:52:32.42 ID:dVcu7Ui40
- ――――
―――
――
貯水槽。
供給柱から飛び出す。すると狙い済まされたかのように飛んでくる風。
間一髪でかわすと、増えつつある水量に気をとりつつ迂回していくようにオトジャへ接近する。
どうやら、あの風は斧を突く体勢のまま刃を超高速で回転させて発生させているようであった。
('A`)「器用な奴!!!」
(´<_` )「また性懲りも無くッ!!!」
姿勢を変え、また片手で構える。
ドクオの掬うような斬撃を腰に備え付けてある手斧で受け止めると、
オトジャは大斧をドクオの体丁度目掛けてぶつける様に振るった。
しかしドクオは体をくるりと折りたたみ、
斧の軌道を読みきるように回避する。
とっさに手斧を足元に投げるが、それすらも転がるように避けてしまう。
一撃を求め、後先を考えず攻撃してしまったオトジャは、腕を交差するような体勢になってしまい、一気に殺意が体を伝うのを感じた。
覚悟を与える時間も無く、ドクオの刃は右腕の関節部分を浅いながらも切りつけた。
- 123: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:00:09.22 ID:dVcu7Ui40
- 鮮血が地面にパタパタと落ちるも、水に吸い込まれてしまう。
(´<_`;)「……ぬぅぅッ!!」
思わず斧から手を離し、その場から二、三歩下がるオトジャ。
傷は思ったより深くは無く、まだ戦闘を続けられる事を確かめた。
('A`)「小細工に頼るからっ!!」
続けざまに鎧など関係無く刃を叩き込む。
ただただ腕を交差させ急所を避けるしか無いオトジャを見て、アニジャは身を乗り出しそうになる。
('A`)「二対一でもいいんだぜ!!!そこですっこんでるだけなら、消えてろ!!!」
( ´_ゝ`)「……ッ」
すると、ドクオの振るった刃をそのまま防御もせずオトジャの右腕が受け止めた。
鎧部分に当たるように調整したのか、刃が減り込む形になり、ドクオの腕を瞬間的に止める。
武器を持っていないオトジャはそのまま減り込んだ腕を大きく振るい、ドクオの肩口から地面に叩きつけた。
強い腕力が持つからこそ出来る荒業。ドクオは叩きつけられた衝撃で1度大きく跳ね上がる。
外れた断面からは先程とは非にならない血が噴出す。
だがオトジャは構わず、宙に少しだけ浮いているドクオに思い切り蹴りを打ち込んだ。
- 127: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:01:52.66 ID:dVcu7Ui40
- ( A )「が……っふ」
弧を描くようにして吹き飛ぶ。
オトジャはすぐに斧を持ち直すと、そのまま倒れているドクオに畳み掛けるようにして斧を構え、突進する。
ドクオの意識ははっきりとしていない。だが、体はまだ動く。
オトジャがその鎧の重さを無視するかのように飛び上がり、体を大きくそらす。
力を全て、体重を全て体の先、腕の先に集める。
('A`)「……はっ、はぁ……」
(´<_` )「これを防ぐか!?」
全身の筋肉を全て使った一撃が、ドクオの体中心目掛けて放たれる。
空間に溜まった水が全て吹き飛ぶ。円状に広がる波紋。
遠くで見ていたアニジャも立ち上がり防御の構えをとっていた。
(;´_ゝ`)「むおぉ……、加減を知らんのか!!馬鹿!!」
そこら中に石が飛び散る。壁もボロボロになっていた。
水煙が一面にぼんやりとかかっており、アニジャは更に周りを見渡す。どうなったのかがわからない。
だが、オトジャのあの一撃は確実に入っていた。
あの状態からかわせるような速度、威力では無い。
- 133: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:03:38.57 ID:dVcu7Ui40
- (´<_` )「……アニジャ」
煙の中からオトジャが一人、斧をかついで現れた。
どこか暗い顔をして、こちらへとくるものだからアニジャはどうしたのかと訊ねる。
( ´_ゝ`)「仕留めたのか!?仕留めたのなら隊長の所へ……」
(´<_` )「駄目だ」
(;´_ゝ`)「な、何が駄目だと言うのだ?」
オトジャは、アニジャの手をそっと握る。
そして一言。
(´<_` )「アニジャ。生きて帰るぞ、正義を貫く」
- 139: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:05:36.77 ID:dVcu7Ui40
