( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:19:56.97 ID:QWEHerFE0
準備万端? のようです
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:21:31.87 ID:QWEHerFE0
- 駐車場の横にある小さな物置の前に行くと、
フサさんはがたがたと乱暴に倉庫を開けて、ほこりっぽい荷物の中を漁り始めた。
スキー板、七輪、古くさいおもちゃが大量に入った箱等、
かび臭さなのか生活臭なのかよくわからない臭いが辺りに滲み出て来る。
いぶかしげに眉を動かして、兄者はフサさんのケツを見ている。
一体何を出すつもりなんだろう。
ミ,,゚Д゚彡「確かこの辺りにあった気がするんだーがー……!!」
ミ,,゚Д゚彡「あったあった! ほれ!」
フサさんは物置の中からなにやら棒のような物を引っ掴むと、それを俺たちの足下にぶん投げる。
からんからんと軽い音を立てて、棒のような物が飛び出して来た。
竹で出来た、さきっちょがv字に分かれている細い棒。
ドクオが恐る恐るそれを掴み、しげしげと眺め回す。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:22:37.00 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「これって、フサさんが持ってたさすまたと同じ?」
ミ,,゚Д゚彡「さすまたというより、捕蛇棒っていう蛇捕り専用の棒だな」
俺は地面に打ち捨てられた棒の一本を拾い、少し振ってみた。
風切り音とともに、竹で出来たその棒はよくしなった。
中は空洞になっているようなので、そんなに重くない。
ミ,,゚Д゚彡「これさえあれば、どんな蛇も一発でしとめられるって寸法よ!」
倉庫から上半身をあげたフサさんは、俺たちがぎこちなく振り回している小さな捕蛇棒を誇らしげな目で見た。
フサさんは物置の扉をしめ、玄関先に放り出してあった捕蛇棒とマムシが入った瓶を掴むと、
俺たちの目の前で瓶を逆さまにした。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:25:04.24 ID:QWEHerFE0
- 今まで瓶底にとぐろをまいてぴくりとも動かなかったマムシが、
にょろにょろといやになまなましい動きで、瓶の口から頭を出し、舌を震わせる。
直接日の光に当たり、マムシの茶色い鱗が怪しく照り返す。
(;'A`)「マ……マムシっ! マムシなんで出すんですか!」
ミ,,゚Д゚彡「何言ってやがる。こいつを練習台にするんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「ほれ、早く捕まえないと噛まれるぞー」
何言ってんだフサさんは。マムシに噛まれると死ぬんだ。死ぬんだぞ。
呆気にとられてしまったが、俺が思考をショートさせているうちにもマムシは瓶から出終わり、
地面に一度とぐろを巻いた後、足のない体でうごめきだす。
兄者の方向に
(;´_ゝ`)「ぎゃーー!! くるなっ! 弟者の方に行け! ドクオでもいい!」
(´<_`;)「こっ 断る! 絶対断る! こっちくんな!」
(;'A`)「こっちくるなこっちくるなこっちくるなこっちくるな」
ミ,,゚Д゚彡「はっはっはっは」
(;´_ゝ`)「笑い事じゃねぇ!!」
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:27:42.04 ID:QWEHerFE0
- しばらく俺たちの慌てふためく様子をフサさんはにやにやして見ていたが(命がかかってるんだから慌てふためきもするだろう)
涙目になって怒鳴る兄者の表情を見て仕方ねぇなぁとこぼすと、
自分が持っている、茶色くニスが塗ってある捕蛇棒をマムシに向けた。
ミ,,゚Д゚彡「いいか。蛇ってのは胴体を押さえてもどうってことねぇ生きもんだ」
ミ,,゚Д゚彡「胴体を押さえた所で、頭が動ければまだ噛み付く事ができるからな」
ミ,,゚Д゚彡「そこでだ。逆に言えば、頭さえ封じられれば蛇は完璧に動けなくなる」
真剣な顔で語った後、心無しか兄者を追いかける形でするすると動き回るマムシ
を視界から外す事の無いように、首をきょろきょろと動かしながら、フサさんは言う。
ミ,,゚Д゚彡「そこの汗ばんでるチビ。お前、噛まれるのとしっぽではたかれるのだったらどっちが嫌だ?」
(;'A`)「そりゃあ噛まれる方が嫌に決まってます」
