( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:27:22.21 ID:PwX5P/6BO



浴衣の君 のようです



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:29:40.26 ID:PwX5P/6BO
秋田に来てから三日目の午後6時。

俺たちは、昨日の夜訪れた商店街にまた来ていた。
浴衣を着てノリノリな姉者、背中がひりひりすると言って最後まで行くのを嫌がっていた兄者。特に何も言わないドクオ。
俺もこうやって財布をぶら下げて商店街の入り口に立っている訳だが、正直祭りに来るのは嫌だった。

昨日はご老人か主婦くらいしかいなかったが、今日の商店街は老若男女、人が溢れている。
ただでさえ連日真夏日が続いているのに、あんな人ごみの中に入りに行くなんて……。不快指数120%越えだろ常考。
それに、昨日は散々海で体力を消費した訳だし、一日くらい家でぐだぐだする時間があってもいいと思ったのだ。


そういう事を姉者に遠回しに訴えたのだが、


・献立を考えるのが面倒
・男三人分もご飯を作るのが面倒
・買い物に行くのも面倒
・だからお祭りで夜ご飯買うお!!


という、主に夜ご飯による愚痴と共に答えが返って来たので、
泊まらせてもらっている身として、ご飯に関して文句は言えない。
渋々と祭りについて行く事にした。ちなみに義兄さんが店へ行くのに車を使って行ったため、徒歩だった。

ここに来るまでで、既に体力を消耗した気がする。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:30:09.66 ID:RcI35+5/0
そんな訳で、仕方なく活気溢れ巻くりんぐな商店街にやって来た訳だが、姉者は誰かを待っているらしい。
携帯で周りの騒音に負けないように叫びながら、その誰かと自分たちの居場所を連絡しあっていた。

電話が終わるのを今か今かと待っていたが、電話を手で塞ぎながら、俺たちに向かって先に行けと言って来たので、
姉者を置いて、先にうねうねとうごめく人の波に巻き込まれる事にした。


ソワソワ( ´_ゝ`)「……焼きそばたこ焼きかき氷ー」

ソワソワ(´<_` )「なんだかんだ言って楽しそうだな兄者」

('A`)(自分もソワソワしてる事気づいてないのかな」

(´<_` )「? 何か言ったか?」

('A`)「いや……流石家の人はお祭り好きなんだなと思って」

( ´_ゝ`)「姉者は祭り好きだけど、俺たちもその血が入ってるのかね」

(´<_` )「さぁ?」

('A`)(本当に実感してないんだな)



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:32:45.48 ID:PwX5P/6BO
家を出る時は嫌がっていたが、いざ祭りの会場に来ると途端にテンションが上がる兄者。
辺りに漂う食べ物のにおいに鼻をひくつかせながら、流れから外れてどこかへ行こうとするので困る。
……だがまぁ、夕ご飯前だしな。兄者の気持もわからないでもない。

どこからか漂ってくるジャガバタの甘い香り。スパイスの効いた、香ばしい匂いを放つチキン。
雑多な匂いが入り交じり、夕方の湿気の多い空気のおかげなのか、余計に鼻を刺激する。
鼻から入り込んだ匂いは器官を通り肺を抜け胃の中をぐるぐると回り始めた。

要するに、とんでもなく腹が減って来たという事だ。


(*´_ゝ`)「よーし。ここにある食べ物全部食う!絶対食う!」

(´<_` )「え…… 普段そんな食べる方でもないのに、無理だろう」

('A`)「それは流石に……冗談だよね?」

( ´_ゝ`)+「俺はいつでも大真面目さ」


ただの商店街とはいっても、普段は駅前までの大通りの役目をしているので、
車道は幅20m程はある。そしてその巨大な通りに沿うように、数えきれない程の屋台が軒を連ねているのだ。
流石に全部は回れないだろう。時間とかお金とかそういうやつの問題で。



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:33:18.80 ID:RcI35+5/0
自然に出来ている、駅前へ向かう流れと商店街出口へ向かう流れがあったので、駅前へ向かう方へと入る。
屋台は全て車道の中心を向いており、とりあえず右側の屋台を眺めながら進む事にした。


(*´_ゝ`)「なに買おっかなっ なに買おっかなっ」

(´<_` )「兄者ノリノリだな」

(*´_ゝ`)「目の前に祭りがあったら何が何でも参加するのがvipperさ」

('A`)「どうせ厨チャット突撃とかそんな祭りばっかりだろ」

( ´_ゝ`)+「……お前もまさか……」

('A`)+「そう。vipperさ」

(*´_ゝ`)b .*+.'.:* d('A`*)

(´<_` )「私弟者だけど、リアルで2ちゃん用語使ったりvipperって名乗る人って気持悪いと思う」



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:33:43.07 ID:RcI35+5/0
低速で進んでいると、焼きそばやたこ焼きと言ったなじみ深い店から、
金魚釣りや亀すくい、シャーピンなど、余り聞いた事の無い店も並んでいる。

夜店の店主達は携帯をいじりながら商売をする若いにーちゃんや、人相の悪いおっちゃんなんかがいるが、
どの人もニカっと俺たちに歯を見せつけながら、ダーツや射的を勧めて来る。

俺はくじ運がいい方ではないし、射的などもどうせ高価な物は倒れないと分っているので、
絶対にギャンブル要素の高い物はやらない事にしている。どう考えても金の無駄遣いだ。

だが、そういう事をわかっていないのかなんなのか、兄者はくじ引きなどが目につくと途端にやろうとする。
……うん、ああいう無鉄砲な所のせいで、いつもブラクラを踏んでしまうのだな。今更ながら理解した。

俺は財布を持って駆け出そうとする兄者の首根っこをひっつかんだ。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:35:46.43 ID:PwX5P/6BO
(;´_ゝ`)「ぐえっ」

(´<_` )「まてまて兄者。くじを見かける度に突っ込もうとするな」

(#´_ゝ`)「はなせ!あそこのPS3が俺に抱かれるのを待っているのだ!」

(;'A`)「当たるわけないだろ……。今まで祭りで、PS3やWiiを抱えながら歩いている人を見た事がある?」


( ´_ゝ`)「ドクオはわかってないな。万一の確率にかけてくじをやるのが漢だろ」

(´<_` )「俺にとっては無駄遣いにしか見えない」

( ´,_ゝ`)「ふん、女々しいやつめ。祭りに来たら全額くじにつぎ込む勢いで使わなきゃ駄目だぞ」

(´<_` )「……そういえば何円持って来たんだ?」

( ´_ゝ`)「野口さん10人と樋口さんが一人の逆ハーレム」

(´<_`#)「これ旅の資金から抜いて来たろ。半分没収しとく」



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:38:26.01 ID:PwX5P/6BO
誇らしげに財布の内状を語る兄者の隙をつき、財布を奪って樋口さんを無理矢理引き抜いた。
後ろで喚いて怒り狂っているが気にしない。

あの母者から嘘をついてまで奪った軍資金。無駄遣いは出来ないのだ。
使うつもりは無いが、とりあえず防御策として俺の財布の方に移しておいた。

これでそれぞれの金額は、兄者一万円、俺が八千円、……そういえばドクオの所持金は?


