( ^ω^)は空蝉のようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:05:42.86 ID:rtCl+gv/O
- 水が滴り落ちて、その下には小さな水溜まりができていた。
その水溜まりに足を荒々しく乗せて水しぶきを上げながら歩く。
壁に立て掛けられている松明の明かりが、それの姿を浮かび上がらせた。
(゚メ{w}。メ)「……」
首から裂けた肉を垂らし、白い骨を剥き出しにして歩く『蟻』。
大顎のある口を大きく開き、壁に手を当てながらゆっくりと歩く姿には松明の明かりが照らさせる。
それにより生まれた濃い陰りを体に纏わせながら『蟻』はひたすら足を動かしていた。
ξ;゚听)ξ「……あ」
(゚メ{w}。メ)「……やあ、ツン」
それから、しばらく歩いたところで『蟻』の目の前にツンなる女性が現れた。
ツンは『蟻』の姿を見ると絶句し、その場で電源の切れたロボットのように静止した。
ξ;゚听)ξ「あ、『蟻』……ど、どうしたのよ?」
ツンは額に汗を浮かべながら恐る恐る『蟻』に声を掛ける。
金色の巻き髪がこの通路を抜ける風により微かに揺れた。
(゚メ{w}。メ)「……『一回』死んでしまった……この体はもうダメだ……」
『蟻』辛そうな、呻きに似た声を漏らしながら言う。
虚ろな眼差しをツンに向けながら、『蟻』はまた足を動かした出した。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:07:04.97 ID:rtCl+gv/O
- ξ゚听)ξ「次は私が行くわ」
ツンは横に避けて道を空けると、すれ違いざまに言った。
(゚メ{w}。メ)「そっか……僕は体の調節をしなくちゃいけない……気をつけてね……『蠍』もいる」
『蟻』はツンの前を通り過ぎると、ゆっくりとした足取りのまま歩いて行く。
そして、背にいるツンに向かい小さな声で話し掛ける。
ξ゚听)ξ「……『蠍』が? 裏切ったの?」
(゚メ{w}。メ)「わからない……だけど、彼は『蟲』をあまりよく思ってなかった
……こうなるのは時間の問題だったのかもしれない……」
ξ゚听)ξ「殺しちゃっても?」
(゚メ{w}。メ)「……いいよ、彼には今後期待は出来ないだろう……」
ξ゚ー゚)ξ「了解」
ツンは『蟻』の言葉を聞くと、口の端を吊り上げて不敵に笑った。
松明の明かりに照らされて整った顔は美しく光っていた。
(゚メ{w}。メ)「……『空蝉』……か」
『蟻』はツンが動き出したことを知らせる足音を聞きながら、そう呟くと松明に照らされているが、それでも闇の残る道を歩いて行った。
――――第四話 『蠍と蜂』
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:07:50.59 ID:rtCl+gv/O
- (;'A`)「す、すみません! 誰か! 医者ァ!」
ドクオは街まで来ると、近くに建っていたこぢんまりとした病院というには小さい、ある診療所に駆け込むなり叫んだ。
(;-@∀@)「どうしたんだい!? 彼は! 酷い傷じゃないか!」
それからややあって診療所の奥から白衣を身に纏った、丸い眼鏡の似合う男が駆け付けた。
胸元に『朝日』と手書きの達筆な文字で書かれている。
(;'A`)「え、えっと……も、森の熊さんに襲われたんだ!」
(-@∀@)「それは大変だ! 早くこっちへ運んでくれ!」
(;'A`)「お、俺が運ぶのか!?」
(-@∀@)「最近持病のヘルニアが酷いんだよ!」
(;'A`)「担架とか無いのかよ……」
ドクオは仕方なく『空蝉』を背負ったまま、また歩きだし奥の診察室まで運んだ。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:08:44.91 ID:rtCl+gv/O
- *
('A`)「あぁ……疲れたぜぇ……」
ドクオは『空蝉』を運び終えると待ち合い室に戻り、簡素な椅子に腰掛けた。
固めのスポンジが入った椅子は長くすわると尻が痛くなりそうだ。
診療所内は静かだった。まあ、それは当たり前といえば当たり前なのだが。
辺りを見渡すと、看護士の姿が見えないことにドクオは気付いた。
('A`)「いないのか……? 一人じゃ大変だろうに……」
だが、それも最近ではなんら不思議でも無いことだった。
