('A`)ドクオが夢を紡ぐようです

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:44:30.13 ID:gvrkNuLd0

誰かと誰かの夢を、渡り歩いてきた。
不躾に、誰かと誰かの心の中を土足で踏み荒らしてきた。

友人の大切な思い出も、汚した。
強く生きている人の弱点をねちねちと突いた。
見知らぬ男女の情愛を、無遠慮に暴いた。
好きだと思った人の想いも、最悪な形で辱めた。
兄弟も……あれは別にいいや。
愛するさーたんの夢と恋心……きっと、俺なんかに触れられたくなかっただろう。

ああ、だけどブーン。
お前だけが、この世にいない。
大切な友達なのに。

俺、お前に謝りたかった。
俺、お前に謝らなきゃいけないのに……。

お前だけが、いないんだ。
どうすればいい?
ブーン。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:47:06.86 ID:gvrkNuLd0

―――待って…待って下さい!

「とにかく、今月中に家賃を振り込んでくれないと、強制退去となりますからね?」

―――だってそれは!店が営業停止くらって給料がいつもより入らなかったからで……。
     事情なら事前に説明も……。

「契約書にも、その旨は明記されているはずです。
 保証人不要の物件なのですからと、納得されてご契約された筈ですが……」

―――とにかく来月の給料日まで待ってもらわないと……。

「ですから…、契約内容に変わりは……」


畜生。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:49:40.54 ID:gvrkNuLd0

―――無理は承知です。でもお願いします!

「いや、前借りとか言われてもねぇ……。そもそも、今月まともに営業出来てないんだから店も厳しくて……」

―――家賃が払えないと今住んでるとこ追い出されるんです!どうしても今必要で!

「んー。ギコちゃんうちの店長いし、申し訳ないんだけどさぁ。
そんな聞き分けない事言われるとこっちとしても対処に困るって言うか……」

―――お願いしま……

「そんなに金が必要なら、友達にでも借りてよ。
働いた分なら給料日にちゃんと振り込んでるわけだし……」


畜生。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:51:50.97 ID:gvrkNuLd0

―――いてぇ……。
    腹……。
    もう、仕事の時間なのに……。
    その前に家賃……。
    どうにか……。
    いてぇ……。

(;^ω^)「ギコさん!?ギコさん!?大丈夫ですかお!?」

―――ブーン…?
    なんでここに……。

(;^ω^)「時間になっても仕事に来ないから心配で迎えに来たんですお!
      どこか痛いんですかお!?今救急車呼びますお!!」

―――やめっ!!救急車は駄目だ……。
     俺、保険証ねぇんだよ。

(;^ω^)「そんな事言ってる場合じゃないですお!!
      このまま死んだらどうするんですかお!!」
   
―――うるせ……。
    ねぇんだよ……。
    金が……。
    んな事言うなら……。
    てめーの保険証、貸してくれよ……。
    いってぇ……。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:54:31.74 ID:gvrkNuLd0

(;^ω^)「保険証なら貸しますから!
      病院行って下さいお!!」


やめろ。
貸すな。
いらねぇから。
俺、
それいらねぇから!!



「200万?仕事は何を?なるほどねぇ……。


 い い で す よ ? 」



やめろぉおおおお!!



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 22:57:29.42 ID:gvrkNuLd0

―――お前、内藤ホライゾンの保険証を使って金を借りたな?

(;,゚Д゚)「何の事かわからん……」

―――調べはついてる。

(;,゚Д゚)「だったら何だ?俺を殺しにでも来たのか?」

―――いや…。

(;,゚Д゚)「っははは!何だよお前!!さっさと帰れ!!
    俺は内藤なんて知らねーよ!!」


畜生。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:00:08.72 ID:gvrkNuLd0

―――ええ。お嬢様。明後日には帰れるかと。

「ん。内藤のことに関して調べはついたのか?」

―――はい。やはり心臓発作でした。
     かなりハードに仕事をされていたようですので、その反動かと。

「そうか……。辛かったら、うちに頼れば良かったものを……。あの馬鹿が」

―――ええ。ツン様は?

「うん。相変わらずだ。気丈に振舞ってるよ」


畜生。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:01:54.43 ID:gvrkNuLd0

―――内藤ホライゾンについてお話をお伺いしたいのですが。

( ・∀・)「ああ彼?僕の友人ですよ?あんな事になってしまって本当に残念です……」

―――友人?

( ・∀・)「ええ。心を許した友人ですが、それが何か?」

―――いえ。何も……。

( ・∀・)「あなたは彼の知り合いですか?宜しければ、ホライゾンのことを聞かせて頂けませんか?」


ふざけるな。

インテリヤクザめ。
お前らが彼を殺した事はわかってるんだ。
組の息のかかった病院に死体を運んで偽装カルテを作った事も、
そうやって、借金の肩に保険金を受け取った事も、
全て、調べはついてるんだ。

ふざけるな。

友人面をするな。
親しげに名を呼ぶな。

お前に彼の。
お前に彼の何がわかる。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:04:25.52 ID:gvrkNuLd0

(;'A`)「あれは、モララーさん……?」

頭の中に無秩序に流れ込んだ夢の欠片には、俺の知っている顔が紛れ込んでいた。
それは、どうしようもなく横柄であるのにどこか弱さを抱えた、いつか食べ放題ではない焼肉を食べさせてくれた彼だった。
いや、それよりもブーンは殺された?自殺じゃなかったのか?
最後に俺がブーンの夢を紡いだ時、俺にはブーンが気を失う直前に見ていた天井から吊り下げられたロープの輪が見えていた。
だから、自殺だと思った。
だから、馬鹿だと思ったのに。

