( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:32:57.57 ID:Bxt+vv63O




伺かとか、テキストサイトみたいなモンだよ。

        バーチャルネットアイドル・ペニサス伊藤(自称22歳)

                            (地味 川



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:34:14.39 ID:Bxt+vv63O


第五話「といれの ―黒歴史をアンインストールしたい―」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:35:35.97 ID:Bxt+vv63O
一階の教室を出たブーンは、ドクオが言ったカメラを探している。
盗撮に用いたカメラで一悪霊の怒りが鎮まるとは到底信じられない。
…だが、今のブーンにはそれしか手段が無いのだった。

(;^ω^)「ひぃ………ふぅ……やっぱ都会の学校は広いお」

階段を昇りきり、三階に着いたブーンは両手で膝を押さえた。
それを見て、ブーンの肩に止まるドクオが口を開く。

('A`)「…今の階段、いつもより二段増しだったぜ」

分かり易過ぎる怪異現象である。

( ^ω^)「で?」

普段より段数が増える、これしきの事、ブーンにとって日常茶飯事だ。
少しも恐怖を感じないブーンにドクオはため息を吐いた。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:37:25.19 ID:Bxt+vv63O
('A`)「で? ってお前の頭ん中はどうなってんだ……」

その言葉を聞いたブーンは首を動かせてドクオを横目で睨む。

( ^ω^)「ロリコンに言われたくないお」

ドクオと出会った教室の光景をブーンは忘れられずにいた。
小学生のリコーダーをドクオが舐め尽くしていたのだ。
きっと、如何なる人間が見ても恐怖で竦み上がる事だろう

(*'A`)「フヒヒ! サーセン!」

( ^ω^)(きめぇな、こいつ)

言葉に詰まるかと思いきや、ドクオは開き直った様子だ。
この変態の為だけに除霊術を学ぼうかとブーンは真剣に思う。

('A`)「あとはこの階のトイレだけだと思う」

( ^ω^)「お」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:38:47.10 ID:Bxt+vv63O
ブーンは闇雲に動かず、ドクオの記憶を頼りに校内を探索していた。
ドクオがカメラを落とした事に気付いた場所から盗撮現場まで。
残す場所は伊藤の本拠地と言える三階の女子トイレだけだ。

( ^ω^)「ドクオ、伊藤さんの気配はあるかお?

('A`)「いんや、全く感じないな」

( ^ω^)「うーん……」

伊藤は今まで一度もブーン達の前に姿を現していない。
そして、学校という霊が好む場所な割に、悪戯もほとんど無かった。
怒り狂っている筈の悪霊にしては手口が随分と生ぬるかった。

( ^ω^)(本当に怒ってるのかお?)

('A`)「そろそろ行こうか」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:40:09.60 ID:Bxt+vv63O
いつまでも此処でこうして駄弁っている訳にはいかない。
疲労感を覚えているブーンだが、気力を振り絞って歩く事にする。

( ^ω^)「おk」

('A`)「女子トイレウマー」

( ^ω^)(……)

ドクオがどうして現世に留まっているかが分かった気がした。
一生成仏しそうにない煩悩の塊と共にブーンは薄暗い廊下を進む。

ふと、ブーンが窓の外に目を遣ると、空には暗雲が立ち込めていた。
不気味に渦巻く雲は伊藤の怒りの表れだろうか。
夕刻に近い時間、暗く静まり返っている廊下に靴音が響く。

一人の悪霊もブーン達の後方につきながら歩を進める。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:41:24.46 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「ここかお」

('A`)「うむ、育ち盛りの女子が来る穴場だぜ」

( ^ω^)「警察の人呼んでー!」

ブーン達は廊下の北側にある女子トイレの前に辿り着いた。
中を覗き込むと、左側に個室が五個、右側に洗面台が確認できた。
おそらく、奥から三番目の個室が伊藤の棲みかなのだろう。

( ^ω^)「女子トイレなんて入れないから、ドクオが見て来いお」

(;'A`)「や、やだよ! もし伊藤が居たらどうすんだよ!!」

( ^ω^)(死ねば良いのに)

怯えるドクオは全く使い物にならない。
ブーンは一応、周囲に人が居ないかを確認してから、
女子トイレにそろりと足を踏み入れた。

('A`)「頑張れよ」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:42:48.75 ID:Bxt+vv63O
何が起きても逃げられるよう、ドクオは入り口に残った。
ドクオの成仏を願いつつ、ブーンはトイレを調べていく。

( ^ω^)(…ん?)

トイレを調べているとブーンはおかしな点に気が付いた。
他の扉は開けっ広げなのに対し、三番目の個室だけ扉が閉じられている。
今日は祝日。つまり、この扉の向こうには何者かが居るということ。

( ^ω^)(……)

(;'A`)「ど、どうしたんだ……?」

入り口で待機するドクオは、急に動作が止まったブーンが気になった。
ブーンはドクオに顔だけを向けて、沈黙しながら扉を指差した。
それを理解したドクオの顔から血の気が失せていく。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:44:25.47 ID:Bxt+vv63O
どうするべきか迷うブーンだが、怪しい場所はもう此処だけだ。
息を整えて、ブーンは扉をノックした。

コンコンコン。


――ガタッ。

( ^ω^)(なんかおる)

個室の中から物音が聞こえた。
もう後には退けないと、扉の向こうの悪霊に声を掛ける。

( ^ω^)「伊藤さん? 伊藤さんかお?」

「そ、その声はブーンか……?」

( ^ω^)「……Qoo?」

帰ってきた声は酷く震えていて、そして聞き覚えのある声だった。
確認の為、ブーンはもう一度名前を呼んだ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:45:30.03 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「クーかお?」

「………ふふ、大悪霊の名前を軽々しく呼ぶ物では無いぞ」

先程とは一転して、ハキハキとした声が返ってきた。
そして、返事の内容が何やら偉そうだった。
ブーンは扉の向こうに居る悪霊はクーだと確信する。

ガチャリと鍵が開けられ、扉の中から半泣きの少女が姿を見せた。

川 ゚ -゚)「やぁやぁ、驚かせてすまなかったね」

( ^ω^)(……)