(´<_` )「そういえばドクオ、昨日、金引き出さないと無いとか言ってたよな?」

('A`)「うん、今日銀行行く暇無かったからお金持って来てない。所持金249円」

(´<_` )「そっか……じゃあ、これ貸してやるよ。銀行に行くまで」

Σ(;´_ゝ`)「俺の樋口たんが!!」

(´<_` )「俺たちの樋口さんだ。あの資金は二人分なんだぞ」

('A`)「え……。でもいいよ。昨日商店街に銀行あるの見たし」

(´<_` )「じゃあ銀行つくまででいいから。はい、樋口さん」

('∀`)「……ありがとう。後で絶対返すよ」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:39:06.65 ID:RcI35+5/0
ドクオは嬉しそうな顔をしながら、けつポケットに樋口さんをねじ込んだ。
これでそれぞれの所持金は一万、三千円、五千円になった。所持金の問題は解決したし、これで心置きなく遊べそうだ。
心置きなくと言っても、俺は飯以外に金を使うつもりは無い。変に荷物持つと邪魔になるし。

ただ、一番お金を持っている兄者の行動には注意しなければ……。

猪か何かのように手当り次第に屋台に突っ込み金をばんばか使うので、見張らなければならない。
今日一日で一万円全て使い切られるのは、この先の活動に支障が出るかもしれないからだ。
変に行動力がある相手だとかなり疲れる。もう少し先の事を考えて欲しい。

……いつもこの台詞を言っている気がする。


( ´_ゝ`)「活動って程頑張ってないだろ俺ら」

(´<_`#)「兄者が言うな。そっちが提案した事なのに、なんでこんなに俺が頑張ってるんだ」

(;'A`)「……俺もツチノコ探すの協力するからさ、色々と頑張れよ弟者」

(´<_` )「……苦労をわかってくれるのはドクオだけだよ。ほんとに」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:39:40.01 ID:RcI35+5/0
流れにあわせてずったらずったら進んでいくと、射的屋が出て来た。
今までにも何件か通り過ぎたが、ここの射的屋は他よりもかなり繁盛しているらしく、
店の前に人の壁が出来ていて、商品がよく見えない。

頭の隙間から覗き込んでみると、最近流行りのDSrightやBSBが並んでいた。
それと、ザニーズ系の下敷きやうちわ……俺の中での優先度は低い。ゲームよりも興味が無い。

商品が魅力的だからこんなに混み合っているのだろうか。並んでいるのは小中学生くらいだ。
それにしても、何でこういう夜店に行くと一部商品に一昔前のエロビデオやバイブが並んでいたりするのだろうか。

あんな卑猥な物狙う馬鹿はDQNでもいないだろう。ほこり被っているみたいだし。
こんなに人が集まっている所であれを撃ち落とせと言われたら、俺なら断固拒否する。

そんなものに狙いをつけるませがきは流石にいないらしく、主に『商品どれでも好きなの一つ!』や、
先ほどあげた携帯ゲーム機の前に、沢山コルクの玉が落っこちていた。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:41:24.34 ID:PwX5P/6BO
(´<_` )「あんなの、殆ど取れる訳がないのになぁ」

('A`)「俺はだいたいココアシガレットとか狙ってるな」

(´<_` )「あぁ……。あれな。冬とかに、それをくわえながら息を吐き出してタバコごっことかやったよ」


小学生くらいの時の事を、ふわふわと思い出していた時だ。
妙に甲高い声で呼び止められた。そっちの方に顔を向けると、
口が特徴的な小柄のおっさんが微笑んでいた。


(’e’) 「やぁ、そこで立ち止まってる兄さん達! や ら な い か」

(*´_ゝ`)「やるやる! よーし兄者DSとっちゃうぞー」


俺がおっさんに気を取られているうちに、射的屋の誘いにまんまと乗ってしまった兄者。
止める暇もなく財布から金を出し、気づいた時には銃を構えていた。

銃を台に乗せ、皿に用意されたコルク玉5発のうちの一つを吟味して選び出し、
形の崩れていない美しいコルク玉を、優しく銃口に詰めた後、銃のバーをがちゃりと下げた。

今までに見た事が無いくらい真剣な眼差しで商品を見つめる兄者。
くだらない事にはすぐに真剣になるのだが、こういう集中力をもっと他の事に使ってもらいたい。



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:43:30.96 ID:PwX5P/6BO


\ .∧_∧
| \ (;´_>`)いきなり大物狙いか
| \ / i⌒i
| \i . |
| \ .. ∧_∧
| /⌒(く_` ) + 俺の腕前をよく見とけ。DSだってなんだって一発で落としてやるさ
| / ノ/ヽ ヽ
| / //ソ\ / 丿
| \ //丿 /../|
| . //∂ / ./\ |
| // / ./ \
| /// / .\
| //__ノ .\
| // .\
| // .\
| // .\
| ◎



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:44:06.07 ID:RcI35+5/0
そういって、まずは端の方に置いてあるDSを狙う兄者。

大物だけあって、その足下には負けた兵士達がころころと転がっている。 
コルク達が夢の後……だめだうまくない

競争率は高そうだが、果たして兄者にあれが撃ち落とせるのか。否、無理だ。
腕を最大限伸ばし、上半身を玉が置いてある台から乗り出し、銃口を出来るだけ近づけて…撃った。

DSはその身をまったく動かす事無く玉をはじき、コルクは兄者のでこに跳ね返った来た。
うきー と地団駄を踏みながら、改めてコルク玉をセットする兄者。
……DSの後ろにおもりがくっついているのが見えるのだが、兄者は諦めないらしい。

二発、三発と連続してDSを狙ったが、やっぱり動かない。


(#´_ゝ`)「むきぃぃぃぃぃっ!」

('A`)「チンパンみたいになってるぞ」

(#´_ゝ`)「……落ちるどころか倒れもしない!」

(´<_` )「もっと倒しやすいのを狙え。残り二発を何に使うかよく考えろ」

('A`)「ココアシガレット狙おうぜ」

( ´_ゝ`)「嫌だ。せめて500円の元を取れる物がいいんだが……よし、あれにしよう」



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:47:36.14 ID:PwX5P/6BO
コルクの玉を銃に詰め直し、兄者が狙ったもの。棚の一番はじっこに、ひっそりと置かれている、
『とってもかわいいきんたろうこけし』というシールが貼ってあるバイブ。
……バイブの値段が何円かはわからないが、あれで500円の元は取れるのだろうか…。