街の治安は悪い。機械技術は発達しておらず、まともな治療器具も無い。
医療技術は暮らしに困らないだけ発達しているが、医者の数は少ない。
あれもこれも全ては街にはこびる暴力集団のせいである。
彼らは暴力をものに言わせ、街を襲い自らの欲求を満たすために金品を奪い食糧を食らいつくした。
『蟷螂』と『空蝉』が戦闘した廃墟となった街はその集団に壊滅されたものだ。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:09:40.00 ID:rtCl+gv/O
- 集団は多数存在する。
『蟲』もその集団の一つであり、多少なりとも件の街や、この街を襲っている。
今のこの時代に柔らかな日差しの下で家族と穏やかな生活を送る事は到底出来ないのだ。
('A`)「……」
ドクオは自らのしたことを考えると胸が痛んだ。
仕方のないことだったと言い聞かせが、それでも罪悪感は当たり前にそこに存在していた。
(;-@∀@)「終わったよ」
ドクオが椅子で考え事をしていると、ふと横から声が掛かった。
そこには額に汗を浮かべながら、ドクオに向かって立つ朝日がいた。
思考の海から引き上げられたドクオは思わず立ち上がり言う。
(;'A`)「! あいつは無事か!?」
(-@∀@)「一応無事さ
ただ、熊に切られた右肩の損傷が激しい
それに、毒虫に刺されたのか高い熱が出ている。しばらくは安静が必要だ」
('A`)「そうか……」
ドクオはそれを聞くと、一先ず胸を撫で下ろした。
『空蝉』は生き延びた。
それが自らの望んだことなのか、なんなのか。ドクオは考えながら『空蝉』のいる病室へ入った。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:10:46.31 ID:rtCl+gv/O
- 病室には薬独特の鼻につく匂いを漂わせていた。
窓辺に一つ純白では無い、クリームに近い白いシーツのベットあり、その上には『空蝉』が寝ていた。
規則的に胸を上下させて、先程の荒い呼吸では無く静かに息を吐き出し、吸い込んでいる。
( -ω-)「……」
('A`)「……よう、運がよかったな」
ドクオは眠っている『空蝉』に、そう声を掛けるとベットの横に置かれた木製の背もたれも無い簡単な椅子に腰掛けた。
その椅子は軋む音を起てながらもドクオの体をしっかりと支えた。
('A`)「俺は、なんでお前を助けたのかねぇ……」
ドクオは寝息を起てる『空蝉』を眺めながら、自らに問い掛けるようにして言った。
('A`)「なんだか、お前は無理して狂っているように感じる
……お前の笑顔が狂気の笑顔じゃなくて、無理して作っている笑顔に見えて来たんだ
多分、それはさっきまで考えることは無かった
だけど、胸の底では感じていた……
それが、『蟻』の言葉で気が付いたって感じだ」
「心が弱そうだ」と『蟻』は言った。
ドクオはその言葉に胸の引っ掛かりの正体を知ったのだ。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:11:57.48 ID:rtCl+gv/O
- ('A`)「大体よ……俺は望んで危ないことはしないんだぜ
だけど、お前のことを知りたくなった……
だから、今回だってお前を尾行した。ま、少しは感謝しろよな」
ドクオはそう言うと、鼻で自嘲するように笑った。
それから煙草を取り出すと、病室ということもお構いなしに火を点けた。
「気持ち悪っ」
('A`)「!?」
ドクオが火を点けた煙草を口にくわえた時だった。
不意にドクオの背後から声が掛かった。
高めの声は朝日の声では到底無い、女性の声だ。
ドクオは看護士かとも思ったが、すぐにその考えは捨てた。その声には聞き覚えがあった。
('A`)「ツンか……」
ξ゚听)ξ「気安く人の名前呼ばないでくれる!?」
ドクオが振り返った先にいたのはツン。
染みの無い綺麗な白いコートを身に纏う姿はさながらどこかのお嬢様のようだ。
そんな彼女は金色に輝く巻き髪を撫でながら、強い口調でドクオに言う。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:13:05.18 ID:rtCl+gv/O
- ξ゚听)ξ「だいたい何!? 『お前のことを知りたくなった』ですって!?
