( ^ω^)ブーンが二者択一するようです

9: ◆isjnT.PFfc :2009/04/17(金) 21:01:58.79 ID:uKCJlDe5P

<にじのはなし そのに>

結局、兄者の熱は下がらなかった。
だから次の日の学校の帰り、俺は一人で歩いていた。
そこまでははっきりと覚えている。

そして、兄者と虹を見たあの土手から、転がり落ちて頭を打って、病院に運ばれた。

頭を打っただけあって記憶が曖昧なのだが、
お察しの通りいじめっこにどつかれて、その衝撃で上手いこと足を滑らせたそうだ。
覚えてはいないがきっと漫画みたいに転がり落ちたのだろう。



13: ◆isjnT.PFfc :2009/04/17(金) 21:05:07.70 ID:uKCJlDe5P

(う<_` )「あー……よく寝た…」

(;´_ゝ`)そ「うわっ!」

Σ(´<_`;)「「?!」

(;´_ゝ`)「母者!母者!弟者が生き返ったー!!!」

そのとき見ていた夢は覚えていないけれど、このやりとりはよく覚えている。

三日間も目を覚まさなかった癖して、
ランドセルが見事にその役割を果たし、衝撃を吸収してくれたお陰なのかなんなのか、
幸いにもでっかいタンコブが出来ただけだった。

それでも打った場所が場所だけに、大事をとって、ともう一日入院させられた。
入院なんて兄者じゃあるまいし、とぼやいたら兄者に殴られた。



14: ◆isjnT.PFfc :2009/04/17(金) 21:09:09.79 ID:uKCJlDe5P

( ´_ゝ`)「お前がバカでマヌケだから悪い」

(´<_` )「だって、よくわかんないうちにこうなってたんだ」

( ´_ゝ`)「お前その年になって一人で家にも帰れないとかヤバすぎるだろ」

(´<_`;)「か、帰れるって!」

( ´_ゝ`)「病院に運ばれた後にな」



15: ◆isjnT.PFfc :2009/04/17(金) 21:12:57.49 ID:uKCJlDe5P

そう、最初のうちは土手から落ちたのは、俺の不注意ということになっていた。
情けない話だが、その答えに家族も俺自身も納得してしまっていた。

l从・∀・ノ!リ人「今度から歩くときは、おっきい兄者に手をひっぱってもらうといいのじゃ!」

(´<_`;)「いやだ!」

( ´_ゝ`)「なんだちょっと前まではひいてやってたのに」

(´<_`;)「昔の話だろ!」

∬´_ゝ`) 「ガキンチョが昔を語るんじゃないわよ」

 @@@
@#_、_@
 ( ノ`)「私からすりゃあんたもガキンチョだよ」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:16:33.87 ID:uKCJlDe5P

何故真実が明らかになったのかというと、
犯人がご丁寧に教えてくださったからなのである。

計四日間の入院と、土日を挟んだので、ほぼ一週間ぶりに行った学校。
いじめっこたちの視線は不自然だったけれど、
まあ何日も休んでいれば珍しいのだろうとあまり気にしなかった。
この辺の図太さはまさに馬鹿の勝利といったところだろうか。

ミ,,゚Д゚彡「どうして休んだんだ?もう大丈夫か?」

(´<_` )「あ、足、すべら、せて、土手から、転がり、落ち、て!入院、してた!」

ミ,,゚Д゚彡「なんだそりゃ!気をつけろよ!」

それに、こうやって擬古が心配してくれたことが、
本当に嬉しくて、そんなことはどうでもよかったのだ。

落されたのに、自分で落ちたと言う俺は、彼らからすれば滑稽だったと思う。
けれど同時におもしろくなかったのかもしれない。自分たちの”偉業”を知らないなんて、と。
だからわざわざ、教えに来たのだと思う。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:20:39.35 ID:uKCJlDe5P

