(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 4: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 20:58:51.87 ID:ymojIxEJ0
――――第三話
『ようこそ学園都市へ』――――――
まずは足元を確認しよう
見上げるのはそれからでも遅くはない
- 5: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:00:59.81 ID:ymojIxEJ0
- 遅れて来たブーンとツンが合流し、四人となった彼らはステーションの入り口にいた。
从 ゚∀从ゝ「ってなわけで改めましてこんにちは!
明日から、この都市の学園に編入となるハインリッヒ=ハイヒールです!
どうぞよろしくぅ!」
( ^ω^)「わーわー」
(,,゚Д゚)「いいぞいいぞー」
ξ゚听)ξ「何この始まり方」
適当に盛り上がるギコ達に、ツンが溜息を吐く。
周囲、人の姿は少ない。
魔道列車と飛行魔道艇の到着によって騒がしくなっていたステーションは
しかし、時間が経ったことで元の静けさを取り戻している。
そもそも観光都市を名乗っているわけではないので、ステーションが賑わうということは滅多になかった。
人がごった返すのは魔道列車を利用する入学、卒業、長期休暇の時期くらいだろう。
更に航空魔道艇など一ヶ月に一度しか来ないため、発着場に至ってはいつも静かだった。
- 6: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:03:29.81 ID:ymojIxEJ0
- 合流したブーン達を見て、まずハインが反応したのはツンが着る服だ。
从 ゚∀从「おー、それがここの制服か! イイ感じだな!」
ξ゚听)ξ「これ?」
( ^ω^)「おっおっ、目の付け所がいいお!」
合流したブーンとツンは、ギコと同じ学園指定の制服に着替えていた。
両者共に上着が紺色のブレザータイプ。
それぞれ中央にある赤いネクタイとリボンが、アクセントとして強い印象を与えており
左胸に刻まれているのは学園記章で、日を浴びて微かに光り輝いている。
从 ゚∀从「で、所々についてるソレが噂の……」
その制服には、他にない特徴的な点があった。
肩や肘、腰などにある金属パーツである。
何かを装着するためのハードポイントらしく、どれも同じ形を持っていた。
これは武術専攻、術式専攻学部の制服だけの特徴だ。
そして、この金属パーツのおかげで彼らの制服は多少ゴツい。
更に一部の生徒は、腰や肩などに武器を差したホルダーを装備しているのだからたまらない。
そのまま軽装の鎧として使えそうなほどであった。
- 7: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:06:04.92 ID:ymojIxEJ0
- 対し、ハインリッヒは私服姿だった。
向こうで流行っているのか、左手と首に金属製のリングを装着している。
彼女の両サイドには大きな荷物が置かれており、この都市に到着して間もないことを示していた。
(,,゚Д゚)「うーむ」
そんな彼女をギコが見ている。
腕を組んだ姿勢で、何か考えているようで、
(;゚Д゚)(……しかし、まさか転入生が女の子だとは思わなんだ)
从 ゚∀从「?」
(*゚Д゚)(しかも結構かわいい……)
ブーンとツンが戻ってくるまで色々と確認をとってみたところ、
どうやら本当に彼女が転入生のようだ。
名前は『ハインリッヒ=ハイヒール』といって
この都市にとっては母親のような国、チャンネル・チャンネルからやって来た、とのこと。
会長から聞いた情報に間違いがないことを確認したギコは早速、ハインリッヒを案内することにする。
- 9: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:08:31.23 ID:ymojIxEJ0
- (,,゚Д゚)「さて、とりあえず何処から案内したもんかな」
ξ゚听)ξ「ちょっと待ちなさいよ。
まだ誰もまともな自己紹介してないのに、どうやって円滑に案内するつもり?」
(,,゚Д゚)「あ」
ξ;゚听)ξ「前から思ってたんだけど、アンタって割と刹那的に生きてるわよね……」
( ^ω^)「流石はツン! 気が利くってレベルじゃねーお!」
ξ゚听)ξ「馬鹿、こんなの当たり前でしょ。
っていうか、名前も知らずに人と話すのが嫌いなだけよ。
なんか隠してるみたいでフェアじゃないわ」
相変わらず基準がよく解らない女である。
ともあれ指針が決まったので、それぞれ自己紹介を開始。
まず、言い出しっぺということでツンが小さく手を上げた。
ξ゚听)ξ「私の名前はツン=デレイド。
これからよろしくね、ハインリッヒ」