(;'A`)「どう言う事だよ……」

(,,゚Д゚)「なぁ、そこのお前」

('A`)「え?」

振り向くと、そこにはたった今俺が追体験した記憶の持ち主でもあり、ブーンが死んだ直接の原因でもある奴、ギコがいた。

(,,゚Д゚)「人を探してるんだ。内藤って言うんだが、どこにいるか知らないか?」

('A`)「それは、もしかしてブーンの事か…?」

(,,゚Д゚)「ああ。さっきから、ずーっと探してるんだけが、見つからないんだ」

('A`)「探しているって、ここでか?」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:07:41.27 ID:gvrkNuLd0

ここ、は線路の上だった。
赤茶けた土の上に敷石がぼろぼろと零されて居て、更にその上に古ぼけた線路が縦横無尽に伸びている。
俺と奴は、そんな寒々しい景色の中でおおよそ3mの隙間を空けて対峙している。

(,,゚Д゚)「ああ、でも、ここが何処かもわからないんだ」

('A`)「ここはどこでもない」

(,,゚Д゚)「そうか。それなら、内藤……ブーンの事は知らないか?」

('A`)「ブーンはどこにもいねぇよ」

(,,゚Д゚)「え?」

('A`)「あいつは死んだんだ。もういねぇよ」

(,,゚Д゚)「ああ、やっぱり死んだのか」

('A`)「やっぱり…?」

(,,゚Д゚)「ああ、俺はあいつをハメたんだ。あいつを騙して借金を押し付けたんだ。
    同じ職場に居たから、あいつの懐具合なんてわかってた。頼る人間が居ない事も知っていた。
    だから、200万もの金を返せない事も知っていた。しかも、性質の悪い場所から借りたから、十中八九死ぬだろう。
    例え死ななくても、五体満足ではいられないだろう。例え五体満足でいられても、これから先まともな人生は送れないだろうと思っていた」

黒く変色した枕木に乗った奴は訥々と、まるで小説の一説のように自分の罪を語ってみせる。
無表情に、無感情に、ブーンを奈落の底に突き落とした事を説明してみせる。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:11:02.36 ID:gvrkNuLd0
(#'A`)「その、ブーンを探して、どうするつもりだったんだよ!」

(,,゚Д゚)「そんなの、決まってんだろうが。聞くまでもない。そうだろう?」

(#'A`)「あぁ?」

(,,゚Д゚)「ブーンに、礼を言うんだ」

(#'A`)「っざけんなぁ!」

瞬間、そこは薄暗い海の底だった。水底には海草が踊り、そこら中に特徴のない銀色の魚が泳ぎまわる。
奴は長い昆布に絡めとられて、身動きがとれないようだった。口から泡沫を吐き出しながら、苦しげに悶えている。
俺は奴の喉仏を食いちぎってやろうと体をくねらせる。俺は人間の形をやめて、大きな一匹の蛇になっていた。

(;,゚Д゚)「……っ!!」

(#'A`)「死ねぇ!」

思い切り叫んだが、果たしてそれが正しく発音出来ていたのかはわからない。
そんな事を考える暇もなく、ただ、奴の首目掛けて、鋭い牙踊る口を思い切り開いた。

さぁ、殺せ。
敵は、目の前にいる。

( ФωФ)「やめなさいっ!!」

カーテンを開けるように、薄暗い水中に光が差した。
俺は一瞬まぶしさに怯む。
ロマネスクの声は、確かに俺に聞こえていた。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:13:53.82 ID:gvrkNuLd0

次の瞬間。
そこは、俺の部屋の、湿気た布団の上だった。

('A`)「あ………」

目の前に飛び込んで来るのは、
平凡な、薄汚れた天井。
体中に張り付いた不快感を払拭するために、
俺は、骨ばかり浮き出た体を起こし、精一杯伸ばす。

天井を目指した指先が、俺の心臓の近くに、いくばくか戻ってきた瞬間。
俺の体の底から、不安によく似た色の震えが、湧き出るのがわかった。

(;'A`)「ぅ………」

無闇に、叫びだしたい衝動に駆られる。
夢の中の、いくつかの光景が頭の中に浮かんでは消えた。
生々しい蛇の尾が、足元を掠ってどこかへと去っていく。

あれは誰だった?


俺は何をした?



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:16:47.09 ID:gvrkNuLd0

罪悪感。嫌悪感。恐怖。優越感。不快感。そして、快感。
俺の小さい感情の器に盛り付けられたそれらの匂いが、
強烈な、吐き気を誘った。

(;'A`)「………ぅぇっ!」

慌てて、口元を両手で押さえつけて、
寝汗で濡れたシャツが張り付いた背中を醜く歪ませてトイレへと向かう。

早く。
早く!

(;'A`)「…ぉえっうえぇっ!」

何とか、部屋を汚さずに済んだらしい。
便座に手をついて、ろくに食えてない飯の残骸をトイレにくれてやる。
気持ち悪さと快感の入り混じったその感覚が、波になって俺を押し流そうとしている。
喉に、ひたりと痛みが吸い付いていた。

これよりも、蛇に噛まれた方が、痛いだろうか。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:18:17.19 ID:gvrkNuLd0

( ・∀・)「やー久しぶりだねー青年。うち専属のティッシュ配りにでもなりたいのかい?それは殊勝な心がけだねー」

('A`)「あー。えっと…その…」

( ・∀・)「いいんだよいいんだよ遠慮は無用さ青年。わざわざ会社経由で俺を呼び出すなんてよっぽどの事なんだろう?どうしたの?
      金なら貸すけど、正直やめた方がいいよ?社会的に死ぬよ?結構な確率で肉体的にも死ぬよ?」

(;'A`)「いや、そうじゃなくて……」

( ・∀・)「ではでは、恋の相談かな?いいねー。初めてを貰ってくれた風俗嬢への甘い想いかー。
      うちの会社のテリトリーだったらどの嬢がどのホストに貢いでるかデータ化してエクセルでまとめてるから特別に見せてあげよう」

(;'A`)「いや、それもいいです……」

俺は限りなくグレーに見せかけている完璧ブラックな金融機関の事務所でモララーと対峙していた。
広くも狭くもない部屋で煙草の匂いのするソファに座り、楽しげな声で話す彼の襟元を見つめる。