……そういう問題じゃない。これはなんとしてでもやめさせなくては。
俺まで色々と誤解を受けてしまう。


(´<_`;)「いやいやいやいや」

( ´_ゝ`)「だって落とせそうで元取れそうなのあれしかないし?」

(;'A`)「あんなの取った所でどうするんだよ……」

( ´,_ゝ`)「姉者にプレゼント」

(´<_`;)「ぶち殺されるぞ。絶対やめておけ。というかやめてくれ」

( ´_ゝ`)「だが断る」


不適な笑みを浮かべながら、そそり立つバイブを狙う兄者。
DSよりもさらにはじっこにおいてあるのだが、威圧感というか変な圧迫感がある。

また腕をぎりぎりまで伸ばし、バイブに狙いをつける。
背のでかい男が小中学生に混じって射的をやっているだけでも目立つというのに、
あんなものを狙ったら注目されるのは当たり前だ。周りの餓鬼が銃を撃つ手を止めて、兄者の動きを見ている。

何この羞恥プレイ。俺関係無いのになんでこんな嫌な気持にならなくちゃいけないんだ。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:50:30.35 ID:PwX5P/6BO
一発目はカリの辺りをかすり、バイブを少し後ろにずらした。
グッ と手を握り、手応えを感じている兄者。 感じるな。二発目は絶対に外せ。

そして二発目。

俺の願いもむなしく、兄者の銃から放たれたコルク玉は意思を持っているかのごとく真っ直ぐ進み、
竿の部分にクリーンヒットし、棚からバイブがぼろんと落っこちて来た。


(’e’) 「うわぁぁあああああああ〜 まさかアレが取られるなんて!」

(’e’) 「よくやったな兄ちゃん! ほれ、この袋はサービスだ! これに入れて持って行きな!」


店のおっさんが、なぜだか嬉しそうにバイブをビニール袋に入れてわたしてくる。
ああいう物を店に陳列するのが趣味なのか? 心無しかあの口も卑猥な物に見えて来た。

自分は使わないだろうというのに、兄者は嬉しそうだった。変態め!



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:51:59.51 ID:PwX5P/6BO
(*´_ゝ`)「うっふっふ」

(´<_`;)「最高に気持悪いぞ兄者」

(*´_ゝ`)「これをどう使おうか考えたら、少しwktkしてきて。おっと、妄想を口にしてしまった」

(´<_`;)「これはもう駄目かもわからんね」

(*´_ゝ`)「だってこんなのリアルで見る事なんて無いし……」

Σ(´<_`;)「だぁぁ やめろっ!こんな所で動かそうとするな!」

(;'A`)「もうバイブはいいからさ、他の夜店見てみようよ」


スイッチを入れて起動しようとしていたのを慌てて取り上げ、袋に突っ込んだ。
バイブは入れ物などにに入っていなかったので、持っているだけでも恥ずかしいのに
起動なんかされたら周りにいる人に俺まで変人と思われてしまうではないか。



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:54:01.53 ID:RcI35+5/0
ドクオがのろのろと向かったのは、目の前にあった一つのかき氷屋。
ファンシーな入れ物が重なって置いてあり、その横にストローが束になって置いてある。
シロップかけ放題! と書かれたのれんの下に、何種類ものシロップが入ったボトルが置かれていた。

おなじみイチゴやメロン、ブルーハワイに加えて、葡萄、コーラ、カルピスにレモンなど。
宇治金時や抹茶といった純和風なものもあったが、他の物よりも数十円高いので俺は買わない。


(*´_ゝ`)「俺はやっぱりブルーハワイちゃん!」

(´<_` )「無難にメロンが一番だろ」

('A`)「じゃあ……コーラにしてみようかな」

( ´_ゝ`)「うわ……なんだよこいつ」

(´<_` )「味覚おかしいんじゃないか?」

('A`)「え? なんでコーラ選んだだけでこんなフルボッコなの?」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:54:26.96 ID:RcI35+5/0
それぞれ300円払い、かき氷を貰う。

目の前でかき氷が見る見るうちに削れて行くのを眺めていたのだが、ドクオの様子がおかしい。
尻のポケットからお札を取り出そうとしたのだが、疑問符を浮かべながら
わたわたとズボンのポケットをはたき、体中をさすりまくっている。嫌な予感がする。


(;'A`)「あれ、あれ? おっかしいな……」

( ´_ゝ`)「すられたか」

(´<_`;)「冷静に状況判断している場合じゃないぞ兄者」

(;'A`)「やばい、無い。樋口たんがいない」

(;'A`)「どうしようせっかく借りたのに無くしちゃってどうしようあばばば」

(´<_`;)「落ち着け。……いいよ俺が押し付けたんだし」



元々白いドクオの顔が、赤や青に変わった後灰色になって止まった。
俺たちも、どうしたものかと立ち止まって考えていた。

すると遠くから俺たちを呼ぶ声が!



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:55:15.93 ID:RcI35+5/0
lw´‐ _‐ノv「骨皮ー」


Σ(´<_` )「シュールさん!」

Σ(;´_ゝ`)


紺色に蛍が飛んでいる柄の浴衣を着たシュールさん。どうやら今日は普通の状態のようだ。
そしてその横には、淡いうすピンクの生地に黄色いチョウの柄の浴衣を着たヒートさんと、姉者。
ヒートさんはあの肩程まであった髪を団子にして後ろで束ね、涼しげな髪型をしていた。うなじが色っぽい。

シュールさんはあの人ごみの中を、人を避ける動作もせず真っ直ぐに向かってきた。透けているのか?
空気のように俺たちの前に流れ着くと、ドクオの目の前で立ち止まった。

驚いているドクオの目の前に、差し出される手。その上には、
俺が兄者から奪う時についたであろう、しわだらけの樋口さんが佇んでいた。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:57:18.75 ID:PwX5P/6BO
lw´‐ _‐ノv「何かの伏線だと思ったら大間違いだ。私の登場のきっかけにしたかっただけだ」

( ´_ゝ`)「何の事ですか」

(;'A`)「あ、それは俺が無くした五千円……。誰だか知らないけどありがとうございます」

∂ノ ゚听)ノ「ここぞとばかりにこんにちは!……所で、この血の気が悪い人は誰ですか?」

(´<_`=j「はいこんにちは。こいつはドクオって言います」

Σ('A`)



('A`;)(兄者兄者、誰だよあの浴衣のかわいこちゃん)

( ´_ゝ`)(俺の彼女、ヒートちゃんだ)

(;A;)

∂ノ;゚听) 「えっと…どうしたんですか?なんで泣いてるんですか?」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 04:57:51.97 ID:RcI35+5/0
(;A;)(嘘だろ! 毒オーラがぷんぷんする兄者なんかに彼女がいるわけない!)

(#´_ゝ`)(失礼な! 俺はちまたでは『ビミョメンの兄者』で通ってるんだ! 彼女の一人や二人くらいいるぞ!)