- その言葉の意味は、すぐにアニジャにもわかる。
細かな水蒸気、水煙の中に立ちすくむ、一人の男の影を見てから。
条件反射のようにアニジャは大剣を構えた。その立ちすくむ男の執念が、今にも噛み付こうとしていたからだ。
なぜオトジャがアニジャの手を急に握ったか。
それは、あの男の禍々しい念を近くで浴びさせられたからであろう。
安心が欲しかったのだ。身近な安心が。
澱んだ目がギラリと輝く。
(;´_ゝ`)「……化け物め」
(´<_`;)「だが、俺達より、前を見据えているのかも知れん」
見えてきたのは、己の左腕を、右手で持った男。
肩を、またひくつかせ不気味に笑う。よく見れば、左肩から胸の少し上まで切れ目が入っていた。
常人なら死んでいるだろう。
だが、ドクオはもちろん常人では無い。
なので、死なない。
- 146: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:07:30.38 ID:dVcu7Ui40
- オトジャ達の頭に浮かぶ、この男に対する謎。
もちろん、この兄弟達の間にゾンビ、不死者という概念はほぼ無い。
しかしそれも直に気づく事だろう。
('A`)「……なんかさ、スッとしたよ」
男は狂っている。
自分の境遇に。自分の存在に。
('A`)「それに、忘れてたわ」
自分の腕を一振り。
刃がついている部分を兄弟二人に向ける。
(;´_ゝ`)「……!?」
(´<_`;)「悔しいが、さっきまでの自信をかき消されてしまった」
一息。
- 150: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:09:29.97 ID:dVcu7Ui40
- (#'A`)「魔術を……使うぞおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
もう、一息。
(;´_ゝ`)「な、何なのだこいつは!!掴めないにも程があるぞ!!!」
ビリビリと、音が貯水場に伝わる。
丁度その時に石の柱が一本、また一本と崩れ落ちた。
土煙と水煙が混ざり、はねた水が泥に変わり一気に色を変えていく。土臭く、泥臭い。
それは母体の神聖さも、死体の陰気さとも似た臭い――。
鼻をつく。
(´<_`;)「こいつは、隊長が相手をしている男より、厄介な奴だ」
また肩をひくつかせニヤニヤと笑う。
そして、またもう一息。
('A`)「さっきまでは"外道"を見せた。これからは"悪者"を見せてやる」
- 154: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:10:54.36 ID:dVcu7Ui40
- ――――
―――
――
ブーンは、自分の分が悪くなってきている事をちゃんとわかっていた。
あれほど派手な戦いをすれば、街にいた人達が集まってくるのもわかる。
もちろん、街の住民が集まれば、今警備にあたっている兵士達も来るのであって、
この路地裏。味方は一人もおらず、敵は真ん前で剣を構えている女と、
それを取り囲むかのように、逃がさないように見張っている兵士数十人もいた。
腹に刻まれた傷の痛み、そして出血も気になる。
少し手をあてて深呼吸を一つする。
- 155: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:11:27.28 ID:dVcu7Ui40
- そしてブーンは思い出す。
口で、詠唱を続けていた事を。
( ^ω^)「毒の種を蒔くお!!!」
手を伸ばし、クーのいる方向目掛けてバッと何かを放り投げる。
クーは警戒し、その場から下がる。
ブーンが放り投げたのはまたあの不気味な色をした"種"であった。それはブーンの前方に6,7個。
地面にカラカラと音を立てて落ちる。
川 ゚ -゚)「……なんだこれは」
( ^ω^)「壁だお」
魔力を籠め、ぐっと念じると先程の蔓のような物が種からあふれ出す。
- 161: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:15:33.63 ID:dVcu7Ui40
- 川 ゚ -゚)「方法さえ違えど、同じ小細工には興味は無い!!!どけ!!!」
クーは身軽なその体であふれ出す蔓の上を跳ねて渡る。
うねうねと、苦しそうにもがいている蔓。
