僕らは、まるで愛国者のようです

3: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:30:02.53 ID:QZ07gCBq0
【プロローグ】

先生が僕に見せてくれたその絵は、モネの「死の床のカミーユ」という題だった覚えがある
美術館で絵画の復刻を仕事としている彼の博識さと、
天井知らずなその天真爛漫さに敬意を評して、僕は彼を先生と呼んでいた
  _、_  
( ,_ノ` )y━・~「絵に触れて共鳴し合うだけで食っていけるんだから、これは天職と呼ぶに他ならねぇな」

そう歯を見せる先生の右手の先に、「死の床のカミーユ」はあった
依頼から数週間経っている今、その絵画はほぼ本来の姿を取り戻していると言える
そうですね、と僕は珈琲が波を打って揺らすマグカップを片手に相槌を打つ
ふと腰掛けていたソファーの隣に目をやると、様々な世界観を醸し出す絵画たちが眠っていた
これら皆すべて先生自らの手で幾百年の時を経て蘇らせたものだが、
なかなかこれほど見事に絵画を蘇らせられるならば先生独自に絵画を描くことも出来るのではと
頬を緩めて訊いたことがあるが、その時先生は笑いを噛み締める様子も無く、

「俺は絵画を見る方が好きなんだ」と手を休めなかった



4: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:31:37.85 ID:QZ07gCBq0
子供の玩具の箱をひっくり返したようなその異風景から目線をカミーユに戻すと、
先生はその絵画の縁を手でなぞっているのが見える。まるで我が孫の頭を撫でる心優しい老人のようであった
  _、_  
( ,_ノ` )y━・~「なあ、お前にはこの絵の女性……どういう風に見える」

目を細めて、先生はそう口を開いた。どういう意味だろう? と僕は首を傾げたが、
両手でマグカップを覆い、その絵画を見つめる

( ・ゝ・)「……幸せそうですね」

心の内側から溢れるような幸福感に身を委ねながら、そっと目を閉じた。そんな絵画に僕は見えた
その答えに先生は微笑んで、目を閉じる
  _、_  
( ,_ノ` )y━・~「だよな。幸せそうだよな」

あの問い掛けは、もしかしたら先生は自らの死を暗示していたのではないかと未だ疑って止まない
先生の死に顔は、まさしくあのカミーユのように幸福感に満ち溢れた、静かなものだった

葬式の夜。拳銃で頭を撃ち抜かれるなんて、まるで映画みたいじゃねぇかと、棺桶の中の先生は笑っているような気がした



5: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:32:09.75 ID:QZ07gCBq0




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