(´<_` )「とりあえず二人とも落ち着け」


なぜだかわからないが、おいおいと男泣きをしているドクオは放っておく事にした。

ヒートさんにあの五千円札は一体どうしたのか聞いてみると、
三人で歩いていたらいきなりシュールさんがかがみ込み、見つけたらしい。
こんな人がごった返している場所でよく見つけられたな。霊能力とかで説明出来る物なのだろうか。

逆に言えば、みんな足下なんて見てないから五千円が拾われる事も無かったという訳か。


lw´‐ _‐ノv「む。君は死相が出ているな。いや、元からなのかその顔は」

('A`)「ウツダシノウ」


たわいもない会話をしながら、商店街を群れになって進む。
さっきまで蒸しかえるような思いだったが、女三人組の涼しげな姿を見たら少し体温も下がって来たような気がする。

だがヒートさんの浴衣を見ると、なぜだか顔を中心に熱気が群がってくる感覚がした。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:00:14.50 ID:PwX5P/6BO
lw´‐ _‐ノv「……所で、待ち人には会えたようだね」

( ´_ゝ`)「ドクオの事ですか?」

lw´#‐ _‐ノv「だまらっしゃい!皮になど聞いてはおらぬわっ!」

(;´_ゝ`)「ヒィ!なんか知らないけどすいません!」

lw´‐ _‐ノv「私は骨に聞いておるのだよ骨に。肉塊のような男には会えたかい?」

(´<_` )「肉塊……?あぁ、メン……いや、内藤さんですかね」

lw´‐ _‐ノv「そいつが君たちの手助けをしてくれるのかもね」

(´<_`;)「曖昧ですねぇ」



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:02:21.05 ID:RcI35+5/0
かき氷を用意し終え、どうすればいいのか困っていた店員に謝りながらかき氷を受け取り、
シロップの入ったボトルの蓋を軽く開け、氷に円を書くようにてろてろと垂らして行く。

メロンシロップは氷に着地した場所から地下にとけ込んで行き、氷の丘は凹み、草原のようになった。
兄者はシロップをかけ過ぎて氷上部が全部青色になってしまった。それどうみてもそれ甘すぎだろ。


(*´_ゝ`)「つゆだくブルーハワイうめぇ」

(´<_` )「……本当にうまいと思ってるのか? ブルーハワイなんて一番何の味なのかわからないのに」

( ´_ゝ`)「ブルーハワイはブルーハワイの味だぞ。南国常夏ブルーハワイ」

(´<_` )「ブルーハワイなんかよりもこの高級果物メロン味の方がうまいに決まってるさ」

('A`)(どっちもただの着色料砂糖漬けだと思うけどな」

( ´_ゝ`)『コーラなんて邪道なものかけてるやつに言われたくないね』(´<_` )

(;A;)「なんでコーラだけそんなに扱い悪いんだよ」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:03:39.09 ID:RcI35+5/0
さくさくと柔らかな氷のかけらを口に流し込み、
人ごみの中で蒸れそうな体に冷気を送り込む。
喉から染み渡るようにメロンの味が入っていき、口の中が甘ったるい味でいっぱいになってきた。
きっと今の俺の舌は緑色になっているんだろうなぁ。

横では女三人組もかき氷を買ったらしく、談笑しながらちまちまと口に入れている。
ヒートさんはいちご、シュールさんは宇治金時ミルクがけ、姉者はカルピス。
自分が食べているのに飽きると、他人のやつのほうがうまそうに見えてくる。俺もカルピスをかければよかった。

残り少なくなった汁っぽいかき氷を、一気に口にかっこんだ。頭が痛くなる。
この症状には名前がついていたはずだが、なんというか忘れた。
最初は美味しく頂けるが、飽きてくるのがかき氷の難点だ。


(´<_` )「……流石に飽きて来たな」

( ´_ゝ`)「……だな。なぁ弟者よ。この残り汁を混ぜ合わせて新しい味を作ろうじゃないか」

(´<_` )「断る」

('A`)「じゃあ俺のやつ混ぜようぜ」

( ´_ゝ`)、ケッ

('A`)「……弟者」

ミ( ´_>`)プイッ

(;A;)



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:05:44.41 ID:PwX5P/6BO
クレープ、フランクフルト、大判焼き、焼き鳥、じゃがバタ、たこ焼き、焼きそば……

どれもカロリーの高そうな食べ物ばかりだが、その屋台から流れ出てくる臭いが鼻をくすぐる。
目の前で調理しているのを見ると、視覚と嗅覚のダブルコンボで余計に腹が減ってくる。

そうだ、元々夕ご飯のために祭りに来たんだから、何か食べ物でも買おうか。


(´<_` )「腹が減って来た……。何か食べるか」

( ´_ゝ`)「弟者、こういう所の焼きそばやたこ焼きは、屋台の数が多い分商品や量にばらつきがあるから注意しろ」

('A`)「あるある。500円で買ったその先に300円で売ってるとことかあると後悔するよな」

(´<_` )「じゃあ、屋台の数が少なそうな食べ物でも買おうかな。迷う必要無さそうだし」

( ´_ゝ`)「う〜ん…… じゃああれなんかどうだ。べろんべろんとチョコバナナ」

(´<_`;)「あれご飯にならないだろ……」



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:06:16.77 ID:RcI35+5/0
汗でおでこに髪がへばりつくくらいむしむししていたが、かき氷のおかげで幾分かましになった。
6時頃の時はわずかに西に傾いていた太陽だが、30分程うろついている間に随分と沈んだようだ。
明るいのは東の空ぐらいで、西の方にはかすかに一番星が見える。
これからどんどん気温も下がって、過ごしやすくなるだろう。

灯された提灯の淡い光の下、増えて来た人ごみの中を進んで行く。
途中クレープを買ったり、杏飴でピンボールに挑戦したり、和やかに祭りを楽しんでいた時だ。


人が全く寄り付かない屋台が一店あった。
ATフィールドでも張ってあるのだろうか?『きやこた』と書いている屋台が見える。
屋台がずらずらと並ぶ中、そこだけ半径2m内に人がいない。まったくといっていい程いない。
流れはそこで屈折しているが、俺たちは腹が減っていたので、空いているのをいい事にその屋台へ向かった。


そこには、体中からにじみでるけだるさと、悪臭を振りまいている内藤さんがいた。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:09:45.29 ID:PwX5P/6BO
( ´ω`)「うぃ〜 きもちわりぃお……」

∂ノ;゚听)「うわっ!酒臭い!」


初対面にもかかわらず、くさいと言って少し離れるヒートさん。素直だ。


∬;´_ゝ`)「……内藤さん……よね?」

( ´ω`)「はなしかけないでくれぉ……ただでさえ周りがうるさくて頭ががんがんすんのに……」

∬;´_ゝ`)「昨日7時くらいに帰ってったじゃない。なんでそんなになってるのよ」

( ´ω`)「……あの後……もうちょっとくらい飲もうかと思って他の店行ってそのまま明け方まで……」

( ´_ゝ`)「なんという駄目人間」


兄者に同感、なんとも呆れ返る理由だ。昨日祭りの準備があるからと言って早々と帰っていたのに。
こんなぼろぼろの状態でたこ焼きがまともに作れるわけがない。
丸椅子に腰掛け、うつろな目でうんうんと相づちばかりうつ内藤さん。
見るからに気力が無さそうだ。