ミ,,゚Д゚彡「そうだな。という訳で、蛇の頭、というよりは首根っこか。その辺りを狙って捕蛇棒で押さえてみろ」
ドクオは小さく喉を鳴らすと、後ろでうねっているマムシに体を向ける。
それに対してマムシはその場から逃げ出す事無く、挑発するかのように細い舌をちろちろと這わせている。
へっぴり腰で捕蛇棒を前に突き出すドクオに少し笑った。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:29:16.54 ID:QWEHerFE0
- (;'A`)「へび、へびびびびび」
( ´_ゝ`)「頑張れドクオ!」
(;'A`)「標的が俺に向かった途端元気になるな!」
(´<_` )「応援してるから頑張れドクオ」
(;A;)「ひどい! 弟者はそう言う事言わないと思ってたのに!」
膝を震わせへっぴり腰のまま、ドクオはその場から動かない。
マムシに射すくめられてしまったようで、今のドクオはまるで哀れな蛙のようだ。
固まっている間にも、マムシはにじり寄るようにドクオとの距離を詰める。
詰まるごとに、血の気の悪そうなドクオの顔色が余計に悪くなる。
真夏の暑さから来る頬の赤さと、全体的な土色が混ざって、形容のしがたい色になっていた。
ドクオの表情のせいで全体的に緊張感の無い空気が漂っている。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:32:27.91 ID:QWEHerFE0
- (;'A`)「あqwせdrftgyふじこ」
ミ,,゚Д゚彡「あー やっぱりいきなりは無理か」
やれやれとでも言いたそうな動きで、フサさんがドクオの前に立つ。
そして蛇を一瞥し、捕蛇棒を構えると、一突き。
目にも留まらぬ早さで、フサさんが突き出した捕蛇棒はマムシの首根っこをとらえた。
地面に首を押し付けられ、どうにもできなくなったマムシは、
赤い口をかぱりと開き、悔しそうに身をよじっていた。
押さえつけたままフサさんはマムシのあごをつかみ、
ポケットに入っていたらしい小さなナイフで、牙を欠いた。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:35:51.16 ID:QWEHerFE0
- (;'A`)「ぇええええええ ちょっと、牙とるの遅いですよ!」
(;'A`)「もし噛まれてたら俺死んでましたよ!」
ミ,,゚Д゚彡「すまんすまん。ちょっと忘れててな」
(;'A`)「忘れてるで済ますつもりか!」
まったく申し訳なさそうには見えないが、適当に返事をした後
フサさんはさっき持っていた瓶にマムシを頭から突っ込み、
ふたをして再度封印した。
マムシがいなくなった安堵感から、俺を含む三人の顔に安堵の色が広がった。
よく考えると、あんな物に普通に会える田舎に住んでいるんだから
あれくらいは扱えないと駄目なんだろうか。地元民強い
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:38:17.21 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「というか練習相手がいきなりマムシってハードル高すぎると思うんですが」
ミ,,゚Д゚彡「ちっこい階段をちまちま上るより、がけを登りきったときの方が達成感は高いし、一気に上に行けるだろ?」
( ´_ゝ`)「かかる時間は同じのような気もするんですけどね」
ミ,,゚Д゚彡「細かい事を指摘するような男は嫌われるぞ」
( ´_ゞ`)「……」
ミ,,゚Д゚彡「とりあえずこれやるから頑張りな! 応援してるぜ!」
とにかく、これで蛇の捕まえ方は覚えた。虫取り網って手もあるにはあるが、
この捕蛇棒で首を封印してから捕まえた方がどう考えても危険は少なそうだ。
そのかわり、射程距離が短い上、捕蛇棒の先のv字の部分の隙間は網の口よりももちろん小さい。
この頼り無さげな棒で蛇の首を止められるかと言われたら、俺は自信が無いと答える。
まぁ、無いよりはましか。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:41:11.72 ID:QWEHerFE0
- ( ´_ゝ`)「そうだ、遊びほうけてる場合じゃないぞ」
('A`)「俺は命の危険が迫ってたんだけどね」
(´<_` )「内藤さん所に帰らないと。あんまり家から離れてる帰れないかもしれない」
('A`)「俺の命ってスルーされるレベルなの? ねぇ」
( ´_ゝ`)「というか、もう十分離れ過ぎじゃね?」