気持ち悪いなんてもんじゃないわ! あんたホモなの!?
それで尾行とか……立派なストーカーじゃない!!」
(;'A`)「な……! そんな気は無い!! 断じて無い!!」
ツンのヒステリックな甲高い声は病室内に響き渡る。
ドクオはツンの言葉を否定するが、元々たいした興味は無いのか、
ツンは「まあ、いいわ」と言ってから言葉を続けた。
ξ゚听)ξ「今から、あんた達二人を殺すわ」
ツンは冷たく言い放つと、コートの袖から一本の細長い針を取り出した。
きらりと針先が光り、その鋭さを見せ付けるかのようだ。
(;'A`)「待てよ! なんでだよ! なんでこいつを殺す必要がある!? しかも俺まで」
ドクオは親指を立てると後ろでベットに横たわる『空蝉』を指して言った。
ベットでは『空蝉』が何も知らずに呑気に寝息を起てている。
ξ゚听)ξ「そんなの言う必要も無いくらい知ってるでしょ!?
そいつは『蟲』にとって障害になるからよ!」
ツンは叫びながら、針先をドクオの背後に向けて指した。
その先には、やはり呑気に寝息を起てている『空蝉』がいる。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:14:31.04 ID:rtCl+gv/O
- ('A`)「……そうか、まだ知らないのか」
ドクオは一瞬考えると、すぐに納得したように呟いた。
('A`)「『蟻』は死んだぞ」
そして、ツンに向かってドクオは神妙な顔を作ると言った。
病室に静寂が訪れた。聞こえるのは自らの呼吸と『空蝉』の寝息だけだ。
ツンの表情は無表情に凍り付いたまま動かない。
('A`)「へっ……だからよ、自由なんだぜ? もう『蟻』に従うことも無いんだ」
ドクオが続けて決して爽やかでは無い微笑を交えながら言う。
その表情には何か満足感のようなものが漂っている。
そして、その言葉を聞いたツンは一転。無表情からドクオに対して哀れみを持ったような、見下した表情に変わった。
ξ゚听)ξ「バカじゃないの? 私はさっき『蟻』に命令を受けて来たのよ?
『空蝉』と裏切り者、『蠍』を殺せって」
(;'A`)「は!?」
ドクオはツンの言葉に思わず間抜けな声を上げた。
ツンを見る目は不審な眼差しに変わり、そしてツンを見つめながら自問自答をする。
(;'A`)(馬鹿な! 『蟻』は生きている!? ちゃんと脈が無いことは確認した!
一体どういうことだ!? それに裏切り者だと……!?)
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:15:41.08 ID:rtCl+gv/O
- ξ゚听)ξ「あんたは『空蝉』を助けた……それは明らかに『蟲』に対する裏切りよ」
(;'A`)(『蟻』は生きている……俺があの場にいて、『空蝉』を助けたのを知っているのは『蟻』だけ!
つまり、ツンの言うことは事実だ……! しかし、確かにあの時『蟻』は死んでいた……
それも『蟻』が化け物なのに関係しているのか?)