( ´_ゝ`)「おいお前、足元気をつけろよ!ゲンミツにみろよ!ゲンカイタイセーだ!」

(´<_`;)「そんな、俺だって流石に同じとこで同じ失敗はしないって!」

( ´_ゝ`)「その油断がダメなんだ!」

(´<_`;)「兄者マジうざい!」

( ´_ゝ`)「なんだその口のきき方は!そんな風に育てた覚えは……って、あ」

(´<_` )「うん?」

(;´_ゝ`)「図工の宿題のこと忘れてた…ちょうこく刀、教室だ…」

(´<_` )「兄者って本当に変なとこで抜けてるなー」

(;´_ゝ`)「お前にだけは!お前にだけは!」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:23:29.76 ID:uKCJlDe5P

(´<_` )「あはは、でもちょうこく刀なら俺のあるし」

( ´_ゝ`)「いや、版画の板も教室だからさ。ちょっと取ってくるわ。
       お前は先にか……いややっぱ此処に居ろ。絶対動くなよ」

(´<_`;)「一緒に行けば……」

( ´_ゝ`)「お前歩くの遅いんだもん。ちょっくら行ってくる」

(´<_`;)「は、走っちゃだめだぞ!身体によくないし!あぶないし!倒れるぞ!」

( ´_ゝ`)「わかってるーーー」

(´<_`;)「って言ったそばから走ってんじゃん!」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:29:08.52 ID:uKCJlDe5P

途中からは大人しく歩いてくれた兄者の背中を見送ったあと、
自分が転がり落ちた土手を覗きこんでみた。
思ったより急な坂道で、ここを落ちていったのかと思うとぞっとした。

( `ー´)「こいつ、また落ちたいんじゃネーノwwwwww」

そしてすぐに、複数の聞き覚えのある笑い声にびくっとした。
まったく、いじめられっこも忙しい。

(´<_`;)「ひ、」

( ^^ω)「ホマホマホマwwwww(ひ、だってよwwwww)」

( ^Д^) 「オニーチャンが居ないと喋れないもんなあwwww同じ顔してきっめえwwww」

(´<_`;)「あ」

兄者を馬鹿にするな、と声を出そうとしたはずなのに、何故涙が出てくるのか。
悔しいやら情けないやら怖いやらでどうしようもない。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:32:59.57 ID:uKCJlDe5P

( `ー´)「あwwwwってwwwwwマジで頭おかしいってwwwwなんで喋れネーノwwww」

( <_ ;)「……」

( ^^ω)「ホマホマホマwwwww(もう一回頭打ったらマトモになるんじゃねwwwww)」

( ^Д^) 「お前さwwww落ちたんじゃないぞwww俺らが、落としたのwwww
       ちょっとどついただけでさ、変な声出して落ちてwww」

( ^^ω)「ホマホマwwwホマホマホwwww(あれマジおもしろかったよなwwwもっかい見てえwwww)」

( ^Д^) 「やっちゃうか!」

( `ー´)「いいんじゃネーノ!」

(;-_-) 「し、死んじゃわない……?」

( ^Д^) 「別にいいじゃんこんなの死んでもwwwwつか同じ顔の奴もう一人いるし別によくねwww」

( ^^ω)「ホマホマwwww(あっちは喋れるしなwwww)」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:38:45.00 ID:uKCJlDe5P

涙が溢れて、地面が歪む。噛みしめた唇の感覚が無くなっていく。
握りしめた拳を振り上げるなんて思いつくわけもない。
ただ、手の平に食い込む自分の爪が痛かった。
声を出そうなんて考えはとっくに消えていて、ただこの時間を耐えるだけ。

”お前さ。そんなに嫌なら、なんで怒らないの。立ち向かわないの”

怒り方がわからない。他人の責め方がわからない。
怒るのはしんどいことだ。誰かを責めるのは苦しいことだ。
誰かを恨むなら、自分を恨んだ方がずっと楽なんだ。

人を傷つけることが怖かった。
自分が受けたような痛みを、誰かに与えることが怖かった。
そして何より、誰かを傷付けたことに、後悔することが怖かった。

結局全部、自分のため。
苦しくなりたくないから。後悔したくないから。
自分を身を守るために作った壁に押しつぶされて、苦しんでいる。
その苦しみを何かで克服すればいいのに、そこで結局だれかを頼るんだ。
そして絶望するんだ。こんなに我慢しているのに、なんで誰も助けてくれないの、って。

