( ^ω^)はネクロマンサーのようです

4: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:32:38.01 ID:DWw6/amW0
( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第2章『人形と復讐編』


風は吹けども、その花は一向に揺れる素振りを見せなかった。

少し、外に出かけようとした時に、ちらりと見る。
帰ってきたときにもそう。

最初はそれだけだった。
ただそれだけだったのに、なぜか気になってしょうがなくなってくる。

でも、その花を引っこ抜こうとも、近くで手で仰いで見ようともする気にはならなかった。
なぜか?私にはわからなかった。

ただその花は何か特別な力を持っている様にしか考えられず、私をそういう考えにさせるのも、
その花が持つ力なのだと、何処か本質的に見抜いていた……、いや、決め付けていたのだろう。

その変に興味を掻っ攫っていく花。
花は、ひどく紅く、そこにいた。


いつか触れてやろうと思い、もう20年も経ってしまっていた。
己で己の心の平静を破るというのは、これほどまでも難しく、繊細で、時を喰うものなのだろうか。


『ウプレス:言葉寄り』より



5: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:34:03.39 ID:DWw6/amW0
――――――


(;゚д゚ )「皆殺し……」

何という程、単純明快な"悪の言葉"なのだろうか。
ミルナは言葉を愛している。
だから故か、眩暈がしそうな気分にもなっていた。

そして飛び出した魔術機関という言葉、存在。
裏側の世界に足を踏み入れた者としては、どうにも掴みようが無い。


(-_-)「そうさ。皆殺しにする……。君の体に植えられた魔人の力。
    それは間違いなく魔術機関の魔術師の一人が解除方法を知っている……」



7: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:36:16.26 ID:DWw6/amW0
――嘘。

(;゚д゚ )「ちょ、ちょっと待って!!ならその魔術師さえわかれば……」
(-_-)「……判明させる事が出来るのなら、可能……かもしれないね」


――またも、嘘。


(-_-)「利害が一致している……と言っただろ?僕はそのゼアフォーの"残りカス"を、
    この世から……消したいんだ。君達を襲って言うべき言葉じゃ無いかもしれないけどね……」



9: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:38:09.27 ID:DWw6/amW0
嘘があふれ出す。
ヒッキーの口から。止まる事は無い。

そして、さもそうであるかのように飲み込んでいく。
音も立てずに、だ。

(;゚д゚ )「な、なら皆殺しなんて事は止めて、その解除方法を知る魔術師を探れば!!」

しかし、ここまで直球な人間と接した事が無い。
こいつは何を信じて生きているのだろうか、ヒッキーはそんな事を考える。
馬鹿正直なのはいい。しかし、この世界に踏み入れたのであるならば、そうであってはいけないだろう。
まあ、どうでもいいと考える。駒にするのだから。

(-_-)「……それが難しいんだ。独自が独立して働いているのが魔術機関……。
    ゼアフォーもそうだった……。たまに出て行っては何か悪事に加担して、帰ってくる。
    何かも話そうとはしない。家に帰ってきては、研究室で調合を繰り返していた奴さ……」

( ゚д゚ )「……」



10: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:40:08.87 ID:DWw6/amW0
(-_-)「理解する事は出来ないと……思う。恨んでいる、それに変わりは無い。
    でも、ゼアフォーは僕にその書を渡そうとしてくれてたはず……。しかし殺されてしまった。
    この行き場の無い恨みは、魔術機関にしか……いかない。何もしないまま終わらせるつもりも無い」

ミルナの脳裏に、あの時の、ゼアフォーとの会話が浮かんでくる。


――――『私は、もう命という"個"を捨てなくてはいけない』
    『無限など、この世には無いんだ』


( ゚д゚ )「……もし、もし終わらせられれば、君はどうするんだい?」
(-_-)「さあ……?満足すれば、首を掻っ切ってやってもいい。その場でね」

(;゚д゚ )「掻っ切るって……」
(-_-)「ふふ!冗談さ……冗談さ……ふふ。両親の墓標を立ててやるくらいは……するさ」



11: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:41:51.32 ID:DWw6/amW0
不適に笑うヒッキー。
どう捕らえても、あの話し方は本気だった。
そこまでの恨みとなると、本人もどう処理すればいいのかわからないのだろう。
頭の中で、圧倒的に負の部分が勝ってしまっている。

