( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:11:46.57 ID:QXk/wGbCO
 少女は、窓辺に座り、青空を見上げながら缶コーヒーを飲んでいる。
 遠くからは微かに蝉の声、昨日よりは涼しく感じる七月の十六日。
 空になった缶を畳に置き、色褪せた日捲りカレンダーに目を遣った。

  「七月、十七日」  

 最近、道を見下ろすと、変わった男性を目にする事がある。
 にこやかな男性。雰囲気から察するに大学生のようだ。
 …それは別にどうでも良い。男性の背後に居る者達が面白いのだ。

  「あ、また、来た」  

 男性の背後には明らかに人間では無い存在が憑きまとっている。
 飛頭蛮、くねくね、マスク……特に口裂け女と仲が良いらしく、
 口裂け女と楽し気に会話をしている男性の姿をよく見掛ける。

 そして、何故かは知らないが、男性は悪霊達を全く恐がっていない。

 あの仲間の輪に入るのも良いかも、と愚かな事を思ったりもするが、
 少女の目的は友人を作る事では無く……………。

  「んー」

 他の幽霊さん達は、どんな風に憑いているのだろうか。
 男性に憑く事に決め、少女は、少女なりの憑き方を考え始める。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:13:01.45 ID:QXk/wGbCO



第六話「星降る夜に私を想うということ」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:14:28.68 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「……クーはゾンビにでも転職したのかお」

茹だるような暑さの中、ブーンが大学から帰り、居間に入ると、
描写を拒否したくなる外見となったクーが椅子に座っていた。

川メメメメメ゚ -゚)「人面犬と勝負をしてね。退けたが、中々手強かった」

从 ゚∀从(メメメメメ)

クーは誰もが恐れを抱く大悪霊になる為、日夜、修行に励んでいる。
今日は近所に住む、人面犬に挑戦状を叩き付けたらしい。

( ^ω^)「人面犬ってでかいのかお?」

川メメメメメ゚ -゚)「いや、小型犬くらいの大きさだな」

小型犬を相手に、どうやったらその様な傷を付ける事が出来るのか。
眉を潜めるブーンに、椅子に腰掛けて漫画を読むハインが説明する。

从 ゚∀从「人面犬が威嚇→クー逃げだす→首無しライダーに撥ね飛ばされる」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:15:57.98 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「待て、最後のは大事じゃないか」

首無しライダーと言えば、中型のバイクに乗っているイメージだ。
そのような物に轢かれれば、誤って成仏してしまうかも知れない。

从 ゚∀从「いや、相手自転車だったし」

( ^ω^)「自転車!」

健康的な悪霊も居るモノだ。それよりも治療費は……いらないか。
ブーンは鞄を床に無造作に放り投げて、クーの隣の席に腰掛けた。

川メメメメメ゚ -゚)「ハイン、嘘はそこまでだ。私は立派に戦っただろ」

从 ゚∀从「ああ、両手を上げて立派に逃げたな!」

川メメメメメ゚ -゚)「貴様!」

自尊心を傷付けられ、クーはハインに食って掛かろうとした。
しかし、身体があちこち痛むのか、ゆっくりと椅子に座り直す。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:17:11.52 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「……クーは傷の治りが遅いお」

満身創痍のクーを横目で見遣り、ブーンがふと口を開いた。
伊藤は胸を貫かれたにも関わらず、あっという間に傷口が塞がった。
体質の違いだろうか。ハインは漫画を読み終え、テーブルに置いた。

从 ゚∀从「治癒の速度は力の強さに比例するんだぜ」

つまり、知名度が高く強い悪霊程、中々倒れないという事である。
誰もが知る大悪霊が簡単に討たれてしまえば笑い話にもならない。
ブーンは首を動かせて、落ち込んだ表情のクーの横顔を眺める。

川メメメメ゚ -゚)


( ^ω^)(やっと"メ"が一つ消えたーーーーーーーーー!!)