川 ゚ -゚)「この学校に無差別に人間を襲う悪霊が棲んでいると聞いた。
      誇りの欠片も無い…。私はソイツを懲らしめに来たんだよ」

( ^ω^)っ□「はい、ハンカチーフ」

川 ; -;)「こ、怖かったよぅ」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:46:28.46 ID:Bxt+vv63O
緊張の糸が解け、クーはブーンの体に腕を回して抱きついた。
泣きじゃくるクーの頭を撫でながら、ブーンは心の底から思う。

( ^ω^)(服に鼻水が)

やがて、泣き止んだクーはブーンからサッと体を離した。
目を擦ってクーは気まずそうに声を沈ませて言う。

川つ -゚)「……目にゴミが入っただけなんだからな」

( ^ω^)「はいはい。で、何でクーが此処に居るんだお?」

川 ゚ -゚)「ハインに此処へと連れて来られたんだ」

( ^ω^)「ああ、ハインに」

ハインという名前が出ただけでブーンは直ぐに理解に至った。
どうせ、ロクでもない遊びにクーは付き合わされたのだと。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:47:35.58 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「…あ、そうだお。新しい仲魔を紹介するお
       あんまり気が進まないけど」

川 ゚ -゚)「新しい? お前は本当に憑かれやすいんだな」

( ^ω^)「ドクオ、この子はクーって言うんだおー」

ブーンは入り口で待機しているドクオへと呼び掛けた。
それに釣られてクーも恐る恐る入り口へと視線を遣った。

('、`*川「よろしくね、クー」

川 ゚ -゚)「……女なのに名前がドクオとは」

( ^ω^)「ド……ク……オ…………?」

入り口にはブーンよりも頭一つ分背が高い女性が立っていた。
まさか、ドクオの正体は女性だった?
いやいや、馬鹿な。彼はあんなにも変態だったではないか。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:48:50.05 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「やっほー、遅れてごめんね。邪魔が入ってさ」

待ち合わせに遅れたかのように謝って、長身の女性はブーン達に近付いて行く。
女性の顔は一言で言えば地味で、特筆すべき部分は無いのだが…。

赤いスカートに白いブラウス、大きく膨らんだ左胸には黄色い名札。
右手にはモップを、左手にはバケツをそれぞれ持っている。
見た目、二十歳を越えている女性は、小学生のような格好をしていたのだ。

( ^ω^)「痛ぇ」

('、`*川「何か言った?」

( ^ω^)「いえ、何でも」

女性はブーン達の前で立ち止まった。
ブーンはこの悪霊は何者だろうかとジロジロと顔を見つめる

( ^ω^)「あのー、君は誰ですかお?」

('、`*川「人に名を尋ねる前に、まず自分から名を言えーい」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:50:06.20 ID:Bxt+vv63O
地味な顔付きだが、言葉には棘があった。
ブーンは頭を掻きながら自分の名前を告げる。

( ^ω^)「内藤ホライゾン。あだ名はブーンですお」

('、`*川「ブーン…。なんて発音しづらいあだ名」

( ^ω^)「君は?」

('、`*川「私の名前? 聞きたい? ねぇ、聞きたいの?」

( ^ω^)(うっぜ)

川 ゚ -゚)「ドクオではないのか?」

('、`*川「私はそんな弱弱しい名前じゃない。
     私の名前はペニサス伊藤。ドクオはコイツ」

女性はブーンの胸へと持っていたバケツを軽く放り投げた。
それを受け取り、中を覗くと、気絶している生首が入っていた。
女性に殴られたのだろう、ドクオの目の周りには丸痣が出来ている。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:53:31.87 ID:Bxt+vv63O
川 ゚ -゚)「ドクオってどんな奴なんだ? 見せてくれよ」

( ^ω^)「やめといた方が良いと思うお」

川 ゚ -゚)(バケツに入る大きさ…。かわいい動物霊に違いない)

川 ゚ -゚)「ブーンだけで独り占めなんてずるいぞ!」

( ^ω^)「気持ちの悪い事言わないでくれ……」

背伸びをしてクーはバケツを奪い取ろうとする。
ブーンはそんなクーの頭を押さえ付け、バケツを死守している。

('、`*川(おかしな人間に憑いちゃったな……)

( ^ω^)「…あれ? さっき伊藤って言ったかお?」

そう、伊藤とはブーンとドクオの命を狙っている悪霊の名前だ。
ブーンは思い出したかのように気を引き締めて、真剣な顔を作る。

('、`*川「やっと気が付いた。私こそがトイレの伊藤さんだよーん」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:54:49.45 ID:Bxt+vv63O
川 ゚ -゚)「トイレの伊藤だと!?」

クーは上ずった悲鳴を上げてブーンの後ろに隠れた。
今も尚、名を刻み続ける有名な悪霊、伊藤の力は計り知れない。
口だけは強気で臆病なクーでは太刀打ち出来そうにない。

( ^ω^)「これはこれは……僕達を帰してはくれないッスよね」

('、`*川「当たり前じゃないッスか。何の為に憑いたと思ってるんスか」

( ^ω^)「ッスよね!」

('、`*川「ッスよ」


やはり、伊藤は悪霊らしくブーンを殺す気でいるようだ。
カメラは見付からず、他の策も無い、加えて逃げ場が無い。
四面楚歌、そんな現状を打破するには頭を働かすしかないのだ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:56:27.46 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「あ、そう言えばカメラを探してるんでしょ」

( ^ω^)「だお。でも、そんなの返しただけじゃ鎮まらないお?」

('、`*川「当たり前。それと、カメラなら私が見付けちゃったし」

( ^ω^)「なるほど」


ドクオが盗撮に使用したカメラは伊藤が拾ったというのだ。
これで、カメラでは鎮まらないと自動的に証明された。
ほら、と伊藤はポケットから薄型のデジタルカメラを取り出した。

[◎]('、`*川「よくもまぁ、ふざけた真似してくれたわね」

( ^ω^)(最近の悪霊って良い物持ってるなぁ…)

[◎]('、`*川「こんなモンで怒りが治まるワケないっつーの」

伊藤はカメラをギリギリと力強く握り締める。
潰すくらいならくれと、ブーンは言い出しそうになるが堪えた。
やがて、伊藤は力を緩め、ふとブーン達に向けてカメラを構えた。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:57:38.91 ID:Bxt+vv63O
[◎]('、`*川「……二人とも、笑って笑ってー」

( ^ω^)「お? 分かったお」

学校での記念撮影か、そういった物だろうとブーンは笑顔を作る。
そして、無防備にピースをしようとするブーンをクーが慌てて制止した。

川 ゚ -゚)「待て!」

('、`*川「! …あっはっは、流石は悪霊。バレちゃったか」

へらへらと笑い、伊藤はカメラを下ろした。
クーが間に立って伊藤を睨み付けるが、やはり怖くない。

川 ゚ -゚)「そのカメラに私達を閉じ込める気なんだろ!」

( ^ω^)「そんな……ひどいお! 信じてたのにッッ!!」

('、`*川(何が?)