助けてもらえない未来を自分で作って、ひとりで怖がって、声を出すこともしないくせに。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:42:27.14 ID:uKCJlDe5P

こっちこいよと引っ張られて、ほんの少し抵抗したけどそれは単純に落ちるのが怖いから。
でもすぐに諦めて、涙を流すだけ。耳に薄い膜が貼られたように、はやしたてる声が少し遠くなる。

ああなんかもう今度こそ大怪我かなあ母者に超怒られるなあ妹者は泣くかなあ、
姉者テスト前って言ってたのに迷惑かけちゃうなあ父者がこれ以上ハゲたらどうしよう
兄者は……まだ怒ってくれるかなあ。

などと、死を覚悟した人間みたいなことを考えながら、目を閉じようとしたときだった。

(;`ー´)「いってぇえええんじゃネーノ?!!」

俺の手を掴んでいた奴に、何か固いものが頭に直撃したのは。
地面に落ち、その衝撃で袋から吐き出される彫刻刀やら物差しやらを見てやっと、
それが俺の無駄に大きい手提げ袋なのだと理解した。

( <_; )「……え?」

振り返ると、世界で一番見慣れた顔が涼しげな顔で立っていた。

(;^^ω)「ホッマ?!ホマホマ?!(うっわ、え、え?マジで同じ顔だ!?)」

その場に居たほとんどが、俺と兄者とを交互に見比べて驚いていた。

俺と兄者のクラスが一緒になったことはなかったので、
こうやってそっくり具合を確認したことがなかったのだろうけれど、
それにしたってそんなに驚くことないだろうに。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:48:01.34 ID:uKCJlDe5P

( ´_ゝ`)「はァ?ばっか俺の方がハンサムだろどこ見てんだテメエ」

(´<_`;)「あ、あにじゃ……」

正直に言おう。このときの兄者はマジで超ウルトラ格好良かった。
当時大好きだったウルトラ男も仮面バイク乗りも霞んで見えた。
体育大会のリレーでビリから凄い勢いで一位になり、
一躍クラスのヒーローになったブーンも、このときの兄者にはかなうまい。

( ´_ゝ`)「お前ほんッとーに、一人じゃ家にも帰れないんだな」

(´<_`;)「……」

( ´_ゝ`)「で、お前ら何やってんの?」

(;`ー´)「何って……遊んでるだけダーヨ」

(;^Д^) 「そーそー、暇そうだったから」

この会話中、俺は気が気じゃなかった。
相手は四人。こっちは二人……だけど俺はむしろマイナス要因にしかなりえない。
それは兄者もよくわかってるはずだ。それなのに、少しも臆することなく立っている。

( ´_ゝ`)「ふーん?で、いつからイジメは遊びになったんだ?」

(´<_`;)「あっ、兄者!」

いやマジで勘弁してくださいっていうか喧嘩とかになったら
一番危ないのはアンタですよ兄者さん!切実に!生命的な意味で!



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:53:51.01 ID:uKCJlDe5P

( ´_ゝ`)「イジメってのは、遊びじゃないぞ」

(#^Д^) 「じゃあなんだってんだよ!」

威勢よく言ったその短い台詞を言い終えるまでに、いじめっ子の表情は著しく変化した。
みんな一様に兄者の方を見ている。兄者の後ろでへたりこんでいる俺には兄者の表情は見えない。

( ´_ゝ`)「イジメってのは、ひとの心を殺すことだ」

(;-_-) 「……」

けれど、いつもと違ったその声色に、異変を感じることは出来た。

( ´_ゝ`)「だから、お前たちは人殺しだ」

( ´_ゝ`)「この人殺し。地獄におちろ。今すぐ死んじまえ」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 21:59:13.53 ID:uKCJlDe5P

あまりの言い様に、俺もいじめっ子も言葉を無くした。身動きも取れなかった。
馬鹿とかアホとかお前のカーチャンデベソってレベルじゃない。

子供であれ、死のタブー性は理解しているものだ。
子供ならではの残虐性で、虫やら小動物に関してはその認識が薄かったりはするが、
それも年齢があがるにつれて理解していく。