到底、言葉では敵わない、未知の領域がそこに待ち構えているように感じた。
ヒッキーという魔術師……根は悪い奴では無い気が……する。

(-_-)(……なんて事思ってるんだろ?わかる、わかるんだよ。
    少ない脳みそで、憂いを帯びた考え方を持って、精一杯ひねり出して、それだ)

無表情の奥に"見せる為の内側"を作り上げる。
穴は見せない。



そしてそうこうしている内に、ミルナは周りの景色が"ぶれ"はじめてきている事に気づく。

先程まではこざっぱりとした、悲しい部屋であった。見る影も無い程。
粉々にしてしまったからだろうか、風景が歪み、所々皹が入りだしていた。
慌ててヒッキーにどうなっているのか問いただす。



12: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:43:58.72 ID:DWw6/amW0
(-_-)「大丈夫さ……。元に戻る。空間は消え去り、
    僕が君の脳にひっかけたフィルターも外れる。直にね、直にさ」

( ゚д゚ )「フ……フィルター?」

(-_-)「もう大丈夫なんじゃないかい?僕が作っていた空間では、君はあの金髪女魔術師の事。
    余り頭の中に浮かんでこなかったはずさ。浮かんでも、ぼんやりしていたはず……ふふ」

(#゚д゚ )「え、あ……はっ!!そ、そうだペニサスさんはどうしたんだ!!!」

咄嗟に、ぐっと掴みかかるミルナ。

ヒッキーは胸倉を掴みあげられながらも、しっかりとミルナのその変化した腕を見ていた。
硬質化し、鱗のような棘が浮かび上がっている。触れれば皮膚など簡単に切り裂かれそうな程。
そして握力もすさまじい。ローブで喉が絞められ、咽てしまいそうになった。



13: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:45:45.41 ID:DWw6/amW0
(;-_-)「……そのまま首を絞めていてもいいのかい?」
(#゚д゚ )「……!?」

なんと、周りの空間。
皹が入り崩れ落ちていった"壁"が元に戻りつつあった。

(-_-)「この空間は"完全に崩壊しなければ"いけない。意味は……わかるね?
    僕は彼女に悪いようにはしていない。君の隣で、ぐっすり寝ている」

(;゚д゚ )「ど、どういう事なんだ」
(;-_-)「その前に……離してくれないかな。これ……きついよ」

(;゚д゚ )「……っ!」
(;-_-)「ごほほっ。君は今半魔人なんだよ。気をつけてくれ……」

離された首元をさすりながら、ヒッキーはその空間に一筋の光で円を描いた。
ミルナは、当然何をしているのかさっぱりわからない。するとその円が地面に残り、輝く。
その円内にシャボン玉のような薄い膜が張り、透明な、しかし奥がある水面のように変化した。



15: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:47:38.64 ID:DWw6/amW0
(-_-)「さあ、覗いてごらん」

言われるとおりに、その円を覗く。
すると、何か木陰のような景色が映っているではないか。
そして更に覗き込むと、芝生にごろ寝している、ペニサスと自分がいた。

(;゚д゚ )「……僕!と、ペニサスさん」
(-_-)「……理解できたでしょ?」

(;゚д゚ )「……え」
(-_-)「……?」


( ゚д゚ )「…………?」

(;-_-)「……わからないならわからないって言えよ!
     それとジロジロ見つめるな!これだから人間は……」


一々説明をせねばならない。そんな事を考え、一つため息をつくと、
ヒッキーは、この魔術をゼアフォーから受け継いだ事を言う。



17: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:50:10.64 ID:DWw6/amW0
『固有空間形成魔術』と呼ばれる、この特殊な魔術。やはりこれも先天的なものが必要となっている。

もし、Aという星があるとする。
そのAという星の表面には、もちろん、視認できる表面が100%存在するのだ。
これは勿論常識の範囲内である。

空間形成魔術は他にもあるが、どれも空や地底に一定時間架空の空間を形成するというもの。
そのようなもの、思い切り空でも、思い切り地下でも、空間というのはどうにかすれば見えてしまう。