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:10:57.58 ID:RcI35+5/0
(´<_`;)「……所で、この店は食べ物屋ですよね?そんな状態で食品扱っていいんですか?」

( ´ω`)「一応大丈夫だと思うお……」


一応という余計な一言があったが、確かに目の前に並べられたたこ焼きはとてもおいしそうだ。

パックに入れられて、『ストックも十分、トッピングかけ放題!』というパステルな色をした看板の横に、
鰹節や青のりが、業務用と思われる大きめの缶に入れられて置いてある。

サービスも悪くないし、値段も良心的。見た目は普通のたこ焼きや。しかしたこ焼きはいくつも売れ残っている。
誰が見ても分かる。売れないのはどう見ても内藤さんの態度その他諸々のせいだ。


('A`)「このたこ焼き、全部内藤さんが作ったんすか?」

( ´ω`)「嫁さ……いや、彼女が作ったんだお。今トイレ行ってていないけど」

lw´‐ _‐ノv「こんな醜男に彼女がいるのか。世も末だな」

(´<_` )(俺が思っていた事を本人の目の前で口に出して言うとは……流石だなシュールさん)



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:13:10.36 ID:PwX5P/6BO
酒臭い息を吐きながらぐったりとしている内藤さんと遠巻きに話していると、
人ごみをかき分けて高速で移動してくる人影があった。

壁のように立ちふさがっている人々を無理矢理押しのけ、
はいすいませんね!と連呼しながらこちらに近寄って来た。少し怖い。声からして、女の人のようだ。
顔や髪型を細かく確認出来る距離になると、結構な美人だという事が分った。

あれが噂の、というか別に噂でもないが、多分内藤さんの彼女だろう。


ξ゚听)ξ「ただいまー トイレ混んでてすごい汚くてやんなっちゃう……」

ξ#゚听)ξ「ってお客さんきてるじゃないのよ! サボってないで商売しなさいよ馬鹿!」

( ´ω`)「うぅぅ……吐いちゃう…吐いちゃうからやめて……」


迫ってきたそのままの勢いで屋台の裏へ入り、内藤さんの背中をばしばしと叩く女性。
さっきから顔色がいいとは言えない、内藤さんの顔が一瞬で紫になる。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:13:32.28 ID:RcI35+5/0
内藤さんはもういいや。それより、新たに登場したこの女性の観察の方が先だ。
やっている行為はお世辞にも女性らしいとは言えない、目の前に立つ美しい女性。
色が白く、ゆるゆるとうねる髪を二つに束ね、整った顔。

そうかそうか。あれが秋田美人という生き物なのか。


ξ*゚听)ξ「待たせて本当にすいません!」

(´<_` )「えーと、じゃあたこ焼き二つ」

∂ノ ゚听)「こっちも二つ下さい!」

ξ゚听)ξ「合計で1200円になります!トッピングはご自由にどうぞ!」


内藤さんと違い、はきはきとした喋り方でてきぱきとたこ焼きの準備をする女性。
可憐だ。そして美しい。何よりも、この強気そうな瞳がいい。

本当に、なんでこんな人が内藤さんの嫁となるのか。
勝手に内藤さんが名乗っているだけなんじゃないのか?


『◯◯は俺の嫁だお!』

うん、ありえそうだ。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:15:51.03 ID:PwX5P/6BO
('A`)(なぁ兄者。内藤さんの嫁さんってあの人だよな?)

( ´_ゝ`)(多分そうだろう。死相が出てるドクオにも希望があると思えてくるな)

('A`)(うるせぇ。……ヒートさんが兄者の彼女というなら、手の一つでもつないでみろよ)

Σ(;´_ゝ`)(は……恥ずかしがりやだから!人ごみで手つなぐの嫌なんだって!)

('A`)(フーン へーぇ そうですかぁー)


少し冷め気味の、蓋に結露のオマケがついたたこ焼きを受け取る。

適当にトッピングを書かけ、甘辛なソースと絡めて、竹串で一発。
ドクオが1パック、俺たちでもう1パック、その生温いたこ焼きをほおばった。
だが生温いくらいでちょうどいいのかもしれない。これ以上体温が上がるのはごめんだ。

こりこりとした吸盤の食感を味わっていると、内藤さんが俺たちの方をだるそうに指差してきた。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:18:42.18 ID:RcI35+5/0
( ´ω`)「ツン……紹介するお。この人達が明日一緒に美府へ行く少年達だお……」

ξ゚听)ξ「へぇ、この背の高い人二人と一緒に行くの?」

ξ゚听)ξ「昨日も言ったけど、あたしが仕事でいないからって、変な事しないようにね!」

( ´ω`)「把握したお……。それと彼らは…飲み屋の…シャキンの義理の弟……うぇっ ぎぼでぃわるぃ」

ξ#゚听)ξ「ちょっと! こんな所で吐こうとしないで! 早くどっか行って!


うっ と嗚咽を漏らした後、口を両手で押さえながらどこかへ行ってしまった。
店の中にはツンさんだけが残され、内藤さんがいなくなった事でATフィールドが解除されたのか、
それともべっぴんフェロモンの効果なのか、俺たち以外の客も集まって来た。


ξ゚听)ξ「……お見苦しい所をお見せしました」

∬´_ゝ`)「いえいえ」

ξ゚听)ξ「いつも自己管理ができなくて、子供っぽくて。大変ですよ」

(´<_` )(この人も苦労してるんだな)



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:20:20.92 ID:RcI35+5/0
たこ焼きも買った事だし、ツンさんに会釈してその場を去ろうとした時だ。
大きな声で呼び止める声が聞こえたので、そちらの方を振り向く。


ξ*゚听)ξ「駄目な人だけど根はいい人だから、何かあったらよろしくね!」


さっきまで鬼のような顔をしていたツンさんだったが、
内藤さんがいなくなったらなんだか照れくさそうな顔をして、そう叫んだ。
嗚呼。恥ずかしがりやなんだろうなぁ。そんな事を思いながら、軽く手を振ってツンさんと別れた。


特に(俺にとって)めぼしい店も無く、歩き続けていたら商店街終点の駅前へ出て来てしまった。
仕方なくUターンをし、それぞれ勝手に物を買い食い、おしゃべりをし、充実した夏の夕方。

兄者に荷物を押し付けられたり、ドクオと一緒に輪投げに挑戦してみたり。
興味の無い店を冷やかしては、結局金を払わずにそこを去ってみたり。

そんなくだらない事を繰り返す事数分。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:21:50.46 ID:RcI35+5/0
 _、_  
( ,_ノ` )y━・~「……」


