( ^ω^)は空蝉のようです

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:51:45.20 ID:qPV2DWLUO
ドクオ宅は所謂ワンルームだ。建物の大きさはそれ相応の小さなアパートである。
それはかなり特殊なもので玄関から入るとすぐそこが部屋になっている。
八畳ほどのそれ以外は何も無いしドクオ自身もそれで満足していた。
ただ、床に散乱する大量の酒瓶があるせいか部屋はとても不潔で狭く感じてしまう。

('A`)「お前よ、名前なんて言うんだ?」

ドクオはそんな部屋に『空蝉』を連れてくるなり、彼に対して酒瓶を退けてやるわけでも無く、自分は一人でソファーへ腰掛けた。

(;^ω^)「……内藤だお」

『空蝉』こと内藤はドクオが『蟲』の一員だったことを知らない。
ただ、首なし山への道中で倒れていたところを助けて貰った恩人として認識していた。
それに応えるようにドクオはただの通りすがりだと内藤に説明して、『蟻』のことは「そんなものはいなかった」と伝えた。
それにより内藤は『蟻』が生きているという事実を察し、表情を険しくさせたのだ。

('A`)「内藤ね、うん。よろしく」

(;^ω^)「よろしく……」

所在なげに玄関から入ったところで立ち尽くしたままの内藤には助言の一言も掛けずに、ドクオはソファーで一人煙草をふかした。




――――第五話 『療養』



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:52:51.80 ID:qPV2DWLUO
ドクオは内藤に自らが『蟲』の一員であったことは言うつもりはなかった。
言ったところで内藤に何をされるかはわかったものではない。
今現在が『蟲』ではなくとも、元『蟲』というだけで殺される確率は十分にあるのだ。

そこで、ドクオは様々な思考を巡らせた。
『蟲』であるとの告白は、あまりにも危険であって、それならば言わないのが最良であるように思える。
だが、これが後になってバレてしまったら。
ドクオは今、『蟲』の裏切り者として追われる立場にある。
いつ追っ手がやってきてドクオのことを『蠍』という呼び名で呼んでしまうか、それは比較的早くに訪れてしまうだろう。
ならば、今のうちに覚悟を決めて告白してしまったほうが肩の荷が降りて良いのではないか。

( ^ω^)「あなたは?」

(;'A`)「うぇ?」

(;^ω^)「……えっと、あなたのお名前は?」

('A`)「あ、ああ……」

突然に頭の中の入り乱れた思考の列へ入ってきた内藤の声にドクオは思わず声を上げた。
そして、現実へと戻されたドクオは内藤の質問に対して、また悩むのだった。

('A`)「……ドクオだ」

悩んだ末に、ドクオは内藤へ自らが『蟲』であったと告白するのを留まった。
『蟲』の関係者を殺している内藤。すでに『蟲』でなくなったドクオだが
一応関係者という立場にいるのであり、それにより告白は危険だと察した。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:53:39.99 ID:qPV2DWLUO
( ^ω^)「おっおっ! 改めて礼を言うお! ありがとうドクオ!」

('A`)「……いえ、どういたしまして」

屈託なく笑う内藤を見てドクオは再度感じる。
内藤は常日頃をあんな虚ろで不気味な笑みを浮かべているわけではないのだ。
やはり、あれは『蟲』に対する感情の表れなのだろう。
このありのままの、屈託なく笑う内藤が、自らの告白で変わってしまうのをドクオは恐れた。

('A`)「ま、座れよ」

ドクオは思いながら、いつまでも玄関に立ち尽くす内藤の為にテーブルの前の酒瓶を隅に除けると、人一人座れるだけのスペースを作った。

( ^ω^)「お」

内藤はそれを見ると、玄関から慎重に散らばる酒瓶の隙間へと足を運び、なんとかそのスペースにたどり着くのだった。

( ^ω^)「ドクオはなんの仕事をしてるんだお?」

内藤は座るなり、沈黙が苦手なのか何気ない質問をドクオへ向けた。

('A`)「え? ……仕事ねぇ……」

ドクオは咄嗟に掛けられた質問に言葉が詰まった。
仕事といったら、つい最近、さっきまでは『蟲』であったのだ。
それが、裏切り者として追い回される。それはつまり解雇だ。
そうなると、ドクオは今、無職ということになる。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:54:56.31 ID:qPV2DWLUO
('A`)「……今、仕事はしてないんだ……」