(-_-)「でも、この魔術は違う」

ヒッキー。いや、ゼアフォーが編み出したこの魔術は、
あるべき空間とあるべき空間の間に空間を作り出す。という事。

完全な不可視、不可侵の領域を作り上げるのだ。
これは『瞬間移動魔術』と呼ばれる時空間操作の発展系と見られる。

そしてこの不可視不可侵領域に、精神だけを持っていく。
意識、記憶、存在が空間の中で個を主張し、会話さえも可能となった。
勿論この空間内で殺されてしまえば、その人物の精神は殺されてしまい、二度と目が覚めることが無い。



18: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 20:52:38.74 ID:DWw6/amW0
(-_-)「――だから故に、僕がこの空間内で死んでしまえば……って」
(;゚д゚ )「……あ、え?う、うあ……」

(;-_-)「何なんだよ!一体どこまで馬鹿なんだ!!
     要するに!僕が死んじゃえばこっから出られなくなるんだ!」

(;゚д゚ )「な、何て事だ……」
(-_-)「……。ま、まあいいけどさ。まだ死んでないよ」


――――


そして、ヒッキーとミルナのよくわからない問答が続いた。
ようやく空間を消そうとしたその時。外にある異変が起きているのに、気づく。

(-_-)「……。僕は君に利害関係が一致していると、言ったね?」
( ゚д゚ )「う、うん……」

(-_-)「この空間を取り壊したら、金髪は目を覚ます。でも、眠らされたという記憶は無い。
    だけど君の頭の中にはこの中で話した事がそのままある。……わかるね?」



20: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:06:23.00 ID:DWw6/amW0
どうにか、意味深な言い方をするヒッキー。

(-_-)「サブカルへ行くのなら、運河を渡るまでにお別れを言っておくんだ」
( ゚д゚ )「……!!」

(-_-)「僕は……慈善でやってる訳じゃない。
    たとえ君がいなくとも、一人で魔術機関を潰そうとは思ってる。
    ただ、君が来ないのなら、君の魔人の力の解除法を聞き出そうとはしないよ……」

(;゚д゚ )「な、何が言いたいんだ」

崩れていく……空間。

(-_-)「君はまだ事の重大さがわかってないんだ……。
    今、僕は善意で君に忠告している。君は……、
    いや君の力は"迷惑"になる。それも、とても大きな」

(;゚д゚ )「僕の……力が?」
(-_-)「……鈍感でも、わかるだろ?さあ、空間が崩れる。僕は先に運河を渡っているよ……」



22: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:09:16.56 ID:DWw6/amW0
(;゚д゚ )「……くっ!!!」


まばゆい光が目に飛び込んできた。
そして一瞬もしない内に、元の体に、意識が戻る。
がばっと、ミルナは起き上がると、さっき自分が見られていた場所に視線をやる。

そこには、ヒッキーがいた。
まだあの時と同じ、血だらけのローブを身に纏って、無くなったはずの右腕を見せるようにしながら。

そして、ヒッキーの口がゆっくりと動く。
ペニサス、ブーンがおきてしまわないように、口だけ動かし、メッセージを伝えようと。

(;゚д゚ )「……わかったよ」

それが理解できたのか、ヒッキーはニヤリと笑うと、闇へと消える。
そしてそれとほぼ同時に、ペニサスが目覚めた。



23: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:10:26.75 ID:DWw6/amW0
('、`*川 「……ん、あれ。また寝ちゃってたのかしら」
(;゚д゚ )「あ、あはは。まあ仕方ないですよ。夜ですし……はは」


そう、時間は気づけば朝。

――――
―――
――



眠たげな光が世界を照らし出す。
鳥は空を駆け回り、木々は背伸びをするようにその深緑を見せ付け始める。

( ^ω^)「いやぁ、昨日は張り切りすぎちゃったお!!」

呑気な声で、ブーンは言う。
どうやら長い間眠っていたせいか、体調はよくなってきているようだ。
それでも昨晩の出血はひどかった。ペニサスの魔術が効いたのだろうか。



24: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:12:11.62 ID:DWw6/amW0
('、`*川 「いやいや、駄目よ。あなたまだ魔術使えないんでしょ?
      とにかくキチンとその怪我も治さないといけないし、おとなしくしてて」

