( ^ω^)ブーンが二者択一するようです

184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:51:00.71 ID:K+VsXl1U0

<エピローグ>

世界ってもんは実は誰も必要としていない。
大統領が死んだって総理大臣が死んだって、世界は回る。
世界が必要としているのは個人じゃなく社会だ。

だから誰が死んだって、世界は何にもなかったかのように回り続ける。
俺みたいなのが一人、どんなに泣き叫んだって、苦しんだって関係ない。



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:52:03.86 ID:K+VsXl1U0

あれから、ちょうど二年が経った。皆が各々の将来に向かって生きている。
俺もそうだ。いくらなんでもあの日から止まったままではいられない。

無償に何かに没頭したくなり、俺はひたすら勉強した。
寝るのも忘れて延々と単語を覚えてみたり、
一体いくつの職業につくつもりなんだと自分でも思うくらいに、意味もなくいろんな分野を勉強したり。
お陰で難関な筈の大学でも首席をキープしている。

あれから。…あの日から。

あの日に起こったことは、夢のような出来事だった。
違うか。すべてが、夢となってしまったのだ。



191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:55:44.65 ID:K+VsXl1U0



気がつくと、目の前にツンが倒れていた。

('A`)「…ツン!」

ξ--)ξ「…」

('A`)「ツン!起きろよ!…ブーン?!」

気を失うそのときまで確かに居たブーンの姿が、どこにも見当たらない。
あの夢がただの夢とも思えなかった。嫌な胸騒ぎがおさまらない。
俺が部屋から出ようとした、その時。

( <●><●>)「…」

(;'A`)「う、わっ?!」



192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:56:43.96 ID:K+VsXl1U0

少年が現われた。思わずしりもちをつく。
本当に、何も無いところから音もなく”現れた”のだ、驚かない方がおかしいだろう。

少年は俺をじっとみたが、何も言わなかった。
俺は何か文句を言おうとして、言えなかった。
少年が、泣いているのに気づいたから。

だからその場に音は無かった。
ブーンの部屋から全ての音が消えてしまったかのように、静かだった。



195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:00:45.76 ID:aCxg9aqB0

少年は右手をさしだした。その意図がわからなくて、俺は少年を見た。
その目からは依然として涙が流れている。

('A`)「なんで、泣いているんだ」

静寂を破ったのは俺だった。

( <●><●>)「泣きたいからです」

('A`)「…そう、か」

さしだされた手のひらから、きらきらと何かが溢れてきた。
夢見がちな俺だけれども、魔法がこの世に存在しないことくらいは理解している。
でも、そうでなければこれは何だ。奇跡とでもいうのか。

( <●><●>)「綺麗でしょう」

(;'A`)「あ?あ、ああ」

( <●><●>)「なんだと 思いますか」



199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:02:21.83 ID:aCxg9aqB0

そんなの、こっちが聞きたいっての!と俺の顔に書いてあったのかはわからないが、
俺の答えを待たずに少年自らが答えを言った。

( <●><●>)「これは 記憶です」

('A`)「記憶?」

( <●><●>)「この世のすべての ブーンに関する」

('A`)「……は?」

知った名前が知らないやつの口から出てきたことで、
これはもう夢ではないのだと、そのときようやく実感した。



200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:03:21.42 ID:aCxg9aqB0

('A`)「それ、どういう」

( <●><●>)「ブーンの最期の願いです」

( <●><●>)「貴方と、…もう一人の人間以外の すべての人間から ブーンに関する記憶を消して欲しいと」

('A`)「え、」

( <●><●>)「この世界から 内藤ホライゾン という人間が居た痕跡を 一つ残らず消してほしいと」

(;'A`)「いや、おい、なあ、お前何言ってんだよ」

( <●><●>)「…」

(;'A`)「なあ、どういうことだよ!ちゃんと、」



202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:06:08.78 ID:aCxg9aqB0

俺は、奇跡と悲劇を見間違えたのだ。
その悲劇はどんどん大きくなり、キラキラと腹立たしいほどに輝いている。
俺は少年に飛びかかろうとしたが、足が動かなかった。

( <●><●>)「ブーンは 貴方に感謝していました」

(;'A`)「ブーンはどうなるんだよ!」

(;'A`)「なあ!」

悲劇は、どんどん膨らんでいく。
俺はいつの間にか泣いていた。答えなど本当は知っていたから、泣いていた。
少年が答えないのは俺のためなのだとわかっていたから、余計に泣いた。

