( ^ω^)はネクロマンサーのようです

12: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:16:42.30 ID:KOBTvs9c0

( ゚д゚ )「……っん!!!」

ミルナはプラスから離れようと、必死に走っていた。
人間二人、棺桶一つをしょって走る光景は異様とも言える。
しかし周りに人などいない。
聞こえるのは、建物が倒れる際に、悲鳴のように出す轟音。

人々の叫び声。

それと対照的に木々の間から聞こえてくる夜の静寂の象徴たる虫の鳴き声。


足がまるで、空を駆けるグリフォンのように強く、勇ましく動く。
目がまるで、その先の、また先まで。神の死まで見通す事の出来るガルムのように。

自分がその、小さな頃から憧れていた物語の世界に、また一歩踏み込めたような感覚に陥っていた。
胸が、どことなく躍る。これはただの驕り昂ぶりなのだろうか



14: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:18:54.96 ID:KOBTvs9c0
( ゚д゚ )「僕は、僕は……、なんて、なんて力を手に入れたんだ……」

そう思い、思い切り、高く跳躍する。

あれだけ、見上げるだけだった木々を見下せるほど跳ね上がると、
体制を空中でくるりと変え、プラスの中を覗いた。

すると、所々で炎があがっているようで、兵士達が砂を放り投げている姿が伺える。
あれだけ暴れて何もかもが無事に済むだろうとは思っていなかった。

そこでふと、その騒動の発端となったと言える書を手に入れ、
喜び勇んでいた自分がいたのに気づき、反省した。

地面に降り立つと、もうプラスからはかなり離れた場所のようで、騒ぎの声も聞こえなくなっていた。

ミルナはブーンとペニサスをやさしく草むらの上に寝かせると、
とりあえずどうにかしないといけない、と思い、ペニサスの肩をとんとんと叩く。



15: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:20:39.90 ID:KOBTvs9c0
('、`*川 「……う、うーん」

寝覚めの悪い、といったようなごろごろとした動きをとるペニサス。

無理やり起こすのも悪いのだが、早く次の行動に移さなければいけないと思い、
もう一度肩を叩き、声をかけた。

( ゚д゚ )「なんとか逃げられたみたいですよ。おきて下さい、ペニサスさん!」

上半身だけむくりと起こし、頭をさすりながら無言で下を向くペニサス。
するとすぐに思い出したようで自分の足をぺたぺたと触りだした。



20: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:22:32.25 ID:KOBTvs9c0
('、`*;川 「……ふ、はわっ!い、生きてる!!!おわぁぁ生きてる!!」
(;゚д゚ )「ど、どこかに頭ぶつけたかなぁ……注意したはずなんですけど」

('、`*川 「あ、あ……ははは。ちょっとはしゃぎすぎちゃった」

(;゚д゚ )「それは、それはともかくです!
     起きて突然なんですけど、これからどうするか考えないといけません!」

そう言って、ミルナはブーンを指差す。

一応街の外に出た時に傷口に自分の服をちぎって包帯のように巻いておいたのだが、
素人がやる治療など仮の仮の、そのまた仮にすぎない。

出血がひどい事もあり、魔力が欠乏している今のブーンはとても危険であった。



27: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:27:30.34 ID:KOBTvs9c0
('、`*川 「傷口を短時間塞ぐくらいなら私にも……、ってあなた」
( ゚д゚ )「……?」

('、`*川 「あなた、あの魔術師にお腹貫かれてなかった?」

上半身裸のミルナのお腹を見ながら、不思議そうに言う。
『あ、そういえばそうでした』とミルナは答えた。

('、`*;川 「そ、そういえば?」

( ゚д゚ )「な、何かわかんないですけど、あの本が体に入った時に全部こう……しゅわしゅわと」
('、`*川 「……治っちゃったの?」

(;゚д゚ )「……みたいです」
('、`*;川 「怖っ!」



31: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:29:19.68 ID:KOBTvs9c0
(;゚д゚ )「怖いですね……よく考えたら」
('、`*;川 「よく考えなくてもわかるわよ!こ、怖っ!!」