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 00:59:00.03 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「あったりー……というか、アンタも人間の味方をするのね」

伊藤は深いため息を溢してモップを肩へと携えた。
珍しく恐れをなさずにクーが強い口調で口を開く。

川 ゚ -゚)「…ブーンと口裂け女の間に子供が出来たらしいのでね。
      二人の幸せな未来を壊す様な真似は絶対に、させない」



( ^ω^)「おい、そんな話初耳だぞ」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:01:04.60 ID:Bxt+vv63O
クーの話を聞いた伊藤は驚いたようで目を見開いた。

('、`*川「へぇ…。あの小賢しい赤い奴だけでなく、口裂け女まで憑いてるんだ」

川 ゚ -゚)σ「電子世界の大悪霊、このクー様も居るぞ」

抜け目無く、クーは自身の存在を誇張気味に補足した。
一方、ブーンは今し方伊藤が言った言葉が気になっている。

( ^ω^)「……赤い奴?」

('、`*川「赤い和服を着た女だよ。
     アイツがいきなり襲って来た所為で遅れたんだ」

川 ゚ -゚)「ハインか? アイツの口車に乗せられた所為で……ああああ」

クーの言う通り赤い和服の女とは十中八九、ハインの事で間違いないだろう。
ハインに妨害されていたが故、伊藤は姿を中々見せられなかったのだ。

( ^ω^)「……もう一つ聞いて良いかお」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:02:41.40 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「何よ」

( ^ω^)「クーから聞いたお。無差別に人間を襲う悪霊が居るって。
       …それって伊藤さんの事かお?」

('、`*川「……そうよ。それは私の事で間違いないわ」

( ^ω^)「僕が昔読んだ本じゃ、伊藤さんはそんな悪戯」

('、`*川「うるさいな」

伊藤はブーンが言い終える前に怒気を含ませて一喝した。
ブーンは神経を逆撫でしないよう、黙って伊藤の言葉を待つ。
長い沈黙の後、伊藤は肩をわなわなと震わせて唇を動かせた。

('、`*川「私が愛くるしい霊? 人間を守る? ふざけるな。
     人が大人しくしてやってりゃ……愚かな人間共め」

手に握られているモップがギリギリと音を立てて軋む。
今にも襲い掛かってきそうな雰囲気が伊藤から伝わって来る。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:04:22.04 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「いつまでもトイレで燻っていたくない。
     私は外の世界に出て、ヤりたいように、ヤる」

今まで学校に棲んでいた伊藤は、人間からの捉われ方に不満があるようだ。
本来の自分の在り方を捨ててまで外に出たいと、伊藤が言う。

( ^ω^)「それで外に住む僕に憑いたのかお」

('、`*川「アンタは栄えある学校外の犠牲者第一号。
     光栄に思いなさい。そして―――」

伊藤はギュッと唇を一文字に結んで言葉を溜めた。
一時、トイレ内が息遣いの音すら聞こえない無音状態になる。
…ブーンが欠伸をしたのと同時、伊藤は両腕を広げて叫んだ。

(゚、゚#川「日本中…いや、世界中の人間共を憑き殺してやる!
     私をゾンザイに扱った人間共よ! ふるえるがいい!!
     私は、私は世間を騒がせる存在となるんだ!!」

川 ゚ -゚) ビクッ

( ^ω^)(アイドル志望の女の子みたいな事を…)



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:05:51.19 ID:Bxt+vv63O
ドクオの盗撮が引き金となったのか、又はそれ以前からなのか。
現在の自身の位置に対して伊藤は相当憤っているようだ。
放っておけば述べた通り、無差別に人々を憑き殺すだろう。

( ^ω^)「でも、残念だお」

(゚、゚#川「…?」

伊藤が両腕を下ろすと、ブーンは小さな声で呟いた。
ブーンに表情には失望の念が確かに刻まれている。

( ^ω^)「あの伊藤さんがそんな事をするだなんて」

見境なしに人間を憑き殺すのは、そこら辺に居る無名の悪霊と変わらない。
有名な怪談話の存在が堕ちた様を見て、ブーンは残念に思ったのだ。

('、`*川「……トイレの伊藤さんは引退よ。
     これからは世界の伊藤さんとなる」

( ^ω^)(ナベアツ?)



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:07:27.84 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「さ、もう良いでしょ。死んで貰うわ」

そう言って、伊藤はカメラを構えた。

[◎]('、`*川「カメラに閉じ込められるって恐ろしいでしょ?
       これからはこの呪いで憑いて行こうと思う」

クーは反抗する勇気が無くブーンの後ろで震えている。
ため息一つ、ブーンは笑顔でピースサインを作った。

[◎]('、`*川「おい、人間。ブーンって言ったっけ」

( ^ω^)「ですお」

[◎]('、`*川「……期待に添えなくて悪かったわね」

一怪談の存在としての誇りを捨てた伊藤の小さな謝罪の言葉。
その言葉を聞いたブーンは笑顔を崩さずに言った。

( ^ω^)「同じように僕を閉じ込めた悪霊が居たお」

[◎]('、`*川「へぇ、ソイツはどうなったの?」

( ^ω^)「さぁー、どうなったかお?」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:08:27.34 ID:Bxt+vv63O
[◎]('、`*川「……さようなら」