('A`)「……もういいよ」
言われて気付く。
道路の向こうには里芋畑と田んぼ、
そしてこのあたりは民家が密集している所なのだが、
ここに初めて来たばかり。全部同じような家に見えるし、これといって特徴がある家は無い。
どこをどう見ても山に囲まれていて、蝉時雨が聞こえていて、道路で舗装されている所とない所がある。
内藤さんの家が茅葺きだった事に驚いたのは覚えているのだが、
この辺りで茅葺きというのは別段珍しい物でもないらしい。
瓦屋根の家もあれば、フサさんの家のようにそこまで古くは見えない家もある。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:45:58.38 ID:QWEHerFE0
- 同じような物ばかりで戸惑う俺達。
そんな俺たちを笑うように、遠くの方でひまわりが風にあわせて頭をゆらゆらさせているのが見えた。
視界に入るのは夏ばかり
(;´_ゝ`)「やべぇ。帰り道わからなそうだぞ」
(´<_` )「ドクオ、どこからどうやってきたか覚えてるか?」
('A`)「俺は兄者とかが覚えてるだろうと思って、そんな事一度も考えずに歩いてたから……」
( ´_ゝ`)「俺は し っ か り 者 の弟者がばっちり覚えといてくれてると思ってた」
(´<_` )「なんでそこを強調するんだ」
家に帰ろうとフサさんの家の敷地から道路に足を踏み出したはいいものの、
右から来たか、左から来たかすら覚えていない。
途中で変なポスターを見たりした事は覚えているのだが、この位置からそのポスターは見えない。
焼け付くようなアスファルトの上で、未だ立ちこめる雨上がりの臭いに包まれながら
あーだこーだと言い争っていると、見るに見かねたらしいフサさんが話しかけてきた。
顔には同情の色が浮かんでいるが、瞳の奥に好奇心がちらちらと見える気がする。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:50:11.69 ID:QWEHerFE0
- ミ,,゚Д゚彡「お前ら、帰り道を忘れたな?」
(´<_`;)「……」
ミ,,゚Д゚彡「帰るのって内藤の家までだろう? そこまで遠い距離でもないから、送って行ってやるよ!」
('A`)「えっ 本当ですか?」
ドクオの素っ頓狂な声に、フサさんはあったりまえよう!と元気よく返す。
さっきの様子を見るに、昔からの知り合いなのだろうから
道案内を頼んでも大丈夫だろう。というか地元民だし。
俺についてこいと言わんばかりに、フサさんは鼻歌を歌いながら元気に歩き出す。
その逞しい躯を見ながら、俺たちはアヒルの子供のようにその後をついて行った。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:52:16.41 ID:QWEHerFE0
- 五分も歩かないうちに、内藤さんの家が見えた。
茅葺き屋根の古い家の前に、さっき乗っていたバンが見える。
中身は全部運び出された後なのか、すっからかんだ。
(´<_` )「そんなに遠くじゃなかったのか……」
内藤さんは既に家の中にいるのだろう。
生け垣の真ん中辺りにぽっかりと空いた空間に足を踏み入れ、
敷地内に入って、呼び鈴を押そうとした時だ。
俺の前にずずいと出たフサさんが、手をメガホン状にして口にあてると大声で
ミ,,゚Д゚彡「なぁあーーいとおぉーー!!!」
(´<_` )「!?」
('A`)「な、なにをいきなり」
ミ,,゚Д゚彡「昔から、遊びに来た時はこうやって呼ぶもんだって決まってんだよ!」
ミ,,゚Д゚彡「なーいーとーおー!!!」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:56:12.68 ID:QWEHerFE0
- フサさんの大声は俺達の鼓膜をびりびりとふるわせ、
真夏の蝉どもの鳴き声を一時的に黙らせ、鳥達は一瞬静まり、辺りの時間を止めた。
その震撼させる程の大声ははやはり家の中にも届いたらしく、
しばらくすると戸がぎしぴたと開いた。
J( 'ー`)し「その声はフサくんかい?」
J( 'ー`)し「ヒサシブリダナヤ-ゲンキニシトッタケ?」
ミ,,゚Д゚彡「おばさん、なまりきつすぎて何言ってんのかわかんねぇよ」
J( 'ー`)し「ごめんね。ごめんね」
俺の胸辺りまでしか身長が無い、背の丸まったおばあさん。
古い玄関の入り口から入る風に、使い込まれたエプロンがたなびく。
ぺこりぺこりと、おばあさんは心底申し訳なさそうに頭を下げている。
フサさんはそこまで強く言ったつもりではないようなので、
