( ^ω^)はネクロマンサーのようです

9: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:00:13.31 ID:wNkqsKEq0
人が嫌いである。
何が嫌いだとか、どこが嫌いだとかいう次元では無かった。

魔術師としてこの世に生を受け、その才能から両親や、生まれた街の人達に愛でられていた。
己も、己の力そのものを理解し始めていたし、そこからくる探究心。未来への期待も知っていた。

だが、今は違う。
人が嫌い、という事が、体の奥の奥の、また奥に植えつけられている。

ヒッキーの心に何が起き、どうしてこうするに至ったかは、本人と"ママ"にしかわからない。

(-_-)「……ちょっと、ちょっとだけワクワクしちゃって。うん……うん。
    で、でも外にはあまり出たくなかったから……。人が、うん。そうなんだ」



11: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:02:25.41 ID:wNkqsKEq0
しかし誰もいない。
そこには、誰もいない。
ヒッキーが一人で、空間に向けて言葉を発する。
言葉を投げ、返ってはこない言葉に、また言葉を投げ返す。


(-_-)「ママはどう思う?あの魔術師……。え、そんな僕の敵なんかじゃないよ!
    僕はこうやって、ママと同じ部屋でずーっと、ずっと暮らしていたいからさ、だからこうやって戦おうとしているんだよ?
    ママがいなきゃこんな事してないさ。ね、だからママ。もう一回僕のほっぺを摩ってよ、ママ……」

姿無き、偶像に縋る。
その大きな部屋にあるのは窓。大きな"二人用"のベッド。
見えない"ママ"がこよなく愛したガーベラの花。そして本が一冊。

ヒッキーは指輪を右手の中指に。
指輪には綺麗な色。まるで瞳を吸い尽くされそうな色をした青の石がはめ込まれていた。
舐める様に眺め、そして眩しい太陽の光に映す。



13: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:05:10.99 ID:wNkqsKEq0
(-_-)「夜になれば、僕は戦うよママ。
    だからここで見ていて?ママ……」

ママに貰った、幼き頃からの期待。
ママに貰った、幼き頃からの愛情。


人から受けた、裏切り。


それを全て胸にしまいこみ、自分の足場を崩そうとしたブーンにぶつける。
魔術師は空を見る。

(-_-)「お前には……どう見えてるんだよ。魔術師……!!!
    綺麗に見えてんだろうさ。どうせ。それも、蒼く澄み渡った色に……。
    僕の、僕の……。僕とママの世界を奪わせやしない!!!」


――――
―――
――



15: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:08:07.81 ID:wNkqsKEq0
ブーンは、その震える足を忘れるように走っていた。
だがあの女から逃げようとする事は、さすがに忘れられず、ただただ必死に。全力で。

(;^ω^)「……ふーっ!ふーっ!!」

目の前が歪むようだった。
あれは、瀕死の女が構えるような物ではなかった。
見た目は、か弱く、震えた死線スレスレの剣先の動き。
しかしそこからは柔軟、かつ剛毅な変化のついた強さがあったのだ。

見えていた。だが見えなかった。
あのまま戦っていれば、お互い無事では済まなかっただろう。

ブーンは、その強さを知らなかった、ただそれだけ。
そして、これから知っていく事になるという事も知らなかった。

(;^ω^)「なんだお……。さっきのは一体!!!あんなの反則なんだお!!
       せっかく生かしてやろうと思ったのに、あれは無いお!!!」

少し、強がりを口から出す。
すると少し先から、金属がかち合うような音がしてきたのだ。



16: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:10:03.34 ID:wNkqsKEq0
立ち止まり、すぐにドクオの事を思い出す。
クーのあのイレギュラーな構えによってすっかり頭から消し去られてしまっていたのだ。
そしてすぐに、またあのクーの構えが頭を過ぎる。

あの女が使うのなら、あの男二人も使うと考えてもいい。
自然にその考えに行き着く。時間はかからなかった。

(;^ω^)「……はっ!そうだお、ドクオ。ドクオだお!!
       すっかり忘れてしまっていたお。あの女、どこまでも鬱陶しい奴だお!!
       い……いや、ドクオが影薄いだけかもしれないお……。と、とにかくまだ魔術は」

人差し指を立て、そこに小さい毒を発生させる。

( ^ω^)「よし、あと何回かくらいならいけそうだお。
       まだ効いているお。よし、それじゃあ……」

少しだけ足を早める。
小瓶を一つホルスターから取り出すと、右手にギュッと握りそのまま真っ直ぐ進んだ。



17: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:12:12.74 ID:wNkqsKEq0
ブーンが魔力を気にするのも無理は無い。
魔術師には、魔力タンクと呼ばれる形のない体内器官が存在する。
各々その限界という物があり、それを超えると、実質的なペナルティが訪れる。

ブーンで言えば、魔力タンクが魔力の増幅を求める為、魔術が使えない期間が少しの間続く。
使える魔力といっても、そのタンクの中身全てが使える訳では無い。古の魔術師はこう説いた。

『魔力の底の魔力。それこそが不可視の魔力。そして、触れてはいけない魔力』

人間の意識に、深層というものがあるように、魔術師の魔力タンクにも深層があると言われる。
其処に触れてしまうと、実質的なペナルティが発生すると考えられていたのだ。

ただ、そこをブーンは勘違いしていた。
ブーンは、魔力量ではなく、魔術を使用した回数と捕らえていた。
そしてそこに中途半端に魔力量を絡ませ、何とも言えない複雑な事になっていたのである。

(;^ω^)「とりあえず、ここを乗り切ってドクオ、ミルナ、ペニサスさんと合流しないといけないお」

そして、暗がりの中、足元を少し見る。
何か微かに、臭いがするとは思っていたが、足元には薄く、ほんのりと色づいた水が流れていた。
もちろん、その色は赤。血である。



19: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:13:42.31 ID:wNkqsKEq0
( ^ω^)「……でも、安心もできないお」

その考えは当たっていた。
ブーンが貯水場へ足を踏み入れたときに感じた、何か得体の知れない、だがクーが発した物とは少し違う感覚。
そしてあの死を背中に漂わせた者が放つ独特の臭い。

激しい戦いが繰り広げられていたであろうというのが人目でわかる、壁に残った深い爪跡。
そして中心に備え付けられていた供給パイプが砕け散っており、水が駄々漏れであった。
ブーンは自分の存在が認められないような空間に少しの間立ちすくむ。

そして、声をあげた。

( ^ω^)「ど、ドクオー!!!」
('A`)「なっ。ブーン!!!」

(#´_ゝ`)「余所見を!!!してる暇がぁぁぁ!!」

ドクオはアニジャの大剣を膝を折り頭スレスレでかわす。
それを見て、ブーン、オトジャも加えた2対2が始まった。

(;^ω^)「挟み撃ちなら今が有利だお。ほらドクオ!!詠唱――ってあれ……」



21: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:14:34.89 ID:wNkqsKEq0
(;'A`)「……」