( ^ω^)「またお」


       ノ
    ( ^ω^) 
     ( (\ -゚)
     < \

そうして、ブーンとクーはカメラの中に閉じ込められた。


('、`*川(最期までおかしな人間だったな…)



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:12:05.70 ID:Bxt+vv63O
('、`*川(……でも、これで良いんだ)

事を終えた伊藤はカメラをポケットに仕舞い、洗面台に腰掛けた。
伊藤には達成感は無く、ただ疲労感だけが重く圧し掛かる。
彼女は長年居座り続けたトイレを出て外界で暴れるのだ。

('、`*川「行こう」

伊藤は床に足を下ろし、覚束ない足取りでトイレを出ようとする。
しかし、そんな伊藤を止める声が何所からか響いた。

「いや、勝利の余韻に浸るにはまだ早いぜ」

('、`*川「四乃森…じゃなかった。またアンタか」

伊藤が振り向くと、突然洗面台の鏡から腕が飛び出してきた。
上半身、下半身、とゆっくり姿を現し、ソレは床に降り立った。

从 ゚∀从「うらめしヤッホーーイ!!」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:13:21.37 ID:Bxt+vv63O
元気に挨拶をしたハインは、すかさず伊藤へと短刀を翳した。
伊藤は呆れた表情で体を前に向ける。

('、`*川「遅かったわね。ご愁傷様、あの人間なら始末しちゃったよ」

从 ゚∀从「始末、カメラに閉じ込めるのが始末と言うか」

普通の人間ならば死と同然の呪いの類いである。
従って、伊藤にはハインが言った言葉が理解出来なかった。
首を傾げる伊藤を余所に、ハインは誰宛にでもなく言った。

从 ゚∀从「凡そ千」

('、`*川「人の話を聞け……千?」

从 ゚∀从「ブーンにとり憑いてる悪霊の数だよ」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:15:02.05 ID:Bxt+vv63O
('、`;川「そりゃまた…。でも、今更それがどうしたって言うの」

从 ゚∀从「お前は"一"で、お前の相手は"千"なんだぜ」

お前は一騎当千の存在であるか。
ハインが言うが、伊藤の中ではブーンは既に過去の存在だ。
伊藤は不気味な薄ら笑いを浮かべてハインに反論する。

('、`*川「見てたんでしょ? それならあの人間がどうなったのか――」

从 ゚∀从「閉じ込めた世界はちゃんと真っ暗闇か? 気が狂う白一色か?
     …まさか、テキトー考えたお粗末なモンじゃないよな」

これには流石の伊藤も驚愕で両目を限界まで開かせた。
今まで一度も扱った事が無い方法で、二人を閉じ込めたのだった。

(゚、゚;川「まさか」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:16:17.38 ID:Bxt+vv63O
伊藤は震える手付きでポケットからカメラを取り出した。
カメラを操作し、二人が映っている筈の画像を恐る恐る開く。

(゚、゚;川「!?」

画像にはブーンとクー……と、夥しい数の悪霊が映っていた。
ある者は喉を掻き毟り、ある者は床に這い、
またある者はナイフを手に、撮影者に襲い掛かろうとしている。

(゚、゚;川「ひ」

地獄絵図。
小さな悲鳴を上げて、伊藤はカメラを放り投げた。
カメラは床に叩き付けられ、ガキンと硬い音を立てた。

从 ゚∀从「まぁ、千の内、三十くらいしか味方してねーけどな」

だから、大丈夫大丈夫。ハインは真赤な袖で口を隠して笑う。
しかし、伊藤の胸中はざわつき、穏やかな物ではなかった。
一対三十、人間と同様に悪霊も数の暴力を覆す事は至難の技だ。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:17:40.13 ID:Bxt+vv63O
呆然と立ち尽くす伊藤を前に、ハインはカメラを拾い上げた。
そして、映っている画像を眺めて大きなため息を吐く。

从 ゚д从「何だこりゃあ? お前の過去か何かかよ。
     あんまり慣れん事はするもんじゃねーぞ」

(゚、゚;川「あ……あ…………」

同じ悪霊稼業としてハインが忠告するが、伊藤の耳には届かない。
慣れない方法を取ったが故、閉じ込めた場所には欠陥があるようだ。
伊藤は血相を変えてカメラの中へと姿を消した。

从 -д从「ダサっ! これだからプライドの無い悪霊は……」

大袈裟に肩を竦めてみせ、ハインはカメラを懐に仕舞った。

从 ゚Д从「…つーか、俺は助ける気なんか無いっつーの」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:18:52.42 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「コープスktkr」

川 ゚ -゚)「よくこの状況で喜べるな」

二人は埃の臭いが充満している朽果てた木造の教室に立っていた。
窓の外は暗闇、教室を照らし出すのは黄色の光を放つ電球。
如何にも今から何か出ますよと言わんばかりの光景だ。

( ^ω^)「この勝負、圧倒的に僕が勝ったお」

綺麗な校舎よりも朽ちた校舎の方がブーンは居心地が良かった。
田舎育ち故にか、ただ単にこういった場所が好きなだけか。
定かでは無いがブーンは現状を楽しんでいるようだ。

川 ゚ -゚)「ほう、そう言うからには勝算があるのだな」

( ^ω^)「あるお」

ブーンは自信満々の表情でキッパリと言い切った。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:20:39.18 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「コープスktkr」

川 ゚ -゚)「よくこの状況で喜べるな」

二人は埃の臭いが充満している朽果てた木造の教室に立っていた。
窓の外は暗闇、教室を照らし出すのは黄色の光を放つ電球。
如何にも今から何か出ますよと言わんばかりの光景だ。

( ^ω^)「この勝負、圧倒的に僕が勝ったお」

綺麗な校舎よりも朽ちた校舎の方がブーンは居心地が良かった。
田舎育ち故にか、ただ単にこういった場所が好きなだけか。
定かでは無いがブーンは現状を楽しんでいるようだ。

川 ゚ -゚)「ほう、そう言うからには勝算があるのだな」

( ^ω^)「あるお」

ブーンは自信満々の表情でキッパリと言い切った。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:22:36.72 ID:Bxt+vv63O
川 ゚ -゚)「して、此処から出る方法は?」

( ^ω^)「伊藤さんを倒せば良いお」

川 ゚ -゚)「ばか」

それが出来なかったから、今こうして閉じ込められているのだ。
文句の一つでも言おうとクーはブーンの顔を見上げたが、
全く諦めていない彼の表情を見て言葉を飲み込んだ。

川 ゚ -゚)「……伊藤を倒す方法があるの
だな」

( ^ω^)「そろそろ来ると思うお」

川 ゚ -゚)(…?)

