( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:38:19.29 ID:Bxt+vv63O
階段を昇りきり、三階の廊下に着くとブーンは絶句した。
所々木造の廊下に穴が開き、二階部分が丸見えとなっている。
疲労困憊のブーンに、もっと走りたまえと校舎の悪霊は告げる。

(#^ω^)「明日は絶対にゆっくり寝てやるお…」

意を決して走り出すと、ブーンの手からクーの手がするりと抜けた。
チラリと見るとクーは床に視線を落として立ち尽くしている。
クーの背後では口を大きく裂いて嗤う悪霊の影が迫っていた。

(#^ω^)「早く来るお!!」

川  - )「先に行け」

臆病なクーには絶対に考えられない凛とした声で、そう言った。
そして、クッと顎を上げた彼女の顔はまるで別人だった。

川   ) 「この私が三下悪霊に負けると思ったか? 馬鹿なのか?」

( ^ω^)「クー……なのかお?」

またも強がりなのかと思いきや、クーに臆している様子は全く無い。
人型の影は、人型の原型を留めていない影に勝てるだろうか。
ブーンはこの場をクーに任せて駆け出した。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:39:41.36 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)(あの口調どっかで聞いたような…)

廊下に開いた穴は跳躍不可能な場所も見受けられたが、
ブーンが近付くと、不完全にだが塞がっていった。
彼に憑く者達が、味方してくれているのだ。完全に塞がないのは悪戯心。

(;^ω^)「うー、トイレトイレ……っと」

突き当たりの右側にあった女子トイレにブーンはホイホイと入った。
鼻を突くアンモニア臭、そしてそれに鉄の錆びた臭い混じっている。
奥から三番目の扉は開けっ広げになっていた。

( ^ω^)「お邪魔しますおー」

中は凄惨を極めていた。
壁中に血が飛び散り、床には白骨化した生徒が横たわっている。
赤いスカート、白いブラウスが刃物で切り裂かれている。

そして、ブラウスには黄色い名札が付けられていた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:40:39.32 ID:Bxt+vv63O
( ‐ω‐)(…ちょっと失礼しますお)

ブーンは目を閉じて手を合わせてから名札を外した。
長い月日が経過して脆くなっているのか、名札は容易く千切られる。

こうして、名札が壊され、伊藤が持つ全ての力が失われる。




「ねぇ、何してんの」



筈だった。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:42:21.59 ID:Bxt+vv63O
背後で地獄からの呼び声が聞こえた。
闇へと連れ去る魔性の気配がブーンの直ぐ後ろに居る。

( ^ω^)「あれれー、伊藤さんこれで終わりじゃないのかお」

(゚ 。*川「そうね、力の半分は持っていかれた感じ」

ブーンが振り向くと、骨が浮き出る程に痩せ細った伊藤が居た。
ブラウスは無惨にも鋭利な何かでボロボロに引き裂かれている。
モップの先に付いている雑巾からは、黒い霧が発せられいる。

(゚ 。*川「私は馬鹿で馬鹿で馬鹿で、だから目立てないんだ」

吐き出すように呟く伊藤の言葉は理解し難くなっていた。
細い腕をだらしなく垂れ下げ、長身の伊藤がブーンの顔を覗き込む。

(゚ 。*川「ああ、コロスってイったでしょ。
      私は消えそうで怖いから目立ちたいんだって」

( ^ω^)「人間を無差別に襲う悪霊が出る映画なんて見たくねーお」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:44:07.74 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。*川「あはハ。面白い事言うじゃん。
     でも、B級ホラー映画もたまには良いモンだ、……よ!」

声を張り上げ、伊藤は凶器と化したモップを振り上げた。
伊藤が持つ全霊力が集まり、あちこちから物が壊れる音が響く。
そして、咆哮し、ブーンの頭目掛けてモップが振り下ろされる。

―――コン、コン、コン。

その時、トイレにノックの音が三度、鳴り響いた。
それに従い、伊藤はモップを振り上げたままの姿で硬直した。

(゚ 。;川(……)

今の音は伊藤が生きて来た長い歴史の中で、何千、何万回と響いたモノだ。
トイレの壁をブーンが三回ノックしたのであった。
ゆっくりとモップを下ろし、伊藤はブーンの目前に顔を近付ける。

( ^ω^)「扉じゃなくてごめんだお。……伊藤さん、居ますかお」

(゚ 。*川「ふざけてンのか……居るわよ」



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:44:59.78 ID:Bxt+vv63O
何度も繰り返して来た問答、半ば反射的に伊藤は答えた。
それを聞いたブーンは優しい声で伊藤へと話し掛ける。

( ^ω^)「暇だから、何かして遊ぶお」

(゚ 。*川「……首絞めごっこでどうよ」

( ^ω^)「それでこそ伊藤さんだお」

(゚ 。*川(…)

( ^ω^)「でも、僕がしたいのは」



「成仏ごっこ」



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:46:29.63 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。;川「な!?」