だがこれ以上、クーを会話のネタにするのは可哀想だと思い、
ブーンは一度だけ頭を掻いて、無理矢理に話題を変える事にした。

( ^ω^)「――――ドヴァ帝国について話そうか」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:19:59.08 ID:QXk/wGbCO
从 ゚∀从「あん? ド……何だそりゃ」

( ^ω^)(しまった)

从 ゚∀从「何処の国の話だよ」

何の考えも無しに話題を逸らそうとした結果がこれなのだ。
妙な話題を振ってしまった。ブーンは再度、話を変えようとする、が。

川メメメメ゚ -゚)「ドヴァ帝国、ルーフレンテが統治する架空の国だな」

( ^ω^)「……え?」

从 ゚∀从「架空? どういうこった?」

ブーンが口走ったマニアックなネタに、意外にもクーが食い付いた。
もしかして、クーも某掲示板住人でそう言った話が好きなのか。
口にしそうになるブーンだが、途中で考え直し、言葉を飲み込んだ。

( ^ω^)(クーはインターネット生まれだったお)

クーは縦読みコピペから生じた存在、ネットのネタに詳しいのだろう。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:21:39.78 ID:QXk/wGbCO
川メメメ゚ -゚)「インターネットに晒された架空の国の物語だ」

( ^ω^)「…クー、VIP大魔法言えるかお?」

川メメメ゚ -゚)「勿論だとも。…ル・ラーダ・フォルオル、フレグランス・ド・フラワー」

( ^ω^)「ディアボリック・デスバースト(死魔殺炎烈光)」

( ^ω^)「―――エターナルフォースブリザード!!」(゚- ゚メメメ川

从;゚∀从「は?????」

軽々とVIP四大魔法を唱えきった二人の前にハインはたじろいだ。
途端にみなぎり始めたブーンとクーを、ハインが呆然と眺める。

从;゚Д从「……俺、こういう時、どんな顔すれば良いか分かんね」

( ^ω^)「マホカンタを唱えれば良いと思うお」

マホカンタという物は知っているが、一体何故それが出て来たのだ。
ハインは二人の話について行けなくなり、白旗を上げてしまった。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:23:28.84 ID:QXk/wGbCO
从;-∀从「これだからパソコンってのは理解出来ん……」

ハインは言うが、これらは特に覚える必要が無い知識である。
と言うよりも、覚えた所で学校や会社で使える代物ではない。
黒歴史の痛みを分かち合うのはVIPに棲まう者達だけで充分なのだ。

そう、私達だけで充分なのだ…………。

( ^ω^)「おっお、クーは詳しいお」

川メメメ゚ -゚)「うむ。インターネットでの出来事は大体覚えている」

川メメメ゚ -゚)「……!」

此処でクーは何やら閃き、椅子を転がす勢いで立ち上がった。
両手をテーブルの上に置きながらクーは虚空を見つめている。

川メメメ゚ -゚)(インターネット上の知識は悪戯に使えるのでは)

インターネットには人間を恐怖に誘うネタが方方に転がっている。
それらに詳しい長所を活かしたヤり方を思い付きそうになったのだ。
パソコンを借りると告げ、クーはブーンの部屋に走り去って行った。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:25:01.02 ID:QXk/wGbCO
从 ゚∀从「何だ、アイツ」

( ^ω^)(秘蔵フォルダは覗くなお)

その時、玄関の方からガチャリと扉が開く音が聞こえた。
スーパーに買い物(?)に行っていたツンが帰って来たのだろう。
ハインはニヒヒと悪戯ぽく微笑んで、ブーンを囃し立てる。

从 ゚∀从「嫁さんが帰って来たようだぜ。出迎えてやらねぇか」

( ^ω^)「だーれが嫁さんだお」

从*゚ω从「ツンが。毎晩毎晩、変な事してんじゃねーよ」

(#^ω^)「してないお! ツンはただの友達だお!」

とは言ったが、ツンは毎日食事を作ってくれる大切な存在である。
仕方無く、ブーンは椅子から腰を上げて玄関に向かった。

从 ゚∀从「ツンデレめ」

从 ゚∀从(……クーにパソコンを教えて貰うか)

…悪霊にも時代最先端の知識は必要だろう。
ハインは壁をすり抜けてブーンの部屋へと消えて行った。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:26:41.68 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「おかえりだお」