(;゚д゚ )「そ、そんなに言わなくても……」

――――

ペニサスは手に白い炎を発生させ、ブーンの傷口に押し当てる。
炎が体にまとわりつくようにくっ付くと、傷口から出ている出血を押さえつけていった。

( ゚д゚ )「これが……回復魔術?」
('、`*川 「ん〜、そんな上等なものじゃ無いわ。私なんか、駆け出しの駆け出しの駆け出しだもの」

しかし、ミルナはそうは思えなかった。
先程の魔術師戦で行われた、数々の戦闘における技能。魔術。
全て魔法という物を知らないミルナが見て、駆け出しなど謙遜としか思えず、質問を返す。



33: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:32:55.31 ID:KOBTvs9c0
( ゚д゚ )「でも、ブーンには失礼だと思うけど……。僕が感じた力は、ペニサスさんの方が強く感じられました。
     最初に僕が助けてもらった時のブーン。さっきまで戦っていたペニサスさん。
     何か……。言葉では現すことの出来ない何かがあるんです。それが強さに見えました」

('、`*川 「……そんな事、無いわ。ブーンにはブーンの強さがある。私だってブーンに助けられた事、あるのよ?
      それに、あなたが言ってるその強さって、多分私の強さじゃない。私の師匠の力よ、きっと。乗っかっているだけ」

炎を、また違う患部に押し当てる。
暖かそうな光に、ついついミルナは触れてしまいそうになった。

('、`*川 「ふふ。後で当ててあげようか?」
( ゚д゚ )「……え、ははっ。お願いします」


一段落。


すると、少しだけ――。
柔らかな月の光と共に、ペニサスは口にする。



34: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:35:44.10 ID:KOBTvs9c0
('、`*川 「弱いもの、私。肝心な事、わかってないのよ」
( ゚д゚ )「……?ペニサスさん?」

('、`*川 「わかってないの……。魔術がどうだとか、そんな事はどうでもよくて。
      自分の事。一緒に暮らしていたツン……師匠。そんな事。全然わかってない」

少しだけ上を見て、続ける。
ミルナは黙って聞いているしかなかった。
旧人、自分の思いこそ、言葉にし、人に伝えようとする吟詠はあろうとも。

それが、人の何かを癒す事に繋がるのか。
それは時と場合により『はい』とも『いいえ』とも答えられない。

ミルナはわかっていた。
今はそれでも『いいえ』だという事。



36: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:37:23.89 ID:KOBTvs9c0
('、`*川 「……思い出せないの。ずっと、ずっと前から思い出そうとしてるのに。
      自分の何かが思い出せなくて……。でもさっきみたいに、体は動く。
      次はこうしろ!次はこうしてやれ!って、頭に直接響くの」


こうも悲しく、自分を語る。
そんなペニサスを、ミルナは見ていられなかった。

『いいえ』は『はい』にならないだろうか?
もしかしたら、なってしまうのではないだろうか?

( ゚д゚ )「……っ」

ミルナの中で、感情が加速度を増していく。
言葉で、行動で、せめて今夜だけでも。今だけでも。
この人の悲しみを拭えないのだろうか。



('、`*川 「……怖いのは、私だね」



拭えるのでは、無いだろうか――?



37: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:39:55.77 ID:KOBTvs9c0
('、`*;川「……わぁっ!!」

言葉より先に、行動に移してしまった。
その華奢な肩に手を回し、体を引き寄せ、決して力は強くせず。


抱きしめた。


(;゚д゚ )「こここ!!!こっ!!!こわくなはんか!!!怖くなんか!!無いです!!」
('、`*;川 「え!?ええ!?」

さらさらと、稲穂が流れるような、美しい黄金色をした髪が揺れる。
ミルナは緊張のあまりか、思いっきり前を見つめたまま、その震え、上ずった喉で言葉を続けて吐き出す。

(; д )「ぼ……!!僕も今、さっき……。訳のわからない力を手に入れました……。
     これから、恐れられて生きていかないといけないのかも……しれません!」


