僕らは、まるで愛国者のようです

10: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:34:08.73 ID:QZ07gCBq0
【1話:はじまりの銃声】

木漏れ日の差す色剥がれたベンチの上で、駅前の広場を見ていた
内藤との待ち合わせは11時だったよな、と僕は時計に目をやる。針は12時30分を刺している
遅刻なんてものではない。大遅刻だ。と僕は肩を落とし、内藤が現れたらどのようにこの罪を償わせるかと考えていた

雑踏の人混みの中、僕は首を伸ばして目を凝らし、内藤の姿を探す。見当たらない。
もしかしたら、と思った。もしかしたら内藤は待ち合わせ場所を間違えたのではないか、と僕は考える

広場の中心に、強引に停車するワゴン車が無理矢理視界に入り込んだ

二人の警官がいち早く駆けつける。警棒を片手に、ワゴン車へ注意しに向かった
警官二人は運転席の窓ガラスを二、三度ノックしている。直後、窓ガラスがおもむろに開く


 …………パァン…………パァン……。


 そんな思考の直後、平和な駅前の広場に銃声が響き渡った
 渇いた空に風穴を開けるようなその音に、誰もが足を止めた



11: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:35:27.48 ID:QZ07gCBq0
先ほどまで国家権力という十字架を背中に、もしくはそういう武器を片手に
ワゴン車に駆け寄って窓ガラスを二、三度ノックしていた警官は額から血を垂らして
カラクリ人形の様に身体を痙攣させ、やがて止まった
もう一人の警官も、胸を撃たれていた。肺の空気を全て出し尽くすと、やがてもう一人も動かなくなった
非現実的なその光景を、一昔前の白黒無声映画のように辺りの人は見ている

そして殆どの人間がその音をを銃声だと理解した後、全ての人は踵を返した
恐怖感に襲われ、広場の人々は逃げ惑う。時々女性が嘔吐する声も聞こえ、
駅前の広場は絶望と恐怖に満ち溢れていく

胸の動悸がみるみる高まった。早鐘をつくように乱れ撃ち初めた
僕は立ち上がり、そして出来るだけ冷静に、事態を把握する


………また“すぎうら教”か? 僕は、手のひらの汗をぎゅっと握り、荒れる鼓動を沈めた



12: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:36:21.54 ID:QZ07gCBq0
(;^ω^)「大丈夫かお!?」

特徴のある語尾……僕はまさかと辺りを見渡した。流れる人々の隙間から、
一瞬足を挫いた女性に手を貸す内藤の姿が見えた

( ・ゝ・)「内藤か!?」

僕は喧騒の中ひとり狼煙をあげるように、声をあげた。内藤は僕の声に気付き、
女性に肩を貸しながら立ち上がった。どうやら女性は、足を挫いたように見える

(;^ω^)「島くんかお!? 手を貸してほしいお!」

一定の方向に流れる人込みを掻き分けて、僕は内藤のもとへ向かう





      ――――「どんな死に際も、醜く取り乱すような真似はしたくねぇなぁ」――――






僕はふと立ち止まり、脳裏に聞こえたその声の主を、引き出しから探る。
誰だ。そうだ、先生だ。撃たれる直前の、先生の最後の言葉だ


僕はその時の光景を今もまだ覚えていることを確かめながら、人込みを掻き分けていく



14: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:36:41.40 ID:QZ07gCBq0
1話 完



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