何故だが顔は、見れなかった。

いつか自分が配っていたポケットティッシュ。そこに記載された彼の関連会社の電話番号。
その細い糸は意外にもモララーをしっかりと絡め取っているらしく、彼の名前を出すだけであっさりとこの面会が叶った。

モララーはいつか、食べ放題ではない焼肉を奢ってくれた時のように、朗々と喋る。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:21:06.39 ID:gvrkNuLd0

( ・∀・)「うーん。じゃあ何かなー。遠慮しないで用があるならさっさと言い給えよ。
修学旅行の夜に好きな人を打ち明けあってるんじゃあるまいに、出し惜しみしても仕方ないよ?」

('A`)「あの……内藤、ホライゾンの名前に、聞き覚えは……」

俺の友人の名前を出した時、モララーはあからさまに、眉をひそめるような頭の悪い対応はしなかったのだと思う。
その時俺は、相変わらずモララーの固いネクタイの結び目を見つめていたから、彼がどんな顔をしたのかは分からない。
おそらく、彼の表情は、内藤の名前を出す前と後では、ほんの少しだって変わらなかったのだろう。

だからきっと、顔を見て話していたら、わからなかった。
内藤の名前を出した瞬間、彼の顔も声も、酷くコントロールされたものになった事に。

( ・∀・)「それは、どう言う事かな?」

(;'A`)「質問を質問で返さないで……下さい」

( ・∀・)「いやいや。聞き覚えがあるかないかで言われたら当然僕は聞き覚えがないと答えるよ。だけど、どうして僕に聞き覚えのない名前を聞くのかなって」

('A`)「聞き覚え……ないんですね?」

( ・∀・)「うーん。これでも記憶力は良い方なんだけどね。仕事の事以外は」

('A`)「でもあなたは、杉浦ロマネスクさんに、内藤は友人だと、言いました……よね」

( ・∀・)「あー」

モララーは、リラックスした様子で頭をボリボリとかきながら、細く息を吐き出した。

そして俺の質問を軽やかに聞き流し、慣れた手つきで胸ポケットから携帯電話を取り出し、耳に当てる。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:25:42.68 ID:gvrkNuLd0

( ・∀・)】「ん?すぐ来て」

('A`)「モララー、さん?」

目に痛いオレンジ色の携帯をパチリと閉じて、彼は悪戯をした生徒を嗜める教師のような、そんな苦笑いを浮かべて、俺を見た。

( ・∀・)「青年。それは、仕事の話なんだよ」

('A`)「それくらい、わかってますよ」

( ・∀・)「守秘義務ってわかるかな?仕事の話は、他の人にしちゃいけないってルールがあるのさ」

乱暴な音と共に、部屋のドアが開いた。
暗い色のスーツで武装した二人の男に、俺は両側から固定され、無理やり立たされる。

(・д・1)「はいお兄ちゃん立とうねー。悪いけど、出てって貰えるかなー」

(・д・2)「モララーさんこいつどーしますか?」

モララーは声を出さずに口の動きだけで男たちの質問に答えた。
それが何を伝えたのか、俺にはわからなかった。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:28:19.33 ID:gvrkNuLd0

(・д・1)「わかりました。ほらお兄ちゃん、自分で歩け自分で」

(;'A`)「い、いたたたたた」

自分で歩けと言いながら、がっちりと肩のあたりを固定した腕は外れそうもない。
そのまま引き摺られるように、金融機関の入っていたビルから外に放り出される。

(・д・2)「二度と来んなよ童貞」

そう言いながら男は、俺の尻を蹴り上げた。
背骨に衝撃が走り、アスファルトに膝をつく。

(;'A`)「っつぅ…」

そっと膝に触れるとジーンズが少し破れていた。
ああ、ふざけんな。
破れてないジーンズ二本しかねーんだぞ……。

せめてもの抵抗に睨み付けてやろうと振り向いたが、俺のケツを蹴り上げた彼らは既にビルの中に戻った後だった。
通行人の冷たい視線を感じながら立ち上がる。しかし彼らを見回したところで目が合う事は決してない。

俺は惨めな自分を誤魔化すために、わざと派手に舌打ちをして歩き出す。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:34:42.86 ID:gvrkNuLd0

結局、ブーンの事について何もわからなかった。
ブーンと俺はそう深い付き合いではなかったが、不思議と馬が合ってどちらかの部屋で飲む事が時折あった。
そうやって二人で馬鹿やってる時のブーンは、適度に常識人で、だけどどこか抜けていて、愛嬌のあるいい奴だった。
だから許せなかった。あの可愛い彼女を振り切って東京に出て、あまつさえ全てを捨てて死にに行こうとするブーンが。
借金なんて、知らなかった。殺されたなんて、思いも寄らなかった。

どうして、俺だけ何も知らなかったんだろう。
夢を通じて、過去を暴いて、全て知った気でいたんだろう。

('A`)「……腹減った」

コンビニでおにぎりでも買って帰る事も出来たが、何故だか足はそれとは違う方向に向いていた。
近所のコンビニのおにぎり(つなマヨ)は食い飽きた。からあげくん(レッド)も同様に。
つか、絶対あそこのローソ〇の店員の間であだ名ついてるだろうよ俺。

あんな、ビニールに包まれた調味料の塊みたいな味気しかない食事じゃなくて、
もっと違うものが食いたい。

出来れば、人のいるところで。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:38:36.33 ID:gvrkNuLd0