ドクオの額に汗が滲む、雨にしっとりと濡れた服がさらに重みを増した気がした。
ツンの言うことが事実なら、『蟲』はこれからも変わり無く活動する。
そして、ドクオは裏切り者として追われることになるのだ。
(;'A`)「チッ! くそっ……! やるしかねぇのか!」
ドクオは心底忌ま忌ましいと言った風に舌を鳴らすと、ジーパンの後ろポケットから一刀の小柄なナイフを取り出した。
革製の鞘からナイフを抜くと、綺麗に磨かれた刃が光る顔を覗かせた。
ξ゚听)ξ「やっと自分の身の危険さを自覚したわね」
そう言うと、ツンは嘲笑うかのように鼻を鳴らした。
そして、ツンが針を構えた時だった。病室に慌ただしい声が響き渡る。
(;-@∀@)「一体どうしました!? さっきから何か怒声が聞こえるけど!」
病院だと言うのに騒がしく足音を鳴らして来たのは朝日だった。
ずれおちた眼鏡を上に押し上げながら、朝日は病室へ入り込む。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:17:13.44 ID:rtCl+gv/O
- (;'A`)「来るな! 朝日!!」
(-@∀@)「え?」
ドクオが朝日を見て咄嗟に叫んだ。
それと同時か、いやそれよりも速い速度でツンが後ろに振り返ると持っていた針を朝日に向けて投げた。
(;-@∀@)「いてぇ! え!? 何これ!? は、針治療!? 痛いんだけど!!」
針は目にも留まらぬ速さで朝日の右肩へ刺さり、朝日は痛みに冷や汗を流しながら叫ぶ。
ξ゚听)ξ「あんた、蜂に刺されたことある?」
(;-@∀@)「え? い、一回あるけど! 何、ちょ痛いってこれ!」
ツンは朝日に問い掛け、そして返事を聞くと「ご愁傷様」と呟いてから続けた。
ξ゚听)ξ「それなら急いでエピネフリンを投与したほうがいいわよ
早くしないとアナフィラキシーショックが起きるわ
アナフィラキシーショックはアレルギーの一種で、抗原に対する抗体の過剰反応により引き起こされるショック
そのアナフィラキシー反応の進行は速い、1分か2分よ
吐き気、嘔吐、呼吸困難、気道閉塞、血圧低下、意識消失、などが発症して……最悪、死ぬ」
(;-@∀@)「なななな、なってこった!!」
朝日はツンの言葉を聞くと、肩から針を生やしたまま、先程同様に騒がしい足音を鳴らしながら病室を飛び出して行った。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:18:43.54 ID:rtCl+gv/O
- 足音は段々と遠ざかり、そして最後には聞こえなくなった。
病室にはまたも静寂が訪れる。
ツンは朝日に針を投げて無くなった為、また袖から針を引き出した。
どうやらコートの袖に何本もの針を差し込んであるようだ。
ξ゚听)ξ「さて、邪魔者もいなくなったし、始めましょうか」
(;'A`)「……」
二人の間に重々しい、この病室だけ重力が倍になっているのではないかと思うような圧力ある雰囲気が漂う。
どちらかが少しでも動けば、戦闘は始まる。
ξ゚听)ξ「……ビビってんじゃないわよ!!」
動かないドクオに痺れを切らしたツンが先に床を蹴った。
タッ。と軽い音を起てながらツンは前へ飛び出す。
針を逆手に持って、それを前に向けて走る。
(;'A`)「――ッ!」
ドクオも一瞬遅れてから床を蹴る。
ナイフをツンとは逆の順手に持ち、構える。
ξ゚听)ξ「受け身じゃやってられないわよ!?」
言いながらツンは針を持った右腕を振るう。
左右、上下斜。様々な方向からドクオを切り付けようと振るい、体を突こうと針をドクオへ向けて何度も突き出す。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:19:35.35 ID:rtCl+gv/O
- (;'A`)「……くっ!」
ドクオはツンの猛攻に素早い反応すると、自らのナイフでツンの針を弾く。
その度に金属と金属の当たる、高いが軽い音が楽器のように小気味よく響く。
(;'A`)(俺は暗殺でこそ力を発揮する! 正面からの戦闘は1番苦手な分野だ!