とにかく、どんなに子供の頃でも”死ね”という悪口が使われることはそう無かった。
まったく無かったわけではないにしろ、それはその場の勢いで、そこに憎しみが込められることはない。
俺もほぼ一年いじめられっ子をしていたが、死ねと言われたことは無かった。
……さっき死んでもいいじゃんとは言われたけれど、そこはまあ置いておく。
そこに憎しみが込められていなかったのは確かだし。

けれどさっきの兄者の言葉には、
憎しみとか怒りとか軽蔑とかそんなものが詰め込まれていた。悪意そのものといったらいいか。
生きている中で、嫌われたり興味をもたれなかったりすることはたくさんあっても、
悪意を向けられることってそんなにないと思う。だから彼らは何も言えなくなったのだ。

そして俺も何も言えなかった。
双子の片割れの初めて見せた悪意に、恐怖すら感じていた。

俺の知っている兄者は、いつも飄々としていていて、なんでもそつなくこなす。
小学生時分ならば、感情的になって、泣きながら言い合いをすることもそう珍しいことではなかったけれど、
ほぼ四六時中一緒に居る俺でさえ、兄者が感情的になったところを見たことがなかったのに。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:05:27.62 ID:uKCJlDe5P

(;`ー´)「し、」

(;`ー´)「死ねって言っちゃいけないんじゃネーノ!」

時間を動かしたのは、この最もな正論だった。

(´<_`;)「そ、そーだそーだ」

(;´_ゝ`)「お前が同意すんな!」

兄者の言葉にどうしようもなく怯えていた俺だが、
ツッコミをする声はいつもの色で、少しほっとする。

俺は別に心優しいわけではないけれど、動物だとか虫を平気で殺すやつは好きじゃない。
軽蔑とまではいかなくとも、こいつとは例え友達になってくれたとしても、
あまり仲良く出来ないだろうなあ位は思う。

そう思うようになった理由は他ならぬ兄者なのだ。
家族が発作で本当に苦しそうにしていたり、ときには生死をさ迷いすらしていたら、
命の大切さを考えずにはいられない。

生きてるだけで幸せだなんてとても言えないけれど、
生きていることは当たり前のことではない。
俺は常々そう思っている。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:09:16.69 ID:uKCJlDe5P

( ´_ゝ`)「人を殺すのはいいのに死ねっていうのはだめなのか」

(;`ー´)「殺してないってーノ!」

( ´_ゝ`)「殺してるよ。毎日、弟者は泣いてたよ。毎日こころを殺されて、痛いって泣いてた」

( ^Д^) 「こころなんか殺せねーよ!バーカ!」

( ´_ゝ`)「見えないから殺せないとでも?」

(;^^ω)「ホッマホマ!(あったりまえだろ!)」

( ´_ゝ`)「ああわかった、お前ら馬鹿なんだろ」

(;`ー´)「馬鹿っていう方が馬鹿なんじゃネーノ!」

( ´_ゝ`)「お前もいま馬鹿って言ったからやっぱり馬鹿じゃん」

(´<_`;)「あにじゃ…」

( ´_ゝ`)「じゃあ、こうしたらわかりやすいか?馬鹿でも」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:13:15.32 ID:uKCJlDe5P

そう言った兄者の足元には、俺の手提げ袋の中身が半分くらい散らばっている。
そう言った兄者の目線の先には、手提げ袋の中身のひとつ、彫刻刀がある。

兄者はそれを拾い上げる。

その場において、俺といじめっ子はまったく同じ存在だった。
兄者が与える見世物を、怯えながら待つしかなかった。

今でもよく覚えている。
その彫刻刀は五本入りで、それぞれ刃の形状が違う。
先が丸いもの、尖っているもの、平らなもの、細いもの、太いもの。

選ばれたのは尖った彫刻刀。
それ以外は入っているケースごと、再び地面に落とされ、ばらばらと散らばった。

今でも、本当によく覚えている。
そうして、兄者はその彫刻刀を、自らの左手に突き刺したのだ。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:17:34.61 ID:uKCJlDe5P