- 10: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:10:18.77 ID:ymojIxEJ0
- ツン=デレイド、17歳。
術式専攻学部の次期二年生で、術式の一つである魔法の行使を可能とする生徒だ。
隣にいるブーンとは幼い頃からの付き合い、とのことである。
紹介を終えた後で彼女は、ちなみに、と付け加え
ξ゚听)ξ「皆は何故か私のことをジャスティス云々とか呼ぶけど、まったく気にしなくて良いわ」
(,,゚Д゚)「本人はああ言ってるけど気にしなくていいぞ。
存分にフェア・ザ・ジャスティスとか呼んでやれ」
从 ゚∀从「『正義的な公平』……? どういう意味だ?」
(,,゚Д゚)「本人の個人的価値感覚による独断、と言い換えても良し」
从-∀从「あぁ、つまり委員長タイプっつーわけね」
(,,゚Д゚)「いや、むしろ裁判長タイプだなぁ」
どんなタイプよ、と頬を膨らませるツンの隣、今度はブーンが手を上げた。
( ^ω^)ノシ「次は僕だお!
僕はホライゾン=インサイドウィステリアだお!」
从;゚∀从「え……イン? はい!?」
- 11: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:12:26.16 ID:ymojIxEJ0
- ホライゾン=インサイドウィステリア、17歳。
まず誰もが思う通り、妙に姓が長いことが特徴として挙げられる、ある意味で不遇な少年だ。
ちなみに武術専攻学部所属で、ツンと同じく次期二年生である。
( ^ω^)「インサイドウィステリアだお!
長いからホライゾン……も言いにくいから、ブーンって呼んでほしいお!」
理由を問えば、ブーンは昔話を始めた。
笑いあり涙ありの熱いストーリーだったが、あだ名にはまったく関係なかったので割愛する。
掻い摘んで説明するなら、
彼が全力疾走した時の風切音が『ぶぅん』であることから、ブーンと呼ばれるらしい。
その話を聞いて、ニコニコ顔の彼を見て思うのは、
从;゚∀从(一体どれほどの速度が出てンだよ……?)
ξ゚听)ξ「いつか慌てて走っちゃった時は壁に穴開けちゃったのよね」
(;^ω^)「あれは痛かったお……」
从;゚∀从「…………」
そして
(,,゚Д゚)「最後は俺か。
ギコ=レコイドだ。 よろしくな」
- 13: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:14:17.44 ID:ymojIxEJ0
- ギコ=レコイド、17歳。
武術専攻学部の次期二年生で、学園生徒会にも所属している。
彼の性格や友人関係は今までの通りだ。
ξ゚听)ξ「コイツがまた、なかなかの変人なのよ」
(;゚Д゚)「変人言うな。
っていうか人のこと言えねぇだろ!」
从 ゚∀从「変人? 見た限りじゃ普通だと思ってたんだが……」
ξ゚听)ξ「武術専攻学部にいながら力を使うことに制限かけちゃっててね。
事情はよく知らないんだけど、『正当な理由がない限りは力を振るわない』だったかしら?」
从 ゚∀从「理由……」
問い掛けの視線を向ければ、ギコはバツの悪そうにそっぽ向いていた。
だから、というようにブーンが続ける。
( ^ω^)「例えば上からの命令だとか、そういう必要ある時にしかギコは戦わないんだお。
言葉にすれば変かもしれないけど……僕には何となくギコの悩みが解るんだお」
それは、
( ^ω^)「自分の持つ力の(;゚Д゚)「やーめーろーよぉー」
从 ゚∀从「あ? なして隠す?」
(;-Д-)「自分の未熟さを痛感するし……なんか恥ずかしいので勘弁して下さい」
- 15: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:16:33.83 ID:ymojIxEJ0
- ξ゚听)ξ「何言ってんのよ、未熟で結構じゃない。
この都市は未熟者が己を未熟だと自覚して集まる都市よ。
そういう意味じゃ、アンタはこの都市に相応しい生徒と言えるわ」
(;゚Д゚)「それ喜んでいいのか……?」
何とも言えない話である。
ともあれギコ達の紹介は終わった。
次は、という視線で三人がハインリッヒを見る。
从 ゚∀从「あ、えっーと……もう名前は言ってるからいいよな。
面倒だからハインって呼んでくれ。
あと何か質問があったら、何でも受け付けるぜ」
ということなので、ギコは思っていた質問を投げかけてみる。
(,,゚Д゚)「確認なんだけど……お前、本当に女の子だよな?」
从 ゚∀从「おいおい、俺のどこをどう見たら男に見えるんだっつの」
(;゚Д゚)「……いや、自分のことを『俺』なんて言ってるから」
すると、ハインは瞬間的に爆笑した。
- 17: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:18:10.38 ID:ymojIxEJ0
- 从 ゚∀从「あっはっはっはっ!!