(;'A`)「なんかただならぬオーラ発してる人が……」

( ´_ゝ`)「あの人冷やかしたら速攻でこの世からいなくなれる気がする」



金魚すくい と書いてある屋台の下にいる、壮年の男。
金魚すくいっていったら、祭りでも特に子供とかに人気のある部類の店だと思うんだが点…。人っ子一人いない。
内藤さんの所とは違うオーラが発せられている感じがする。怖くて近寄りたくない。

男は紫煙をゆっくりとくゆらせて、目の前を往来する人々を眺めている。


∂ノ ゚听)「……アイツは……」


ヒートさんが、あの男を発見するなり立ち止まった。
何か因縁でもあるのだろうか。凄い形相で睨みつけて、真っ直ぐに男へ向かって行く。

そして金魚すくいの目の前に行くと、低くドスの聞いた声で話しかけた。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:23:15.41 ID:RcI35+5/0
∂ノ ゚听)「まさかここに来ているとは」

 _、_  
( ,_ノ` )y━・~「……俺もあんたに会えるとは思っても見なかったさ」

∂ノ ゚听)「……去年は世話になったな。今年こそは雪辱を果たせてもらう」


ぐっと握り拳を作り、男の瞳を真っ直ぐに見つめる。
何を考えているのかはわからないが、過去に何かあったのだろうか。厳しい表情のままだ。

男はふっとえくぼを作り、脇に置いてあった携帯灰皿にタバコをすりつけ、
ぱちんと蓋を閉じると、座ったまま静かにヒートさんを挑発した。

 _、_  
( ,_ノ` )「毎年そう言っているが、今何連敗中だっけか?お嬢ちゃん」

∂ノ; ゚听)「くっ」



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:24:40.52 ID:PwX5P/6BO
(;´_ゝ`)「ねぇ、なんか俺たちここにいちゃいけない感じだよな?」

(´<_`;)「あそこの二人から近寄るなオーラが出てるしな……」

(;'A`)「というかあのおっさん何者?凄い怖いんだが」

∬;´_ゝ`)「あれは伝説の金魚救い……渋沢」

∬;´_ゝ`)「昔、金魚すくいの店からことごとく金魚を救い出し、稲白川に逃がしたという……」

∬;´_ゝ`)「彼のモットーは、『金魚は金魚』高級なのも餌用も手当り次第に救い上げ、逃がしたらしいわ」

(;'A`)「それってしちゃいけない事じゃなかったっけ……」


姉者が深刻な顔で説明をしてくれた。なんでそんな事知ってるんだろう。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:26:22.77 ID:PwX5P/6BO
その後に続き、シュールさんがまた、見て来たかのように男の事を語る。
だからなんでそんなに詳しいんだ。


lw´‐ _‐ノv「そう。そして彼は伝説だけをそこに残し、フリーで彷徨う事をやめてどこかへ旅立って行った」

lw´‐ _‐ノv「……数年後、金魚すくい屋として祭りに店を出し、合い言葉を言ったものとだけ戦うようになった」

lw´‐ _‐ノv「だが金魚すくい屋は仮の姿…。今でも、各大会に出ては賞を総なめしてるとか」

(;´_ゝ`)「……なんでそんなに知ってるんですか?」

lw´‐ _‐ノv「電波を受信したから」

(;´_ゝ`)「あぁ、そう……」



130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:33:52.73 ID:PwX5P/6BO
威圧感に圧倒される俺たちを尻目に、ヒートさんは落ち着いた口調で男を会話をしている。
挑発には乗らなかったようだ……。肝が据わっているなぁ。勝負師って感じだ。

 _、_
( ,_ノ` )「まぁいい……聞くまでもないと思うが、今日はどうする?金魚'すくい'か金魚’救い’か」

∂ノ ゚听)「もちろん……『真剣すくい』を」

 _、_
( ,_ノ` )「……懲りないな。だがそういうのは嫌いじゃないぜ」

 _、_
( ,_ノ` )「では忘れっぽいお前のために、ルール説明だ」

 _、_
( ,_ノ` )「タモ一つ真剣勝負。すくった数ももちろんだが、どんな種類をすくったかでポイントが違う」

 _、_
( ,_ノ` )「和……1P、流、出……2P、彗星……3P、そしてあの……王。10P。制限時間は5分」

∂ノ ゜凵K)「……そして、制限時間内にポイが破けたらそれまで。判断は各個人にまかせる。でしょう?」

 _、_
( ,_ノ` )「その通り。じゃあ……始めようか」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:36:57.40 ID:PwX5P/6BO
ざっ という音と共に、男がどこからかポイを取り出す。
ぴんと和紙が貼られた、極有り触れたポイ。
ピンクと水色を取り出し、ピンクの方をヒートさんに渡した。

袖をまくり、お互いに平べったい水槽の前にしゃがみ込む。
水槽には、色とりどりの金魚のが泳ぎ回っている。朱、黒、灰色、まだら…
その中に、3〜4cmの金魚に混じって、一匹だけ巨大な流金が混じっていた。

周りの金魚が小さいのか、その金魚がでかいのか。
いや、あれ10cmはあるぞ。鯉かなんかの仲間じゃないのか。


∂ノ ゚听)「お姉ちゃん。時間お願い」

lw´‐ _‐ノv「……300秒数えとく」


ひゅう と、生暖かい、人々の隙間をくぐり抜けて来た風が、ヒートさんの前髪をゆらした。

───それが戦いの合図だった


lw´‐ _‐ノv「……開始っ」



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:37:56.30 ID:RcI35+5/0
∂ノ# ゚听)「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


猛烈な勢いで、和金をひょいひょいとすくっていく。
手……手が見えないっ! ってほどではないが。

素早いタモさばきで、近くにいる和金を狙いポイントを稼ぐヒートさんに対し、

 _、_  
( ,_ノ` )「最初から飛ばすと……だれるぜ」


男の方は、水面に対し水平にタモを動かし、コメットや流金と言った、
すくいにくいがポイントの高い金魚を見つけると、鬼のような早さですくいあげて、お椀に放り込む。

ヒートさんのお椀には和金がぎゅうぎゅうと詰め込まれているが、
男のお椀にはゆうゆうと出目金や流金が泳いでいる。その数7匹程。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:39:58.22 ID:PwX5P/6BO
∂ノ# ゚听)「私はっ! お前のようなっ! 勝つための金魚すくいは嫌いなんだっ!」

∂ノ# ゚听)「純粋に数を競い、腕を磨き、珍しいも何も無く金魚を平等にすくいあげる…!」

∂ノ# ゚听)「それこそがっ! 私の思う金魚すくい! そして…」

∂ノ# ゚听)「かつて伝説を残した男が私に語ってくれた、金魚すくいの信念!」


俺が見た事のある(といっても今日を入れて三日しか見た事無いが)ヒートさんの口調とは違う、
熱い、魂の籠った口調で男に吠える。その両手は金魚をすくいながら。

男はわずかに眉をしかめた後、そのまま黙ってヒートさんの言葉を聞いていた。



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:40:58.51 ID:RcI35+5/0
 _、_  
( ,_ノ` )「……若造に何が分る。世間の厳しさを知らぬ若者なんぞに……」