(;^ω^)「ご、ごめんお……」

内藤はバツが悪そうに俯くと、消え入りそうな声でドクオに謝罪した。
無職の者に仕事の話題はNGである。
部屋に散らばる酒瓶を職のないことへの苛立ちからのやけ酒だと思ったのか、内藤は部屋を横目で見渡すと、また一度謝罪を述べるのだった。

('A`)「ま、生活には困ってないさ」

( ^ω^)「……どうやって毎日を食べているんだお?」

('A`)「……親の金みたいなのがあるからな……」

(;^ω^)「……ニート乙」

実際にドクオは日常の生活には困ったことはなかった。
金は『蟲』に所属していた時の報酬が大量にあり、それで食料の調達や家賃の支払いはしていた。

( ^ω^)「じゃあ……」

('A`)「……ああ、それは――」

その後は特にお互いの事に踏み込むことも無く、他愛のない話を交わすのだった。
ほとんど内藤が話題を振り、それにドクオが簡単な返事をするだけだが、自然と二人にとって苦ではなかった。
そして、その日内藤はドクオ宅で一夜を過ごすことになった。
散乱する酒瓶は内藤の案により処分することとなり、その夜に二人で(まあ、大半は内藤なのだが)近くの廃棄物処理場へ運んだ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:56:42.99 ID:qPV2DWLUO



次の朝。ドクオが目覚めると内藤は床で静かな寝息を起てていた。
その姿にホッと安堵する。
もしかしたら、ドクオが寝入った後に家から出ていってしまうのではないか、と強烈な不安を感じていたのだ。
しかし、それは無事に杞憂に終わり、ドクオは次の朝に言おうとしていたことを言えることが出来た。

('A`)「首なし山へ連れていってくれないか」

酒瓶の片付いた小綺麗というよりも殺風景で味気無い部屋にドクオの声が響いた。

(;^ω^)「お?」

その小綺麗になり、ようやく息を吸った板張りの床の上に座る内藤は素っ頓狂な声を上げた。
そして、手持ち無沙汰に弄っていた足の指を摘んだままにして静止した。

('A`)「昨日から言おうと思っていたんだ、内藤に俺を首なし山へ連れていってほしい
   お前は何度か行ったことがありそうだしな」

(;^ω^)「い、いや、ぼ、僕は首なし山なんか行ったこと無いお」

内藤は否定するが、落ち着きなく体を揺らして動揺する姿ではあまりに説得力がない。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:57:30.59 ID:qPV2DWLUO
('A`)「もちろん、肩の傷が治ってからでいい」

ドクオはそう言うと、内藤の肩に少し雑ながらも巻かれている包帯を指差した。
熱はどうやらすっかり引いたようで、昨日から特にこれといった辛い表情は見せていない。
きっと自然治癒力が強いのだろう。しかし、さすがに肩の傷は深いし、そう簡単には治癒しない。

( ^ω^)「……」

('A`)「……」

( ^ω^)「……わかったお」

しばしの沈黙の後に内藤は嘘が通じないと察したのか、静かに了承の言葉を発した。
これで、内藤はドクオとの縁が切れることはない。
そもそも首なし山へ行きたいというのはドクオの目的の一部だ。なんの問題もないのだ。
それに、肩が治癒するまでに内藤から何か聞き出せるかとドクオは思っていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 19:58:49.77 ID:qPV2DWLUO



ξ#゚听)ξ「くそくそくそくそくそッ!!」

ツンは苛立ってた。そして、それを隠すこともなく、顔に、行動に表すのだった。
まあ、ツン以外に誰もいない部屋なわけで特に誰に気を使うなんてことはしなくて良いのだから
そのため、思いきり苛立ちを発散させようと声を上げ、物に当たった。
蜂の標本がいくつか立て掛けられた壁に、何かの薬品の入った棚。
それらには当たることはせずに、それ以外のテーブルやベットに怒り、苛立ちをぶつけるのだった。