('、`*川 「……」



41: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:41:14.58 ID:KOBTvs9c0
( ゚д゚ )「ペニサスさんも、自分の事は怖いと言いました……よね?」
('、`*川 「……うん」


( ゚д゚ )「僕も……自分が、怖いです。正直に、ちゃんと言えば、その通りです。
     でも……でも!!ペニサスさんが僕とこうやって話をしてくれてる……。
     怖がらずに……。僕の目を見てくれてます。それだけで耐えられるかもしれない」
     
('、`*川 「ありがとう……ミルナ君。私もミルナ君がいたら、耐えられるかもしれない」

するとペニサスはミルナの体から離れ、少しだけ微笑む。
やや赤らんだ頬は、白い光の中、よく映えた。

星が流れる。綺麗な夜。
先程までの地獄絵図のような景色は一切無く。


時間は緩やかに流れ……。
月は笑っていた。にんまりと、まるで子供のように。



42: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:42:18.72 ID:KOBTvs9c0
('、`*川 「……本当に、綺麗ね。空は」
( ゚д゚ )「小さい頃父親によく肩車して見せてもらいました」

魔術師だからであろうが、少し謎めいた印象。
決して強い人ではなく、しかし芯は通っている。


なぜかそんなところに、ミルナは興味を惹かれたのかもしれない。


( ゚д゚ )「……じゃあ、これからどこへ?」

('、`*川 「北に行けばサブカル運河。そこを超えればサブカル。
      そこでちゃんとブーンの治療をしないといけないわ」



44: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:45:21.29 ID:KOBTvs9c0
( ゚д゚ )「サブカル……。技術と……し……」

ミルナの視界が、急にぐにゃりと曲がる。
そのまま目を瞑るように意識が無くなる。

そして……。
突如、二人に迫る、影。

('、`*川 「サブカルに行った事は――……え?ミルな……君……」

周囲を見渡す。
また、あの時の感覚。

早すぎる報復の薫り。
そしてペニサスを襲う、強烈な眠気。
逆らえない体。意識。

( 、*川 「……あ、れ?」



45: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:46:46.53 ID:KOBTvs9c0
――――


『……私は、もう命という"個"を捨てなくてはいけないんだ』
『え、それは一体どういう……事、なんですか?』

『いい。詳しい話など、無意味に等しいのだ。全てがこの空に広がる雲のように……。
 見てごらん。ミルナ君、君にはどう……見えているのかね。それを最後に、教えて欲しい』

『……。ぼ、僕には……。僕には、僕を中心に雲が渦巻いているように見えました』
『……ほう』

『でも、それは今だけです。明日になれば、違う事も言えます。1時間もすれば、違う事も言えます!!
 だから最後だなんて……、言わないで下さい。あなたの言葉に縋ってしまう僕が……、まだ、準備できていないと言っています……』

『駄目なんだよ。ミルナ君』
『……』

『無限など、この世には無いんだ』
『無限……』

『だから私は、この命を捨てる……。いや、自我を捨ててしまう前に君にこの書を授けようと思ったんだ。
 たまたま、ここで出会っただけの運命。小さな運命だ……。それも、儚く脆い……』



48: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:49:20.49 ID:KOBTvs9c0
『この書は一体……?』

( ∴)『……は、心と体を二つ持つ』
( ゚д゚ )『え?』

『おい!!ここにいやがるんだろうが!!出て来い!!』
『おらぁ!!!開けろこの野郎!!!』

( ∴)『さあ、ここでお別れだよ。ミルナ君』
(;゚д゚ )『な、なんでですか!一緒に逃げればいいじゃないですか!!』

( ∴)『我が名、ゼアフォー。有限を生きた者として、覚えていてくれれば嬉しい。ありがとう、さようなら』

――――

(;゚д゚ )「……はっ!?」

少し前の夢。
ミルナが、その夢から目を醒ますと、何かよくわからない空間にいた。
体を起こしたのか、それとも立ち上がったのか。それすらもわからない。
すぐに周りを見渡す。



