('A`)と恩返しのようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:10:45.80 ID:Vcq7Yfgl0
  
傷つき疲弊しきって倒れている。


夕日を浴び体を茜色に染め上げている場所は丘の上。
木の陰に横たわる私を見つけることは誰にもできないだろう。

だから目蓋を閉じて全てを受け入れる。
遠のく意識の中、私は優しげな声を聞いた。


「ねえ君、大丈夫?」


初めて触れた肌はこんなにも暖かい―――――


「いつか恩返ししろよ」


そう言って笑いかける貴方に私は誓う


"勿論だ"




('A`)と恩返しのようです



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:12:20.46 ID:Vcq7Yfgl0
ゴト・・・ゴト・・・ガタン

心地よいリズムの中に一際大きな揺れを感じて目を覚ます。
ひたすら先が見えない一本道を走り続けている。

窓をのぞけば緑が広がる。
それはどこか懐かしく俺は人間の記憶力というものに改めて感心した。


「間もなく上岡郷、上岡郷」


車内アナウンスが目的地が近いということを知らせると、俺は手早く荷物をまとめる。
丁度巡回してきた車掌さんに挨拶をする。こんなことは都会では考えられない。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:14:10.02 ID:Vcq7Yfgl0
列車から降りると風が通り過ぎた。
冷たい空気が頬を撫でる。

雲ひとつなく煌々と日が降り注ぎ、辺りには蝉の鳴き声が響いている。
だと言うのに、こんなにも涼しいのはここが東京よりも北にあるからなのか。

ふう、と息をつくと肺を満たす空気は心なしか美味しくてああ、田舎だなと実感する。


( ^ω^)「お、あれじゃないかお?」

ξ;゚听)ξ「ちょっと待ちなさいよ!」


後ろのほうから声が聞こえてくる。
振り返るとそこに居るのは少し太った少年と、少年の後を追うようにして走っている少女。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:15:33.94 ID:Vcq7Yfgl0

('A`)「……ブーンにツンか?」


必死に記憶を辿ること10秒弱。
そうして出てきたのは"ブーン"に"ツン"という名前。
ブーンに限ってはあまりにも特徴的なために容姿も辛うじてだが覚えている。


( ^ω^)「やっぱりドクオだお!」


それは正解で、やはり彼はブーンで、


ξ#゚听)ξ「ハァハァ・・・・・ったく!アンタ早すぎるわよ!!」


この金髪縦ロールという日本人らしからぬ女の子はツンなようだ。
整った顔立ちでさぞかしモテそうなのだが、果たしてこの高圧的なオーラは何なのだろうか。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:17:17.12 ID:Vcq7Yfgl0

ξ゚听)ξ「久しぶり、でいいのよね?」

('A`)「ああ、久しぶりだな。といっても俺は殆ど覚えていないんだけどな。」

( ^ω^)「おっおっ、僕達もそんなもんだお。そんなことより早く行くお」


なんにせよ、俺はこれからこいつらの村に行く。
思い出の地、上岡郷へ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:21:12.04 ID:Vcq7Yfgl0
-1-


俺の背丈くらいあるだろうか、東京ではまず見ない巨大な向日葵。
小さな太陽の大軍が綺麗に割れて出来た道を歩いていくと突然、視界が開けた。


('A`;)「すげぇ……」


広大な畑とまばらに建っている民家。
その中の一つが俺たちの目的地だ。


( ^ω^)「もうすぐだお」


更に少し進んだ所に見覚えのある家があった。
平屋だが、その広さは我が家の3倍以上あるだろう。
とにかく広い。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:23:01.59 ID:Vcq7Yfgl0

('、`*川「いらしゃい、久しぶりだねぇ」


近づいていくと、一人の老人が笑いかけてくる。
優しげな声を持つこの老人は、祖母であるペニサスおばあちゃん。
ちなみにブーンとツンのおばあちゃんもこの人で、俺たちはいとこ同士だ。


( ^ω^)「ただいま〜だお」

('A`)「久しぶり、おばあちゃん」

ξ゚听)ξ「こんにちは。私もおじゃましますね〜」


丁度縁側でお茶を飲んでいたおばあちゃんに挨拶をする。
ここはおばあちゃんの家であり、ブーンが住んでいる家でもある。
俺は今日から暫くここに置かせてもらうことになっていた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:25:05.81 ID:Vcq7Yfgl0