ξ゚ ゚)ξ「あら、出迎えだなんて珍しい。ただいま」

( ^ω^)「し、仕方無くなんだお。かかか、勘違いすんなお」

ξ゚ ゚)ξ「?」

ブーンは吃って言い、ツンが提げているカバンを持ってあげた。
カバンはズシリと重く、中には大量の食材が入っている。
玄関で靴を脱ぐツンの手をそっと握り、ブーンが支える。

何故、この二人が恋人関係では無いのか、不思議である。

ξ゚ ゚)ξ「あ、そうだ。ブーンにお客さんが来てるわよ」

靴を脱ぎ終えたツンがブーンに顔を上げて言った。
客、人間が苦手なブーンの表情が険しい物になって行く。
ブーンの様子を見て、ツンが優しい声でなだめる。

ξ゚ ゚)ξ「大丈夫よ、人間の方じゃないお客さんだから」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:28:12.59 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「それなら安心だお!」

霊の客と聞いて表情を和らげるブーンはどうかしている。
ツンが扉の外に待たせている客人に呼び掛け、招き入れる。

ξ゚ ゚)ξ「良いんだってさ、入って頂戴な」

すると、扉の音を一切立てず、玄関に一人の少女が姿を現した。
扉をすり抜けた。少女が人間以外の存在である証明だ。

(゚、゚トソン「こんにちは」

( ^ω^)「こん…にちは?」

客と聞かされ、知人だと思っていたが、全く面識が無い少女だった。
部屋に訪れた少女は、ブーンの年齢とそう変わら無さそうだ。
飾り気の無い服装をし、人の良さそうな顔付きをしている。

首に自殺に用いそうなロープを通している事以外は、至って普通だ。

( ^ω^)「あの、僕に何か御用ですかお?」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:30:02.99 ID:QXk/wGbCO
少女は落ち着いた物腰でブーンに突然訪れた理由を話す。

(゚、゚トソン「貴方に憑きに来たんです」

( ^ω^)「新鮮だ」

ブーンは吃驚した。
無茶苦茶な憑き方をする悪霊の中にも律儀な悪霊が居る物だ、と。
少女は思い出したようにブーンへとビニール袋を差し出した。

(゚、゚トソン「これ…お近づきのしるしに…どうぞ」

( ^ω^)「なん……だと……?」

此処まで丁寧な憑き方をする悪霊は、生まれてこの方初めてだ。
感動に打ち震えながら、ブーンは少女からビニール袋を受け取った。
カバンよりも重い、チラリと中を覗けば大量の茶色い缶が見えた。

( ^ω^)「缶コーヒーかお」

(゚、゚トソン「……お二人って本当に仲が良いんですね」

ブーンとツンは、繋いだままだった手を急いで離した。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:32:06.05 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「汚い部屋だけど、どうぞだお」

ξ#゚ ゚)ξ「全然掃除をしないアンタが言うな」

(゚、゚トソン「お邪魔します」

ブーンは少女に好印象を抱き、居間へと招き入れる事にした。
少女に椅子に座るよう促し、ブーンは缶コーヒーを冷蔵庫に詰め始める。
冷蔵庫の冷気に当てられている中、ふと、思い出した事があった。

( ^ω^)「何で憑いたんだお? ……殺す為に決まってるか」

悪霊のほとんどはヤる為に憑く。ショボンの様な例外も居るが。
暫しの沈黙の後、背後から聞こえて来た声がブーンの腕を止めた。

(゚、゚トソン「いいえ、成仏がしたいんです」

憑き殺しに来たのではなく、少女は成仏がしたくて憑いたらしい。
成仏を求めて憑いた悪霊も生まれてこの方、初めてだった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:34:06.59 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「成仏って……一体何故?」