憑いたばかりのクーには、ブーンの言葉が理解出来ない。
伊藤がハインに邪魔されていた事を知ったブーンは、
今までどのようにして生き延びて来られたのかを思い出したのだ。

( ^ω^)(フヒヒ! 上げてて良かった好感度!)



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:23:59.01 ID:Bxt+vv63O
川 ゚ -゚)「なぁ、ブーン。それってどういう意味―――」

突如、電球が不規則に明滅を繰り返し始めた。
天井を見上げると教室中の電球が揺らめいている。
ブーンは竦み上がったクーを抱えて机の下に隠れた。

川 ゚ -゚)「なになに、ねぇ、なにこれ」

( ^ω^)(来たお)

明滅が止み、電球の動きがピタリと止まる。
一瞬の静寂、そして、鼓膜を突き刺す破裂音。
一つを残して、電球が一斉に砕け散ったのだった。

川 ゚ -゚)「うわわわ」

降り注ぐ破片が止んだのを確認すると、ブーンは机下から這い出る。
それから、背後に立つ女性へと話し掛けた。

( ^ω^)「ツン、今回の登場の仕方はどうかと思うお」

「あっそ。私はお姉さんみたく上品にする気はないから」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:25:38.52 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「…………9?」

予想外の甲高い声にブーンは少し驚いたようだ。
そろりと振り向けば、淡いピンク色のパジャマを着た少女が立っていた。
キュー、彼女は凄まじくやる気の無さそうな表情をしている。

o川*゚―゚)o「いくら、お姉さんの頼みでも助けたくないよ…」

( ^ω^)「ツンの頼みかお」

以前、ツンに痛い目に遭わされてからキューは畏怖の念を込め、
ツンの事を"お姉さん"と呼んでいる。悪霊の世界にも主従関係はある。
キューは鋭く尖った爪で首筋を軽く掻いて口を開いた。

o川*゚―゚)o「お姉さん、今回は乗り気じゃないんだって」

( ^ω^)「何かあったのかお?」

o川*゚―゚)o「散歩に出る前に自分が言った言葉を思い出すと良いよ」

しかし、そんな細かい事など忘れてしまう程に色々起きている。
腕を組んで考え込むブーンへとキューが冷ややかな視線を送る。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:26:55.18 ID:Bxt+vv63O
o川*゚ー゚)o「カワイソー、お姉さんカワイソー」

( ^ω^)「意味分からん。クーは覚えているかお?」

川 ゚ -゚)「知らん。早くソイツを追い払ってくれ」

ブーンが顔を向けると、クーは椅子を盾代わりにして構えていた。
臆病さもここまで来れば一種の才能と言える。

( ^ω^)「クー、この子はメンヘル…じゃなかった。キューって言うんだお」

o川*゚ー゚)o「メンヘル? 間近で見ると本当に面白いね」

自傷癖のある親不孝のメンヘ……キューがクーを見て言った。
"面白い"を良い風に捉えたクーは椅子を床に置いて鼻を鳴らす。

川 ゚ -゚)「クックック、照れるではないか」

o川*゚ー゚)o「……さってと、ブーンは伊藤を成仏させたいんでしょ」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:28:12.01 ID:Bxt+vv63O
クーから目を逸らしてキューは近くにあった椅子に腰掛けた。

( ^ω^)「いや、成仏までは……何か手があるのかお?」

偉そうに足を組み、キューは爪で一度だけ引っ掻く。

o川*゚ー゚)o「本当に気が進まないんだけどねー。
      "キュー様お願いします"って言ったら考えてあげるよ」

( ^ω^)「キュー様お願いします」

川 ゚ -゚)「お前にはプライドが無いのか」

( ^ω^)「クーに言われたくないおー」

川 ゚ -゚)「なんだと」

言い争いを始める二人。
若干の苛立ちを感じたキューは廊下側の窓を一枚割ってみせた。

( ^ω^)「サーセン」
川 ゚ -゚)「ごめんなさい」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:29:41.81 ID:Bxt+vv63O
o川*゚―゚)o「…伊藤がどうやって生まれたか知ってる?」

川 ゚ -゚)「聞いた事がないな」

怪談に於けるトイレの何某さんのやり方は地方によって様々だ。
出生に纏わる話もやはり様々だが、此処は有名な説を解釈して話を進める。
キューは一つ小さな欠伸をしてから笑顔で話を進めた。

o川*゚ー゚)o「ある所に学校が大好きな女の子が居ました。
      そしてある日、気が触れたお母さんに学校のトイレで惨殺されました」

( ^ω^)「……それで?」

o川*゚ー゚)o「それだけー」

短い説明にも関わらず重い話、明るい声で喋るキューにクーは身震いした。
だがしかし、腐っても悪霊のクー。同じ悪霊の伊藤の弱点を朧気に見出した。

川 ゚ -゚)「…学校好きで、学校生まれ、か」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:30:59.19 ID:Bxt+vv63O
o川*゚ー゚)o「うん! 学校その物が伊藤の力!」

声の調子を上げてキューが勢い良く腰を上げた。
トコトコと歩き、教壇に立ったキューは教師のように振舞う。

( ^ω^)「キューせんせーい。僕達はどうしたら良いんですかお」

o川*゚ー゚)o「手を上げなさーい。…彼女が持つ学校の象徴を壊せば良いよ」

川 ゚ -゚)ノ「はい。学校の象徴とは?」

ブーンは一人ぼっちを思い浮かべ、クーは給食を思い浮かべた。
だが、そんな物が伊藤の原動力だとしたらあまりにもお粗末だ。
キューは欠けたチョークを掴み、黒板に何やら文字を書き始める。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:32:25.62 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「ああ、なるほ」