逆にフサさんの方が困惑してしまっていた。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 04:58:21.94 ID:QWEHerFE0
- ん、そういえばこの人どっかで見た事がある気がする。
どこだったかな……。最近いろんな事が多すぎて情報処理が追いつかん。
一人このおばあさんの正体を思い出そうと、物覚えの悪い脳みそと格闘していると、
フサさんの大きな体の脇からひょっこり顔をのぞかせたおばあさんが、
サンダルを突っかけてちょこちょこと俺の前にやった来た。
J( 'ー`)し「ほらそんな所にいると日に焼けちゃうから入りなさいな」
(´<_` )「あ? あ、はいすいませんお邪魔します」
J( 'ー`)し「ほらフサ君もおいで。ふ菓子ごちそうしてあげるからね」
ミ*,゚Д゚彡「俺はこいつらを送りにきただけなんで! わはは!」
( ´_ゝ`)「ふっさん嬉しそうだな」
ミ,,゚Д゚彡「うれしくなんか! ねぇよ!」
(;´_ゝ`)「ギブ! 首締めないで! ごめんなさい!」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:02:12.24 ID:QWEHerFE0
- 古い家のせいか、姉者の家やフサさんの家にあるような北国仕様玄関ではない。
ただの引き戸になっていて、その引き戸の脇には『内藤』と古めかしい文字で書かれた
表札と、赤錆と塗装の入り交じった赤をした郵便受けがあった。
塗装が剥げて灰色がかった茶色をしている玄関をくぐると、
廊下を挟んで板の間と、その奥に広々とした和室があるのが見えた。
( ´_ゝ`)「おぉ……。歴史を感じる」
J( 'ー`)し「ココハネェ、アタシノオジイサンノコロカラアッテネェ……」
( ´_ゝ`)「へぇそうなんですか。ふ菓子って栄養あるらしいですね」
(´<_` )「わからないからって適当に返事を返すな」
うぐいす張りのように鳴く廊下を抜けると、いろりのついた古めかしい板の間に案内された。
十畳程の部屋の真ん中にいろりがあり、今は土瓶が火にかけられて、ゆっくりと湯気を吐き出していた。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:05:57.07 ID:QWEHerFE0
- そしてそのいろりから一番離れた畳の上で、転がっている肉塊を発見する。
朝見たポロシャツは茶色く汗ばみ、向きでたふくらはぎのすね毛の合間を、汗が伝っている。
見ているだけで暑くなる。見苦しい。不快だ。
( ´_ゝ`)「弟者、眉にしわよってるぞ」
(´<_` )「おぉっと、俺のイケメンフェイスが」
( ´_ゝ`)「死ね!」
('A`)「死ね!」
(´<_` )「冗談だよ、冗談」
愚民どもは放っておき、内藤さんに近づく。
俺が近くに寄ったのに気付いたようで、内藤さんはじっとりとした目線で俺に何事かを訴えかけて来る。
一体何が内藤さんにここまでダメージを与えたのだろうか……。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:08:11.52 ID:QWEHerFE0
- ( ´ω` )「……」
(´<_` )「……すんません声小さすぎて聞こえないんですが」
( ´ω` )「……不覚……この僕とした事が……」
(´<_` )「何が」
( ´ω` )「肉を……買い忘れたお……」
(´<_` )「肉?」
( ´ω` )「せっかくBBQしようと思ったのに、街で肉を買い忘れたんだお……」
( ´,_ゝ`)「wwwwwwwwww」
(´<_,` )「兄者、笑うのは失礼だぞ」
( ´,_ゝ`)「デブの源は肉という事が証明されたな」
('A`)「いや、炭水化物もあるでしょ」
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:11:19.74 ID:QWEHerFE0
- ( ゚ω゚)「言っとくけど! これは僕にとって死活問題なんだお!」
ミ,,゚Д゚彡「何が死活問題だって?」
( ゚ω゚)「げぇっ! フサ君!」
今まで玄関でおばあさんと話していたのか、フサさんがのっそりと入り口に立つ。
それを見た内藤さんは、小さく悲鳴をあげ、どたばたと畳を毛羽立たせながら奥の間に逃げようとする。
が、肉塊よりも筋骨隆々のフサさんの方がもちろん内藤さんより素早い訳で。
フサさんは素早く内藤さんに馬乗りになり、首を締め上げた。
常人よりも太い内藤さん首に筋肉質のフサさんの腕がぐいぐいと食い込む。
