僕らは、まるで愛国者のようです

3: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:25:06.11 ID:qSFVPKqY0
【5話:犯罪者の意図】
内藤は、足を挫いた女性を駅まで送ってから来ると僕らに伝えて、女性と共に駅へ向かった
僕らは踵を返し、喫茶店へと足を運ぶ

喫茶店のドアを開けると、やはり夕食どきであるからか店内は賑わいを見せている
この聞き覚えのあるBGMの洒落た喫茶店は、ドクオの友人が個人で経営している喫茶店だと聞いた
それにしては客足も良く、赤字の影を見せたことも無いらしい。商売上手のようだ

('A`)「窓際の席にするか」

ドクオはポケットの手を突っ込み、威風堂々と客席の間を進む
奥のテーブルを拭いていた店長、ショボンが此方に気付く

(´・ω・`)「あ、ドクオいらっしゃい」

ショボンが腰を捻ってそう挨拶をすると、ドクオは立ち止まり笑みを浮かべた
僕もそれに続き、足を止める。弱気そうなショボンの風貌に、腰に巻いたエプロン姿はまるで
家政婦だと過去にブーンたちと笑い飛ばしたことがあるが、それに大して憤りを感じたショボンは
注文したオムライスにケチャップではなくタバスコを大量に混ぜて、僕らを震撼させた、という大胆な過去を持つ
なかなか怒らせると恐ろしい、行動的な男であることを知るのは僕らだけだ

('A`)「おう、飯食わせてもらうぞ。オムライス。ケチャップの」

(´・ω・`)「タバスコは結構ですか?」

もはやお約束となっていたこのやり取りは、最早一種のジョークとなっていた
マンネリと思い出し笑いを混ぜた苦笑を浮かべながら、ショボンは僕たちを窓際の席に案内した



4: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:25:37.46 ID:qSFVPKqY0
('A`)「模倣犯だってな」

椅子に腰掛けたドクオが、唐突に言った
はて何のことかと記憶をひっくり返して、思い出す

( ・ゝ・)「うん、みたいだね」

今日、あの駅前で鉄パイプを振り回したり、拳銃を発砲した連中は
どうやらすぎうら教ではなく、一昨年のすぎうら教が先生を撃ったあの
事件を真似した模倣犯であったことが警察の捜査で明らかとなった

使用する車も、場所も、使用した拳銃も全て真似した悪質な模倣犯だ

少年達は、大きな事件を起こせば警察は全てすぎうら教の犯行であると
疑い、自分らは逃げられるのではないか、と考えた犯行らしい

無論、少年達は法によって裁かれた。軽い裁きは、下されないだろう

('A`)「はた迷惑な話だぜ本当」

( ・ゝ・)「だけど、ドクオが来てくれて本当に助かった。偶然通りかかったのか?」

('A`)「いや、駅前の本屋に用があったんだけどよ。ふと窓の外を見たら白いワゴン車を見つけて
嫌な予感がしたからバッグからトンファーを取り出し、俺参上! というわけさ」

常にトンファーは持ち歩いてるのかよ、と僕は苦笑しながら水を口に含む
ドクオは人差し指を立てて、身を乗り出した



7: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:28:24.35 ID:qSFVPKqY0
('A`)「そうそう、そういや疑問に思ってたんだけどよ」

( ・ゝ・)「ん?」

('A`)「一昨年、先生はすぎうら教に撃たれたんだよな?」

( ・ゝ・)「そうだ。今日みたいに、あの模倣犯がやったことと同じようにね」

('A`)「何でそのときお前は殺されなかったんだ?」

( ・ゝ・)「……」

確かに、それは僕も疑問だった
あのとき杉浦は「度胸のある男だ」と銃口を下ろしたが
それだけを理由に生かす意味もわからない

杉浦は自らの事を知る人間を殺していると言っていた
自らの情報が漏れることを恐れていたのだ
先生と接点がある時点で、杉浦の情報が僕に流れるということを
杉浦は想定しなかったのか?