あっという間にブーンの眼前にまでクーは進む。
だが、その壁と言った意味を理解しきれていなかった。
魔術師における戦闘。魔術師が文字通り、バカ正直に本当の使途を話す訳が無い。
川 ゚ -゚)「次は首をもらうぞ!!!」
( ^ω^)「せっかちだお」
その言葉を聞き、クーは後ろを見る。
するとそこには先程までうねっていた蔓に、綺麗な赤色をした花が咲いていた。
( ^ω^)「急いては事を仕損じる、なんて言葉が遠くにあるらしいお」
- 166: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:17:21.64 ID:dVcu7Ui40
- 川 ゚ -゚)「……!! 苦しそうにしていたのは、咲く前だったから――!?」
( ^ω^)「さて、愚者には罰を与えるお」
そしてクーに浴びせられる花粉。
花がクシャミをするように一斉に放たれたそれが、全身を包む。
( ^ω^)「もう口は利けないかもしれないけど、これさえあればこの街の人間なんて簡単に殺せるお」
地面に崩れるように落ちたクー。
ビクビクと震え、目の焦点があっていなかった。
口から吐瀉物を強烈に吐き出し、体は徐々に丸まっていく。
川 - )「……か、ふっ……あ、…………ぐ」
時折聞こえるクーの声。
咳をしているのか、息も十分にできていないのか。
そのクーを背にし、周りにいる兵士に一言言う。
- 171: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:18:58.42 ID:dVcu7Ui40
- ( ^ω^)「今、すぐにでもこの隊長さんを治療すれば助かるかもしれないお。
体の表面から一斉に、中に毒素が回っていくんだお。これ以上やると言うなら僕は、
この女の体に、この種を植え付けるお。そして街に同じ種を植え付けるお。さあ、そこの兵士さん。決めるお」
答えなど、誘導されているものと同じで決まりきっていた。
『おい!!早くしろ!!!お前はすぐに医者を!!!』
『ここから早く離れて!!!家から絶対に出てはいけない!!!』
阿鼻叫喚。
ブーンが一瞬で造り上げた混乱。
その騒ぎを見ていた老人は、ブーンの悲しそうな顔が印象に残ったという。
そして、兵士たちの手によって運ばれていくクー。
だが、それを本人が許さなかった。
震える手で兵士たちの助けの手を払いのけ、そしてその内の一人が腰につけた剣を引き抜く。
- 175: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:19:51.99 ID:dVcu7Ui40
- 川 - )「お……ぃ、ずを」
ブーンは驚く。
今自分の背後にある植物の毒花粉を喰らって、なお戦おうとしているのだから。
剣を持つ手は震え、足さえ満足に動かない。なのにまだ剣をこちらに構えているのだ。
(;^ω^)「なんで、なんでだお。なんでなんだお!!!!!」
川 - )「……は、く……」
そして……。
ブーンは、逃げた。
訳のわからない、重さが体を這ったから。
それがあの女の物だとはわかった。
だが、なぜ自分が逃げるのかはわからなかった。
水路に入り込んだブーンは、そのままドクオのいる方向へと走っていく。
顔からはなぜか涙が流れ、体はあの女のように震え、全身が冷たくなり、どうすればいいのかわからなくなった。
- 179: ◆Cy/9gwA.RE :2008/04/27(日) 22:22:32.39 ID:dVcu7Ui40
- ――――
―――
――
それと同じくして、プラスの北部に位置する神判堂。
男が街を見下ろし、ブーンのように、ニヤニヤとその光景を眺めていた。
『申し上げます!!現在、街の南部路地にて……』
『知ってるよ。魔術師が暴れてるんだろ?』
『は、はっ!そうであります!!』
『で、僕の出番って訳だろ。君達駒がなんとかしてくれれば、僕は"ここ"から出ずに済むんだから』
『申し訳ありません!!では、ヒッキー様におまかせしてもよろしいのでしょうか』
(-_-)「いいよ、やってあげる。でも夜になってからね。
あと、人は皆家から出さないでよ。人が一杯いるところは嫌いなんだからね」
もう一人の魔術師。
ヒッキーと呼ばれたその男が、二人の影に近寄る。
( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第8話『三剣頭戦闘教室』 完
戻る/第9話