('、`*川「元気だったかい?」


先ほどと同じ笑顔で聞いてくる。
おばあちゃんはとても元気そうだった。


('A`)「勿論。馬鹿は風邪を引かないって言うしね」

('、`*川「なるほどねぇ、だからあの子は風邪を引かないのね」

ξ*゚听)ξ「プッ」


ツンが吹き出す。
ちなみに当の本人は何も分かっていないようで、ただニコニコ笑っていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:26:16.62 ID:Vcq7Yfgl0
 
('、`*川「さて、ドクオを部屋に案内してあげなさい」

( ^ω^)「はいだお〜」


積もる話は後にしてブーンに部屋まで案内してもらうことになった。
流石に家の中までは記憶になく、床や壁が新しくなっているので改築したのかもしれない。

ずっと進んでいって一番奥にある部屋の前で止まった。


( ^ω^)「ドクオはこの部屋を使うといいお」


俺にあてがわれた部屋は、10畳位の畳部屋。
ある物は机くらいで、一人で過ごすには十分すぎる部屋だった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:28:25.21 ID:Vcq7Yfgl0

('A`)「おお……広い」

( ^ω^)「布団は押入れの中にあると思うお」

('A`)「悪いな、何から何まで」

( ^ω^)「お客さんなんだから当然だお。僕の部屋は隣だから何かあったら言いに来るといいお」


本当に、至れり尽くせりだ。
おばあちゃんは縁側に居るので、とりあえず心の中で感謝しておいた。


ξ゚听)ξ「ねえ、さっさと荷物置いて遊びにいきましょうよ」

( ^ω^)「おっ、そうするお!」


ツンが急かすように言う。
俺は、この辺にどこか遊べる所はあっただろうかと首をかしげる。
結構な田舎……辺境の地といっても過言ではない上岡郷にそんな場所があるのだろうか。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:31:39.11 ID:Vcq7Yfgl0
 
( ^ω^)「どこに行くかお?」

ξ゚听)ξ「そうねぇ・・・今日は森で遊びましょう」

('A`)「え?」


思わずおかしな声を上げてしまう。


('A`)「山って……山か?」

( ^ω^)「お?他にどの山があるんだお?」


うん…………あれだ、すっかり都会に慣れてしまっている俺は、突然のことに面喰ってしまっていた。
だって山だぞ、山。一体何をするのか、全く見当がつかない。

しかし俺は、後でその認識を改めさせられることになってしまう。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:34:25.01 ID:Vcq7Yfgl0

―――――風がない。
一切ざわめく事のない木々の陰だけが安らげる場所だった。


('A`)「熱い……」

('A`)「おっといけねえ、誤字っちまった。」

('A`)「なんか独り言が多くなったね☆」


今俺は一人で森の中を彷徨っている。
ブーンが提案した遊びは虫取り。
一番沢山カブトムシを捕まえた人の勝ち、ということらしい。

辛うじて直射日光を避けてはいるものの、すでに頭が大変なことになっている。
最初涼しいなんて言ったのは誰だ。俺か。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:36:09.01 ID:Vcq7Yfgl0

('A`)「にしてもカブトムシなんてどこにも居ないじゃん・・・…」


そう。
いきなり放り出されて、そう簡単にカブトムシなんて取れるわけがない。
まず木を探せばいいのか土を掘ったらいいのか、それすらも分からないのだ。


('A`;)「くっそー」


さらに迷子になってしまうというオマケまで付いてきた。
連絡するか、GPSでも使おうと思って携帯を取り出すも電池が切れてる。


('A`;)「電池切れの携帯ほど使えないものもないな」


そう思ってもう一度画面を覗き込むと、そこには自分の顔が映っていた。
なんだ、手鏡になるじゃん。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:39:41.30 ID:Vcq7Yfgl0
迷ってしまったものは仕方ない。
まだ明るいので暫くうろついていることにする。
もしかしたら、何かのはずみで出れるかもしれない。


暫く歩いていると突然開けた場所に出た。
そこだけ木々が無くぽっかりと円形に空いている。

そこに、一人の少女がいた。


川 ゚ -゚) 「………」


まるでそこだけが別の次元であるかのように思えた。


('A`)「…………誰だ?」


多分自分と同じくらいの年齢だろうか。
すらっとしていて、まっすぐ伸びた髪はどこか見覚えがある気もするのだが思い出せない。
恐らく昔ここにきた時に会ったのだろう。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:41:40.66 ID:Vcq7Yfgl0