('∀`)「でへっ」

(;゜ω゜)「う!!でー!!!!!」

体を仰け反らせ、人差し指で思い切り指差しながらブーンは叫んだ。
それを聞いた兄弟はビクリとなる。

(;´_ゝ`)「!?」

(´<_`;)「……」

('A`)「すまんってホント。すまんって」
(#^ω^)「なぁにしてるんだお!!それ治すのブーンなんだお!!?」

(#'A`)「なっ!こちとら必死に戦ってるんだよ!!」
(#^ω^)「ブーンだってこの人達の隊長を今やっつけて来た所なんだお!疲れてるんだお!!」

その言葉を聞いて、兄弟の耳がピクリと動いた。
隊長をやっつけた、と今この男は言ったのだ、間違いは無い。
一気にその手が止まり、兄は絶望感を、弟は悲愴感が顔に出ているのがわかった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/11(日) 21:15:28.57 ID:wNkqsKEq0
(;´_ゝ`)「……何だと?お前、隊長を……殺したというのか?」

とっさにブーンは、ニヤリとした。
今この男は、自分のつい口走ってしまった言葉を過大解釈してしまっているからだ。
さあどうする、ブーンは頭の中で考えた。二人の顔をチラリと見ると、大分心にきていると見る。

殺せはしなかった。いや、あのまま放っておけば死ぬのであろうが、すぐに治療すればそれほどの怪我にもならない。
とりあえず、嘘をつく事にした。


( ^ω^)「……君達はあの女の部下のようだな。あの女の墓標にこう、告げておいてくれ。
       無理にとは言わない。お前は、十分に強かった。我輩には及ばなかったが、勇敢な騎士であったと――」



(;'A`)(まぁたコイツ嘘ついてやがる……口調が変わりやすすぎなんだよ豚ちゃん)

これで、相手を言葉の上で牽制できると考えたブーン。
だが、結果は全くの逆方向へと進む。



23: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:17:28.51 ID:wNkqsKEq0
(´<_` )「アニジャ。わかるな、俺の言おうとしている事が」

スッと、背中を合わせドクオとブーンを迎え撃つような体勢になる兄弟。
アニジャもただその質問にコクリと頷き、さっきの悲しみの顔とは全く違う、勢いに満ちた顔つきになっていた。

( ´_ゝ`)「……継ぐぞ。意思を」

(;'A`)「おい、ブーン……いや、豚野郎。俺が言いたい事、わかるよな?」
(;^ω^)「は……ははっ。ドクオ、ちょっとこのままだとアレだから"閉じ込める"お」

ブーンは魔術書を取り出すと、すぐさま呪文を唱える。
しかしそれを許さないかのように、アニジャがブーンめがけ大剣を右方から思い切り振り切ろうとした。

(#´_ゝ`)「……仕留めたぁぁぁ!!!!」

大剣の刀身がブーンの首を跳ねようとしたが、腕、肘、肩、手首全てがいきなり固定される。
何が起きるかわかるかわからないか、そんな速度である。アニジャは自分の腕を見るが、何も見えない。



26: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:19:55.99 ID:wNkqsKEq0
いや、何かあるが見えないのだ。
振り返るとオトジャも同じような状況である事がわかった。

(´<_`;)「なんだ……っ!!これは!!」
( ^ω^)「いいからそこで転がってるお」

ブーンの指が法則的な動きをすると兄弟二人がバチンと背中同士引き寄せあい、棒立ちのまま横に倒されたのだ。
出す攻撃、出す攻撃が変則的である魔術師の魔術に翻弄され、怒りと疑問がわきあがり、訳がわからなくなる。

(;´_ゝ`)「くそっ!!こんなこざ……ぷあっ!!」

(´<_`;)「くっ……。くそっ」

もぞもぞとどうにかして立ち上がろうとしている兄弟。
そしてたまたま前にあった小石のように、オトジャの顔面をブーンは蹴り上げた。
額から血を流し、見下ろすブーンを睨むオトジャ。

(´<_`;)「……っ。殺すなら、殺せ」
( ^ω^)「……行くお。ドクオ」

('A`)「いいのか?」
( ^ω^)「いいお。ここの量を考えればあともって15分だお」

ブーンの放った"とりもち"のような、強粘着の液体が、兄弟二人の関節という関節。
動けなくするよう徹底するように張り付いている。もちろん、立ち上がることなど出来ない。



28: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:22:17.72 ID:wNkqsKEq0
そして、もう一つ。

( ^ω^)「どっちか一人だけなら生き残る事が出来る。
       兄弟、どっちか下にして寝転べばいい。喧嘩してでも決めれば、いい」

( ´_ゝ`)「……下衆め」

そう言って、ブーンは兄弟の隣を通過し、ドクオの元へ行く。
そしてそのまま、貯水場から出て行った。

――――

暗闇にまた入り、ブーンの額からはどっと汗が吹き出た。
それを見たドクオは、呆れた顔で言う。

('A`)「お前さぁ、嘘ならもっとマシにつけよな」
(;^ω^)「だって嘘をつくなら徹底的がいいと思ったんだお……」

('A`)「まあいいけどよ。あの粘着液だって5分ともたないし、女だって殺してないんだろ?」
( ^ω^)「……逃げちゃったんだお」



29: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:23:02.54 ID:wNkqsKEq0
('A`)「え?なんでだ?」
( ^ω^)「強かったから、逃げてきたんだお。人間なのに、強かったんだお……」

('A`)「あ!それってよ、なんかこうググッと心臓を押さえつけるような感じの奴か?」
( ^ω^)「そうだお!!それだお!!ドクオは知ってるのかお!?」

ドクオは持った腕を振りながら答える。
それは、魔術師誰もが通る、人間の秘めたる強さ、と。

( ^ω^)「人間の……秘めたる強さ?」

('A`)「そうだ、きっとな。俺だって、初めてあんな感じを受け取ってビックリしたぜ。
    もちろんフォックスのババアもだった。あん時の顔は面白かったぜぇ?」

( ^ω^)「……なんだ、心配したお!!それにしても、あれはすごかったお。
       体に毒を与えたのに、それなのにまだ立ち上がるんだお……」

('A`)「中々ここの連中は丈夫にできてるみたいだ」
( ^ω^)「だお。じゃあそろそろドクオは棺桶に戻るお」

あらかじめ、ドクオを呼び出した時に置いておいた棺桶を指差して、呪文を唱える。
ドクオは契れた腕を持ったまま棺桶の中へと入っていった。
そして棺桶をかついで暗闇の中を走っていく。ヒッキーに狙われているという事など当人は全く知らない。



30: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:25:06.54 ID:wNkqsKEq0
ドアを少し開く。
人っ子一人、歩いていなかった。そういえば、先ほど脅しをかけたのを思い出す。
ブーン自身、本当は残酷な事などしたくは無い。魔術師で無ければ、パン屋を開いてのんびり暮らしたいというくらいであった。

だが、やはり自分、そして自分の周りの人となると、話は全くの別物である。

( ^ω^)「宿に戻れるかお……?多分ミルナはそこで待ってるお。ペニサスさんは……。
       でも、もう戻ってくれてるかも知れないお。とにかく行ってみるしか……」