やっぱり女は『私』とかが普通だよな! そりゃ悪かった!
でも……ほれ、これ見りゃ女だって解るだろ?」
と、彼女は自分の胸を掴んだ。
そのまま寄せて持ち上げ、自身が女性であることを強調する。
すると、今度はギコが瞬間的に顔を真っ赤にした。
(;゚Д゚)「ばっ!?
仮にも女が、知らん男の前でそんなことすんな!!」
从 ゚∀从「童貞乙wwwwwwwww」
(*^ω^)「ハァハァ」
ξ#゚听)ξ「…………」
( ;ω;)「痛い痛いギャヒィィィ!!」
- 19: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:20:04.63 ID:ymojIxEJ0
- そんなこんながあって、
(,,゚Д゚)「んじゃ、自己紹介も済んだことだし都市案内をしたいところなんだが。
……まずはアレかな」
ステーションにある、観光用の都市案内板を指差した。
あれには都市の全体図が記されており、これから都市に入るハインにとっては理解の助けとなるだろう。
ツンも同じつもりだったらしく、うんうん、と満足げに頷いている。
( ^ω^)「じゃあ早速、都市案内レッツゴーだお!」
从;゚∀从「は?」
(;゚Д゚)「え?」
いきなり何処かへ駆け出すブーン。
呆れるギコに続き、ハインが頭の上に『?』を生む。
そして、俯いたツンが黙って追いかけて行った。
遠くから打撃音が響き、ブーンの首根っこを掴んで帰ってくる。
ξ#゚听)ξ「人の話はちゃんと聞いておきなさい。 自己解釈して暴走しない。
っていうか、私の許可無しに動かないでちょうだい」
(#)ω^)b「把握したお」
(,,゚Д゚)「お前ら相変わらずだなぁ」
从;゚∀从(いつもこうなのか……)
- 21: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:22:27.02 ID:ymojIxEJ0
- さて、都市を南側の斜め上空から示す形の図を見た時、一つ気付くことがある。
それは、
从 ゚∀从「都市の形が完全な円なのか……」
(,,゚Д゚)「しかも、中心に向かうにつれて高くなっている山タイプ。
頂上に学園があるから、毎日坂道を上ることになって足腰が鍛えられる寸法だ」
トソンが言っていた地下区画については言わなかった。
ギコ自身あまり信じているわけではないし、そもそも真実だとすれば危険な話題だ。
迂闊に話してブーン達に迷惑が掛かってしまうのは、ギコの望むところではない。
(,,゚Д゚)「で、この都市に出入りするためには、三ヵ所あるステーションのどれかを通る必要がある。
北東、北西……そして南にある、お前が航空魔道艇で降りたステーションの三つだ。
それ以外の箇所は全て高い壁で覆われてるから、普通は入れない」
从 ゚∀从「ん、あれだろ?」
ハインが別の方向へ視線を向けた。
建物群の上から、遠くにうっすらと壁の上部が見える。
コロシアムのようにして都市を囲う壁の目的とは、
ξ゚听)ξ「外敵から都市を守るため、とは言ってるけど……そもそも外敵と呼べるものはいないのよね。
まぁ、守らないより守った方がいいのは解るけど。
それか武装学園都市の名を冠している以上、体裁を気にしてるのかも」
- 24: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:24:42.75 ID:ymojIxEJ0
- 从 ゚∀从(つまり三つのステーションに警備が集中してるっつーわけね……)
チェックチェック。
ハインは素知らぬ顔をしながら、必要な情報をまとめていく。
己のすべきことに関するものを主に。
そして、この学園で過ごしていくためのものを副に。
二分割した思考エリアに、それぞれ仕分けていった。
どちらをも両立させるためには、脳の働かせ方を少し工夫しなければならない。
多少コツが必要で難しいことだ。
しかし、これも全て――