( ^ω^)「う〜ん……。体にそんなアレな所は見られないお?」
( ゚д゚ )「でも体は一つだし、昨日あれだけ戦ったんだから」

( ^ω^)「お。そういえば、ここまでミルナが?」
( ゚д゚ )「え、ああ!……ああ、うん。担いで飛んじゃった」

ブーンは周りをぐるっと見ると、人気は少ない事を確認した。

( ^ω^)「えっと、サブカルだったかお?」
('、`*川 「そうそう。どっちにしろ運河を渡りきらないといけないわ」

中央の大陸を分断するように流れているサブカル運河。
上流部分にある、北部に近い山から湧き出る水により、人々の暮らしに潤いを与えている。



25: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:12:49.61 ID:DWw6/amW0
なぜ大陸を横断するこの運河にサブカルの地名がつくかというと、技術発展に伴い資源確保、
作業効率を良くする為に、当時サブカルの町長と、町工場の職人達が決起し運河に沿ったパイプラインを、
23年もかけて建設。そしてそれに沿った街、村と交流を深めた事から、そう呼ばれるようになった。

それが現在、ブーン達がいる年から130年前。
大陸が渦巻いていた頃に行われた輝かしき人間達の経歴。

('、`*川 「落ち着いていくよりは、もう急いで行ったほうがいいかもしれないわ。 
      これだけの騒ぎになっちゃったから捜索の手が広がってもおかしくない」

( ゚д゚ )「……そうですね。急がないと」

そして、このまま運河を渡りきってしまおう、という結論に三人は達する。
しかし、やはりミルナは浮かない顔をしていた。いつ別れを切り出せばいいのだろうか。
別れを切り出すにも、理由がいる。ペニサスと昨晩、ああいって約束を交わしたのに、だ。

胸がもやもやとする。
自分の為なのか?この仲間の為なのか?
主観では答えが出ない――。

もし、自分の中の魔人が暴れだして、襲い掛かってしまえば、
死ぬより大きな苦痛を得る事になるだろう。

――――



27: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:15:44.92 ID:DWw6/amW0
運河を渡った先。
すんとした臭いが一帯に広がる林の中。

(-_-)「……そうさ。ミルナ……君は逃げられない。
    自分の考えすら正しいと思えないのなら……、
    それは、もう後ろしか見られないのと同じ事……」

ヒッキーは一人、高くそびえる中央大陸特有の樹木の天辺付近で呟く。
きつめの風を顔に受け、靡く髪。
太陽の光で、不衛生な暮らしをしているのであろう青白い顔が露になっていた。

丸い葉がぱさぱさと落ちる。
着心地の悪い、血で固まって赤黒くなってしまっているローブを気にする。



28: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:19:39.65 ID:DWw6/amW0
(-_-)「――そうだな……。君、君のローブをもらうとしよう」

振り返ると、右手人差し指と親指で葉をつまみ、ある一点へと向ける。
魔力を込め狙いをつけ、左手で手首を抑える。

『……さすが息子と言ったところか?ふん』
(-_-)「君からすれば……親の七光りも眩しすぎるんでしょ!!」

葉がとんでも無い勢いで射出される。
目標はまだ肉眼で見る事が出来ない。ただ感覚で読み取ったそれに、思い切り射ち放つ。

『冴え渡っているナ!!!』

噛み付くような形状の波動を帯びた葉が、数本の木と地面を噛み千切るように抉り取る。
少しだけ見えた黒い影。それをヒッキーは見逃さない。右手首をそのままぐいと捻る。

(-_-)「……っ!」

うねる様に移動する影を、超高速で追尾。
相手に反撃のタイミングを与えるような攻撃はしない。
最初から手は抜かずに行くべきだと頭が告げている。だから手は抜かない。



30: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:21:45.58 ID:DWw6/amW0
『……逃げ切れないっ!!』
(-_-)「逃げられる……ような魔術は撃たない」