伊藤がその声に気が付いた時には全てが手遅れだった。
本来ある筈の無い手が、彼女の左胸に生えていたのだ。
その手は黄色い名札を鷲掴みにし、元の場所へと戻って行く。

( ^ω^)「待てお、いくら何でもそれはやりすぎだ」

(゚ 。;川「く……あ………」

モップが手から離れ、伊藤は床に膝を着いて崩れ落ちた。
横たわり、伊藤が自身を貫いた者へと視線を泳がせる。

(゚ 。;川「そ、そんな馬鹿な……」


川  - )(……)

完全にノーマークだった無名の悪霊に膝を着かされた。
伊藤は顔を歪ませて立ち上がろうとするが、クーの手を見て力を失った。
見せ付けるように、クーが名札を指先で掴んでいたのだ。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:47:57.06 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「…そっちの名札も壊さなくちゃいけなかったのかお」

(゚ 。*川「………この私が一介の悪霊に、かよ」

自嘲気味に言い、伊藤は上半身を起こして壁に背中を預けた。
ブーンは屈んで戦意を失った伊藤の肩に腕を回した。

( ^ω^)「B級ホラーはたまにだから良いんだお」

(゚ 。*川「…は、アンタ全国のB級ファンを敵に回したぞ」

( ^ω^)「違いないお」

ブーンの顔が笑顔になり、伊藤もそれに釣られて控えめに笑う。
そうしている間に、伊藤の胸の傷がみるみる内に塞がって行く。
悪霊は成仏しない限り、絶対にその永遠の命を落とす事はない。

(゚ 。*川「…やっぱ、トイレで地味なまま永遠を過ごすしかないのかねぇ」

伊藤は暗い天井を仰いでか細い声で呟いた。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:52:22.31 ID:Bxt+vv63O
一生目立つ事なく、トイレの大人しい悪霊として生きる。
そして、いつの日か人々の記憶から消えてしまうのかもしれない。
ブーンは悲痛な面持ちの伊藤の顔を覗き込んで囁き掛けた。

( ^ω^)「でも、最後のはちょっと恐かったお。
       夜中にトイレ行けなくなるかも分からんね」

と、賛辞を送るブーンたが、恐怖など微塵も感じていなかった。
伊藤の背後にクーが控えていた事を知っていたからだ。
ブーンが臆病な性格では無いと気付いている伊藤はせせら笑う。

(゚ 。*川「…………嘘吐け」

( ^ω^)「いやいや、本当本当」

そう言い繕い、傷が完全に塞がったのを見て伊藤を立ち上がらせた。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:56:07.53 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「僕は今のままの伊藤さんが好きだお」

(゚ 。*川「嬉しいけど、諦めるつもりは全くないよ」

( ^ω^)「お」

(゚ 。*川「……けど、力はあっても技術が足りない事が分かったわ」

伊藤の力は世界に無数に居る悪霊の中で最も強い部類に入るだろう。
しかし、長く外を知らず生きて来た為、知識という物が無かった。
それを悟った伊藤は凛とした表情、強い口調で決意を口にした。

(゚ 。*川「私は学校を捨てる」

( ^ω^)「そんな」

それでは学校の怪談という世界から伊藤は姿を消してしまう。
小さな頃に本で伊藤を知ったブーンは残念に思った。
しかし、ブーンの視線を余所に伊藤は次のように言ったのだった。

(゚ 。*川「…でも、"トイレの"は捨てない。此処まで来たらステータスだわ」



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 01:59:13.13 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「お! じゃあ、伊藤さんは」

(゚ 。*川「"トイレの伊藤さん"の名を遥か未来にまで残してやるわ」

それを聞いたブーンの表情は晴れやかな物になった。
トイレという限定された場所で出来る悪戯を模索すると言う。
クーと同じく、伊藤も、彼女のやり方で誰からも恐れられる悪霊を目指すのだ。

( ^ω^)「おっお、それなら僕の部屋のトイレを使うと良いお」

(゚ 。*川「私は洋式しか許さないわよ」

( ^ω^)「勿論。便座が暖かいウォシュレットだお。
       …時々、便座から手が伸びて来るけど」

(゚ 。*川「霊気に満ちたトイレ、めっちゃ私向けだわね」

こうして円満に事件は解決して和やかなムードとなった。
一通り会話を終え、後は伊藤に元の世界へと返して貰うだけだ。

( ^ω^)「クー、名札を返してあげるお」



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:01:07.67 ID:Bxt+vv63O
(゚ 。*川「…にしても、ただの小娘だと思ってたら」

( ^ω^)「そうだお。クー、見直したお」

川  - )(…)

二人がクーを褒め称えるが、当の本人は呆然として聞いていないようだ。
クーの白く濁った眼には仲良さそうに寄り添う二人が映っている。
何時までも黙りこくるクーに、二人は視線を合わせて不可解な顔をする。

( ^ω^)「クー?」

川  - )「ブーン」

( ^ω^)「お、やっと喋ったお」



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:03:06.47 ID:Bxt+vv63O
クーは名札を高く放り投げた。
名札は床に向かってひらひらと舞い落ちていく。