(´<_` )「いらっしゃいませ。一名様ですね」

('A`)「うん。一名様だけど……。断定しないでよ」

(´<_` )「こちらへどうぞ」

('A`)「ありがとう」

幸いにして俺の知人は俺が入店すると速やかに現れて、店の奥、窓際の四人がけの席へとエスコートしてくれた。
変な語尾はついてない。サボってやがんなこいつ。

(´<_` )「ご注文は、『チーズハンバーグ肉増し増し』でよろしいですね」

('A`)「え。俺何も言ってな……」

席につくなり、断定系で会話を進める店員。
俺が面食らって抗議の声をあげると、急に体を折り曲げて俺の耳元で囁いた。

(´<_` )「新人がオーダー間違えて余計に作っちまったんだよ。食え」

('A`)「……タダ?」

(´<_` )「他のお客に見られるとあれだから、出る時は会計するふりぐらいしろよ」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:41:02.29 ID:gvrkNuLd0
俺は無言でコクコクと頷いた。
来てみるもんだな。友人の働くファミレス。

その優しさだか、単なる役得だかわからない扱いに、
不意に涙が零れた。

(;A;)「あぅ……」

(´<_`;)「そんなに腹が減ってたのかお前!?」

( <●><●>)「何お客様泣かせてるんですか弟者君」

(´<_`;)「ワカッテマスさん!聞いてくださいよこいつが急に腹減って泣き出して!」

(;A;)「ち、ちが…だ…弟者が…!」

腹が減って泣いたのではないことを必死に主張しようとするが、上手く声にならない。

(;<●><●>)「何してるんですか弟者君!」

(´<_`;)「俺が聞きたいですよ!!」

(;A;)「うぼぁー」

数分後。どうやら仕事を終え帰りがけだったらしいワカッテマスは何故か俺の向かいに座り、
机に突っ伏して鼻水を垂れ流しながらえぐえぐと泣いている俺の頭を遠慮がちに撫で回していた。

ちなみに弟者は逃げた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:46:34.01 ID:gvrkNuLd0

( <●><●>)「どうしたんですか」

(;A;)「すいません……なんか、人に飯貰うの久々で……つい……」

( <●><●>)「ふむ……」

ワカッテマスは無言で、テーブルのボタンを押す。すぐに弟者が現れた。

( <●><●>)「弟者君。食後に『男らしいパフェ』追加で」

(´<_` )「かしこまりました。ドクオはそこのナプキンいくらでも使っていいから鼻水拭け」

(;A;)「うん……」

( <●><●>)「私の奢りです」

(;A;)「そんな……えっと、有難う御座います。そんで……なんで俺の向かいに座ってるんですか?」

( <●><●>)「これはこれは自己紹介もせずに申し訳ありませんでした。私はワカッテマスと申します。気にしないで下さい。ただの接待ですから」

('A`)「接待……?」

( <●><●>)「ええ。弟者君の友人が泣いていると聞きましたら黙っていられません。是非接待をせねばと思いまして」

(;'A`)「………」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:48:26.65 ID:gvrkNuLd0

俺が何も言えないでいると、ワカッテマスは不意にテーブルを指でこつこつこつ、と三回叩いた。
その動作が自分で可笑しかったのか、喉でくつくつと笑う。
正直、不気味だった。

( <●><●>)「しかし、それにしても急に向かいに座られたら戸惑われると思います。
         自己紹介の意味を込めて少し、身の上話をしてもよろしいでしょうか?」

(;'A`)「どうぞ」

引っ込んだ涙の跡が空気に触れていやに冷たい。
その冷たさが俺の頭をクリアにしていく。
目の前にいる人間が人間の形をした目玉のお化けかもしれないと思い始めてきた。

( <●><●>)「私、実は声優なんですよ」

(;'A`)「はぁ……」

だけど、クリアな頭の中とは裏腹に、気の抜けたような声しか出なかった。

( <●><●>)「おや、驚きませんね」

(;'A`)「い、いえいえいえ!驚いてます。すっごく!」

( <●><●>)「そうは見えませんが。いや、まあいいでしょう。
        幸いにして最近になってやっと、仕事がボツボツと増え始めましたが、
        当然の如く誰も知らない売れない声優ですよ」

(;'A`)「そうなんですか…」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:51:09.87 ID:gvrkNuLd0

( <●><●>)「ええ。そうなんです。不思議でしょう。こんな私がですよ?
        税金すらまともに払ってないのに人様に声を聞かせようとしてるんですよ」

(;'A`)「いや……俺も税金は払ってませんし……ああ、違う。そう言う事じゃなくて……」

そこで再びワカッテマスは喉だけでくつくつと笑う。
その顔は、どこかイタズラっ子のようだった。

( <●><●>)「でもね。楽しいんですよ」

('A`)「声優の、お仕事がですか?」

( <●><●>)「ええ。糞も金にならない。将来もない。安定もない。出会いもない。人様にも言えない。そんな因果な商売ですがね」

(;'A`)「でも、プロの声優って凄いんじゃ……。倍率がすんげぇ高いって聞きますよ?」

( <●><●>)「倍率が高いのはそれだけ、馬鹿が多いということです。馬鹿の頂点に立ったところで同じ馬鹿には違いありません」

(;'A`)「そんなこき下ろさなくても……」

( <●><●>)「ええ。そうですね。でも、こき下ろさないとやってられないんですよ」

口元をニヤリを歪めてワカッテマスは俺を見る。
この人……笑い方がいちいち不気味だ。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:52:23.72 ID:gvrkNuLd0

(;'A`)「はぁ」

( <●><●>)「そんな待遇最悪の仕事でも、死ぬ気でしがみ付かずにはいられないほど、楽しいんですからね」

('A`)「仕事が楽しいのは、羨ましいですね」

( <●><●>)「ええ。羨んで下さい。私はね。それを最近、とある夢を見て再確認したのです」

(;'A`)「はぁ……夢、ですか……」

いやな汗が一筋、額を伝う気がする。
目の前の目玉お化けとは、夢を共有した仲ではあるが、きっと彼はただの夢だと思っているだろうし、それが正常だ。
だから、面と向かってその話をされると、正直とてもやり辛い。