49: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:51:26.66 ID:KOBTvs9c0
しかしよくわからない。
全く言葉の通りである。

"何があるのか、どうなっているのか。何をしているのか。誰がいるのか"

これら全てがわからない空間。

(;゚д゚ )「な、なんだ……」

すると、もんやりとした空間の壁を破るかのように、
血だらけのローブを身に纏ったヒッキーが現れたのだ。

右腕が無く、先程斧で胸を貫かれていたはずなのだが、その痕跡が見当たらない。
やはり、何かの魔術が作用しているのだろうか。

おそらく、この空間すらもヒッキーが作り出したものであることに間違いは無いだろう。

ずりずりと後ずさりをしたつもりになるミルナ。
しかしどこが後ろなのかわからない。
ただ、前だけはわかっていた。ヒッキーがいたから。



52: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:55:31.10 ID:KOBTvs9c0
(-_-)「……やぁ。ちょっと前は、ありがとう」

憎たらしく言うと、ヒッキーはミルナに一つ近づく。

べた、べた。
血が下の方へつく音。


(-_-)「夢。見たでしょ?」
(;゚д゚ )「……」

簡単な問い。
揺さぶりもかけない。

(-_-)「夢。見せてもらったよ」

するとまた、ヒッキーが靄に消えた。
何をするつもりなのかはわからないが、今、この状況が危険である事。
そして残されたペニサス、ブーンが気になっていた。

おそらく後ろから、ヒッキーの声がした。

(-_-)「その書はね……、僕が手にするはずの物だったんだ」

そう、言いながらヒッキーはミルナの頬を、背後から撫でるように触った。



54: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:58:44.76 ID:KOBTvs9c0
びくりと跳ねる体。
そして恐怖から来る震えを感じ取ると、ヒッキーはくすくすと笑う。

どうにもつかめないこの状況を打破しようと、ミルナは逆に問う。

( ゚д゚ )「両親……、もしかして、ゼアフォーさんは?」
(-_-)「……そう。僕のパパだった、魔術師さ。もう踏ん切りはついたよ」

踏ん切り。

その言葉と同時に、大きくその手を広げると、空間が一気に広がっていく。
硝子が割れるような音がし、ミルナの意識ははっきりとした物となる。

そこは、夕焼けが差し込む一室。
玩具、山積みになった本。そして机の上に飾ってある書の片割れ。
生活感は無くとも、人が住んでいるといった印象を受ける。


まるで、あの神判堂の一室のような。
しょうのないくらい悲しい部屋。



55: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/30(土) 23:59:39.54 ID:KOBTvs9c0
( ゚д゚ )「……ここは」
(-_-)「僕の……育った部屋さ」

動かない体に苛立ちを覚えているミルナを尻目に、ヒッキーはスタスタと、硝子窓に手を当てる。

(-_-)「今までずっと……、僕はね、僕は、毎晩……寝る前にこうやって思い出に耽っていたんだ。
    いつか帰ってくるそのママ。パパを淡い空想……妄想で……塗り固めていたんだ」

(;゚д゚ )「……そ、それが今どう関係が」
(-_-)「そうさ。今……。いや、ついさっきかな。関係無くなったんだ」

ヒッキーは思い切り、その思い出の空間に勢いのついた波動を撃ち付ける。

テーブルは吹き飛びバラバラになり、硝子は割れ、一撃にしてぐちゃぐちゃになってしまった。

しかしまだ、ヒッキーの手加減の知らない暴力は留まる事無く、
何発も、何発も部屋を壊そうと撃ちまくる。

(;゚д゚ )「な、何をしてるんだ!!止めろよ!!」

ミルナが静止の声を上げるも、まったく聞いておらず、ただ一心不乱に続けた。



57: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:01:47.64 ID:uadeFpJh0
(#-_-)「……これも!!!これもこれもこれもこれもこれも!!!!!」

