( ><)のStand By Me

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 21:47:13.45 ID:Xt/YffpT0
2. 青春は一度だけ


それからというものの、ジョルジュの家で”男に近づいた”僕は、
ベッドの下に”そういう本”を忍ばせておく癖が身についた。
すっかり女の人の体というものに夢中になってしまったのだ。


その日も僕は”そういう本”を読んでいた。
だけど、それはベッドの下に忍ばせているやつではなく、まあ、だけど、僕にとっては”そういう本”だった。




( ><)「か、かっこいんです……」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 21:52:08.54 ID:Xt/YffpT0
きっかけはどうでも良かった。

要するに僕はそれを探していたわけだ。



( ><)「よし! 僕も安田一平のような男になるんです!」



全国の女とセックスをしながら、自分を磨く旅をしているソイツに僕は憧れた。

僕みたいなボンクラは、「自分探し」だとか、そういうものにめっぽう弱い。

そして僕は、その「自分探し」の果てに「大人になること」の答えがあると 信じてやまなかった。





だけど僕は迷い人だ。

「自分探し」の果てに「大人」になってしまわないかというのが、一番の不安だった。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 21:56:35.96 ID:Xt/YffpT0
( ><)「まあ、でも… それはそれで」

(*><)「いっか!」



早速、僕は支度を始めた。
林間学校に持っていったリュックに、
お年玉全部を入れた財布、”海辺のカフカ”、”藤子F不二雄短編集”、”ビスコ”
それから、Tシャツとパンツとズボンを5枚ずつぶちこんだ。



支度は7分で終わった。





( ><)「次は… ええと…」

( ><)「そうだ!」


僕はポケットの中から携帯電話を取り出す。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:00:32.22 ID:Xt/YffpT0
trrr


( ><)「あ、ジョルジュなんです?」

「おう」

( ><)「僕と一緒にどっか行くんです!」

「どっかってどこだよ!」

( ><)「わかんないんです!」

「てめぇ、なめとんのか」

( ><)「なめてないんです!」

( ><)「一人はさみしーんです!」

( ><)「ジョルジュ、どうせ夏休みずっと暇なんです!」

「うるせーよバカ!」


「…ったくしゃーねーな」

「んじゃあ明日おまえんち行くわ」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:02:29.60 ID:Xt/YffpT0
( ><)「明日は駄目なんです!」

( ><)「今日、出発なんです!」

「ばーろ!!! ふざけるのもいい加減にしろよ!」


電話はそこで切られた。ツーツーという素っ気ない音が残った。


( ><)「しょぼん…」


( ><)「ま、いっか! 次はワカッテマス君だ!」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:04:23.16 ID:Xt/YffpT0
trrr


「はいもしもし」

( ><)「ワカッテマス君! 共に旅だとう!」

「塾の課題で忙しい」

ガチャ





ツーツーツー・・・・






( ><)「…」

(;><)「まあ、一人旅も楽しいんです!」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:06:09.26 ID:Xt/YffpT0
( ><)「時計OK!」

( ><)「お金OK!」

( ><)「体の調子もいいんです!」

( ><)「大人になるってどういうことか…」



( ><)「見つけに行くんです!」




時計の短い針は2の数字を指していた。
辺りはすっかり暗い。かーちゃんもとーちゃんもグースカ眠っている。


( ><)「出発なんです!」


だけど僕は寝貯めをしていたからさっぱり眠くない。
さあ旅立ちのときだ。現代のトムソーヤーに僕はなる。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:07:00.64 ID:Xt/YffpT0
( ><)「あばよ! 僕の頭に知識としてインプットされた幾多の書物たち!」



僕は窓を開け、揚々と飛び出した。




ズデン




(#><)「いだだ…」

( ><)「やっぱり柄にもなく格好つけるのは駄目なんです!」

尻についた土ホコリを払い、僕は揚々と歩き出した。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:08:07.98 ID:Xt/YffpT0
夜の町って、なんでこんなにヒンヤリとしていて心地良いんだろう?
僕は、深海魚のようにすいすいと道を歩いた。