( <●><●>)「そんなわけで、今日の午前1:24分からの『女子院生のラマダン』を観る権利をあなたに差し上げましょう」

(;'A`)「ちょ!ワカッテマスさん『女子ラマ』に出てるんですか!?何役ですか!?
    うわ、俺男の声優まではチェックしてなかった……」

( <●><●>)「ふふふ。それは観てからのお楽しみとしましょう」

(´<_` )「お待たせしました。肉とかです」

(;'A`)「サボんな仕事しろよ」

(´<_` )「その台詞は金を払ってから仰って下さい」

( <●><●>)「まぁまぁ」



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:55:12.91 ID:gvrkNuLd0

目の前に乳白色のチーズで美しく彩られたハンバーグが置かれる。
その動物性たんぱく質の匂いに食欲が刺激された。
どんな状況でも腹は減るんだと、思った。

('A`)「いただきます……」

(´<_` )「おう食え食え。たんと食え」

( <●><●>)「たくさん食べて大きくなられて下さい。あなたは少し痩せすぎですよ」

('A`)「はふはふっ」

(´<_` )「じゃあ、ごゆっくりー」

( <●><●>)「美味しいですか?」

('A`)「凄く……肉肉しいです……」

( <●><●>) 「肉ですからね」

('A`)「このカロリーが体に優しいです……」

( <●><●>) 「痩せた体に染み入るコレステロールですね」

('A`)「あの……じっと見つめられると、食べ辛いんですが」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/28(土) 23:57:15.23 ID:gvrkNuLd0

( <●><●>) 「どうぞ気になさらないで下さい。私は今、マザーテレサのような慈悲溢れる安らかな気持ちなのです」

('A`)「それ、寒い庭で飼い犬が餌をがっつくのを、暖かい居間から見つめるお母さんの気持ちですよね……」

( <●><●>) 「あまり無駄口を叩くとすぐに冷めるのはワカッテマス」

('A`)「……はふはふっ」

( <●><●>) 「ええ。食べるのに集中されて下さい。ですから、これから私が話す内容は聞き流して下さって結構ですよ」

('A`)「……?」

( <●><●>) 「夢とは言え、蹴りまくってすいませんでした」

(;'A`)「ぶふぉっ!」

美しい放物線だった。
チーズと肉の欠片がテーブルに飛び散る。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:00:41.87 ID:rAg9HBLX0

( <●><●>) 「ほら、汚いですよ。金の使いどころを間違っているヲタクな上に極貧の貴方には貴重なタンパク源なのですから、零さないでしっかりと食べないと」

(;'A`)「いや、そんな……夢のことを……謝られても」

( <●><●>) 「ええ。そうですよね。だから聞き流して下さって結構と言ったのに」

(;'A`)「はぁ……それにしても、夢なんて気にしなくてもいいのに」

( <●><●>) 「私もそう思います」

('A`)「ええ。所詮は、夢です」

( <●><●>) 「所詮は!」

(;'A`)「うぉ!?」

急に大声を出したワカッテマスに俺は驚く。
俺の向かいの目玉のお化けは所作言動がいちいち、予想がつかない。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:02:50.51 ID:rAg9HBLX0

( <●><●>) 「所詮は二次元!所詮は子ども騙し!所詮はヲタク産業!所詮は萌え豚の日用消耗品!」

(;'A`)「は?え?はい?」

( <●><●>) 「それが世間のアニメへの評価です!わかりますか?」

(;'A`)「はい……」

( <●><●>) 「その所詮の群れに命をかけているのですよ!私は!」

(;'A`)「はい!すいません!」

( <●><●>) 「わかればよろしいのです。わかれば。ええ。つまりですね。何が言いたいかと言いますとね」

(;'A`)「はい!何でも聞きます!」

( <●><●>) 「貴方に、感謝していると言うことです」

(;'A`)「なんで!?」

その大きな双眸が、じっと俺を見据える。
食い違う会話と、妙な間が、二人の間を支配している。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:05:37.67 ID:rAg9HBLX0

( <●><●>) 「所詮は、夢ですが」

( <●><●>) 「良い夢でしたよ。ご馳走様でした」

(;'A`)「………」

結局、『男らしいパフェ』は腹がいっぱいで手をつけられなかった。
それを目玉のお化けはやれやれと言った様子ですべて平らげた。どうやら甘党らしい。

帰り際、弟者はまた来いよ、と言いながら俺にポテトの無料券を手渡してくれた。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:07:32.70 ID:rAg9HBLX0

( ・∀・)「やーおかえりー遅かったじゃーん。勝手に寛いでたよー」

(;'A`)「ちょっ!え!?あれ!?今俺、鍵開けて……えぇ!?」

安アパートに帰り着くと、そこに、いるはずのない人間がコタツに入って煙草をふかしていた。
それは俺が今、最も会いたくない人間だった。

( ・∀・)「あはは。もし防犯意識があるなら、あの鍵は取り替えたほうがいいよー。開けるのに一分かかんなかったからねー。
      もっとプロがやったら15秒だね15秒!」

(;'A`)「犯罪だろ!」

思わず声を荒げると、モララーはとても幸せそうな笑顔でそれに応えた。

( ・∀・)「まぁね!」

(;'A`)「まぁねじゃねぇ!良い笑顔すんな!!」

( ・∀・)「じゃあお邪魔します!ほら挨拶した!ほら今合意の上で部屋に入った!ほら犯罪じゃなくなった!」

煙草の灰をビールの空き缶に落としながら悠々と喋る彼に殺意すら覚える。
ちなみにそのビールは彼が持参したものだ。何故なら俺の冷蔵庫には発泡酒しか入っていない。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:12:10.69 ID:rAg9HBLX0

(;'A`)「何しに……来たんすか……」

( ・∀・)「友人の家に遊びに」

(;'A`)「友達じゃねぇよ!」

( ・∀・)「えー」

ふざけた様な口調が、俺の苛つきを刺激する。
破けたジーンズ。蹴られた痛み。ブーンの顔。
渦巻いたそれらが、怒声となって口から出る。

(#'A`)「友達じゃねぇだろ!!」

( ・∀・)「………」

モララーは、暫し口角を上げたまま凍り付いた後に、
盛大に、笑い始めた。

( ・∀・)「あははははははははははははははははははは!」

(;'A`)「ひぃ!」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:14:32.27 ID:rAg9HBLX0