 _、_  
( ,_ノ` )「……俺には金魚すくいしかないんだ。勝つためになら、なんだってやらなくちゃいけない」

 _、_  
( ,_ノ` )「そうしなければ、スポンサーには切られてしまう。金が稼げなくなる。……生きて行けなくなる」

 _、_  
( ,_ノ` )「……大会の賞金で生きて行く事も出来るが、やはり賞金をもらうための前提は『勝利』」

 _、_  
( ,_ノ` )「こうして確実に勝てる方法を使って……何が悪い。勝利こそが真理。勝たなければ話にならない」

∂ノ# ゚听)「……やはり、今のあなたは好きにはなれないっ!」

∂ノ# ゚听)「この勝負絶対に勝たせてもらおう! 私の考え……伝説の男の思いが正しい事をお前に知らしめるために!」



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:43:51.94 ID:RcI35+5/0
渋い顔はもとからなのか。表情の変化から出来た物なのか。
あの男にも、勝ち続けなくちゃ行けない理由があるのだろう。

確かにヒートさんのように手当り次第にすくっていくよりも、
あの男のようにポイントが高い物を狙って確実にすくって行く方が、
無駄が無いし、勝率も高くなるだろう。

俺は金魚がすくえればどちらでもいいと思うんだけど。
彼らなりのこだわりがあるんだろうな。


∂ノ; ゚听)「…っ やばいぃぃ…」


金魚をすくった時に、ヒートさんのポイに亀裂が走った。

今まで亀裂すら入らなかった事の方が凄いと思う。
だが、その亀裂は金魚をすくいあげるごとに広がり、
ついには和紙の半分が欠落し、先ほどのように勢いに任せてすくう事が出来なくなってしまった。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:44:52.37 ID:RcI35+5/0
 _、_  
( ,_ノ` )「数が多ければいいというものではない。確実に、いい金魚をすくいあげる方が無駄が無いのだ」


それに比べ、男の方はロウでも塗ってあるんじゃないかというくらい、濡れていない。
濡れる暇もない早さで水に突っ込み、金魚が暴れる暇なく引き上げているのか……流石だ。

このままでは男が勝つだろう。ヒートさんの表情の変化から見ても、彼女がそう思っている事は明らかだった。


∂ノ; ゚听)「……〜っ!」

 _、_  
( ,_ノ` )「この期に及んで、まだ手当り次第に金魚をすくいあげるか」

∂ノ# ゚听)「目に入った金魚はとにかくすくう! それを曲げる事は絶対しないっ!」


どんどん削れて行くヒートさんのポイ。
徐々にだが減って行っている水槽の中の金魚。
男の方が流金やコメットばかりを狙っているので、全体的な割合としては和金が多くなって来ている。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:47:14.42 ID:PwX5P/6BO
だが、男すらも手をつけようとしない、『王』

その一匹だけが我関せずと言った様子で、慌てふためく小物達の間を、悠々と泳いでいた。
そして、王がヒートさんの前に巨体を揺らしながら迫って来た。


∂ノ ゚听)「……!」


これはチャンスなのだろうか。ヒートさんのポイを一撃で破壊する大きさの、王。
だがそいつをすくいあげれば、一発逆転も可能のはずだ。


lw´‐ _‐ノv「後26秒」


時間は残り少ない。勝負に出るか──



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:47:38.33 ID:RcI35+5/0
∂ノ# ゚听)「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 _、_  
( ,_ノ` )「……保身に走らず、信念を貫いたか」


ヒートさんのタモが王へと向けられる。
水面に映った影に反応して他の金魚は逃げたが、王だけはその挑戦を待ち構えているようだった。

まるで、あそこにいる伝説の男のように、ずっしりと。


もう半分ほど破けた、ポイ。
残りの部分を素早く水に突っ込み、抵抗を与えないようにポイを真横にして移動。
そして王の腹の下に すい と突っ込まれた。そのまま斜め上に、引き上げる。


∂ノ# ゚听)「これまでだ、王!おとなしく私に救われろ!」


やはりその図体に見合った体重の持ち主らしく、一応ポイに乗って入るが、
ヒートさんの腕がぷるぷると震えている。先ほどからすくい続けて来た疲れもあるのだろう。
タモの上でうねうねと身を捩らす王。和紙の部分というより、ふちで持ち上げている感じだ。

お椀までもう少し……!



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:50:30.95 ID:PwX5P/6BO
  _、_
( ,_ノ` )「……!」

∂ノ ゚听)「……!」

(´<_`;)「……」

(;´_ゝ`)「……」

(;'A`)「……」

∬´_ゝ`)「……」


lw´‐ _‐ノv「……試合、終了」


── ── ────── ─────



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:51:10.30 ID:RcI35+5/0
 _、_  
( ,_ノ` )「……去年よりも腕を上げたな。いい試合だった」

∂ノ ゚听)「……ありがとうございました」

 _、_  
( ,_ノ` )「……こうやって、勝つためではない、純粋に力を競う金魚すくいもたまにはいいものだな」

∂ノ ゚听)「……」

 _、_  
( ,_ノ` )「だからといって、勝つためのすくいをやめるつもりはないが」

∂ノ ゚听)「……私に口を出す資格はありません」



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:51:47.69 ID:RcI35+5/0
浴衣の捲り上がった袖を治す振りをしてさりげなく、ヒートさんは目を逸らす。
男の方は戦いの後の一服を、満足気に吸っている。

勝ち負けにこだわっている訳では無さそうだ、勝負の後の心地よい疲労感に浸っているのだろう。


 _、_  
( ,_ノ` )y━・~「……。お互いに来年まで、努力を怠らないように」

∂ノ ゚听)「その点は平気です。金魚すくいのために水泳部に入ったような物ですから」

 _、_  
( ,_ノ` )y━・~「……その思い、いつか必ず実を結ぶだろう」

∂ノ ゚听)「……。では…」

 _、_  
( ,_ノ` )y━・~「……また会う日まで」



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:52:56.18 ID:RcI35+5/0
∂ノ ゚听)「……はぁ」


肩を落とし、ため息をつくヒートさん。
金魚は全部、お金だけ払って水槽に戻してしまった。
金魚救いと金魚すくいの違いは、持ち帰るか持ち帰らないかの違いらしい。

……それにしても落ち込んでいるなぁ。
あそこまで凹んでいるのを見ると、元気づけたくなってしまうじゃないか。


(´<_` )「……ヒートさん」

∂ノ ゚听)「うん?」

(´<_`=j「あの あ、あんず飴多く買い過ぎちゃって。あげますよ」

∂ノ* ゚听)「わっ ありがとうございます!」


(#´_ゝ`)「あらやだどっくん。あすこで青春してるやつがいるわよ」

(;'A`)「何その口調」

(#´_ゝ`)「……俺と同じ顔のふいんきイケメンのくせにっ!」

(;'A`)「……一応、弟者の方がイケメンだって認めてるんだ」



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:54:59.24 ID:PwX5P/6BO
ドクオはさっきの金魚すくいのときに金を引き出しに行っていたらしく、
しわだらけの年老いた樋口さんとは比べ物にならない、美しい樋口さんを返してくれた。


