僕らは、まるで愛国者のようです
- 28: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:43:26.38 ID:QZ07gCBq0
- 【3話:煙草と銃声と死に際と】
広場の中央は、血と死体と、弾丸で散乱していた。
流れ弾さえも恐れず、先生は広場の中央へと足を運ぶ。
_、_
( ,_ノ` )「おいおい、宗教ってのは神さまを信仰するもんじゃないのか?」
これじゃただのゲリラじゃねぇか。と先生が言葉を続けると、教徒たちは先生の方を見つめた。
一斉に教徒たちは先生に銃口を向け、引金に手を掛ける。思わず僕は、恐怖で足を動かすことも出来なかった
「待て!!」
その声に、一斉に教徒たちは銃口を地へ下ろした。
そしてまるで教徒たちの顔が、突然砂漠の雨を待っていたかのように希望に溢れ始めた。
僕は、この声を聞いたことがある。
いつだったか。思い出せ。絶対に聞いた。対話したことはないが、確かに僕は聞いた。
先生はこの声の主を知っているようで、ふっと頬を緩めた。
_、_
( ,_ノ` )「これはこれは、大先生の御出座しだ」
黒く光る高級車が、ワゴン車の隣に止まった
堂々たる裸婦のような威圧感を見せるその車から、一人の男が姿を現す
そうだ。僕はこの声を、5年前のテレビで聞いた。
( ФωФ)「久しぶりだな。渋沢」
- 30: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:44:22.98 ID:QZ07gCBq0
- 黒いスーツを見に纏ったその男は、すぎうら教の事件を勃発させた張本人
日本各地で指名手配され、全国の警察が血眼にして行方を追っている犯罪者
杉浦ロマネスクだった
僕はその犯罪者を目の前にしても、身動き一つとれなかった。
シューベルトの魔王のような、不思議な威圧感はあの時
テレビに出ていたときとは全く変わっていない
_、_
( ,_ノ` )「随分と良いご身分になったみてぇだな」
( ФωФ)「勘違いするな。今はもう師弟の関係ではない」
_、_
( ,_ノ` )「……ああ、なるほど」
先生は、後頭部を掻いて、空を見上げた
そして視線を杉浦へと戻し、おもむろに口を開いた
_、_
( ,_ノ` )「俺がここに来ることを知っていたな?」
察しが良いな。と杉浦は笑みを浮かべる
- 32: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:45:07.41 ID:QZ07gCBq0
- 待て。先生と杉浦は知り合いなのか?
師弟の関係ではない? つまり過去は師弟の関係だったのか?
疑問が脳裏を交差する。質問の糸がめちゃくちゃに絡まって、解けない
杉浦は懐に手を入れ、黒く光るものを取り出す。
教徒と同じ、拳銃だ。
( ФωФ)「悪いが、俺のことを知るものは皆死んでもらっているんだ」
杉浦は銃口を先生に向ける
僕は、臆病な僕は何も出来ない
_、_
( ,_ノ` )「……」
先生は、尻のポケットから煙草を取り出し、咥え、マッチで火をつけた
空を向き、先生は煙を吐く。煙は風に流れて、どこかで消えた
_、_
( ,_ノ` )「どんな死に際も、醜く取り乱すような真似はしたくねぇなぁ」
…………パァン…………。
- 35: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:45:55.53 ID:QZ07gCBq0
- 先生は、言葉通り醜く取り乱すような真似をしなかった
ただ銃口を見つめ、煙草を口に咥えながら、脳に弾丸を撃ち込まれた
死んだ
さっきまで貝殻草だとか、買い物に行くだとか、
元気に煙草の煙を吸って、吐いて、笑っていた先生が。こんなにも簡単に
僕は、自分も殺されると悟った
( ФωФ)「お前」
杉浦と、その他の教徒が同時に銃口を向ける
最早恐怖など通り越えて、死を迎える準備は出来ていた
( ФωФ)「渋沢の知り合いか」
( ・ゝ・)「……」
( ФωФ)「答えろ」
引金に指を掛けるその音さえも、鮮明に聞こえた
- 38: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:46:38.02 ID:QZ07gCBq0
- ( ・ゝ・)「……さっさと殺せ」
こうなれば、無意味に生にしがみ付いて醜く死ぬよりは
目の前の銃口を受け入れる方がいい。そう思った
だが杉浦は、銃口を下ろした。
( ФωФ)「ほう……なかなか度胸のある男だ」
( ФωФ)「どうだ? 俺らの仲間にならないか」
( ・ゝ・)「……断る」
遠く、パトカーのサイレンが聞こえた。
杉浦は舌打ちをして、教徒たちに撤退を命令した。
( ФωФ)「……また会おう。渋沢の友人」
そう言って、杉浦は高級車に乗り込み、僕の前から姿を消した。
警察が駆けつけたときには既に、先生は息をしていなかった。
先生は最後まで取り乱さず、煙草を咥えていた
- 39: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/04(水) 22:47:02.95 ID:QZ07gCBq0
- 3話 完
戻る/4話