完全に影を捉えた葉。
空中までその体を弾き飛ばすと、食虫植物のように影を飲み込もうとする。

『……ふはっ!!』

影の目前に硝子の様な薄い壁が張られる。
どうやら相当魔力を使われているらしく、葉はぐしゃりと押しつぶされてしまった。
そしてそれと同時に影がばっと吹き飛び、影を纏っていたと思われる人物がその姿を現した。

( ノAヽ)「よく出来てる魔術だ……」
(-_-)「魔術機関……随分手が早いじゃないか……」

男は、空中に立っている……。
と、言えばいいのだろうか。見た限り、乗っている。
影に乗っているように見えるのである。



31: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:23:08.77 ID:DWw6/amW0
しかし、ここから足元の影のような何かを見るには遠すぎる。

(#ノAヽ)「ああ……ちょっと寝不足でね。全く、あの人急に呼び出すもんだから、
       少し調子……狂っちゃうよね!!!畜生!!イライラしてきたあぁああ!!!」

急に物腰が変わる。
それと同時に、魔力の質にも変化が見られた。
警戒し、それ以上は近づかないヒッキー。

(#ノAヽ)「あン時お前が死んでたら俺は優雅な朝を送れたんだよ!!
       わかるか!?わかんねぇよな温室育ちのボンボンには!!
       俺の平凡を邪魔しやがってからに!!ぶっ殺してやるぞ!!」

(;-_-)「……何だよこいつ!!」

男は手を前にかざし、詠唱を始める。
距離が距離なので、それを阻止する事は出来ない。
何が来るかわからないのでヒッキーは二本程、木から木へと後退する。



32: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:24:55.30 ID:DWw6/amW0
一撃で決まってもおかしくない。
故に、初撃と反撃が大事なのだ。

( ノAヽ)「さあ出来た。離れた事を、悔いるがいい!!!」

汚く高笑いをする男。
戦闘に大事なのは、その初撃、反撃だけではない。

(-_-)「……君も少しくらい覚悟はしておいた方が……いいよ」
(#ノAヽ)「ふん。口だけは達者だな!!出来損ないめェ!!!!」

男の腕に何やらバチバチといった音がまとわりつき始める。
それは徐々に具現化されていき、青白く輝き、弾ける稲光へと成る。
男の銀髪は逆立ち、その顔が麻痺するかのようにビクビクと脈打ちだした。

その場でつなぎのようになっていたローブの上半身を脱ぎ捨てる。
晒された体にも、ブーンのような呪言が書かれていた。

(-_-)「なんだ……こいつ。さっきと全然違うじゃないか」
(#ノAヽ)「遅い。遅いぞぉぉぉォ!!!」

ヒッキーがぼそりと言葉を漏らしている間に、男はもう背後に立っており、
稲光迸るその右腕を高らかに掲げていた。

それが後ろを振り向かずとも、ヒッキーにはわかっていた。



34: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:25:43.58 ID:DWw6/amW0
思った以上のスピード。
そして、今から振り下ろされるであろう電撃混じりの手刀。

全てを考慮したうえで、覚悟を決める。
痛みを受け入れる――。

空気が混じった薪に火を焼べたような音が、その静かな朝に響く。
ぎり、と、ヒッキーの歯も同時に音を立てる。ずぶり、ずぶりと右肩にめり込んでいくその手刀。

血がじわり、じわりとヒッキーの肩からあふれ出してくる。
そして伝わってくる電撃。身が焼け切れてしまいそうな激痛。脳をかけまわる悪戯。

(;-_-)「う……っぅっ!!!!」
(#ノAヽ)「ふっはははぁ!!!!!入ったァ!!!もう一本いかがですかぁぁぁあ!!!」

(;-_-)「……くそっ!!」

腕を上にあげ、男の放つ手刀を防ごうとするも、駆け回る電撃のせいで体が麻痺して動かない。
しかし、痛みと吐き気だけはそのまま、直で伝わってきている。たちが悪い。
結局防げずにもう一本の手刀を今度は腕側に貰ってしまう。



35: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:26:21.94 ID:DWw6/amW0
(;-_-)「うっ……がぁっ!!!」
( ノAヽ)「これで終わりな訳無いだろう!!!開け魔法陣よ!!」

二人の背後に巨大な魔法陣が現れる。
星を描き、人を描く。行く末を示し、天と地を知らしめる。オーソドックスな魔法陣。
ゆっくりと回転しながら、その星の印に力を点していく。