いくら相手がツンだとしても、体術で勝てるかは微妙だ! くそ!!)
突きを体を左右に反らせ、横っ跳びを繰り返しながら避けていく。
ドクオは蜂に刺されたことは一度も無い、だからと言って刺されるわけにもいかない。
その後にまた刺されたら大変なことになる。
ξ゚听)ξ「ほらほらぁ!! どうしたの!? あんたも少しは反撃しなさいよ!!」
ツンは余裕釈々といった風に口を動かしながら針を振るう。
身軽に体を動かすのはドクオと同じだ。だが、ドクオよりもツンは経験がある。正面からの戦闘の経験が。
ツンがドクオと違うのはそこだ。ドクオは体術が苦手で正面からの戦闘には慣れていない、そして恐怖心がある。
そして、ツンは体術はドクオよりも優れている。そして戦闘に慣れている。
どちらが不利かというのは一目瞭然だ。
(;'A`)(ここは朝日に賭けるしかねぇ! 朝日が治療を済ませ、そして俺を助けてくれるのを期待するしかない……!
他力本願な考えだが、これしか勝ち目はない!)
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:20:46.30 ID:rtCl+gv/O
- ドクオは『蠍』という名を持つ。
何故『蠍』と言われるのか、それはやはり暗殺に関係する。
蠍の中には主に夜行性で昼間は岩の下や土の中、何かの隙間にいることが多い種類がいる。
元来活動はあまり活発ではなく、じっとして獲物が通るのを待つというものだ。
ドクオはそれに酷似していた。
暗殺というのは身を隠しやすい夜が適当だ。
そのため夜に動くことが多くなり、昼間は家で体を休めたりする。
そして、ドクオは活動的では無い。先程ドクオが自ら語っていたように、ドクオは普段指令以外に危険な行動は避けるのだ。
そんな生活リズム、仕事から、いつしか『蠍』と呼ばれるようになったのだ。
(;'A`)(呼び名があるからって強いわけじゃない!!
俺はただの器用貧乏なんだ! なんにしても才能は無い、暗殺はただ俺が弱いだけなんだ!!)
ドクオはツンの振るう針をナイフでいなしながら、自らへの苛立ちを募らせる。
力の無い自分を蔑み、後悔をする。
(;'A`)(ここで負けたら俺が『空蝉』を助けた意味が無い!
むしろ苦しめてしまうのは目に見えてる!
自業自得だ、『蟻』が生きていたと知らなかったとは言え裏切ったからには代償……!
だから、俺はここで自分にけじめをつけなくちゃならねぇ!)