(゚ 。;川「おいおい、まさか」

( ^ω^)「空気読めお」

伊藤は阻止しようと急いでブーンから離れた。
しかし、それよりもクーの手捌きは速く。

川 ゚ ゚)「―――死ねば良かったのに」

黄色い名札は鮮やかに切り裂かれてしまった。
細かく分割された伊藤の力の源が床に落ちる。

( ^ω^)「悪霊のする事って歪みねえな」

(゚ 。;川「歪みありまくりでしょうに……」

途端、テープの早送りの様に光景が移り変って行った。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:06:00.47 ID:Bxt+vv63O
****

ブーンは保健室で寝転ぶハインの懐に顔を埋める形で元の世界に戻った。
殴られたのは言うまでもなく、今日という日は最高の厄日になった。
伊藤に拳骨を貰ったのか、キューは氷嚢で頭を冷やしていた。

o川*゚―゚)o「か弱い娘を本気でぶつなんてどうかしてるよ…」

トイレで放置されたままのドクオは忘れた事にし、ブーン達は学校をあとにする。
外はすっかり日が沈んでおり、夜空には星々がその姿を現していた。
大通りに出たブーンが排気ガスに巻かれながら思うのは伊藤の事だ。

( ^ω^)(……悪い人ではなかったお)

本来は大人しく、近しい者には気さくに話し掛ける人物なのだろう。
今の自分にほんの少し焦りを感じて今回の事件を起こしたのだ。
もっと話をしたかったブーンだが、伊藤は名札を裂かれ成仏してしまった。

川 ゚ -゚)「いやー、真の力を発揮したようだな。記憶は無いが」

では、トイレでの事は無我夢中でやった物なのだろうか。
しかし、伊藤が居ない今となっては、どうでも良い事だった。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:07:37.99 ID:Bxt+vv63O
( ^ω^)「ただいまだお……」

死神が管理をしている曰く付きのマンションの666号室。

ブーンは疲れきった表情で居間へと足を踏み入れた。
そう言えば、乗り気じゃないという理由でツンは助けに来なかった。
文句でも言ってやろうとブーンは椅子に座るツンに近付く、が。

ξ#゚ ゚)ξ イライラ。

( ^ω^)(うわっ…………)

ツンはハサミの持ち手に指を通してくるくると回転させている。
目を吊り上げて怒るツンの前には、冷めてしまった料理が並べられていた。
触らぬ悪霊に祟りなし。ブーンは逃げるように自室へ向かおうとする。

ξ#゚ ゚)ξ「ブーン」

( ^ω^)「は、はひぃ!?」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:08:57.26 ID:Bxt+vv63O
だが、そんなブーンをツンが低い声で呼び止めた。
心臓が飛び出そうになる程驚いて、ブーンは恐る恐る顔を動かせた。

( ^ω^)「な、何でしょうかお」

ξ゚ ゚)ξ「………お疲れさま」

( ^ω^)「お?」

怒鳴られるかと思いきや、ツンは落ち着いた優しい声で労ったのだった。
全く女心を理解出来ないブーンはツンへと近付こうとする。

( ^ω^)「ツン」

しかし、そんなブーンの行動をあるモノが強制的に止めた。

(;^ω^)「めっさ腹Iteeeeeeeeeeeeeeeee!!」

腹痛だ。刺すような痛みがブーンの腹を襲ったのだった。
ブーンは騒々しく駆け足で居間から出て行った。

ツンが持つハサミの刃先が血で塗れている事など知る由も無く。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:10:57.63 ID:Bxt+vv63O
(;^ω^)「やばいやばいやばいやばい」

今日一番の危機をブーンは感じていた。
ブーンにとって悪霊の恐怖よりも便意のソレの方が勝る。
玄関の側にあるトイレに着くと急いで扉を開いた。

(;^ω^)「…うおおおおおおおおお!?」

すると、中からモップがブーン目掛けて倒れて来たのだ。
ブーンは大袈裟に横へと飛び退いてソレをやり過ごした。
開けると自動的に倒れる仕掛け。ほんの少し危なかった、便意的な意味で。

('、`*川「良いトイレだな。貸して貰ってるぞ」

(;^ω^)「い、伊藤さん?」

('、`*川「よ」

トイレの中には便座に座り、女性向け週刊誌を読む伊藤の姿があった。

(;^ω^)「じょ、成仏したんじゃないのかお」



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:12:31.79 ID:Bxt+vv63O
('、`*川「最近の悪霊は名札を壊されたくらいで成仏するの? 貧弱貧弱ぅ」

(;^ω^)「ですかお」

週刊誌を閉じて、伊藤ブーンの顔をマジマジと眺めた。
そして、焦燥感に満ちたブーンの表情を確認すると笑みを浮かべた。

('ー`*川「青い顔して、今になって恐くなって来たの?」

(;^ω^)「うんこしたいお!」

('、`;川「……あ、そう」

それなら仕方ない、と伊藤は立ち上がり廊下へと出た。
すれ違い様、伊藤が呟いた言葉に頭を悩ませながらブーンは座った。

『これからはノック必須だよ』



つづく。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/06/29(日) 02:14:09.55 ID:Bxt+vv63O



今回のあとがき。


百回やってもリンセイEXがクリア出来ない。



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