川 ゚ -゚)「そんな物もあったな」

キューが書いた文字を見て二人は感嘆の声を上げた。

      がくねん  6年2組      
      なまえ   ペニサスいとう      

o川*゚ー゚)o「名札を壊してしまえば良いんだよ」

学校好き、学校生まれ、学校に棲む悪霊らしい弱点だ。
しかし、名札を破壊するには大きな問題が一つ存在している。
今、ブーン達が居る場所が訳の分からぬ空間だと言う事だ。

( ^ω^)「でも、この世界から出ないと駄目だお」

o川*゚ー゚)o「それは大丈夫。伊藤は慣れない事をして大失敗してるから」

キューはそう言って古臭い木造の教室をぐるりと見回した。
その様子を見てクーはキューが言いたい事を汲み取った。

川 ゚ -゚)「……此処は伊藤の過去の世界か」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:34:13.05 ID:Bxt+vv63O
o川*゚ー゚)o「70%正解かな。
      此処は伊藤が"おざなりに作った過去"」

o川*゚―゚)o「だから色々失敗してる。穴だらけなんだ。
      例えば―――過去の自分を消し忘れてるとか」

伊藤が作り出した大問題は、彼女自身の大失敗で打ち消された。
学校の大悪霊には絶大な力があれども、センスが著しく欠如していた。
こうして他の悪霊が入り込む隙間があるのもその一つ。

( ^ω^)(やっぱり普通の伊藤さんが一番だお)

川 ゚ -゚)「待て。もし、伊藤が気付いたら」
o川*゚―゚)o「…此処を出て右に直進、三番目の階段を昇る。
      三階まで昇ったら左に直進。突き当たりにトイレ。
      絶対に立ち止まらない、振り向かない。早く行って」

舌を噛んでしまいそうな早口でキューは二人に命令した。
突如、様子が豹変したキューにクーは眉を潜めたが、
ブーンは察したようで、クーの手を取って教室を出ようとする。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:35:29.83 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「キュー、ありがとうだお。無理するなお」

o川*゚ー゚)o「勘違いしないでね。これはお姉さんに頼まれてなんだから」

川 ゚ -゚)「え? もしかして伊藤さんが来たの?」

( ^ω^)「行くお」

ブーンはクーの手を引っ張って教室から出て行った。
一人残ったキューはため息を吐いて何処にでもなく声を掛けた。

o川*゚―゚)o「あんのヤンキー女は挑発しか能がないの…」

そして、チョークを握りつぶした。

o川*゚ー゚)o「ねぇ、伊藤さん、何して遊ぼっか」

o川*^ー^)o「私は殺戮ごっこが良いなー」

天井から垂れ下がっている顔にキューは微笑みかけた。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:36:41.50 ID:Bxt+vv63O
ブーン達はキューに指示された通り、三階を目指している。
迫る来るおぞましい気配を背に、ブーンはキレながら走っている。

(#^ω^)「祝日ってなんだお! 殺されかける日かお!!」

無理もない。クーの罠に始まり、今日彼には何一つとして良い事がない。
学校に連れ去られ、変態に出会い、伊藤に狙われ、…腹痛もあった。
鈍くなった運動神経を無理矢理起こして三番目の階段を昇る。

川 ゚ -゚)「もう帰りたいよ………ん?」

ブーンに引っ張られるクーの体に妙な感覚が走った。
と思うと、直ぐにその違和感は何処かへと去って行った。

川 ゚ -゚)(……)

(#^ω^)「クー! もっと気合入れて走るお!!」

二人が駆け抜けて行った道は血だまりの道が侵食していく。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:38:19.29 ID:Bxt+vv63O
階段を昇りきり、三階の廊下に着くとブーンは絶句した。
所々木造の廊下に穴が開き、二階部分が丸見えとなっている。
疲労困憊のブーンに、もっと走りたまえと校舎の悪霊は告げる。

(#^ω^)「明日は絶対にゆっくり寝てやるお…」

意を決して走り出すと、ブーンの手からクーの手がするりと抜けた。
チラリと見るとクーは床に視線を落として立ち尽くしている。
クーの背後では口を大きく裂いて嗤う悪霊の影が迫っていた。

(#^ω^)「早く来るお!!」

川  - )「先に行け」

臆病なクーには絶対に考えられない凛とした声で、そう言った。
そして、クッと顎を上げた彼女の顔はまるで別人だった。

川   ) 「この私が三下悪霊に負けると思ったか? 馬鹿なのか?」

( ^ω^)「クー……なのかお?」

またも強がりなのかと思いきや、クーに臆している様子は全く無い。
人型の影は、人型の原型を留めていない影に勝てるだろうか。
ブーンはこの場をクーに任せて駆け出した。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:39:41.36 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)(あの口調どっかで聞いたような…)

廊下に開いた穴は跳躍不可能な場所も見受けられたが、
ブーンが近付くと、不完全にだが塞がっていった。
彼に憑く者達が、味方してくれているのだ。完全に塞がないのは悪戯心。

(;^ω^)「うー、トイレトイレ……っと」

突き当たりの右側にあった女子トイレにブーンはホイホイと入った。
鼻を突くアンモニア臭、そしてそれに鉄の錆びた臭い混じっている。
奥から三番目の扉は開けっ広げになっていた。

( ^ω^)「お邪魔しますおー」

中は凄惨を極めていた。
壁中に血が飛び散り、床には白骨化した生徒が横たわっている。
赤いスカート、白いブラウスが刃物で切り裂かれている。

そして、ブラウスには黄色い名札が付けられていた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:40:39.32 ID:Bxt+vv63O
( ‐ω‐)(…ちょっと失礼しますお)

ブーンは目を閉じて手を合わせてから名札を外した。
長い月日が経過して脆くなっているのか、名札は容易く千切られる。

こうして、名札が壊され、伊藤が持つ全ての力が失われる。




「ねぇ、何してんの」



筈だった。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:42:21.59 ID:Bxt+vv63O
背後で地獄からの呼び声が聞こえた。
闇へと連れ去る魔性の気配がブーンの直ぐ後ろに居る。

( ^ω^)「あれれー、伊藤さんこれで終わりじゃないのかお」

(゚ 。*川「そうね、力の半分は持っていかれた感じ」

ブーンが振り向くと、骨が浮き出る程に痩せ細った伊藤が居た。
ブラウスは無惨にも鋭利な何かでボロボロに引き裂かれている。
モップの先に付いている雑巾からは、黒い霧が発せられいる。