从 ゚∀从(……あとは現地に行って調べておいた方がいいだろうなぁ)
(,,゚Д゚)「あと案内板に書かれてるのは……都市の概要とか簡単な歴史、か。
ハイン、興味あるか?」
从 ゚∀从「ん? あぁ、来る前にちょっと勉強してるから大丈夫だと思う。
大国チャンネル・チャンネルの偉い人が提唱した、大規模教育計画の一翼を担ってるんだったよな。
意志ある若者を国中から集めて育成し、優秀な人材として輩出するための教育機関。
……それが『武装学園都市VIP』、だろ?」
ξ゚听)ξ「……そう言われると、私達が単なる駒みたいに見えるかもしれないけど、
実際はかなり自由だから心配しなくても良いわよ?」
从 ゚∀从「おぅ。 それはブーンを見てりゃ解る」
( ^ω^)「おっ?」
- 26: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:27:23.98 ID:ymojIxEJ0
- ともあれ都市の概要説明が終わったギコ達は、
まず、ハインの荷物を置くために寮へ向かうこととなった。
更には実際に歩きながら、都市の主要施設や区画の説明を行なう、という魂胆だ。
男手であるギコとブーンが荷物を持ち、ツンを先頭として歩いていく。
从 ゚∀从「んじゃあ、案内よろしく頼む」
ξ゚听)ξ「はいはい。
えーっと……まず私達が今いるところ。 つまり都市の南側ね。
ここは『生活区画』といって、主に生徒の寮が固まってる区画なの」
都市の南側半分を範囲とする区画だ。
1〜3階建ての寮が、男女別にそれぞれ何百も存在している。
住人の生活を支える重要区画だけあって、都市の中では一番に広い範囲を持っていた。
ξ゚听)ξ「ちなみに寮だけじゃなくて、簡単な日用品や食品を買うことの出来るお店もあるわ。
生徒の活動拠点になることが多いからね。
でも、似たような景色が多いから迷わないように気をつけて」
ハインが周囲を見渡す。
そして、形整っている眉をひそめ、
从 ゚∀从「ちょっと自信ねぇなぁ……こりゃ迷うわ」
- 27: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:29:46.35 ID:ymojIxEJ0
- 周りを見れば、同じような形をした寮が列を成している。
今はサウス・メインストリート――南端から都市の中心へ伸びる主道――を歩いているから解りやすいが、
少しでも脇道へ入ってしまえば、慣れていない限りはすぐに迷ってしまいそうだった。
ところどころに番号や文字が刻まれたプレートがあるものの、
初めて来た者にとっては、ほとんど気休めにしかならないだろう。
(,,゚Д゚)「入学したての頃はよく迷子になってなぁ……主にブーンとヒートが」
ξ゚听)ξ「方向音痴の気があるくせに、やたら一人で勝手に行動したがる人種だから当然よね……。
そして、毎回そんなアホを探すこっちの身になってほしいもんだわ」
(,,-Д-)「あぁ、まったくだ」
(;^ω^)「い、今は迷わないお……あんまり」
从;゚∀从「それでも迷うのかよっ」
- 28: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:31:34.50 ID:ymojIxEJ0
- しばらく歩き、右折。
少し狭くなった道を真っすぐ行く。
ハインから受け取った学園からの通知を片手に、とある場所でツンが足を止めた。
ξ゚听)ξ「ここだわ。
この女子寮が、これから貴女が生活するところよ」
運が良いことに、決して古くはない二階建ての建物だった。
さほどサウス・メインストリートから離れていない地点に位置しているのも幸いだ。
そして、ハインに割り当てられた部屋は一階に存在し、
ξ゚听)ξ「基本的に相部屋だからね。
一人部屋は一部の上級生とかだけなの。
で、この通知書には相手の名前は書いてないけど……まぁ行けば解るわ」
从 ゚∀从「おぉ、サンキュー! ツン!