俺を含め三人がほぼ同時に叫んだ。
残り二人も、一人はへたりこみ泣き出して、もう一人は声も出ないほど驚いていた。

(;´_ゝ`)「いってー………何おどろいてんだ、お前らが毎日してることだろ」

かなり痛そうな声を出しながら、それでも兄者は手の甲からそれを抜いた。
血が噴出すように出たわけではない。
けれど、ドクドクと溢れる血、そして刃物が人の手に突き刺さっていたというその事実があまりに痛い。

( ´_ゝ`)「お前らはさあ、まいにちまいにち、こんな風に、自分より弱いようにみえるやつを、
       殺してさあ、本当はそいつ 弱くなんかないのに、こんな風に血が出てるのにも、我慢できるほど強いのに、
       見えないだけで、それにも気がつかないで、……ほんと  ばかだよな」

兄者は、しばらく返事を待っているようだった。
だけど、二人は頭おかしいんじゃネーノ、とかそんなことを言って逃げていった。
残っているのは、へたりこみ泣いている一人と、その一人を置いていくか迷っている一人。

兄者はいらいらしたように、もう一度右手を振り上げた。
それを見て、俺ははじかれたように立ち上がった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:23:33.42 ID:uKCJlDe5P

(´<_`;)「だめだ!」

( ´_ゝ`)「なんだよ」

(´<_`;)「なんで、そんなことするんだよ!痛いだろ!」

(;´_ゝ`)「ちょーイテェよ!」

(´<_`;)「じゃあなんで!」

(#´_ゝ`)「お前が!」

(#´_ゝ`)「お前が怒らないからだろうが!」

(´<_`#)「関係ないね!」

(#´_ゝ`)「ありまくりだボケ!」

(´<_`#)「ぜってーない!!!」

(#´_ゝ`)「ある!!」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:25:37.52 ID:uKCJlDe5P

結局関係があるかないかは決まらなかったけれど、
この喧嘩をしている間に、残りの二人も逃げてしまったわけだから、
二人とも馬鹿だってことは間違いなく言えると思う。

(#´_ゝ`)「ああもうマジで弟者のせいでばっかみてー超いたいんだけど!」

(´<_`#)「兄者が馬鹿なことするからだろ!」

(#´_ゝ`)「馬鹿って言ったほうが大馬鹿なんだよボケカス!」

(´<_`#)「兄者のオタンコナス!スットコドッコイ!」

(#´_ゝ`)「なんだよすっとこどっこいって!!!」

(´<_`#)「しらねーよ!!!」

そんなことを言いながら、散らばったものを袋に入れていった。
最後に兄者が渡したのは、血がついた彫刻刀。

(´<_` )「……俺もうちょうこく刀つかえないかも」

( ´_ゝ`)「これがいやなら俺のを使え」

(´<_` )「違う。思い出すだけで、痛くなる」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:29:51.25 ID:uKCJlDe5P

兄者は俺のその言葉に返事を返さなかった。

俺の手から彫刻刀ケースをひったくり、
血がついたままの彫刻刀をケースに入れて、泥だらけの手提げ袋に突っ込んだ。
そして、無言のまま俺をバンバンと叩いて砂をはらってくれた。
はらってくれた、というのが憚られるほど力が込められていて正直痛かった。

そしてようやく歩き出すけれど、やっぱり兄者は何も言わない。
俺もなんとなく、何も言えなかった。

兄者が口を開いたのは、あと五分で家につこうというときだった。

( ´_ゝ`)「お前はさ」

(´<_` )「え」

( ´_ゝ`)「自分がいじめられてるときよりも、俺がああやって自分刺したりしたときのほうが、痛いんだろ」

(´<_` )「……」

(´<_` )「そう、かも」

( ´_ゝ`)「…だからお前は馬鹿だっていうんだ」

( ´_ゝ`)「自分も、誰かも大事に出来ないなら、死んじまえ」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:31:09.78 ID:uKCJlDe5P