とりあえず、この負傷したドクオ。魔力を少し使いすぎた自分を癒す為。
そしてこれまでの話の整理、ペニサスへ説明が必要だった。
人がいない街を、隠れるように路地を通る。神判堂がすぐ近くにあったので北だとすぐわかった。

南を向く――。

いつもは嫌いな太陽に、少し雲がかかっていて、怪しげだった。
それが、なぜか良く見えたのだ。

雲さえあるものの、青く、いい空であった。

( ^ω^)「……戻るお」

宿の入り口は締め切られていて、扉をドンドンと叩くのも罰が悪そうであった。
なのでしょうがなく、裏の路地に周る。丁度宿の裏側であるそこで、ブーンは少し悩んだ。



33: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:27:15.83 ID:wNkqsKEq0
( ^ω^)「宿に入るためだけに魔術を使う……。どうするかお……」

少しだけ迷ったあげく……。

( ^ω^)「まあ、バレてしまったら元も子も無いお」

人差し指と中指の間に一つ、小さな種を召喚し、足元に放り投げる。
魔力をそそぐと太目の幹が一本と、紫色をした一枚の葉が現れた。そこに足を置き、ぐいぐいと上っていく。
だが、ブーンは少しの違和感を覚える。

( ^ω^)「……?」

それは、ちょっとした予兆。
しかしあまり気にする事も無く、そのまま葉は宿の屋根にまで到達する。
ポンと音を立てて消えると、ブーンは自分の部屋であった場所を見定めると、屋根から下を覗くように、上半身をぶらりと垂らした。

すると中にはペニサスとミルナがいるのが確認できた。
少し手では届きにくかったので持っていた空き瓶を窓に向けて軽く放る。

危なっかしい音を立てて、瓶はそのまま下に落ちて割れた。



36: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:30:23.55 ID:wNkqsKEq0
( ゚д゚ )「……?」

ミルナが窓を開けて不思議そうに下を見て、そして上を見た。

(;゚д゚ )「う、うわぁっ!!?」
( ^ω^)「入れてくれおー」

('、`*川 「……何?間抜けな声が聞こえたけどブーンなの?」

先に棺桶をミルナに渡してからブーンがぬるりと入ってきた。
だらしなく尻餅をつき一つ大きなため息をつく。
ペニサスはその光景を呆れながら見ていたが、今のこの状況を一刻も早く、確かに知りたいと思っていたので口を開く。

('、`*川 「早速なんだけど、なんでこうなった訳なの?」
(;^ω^)「いやぁ、ブーンにもさっぱり……」


('、`*#川「そぉい!!!」


(;)ω゜)「ふぉおお!!!」
(;゚д゚ )「ぶ、ブーン!!あわわわ……、今一瞬目玉が吹き飛んだように……」

('、`*川 「全くあんた達は本当にアバウト……って」

ペニサスはブーンが着ているシャツの腹の部分が、裂けていて真っ赤な血が滲んでいるのに気がついた。
すぐにブーンのシャツを脱ぐように言い、そこいらにあった布切れを冷たい水に浸し、患部に当てた。



38: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:35:54.47 ID:wNkqsKEq0
(;#)ω^)「……やってくれるのはありがたいんだけど、今殴られた所の方が痛いってどういう事だお」
('、`*;川 「あ、あはははは。ほらじっとしていないと」

そして、腹に消毒液として酒を塗り、痛がるブーンを無視して布で巻いておく。
ペニサスの手際の良さもそうだが、皆意外な一面を持っていると言えよう。

ひと段落着いた所で、ブーンがこれまでの敬意を、うろ覚えながらペニサスに話した。
話を聞いている途中、宿の主が部屋を訪れ、外は魔術師がうろついているから危ないという事を説明された。

どうやら、ブーンの顔を知っている人間はそこまで多くないようで、少なくともこの宿に身を隠せそうな状況になる。

( ^ω^)「――という事なんだお。魔術師はこの街にいる事だけはわかったんだお。
       本当なら、もっと隠れて動きたかったんだけど、途中からは全部頭の中で組み立てて、
       とにかくこっちから餌をばら撒いてみようと思ったんだお」

('、`*川 「餌……ねぇ。でも、その魔術師と戦う必要なんてあるの?
      友好的にちょっと情報分けてくれないかな?くらいでいいと思うんだけど」

( ^ω^)「もちろん、それで済めばそうするお」

( ゚д゚ )「……この心を与える書も、何かの役に立てればいいんだけど。
     良かったらこれ、その時が来るまでブーンに託すよ。僕が持つよりずっといい気がするんだ」

そう言って、ミルナは書をブーンに渡そうとする。
しかしそれを断り、言葉を返した。



40: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:38:15.12 ID:wNkqsKEq0
( ^ω^)「それはミルナが託された物なんだお?正直ちょっと欲しいけど、
       心を与える書はミルナが持っているといいお」

('、`*川 「それ、さっきも見せてもらったけど普通の哲学書よね。それも少し偏った考えの。
      私は嫌いじゃないけど、見る人が見たら反吐が出る内容。なんでそんな物に魔力なんか……」

ペニサスがまじまじと見ている書。それをよそに、ブーンは棺桶をベッドに置き、なにやら事を始めようとしていた。
ミルナも興味津々で、ブーンの一連の行動を眺めている。

( ゚д゚ )「何をしているんだい?」
( ^ω^)「ドクオはさっきの戦闘で腕を斬られちゃったんだお。だからそれを修復するお」

まず、ブーンはクシャクシャになった紙をホルスターの小瓶から取り出す。
そこには人型のような絵が描いてあり、各部分に小さな文字で説明が書いてあるように見える。
読んでみようにも、その文字は全く理解不能で、どこの地方の文字なのだとかが一切わからなかった。

紙を広げると、棺桶の上に乗せる。
手で押さえ、ブーンは腕にナイフで少し傷を入れ、そこから出た血を絵に描かれた人型の腕の部分に押し当てた。

('、`*川 「代償を払っているの?」
( ^ω^)「そうだお。もしドクオが首ちょん切られれば、首の血を。足なら足の血をブーンが出さなきゃいけないんだお」

('、`*川 「それは魔術を使用して、ドクオの切断面から再生するの?
      そうならそこいらの回復魔術と変わらない気がするんだけど……」



43: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:41:55.48 ID:wNkqsKEq0
( ^ω^)「違うお。必ず、ドクオの体と、切断された部位が残っていないといけないんだお。
       再生、回復じゃなくて接合に近い意味合いを持つんだお。白魔術なんかはもっと便利な奴だお」

( ゚д゚ )「あ、あのさ。ブーンは死霊魔術師、ネクロマンサーなのはわかったんだ。
     じゃあペニサスさんは何を得意とした魔術師なんだい?やっぱり、あの時みたいな雷だとか……」

('、`*川 「あ〜……っと、ミルナ君にはまた色々と説明すればいいと思うけど、こういう魔術師の中にも、
      もちろん色々な名称を持つものがいるわ。名称をつけているのは魔術師の中でも偉い人。
      まあ、名前も顔もわからないんだけどね。そういうのを決める集団がいるの」