(゚ 。*川「私は馬鹿で馬鹿で馬鹿で、だから目立てないんだ」

吐き出すように呟く伊藤の言葉は理解し難くなっていた。
細い腕をだらしなく垂れ下げ、長身の伊藤がブーンの顔を覗き込む。

(゚ 。*川「ああ、コロスってイったでしょ。
      私は消えそうで怖いから目立ちたいんだって」

( ^ω^)「人間を無差別に襲う悪霊が出る映画なんて見たくねーお」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:44:07.74 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。*川「あはハ。面白い事言うじゃん。
     でも、B級ホラー映画もたまには良いモンだ、……よ!」

声を張り上げ、伊藤は凶器と化したモップを振り上げた。
伊藤が持つ全霊力が集まり、あちこちから物が壊れる音が響く。
そして、咆哮し、ブーンの頭目掛けてモップが振り下ろされる。

―――コン、コン、コン。

その時、トイレにノックの音が三度、鳴り響いた。
それに従い、伊藤はモップを振り上げたままの姿で硬直した。

(゚ 。;川(……)

今の音は伊藤が生きて来た長い歴史の中で、何千、何万回と響いたモノだ。
トイレの壁をブーンが三回ノックしたのであった。
ゆっくりとモップを下ろし、伊藤はブーンの目前に顔を近付ける。

( ^ω^)「扉じゃなくてごめんだお。……伊藤さん、居ますかお」

(゚ 。*川「ふざけてンのか……居るわよ」



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:44:59.78 ID:Bxt+vv63O
何度も繰り返して来た問答、半ば反射的に伊藤は答えた。
それを聞いたブーンは優しい声で伊藤へと話し掛ける。

( ^ω^)「暇だから、何かして遊ぶお」

(゚ 。*川「……首絞めごっこでどうよ」

( ^ω^)「それでこそ伊藤さんだお」

(゚ 。*川(…)

( ^ω^)「でも、僕がしたいのは」



「成仏ごっこ」



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:46:29.63 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。;川「な!?」

伊藤がその声に気が付いた時には全てが手遅れだった。
本来ある筈の無い手が、彼女の左胸に生えていたのだ。
その手は黄色い名札を鷲掴みにし、元の場所へと戻って行く。

( ^ω^)「待てお、いくら何でもそれはやりすぎだ」

(゚ 。;川「く……あ………」

モップが手から離れ、伊藤は床に膝を着いて崩れ落ちた。
横たわり、伊藤が自身を貫いた者へと視線を泳がせる。

(゚ 。;川「そ、そんな馬鹿な……」


川  - )(……)

完全にノーマークだった無名の悪霊に膝を着かされた。
伊藤は顔を歪ませて立ち上がろうとするが、クーの手を見て力を失った。
見せ付けるように、クーが名札を指先で掴んでいたのだ。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:47:57.06 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「…そっちの名札も壊さなくちゃいけなかったのかお」

(゚ 。*川「………この私が一介の悪霊に、かよ」

自嘲気味に言い、伊藤は上半身を起こして壁に背中を預けた。
ブーンは屈んで戦意を失った伊藤の肩に腕を回した。

( ^ω^)「B級ホラーはたまにだから良いんだお」

(゚ 。*川「…は、アンタ全国のB級ファンを敵に回したぞ」

( ^ω^)「違いないお」

ブーンの顔が笑顔になり、伊藤もそれに釣られて控えめに笑う。
そうしている間に、伊藤の胸の傷がみるみる内に塞がって行く。
悪霊は成仏しない限り、絶対にその永遠の命を落とす事はない。

(゚ 。*川「…やっぱ、トイレで地味なまま永遠を過ごすしかないのかねぇ」

伊藤は暗い天井を仰いでか細い声で呟いた。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:52:22.31 ID:Bxt+vv63O
一生目立つ事なく、トイレの大人しい悪霊として生きる。
そして、いつの日か人々の記憶から消えてしまうのかもしれない。
ブーンは悲痛な面持ちの伊藤の顔を覗き込んで囁き掛けた。

( ^ω^)「でも、最後のはちょっと恐かったお。
       夜中にトイレ行けなくなるかも分からんね」

と、賛辞を送るブーンたが、恐怖など微塵も感じていなかった。
伊藤の背後にクーが控えていた事を知っていたからだ。
ブーンが臆病な性格では無いと気付いている伊藤はせせら笑う。

(゚ 。*川「…………嘘吐け」

( ^ω^)「いやいや、本当本当」

そう言い繕い、傷が完全に塞がったのを見て伊藤を立ち上がらせた。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:56:07.53 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「僕は今のままの伊藤さんが好きだお」

(゚ 。*川「嬉しいけど、諦めるつもりは全くないよ」

( ^ω^)「お」

(゚ 。*川「……けど、力はあっても技術が足りない事が分かったわ」

伊藤の力は世界に無数に居る悪霊の中で最も強い部類に入るだろう。
しかし、長く外を知らず生きて来た為、知識という物が無かった。
それを悟った伊藤は凛とした表情、強い口調で決意を口にした。

(゚ 。*川「私は学校を捨てる」

( ^ω^)「そんな」

それでは学校の怪談という世界から伊藤は姿を消してしまう。
小さな頃に本で伊藤を知ったブーンは残念に思った。
しかし、ブーンの視線を余所に伊藤は次のように言ったのだった。

(゚ 。*川「…でも、"トイレの"は捨てない。此処まで来たらステータスだわ」



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:59:13.13 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「お! じゃあ、伊藤さんは」

(゚ 。*川「"トイレの伊藤さん"の名を遥か未来にまで残してやるわ」

それを聞いたブーンの表情は晴れやかな物になった。
トイレという限定された場所で出来る悪戯を模索すると言う。
クーと同じく、伊藤も、彼女のやり方で誰からも恐れられる悪霊を目指すのだ。