その”死ね”には、憎しみは込められていなくて、
むしろ悲しみから生まれた言葉のように聞こえた。

でもやっぱりショックで、泣きそうになったけれど、涙が出なかった。
兄者のほうが泣きそうな顔をしていたからだと思うけど、
なんで兄者が泣きそうに見えるからって俺の涙が出ないのかはわからない。
でもその理由はたぶん本物なのだと思う。

俺が怒らないから怒ったのだという兄者の言葉が、少しわかった気もした。
けれど、まあ、そこは馬鹿なので。

(´<_`#)「兄者が死ねっていったあああああああひでえええええええ」

(#´_ゝ`)「うっぜええええええええええ」

(´<_`#)「かぞくに!よりによって双子の弟に!死ねって!」」

(#´_ゝ`)「うるせえええええええええ」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:36:31.63 ID:uKCJlDe5P

自分も誰かも大事に出来ないなら、と言うけれど。

確かに、俺は誰かを大事に出来ていないのだと思う。友達が居ないから。
家族になら恵まれているが、大事に出来ているかと言われると、自信がない。

でも、俺は、自分を大事に出来ていないのだろうか?
こんなに甘やかしているのに?

(´<_`#)「あーもうマジでむかついた!もう兄者とはしゃべんねー!」

(#´_ゝ`)「あーそうかいそうかい!うれしくてたまんねー!!!}

(#´_ゝ`)「「ただいまー!」」(´<_`#)

(#´_ゝ`)「「ハモんな!!!」」(´<_`#)

 @@@
@#_、_@
 ( ノ`)「玄関先で騒ぐんじゃないよ!さっさとお入り!」

(;´_ゝ`)「「はーい……」」(´<_`;)

(#´_ゝ`)「「………」」(´<_`#)



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:40:44.83 ID:uKCJlDe5P

流石の俺も今日くらいは話さないつもりでいた。
怪我の手当てと夕飯のあと、兄者は俺らの部屋に戻ったので、
一緒に居たくない俺は居間へ残ることにした。

しかしその日、運悪く、テレビでホラー映画が放映された。
母者も姉者も妹者さえ、ホラーが大好きなのだ。
ただでさえ怖いってのに、さらに電気を消して観るんだから、女って凄いと思う。

父者は味方だったが女三人にかなうわけもなく、
和やかな居間は一転、(俺と父者の)阿鼻叫喚の宴と化した。

よりにもよってその映画の舞台が病院なのが最悪だった。
兄者が入院したときには、母者とともに泊まり込むこともあったのだけど、
たまになんかこう、……見えるんだよなあ。

从*・∀・ノ!リ人「わっくわくーなのじゃ!」

∬*´_ゝ`) 「ほんと、はやくみんなでR指定ついたスプラッタ見たいわねえ」

女三人はまったく見えないらしい。
だから怖くないんだろうか。それとも幽霊も恐れて出てこないのだろうか。
後者の可能性が十分ある。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:46:06.04 ID:uKCJlDe5P

とりあえず映画は見終えた。家族みんな居たから、怖くても耐えられた。

だというのに、なんでよりによってこういうときに限って、
夜中にトイレに行きたくなるんだろうか。

俺らの部屋は、右の壁際に俺の、左側に兄者のベッドが配置されている。
自分のベッドから兄者をたっぷり三分は睨み付けてから覚悟を決めてドアを開けたのだが、
顔を少し出して、すぐそこにある一階に続く階段をちょっと見ただけで怖くなってドアを閉めた。

(´<_`;)「……あにじゃ」

( う_ゝ`)「…んだよ……」

(´<_`;)「と、トイレついてきて…」

(;´_ゝ`)「……おまえ……さすがにそれはねーよ…」

(´<_` )「あるある」

(;´_ゝ`)「ねーよ……大体、もうおれとはしゃべんないんだろー…ふぁあ」

(´<_`;)「それとこれとは話が別なんだって!」

( ´_ゝ`)「はぁ……今度おやつよこせよ」

(´<_`*)「やったー!」

俺の知っている兄者は、いつも飄々としていていて、なんでもそつなくこなす。
そしてなによりも、やさしい。

いじめってのは、対象を自分と同じ感情のある人間と思っていないから出来ることだけど、
俺も、きっと兄者を人間としてみていなかった。
惜しみなくやさしさを降り注いでくれる神様であり、正義の味方みたいに思っていた。