金魚すくい屋から離れると、さっきの射的屋のおっさんが見えた。
もう随分と入り口に近づいて来たようだ。さっき一度見た店を見かけるようになった。

どこからか漂ってくるジャガバタの甘い香り。スパイスの効いた、香ばしい匂いを放つチキン。
だがもう、さっきのように胃が刺激される事は無い。

途中焼き鳥を買ったり、クレープを食べたり、すっかり腹もふくれたからだ。
ゴミ箱が見当たらなかったので、射的の時から持ちっぱなしの袋に全て入れておく事にした。

荷物(主に兄者の外れクジの景品)が多いので、少しでもまとめておかないと邪魔になる。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:58:23.43 ID:PwX5P/6BO
(´<_` )「あぁ、もう出口か」

( ´_ゝ`)「長いようで、結構短かったな」

('A`)「もう二時間はここにいるけどね」

('A`)「あ、花火」


ドクオの声に反応し、ふと空を見上げる。
大量の頭の上、商店街入り口の上、一番星の上に、花火が見えた。

さっきまで花火は無かったはずだが…。携帯の時計を見ると、7時を回った所だった。だからか。


色鮮やかな、夏の風物詩。
目の前で、星が昇り、花を咲かせ、その花びらをはかなげに散らせて行く。
太鼓を叩くような低い音が一発、鼓膜をびりびりとふるわせて、そのまま空の星屑に紛れていった。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 05:59:32.27 ID:RcI35+5/0
∬´_ゝ`)「そういえば今日って、稲城川花火大会だったんだっけ?」

lw´‐ _‐ノv「覚えていない……ただ一つ思う事は、※に似ているということ……」

∬´_ゝ`)「そうねー似てるわねーよくわからないけどー」

( ´_ゝ`)「俺は姉者達の会話がわからない」

('A`)「たーまやー」

∂ノ* ゚听)「かーぎやぁぁぁー!!」


(´<_` )「……綺麗だな」


目の前で幾多もの色に変わる花火を眺めながら、一人呟く。
その言葉は、空の花へと向けられた物だったのか、
俺の隣で、顔をその花に染められ艶やかに輝くヒートさんに向けて行った物だったのか。

思い返しても、よくわからない。



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:00:57.80 ID:RcI35+5/0
∂ノ* ゚听)「あーっ! やっぱお祭りきてよかったぁー!!」

(´<_`=j「……そうですね」


('A`)「弟者何にたにたしてんだろ」

( ´_ゝ`)「発情期なんだろ」

('A`)「……酷い言い方だな」


商店街全体が花火に照らされる中、出口へ近づく。
ゴミ箱があったので、手に持っているゴミを捨てに行こうとしたらヒートさんに呼び止められた。


∂ノ ゚听)「ゴミならあたしが捨てにいきますよっ!」

(´<_` )「え、いや、いいですよ。女の子にそんな事させるなんて」

∂ノ* ゚听)「でもさっき杏飴もらったし! いいんですお礼です!」

(´<_` )「お礼なんていいのに…」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:03:31.06 ID:PwX5P/6BO
だけど、断り続けるのも失礼というものだ。結局お言葉に甘えて、ビニール袋を差し出した。
人ごみをかき分け、ゴミ箱へ走って行くヒートさん。

着物の裾を踏まないように、めくれないように走っているのがなんとも……。
時々正面から人にぶつかり、よたよたとバランスを崩したりしている。やっぱり俺が行けばよかった。

だが、ようやくゴミ箱にたどり着いたようだ。袋から箸やパックをわけて捨てているのが見えた。


……そういや、ゴミ分別して渡した方がよかったかな。
というかあの袋の中ゴミだけだったっけ?

………




( ゚<_ ゚ )「アッ─」



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:04:56.78 ID:RcI35+5/0

気づいた時には、もう遅かった。
俺が気づくのと同時に、ゴミ箱の前で何かを手に持って硬直しているヒートさんが見えた。

何かを摘みあげながら、今度は人にぶつかる事無く俺に真っ直ぐ進んでくる。


∂ノ;凵G)




半泣きでこっちに走ってくるヒートさん

戸惑う俺

何事かと目を見張る姉者

何がおきたのか理解してないドクオと兄者

スーパーボールすくいをしているシュールさん


∂ノ;凵G)「……まさかあんな物を持ってるなんてぇぇぇ……」

∂ノ;-;)’



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:06:05.29 ID:RcI35+5/0
くっ と息を飲み、俺の目をじっと見つめてきた。
目の奥、暗闇、絶望と、嫌悪と、裏切りの色……が見えた気がした。
ヒートさんは手に持っていた何かを、放り投げ、俺の胸にぼこんと当たって地面に落ちた。

細かく振動するそれ。今まで障害物としか思っていなかった赤の他人が、
俺の脳味噌に瞬く間に人々として再認識される。

目線が 指先が 地面の棒に向けられて、周りの目線を意識して、前を向いたら


ヒートさんが  ゆっくりと  俺に向けて  口を 開 き

そして一言




∂ノ;凵G)「気持悪い」



( <_  )「」



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:09:07.65 ID:PwX5P/6BO
コンマ1秒の間に、弁解 誤解 兄者 俺は そんなやつじゃ

そんな言葉が浮かんで消えて、最後にはなぜかヒートさんは初な人だと。頭の中でそんな結論に達して。


間髪入れずに響く衝撃!




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154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:11:10.57 ID:PwX5P/6BO
家に帰ってから 俺は泣いた


覚えているのは、ヒートさんにビンタを食らわせられた事
兄者がにやにやしながら俺を快方してくれた事
シュールさんが俺に何か言った後、二人で商店街を後にしたのを見送った後
最後にヒートさんに、ちらりと嫌悪の眼差しを向けられた事

その後は あまり 覚えていない


ただ一つ心に大きく残っている思い
なんで俺はこんなにショックを受けているのか

今まで惚れっぽい兄者の事をどうにも理解出来なかったが、
今はあの、失恋の後よく泣きわめいている兄者の気持が少しわかった

……あぁ、そうか。あれが

俺の


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155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:11:32.14 ID:RcI35+5/0


(う<_` ゚)メソメソ




(;'A`)「ねぇ、あれなんで泣いてんの?なんで弟者泣いてんの?」

(;´_ゝ`)「俺にも分らん。でも聞いてはいけない気がする…」

∬*´_ゝ`)「初恋…失恋…そして旅立ち。青春よねぇ」



明日は、美府でツチノコを捕まえる事だけに専念しようと。
心の中で、俺は人知れず誓った。



おわり



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