そう言って、ペニサスは紙に羽筆で円を描く。
点を線の上に、ちょん、ちょんと乗せる。

('、`*川 「私、いえ、私達みたいに雷だとか、火だとか。そういうのを全般的に扱えるのが一般的な魔術師。
      その一般的な魔術師は、さっき言ったお偉いさん達によって"赤"の称号を与えられているの」

点の近くに文字をスラスラと書く。

( ゚д゚ )「……赤?」

('、`*川 「そう。魔術師の中で人口が一番多いとされているのが、私と同じ"赤"なの。
      少しややこしいんだけど、魔術師にはたくさんの種類分けがあるわ。各々が自己の存在を主張して、
      魔術師の種類が細分化されていった時代があったの。それこそ"なんとか地方赤魔術師"なんて下らないものまでね。
      そして淘汰されていった結果がこれ。ほら、この紙を見てみなさい」



44: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:43:30.90 ID:wNkqsKEq0
ペニサスが差し出した紙には、円を囲むように魔術師の種類が書かれていた。
まじまじと眺めるミルナ。

( ゚д゚ )「白、黒……。緑、黄、赤、青……。こんなに沢山あるんですか?」
('、`*川 「それが今、魔術師のお偉いさん達が設けている種類よ。淘汰された結果、なんて言ったけど、実際はもっとあるわ」

( ゚д゚ )「じゃあブーンはこの中のどれに?」
('、`*川 「ブーンは、死霊魔術という"黒"と、使い魔召喚の"黄"の二種類ね」

( ゚д゚ )「……二つなんですか?」

('、`*川 「そう。だから意味なんて無いのよこんな種類分けはね。黒と黄が使えるなら"赤"でいいじゃない。
      って話になるんですもの。まあ、ミルナ君が知りたかったから言ったけど、余り気にしないほうがいいかもね」

(;゚д゚ )「奥が深いなぁ……。底が見えないです」
('、`*川 「また知りたくなったら、言ってくれれば教えるわ。魔術師だとか、魔導士、魔道師なんて違いもあるくらいだもの」



45: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:45:14.10 ID:wNkqsKEq0
……などと、ペニサスとミルナによる魔術談義が終わるのと同じくして、ブーンがドクオの腕の接合を終えたようであった。
額の汗を一つぬぐいため息を一つした後に、ベッドに横たわる。

( ^ω^)「んあーぁぁぁっ!!疲れたお!!!」
('、`*;川 「……って、今そんな暢気にしてられる場合でも無いでしょう?」

( ^ω^)「そうなんだお……。とりあえずここから出ないといつ殺されるかわかんないお」
( ゚д゚ )「でも……、でもどうするんだい?ここの窓からも見えるけど、出口は全部兵士によって閉鎖されてるよ」

('、`*川 「いえ、出口はどうとでもなるのよ。私がさっき壁を吹き飛ばしたでしょう?
      ただ出口から出てどうするかが不安なのよ。樹海に戻るのにも歩いて、早くて半日。
      プラスの北にあるサブカルまではその三倍程かかるわ。騎馬隊なんか出されたらすぐに追いつかれる」

(;^ω^)「お〜〜ん……」
( ゚д゚ )「とりあえず夜にならないと行動できな……ん?」

ミルナは、手持ち無沙汰だったので、手に持っていた心を与える書が、少し熱を持ったように感じたのだ。
気のせいだと思うも、やはり確かに淡く熱を帯びている。



46: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:47:26.97 ID:wNkqsKEq0
( ゚д゚ )「……二人とも、この書が暖かいです」
(;^ω^)「……突然言われても意味がわからないお」

('、`*川 「暖かいって……あら。本当に暖かいわ、ブーン」
( ^ω^)「おおっ!すげぇお!!」

( ゚д゚ )「でもなんで熱を帯びているんでしょう?」

ページをパラパラとめくってみるも、特に変わった所は無い。
ただ本全体に熱があるような、そんな感覚であった。しかし怪しさは無く、何かを伝えようとしているのがわかる。

( ^ω^)「なんでって……、何かがあるんじゃないかお?」
('、`*川 「そりゃあ、これ二つで一つなんでしょ?片方が近くにあ……、あるんじゃない?」

( ゚д゚ )「そうなのかな……」
( ^ω^)「出たくても出られない、ここから書を出したくないって事かお?」

顎を手で触り、考え込むブーン。
なぜ書がいきなり熱を持ち出したのか、なぜ今なのか。それが不明な限り行動に出にくいのだ。
書を託されたミルナが言うには、もう一つがあるとある人物に言われ、渡された。

ミルナの存在を感知していなかったとしても、その書のぬくもりの意味を知っているのであれば、
相手から、罠だとしても、尻尾をちらつかせて来る。そう三人の意見は固まった。



48: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:48:19.19 ID:wNkqsKEq0
( ゚д゚ )「……でも、そうなるとここからは出ることが出来ないんですよね」

ペニサスは、心配いらないと言ってベッドに座る。
そしてブーンを指差した。

('、`*川 「ああやって暴れたおかげで、ある種の抑止力が働いてるはず。
      この街にとっては、私達は招かれざる客。でも、手は出せない」

( ゚д゚ )「……魔術。そうだ、魔術があるから何されるかわかったもんじゃない」

('、`*川 「そういう事よ。三剣頭だったかしら?そのトップがやられちゃったんだから、
      少しの間は考えて行動しないと被害が大きくなって騎士団自体の存在に関わるわ」

( ^ω^)「ペニサスさん凄いお!!おっぱいばっかりに栄養がいって、
       最初は馬鹿な人だと決め付けていたお!!賢い人だお!!」


('、`*;川 「そぉい!!!」


(####^""")「ふsけえkkkz!!!!」
(;゚д゚ )「ぶ、ブーン!!!」

('、`*川 「最近私こんな事ばっかりやってる気がする……。気をつけようお肌にも悪いわ」
(#)ω^)「世界が歪んで見えるけど、それは個人の世界観だお!!」


('、`*;川「訳がわからん……」



50: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:50:55.44 ID:wNkqsKEq0
――――
―――
――

ブーン達が走り去って行ったそのすぐ後に、兵士達によって二人は発見された。
助けられた時は、その体にこびりついたようなトリモチのような物体が剥がせずどうしようかと思われていたが、時間経過のせいか、スッと消えたのだ。

『……お二人とも、大丈夫ですか?』
( ´_ゝ`)「……大丈夫だ」

鎧から流れる水。
それを鬱陶しく思ったのかアニジャは鎧を脱ぎ、そこへ置く。
オトジャも同じくそうすると、何も言わず、ブーン達が走っていった方へ歩いていく。

『オトジャ様?どうかなされたのですか?』
( ´_ゝ`)「……放っておいてあげてくれ。それより、隊長はどうなったのだ」

『隊長は、現在魔術師から受けた毒によって意識が朦朧としています。
 ただ、それ程強い毒では無いので一晩安静にすれば意識はハッキリするかと』

それを聞くと、アニジャは少し表情を和らげる。そしてオトジャに声をかけた。



54: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:52:29.92 ID:wNkqsKEq0
( ´_ゝ`)「オトジャ!!隊長は無事だそうだ!!すぐにでも戻るぞ!!」