兄者が何かに悩んだり、悲しんだり、誰かを妬んだりするなんて考えたこともなかった。
それを感じさせないことこそ、兄者の一番優しいところだっただけなのに。

俺は救われてばかりで、それが当たり前だった。
たとえ、じゃあ、兄者の悲しみは誰が救うんだ?と誰かが問いかけてくれたとしても、
その質問の意味すらわからなかっただろう。

そんな俺だから、あんなに痛い思いをしてまで俺を庇って、
助けてくれたことにありがとうも言わないまま、この時を迎えたのだろう。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:49:51.76 ID:uKCJlDe5P

トイレから出てみると、そこに居ると思っていた兄者が居ない。
ビクつきながらも、すぐそこにお風呂場とか鏡とかがある場所に
留まっているほうがよっぽど怖いので歩く。

兄者はすぐに見つかった。居間に続くドアの前に立っていた。
オレンジ色の淡い明かりが兄者を照らしている。
居間の明かりだ。母者か父者が起きているのだろうか。

近づいてみると、少しドアがあいているようで、言い合っているのが微かに聞こえた。
母者が強く言えばいつも父者は負けてしまうので、喧嘩は珍しいことだった。

けどそれよりも珍しいことが起きていることに、俺は気づく。

兄者が、泣いているのだった。

あんまりびっくりして、言い合いの内容など耳に入らない。
夢なのかもしれない、と思った。

淡く、ぼんやりと照らされる頬に伝う涙は、溢れて溢れて止まることを知らない。
涙を流しながらも、その目は母者や父者の方をじっと見ている。

俺は兄者の頬に触れた。確かに頬は濡れていて、ああ、本当に泣いているんだと思った。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:52:29.80 ID:uKCJlDe5P

(´<_` )「兄者……?」

俺が声をかけると、兄者はようやく俺を見た。

(  _ゝ )「うん」

(  _ゝ )「……お前は、俺がなんだって出来るって 思ってるだろ?」

(´<_` )「え?」

(  _ゝ )「あるよ、俺に出来ないこと」

(´<_`;)「な、なに?」

(  _ゝ )「……お前を好きには、絶対なれない」

(´<_` )「………え?」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:55:52.33 ID:uKCJlDe5P

上手くことばを処理出来ない。でもなんていって聞き返せばいいのかもわからない。
困りはてた俺を少し見て、兄者は泣きながら笑う。
びっくりするくらい悲しい笑顔で、兄者に嫌いだといわれたのに、やっぱり俺は泣けなかった。

話し声で、俺らに気づいたらしい母者がドアを開け、兄者の泣いているのをみると、
兄者を抱きしめて、ごめんね、ごめんねと何度もつぶやきながら、母者まで泣き出した。

父者も一度立ち上がったけれど、
そのままテーブルの席に座りなおして、そのまま動かなかった。

俺も俺で動かずにいた。
一緒に泣くことも、理由を尋ねることせずに、
ただ、近くの母者と兄者と、少し遠くの父者とを見て、
父者もこっちに来ればいいのにと思っていた。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/04/17(金) 22:59:26.42 ID:uKCJlDe5P

しばらくしてから、俺たちは部屋に戻り、ベッドに入った。
俺はさっきのことについて考えたけれど、意味もわからなければ答えも見つからなかった。
それでもなんとなく眠れない。時計を見るともう三時だ。

兄者が部屋から出ていくのを見たけれど、特に何も思わずに、その背中を見ていた。
トイレか何かだと思った。大きな間違いである。

結果からいうと、この日から兄者の放浪癖が始まった。
この日兄者は真夜中の放浪のち見事にぶっ倒れて、
運よく通りかかったタクシーの運転手の110番で一命を取り留めたのである。


<にじのはなし そのに 了>



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