ブーンは冷蔵庫を閉じ、少女に振り向いて問い掛けてみた。
すると、少女は俯き加減に蚊の鳴くような小さな声で口を開た。

(-、-トソン「何だか、幽霊として生きるのに疲れたんですよ」

少女は顔を上げ、ブーンを真っ直ぐに見て今度は力強い声で言う。

(゚、゚トソン「私は、もう一度、人間として生きたい」

以前、ツンが悪霊にも色々居るという事を言っていた気がする。
本当に色々居るようだ。無数に存在する人間と同じように。

(゚、゚トソン「どうやって成仏しようか街中で考え込んでいる時に、
     口裂け女さんに出会って、良い人が居ると教えて貰いました」

ξ゚ ゚)ξ「ツンよ」

台所でコーヒーメーカーで珈琲を淹れているツンが言った。
少女はツンに向け、笑顔で小さく頭を下げる。本当に律儀なようだ。
ブーンは少女の前に座り、テーブルに手を置いて自己紹介を始める。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:36:39.32 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「僕は内藤ホライゾン。あだ名のブーンで良いお」

(゚、゚トソン「発音に苦しむあだ名ですね」

( ^ω^)「……誰かにも言われたような。君の名前は?」

(゚、゚トソン「私は都村トソンと言います。そこら辺に居る陳腐な幽霊です」

( ^ω^)「おk。これからはトソンって呼ぶお」

トソンは深々とお辞儀をし、首を少しだけ傾けてはにかんだ。
こんなにも悪意の無い相手が今までに居た事があっただろうか。
ブーンの脳内でトソンへの好感度が、グングンと急上昇していく。

( ^ω^)(やべ、伝説の木の下で告白したくなって来た)

告白は冗談ではあるが、トソンは見掛け通りに気の良い人物だった。
照れて頬を掻くブーンに、トソンが胸元に片手を置いて語り掛ける。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:39:29.28 ID:QXk/wGbCO
(゚、゚トソン「ツンさんに聞けば、ブーンさんは霊を恐がらないそうじゃないですか」

( ^ω^)「まぁ、千に近い数に憑かれたら、それは」

(゚、゚トソン「千。いやぁ、凄まじい人なんですね」

( ^ω^)(凄まじい人……)

この場の雰囲気に慣れて来たのか、トソンの表情がほぐれて来た。
トソンは胸の前で両手を合わせて、立て板に水が流れる様に話す。

(゚、゚トソン「悪霊を恐がらないブーンさんに成仏を頼みたいんです。
     普通の人間に頼んだら絶対に逃げ出してしまいますし。
     …悪霊に持ち掛けたって、勿論無理じゃないですか」

( ^ω^)「お」

素直な物言いをするトソンに対して、ブーンは気を許した。
ブーンは、トソンの奇妙な依頼を引き受ける事にする。

( ^ω^)「何時になるか分からんけど、成仏させてあげるお」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:41:56.91 ID:QXk/wGbCO
(゚、゚*トソン「本当ですか!? 有り難う御座います!!」

( ^ω^)「まぁ、僕なりに頑張ってみるお」

ξ- -)ξ「安請け合いして…。どうなっても知らないわよ」

二人が会話をしていると、ツンがトレイを持ってやって来た。
ツンが珈琲をテーブルに置くと、香ばしい匂いが居間に漂った。
トソンはカップを手に取り、鼻先へと近付けてから口の中に含む。

(゚、゚トソン「イーストコ。ツンさんは珈琲がお好きなんですか」

カップを口から離すと、二、三度何やら顎を動かせてから言った。
トソンの言葉にツンは驚いたようで少々声を上擦らせて問う。

ξ゚ ゚)ξ「! 利き珈琲が出来るの?」

(゚、゚トソン「珈琲が好きなので。サンマリノと迷いましたが」

ξ゚ ゚)ξ「……凄い。当たってるわよ」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:46:14.99 ID:QXk/wGbCO
珈琲なんて飲めれば良いや、と思うブーンには二人の会話は意味不明だ。
因みに、イーストコとサンマリノは味も香りも似て、判別し難い。
ブーンは珈琲談義に花を咲かせる二人に、冷たい視線を送りながら珈琲を啜った。

( ^ω^)(飲めれば良いじゃん!)