……なぁなぁ、こういうのってわくわくしてこねぇ?」
(,,゚Д゚)「だな」
( ^ω^)「おっおっ」
ξ;゚听)ξ「……って、何アンタらも一緒に入ろうとしてんのよ。
ここ女子寮よ?」
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:34:01.37 ID:ymojIxEJ0
- 基本、この学園は異性交遊やらにはうるさいわけではない。
むしろ『どんどんやれ』と言わんばかりのスルーっぷりだ。
優秀な人材とやらには、異性に対する経験もなくてはならない、という理由があるとか。
しかしながら、今というタイミングでハインの部屋に上がるのは色々とまずい。
今、ギコ達の手にある荷物には彼女の私物が入っているだろう。
もし何かの間違いで中身を見たりしてしまえば、変態扱いは免れない。
更に変な噂を立てられた挙句、これからの学園生活が闇に包まれ――
(;゚Д゚)「む……そうだな。 悪かった。
じゃあ、俺達は外で待ってる」
( ^ω^)「いってらっしゃいだお」
ここは待つのが得策だろう。
聡明な判断に、ツンは満足げに頷いた。
ξ゚听)ξ「素直でよろしい。 じゃあ、行きましょう」
从 ゚∀从「すまねぇな。 すぐ戻るよ」
おー、と返事をよこすギコ達を置き、ツンとハインは寮の入口へと向き直る。
- 32: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:35:09.15 ID:ymojIxEJ0
- 綺麗に磨かれたガラスで構成されているのは自動ドア。
傍には一つの小さな機械がある。
以前まで住んでいた都市では、あまり見かけないものだった。
ξ゚听)ξ「カード、持ってる?」
从 ゚∀从「カード?」
問われ、少し考えて思い出す。
从 ゚∀从「あぁ、ここに来る前にもらったアレか。 これだけど」
ポケットから取り出したのは一つのカード。
灰色で、下部に黒の線が引かれているだけの簡素なものだ。
从 ゚∀从「これ何よ?」
ξ゚听)ξ「この都市で暮らしていくために必要なものよ。
まぁ、貴女が今持っているのは機能制限を掛けられた予備なんだけどね」
ツンが言うには、学園の生徒だと証明するものであると同時に、
この都市の施設などを利用する際に必要なものらしい。
他、様々な機能を持つとか何とか。
生体情報を記録してあるから何とか。
- 34: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:37:01.28 ID:ymojIxEJ0
- ξ゚听)ξ「それは一時滞在者などに配られる予備カードよ。
効力は今日明日限定で、生活区画と商業区画の一部のみで利用可能。
ほら、そこの機械に通してみなさいな」
从 ゚∀从「お?」
機械を見れば、カードを通すための小さな隙間がある。
通してみると、
从 ゚∀从「おぉー」
電子音と共に自動ドアが開いた。
何かよく解らないが感動である。
ξ゚听)ξ「入る時はいつもカードが必要だから気をつけてね。
面倒だけどセキュリティ上、仕方ないと思って諦めてちょうだい。
ちなみにガラスには魔術で強化してあるから、よほどの力じゃないと壊せないし開かないわ」
从 ゚∀从「そりゃ安心だ。
俺がいた都市じゃ、こんなんなかったぜ。
技術的にも素材的にもけっこう金かかるだろ?」
ξ゚听)ξ「ここは若輩者が集う都市だからね。
多少のコスト掛けても、こういう規律は必要なのよ」
- 35: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:38:32.30 ID:ymojIxEJ0
- 从 ゚∀从「良い力の入れ具合だな。