内藤さんの顔は白黒に変化し、白目をむき出した。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:14:16.28 ID:QWEHerFE0
- ( ゚ω゚)「げぇぇぇー!! 死ぬ! 死ぬ!」
ミ*,゚Д゚彡「久しぶりだなお前ー! 何年帰ってこなかった! 5年!?10年!?」
( ゚ω゚)「そんな離れてないお! というか離して! 死ぬ!死んじゃうおぉぉぉー!」
ミ,,゚Д゚彡「すまねぇすまねぇ! それにしても本当にお前は変わってないな!」
( ´ω` )「お父さんが手を振ってたお……。だいたい、三年ぶりですお」
ミ,,゚Д゚彡「もうそんななのか! お前帰って来る機会あんまりないんだから顔くらい見せろ!」
( ゚ω゚)「ぐぇえええー!!!」
(;´_ゝ`)「ふっさん!死んじゃいますって!」
ミ,,゚Д゚彡「こりゃうっかり」
( ω )「…………」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:18:01.87 ID:QWEHerFE0
- なんか色々な液体をまき散らしたまま力つきた内藤さんは転がしておいて、
俺はおばあさんからふ菓子をもらい、フサさんの昔話に付き合う事にした。
ミ,,゚Д゚彡「内藤は俺の小学校の後輩でよー」
ミ,,゚Д゚彡「学校行くときにいつもついてきててなー。俺の腰巾着みたいなもんだったんだ」
(;^ω^)「だって学区同じだから一緒に行くしか……ブツブツ」
ミ,,゚Д゚彡「んでなー あいつ途中でうんこ漏らしたりとかよー」
(;^ω^)「もうこれ以上は……後生ですから……」
ミ,,゚Д゚彡「雪の日に二人で道路に小便を……」
( ´ω` )「だから……」
内藤さんの言う事はあえてスルーしているのか、
どこか遠い所を見つめながら、フサさんは内藤さんとの思いでを懐かしげに語る。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:20:37.38 ID:QWEHerFE0
- その横で内藤さんは、もうこれ以上は聞きたくないと言った様子でしかめっ面をしていたが、
フサさんの思い出話の内容や、さっきまでの扱いを見ると、フサさんに口出しはできないようだった。
内藤さんが怪しいきのこを食べてトリップした話の山場にさしかかった頃だ。
しょぼくれてしおしおになっている内藤さんを見た俺は、少し空気を変えてやろうかと思い、
内藤さんに話を振った。少し聞きたい事もあったし。
(´<_` )「内藤さんって、中学の頃にここに引っ越して来たんですよね」
( ´ω` )「……いきなりなんだお弟者君」
(´<_` )「引っ越してくる前。内藤さんが田代にいた頃の話を聞きたいなーと思って。義兄さんとどんなだったのとかね」
ミ,,゚Д゚彡「ちょっ 俺の話はまだ……」
J( 'ー`)し「フサ君、ほら米庭うどんお家にもって返りなさい」
ミ,,゚Д゚彡「あ、はい」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:24:13.50 ID:QWEHerFE0
- まだ話足りなさそうだったが、おばあさんに手を引かれ、
腰が低い姿勢でのろのろと台所へ向かって行った。
俺は内藤さんの方に向き直し、話をしてくれと目で訴える。
内藤さんは大きなため息を一つついた後、たるんだあごをさすりながら話してくれた。
( ^ω^)「親父が体弱い人で、田代の工業誘致地帯の工場で働いてた時に体調を崩して」
( ^ω^)「僕が中学に上がる頃、療養の為にかーちゃんの実家のこの家に引っ越して来たんだお」
( ´ω` )「だけどおやじは僕が高校卒業の頃に死んじゃって……」
( ^ω^)「そのまま僕は出稼ぎの為に、卒業後、田代の製材所に勤める事にしたんだお!」
(´<_` )「なかなか忙しい人生を送ってるんですね」
( ´ω` )「僕も僕なりに大変なんだお? 大人を甘く見ちゃだめだめお」
(´<_` )「はいはい」
内藤さんの父親が死んでいたとは。
騒々しいアブラゼミやミンミンゼミの鳴き声に混ざるように話す内藤さんの声には、
懐かしさとともにどこか物悲しさを含んでいるように思えて、少ししんみりした気持ちになった。
この人の能天気さも、これらの辛い出来事を乗り越える為に身に付けた、一種の生活の知恵なのかも……
……そんな事無いか。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:28:57.03 ID:QWEHerFE0