だが、間違いなく聞こえているはずなのにオトジャは足を止めない。
そのまま闇の中へと消えていってしまいそうなほど、意気消沈している様子であった。

オトジャの元まで行き、肩を掴むアニジャ。

( ´_ゝ`)「……負けた。それだけは認めるんだ」

その言葉は、オトジャにはとても辛いものであった。
認めなくてはいけない、認めて今から生きていかなければいけない。
それが、重圧となりオトジャの体に襲いかかる。

(´<_` )「まだ、まだ負けていない」

( ´_ゝ`)「負けたんだよ。オトジ――」

(´<_`#)「負けてなどいないッ!!!!断じてだ!!!」



56: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:55:07.25 ID:wNkqsKEq0
掴まれた肩を強く払いのけると、オトジャはその怒りをアニジャにぶつけた。
アニジャは何も言わずただオトジャの目を見る。

( ´_ゝ`)「……。それを考えるのは後でもいい。
       だからとりあえず、今は隊長の元へ行こう」

何も言わず、壁を殴りつけるオトジャ。
そして息を一つ、深く吸い込み――吐き出した。

(´<_` )「……そうだな、そうだ。我らは三剣頭だった」

( ´_ゝ`)「それでいい。よし、隊長の所へ案内してくれ」
『はっ!!』


クーが運び込まれたのは、収容者などの体調のチェックをする為に設けられた治療室であった。
コン、コンと、ノックをしてから部屋に入る。



57: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:56:21.01 ID:wNkqsKEq0
( ´_ゝ`)「……隊長の容態はどうなっている?」

『いやァ、隊長さんは丈夫な人だよ。普段鍛えているだけはあるのぅ。
 今は煎じた薬に入れた眠り薬で寝ているんじゃが、目を覚ませば歩く程度にはなれるはずじゃよ』

白髪を生やし、眼鏡をかけた老人がそう言う。
プラスでは腕利きの名医、言っている事は嘘では無いだろう。

(´<_` )「それで、隊長はどこに?」
『あそこのベッドで寝とるがの、今はそっとしておいてやったほうがよ……』

構わん、と奥のベッドから声がした。

アニジャとオトジャが喜び勇むようにその仕切られた布のカーテンを開くと、
上半身が裸のまま、戦っている時とそのまま同じ目をしたクーが、そこにいたのだ。

その剣を持ち、構え、敵を切り捨てるような者の体つきとはおもえない、見目麗しき肢体を見てしまい、慌てて目をそらす兄弟。
だが、クーに恥ずかしいという概念は無いようで、そのまま口を開いた。



59: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 21:58:43.55 ID:wNkqsKEq0
川 ゚ -゚)「……すまなかった」

突然の謝罪。
本当は、自分達が謝るべき状態だと言うのに、先に謝られたので調子が狂う。
目は、あの猛々しい真っ直ぐとした視線。だが口から出たのは、聞いたことも無いほどの弱弱しい言葉。

(;´_ゝ`)「……隊長が謝る事など無いのです」
川 ゚ -゚)「私が頭を下げなければ、誰が頭を下げるというのだ」

そう言うと、クーはその引き締まった体に布一枚被せベッドから立ち上がる。
慌てて止めようとするが、それを無視し地面に足をつけた。
何を考えているのか、何をしようとしているのかが全くわからず、その場でおたおたとしてしまう。

川 ゚ -゚)「三剣頭の長である私が、この落とし前をつけずにどうする?
     私はそこまで、無責任な女でいるつもりは無い。正義がある」

(´<_` )「……っ」

オトジャは見ていた。雄弁を奮うクーのその右腕が震えているのを。
涙が出そうになる。負けて帰ってきた自分達も、負けた自分も。全てをバネにして戦おうとしているクーを見て。
このか細い腕のどこにそのような力があるのか。そこいらにいる街娘と同じような体つきで、なぜそこまでできるのだろうか。



だから思うのだ。
ずっと傍にいて、この方の力となりたいと。



61: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:01:11.28 ID:wNkqsKEq0
川 ゚ -゚)「だから私は、今すぐにでもあの男達を探しに行く。
     悪はこの手で駆逐しなければならない。たとえ私という名の剣頭が欠けようと」

( ´_ゝ`)「……隊長が言うなら、私達も当然」

ひざをつき、兄弟が忠誠の意を示す。
クーは、普段からこのような事を強制していない。形式付けられた忠誠を酷く嫌っていた。
だが、今こうやって二人の男の忠誠を受けずにはいられない。

ベッドの端に置いてあった、あの戦闘で錆びた剣をアニジャ、オトジャの頭の上に軽く振るうと、
刃に付着した血液を布で拭い取り、床に思い切り突き刺す。

川 ゚ -゚)「すまないな、二人とも。もうこの剣は私の……宝だ」
( ´_ゝ`)「……光栄です」

(´<_` )「我ら、どこまでも着いて行きます」

そして、忠誠が立てられたすぐその後に、一人の兵士がノックをし、入ってくる。

川 ゚ -゚)「……どうした?」
『三剣頭様。ヒッキー様が出陣の準備をなされます』



63: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:03:31.21 ID:wNkqsKEq0
(´<_` )「……ちっ」

川 ゚ -゚)「どういう事だ?我々で事足りると最初に言ったはずだが」
『はっ……。ですが、あの、状況でしたので、私が直談判に……』

( ´_ゝ`)「……余計な事を。本人に伝えておけ。我々で大丈夫だ、とな。
       おとなしく部屋に引き篭もっていればいい。魔術師など……」

一瞬、影が増えたような気がした。
クーはすぐに周りを見渡し、伝令に来た兵士が身に着けていた細身の剣をグッと引っ張り出す。
周囲を警戒するように、グイと剣先を動かし、挑発。ピンと気だった感覚が働いている事を示す。

『……っ。隊長?』     
川 ゚ -゚)「出て来ては……どうです?」

どこにいるかもわからない"誰か"に声を出す。
あの感覚が確かなら、陰湿な空気、雰囲気、全てがそう告げる。



64: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:04:58.28 ID:wNkqsKEq0
すると、部屋の隅。
光の届ききっていない場所に二つ、輝く目が現れた。

(-_-)「……引き篭もっていたいんだ。ホントはね」
(;´_ゝ`)「……っ」

(´<_` )「聞かれていたのですか?我々で事足りると申したでしょう?」

黒いマントで全身を包むようにして着ているヒッキーは、窓から指す光を避けながら、ヒョロヒョロとアニジャ達の元へと近づいていく。
不気味なのは不気味であったが、貯水場で戦った男とは違い本当に陰湿なイメージを、オトジャは静かに感じていた。