( ^ω^)「あ、そう言えば、成仏の方法はどんなだお?」

ブーンはカップを置いて二人の会話に割って入った。
折角、楽しく話をしていた所に水を差され、ツンが目尻を吊り上げる。
ツンからブーンに視線を戻し、トソンは力無く肩を落として言う。

(゚、゚トソン「……それが、よく分からないんです」

( ^ω^)「パードン?」

伊藤の時みたいに力技か、それとも除霊術の類いが必要なのか。
どちらにしろ、分からないのであれば、成仏は難航を極めてしまう。
だが、トソンは成仏を諦めていないようで、一度短く言う。

(゚、゚トソン「明日」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:48:27.49 ID:QXk/wGbCO
( ^ω^)「明日?」

ブーンが聞くと、トソンはハッキリとした口調で言った。

(゚、゚トソン「明日、一緒に方法を調べて頂けませんか?
     私が住む部屋…近所なんですが、ヒントがあるかも知れません」

( ^ω^)「どうせ大学に友達居ないから…おっと。夕方からなら良いお」

トソンは微笑んで、カップを手に持って珈琲を飲み始める。
とその時、ブーン家の問題児、ハインとクーが居間に入って来た。
そう言えば、ハインの姿が無くなっていたが、クーと一緒に居たのか。

从 ゚∀从「クーに聞いて、ちょっとはパソコンが分かって来たぜ」

川メメ゚ -゚)「それは良いが、他人のファイルを勝手に消すのはやめろ」

从 ゚д从「だって"秘蔵"って書かれてるとサァ……」

(#^ω^)「ハインコルアアアアアア!!」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:50:14.75 ID:QXk/wGbCO
(゚、゚;トソン「わ」

ブーンの突然の怒鳴り声に驚き、トソンはカップを落としてしまった。
フローリングに破片が散らばり、黒い液体が汚して行く。
突然の音に、居間に居る者達全員の視線がトソンに集中する。

(゚、゚;トソン「ご、ごめんなさい」

ξ゚ ゚)ξ「良いのよ。雑巾を持って来るから、そのままにして」

ツンが言うが、トソンが慌てた様子で散らばった破片を拾い上げる。
すると、トソンは小さく声を漏らした。破片で指を切ったらしい。
指先に流れる少量の血。…それが一瞬にして消え去ってしまった。

( ^ω^)(……)

ブーンはハインへの怒りを忘れ、トソンの指をジッと見つめている。
クーよりも治癒が速い陳腐な幽霊は、掃除をするツンに謝り続ける。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:52:19.12 ID:QXk/wGbCO
****

ちょっとした騒動の後、ハインとクーにトソンを紹介した。
最初は怖がっていたクーだが、トソンの柔らかい物腰に打ち解けた。
ハインは弱そうな幽霊に興味は無いようで、何処かに遊びに行った。

今はツン、トソン、クーの三人がテーブルを囲んで談話している。
ブーンはその側でソファーに座り、テレビを見ながら考えている。

( ^ω^)(……力が強ければ傷の治りが速い、かお)

ブーンはトソンの言葉を信じて彼女が普通の幽霊だと思っていた。
しかし、一瞬にして指の傷が血ごと完全に消えてしまったのだ。
伊藤に聞けば、それだけの治癒速度は相当なモノとのこと。

ブーンはゆっくりと視線を動かし、白濁とした目の少女を眺める。

川メメ゚ -゚)「珈琲なんて飲めれば良いだろ」

クーの傷はまだ癒えていない。悪霊の彼女ですらあの治癒速度。
これはもしかすると、トソンは名のある悪霊なのかもしれない。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:54:22.00 ID:QXk/wGbCO
三人の会話が終わったのを見計らい、ブーンはクーを呼び止めた。
クーは振り向いて、ブーンに面倒臭そうな表情を向ける。

川メメ゚ -゚)「何だ? 私は君と違って忙しいのだよ」

そうは言うクーだが、右手にはハインから借りた漫画を持っている。
ブーンは椅子に座っているトソンに聞こえないよう、小声で言う。

( ^ω^)「ちょっと調べて欲しい事があるんだお」

川メメ゚ -゚)「私の力を借りる気か。その代償は大きいぞ」

( ^ω^)「ハーゲ○ダッツでどうだお」

川メメ゚ -゚)「ッ! …任せたまえ」

交渉が成立し、ブーンはクーを連れて居間から出て行った。
その二人の様子を珈琲を啜りながらトソンがジッと眺めていた。

(゚、゚トソン(……)

トソンは首に掛けられているロープをそっと撫でた。



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