( <●><●>)「ありがとう」

どこかの誰かと同じ別れの言葉が紡がれたのと同時に、悲劇は弾けた。
俺はまた気を失った。目が覚めたときには、ツンと共に、病院に居た。


そして――ブーンは消えてしまっていた。



204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:07:39.46 ID:aCxg9aqB0

クラスメイトや部活の奴らからも、ツンからも、そしてブーンの母親からすら、ブーンは消えてしまっていた。
それだけではない。クラス名簿。クラスや、部活の集合写真からも、ブーンは消えていた。
ブーンから借りたゲームの、ブーンのセーブデータだけが
ご丁寧に消えていたときは少年の芸の細かさに泣きながら笑ってしまった。

しばらく、気が狂いそうな日々が続いた。
ブーンという存在が俺の中の妄想だったのではないか、
という考えが一度浮かんでしまうと、もう、そうとしか思えなくなったのだ。

大体、世界からすればそれが本当なのだから。



207: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:09:54.04 ID:aCxg9aqB0

どん底の日々を過ごしていた俺が今こうして比較的普通に生きているのは、
ブーンのことを覚えている人間、”もう一人の人間”の存在があったからだ。

(´<_` )「…そこに居るのはドクオか?」

('A`)「弟者、帰ってたのか」

(´<_` )「兄の二周忌でな、しばらく帰って無かったし」

('A`)「ああ、そうか、そうだな…」

少年の言っていた”もう一人の人間”の存在を思い出したときは、唯一の希望の光を見たような思いがした。
人と話すのが嫌いな俺が、必死でいろんな人に聞きまわった。
ブーンの知り合いは多かったし、俺は変人扱いされていたので苦しい作業だったが、
この気の狂いそうな日々から抜け出せるならとひたすら頑張った。



214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:14:25.28 ID:aCxg9aqB0

それが弟者だとわかって、ようやく俺はどん底から抜け出した。
もっと仲がいいやつもいただろうに、何で弟者なのか、とは思ったけれども、
俺にとっては他人に近い弟者が覚えているということは、より真実に近い気がして、俺には良かった。