( ・∀・)「あははははははははははははは!!
      全く全くドクオ君は冗談が上手だなぁ!!
      友人であるこの僕が!
      君の事を思ってわざわざ!!
      こんなシルバニアファミリー以下のアパートに!!
      ご足労してやったと言うのに!!」

(;'A`)「う、うるせぇよ何なんだよお前!!」

( ・∀・)「どこにでもいる人殺しでお前の友人だよヴォケ!!」

(;'A`)「………」

( ・∀・)「内藤ホライゾンについて話を聞きに来たんだろう?話してやるから有難がれよ糞が」

(;'A`)「な………」

( ・∀・)「彼はうちで借金をしていた。払いきれないようだから、保険金かけて殺した。俺はその場に立ち会った。以上」

(;'A`)「………」

( ・∀・)「納得した?納得したね?納得したなら今から食べ放題じゃない肉食べに行こうぜ親友!」

(#'A`)「ふっざけんな殺してんじゃねーかよ人殺し!!」

(#・∀・)「そりゃ殺すさ!!こちとら堅気じゃねーんだよ糞が!!いちいち仕事に文句つけられても知らねーんだよ糞餓鬼がっ!!」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:16:14.47 ID:rAg9HBLX0

コタツに下半身を埋没させたモララーのあまりの言い草に頭に血が登る。
じわじわと心臓を焦がすような怒りが俺を突き動かす。
気がついたら、俺はモララーに殴りかかっていた。

(#'A`)「っだらぁああああああ!!」

立っている俺とコタツに座っているモララー。
どう考えても俺の方が有利な布陣だ。外さない。
しかし彼は依然軽く口角を上げたままの不適な笑みで、
俺の拳を避けながら自身の拳を俺の顎に合わせてきた。

( ・∀・)「だから堅気に負けるかっての」

( A )「ぐっ……!」

脳が揺れる、と言うのはこう言う事を言うのか。
ぐわんぐわん、と酷い耳鳴りと共に視界がぶれる。
俺は小汚い床に背中から倒れこんでいた。
その衝撃で棚に綺麗に並べてあったハイン様やらラマたんやらが軽い音を立てて倒れるのがわかった。
頭の片隅でそれらが壊れてないか心配するが、今はそれどころではない。

何しろ、体中が酷く痛い。

そして俺は、そのまま。
意識を失った。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:18:30.96 ID:rAg9HBLX0

(,,゚Д゚)「ゴルァ……」

そこには奴、がいた。
そこは、板張りの寒々とした空間だった。壁には大小様々の包丁が飾ってある。
その包丁の異質さを除けば、そこは何処かの大きな道場のようだった。
奴はその道場のような空間の中心に正座をして、一際小さな、見たところ何の変哲もない果物ナイフを、じぃじぃと音を立てながら研いでいる。
その横顔から、奴の感情を伺うことは出来ない。

俺は奴に近付く。
一歩一歩確かめるように足を進め、ついには奴のすぐ隣に立つ。
しかし奴は俺の事など気にも止めずに、まるで俺が見えていないように、
まるで俺が存在しないかのように、じぃじぃと音を立てながら華奢な果物ナイフを研ぎ続けている。

(,,゚Д゚)「………」

('A`)「おい」

(,,゚Д゚)「………」

奴は答えない。反応もしない。ただ、目の前の果物ナイフをじぃじぃと研ぎ続ける。

(,,゚Д゚)「出来たぞゴラァ」

やがて、その出来に満足したらしい彼は、果物ナイフを自分の服の袖を使い丁寧に鉄くずを拭うと、それを天井に掲げ煌きを確認するように覗き込んだ。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:20:07.13 ID:rAg9HBLX0

('A`)「どーすんだ?それ」

(,,゚Д゚)「あ?なんだお前。そんなの決まってるだろうゴラァ」

彼は、先ほど決め込んだ無視をまるで無かったかのように自然に俺の言葉に応える。
その右手には美しい、果物ナイフ。

(,,゚Д゚)「これで、俺の腹を切るんだ」

(;'A`)「は……?」

(,,゚Д゚)「これで俺の腹を掻っ捌くんだ。掻っ捌いて臓物を引きずり出すんだ。
掻っ捌いて臓物を引きずり出して詫びるんだ。掻っ捌いて臓物を引きずり出して詫びて許して貰うんだ。
掻っ捌いて臓物を引きずり出して詫びて許して貰うんだあいつに」

('A`)「お前……馬鹿?」

(,,゚Д゚)「煩い。俺はこれで腹を切るんだ」

(#'A`)「そんな小さなナイフじゃ、まともに腹なんか切れるわけねぇだろうが!!!」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:22:18.23 ID:rAg9HBLX0

俺が怒鳴りつけた瞬間。
世界が、バラバラと拡散した。
バラバラと拡散した世界が再び、どうにか、寄せ集まったそれは、どこかの交差点の形をしていた。
白と灰色の単調なコントラスト。周りには無機質なビルが立ち並んでおり、人影も、車もない。

交差点の歩行者用の信号機は、消えている赤いランプの上で、赤いランプが光っていた。
赤いランプの上に光る赤いランプ。永遠に止まれの赤。
奴は、道路を隔てた向こう側で、ほんの小さなカッターナイフを持って、立ち尽くしている。
その視線は、しんしんと輝き続ける赤いランプに注がれている。
帽子を被った紳士の赤。

俺は、両手にチェーンソーを抱えていた。
あんな華奢な刃物で詫びようなんて、許すものか。
俺の大切な友人を殺したんだ。
俺の本当の友人を殺したんだ。
俺が仇を取らなければ。

けたたましいエンジンを轟かせて、俺は吼える。
許してはいけない。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:24:40.61 ID:rAg9HBLX0