( ノAヽ)「どうだ!!刺客にすぐ殺されてしまうだなんて……。
       お前もしょうのない人生を歩んだ事になってしまったなぁ!!」

(;-_-)「……」
( ノAヽ)「どうした?言葉も出んか!!我が雷を今から存分に味あわせてやろう!!!」

(;-_-)「ふ……ふふっ」
( ノAヽ)「!?」

(-_-)「離れて……くれるかな」
(#ノAヽ)「何をふざけた事を……」



36: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:28:42.63 ID:DWw6/amW0
魔法陣が輝きを増していく。
それと同時に体を走る電撃の勢いも比にならないほど強くなってきていた。
しかし、ヒッキーは諦めていないような言い方で、男に挑発を重ねる。

(-_-)「僕はね……。放棄された息子なのかもしれない……。
    でもね、僕の根底に渦巻く何かが君にそう言えって言うんだ……」

(;ノAヽ)「……何だこいつ!!何かとてつもなく危ない気がする……!!
       詠唱も終えた!!今、こいつにこれをぶち込まねばならないっ!!!」

(#-_-)「お前の小者臭さ……鼻につくんだよ!!!!」
(#ノAヽ)「ぐぬぬ……!!抜かしていろ!!喰らえっ!!!」

その時男は、ある事に気づく。
目の前にいる男からは、一切生命力を感じられない。
だが自分の背後から、魔法陣の向こう側から、はっきりと伝わってくるのだ。
醜悪で、貪欲で、禍々しき色を持ち、確かに、こちらへと矛先を向けている生命力、魔力が。



37: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:30:34.52 ID:DWw6/amW0
(;ノAヽ)「……ふーっ。ふーっ」

息が自然と荒くなる。
心臓が、無駄に血液を体に押し出すような、手の先、足の先に血が溜まってしまうような。
どうしようもなく、やるせない感覚。

もう後ろにいるのはわかっている。
自分の両手が突き刺さっている"抜け殻"が、動いていないのもわかっている。

魔術師の死に、慈悲も何も無い事を、わかっている。

(;ノAヽ)「し……シュー様。こいつを計ろうとしていただけでしたか……。
       申し訳ありません。私は……、ノーネは、役立たずで御座いました」

(-_-)「つまらない辞世……だね。魔法陣を……書き換えてやった。目を瞑りなよ。
     最後に僕と……君の違い、わかったろ?次を繰り出せるか、繰り出せないか……。
     小者の君は、その先を経験する間もなく……世に沈むんだ。残念だね。本当に……」



39: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:32:10.77 ID:DWw6/amW0
ノーネの手刀が深く突き刺さっているヒッキーの体がどろりと溶け、
そのままノーネの体に纏わりつく。震える体を無理やり雁字搦めにし、喉輪にまでその半固体が到達する。

(;ノAヽ)「あ、あぁ……う、んぐあ」

篭った弾ける音が、朝の森に響く。
ヒッキーの肩をぶち割ったあの時の音より数は多い。
だが悲鳴は聞こえない。半固体が口から入り込み、喉に栓をしていた。

(-_-)「おやすみも……言ってもらえないんだ」

徐々に顔が真っ赤に変わり、白目を向いたノーネはぐったりと力を無くす。
静かに殺された男の顔には、悲壮がべったりと塗りたくられているようで、見れたものでは無かった。



41: ◆Cy/9gwA.RE (大阪府) :2008/09/17(水) 21:33:05.78 ID:DWw6/amW0
(-_-)「まずは一人……、サブカルに行けばいい……という事?
    こっちから積極的に潰していけば自ずと"上"が出てくる……のかな」

半固体にすっかり覆われてしまったノーネの亡骸を、魔力でひょいと浮き上がらせる。
そして魔法陣をノーネに向け、蓄積された雷の力を思い切り放出した。
雷撃が晴れた空に逆戻りし、ノーネの体は跡形も無く消し飛ぶ。

ヒッキーは少しだけ、笑みを浮かべていた。




( ^ω^)はネクロマンサーのようです 第12話 『七光りの戦い方』 完



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