轟音と共に、ヒッキーの動きが止んだ。
カラカラと落ちる天井の破片。ほこりが舞い、先程までとは全く印象を変えてしまったその部屋にただ佇む。
ミルナは声をかけようとした。しかしその、ヒッキーの目から流れる涙に躊躇してしまう。
何が悲しいのか。何がそこまでさせるのかがわからなかった。

しかしヒッキーの中では、確かに過去との区切りがついていた。
それを、誰かに見て欲しかったのだろう。

(-_-)「……っ」

ミルナに背中を向け、涙をごしごしと拭う。
これでいい。これでいい。と、ヒッキーは繰り返した。

今まで、自分が甘やかされた偽りの記憶で彩られていたのだから、
それを打開する為にはそうするしか無かった。

パパ。
ママ。

縛られていた。
自分の才能も、未来も、過去も、現在も、何もかも。



58: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:02:35.42 ID:uadeFpJh0

(-_-)「……君の名前、ミルナって言ったよね。夢の中で"ゼアフォー"がそう言っていた」

ミルナの方をくるりと向き、ぐちゃぐちゃになった部屋の瓦礫の中から一冊の本を取り出す。
それはミルナが先程手にし、力を得るきっかけとなった"体を与える書"。
もちろん、これは思い出で造られた偽りの塊。

( ゚д゚ )「……返せって言われても、返し方なんてわからないよ」
(-_-)「そうだろうね。この書は特別、体に植え込むんだ。
    でもどうだい?その力が……危険な物だとしても?」

(;゚д゚ )「危険……?」

ヒッキーは、その空間で続けて言葉を口にする。
その書に秘められた力の事を。

(-_-)「……僕と戦ったさっきの事……、覚えているよね。
    君の体に入っていったその書、二冊。そしてそれと伴って身についた体の動かし方。
    硬質化した皮膚。完全に人の範囲を超えた、身体能力……。その全ても。覚えているはず」

( ゚д゚ )「……」



(-_-)「それは全て"魔人"の力」



59: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:04:58.06 ID:uadeFpJh0
(;゚д゚ )「魔人……?」

とっさにミルナは自分の腕を見る。
いつもの通りの指、掌、甲。
しかし力をぐっと入れてしまえば、今動かないこの体さえも動かせそうな気がした。

魔人だ、などと言われ、信じきる事など出来ない。
そこにまた、ヒッキーが口を、言葉を重ねていく。

(-_-)「僕はね、成人したら人としての形を捨てるつもりだったんだ。
    君の夢に……出てた、ゼアフォーのように。ただ、ゼアフォーには才能が無かった。
    魔人の力を受け入れる……、いや、取り込むには、相応の……器が必要だったから」

(;゚д゚ )「ちょ……ちょっと待ってよ!!じゃあなんで僕なんかの体に入ったのさ!!」
(-_-)「……何も、魔人はその器を選ぶ訳じゃない。要は魔人をモノに出来るか出来ないか。そこが重要なんだ」

指を鳴らす。
すると、ミルナの体はその緊張の糸の雁字搦めから解放された。
体制を崩しそうになりながらも、片膝をその場につく。意識、感覚ははっきりしてきた。

『はあっ』と、深く吐き出す。



60: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:05:31.60 ID:uadeFpJh0
(-_-)「今、君の体にその魔人は植え付けられた。意味はわかるだろう……?
    君は"高名な魔術師ですら受け止め切れない魔人の一方的なその歪んだ愛"を……、
    人間という脆い……器で受け止めなくちゃいけなくなったんだ」

その言葉で、一気にミルナの心に恐怖が広がる。
しかしどうすればいいのか、皆目見当もつかない。

汗が、一気に顔を駆け下りた。

(;゚д゚ )「……。死んじゃうって事」
(-_-)「死にはしないよ」

( ゚д゚ )「……なら、生きてさえすれば」
(-_-)「そう考えるだろうね。でも……その希望は今捨てたほうがいい」

言葉を遮る。
ヒッキーは、ミルナの事などどうでもいい。
しかし、どうにかして、その魔人の力を手に入れたいその訳もあった。

(-_-)「……」

だから少しだけ、望みをちらつかせる。
あくまで、その望みに食いついた際、自分にイニシアチヴが来るように。



61: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:06:02.34 ID:uadeFpJh0
(-_-)「君は今のままじゃあ……体だけ置いて死んでしまうから」
(;゚д゚ )「それは……体を乗っ取られるって事?」