- その日の夕食は、あの後フサさんが持って来てくれた里芋の煮付けと、
近くの農家から貰ったという、夏野菜の盛り合わせ。
そして塩漬け保存しておいたわらびのお味噌汁。きんぴらごぼうなどなど
小さなテーブルに予備のちゃぶ台をくっつけて、和やかな雰囲気で夕食を食べる。
くすんだ天井についた、ずいぶんと光量を失った蛍光灯の下での食事は、
俺の家とも、姉者の家とも違う、独特の雰囲気があった。
それにしてもなぜ他人の家の飲み物というのはこんなに味が気になるんだろう。
( ´ω` )「BBQ……」
(´<_` )「……明日やりましょうよ内藤さん」
( ´ω` )「うん……」
( ´_ゝ`)「俺は別に野菜だけでもいいんですけどね」
( ´ω` )「……そうかお……」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:35:03.10 ID:QWEHerFE0
- J( 'ー`)し「ほらもっと食べなさい若いんだから」
('A`)「お、俺は小食なんで……」
J( 'ー`)し「ほらほら」
('A`)「いやいや」
J( 'ー`)し「ほらほら」
(;'A`)「いやい(ry
問答無用でご飯をお椀に盛りつけられているドクオを横目に見ながら、
俺たちは明日の計画を立てる事にした。
今日が四日目。ここを去るのは明後日。東京に帰るのは明々後日。
少し辛めのきんぴらをお茶で流し込みながら、
ずりずりとけつ移動で兄者のそばに移動する。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:35:21.26 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「ときに兄者。明日はどうする」
( ´_ゝ`)「そうだな、ふっさんに貰った捕蛇棒を持って、この辺りを散策してみるか」
(´<_` )「この辺りって言っても、ちょっと行くとすぐ山だからなぁ。入るならともかく迷ったら困るし」
( ´_ゝ`)「ここは内藤さんに案内してもらった方がよくないか」
(´<_` )「んー……。そうだな。 内藤さん、内藤さん」
もそもそとわらびを咀嚼している内藤さんに、兄者が話しかけた。
内藤さんはタンパク質を接種出来なかったせいなのか、いつもよりもやつれてみえる。
内藤さんがわらびを飲み込むまで数分。
かたりと箸を置いたのを俺が確認すると同時に、内藤さんがこちらを向いた。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:38:54.02 ID:QWEHerFE0
- ( ´ω` )「なんだお」
(´<_` )「明日つちのこ探しに本格的に乗り出そうと思うんですけど、どこかおすすめスポットはありますか?」
( ´ω` )「河原は行ってみたかお?」
(´<_` )「はい」
( ^ω^)「んー 僕もこの村でつちのこなんてけったいなもの見た事も無いから、よくわからんお」
( ^ω^)「シャキンとかとも田代の用水路とかで探しただけだし。しかも一回だけ」
( ´_ゝ`)ボソリ「ヤクタタズ」
(^ω^#)彡「んっ!」
( ´_ゝ`)「いえなんでも」
今日の内藤さんは全体的に頼りに出来ないので、仕方なくドクオに聞いてみる事にした。
前に山でぷち遭難した時につちのこに会ったと言っていたし、
改めてその事を聞き出してみれば、新たな発見があるかもしれない。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:45:03.07 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「前にさ、つちのこ見た事あるって言ってたよな」
('A`)「あぁ、見たよ。でもそれもう話さなかったっけ」
( ´_ゝ`)「聞いたけど、もう一度改めて聞いてみたいと思って。なんか細かい事を覚えてないか?」
('A`)「といってもなぁ」
うなじの辺りをぼりぼりと掻きむしりながらうなる。空中にふけが飛び散るのが見える。
前は、蛇の色が茶褐色だったとしか言わなかった。
それ以外にももう少し覚えている事くらいあるだろうに。
だがあの時は、まだ俺たちに対して警戒心を解いていなかったから
あれだけしか言わなかったのだと勝手に解釈していたのだが、
本当に何も覚えていないのか。物覚えの悪いやつだ。
あぁ、だから道に迷って遭難するのか。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:46:24.43 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「まだ若いんだからもう少し頑張れよ」