否、想定しないわけがない



8: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:29:38.62 ID:qSFVPKqY0
つまり、杉浦は意味があって僕を生かしたのだ
だが何のために……? 僕をすぎうら教側に引き込むため?
いや、それも違う。僕はあの場ではっきりと「断る」と口にした
本当に自分側の手駒にしたいのならば、僕が勧誘を断った時点で
僕を撃ち殺していたハズだ

いや、待て。それ以上に喉に詰まることはある

( ・ゝ・)「……なんで、杉浦が直々に現れたんだ?」

('A`)「それは俺も気になっていた」

全国指名手配している杉浦が、一人の人間を始末するためだけに
わざわざ容易に姿を表したりするなんて無用心な真似をするだろうか
先生を確実に始末するために自ら手を出した?そんなこと幹部の人間や
信頼のできる部下に任せれば良いことだ

( ・ゝ・)「……一昨年の出来事は、多々疑問が残る……」

('A`)「だな」



10: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:30:14.92 ID:qSFVPKqY0
( ・ゝ・)「そして何で、あんなに人を殺す必要があったんだろう? いやいや、まず杉浦は教徒たちに何で各地で殺人や放火や強盗を重ねさせているのだろう」

('A`)「それもわかんねぇんだよなー……」

ショボンがオムライスを2つ運んできた
オツベルをも涎を垂らすような大きなオムライスはショボンの自信作だ

(´・ω・`)「……今日は色々と大変だったみたいだねぇ………」

('A`)「まぁな」

(´・ω・`)「杉浦ってアレでしょ? 最近ニュースで騒がれてる」

( ・ゝ・)「そうそう。何なんだろうね?」

テーブルにオムライスを2つ置くと、ショボンは腕を組み、こう言った

(´・ω・`)「虎視眈々と隙を窺えば、いつかは逮捕されるよ。きっとね」

ショボンは微笑んで、厨房へと姿を消した
スプーンをオムライスに刺して、話を進める



11: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:30:43.12 ID:qSFVPKqY0
( ・ゝ・)「虎視眈々と……ねぇ。……すぎうら教が初めて起こした事件が3年前の放火事件かな?」

3年前、各政治家の自宅が放火される事例が相次いだ
幸い死者は出なかったが、一部地域の政治化が重症を負い
まさに日本国に対するそのレジスタンスの中、一人だけ逮捕者が出た

そして、逮捕者はこう口にしたらしい

「杉浦さんからの支持で行った。仲間を増やせと」

その言葉はメディアを通して、日本国民全ての耳に行き届いた
杉浦の目標は、日本国に対する反発だと全ての国民は理解した瞬間でもあった
国会で居眠りをしたり、携帯電話を弄ったりする政治家に憤りを感じていた者達が
杉浦の方向へと手のひらを返したのだ

('A`)「そうだな。それから信者がアホみたいに沸いてきた」

( ・ゝ・)「……日本国内に、信者は……隠れ信者を含めて8万人か」

('A`)「キリシタンみてぇだな」

( ・ゝ・)「実際に杉浦と接触できるのは数十人……多くてもそのぐらいだろう」

('A`)「他は単純に杉浦とその幹部の真似をマスコミを通してしてるというわけか」

つまり実質的に杉浦公認で、すぎうら教に入ってる人間は想像以上に少ないということだ



12: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:31:21.50 ID:qSFVPKqY0
('A`)「今日みたいな模倣犯はそういう事態を楽しんでる馬鹿さ」

ドクオは両手を挙げて、溜め息を吐いた
ふと、僕は考える。今日のような模倣犯が増えて、日本が混乱すること

杉浦はそれを望んでいるのではないか?

あくまで推測だが、自らの手で日本を無理矢理自分の色に染めて
日本を独立した国にするつもりなのでは、と考えた

過去に、現金輸送車を襲った前例がある。ちょうど先月のことだ
数千万を載せた現金輸送車が、拳銃を持った男一人襲われた
拳銃を持った男の名前は、杉浦と同様に名を轟かせている



13: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:31:52.48 ID:qSFVPKqY0

(-_-)

ヒッキーと呼ばれるその男は、それが本名なのか偽名なのかもわからない
ただわかることは、杉浦と深く関わる人物でありながら、すぎうら教の中でも
なかなか力を持った存在である、ということだ。杉浦の下で動き、直接行動して
証拠を残すことも多いことから杉浦よりも犯した罪は重いかもしれない