(-_-)「そう……。そして今、僕が考えている事。決別した僕にとって、憎い敵であるゼアフォー。
    そいつが撒いた種をこのまま……他人に委ねていられる程、僕は正義感が無い魔術師じゃ無い」

少しずつ。
少しずつ、心の隙間に言葉を放り込み、捻じ込む。
その為のこの空間。

人間など、容易い。

(-_-)「僕は魔人から……君を救おう」
(;゚д゚ )「!?」

(-_-)「その為にわざわざこんな空間を誂えたんだ。
    またあの女にやられるのも……嫌だからね」

これだけは、本当であった。
あの女の戦い方は癖が強い。じゃじゃ馬すぎる。
そして、じゃじゃ馬にしては計算しつくされている。余計にたちが悪い。



64: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:08:00.11 ID:uadeFpJh0
( ゚д゚ )「……どうしろって、言うんだい」

己の力が最優先されるべき世界へ、ヒッキーは足を踏み入れたのだ。
ならばそれ相応の知恵、行動を示していかねばなるまい。
あの部屋の中だけの温い一生であるならば、それもそれでよい。

だが……。

(-_-)「これから、北へ行こう。もちろん、僕と、君とでだ」

知ってしまった。
思い出してしまった。

ヒッキーはせねばならない事がある。


復讐。



(-_-)「僕と君の利害の一致。それが『魔術機関』に属する魔術師を皆殺しにする事――」



65: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:10:01.81 ID:uadeFpJh0
――――
―――
――

そして時を同じくして、魔術師が数人。

雪が横殴りに遅い来る北の大陸。
岩壁を削り取ったような空間に不自然に立つその古城の中。

青く燃え盛る炎を囲む男が一人、女が二人。
各々が何か退屈そうにしていた。

その中に、先程オトジャを操っていた"ブーム"を操る女。
ブームを収納した鞄から、なにやらドレスを着た人形を取り出し、刺繍に励んでいた。

lw´‐ _‐ノv「……」

針をすいすいと通していく。
慣れた手つきで、少しほつれていたフリルを縫い直した。
それを横目で見ていた男が口を挟む。



66: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:10:44.65 ID:uadeFpJh0
( ゚∀゚)「シュー、おめーも飽きねぇよな。それ」
lw´‐ _‐ノv「……大好きだから?」

(;゚∀゚)「いやなんで俺に聞くのよ」

目線を戻しまた縫い始める。
やりにくい。そういった顔をして男は何とか話を広げようと必死になっていた。

( ゚∀゚)「……でも一体何の用だってんだ」
lw´‐ _‐ノv「知らない。でも、ここに三人呼び出されたんなら……、何かあった」

( ゚∀゚)「やっぱそうなのか。お前うまくやってんの?ゼアフォーのおっちゃんのアレ、
     殺せって言われてわざわざあんなトコまで出向いてったんだろ?」

lw´‐ _‐ノv「うん……。でも、ちゃんと殺せた……はず。多分。
       色々邪魔者も入ってたし、だからもう……。うーん、やっぱりわかんない」

(;゚∀゚)「なんでぇそりゃ!!」



68: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:11:53.52 ID:uadeFpJh0
『あぁまどろっこしいわね!!さっさと"上"は来ないの!?』

すると、二人のダラダラとした会話を炎をはさんで聞いている女が、
痺れを切らせたかのように大きな声を上げた。

その女、素性に何か問題があるのか。
口に葉巻を咥え、素肌に毛皮のコートを羽織るという変わった出で立ちをしていた。
しかも胸元は大きく肌蹴ており、豊満な体を露にしている。