しかし、思い出すとなぜか胸の奥がグッと盛り上がるような気持ちになってしまう。

(-_-)「確かに……言ったよね……君達。我々だけで何とかなる……だとか、なんとか?
    でも……君達じゃ駄目だ。足りない。足りない。足りない。足りない。足りないんだ」

ぐっと人差し指でアニジャの額を突く。
払いのけようとしたが、変な重圧があってその指をのける事もできない。
額に伝う汗を、そのままヒッキーが掬い取り、舐めた。



65: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:05:55.99 ID:wNkqsKEq0
アニジャの額には、ヒッキーの冷たい指の感覚が伝わっていく。
自分の心が読まれているのではないだろうか、そう勘繰ってしまう。
触れられた所から、木の根のように体へとどんどん伸びていくような……。

(-_-)「何を怯えてるんだい?僕は君達の仲間さ。でも……僕は……君達より偉いという事を忘れていない?
    僕が出てあげる……そう言ったんだ。なら君達は黙って待機しているのが……いいってものじゃないか」

(;´_ゝ`)「待つつもりは無い……という事ですね?」
(-_-)「無いよ」

( ´_ゝ`)「……ならば」

ズイ、と前へ出るアニジャを、クーは静止する。

川 ゚ -゚)「アニジャ。止めておけ」
(;´_ゝ`)「ですが……!!」



66: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:08:26.86 ID:wNkqsKEq0
(-_-)「いいよ。僕に殴りかかればいいじゃないか。喧嘩は好きじゃないよ……でも大事な時はやる。
    君はさっきも……僕の陰口を言っていたよね。上と下、魔術師と人間……。わからせてあげてもいいよ」

すると、アニジャの足元にある変化が訪れる。
それは影。影の大きさが徐々に小さくなっていくのだ。日が傾いてくるような時間でも無い。
スーッと、縮んだ影が"内側"に伸び、舐めるように上へと上って行く。

アニジャの首筋にまで"アニジャの影"は伸び、血管を押さえるように優しく撫でる。
首筋に来るまで気づけなかった。そこにいるヒッキー以外の人間は。

(-_-)「僕は人が嫌いだ。何回か……言ったよね、何回か。それはいいんだ。
    嫌いなだけだからさ。でも、僕の"範囲"に入ってくるのは絶対に許さない。
    これは僕からのお願い……なんだ。これ以上、あの魔術師を……ここにはいさせたくない」

川 ゚ -゚)「……だから我々がすると言っているのでしょう?」
(-_-)「ママがね……言うんだ。自分の事は自分でしましょう、ってね」

もちろん、この三人も知っている。
ヒッキーの母親は、ここにいない事を。それ以上は言及しない。
悲しみを背負う人間の末路を見ているようで、物悲しくなってしまうからだ。



68: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:09:47.38 ID:wNkqsKEq0
(´<_` )「隊長」

川 ゚ -゚)「……そこまで言うなら、貴方に任せます。しかし、夜明けまでに何らかの結果が無ければ、
     こちらも全力で"手伝わせて"いただきます。それでよろしいか?」

マントを体に巻きつけるようにしながら、少し喜んだ笑顔を見せてヒッキーは『いいよ、それで』と答える。
すると部屋に影が差し込み、瞬き一回をする間に消えてしまった。


そしてクーは力が抜けたようにベッドに腰掛け、髪の毛をくしゃくしゃとした。

(;´_ゝ`)「た、隊長!!だらしないですよ!!」
川;゚ -゚)「……はっ。す、すまない、気が抜けてしまった」

(´<_` )「とにかく、隊長は休んでいてください。我々は戦っていたとしても傷は浅い。
       破壊されてしまった壁の修繕等をやらせますので、今晩くらいはゆっくりしていてください」

川 ゚ -゚)「あ、あぁ。だが、少し気にかけておいてくれ」
( ´_ゝ`)「……何をです?」

川 ゚ -゚)「ヒッキーは、神判堂でやるつもりだ」



69: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:12:36.34 ID:wNkqsKEq0
――――
―――
――


太陽が力を失い、月が制する時間がやってきた――。
草木は寝床を探し、動物達は明日を夢見る。
プラスも同じで、明日を迎える準備を始め出した。

街を警護している兵士達が、街に照明を灯していく。北から、南へと円を描くように。

(-_-)「……そろそろだよ。ママ……。今日はママに、僕のかっこいい所……見せてあげる」

ガーベラを見つめ、少し水をやるヒッキー。
そして魔術書を持ち、ニヤつく顔で人のいない神判堂の下階へと降りていった……。

その頃ブーン達は、暢気に夕食を食べていた。
急ごしらえだったため、干し羊肉、乾いたパン、ヤギのミルクという質素なものであったがブーンはお腹が減っていた為ガツガツと食べる。
主にブーンがガツガツと食べる。

(*^ω^)「は……っ!!ハムッ!!!ハム、ハフフハハウハフフハフッ!!!ハッムハムハフハッフフフハフハフ!!!」
('、`*;川 「落ち着いて食べなさいよ……。よくこんなかったぁ〜いの食べられるわね」

干し肉をいやいやしがみながら、ペニサスはブーンを横目で見る。



72: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:17:58.31 ID:wNkqsKEq0
( ゚д゚ )「でもこれ、噛めば噛むほど味が出て美味しいですよ。
     ブーンは噛み千切ってるけど……。どんな顎してるんだろう……」

……と、ミルナはふと外を見る。
炎が街にぽつぽつと現れ始めていた。

( ゚д゚ )「……夜。ブーン、夜だよ」
( ^ω^)「わかってるお。二人とも、気づいてるかお?」

ゴクリ、干し肉をミルクで流し込むと、ブーンは立ち上がる。
虫の鳴く音。木々が風によって囁き声をあげている。そんな優しい空気が、窓の外から入ってくる中。

('、`*川 「……?どうかしたの?」
( ^ω^)「あの炎だけ、少し大きいし、数が多いお」

そう言いながら、ブーンは窓と、部屋のドアから離れるように指で指示する。
何事かまだ把握できないまま、二人はベッドを壁にするように隠れた。

(;゚д゚ )「な、何かいるのかい!?」

ミルナの問いに答えないまま、ブーンはベッドから棺桶を引き摺り下ろし……。
窓に一歩、また一歩近づく。窓から身を乗り出さないようにして、外を伺う。



75: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:19:58.75 ID:wNkqsKEq0
('、`*川 「……どうするの、ブーン!!とりあえず部屋の火は消すわよ!!」
(;^ω^)「……!!」

(;゚д゚ )「ダメだ!!ブーン!!すぐそこまで来てる!!!」

(;^ω^)「……え〜っとえっと!!!」

入り口のドアが蹴破られる。
そこにはプラス騎士団であろう甲冑を着た男が10人程。廊下にひしめき合うように武器を構えていた。
逃げられない。外にもいるであろう弓を構えた騎士。さすがに分が悪すぎる。