(#'A`)「っあ゛ぁあああああ!!」

俺は帽子を被った紳士の制止をまるで無視して走り出す。
奴を切り付ける。まずは首からだ。何せ面積が小さい。このエンジンの力を借りた刃物でならば簡単に切り取れるはずだ。奴の頭を。

奴は、俺の方を見ていない。
先ほどから、時折上下光る場所が入れ替わる赤い信号機を見つめ続けている。

(#'A`)「死ねぇ!!」

その時、俺はまばゆいばかりの、黄金色の光に包まれた。
そしてその身に四肢が弾け飛ばんばかりの衝撃を受ける。
続いて、聞こえたのはブレーキ音。
そのままアスファルトに無残に叩きつけられた俺の手には、もうチェーンソーは握られていない。

( ФωФ)「もう、やめましょう、ドクオさん」

先ほど、俺を無様に弾き飛ばした車から男が降りる。

(,,゚Д゚)「ゴルァ……」

奴は、相変わらず交差点の前でぼんやりと永遠に変わることのない赤信号を見つめている。
車から降りた男、彼は、いつかうちに訪ねて来て、一緒にクー様と三人でネズミーランドへ行ったこともある、ロマネスクだ。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:26:52.51 ID:rAg9HBLX0

( ФωФ)「ギコ……さんですね」

(,,゚Д゚)「俺は、このナイフで腹を切るんだゴラァ」

( ФωФ)「そんな、小さなカッターじゃ腹は切れませんよ。ほら、よく見て下さい。そのカッター、刃がないじゃないですか」

(,,゚Д゚)「ゴルァ……?」

奴は自分のカッターに視線を落とす。
確かにそのカッターには、刃が存在しなかった。

そして道路に叩きつけられた俺は、周りにチェーンソーが落ちていないか確かめる。
しかしチェーンソーはどこにも見当たらない。

この空間には、包丁も、チェーンソーもカッターの刃もない。

( ФωФ)「私の大切な同僚であり、友人でもあった、内藤ホライゾンの話をしましょう」

彼がそう言った瞬間。
また世界がぽろぽろと零れ落ちる。
気がついたらそこは、一面にシロツメクサが咲き乱れる、美しい野原だった。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:29:24.36 ID:rAg9HBLX0

( ФωФ)「私と彼は、お仕えする家のお嬢さん付きであり、
       家庭に恵まれない境遇であった、と言う共通点を持っておりましたので、極めて近しい間柄でした」

真っ青な空の下で、ロマネスクが浪々と語り始める。
奴は地面に座り込んで俯いているので、彼の話を聞いているかはわからない。
俺はそんな奴の隣に座って、ロマネスクの話に耳を傾けている。

( ФωФ)「しかし、私と彼には、決定的に違う点が御座いました。
       それは、彼が自分の主人の娘である、ツンお嬢様に思慕を募らせていたという点です」

('A`)「………」

じわり、と胸に痛みが広がる。
俺は、この痛みの正体を知っている。

( ФωФ)「それは同い年の男女が幼い頃から共に生活していた以上、ごく自然な感情であったと思います。
        しかし、我々にとってツンお嬢様は恩ある主人の娘。そのような邪まな感情を持つなど許されるものでは御座いません」

( ФωФ)「私以上に、ブーンは真面目な人間でした。真面目に仕事をして、真面目にツンお嬢様を好いておりました。
       そして彼はついに、ツンお嬢様から離れるために屋敷を出る選択を取りました」

(,,゚Д゚)「………」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:32:24.44 ID:rAg9HBLX0

( ФωФ)「その後の彼は、おそらくあなた達の方がご存知でしょう。
        彼は私にとって家族でもあり、友人でもあり、共に人生を生き抜いた戦友でもありました。
        その彼を不当に殺された私は、非常に……怒りを覚えます」

(,,゚Д゚)「だから……俺……腹」

( ФωФ)「黙りなさい」

俯いたまま、小さな声でぶつぶつと何かを言おうとした奴をロマネスクが跳ね除ける。
その声は酷く理性的だった。

(,,゚Д゚)「………」

(;'A`)「………」

俺は、顔が熱くなるのを感じた。
これは、奴に対する怒りじゃない。


本当の、怒りを前にした、羞恥心だ。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:34:36.38 ID:rAg9HBLX0

( ФωФ)「ドクオさん。有難う御座いました」

(;'A`)「え!?お、おおおお俺は何も……」

( ФωФ)「いえ。あなたがギコさんに怒ってくれたから、私は、こんなに冷静でいられました」

(;'A`)「あ、あ、あ……」

違う。違う。俺が怒ったのは、ブーンのためじゃない。
俺とブーンは、同じアパートで、時折安酒を買ってどちらかの部屋で飲む程度の関係で、
元々使用人をしていた事も、ツンさんの事も、何も聞いた事がなかった。

( ФωФ)「ええ、ですが、もう終わりにしようと思います」

(,,゚Д゚)「終わり……だと?」

( ФωФ)「はい。ギコさん」

シロツメクサの原っぱに、風が吹いた。
白い花々は、それぞれ重そうに頭を揺らす。



( ФωФ)「杉浦ロマネスクは、あなたを、許しましょう」



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:36:27.69 ID:rAg9HBLX0

空が、翳った。
いや、違う。抜けるように青かった空が急速に色を変える。
数秒もしないうちに、原っぱは真っ赤な夕焼けの色に支配された。
シロツメクサの花もひとつ残らず真紅に染まる。

それが俺には、奴の、臓物の色に見えた。

(,,;Д;)「うぁ……うぁああああああああああああ!!!」

( ФωФ)「ドクオさん。あなたもです。もう、終わりにしましょう。
       ギコさんは反省をしています。例え法的に罰せられる事がなくても、彼の罪に対して、これからは時間が何よりの罰になるでしょう。
       我々がこれ以上彼に固執するのは、おそらく死んだ人間も、良しとしない事と思います」