ξ#゚听)ξ「――ッ!」

それをいくつか続けた時、ツンは腹部に痛みを感じて動きを止めた。
それは内藤、忌まわしき『空蝉』のナイフによってつけられた傷だ。

ξ#゚听)ξ「く、あのニヤケインポヤロォォォォォォォォ!!」

女性とは思えぬ、腹に響く重低音で吠える。
眉間にシワをよせて、額には青筋を浮かべた憤怒の表情をままツンは部屋を飛び出した。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 20:00:16.57 ID:qPV2DWLUO
部屋を飛び出した先には薄暗い、壁に掛かった松明の明かりだけに照らされた道が先に広がっていた。

ξ#゚听)ξ「あいつらは私がぶっ殺す!! 『蠍』も『空蝉』もこの私が!!」

ツンは叫びを上げながら目の前に続く道を歩く。
荒々しく地を踏み付け土を蹴飛ばし、怒りに震える獣のように歩く。
そして、そんな状態のままでしばらく道を進んでいると先に右へ進むための曲がり角に差し掛かった。
その曲がり角へ体を向けて、そのまま突き進んだ時だった。
いきなりツンの目の前に妖しく光る大きな双眼が現れたのだ。

( <●><●>)

ξ;゚听)ξ「ギャッ!!」

ツンは音もなく現れたその双眼に驚き悲鳴を上げると、その場に尻餅をついた。
その双眼はツンの顔を覗き込むようにして身を低くしていた。

( <●><●>)「あなたには休養が必要です」

大きな双眼の持ち主のその男は曲げた背を正して真っ直ぐに伸ばすと、淡々とした口調で言った。
その言葉には波がなく、機械を通したかのように無機質な音であった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 20:01:00.27 ID:qPV2DWLUO
ξ;゚听)ξ「な、なによあんたいきなり!」

ツンはゆっくりと壁に手を置いて立ち上がると動揺を浮かべながら、男に怒声をぶつける。
男はそんなツンに何の反応も示さずに、真っ直ぐとその双眼をツンに向けたまま言った。

( <●><●>)「私の名前はワカッテマスです
       ややこしいですが、『ワカッテマス』が名前です
      自分の名前がわかってるなんて当たり前のことを言ったわけではありません」

ξ;゚听)ξ「そ、そう……わかったわ。私はツンよ」

( <●><●>)「わかってます」

ξ;゚听)ξ「そう、それで……なんなの? 私、行きたい場所があるのよ」」

ツンは額に僅かに汗を滲ませながら言うと、ワカッテマスの目を見つめ返した。
その目は先程見たのと同じく大きく、そして不気味な光沢を発していた。
調度ワカッテマスの横の壁に立て掛けられた松明の明かりに照らされた、その瞳はまるでそこにぽっかりと開いた穴のようだ。
僅かに光っていなければ、本当にそう思ってしまいそうだ。人型のオブジェの目だけが削ぎ落とされた、そんな感じである。

( <●><●>)「先程も申した通り、あなたには休養が必要です
       先日の傷は、まだ癒えていないでしょう
       一日や二日で癒えているなどと言うのは有り得ないことです」

ξ;゚听)ξ「傷はまだあるわ、だけど……私は行きたいわ
      あの二人を始末したい」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 20:03:34.77 ID:qPV2DWLUO
( <●><●>)「ダメです。これは『蟻』からの命令なのです」

ワカッテマスはツンの言葉に即答すると
顔をずいっとツンの前へ寄せると大きな瞳を瞬きさせることなく開いたまま続けた。

( <●><●>)「『蟻』の命令には逆らえません
       それはよくわかっていることでしょう?
       残念ですが、今回は仕方ないと思って諦めて下さい
       それでも行くというなら、私があなたに何をするかはわかってますね?」

無表情のまま、口だけをひたすらに動かしてワカッテマスは言い
ツンの返事も聞かずに踵を返すとツンへ背を向けて歩き出した。

ξ゚听)ξ「わかったわよ……諦める
     ……そうだ、あなた見たこと無いけど『蟲の名』は?」

ツンは強張った肩を力無く下ろすと、ため息混じりに言うと、それに続けて問い掛ける。

( <●><●>)「……私の『蟲の名』は『蜻蛉』です
       まあ、残念ですが、彼らは私が殺してしまいますよ」

ワカッテマスはそう言うとツンの視線を背に受けながら、薄暗い道を歩いていく。
その暗がりの道の中で、ワカッテマスの双眼は光を宿しながら、先をただ見つめるのだった。




――――第五話 『療養』 終わり



戻る第六話