('A`)「うーむ 茶褐色の蛇……どこで会ったんだっけ」
( ´_ゝ`)「そこからかよ……」
('A`)「そうだ。谷川で涼もうと思って岩に座ってたら、出て来たんだ」
(´<_` )「どういう風に」
('A`)「岩の上に寝っ転がってたら、茂みの方でなんか変な鳴き声が」
(´<_` )「鳴き声?」
('A`)「あー どうだったかな…。なんかぐおーっておっさんのいびきみたいのが聞こえて」
( ´_ゝ`)「いびき? 蛇ならシャーとかそういう声だろう」
(´<_` )「未知の蛇つちのこだぞ。鳴き声もそこらの蛇とは違うんだろう」
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:49:34.39 ID:QWEHerFE0
- ('A`)「まぁ聞け、俺の話を。それで、いびきみたいな音が気になって近づいて行ったら」
('A`)「俺の頭上の木の枝からにょろりと」
( ´_ゝ`)「にょろりと?」
('A`)「つtJ( 'ー`)し「ホラワカインダカラモットイッパイタベナサイ」
(;'A`)「おわっ もう大丈夫ですよほらお腹いっぱい!」
部屋の隅っこで頭をくっつけて三人でこそこそ喋っていたのがいけなかったのか。
振り向くと、内藤さんのお母さんが顔中しわくちゃにした笑顔で、
しゃもじを掴んで右手を前に突き出していた。
どうやらお茶碗をよこせと言っているようだったが、
俺達の腹はこれ以上飯が入る余裕もなかったので、丁重にお断りしておいた。
残念そうなおばあさん。しょんぼりとした様子で内藤さんの食器を片付けようといているおばあさんを見ていると、
なんだかとても悪い事をしてしまった気になって来た。
お年寄りというのはおしゃべりが好きだと聞く。
バスや電車に乗った時、隣にご老人がいるとすぐに話しかけて来る。
もしかしたらおばあさんも、俺たちと喋る切っ掛け、というか何か話したいから
こうして俺たちにおかわりを要求して来たのではないかと思い、一度思うとその疑いは消える事がなく、
ちくりとした胸の痛みを消すため、俺はおばあさんを呼び止めた。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:51:49.16 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「あの」
J( 'ー`)し「はあい?」
話しかけると、さっきまでの沈んだ表情や声はどこへ行ったのか、
うってかわって明るい返事が返って来た。
それにしても、なんで俺たちと話したそうなんだろうか。
せっかく息子が久しぶりに帰って来たんだから
内藤さんと話せばいいのに。
(´<_` )「内藤さんのお母さんは、つちのこって知ってますか?」
J( 'ー`)し「つちのこ?」
手を頬に当て、しばらく考えていた様子だったが、
すぐに俺たちの方を向き、思い出した内容を丁寧に教えてくれた。
所々ひどく訛っていて聞き取れない所があったが、それは仕方がないだろう。
そこは雰囲気だけ受け取って、何となくの意味を覚えておけば大丈夫か。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:55:44.70 ID:QWEHerFE0
- J( 'ー`)し「私がここに越して来てすぐの事だったかしらねぇ」
J( 'ー`)し「お父さんとブーンと一緒に、美府渓谷の楊出巣っていう淵に行ったのね」
J( 'ー`)し「ソコデフタリガツリヲシテイルヨウスヲトオクカラミテイタンダケド」
J( 'ー`)し「途中、私が用を足しに茂みに入ろうと思ったら、変な蛇がいてねぇ」
J( 'ー`)し「寸胴で、しっぽが短くて、青い…、青黒い色をした蛇だったわ」
J( 'ー`)し「私驚いて尿意なんてどこか行ってしまってね。腰を抜かして黙ってみてたら」
J( 'ー`)し「ヒュウヒュウトヘンナオトヲダシナガラ、どこかに行ってしまったの」
J( 'ー`)し「その後村のご老人に効いたら、ばちへびって言ってたわ」
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 05:58:09.74 ID:QWEHerFE0
- これは結構重要な手がかりじゃないか。呼び止めて話を聞いた俺GJ
少し興奮して来たが、胸の高鳴りをぐっと押さえて俺は質問をする。
いったいいつの頃の話なのか。もう少し詳しい事は。ご老人とは誰なのか?