ドクオはそう意気込むとナイフを持つ手に力を入れた。
そして、守り逃げてばかりだった体をツンに向け、床を勢いよく蹴った。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:22:08.54 ID:rtCl+gv/O
- (#'A`)「くぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ドクオは叫んだ。
その叫んだは病室の壁に反響して響き、地鳴りのような音を生み出した。
ξ゚听)ξ「!」
ツンはドクオの突然の咆哮に身を強張らせた。
しかし、直ぐに迎え撃つ為に針を構えるとドクオを見据えた。
(#'A`)「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉ!!!」
ナイフを持った右腕を後ろに回し、反動をつけて前へと突き出す
ツンの腹目掛け、ドクオは自らを奮い立たせるかのように叫んだ。
ξ゚听)ξ「あ……」
(#'A`)「らぁぁぁぁ……あ?」
突然ツンの動きが止まった。
針を構えたまま、目はどこかわからぬ場所を見つめていた。
そして、その目を体を固まらせたまま顔と一緒に下へ向けた。
('A`)「あ」
ξ;゚听)ξ「う……ぁ……」
ドクオはツンの目線の先を追うと、ツンのその異変の正体に気付いた。
ツンの横腹に刃渡り10cmほどのナイフが生えていた。
それはドクオのものでも無ければツンのものでも無い。つまり。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:23:09.16 ID:rtCl+gv/O
- ( ^ω^)「おっおっ」
それはつまり、この病室にいるもう一人の人間『空蝉』のものだった。
いつの間に起きていたのか、上半身をベットから起こし左腕を振り終えた状態で笑っている。
ξ;゚听)ξ「あ……くっ……『空蝉』……」
ツンは苦しそうに顔を歪めながら、ナイフと『空蝉』の顔を交互に見ていた。
('A`)「……」
ドクオはそんな様子をぼんやりと眺めている。
気が抜けた。そんな感じである。人生でそうとない大きな決断を意気込み、そして行動した。
それが、こんな形で中断されてドクオの気持ちは萎えてしまっていた。
ξ;゚听)ξ「あ……ダメだ……血が……やだ……」
ツンは青ざめた表情で脇腹を押さえると、独り言をぶつぶつと漏らし始めた。
額からは汗が噴き出し、もはや戦意喪失しているのは明らかである。
('A`)「……行くぞ」
( ^ω^)「お?」
ドクオはそんなツンを一瞥すると、『空蝉』の元へ行き声を掛けた。
『空蝉』は状況を把握しきれていないのか、キョトンとした表情をしている。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:23:55.39 ID:rtCl+gv/O
- ('A`)「いいから、行こう」
ドクオはそんな『空蝉』の、怪我の無い左腕を掴むと強引にベットから引きずり落とした。
(;^ω^)「何がどうなってんだお?」
('A`)「お前、何もわからずにナイフ投げたのかよ……」
なんだかんだ手を引かれながら歩く『空蝉』の言葉に、ドクオは呆れた声を吐き出しながら
テンパるツンを残したまま病室の扉を開いた。
(;-@∀@)「ちょちょ! まだ安静にしてないと!」
調度病室の前の廊下には朝日がいた。
治療が済んだのか、真新しい白衣を着込んで、ドクオ達の元へ小走りで近付いて来る。
('A`)「今、病室に横腹からナイフを生やした女がいるんで、診てやってくれ」
(;-@∀@)「え? 女って、さっきの?」
('A`)「そうそう」
(;-@∀@)「……」
朝日はツンであることを確認すると、青ざめた表情になった。
無理も無いことだろう。一度刺された相手を診ろというのに恐怖心が無いわけ無い。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/31(日) 15:24:36.25 ID:rtCl+gv/O
- ('A`)「あんた医者だろ、怪我人はしっかり診てやれ」
ドクオはそう言って朝日の肩をポンと軽く叩くと、朝日の横を通り過ぎて診療所の出口へ向かった。
後ろから「あれ、金は!?」と朝日が喚いていたが、ドクオは無視をした。
診療所の外へ出ると、雨は上がっていた。
曇ってはいるが、もう雨は降りそうに無いほど薄い雲が浮かんでいるだけだ。
ドクオは湿った地面へ降り立つと、診療所へ振り返った。
診療所の入口では『空蝉』が所在なげに立ち尽くしている。
('A`)「俺ん家行こうぜ」
(;^ω^)「お? お?」
声を掛けられた『空蝉』は素っ頓狂な声を上げて困惑する。
それを見て、ドクオはやはり感じるのだ。
('A`)(やはり素の状態はこんなものか……『蟲』を前にするときとは大分違う。やはり何かあるのか……)
『空蝉』の顔を見つめながら考えると、それからドクオは踵を返して歩き始めた。
着いてこないかとドクオは歩きながら思ったが、歩き始めてからややあって、後ろから地面を踏む音が聞こえた。
そして、それは少し距離を置きながらもしっかりとドクオの後ろを着いて来るのだった。
――――第四話 『蠍と蜂』 終わり
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