( ^ω^)「おっお、それなら僕の部屋のトイレを使うと良いお」

(゚ 。*川「私は洋式しか許さないわよ」

( ^ω^)「勿論。便座が暖かいウォシュレットだお。
       …時々、便座から手が伸びて来るけど」

(゚ 。*川「霊気に満ちたトイレ、めっちゃ私向けだわね」

こうして円満に事件は解決して和やかなムードとなった。
一通り会話を終え、後は伊藤に元の世界へと返して貰うだけだ。

( ^ω^)「クー、名札を返してあげるお」



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:01:07.67 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。*川「…にしても、ただの小娘だと思ってたら」

( ^ω^)「そうだお。クー、見直したお」

川  - )(…)

二人がクーを褒め称えるが、当の本人は呆然として聞いていないようだ。
クーの白く濁った眼には仲良さそうに寄り添う二人が映っている。
何時までも黙りこくるクーに、二人は視線を合わせて不可解な顔をする。

( ^ω^)「クー?」

川  - )「ブーン」

( ^ω^)「お、やっと喋ったお」



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:03:06.47 ID:Bxt+vv63O
クーは名札を高く放り投げた。
名札は床に向かってひらひらと舞い落ちていく。

(゚ 。;川「おいおい、まさか」

( ^ω^)「空気読めお」

伊藤は阻止しようと急いでブーンから離れた。
しかし、それよりもクーの手捌きは速く。

川 ゚ ゚)「―――死ねば良かったのに」

黄色い名札は鮮やかに切り裂かれてしまった。
細かく分割された伊藤の力の源が床に落ちる。

( ^ω^)「悪霊のする事って歪みねえな」

(゚ 。;川「歪みありまくりでしょうに……」

途端、テープの早送りの様に光景が移り変って行った。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:06:00.47 ID:Bxt+vv63O
****

ブーンは保健室で寝転ぶハインの懐に顔を埋める形で元の世界に戻った。
殴られたのは言うまでもなく、今日という日は最高の厄日になった。
伊藤に拳骨を貰ったのか、キューは氷嚢で頭を冷やしていた。

o川*゚―゚)o「か弱い娘を本気でぶつなんてどうかしてるよ…」

トイレで放置されたままのドクオは忘れた事にし、ブーン達は学校をあとにする。
外はすっかり日が沈んでおり、夜空には星々がその姿を現していた。
大通りに出たブーンが排気ガスに巻かれながら思うのは伊藤の事だ。

( ^ω^)(……悪い人ではなかったお)

本来は大人しく、近しい者には気さくに話し掛ける人物なのだろう。
今の自分にほんの少し焦りを感じて今回の事件を起こしたのだ。
もっと話をしたかったブーンだが、伊藤は名札を裂かれ成仏してしまった。

川 ゚ -゚)「いやー、真の力を発揮したようだな。記憶は無いが」

では、トイレでの事は無我夢中でやった物なのだろうか。
しかし、伊藤が居ない今となっては、どうでも良い事だった。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:07:37.99 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「ただいまだお……」

死神が管理をしている曰く付きのマンションの666号室。

ブーンは疲れきった表情で居間へと足を踏み入れた。
そう言えば、乗り気じゃないという理由でツンは助けに来なかった。
文句でも言ってやろうとブーンは椅子に座るツンに近付く、が。

ξ#゚ ゚)ξ イライラ。

( ^ω^)(うわっ…………)

ツンはハサミの持ち手に指を通してくるくると回転させている。
目を吊り上げて怒るツンの前には、冷めてしまった料理が並べられていた。
触らぬ悪霊に祟りなし。ブーンは逃げるように自室へ向かおうとする。

ξ#゚ ゚)ξ「ブーン」

( ^ω^)「は、はひぃ!?」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:08:57.26 ID:Bxt+vv63O
だが、そんなブーンをツンが低い声で呼び止めた。
心臓が飛び出そうになる程驚いて、ブーンは恐る恐る顔を動かせた。

( ^ω^)「な、何でしょうかお」

ξ゚ ゚)ξ「………お疲れさま」

( ^ω^)「お?」

怒鳴られるかと思いきや、ツンは落ち着いた優しい声で労ったのだった。
全く女心を理解出来ないブーンはツンへと近付こうとする。

( ^ω^)「ツン」

しかし、そんなブーンの行動をあるモノが強制的に止めた。

(;^ω^)「めっさ腹Iteeeeeeeeeeeeeeeee!!」

腹痛だ。刺すような痛みがブーンの腹を襲ったのだった。
ブーンは騒々しく駆け足で居間から出て行った。

ツンが持つハサミの刃先が血で塗れている事など知る由も無く。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:10:57.63 ID:Bxt+vv63O
(;^ω^)「やばいやばいやばいやばい」

今日一番の危機をブーンは感じていた。
ブーンにとって悪霊の恐怖よりも便意のソレの方が勝る。
玄関の側にあるトイレに着くと急いで扉を開いた。

(;^ω^)「…うおおおおおおおおお!?」

すると、中からモップがブーン目掛けて倒れて来たのだ。
ブーンは大袈裟に横へと飛び退いてソレをやり過ごした。
開けると自動的に倒れる仕掛け。ほんの少し危なかった、便意的な意味で。

('、`*川「良いトイレだな。貸して貰ってるぞ」

(;^ω^)「い、伊藤さん?」

('、`*川「よ」

トイレの中には便座に座り、女性向け週刊誌を読む伊藤の姿があった。

(;^ω^)「じょ、成仏したんじゃないのかお」



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:12:31.79 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「最近の悪霊は名札を壊されたくらいで成仏するの? 貧弱貧弱ぅ」

(;^ω^)「ですかお」

週刊誌を閉じて、伊藤ブーンの顔をマジマジと眺めた。
そして、焦燥感に満ちたブーンの表情を確認すると笑みを浮かべた。

('ー`*川「青い顔して、今になって恐くなって来たの?」

(;^ω^)「うんこしたいお!」

('、`;川「……あ、そう」

それなら仕方ない、と伊藤は立ち上がり廊下へと出た。
すれ違い様、伊藤が呟いた言葉に頭を悩ませながらブーンは座った。

『これからはノック必須だよ』



つづく。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:14:09.55 ID:Bxt+vv63O



今回のあとがき。


百回やってもリンセイEXがクリア出来ない。



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