ギコは、ロマネスクの服の袖にすがり付いて、尚も涙を流す。

(,,;Д;)「俺……あいつに礼を言うんだ。保険証、ありがとうって……、そんで、そんで謝るんだ。腹切って詫びるんだ。
     何度だって殴られてやるんだ。あいつの気の済むまで……。あいつが……あいつは……いい奴、だったのに……。
     なのに俺……あんたが来た時、白切っって……あれ、チャンスだったのに……詫びるチャンスだったのに……」

( ФωФ)「もう、良いですよ。もう良いです」

(;'A`)「ブーン……」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:38:59.94 ID:rAg9HBLX0

ごめん。


ごめんごめんごめん。
本当の事を言うよ。
お前の人生も知らずに、
お前の心も知らずに、
夢の中で、ツンさんのいるお前に
酷く、酷く酷く嫉妬していた。

俺はその罪悪感を、ここで、ギコに当たる事で、誤魔化そうとしたんだ。

お前のためじゃない。
俺のための、怒りだったんだ。

お前はいつでも、夢の中でさえ、
俺に、あんなに親しげに話しかけてくれる、
良い友で居てくれたのに。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:41:56.91 ID:rAg9HBLX0

(;A;)「う………」

( ФωФ)「………」

( ФωФ)「私の友人の、内藤ホライゾンの話を聞いていただいて、有難う御座いました」

( ФωФ)「私は彼がただ、安らかであることを祈ります」

夕暮れが、緩やかな時間を作っている。
そう言えばブーンがいつか、
夕日を、とても好きだと言っていた気がする。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:43:56.26 ID:rAg9HBLX0

( ・∀・)「あ、起きたー」

('A`)「………?」

( ・∀・)「やーごめんねー。加減したつもりだったんだけど、結構がっつり入っちゃったみたいでー。
      まさか気失うとは思ってなかったから俺びっくりしちゃったー」

('A`)「俺……、気失って……今?」

( ・∀・)「うん。およそ5時間程。ごめん。腹減ったからピザ取っちゃったよー。ほら、君の分はそこに」

俺はずきずきと痛む顎を押さえながらむくりと起き上がる。
どうやら、一応、万年床に移動させてくれたらしい、体にかけられた布団がずり落ちる。
コタツの上には、食べかけのピザに、ハイン様やらラマたんやらが、突き刺さっていた。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:45:52.68 ID:rAg9HBLX0

(;'A`)「俺の嫁がぁ!!」

( ・∀・)「え?間違ってた?実は俺こう言う人形って前から何に使うか不思議でね。
      この際と思って、ググってみたら、「おかず」って言う意見があったから、思い切って盛り付けてみたんだよ!
      あまり食欲を刺激される見目ではないけれど、中々カラフルで素敵じゃないかい?」

(;'A`)「ちょ!何してんだてめぇえええええ!」

( ・∀・)「あはははははははははははは!!料理!!!」

(;A;)「あぁああ!!こんなに汚れちゃって……。あぁ!しかも欠けてるし!待っててな!今お兄ちゃんがパテ盛り盛りして助けてあげるから……」

( ・∀・)「欠けたのは君が倒れた拍子に落ちた時だから俺の所為じゃないよー」

(;A;)「う…うぅ…」

( ・∀・)「うん。優しいなぁ俺。倒れた友人のために料理までしてやるなんて!」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:50:02.60 ID:rAg9HBLX0

(;A;)「あんた……マジ、なんなんすか……」

( ・∀・)「友達に決まってるじゃん」

(;A;)「だって……今日……俺の事追い出したじゃないですか。ケツ、蹴られたし、ジーンズ破れたし……」

( ・∀・)「だって仕事だし。大体ケツ蹴られてジーンズ破られたくらいでぐちゃぐちゃ言うなよ。
      表から出されたんだろ?普段だったら裏口から引きずり出されて、フルボッコにされてるんだぜ?」

(;A;)「それに、ブーンの事……」

( ・∀・)「うん。殺しちゃってごめんね。」

(:A;)「あ、ああああぁぁぁあああ!!」



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 00:51:53.08 ID:rAg9HBLX0

( ・∀・)「よしよし。泣くなよ。ジーンズは買ってやるよ。ヲタクはユニクロがいいんだろユニクロ。一緒に行こうぜ!」

(;A;)「あた、あ、頭撫でるなぁあー!」

( ・∀・)「お。コブになってる。倒れたときのだな。すげー。のび太君みたいだぜお前。」

(;A;)「痛い…痛いよぅ……」

( ・∀・)「人生っつーのはなぁ!痛いもんなんだよ若人!!」

(;'A`)「あ!ちょ!今何時ですか!?」

( ・∀・)「え…?午前1時25分」

(;'A`)「やべーラマたん始まってるよ!!」

( ・∀・)「え?何?断食?」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 01:10:12.66 ID:rAg9HBLX0

(;'A`)「て、テレビテレビ……リモコン!!」

慌ててテレビをつけると、幸いまだ『女子院生のラマダン』はOPの途中だった。

( ・∀・)「あ!あの女の子この人形と一緒じゃん」

(;'A`)「ちょっと黙ってて下さい!」

( ・∀・)「最近アニメって何か変な時間にやってるよねー早朝とか夜中とか」

ワカッテマスさんは、物語の後半から出てくるレギュラーの役だった。
俺は、ワカッテマスさんの声を聞いて、彼のあの言葉を思い出す。


『良い夢でしたよ。ご馳走様でした』



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 01:16:16.43 ID:rAg9HBLX0

('A`)「………」

('A`)「あの、モララーさん」

( ・∀・)「ん?」

('A`)「夢の事、すいませんでした」

( ・∀・)「あぁ?謝るこっちゃねーだろ」

('A`)「え……?」

( ・∀・)「それなりに、楽しい夢だったさ」

('A`)「………」



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/01(日) 01:20:21.66 ID:rAg9HBLX0





ブーン。
お前は、どうだった?
少しでも、楽しい夢なら良かったんだが。



('A`)ドクオが夢を紡ぐようです 第七話 了



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