聞いて行く程、今まで霞がかかっていてよくわからなかったつちのこの全貌が明らかになって来た気がした。
内藤さんのおばあさん、えぇい長過ぎる。かーちゃんの話を熱心に聞いていると、
一段落ついた所で、かーちゃんが申し訳なさそうに口を開いた。
なんだろう、何か失礼な態度でもとってしまったか。
ここまでがっついて聞いている時点で失礼な態度も何もない気がするが、
俺は前へ乗り出した体を定位置に戻し、何を言われる事かと、心の中で身構えた。
J( 'ー`)し「あのぅ」
(´<_` )「ぁ はい なんでしょ」
J( 'ー`)し「あの子よりも若いあなた立ちにこういう事を聞くのもなんだけど」
J( 'ー`)し「あの子に、何か贈り物をしてあげたいの。何がいいかあなたたちに聞こうと思って」
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 06:01:20.30 ID:QWEHerFE0
- (´<_` )「贈り物?」
J( 'ー`)し「えぇ。あの子もなかなかここに帰ってこられないし、私ももう年でしょう?」
J( 'ー`)し「この年だとね……。言いたい事がある時に、言えないかもしれないじゃない……」
J( 'ー`)し「だからそういう事が起こる前に、あの子に何か送ってあげようと思って」
悲しそうにつぶやき、目を伏せるかーちゃん。
あぁ、この人は本当に内藤さんの事を愛しているのだなぁ。等と、この場にそぐわぬ考えを巡らした後、
返答に困り、妙なうなり声をあげる事となってしまった。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 06:04:21.72 ID:QWEHerFE0
- そして結局出した答えが
(´<_` )「あー うん そういうのは、自分で考えた方が内藤さんも嬉しいと思います」
(´<_` )「要は心です。ハート。ははは」
J( '-`)し「……そうねぇ。そうよねぇ……」
(´<_`;)「はは……はぁ……」
妙な空気になった。
ふと二人の存在が気になり後ろを向くと、そこには誰もいなかった。
妙な空気になりそうな予感でもしたのだろうか。
俺を置いてあいつら逃げたな
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/23(火) 06:05:21.64 ID:QWEHerFE0
- 外は真っ暗。
光に惑わされ寝ぼけるような蝉もいない。
聞こえるのは、山の木々が風にあおられる音と、ウシガエルの声。
俺たちは奥まった所にある座敷に案内された。
年期の入った布団が三枚敷かれていて、枕元には小さなランプが置いてあった。
風呂から上がってそんなに時間は経っていない。まだ湿ったままの髪の毛を、枕に横たわらせる。
蚊帳の外では蚊取り線香が炊かれていて、小さく光る赤い火の横に、蚊の死体が落ちていた。
開け放たれた障子の向こうでは、月に照らされた山が見える。
木で出来た不思議な影の、濃淡の奥にあるであろう輝く美府渓谷を想像しながら、俺は目を瞑った。
ドクオや兄者も疲れているのだろう。
特に何かを喋る事も無く、俺たちは泥のように眠った。
そして よがあけた!
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