そしてヒッキーは、現金数千万を強奪し、逃走した

この事件の目的は、何だったのだろうか? と先ほどまでの推測と重ねてみる
今までの事件で関連することは、拳銃が用いられているということだ
その拳銃はどうするか? 当然買うのだ。それも幹部の数の分、だ
それだけ大量の資金を必要とすることを、杉浦たちは行おうとしているのだ

('A`)「……知ってるか」

( ・ゝ・)「え?」

急に言葉を始めるドクオに、僕は間抜けな返事をする
ドクオは塩を舐めたような顔で僕を見た

('A`)「知らないのか」

( ・ゝ・)「だから何が」

苛立ちをわざとらしく声に出してみた
ドクオは平手を突き出し、まぁそう怒るなよと枕を置き、
会話を続けた



17: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:39:08.07 ID:qSFVPKqY0
('A`)「渋沢さん、いるだろ」

( ・ゝ・)「先生か」

正しくは、“いた”だろうと訂正しようと思ったが、
喉の奥で声が詰まった

('A`)「あの人、昔教師だったらしいぞ」

( ・ゝ・)「知ってる」

僕があの人を先生と呼んでいた理由はそれもある
先生は、美術館での仕事の前に中学校の教師を努めていたと聞いた
だが、それ以上のことには先生は口を割らなかった

('A`)「そのときの、卒業アルバムを見せてやるよ。渋沢さんが担当したクラスだ」

( ・ゝ・)「ほう」

是非見てみたいな。と続けると、ドクオは決まりだ、と立ち上がった
水を一気に飲み干し、出口へと向かう
いや、待て。なんでそんなものをお前が持っている? と言いかけたが
どうせコイツは答えないだろうと溜め息を吐いた



18: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:39:47.51 ID:qSFVPKqY0
('A`)「俺の部屋にある。付いて来い」

僕はドクオに付いて行くことにした。会計は? と疑問が浮かび上がったが
まぁどうせ後でショボンにどやされるのはドクオだからいいやと肩を下ろした


ドクオの車に揺られて、数分。古い塗装のはがれたアパートにたどり着く
ここは、ドクオの住むアパートであることは重々知っているのだが、
それにしても、相変わらず、ぼろい

ドクオの後に続く。カン、カンと階段を踏みしめて
クモの巣が天井に張られ、ホコリが舞う廊下の奥まで歩く
ドクオの部屋にたどり着き、靴を脱いで、散らかった部屋のゴミを
むりやり掻き分けて、畳の上で胡坐をかいた

('A`)「さて、これだ」

本棚から、ドクオは「夢」と大きく書かれた表紙の本を取り出す

( ・ゝ・)「それが卒業アルバム?」



19: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:41:09.57 ID:qSFVPKqY0


('A`)「そうだ」

( ・ゝ・)「見ても?」

('A`)「おお」

ページを捲ると、早速職員紹介の場所にて先生の若かりし姿を拝めた
そして次々とページを捲り、クラス紹介のページにたどり着く
僕は、「内藤ホライゾン」の名前を見つけて、飛び跳ねる

(;・ゝ・)「ブーン!?」

('A`)「ふっ、びっくりしたか」

ドクオは、誇らしげに笑みを浮かべた
先生に出会ったあの日から、先生はあまり深く自らのことを話すことは珍しかった



20: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:42:15.61 ID:qSFVPKqY0
(;・ゝ・)「し、知らなかった……ブーンと先生に関わりがあるってとは聞いた覚えがあるけど……えぇー……? もう意味わかんない。本当に知らなかった」

混乱する僕の頭に手を載せ、ドクオは静かにアルバムを指差す
「内藤ホライゾン」という名前から、ゆっくり斜めに線を描いてなぞる
たどり着いた先の、指先の名前。それは





(;・ゝ・)「……杉浦……ロマネスク……?」



本当に、言葉を失う



21: ◆g4hoCLAMbw :2008/06/05(木) 21:42:28.42 ID:qSFVPKqY0
5話 完



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