『……お前達だな!!!昼間の!!!!』

( ^ω^)「……そうだお」

あっさりと答える。

『……わかっているんだろうな。お前達はもうここから逃げられない。
 プラス騎士団の名の下に、粛清させてもらおう!!覚悟!!!!』

('、`*川 「嫌よ。まだ若いのに死にたくなんて無いわ」



76: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:21:22.77 ID:wNkqsKEq0
稲妻が宿の廊下に突き刺さるように発生した。
前列にいた騎士は消し炭のように黒くなり、息絶える。
窓から吹いた風もあってか、その稲妻から炎を生み出し、宿全体に燃え移り始める。

『……ここで逃がすな!!こいつらはここで仕留めろ!!!』
『ウオオーッ!!!』

雪崩れ込む様に、甲冑を着た男達が三人に襲い掛かる。
窓から逃げる事は出来ない。

(;^ω^)「ペニサスさん!!ここ、任せてもいいかお!?」
('、`*川 「……いいけど、ここから出たらちゃんとしたご飯食べさせてよ……ねっ!!!」

手を振りかざし、前方をなぎ払うかのように、今度は氷結物体を矢のように撃つ。
重たく密度の濃い氷の塊は投石のような威力を持ち、甲冑を砕き、男達をなぎ払う。

(;^ω^)「お、おいちゃんお金だけはあるさかい!!!たのんまっせぇ!!」
(;゚д゚ )「……うわわぁ!!」



78: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:23:11.29 ID:wNkqsKEq0
三人は氷と共に壁に減り込んだ騎士達から、逃げるようにして宿を出る。
しかしそこにも騎士達が数十人という単位で待ち構えており、街からの脱出も、この場所の突破も困難である事がわかった。

('、`*川 「……駄目。これだけの人数は蹴散らせない」
( ^ω^)「大丈夫だお」

('、`*;川 「……な、何が?」

ペニサス、ミルナが不審がるが、ブーンはその場で立ったまま動こうとはしない。
矢は、こちらをジリジリと狙っているのにだ。気づけば背後にも剣を構えた騎士が何人もいる。
四面楚歌、とまでは言わないが、これは間違いなく危機である。

しかし全く動かない。
ただその視線の先にいる男一人を見詰めている。

( ^ω^)「……っ」
('、`*川 「……魔術師」

騎士達の向こう。
夜風が震えるこの時間に、漆黒のマントを靡かせた根暗な男。
その男が、騎士達に指示を与える。



80: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:25:32.24 ID:wNkqsKEq0
(-_-)「……もう、いいよ。炙り出せたんだから……騎士団は解散。
    解散していいから、ほら。僕がここから……するよ」

すると、波が引いていくかのように騎士達が下がって行く。
ミルナ達にもわかった。怯えきっているその表情も、逃げるようなその仕草も。

少し間を置くと、ここは四人だけの空間になる。

(-_-)「……ほら、着いておいでよ。ママに見せる為に……僕はやったんだからさ。
    ほら、着いてきて。そこでやろうよ……存分にね。存分にやろうよ。存分に」

月の光を食う様に、その寂しげな背中を持ったヒッキーはポツ、ポツと歩き出す。
後を着いて行くかどうか決めかねる二人。しかし、それをよそにブーンは着いて行く。

('、`*;川 「ち、ちょっと!!なんで着いて行くのよ!!」
( ^ω^)「え?逃げるのもアレじゃないかお?」

(;゚д゚ )「……アレ?」
('、`*川 「正直、逃げていいと思うんだけど……。もう言ってもきかないでしょ?」

(;^ω^)「後で二人とも美味しいご飯をご馳走するから行こうお!!」
('、`*#川 「そこまで子供じゃないっての!!」



82: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:27:33.86 ID:wNkqsKEq0
――――


そして連れて行かれたのは、神判堂の一室。
誰もいない建物の中に足音が響き渡り、生活感が余り無い、その部屋にたどり着いたのだ。
ヒッキーは振り返り『ようこそ』と一言。

( ^ω^)「……ここは、君の部屋か何かかお?」
(-_-)「そう……。僕達の部屋さ」

ガランとした、そんな印象を受ける部屋。
広いのに、物があるのに、生活感は皆無で、むしろ廃墟にいるような感覚にもなる。

('、`*川 「……気味が悪い部屋」
( ^ω^)「こっちとしては、戦う気なんて無いお」

(-_-)「……戦う気が無い?無いならなんでここまで……来たんだい?
    やる気があるんだろ?僕と……僕と戦いたいんじゃないの?」

( ^ω^)「教えてもらいたい……んだお。君の知っている……魔術師。
       魔術師の……情報を、情報を欲しいんだ……。情報を……お……を」




(;゚д゚ )(あ、あれ絶対馬鹿にしてますよね)
('、`*;川(……なんであんな事するかなぁ)



84: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:29:29.16 ID:wNkqsKEq0
椅子に腰掛け、足を組むヒッキー。

(-_-)「じゃあ……そうだね。僕を負かせば教えてあげるよ」
( ^ω^)「そ、そんなつもりは無いお」

腕を振り上げ、指を鳴らす。
その乾いた音は空間に空しく響き渡る。

(-_-)「……まず一人」
( ^ω^)「……?」

そして乾いた音とは違い、声が響く。
後ろを振り返ると、そこにはいたはずの人間が一人、いない。

ごっそりとそこから取り外されたような、違和感だけを残して。
ミルナが、消えた――。



('、`*;川 「……え?あれ……、ミルナ君?」



85: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:30:34.41 ID:wNkqsKEq0
隣にいたペニサスまでもが気付けずに、いたはずのミルナの場所を凝視する。
ミルナが消えた以外、何も変化の無い部屋が、薄気味悪い雰囲気を醸し始めだした。

しかし、ヒッキーはクスクスと笑うだけで何もそれ以外アクションは起こさず、ブーンからの攻撃を待つようであった。

(;^ω^)「……何をしたお」
(-_-)「……ふふっ、ふふふ」

(#^ω^)「何をしたっていってるんだお!!!」
('、`*川 「全く、全く見えなかった。何?今の……?いえ、何をしたのかすら……」

すると、ヒッキーは声を高々に笑い出す。
それも二人を指差し、腹を抱えながら。

(-_-)「ふっ、ふひっ!!ママ、楽しいよこいつら!!おどおどしてどうしようも無いって顔!!
    人の……ふふっ、人の心配をする前に、自分の心配をするべきなのにね!!!ママもそう思うでしょ!?」



86: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:33:07.13 ID:wNkqsKEq0
あざ笑うヒッキーの足元が、急に盛り上がる。
素早く椅子毎飛び、離れるのと同時に、神判堂のその部屋の床、天井。その周囲が爆発により吹き飛んだ。
一気に爆風が縦に広がり、熱風が空間に生じた。

その魔術を放ったのは、ペニサス。
腕輪が激しく光り、バチバチと音を立てて魔力が行き場所を探す。

(;^ω^)「……ちょっと、ちょっとだけやりすぎかもしれないお……」
('、`*#川 「……私ダメなの。こういう根暗で陰険な奴。ぶっ殺したくなるわ」


椅子を一本足にして、その上に立っている男を指差して言う。
さっきまでとは違い、口調が荒々しくなっていた。

それを、凌いだヒッキー。
マントを熱風で靡かせながら怪しく笑う。



89: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:36:59.97 ID:wNkqsKEq0
(-_-)「不意打ちまで使って……勝ちたいのかな。ママも汚いって思うでしょ?」
('、`*#川 「先にやったのは……!!!」