お互いの嘘みたいな本当を教えあい、俺は悲しみと喜びをそれぞれひとつづつ手に入れた。
ブーンは確かに生きていたし、ブーンは確かに消えてしまったのだと。

(´<_` )「で、こんな河原で何してるんだ。大学でもいじめられたのか」

('A`)「大学生にもなってそんな暇なやついるかよ」

(´<_` )「結構居るもんだぞ。気をつけろよ、ブーンが泣くぞ」

('A`)「くッだんねえ。…ツンと待ち合わせしてんだよ」

(´<_` )「ほう?」

('A`)「今日、ブーンの命日だからさ…ツンは覚えてねえけど、ここ、よくブーンとサボりにきた場所だから」

(´<_` )「あ、虹だぞドクオほらほらあそこ」

(#'A`)「て、めえ女じゃねえんだからはしゃぐな!畜生KYでもキモくないなんて!イケメンなんか死ね!」



216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:16:31.25 ID:aCxg9aqB0

(´<_` )「虹も捨てたもんじゃないんだぞ」

('A`)「ああん?」

(´<_` )「虹の根元には宝箱が埋まっていて、その中には一番欲しいものが入っているんだそうだ」

('A`)「本、当、にお前ってくだらねえ」

(´<_` )「ドクオは本当に夢がないなあ」

('A`)「……あんなデブ、宝箱に入りきらねえだろ」

(´<_` )「前言撤回してやってもいいぞ」

('A`)「うっせえ、さっさと帰れ」

それにしても、弟者は、こんな風に笑うやつだったろうか。
もっとかっこつけたように笑うやつだった気がするのだが。



217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:18:59.86 ID:aCxg9aqB0

('A`)「…何でお前がもう一人だったんだろうな」

(´<_` )「いつか気が向いたときのためじゃないか」

('A`)「はあ?」

(´<_` )「あと、多分…」

('A`)「多分?」

(´<_` )「あっ、あの子津出じゃないか?」

(#'A`)「てっめええええ」



220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:22:26.36 ID:aCxg9aqB0

ξ゚听)ξ「ドクオー!もう、なんでこんなとこ待ち合わせに…」

(´<_` )「よ」

ξ゚听)ξ「…え、弟者くん?久しぶりじゃない。こっちの大学だったっけ?」

(´<_` )「いや、ちょっと用事で帰ってきてるだけだ」

ξ゚听)ξ「そうなの。ドクオと弟者くんって仲良かったっけ?」

(´<_` )「ああ、そりゃもう」

(#'A`)「誰がだよ!」

ξ^ー^)ξ「…仲よさそうねw」

まあ、実際。
仲がいいかはわからないが、弟者と話していても苦痛は感じない。
むしろ、気が楽になることの方が多かった。

ブーンが居なくなった俺にとっては、唯一友人と言える存在である。



222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:23:21.45 ID:aCxg9aqB0

(´<_` )「じゃあ、お二人さんの邪魔にならないうちに帰るわ」

ξ#゚听)ξ「そんなんじゃないわよ!」

(;'A`)「マジギレすんなよ…」

(´<_` )「はは」

(´<_` )「…知ってるよ」



225: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:24:19.79 ID:aCxg9aqB0

ξ゚听)ξ「で?なあに、ドクオから連絡が来るだけでもびっくりなのに、会おうだなんて」

('A`)「いや、ほら…えーと、最近どうなのかなって」

ξ゚听)ξ「何よそれ。てっきり告白なのかと思ってちょっとおめかししてきちゃったわよ」

(;'A`)「…お前を好きだなんて俺はそんなに物好きじゃ痛い痛い痛い」

女って奴はなんでこうも短期間で変われるのだろうか。
よく見ると顔自体は変わってないのだが、ツンは完全に”大人”になっていた。
俺は二年前からタイムスリップしてきたみたいに変わらないのに。



227: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:26:14.50 ID:aCxg9aqB0

ξ゚听)ξ「まあ、良いわ。私もね、ドクオに直接会って聞きたいことがあったの」

('A`)「へ?」

ξ゚听)ξ「最近高校時代のものの整理してたらね、現像にだしてないカメラがあって、現像にだしたのよ」

('A`)「はあ」

ξ゚听)ξ「そしたら知らない人がうつってたのよ」

心臓を鷲掴みにされたようだった。
ツンがカバンの中をあさっていたのが幸いして、顔を見られずに済んでよかった。
もう、ものすごい顔をしていただろう。

ξ゚听)ξ「これ」

それは、何の変哲もない、写真だった。



229: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:27:21.00 ID:aCxg9aqB0

俺、ブーン、ツンの順で写っている。
テーブルにカメラを乗せて撮ったから高さが微妙。いい写真とは言えない。

ブサメン具合は自覚しているから、俺は写真を滅多にとらない。
友達となんてなおさらだ。そもそも友達が居なかった。
だから俺は見事なまでの仏頂面で写っている。

('A`)「……」

ブーンは友達が多かったから写真など慣れているのだろう、満面の笑みだ。
世界で一番幸せだおってな馬鹿な台詞が聞こえてきそうな。

ξ゚听)ξ「ねえ、ドクオは知らない?この人の名前」

('A`)「いや」

ξ゚听)ξ「…そっか」

ツンは、柄にもなく可愛らしい笑顔を浮かべている。
そりゃそうか。邪魔者がいるとはいえ、集合写真とか以外でブーンと写真撮ったことなかったもんな。
好きなやつと撮る写真。少しでも可愛く写りたいのが女心ってもんだろう。うん、多分。



230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:28:20.40 ID:aCxg9aqB0

('A`)「ちょっと、貸して」

ξ゚听)ξ「ん?はい」

破ってやろうと思った。ブーンの最期の願い。
多分あいつが一番消して欲しかったのは、ツンのブーンへの思いだろう。

これは、ツンとブーンの、最後のひとつ。
これをびりびりに破いてしまえば、ツンからブーンは完全に消える。この世からすら。

ξ゚听)ξ「…私ね、これ見ると幸せな気分になるの。変でしょ?
      名前も知らないひとと写ってるの、普通怖いじゃない?全然怖くないの。すっごく幸せなの」

ブーンの最期の願い。
親友なんて言葉恥ずかしくって安っぽ過ぎて似合わないくらいの、たった一人の。
俺はそれをかなえてやりたい。心底そう思っている。

だから、破ってやろうと、

ξ゚听)ξ「…でも」



234: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:30:04.30 ID:aCxg9aqB0

ξ゚听)ξ「でも、おかしいね、これを見ると、私幸せなのに苦しくなる。泣いちゃうときだってあるの」

( A )「………ねえよ」

ξ゚听)ξ「え?」

( A )「おかしくなんか、ねえよ」

ξ゚听)ξ「…そっか」

ξ゚ー゚)ξ「ありがと」

( A )「…」

ξ゚听)ξ「…ドクオ、」




ξ゚听)ξ「泣いてるの?」



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/07(木) 00:30:48.24 ID:aCxg9aqB0







破れなかった。
少し力を入れてしまえば簡単に破れてしまう、たった一枚の写真を、紙切れを、
俺にはどうしても、破ることが出来なかった。



<エピローグ・了>



戻る