( ><)「やばい!! たのしすぎるんです!」



思わずスキップしてしまう。
道のちろちろとした灯りを頼りに、僕は先へ先へとぐんぐん歩いた。
目的地は無い。目的はある。だけど、あってないようなもの。
だけど僕は行く。


( ><)「この町に僕一人♪ この世界に僕一人♪」





夜空を見上げると、世界は丸く感じた。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:08:51.24 ID:Xt/YffpT0
しばらく歩いていると、当然のように時間は過ぎて
当然のように夜は終わっていく。


町が蒼いと気付いたのは、ちょうど公園で一休みしているときだった。


星と月は静かに消え失せて、代わりに薄い薄い雲が空を泳いでいる。



( ><)「朝がやってくるんです!」






朝と夜の隙間に存在している、世界で最も美しい時間帯。
僕は安っぽいコーヒー牛乳を飲みながら、ベンチに腰を下ろす。
疲れなんてまだ知らないのだ。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:10:31.52 ID:Xt/YffpT0
安っぽい電灯に集っていた蛾は何処へ行ったのだろう?
そんなことを考えながら、僕はまた歩き出した。

本当はもうしばらくそこに居たかった。
だけど、ラジオ体操の為に群がる子供たちの笑顔がどうも苦手で、体は動く。


( ><)「子供は苦手なんです!」

( ><)「なんであんなにいつも無邪気にしていられるのかわかんないんです!」




太陽が僕の背中から昇ってきて、僕の世界を照らしていた。
今頃家ではかーちゃんが起きて朝飯の支度をしているだろう。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:11:17.13 ID:Xt/YffpT0
かーちゃんは、その時点では僕の家出に気付かない。
僕はいつも、夏休みといったら9時以降じゃなきゃ起きれない。
だからかーちゃんも9時に僕の部屋に訪れる。


だから9時まで僕はこの町を出るのだ。





( ><)「着いたんです!」




駅からはたくさんの人たちが出てくる。
僕は彼ら・彼女らとすれ違いながら切符売り場へと向かう。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:12:38.29 ID:Xt/YffpT0
切符売り場を前にして、僕はぼんやりと思った。

海の向こうに行きたい。



( ><)「1500円で行ける一番近いアメリカァ――――!!!」




僕は切符売り機のボタンを力を込めて押す。
アメリカ行きの切符がスッと出てきた。


( ><)「よし! 行くぜユナイテッドキングダム!」


ユナイテッドキングダムはアメリカじゃねえと気付いたのは2分後のことで、
僕は揚々と改札を通るのだった。
早くこの町から逃げなきゃ。ここにいたら腐ってしまう。

そんなことさえ思っていた。
ただなんとなく。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:13:47.92 ID:Xt/YffpT0
( ><)「〜♪」


音漏れが激しいお古のウォークマンに入っているのは、
旅に出る前、僕が自己編集した世界で一枚のミニ・ディスク。
それをランダム再生モードで聞けばもう、車窓から見える景色は僕のものだ。


( ><)「……」


僕は徐に腕時計を見た。
短い針は9の数字を指している。


( ><)「かーちゃん、僕は今電車の中なんです」

( ><)「部屋をいくら探しても無駄なんですwwww」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:17:10.10 ID:Xt/YffpT0
左には茶髪のお兄さん。右には単語帳を開く女子高生。
前には新聞紙を開くハゲのおじさん。


そして家出まがいの旅に出た僕。
14の夏だった。
特にきっかけはなく、衝動にただただ押されていた暑い暑い夏だった。


両耳の安いイヤホンから青春の音が聞こえる。


僕が知っている景色が、少しずつ知らないものへと切り替わっていく。

さよならホームタウン



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/12(土) 22:19:24.14 ID:Xt/YffpT0






行くあてはないけど ここにはいたくない
イライラしてくるぜ あの街ときたら
幸せになるのさ 誰も知らない 知らないやり方で

(BLANKEY JET CITY / 小さな恋のメロディ)





その2 おわり



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