('A`)「久しぶり、でいいのか?」


目が合ってしまったので何か言わなければと焦る。
気がつけばツンに言われたのと同じ事を言っていた。


川 ゚ -゚) 「そうだ」

('A`)「やっぱりそうなのか。実は俺、あまり覚えてないんだよね。」


自分でしておいてなんだが、わけが分からない会話だ。
なにやら妙な間が空く。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:43:05.12 ID:Vcq7Yfgl0
 
川 ゚ -゚) 「そうか。私の名前はクー。」


まだ何か言ったほうがいいのかと少し焦る。
しかし何事も無かったかのように会話が再開した。


川 ゚ -゚) 「君はドクオでいいんだよな?」

('A`)「ああ。夏休みの間だけ帰ってきたんだ。」

川 ゚ -゚) 「宜しくな」

('A`)「宜しく」


川 ゚ -゚) 「…………カブトムシ、捕まえるの手伝ってやろうか?」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:46:36.84 ID:Vcq7Yfgl0
――――すごいお!

驚きに満ちたブーンの声が響く。


(;^ω^)「こんなに沢山採ってくるなんて信じられんお……」

ξ゚听)ξ「ホント凄いわねぇ……」


二人が目を丸くしている。
無理も無いだろう、なにせ俺の虫かごには20匹以上のカブトムシが入っているのだ。


('∀`)「俺の勝ちだな」

( ^ω^)「おっお、僕たちの負けだお」


これもクーのお陰だ。
彼女は次々にカブトムシを見つけ出してくれた。
俺は唖然としてそれを眺めているだけ。
なんだかズルイ気がするけどこうでもしないと一匹も取れなかっただろうからな。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:49:34.62 ID:Vcq7Yfgl0
 
ξ゚听)ξ「じゃあ帰ってからブーンは罰ゲームね」

(;^ω^)「え?ツンも負けたじゃないかお」

ξ゚听)ξ「私はいいのよ、私は」


早速ツンがブーンをいじめる。
先ほどから見ていて分かるのだがこの二人、本当に仲がいい。


('A`)「んじゃあ、そろそろ逃がしてやろうぜ」

( ^ω^)「お?飼わないのかお?」

('A`)「閉じ込めちまうよりもこっちのほうがいいだろ?」


俺は虫かごの蓋を開けて、中からカブトムシを出してやった。
籠4個分、20匹のカブトムシを逃がす作業は思ったよりも時間がかかる。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:51:06.74 ID:Vcq7Yfgl0
夕日に染まった空に吸い込まれていくカブトムシを見て俺はすこしいい気分になる。


ξ゚听)ξ「ドクオは昔から優しいわね」

('A`)「そうか?」

ξ゚听)ξ「そうよ。人だろうが犬だろうが虫だろうが、なんにでも優しかったわ」


そうだっただろうか。
自分では何気なしにやっていたのか、全くそんな記憶は無い。
だけど彼らがそう言うからにはそうなんだろう。


('A`)「思い出せれば……いいな…………」

( ^ω^)「大丈夫だお」

ξ゚听)ξ「うん……きっと思い出せるわ」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:54:33.00 ID:Vcq7Yfgl0
カブトムシを逃がし終わってから三人で家に帰る。
結構傾斜が激しい所があったりするのだが流石地元の人間。
二人ともスルスルと降りていくので、俺はついていくのが精一杯だ。


('A`)「クーも二人みたいに運動神経いいのかな?」


ふと思う。
一見何でも出来そうな(イメージ)彼女。
実は運動が苦手です、みたいな所があったら物凄く可愛いと思ったからだ。
・・・あれだけカブトムシを探して走り回ったので今更分かりきっているのだが。

それでなくても昔の彼女がどんなだったか気になるので、聞いてみることにした。
何とかブーンに追いついて話しかける。


('A`)「そういえば気になっていたんだけど」

「なんだお?」

('A`)「昔、もう一人女の子がいなかったか?」


クーのことである。

何をして遊んだのか、どんな子だったのか、どんなことでもいいので思い出したい。
しかし、帰ってきたのは予想とは違った答えだった。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 23:55:25.08 ID:Vcq7Yfgl0
  
( ^ω^)「他にかお?この村には僕たち3人しか子供はいなかったお?」

('A`)「え?嘘だろ?」


しかし何度聞いてもブーンは知らないといった。
ツンにも聞いてみたがやはり知らないという。

ブーンやツンがが嘘をついているようには見えない。
いったいあの子は何者なんだろう・・・いくら記憶を辿ってもその答えは出てこない。


その日は、結局もやもやしたまま過ごすことになった。



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