腕輪のついた右腕を大きく後ろにし、投げるような格好を取る。
ペニサスの胸から目に見える複雑な色をした魔力が腕に伝わり、掌に炎が生まれ始めた。

('、`*;川 「そっちでしょ……っ!?」

ペニサスは拍子抜けした声をあげる。
振りかぶるようにして踏み込んだ右足が床にズブリと沈んだのだ。
まるで泥沼に足を踏み入れたような感覚。硬質の床がパックリと口を開けていて、すぐに閉じられたようで、
足を引っこ抜こうとしてもうんともすんとも言わない。

('、`*;川 「な、何よこれぇ!!」
( ^ω^)「……あれも魔術かお!!」

ブーンはすぐさま魔術書を取り出し、棺桶を地面に突き刺す。
ヒッキーはこちらに指を向けたまま詠唱を続けている。どうやらあの詠唱を続けている限りペニサスの足は取られているようだ。



91: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:38:49.83 ID:wNkqsKEq0
( ^ω^)「……出てくるお!!!ドクオォォ!!!」

……叫ぶも、棺桶は開かない。
そして胸を突き刺すような鋭い痛み。膝をつき、その場で体勢を崩してしまう。

(;^ω^)「……お?おおお?毒気は十分なはずだお?」
(-_-)「よくわからないけど、チャンスだね、ママ!!!!」

フラつくブーンの顔面に、ヒッキーの足場となっていた椅子が勢い良くぶつかる。
顎を強打し、大きく吹き飛ばされるブーン。床には鼻血が飛び散る。

ブーンの意識は体から少し離れ、朦朧としていた。

('、`*川 「……魔力の使いすぎ……!!?」
(  ω )「……ぉ。ぐぅ……」

フワリと地面に降り立ったヒッキーは、そのまま歩いてもがき苦しんでいるブーンの元へと近づくと、顔を踏みつけた。
ブーツの堅い靴底が、ギリギリと顔を踏み躙るようにして圧力を加えていく。

苦しそうな声をあげ、しかし抵抗も出来ず、ブーンはただただ屈辱的な攻撃を加えられるだけ。
ペニサスも同じ。目の前で仲間がじわじわと嬲られているのを見ているだけ。
この距離から魔術を使用しても、ブーンに当たってしまうので無闇に使えないのだ。



93: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:41:18.84 ID:wNkqsKEq0
(-_-)「……どうしたの?さっきの爆発。もう一度……してみればいいじゃないか」
('、`*;川 「……っ」

絡み取られた足。
目の前で嬲り殺されそうな仲間。

生理的に受け付けない、男。

ペニサスは考えた。
やらなきゃいけない、そんな時なのでは無いかと。


なので、やった。


(;-_-)「!!!!」


('、`*;川 「……、何よ。たいした事、無いじゃない?」


自分の邪魔をしている足場を、爆破した。
右足が痛い。焼けるように熱い。



でも、それも仕方が無いと考えた。



96: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:43:33.46 ID:wNkqsKEq0
すぐさまヒッキーへと、その痛む足を無視して駆け寄り、首をぐいと掴む。
驚きから行動が遅れたヒッキーの顔が、一気に青ざめる。

何をされるかはわからずとも、酷い事になるとはわかっているからだ。

そしてその予想の範囲内の結果が待ち受ける。

('、`*川 「……出しなさいよ。さっき消した男の子を」
(;-_-)「ぐ……えっ」

('、`*川 「魔術使おうなんて、考えて無いわよね。使えば喉を焼ききってあげるから」
(;-_-)「……顔に見合わず、言うんだね。驚いたよ、驚いた」

パチン、と再度指を鳴らす。
するとミルナがひょっこりと、その空間に戻ってきたのだ。

どうやって隠したのかわからない。
どうやって出てきたかもわからない。

しかし、ミルナは元通り、ここに帰ってきた。



98: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:47:01.41 ID:wNkqsKEq0
( ゚д゚ )「……あれ?えっと……あれ?」
('、`*川 「ミルナ君。目、瞑っててね」

(;-_-)「……っ!!ママ……、皆……やっぱり汚い!!!」

ヒッキーの首を持つ手に力を込める。
さよなら一つ、言わせないつもりで魔力を練った。

('、`*川 「ミルナ君を返してくれたのは許すわ。でも私、あなたが気に入らないの」
(;-_-)「これだからァ……!!!」

('、`*川 「消えなさい」

グイと強くヒッキーの首を掴む。
そして掌を押し当てるようにヒッキーを押し飛ばすと、首に付着した魔力が力を持ち始め、火花が散り始める。

そして巻き起こる爆発は、ヒッキーの上半身を吹き飛ばし、破片すら残さなかった。
だらしなく床に落ちたヒッキーの下半身は動くわけも無く、その場に死という存在感を示す。



99: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:47:58.06 ID:wNkqsKEq0
――――

建物が、大きく揺れた。

川 ゚ -゚)「……始まったのか?それとも、終わったのか……?」
( ´_ゝ`)「わかりません。が、隊長の言う通り、あの部屋で行われているようですね」

(´<_` )「少し気になりますが、私は壁の修繕の進み具合を見てきます。
       アニジャ、隊長を任せたぞ。ここから出ようとなさっても許してはいかん」

川 ゚ -゚)「……子供では無い。大人しくはする」

( ´_ゝ`)「わかった。それにしても、なぜヒッキーはあのような場所で?
       自分が住んでいる所ではないですか。私には理解できかねます」

すると、クーは天井を見つめながら言う。

川 ゚ -゚)「ヒッキーにとって、あの部屋は聖域なのだ」
( ´_ゝ`)「聖域?」

川 ゚ -゚)「そうだ。ヒッキーは、あの場所で戦っている限り、何人でも"自分"を作り出せる。
     それを知った時から、私は嫌いになったのだよ。魔術というものを。ただ"一度"を知らない魔術師をな」



101: ◆Cy/9gwA.RE :2008/05/11(日) 22:49:45.60 ID:wNkqsKEq0
――――


ペニサスは驚愕した。

目の前で、今、確かに上半身を吹き飛ばし確実に殺したと思っていた。いや、そう確信していたヒッキーが部屋の隅にいたからである。

最初は、幻だとペニサスは心の中で決め付けていた。
あの手に掴んだ、血液が行き来する感覚も、何もかも嘘だとはいえないものだったからである。

現実を掴まされた?
いや、そんなはずは無い。

今目の前でニヤつく根暗なこの男。
余裕を見せるように。


(-_-)「二回戦……。次は油断なんて……しないよ」
('、`*;川 「……しつこいわね」


汗が流れる。
月の光が部屋を照らす。

ペニサスの、初の魔術師戦の火蓋が、今切られたのだ。



( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第9話『陰湿聖域低域硬質教室』 終



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