( ゚∀゚)「おぉ怖い怖い。ババアは気が短いから困るね」
ノハ#゚听)「あァん!?坊主がなめた事言うんじゃ無いよ!!それにアタイはまだ23よ!!」

( ゚∀゚)「ではは!!何歳サバ読んでんだよ!!読むサバもいなくなっちまうっての!!
     それにこの前24って言ってたじゃねえか!適当に言いすぎだっての!!」

げらげらと、男が笑っていると、女はすっくと立ち上がった。
その瞬間、ほんの数刻。男の足元に炎が立ち上がる。

(;゚∀゚)「……ババア!!!」

古城の一室の温度は急激に上がり、赤く光り輝く。
女は三人で囲んでいた炎を床にもぐらせ、一気に爆発させたようだ。
相当歳を気にしているらしい。



69: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:12:38.36 ID:uadeFpJh0
ノハ#゚听)「そォの口を!!!溶接してやるわ!!!!」
lw´‐ _‐ノv「……」

(#゚∀゚)「……。よし、ババアがやる気ならやってやるよ。
     ババアの代わり、さがさねえとなァ!!!!!」


『止めなさい。君達ぃ』


二人の衝突を止めるかのように、そこにもう一人、男が現れた。
人目見てわかる、その純粋な悪意に満ちた目で二人を見つめ、制止する。
ねっとりとした声。細い体。



70: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:13:43.45 ID:uadeFpJh0

ノハ#゚听)「……ふん。あんたが来るの、遅いからよ」

(;゚∀゚)「す、すまねぇ」
lw´‐ _‐ノv「……」

風が吹き、炎がふっと消えて無くなる。
男は前かがみのような体制で、ごろごろとした石の床を歩いてきた。

( ・∀・)「すみませんでしたぁ……。少し、急用がありましたのでねぇ」

モララー。
裏側の世界を生きる魔術師。

その中でも、とある思想と、優れた魔術を兼ね備えた者達が集められた、
謎の集団である"魔術機関"を統べる男。



71: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:14:26.57 ID:uadeFpJh0
( ・∀・)「さてぇ……。今日は急に集めちゃってすいませんでしたぁ。
      少し色々と話がありましてねぇ、こう、まあ集まってるのこれだけですかぁ……」

ノパ听)「皆あんたの指示通り動いてるのよ。空いてるのは私たちだけ」
( ゚∀゚)「そうだぜ。早く指示をくれよぉ!!体がうずいてしょうがねぇ!!」

( ・∀・)「……まあいいでしょう。おそらく近い内に、邪魔者は皆消えます……。
      そろそろ皆さんに、本格的にぃ、やってもらわねばならないと思って今日呼び出したんです」


端から聞けば、よくわからぬ会話。
邪魔者。本格的。

何か遂行しようとしている事があるのには違いない、会話。


( ・∀・)「とりあえず今日はこれだけなんですがぁ、近いうち、皆に集まってもらいますぅ……。
      やはり士気を高めてした方がぁ……、気分は、乗るでしょう?それとシューさん……」

lw´‐ _‐ノv「……何?」
( ・∀・)「息子、まだ生きているようですねぇ……」

lw´‐ _‐ノv「……しぶとい」



72: ◆Cy/9gwA.RE :2008/08/31(日) 00:15:03.79 ID:uadeFpJh0
( ・∀・)「ですよねぇですよねぇ!!まあ仮にもゼアフォーの息子です。
      魔人の力……、ちゃんと消して来てくださいね……。プラス、サブカル、イエゲに網を張っておきなさい」

lw´‐ _‐ノv「わかりました」

( ・∀・)「さぁ……、楽しくなってきますよ皆さん。我らの夢を……」

( ゚∀゚)ノパ听)lw´‐ _‐ノv「「「月に誓おう……」」」


確かに、確かに物語は進んでいく。
大陸にちらばった、欠片が欠片を欲している。

安らぎを欲しがり、戦乱が始まろうとする。
それも、静かに。




( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第11話『眼光願望賛同教室』 完


( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第1章『詩吟と死霊魔術編』 完


次回

( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第2章『人形と復讐編』



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