で、これ予備って言ってたけど、つまり俺用のがあるってことだよな?」
ξ゚听)ξ「貴女の生徒カードは、おそらく明日にでももらえると思うわ。
それまでは施設利用とかが制限されると思うけど……」
从 ゚∀从「あー、大丈夫大丈夫。
今日一日はお前らに案内受けるつもりだし」
ξ゚听)ξ「そ。 なら行きましょう」
時間的に出払っているのか、中は人の気配が薄い。
白を基調とした空間のせいか冷気すら錯覚しそうだった。
何か魔術的な防護が働いているのかもしれない。
从 ゚∀从(でも……やっぱりセキュリティ意識は高ぇみたいだな)
未熟者だからこそ、ということだろうか。
それとも上に立つ人間が有能だからだろうか。
どちらにせよ、好きに動くのは難しそうだ。
しばらくは大人しく都市を見て回るのが得策だろう。
そんな思いなど露知らず行くツンを、ハインは少し駆け足で追っていった。
- 37: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:40:24.46 ID:ymojIxEJ0
- ツンとハインが寮に入っていくのを見送ったギコとブーン。
とりあえず荷物を置いてくるだけとはいえ、それでも少し時間が必要だろう。
短い暇を得たギコは、数十日振りに会う友人と少し話し込むことにする。
(,,゚Д゚)「ブーン。
お前、春期休暇中はツンと一緒に故郷に帰ってたんだろ?」
( ^ω^)「そうだお」
(,,゚Д゚)「……なんか面白いことあった?」
( ^ω^)「面白いこと、かお?」
うーん、と考え、
( ^ω^)「あ、ツンが新しい術式の記述を憶えてたお。
確か……精神系だったと思うお。 詳細は僕も知らないお」
(,,゚Д゚)「あれ? アイツ、専ら干渉系じゃなかったっけ」
( ^ω^)「ほら、ツンのお父さんとお母さんって両方とも優秀な魔法師だったから
家に色んな術式の本があるんだお。 たぶん、それで」
(,,゚Д゚)「へぇ……って、お前ら休暇中は遊んだりしてないのか?」
( ^ω^)「実はあんまり。
ツンって昔から真面目だったから」
(,,゚Д゚)「せっかく二人っきりになれるチャンスだったんだから、デートとかすりゃ良かったのに」
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:42:50.26 ID:ymojIxEJ0
- ギコの遠慮ない言葉にブーンは苦笑。
気恥ずかしそうに頭を掻く。
( ^ω^)「うん、まぁ……。
そんな関係じゃないし、今はそんなことしてる暇はないと思うお。
僕ってトロいから……頭の良いツンについて行くだけで精一杯だお」
(,,゚Д゚)「あー、そうだな、トロいよな」
(;^ω^)「フォローくらいしてほしいお」
(,,゚Д゚)「心にもないフォローを受けて安心か?」
( ´ω`)「……つまり冗談でも何でもなく本気で思ってるってことかお」
落ち込むブーンにギコは、まぁまぁ、となだめる。
確かに彼は鈍臭い部分が多々あるが、それだけではないことを知っていた。
- 42: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:44:13.52 ID:ymojIxEJ0
- (,,゚Д゚)「でもまぁ俺達はまだ一年だ。 あと四年もある。
その間に色々と考えたり悩んだりして……変わっていくこともあるだろうさ」
( ^ω^)「うん。 もっと強くならなくちゃ。
いつかツンに追いつけるようになって――」
(,,-Д゚)「青春だねぇ……」
彼女の『か』の字すら身近にないギコにとっては、非常に羨ましい話である。
なんだかんだ言って、ツンの方もブーンを気にかけているのは解っているし
あとは時期とタイミングの問題だろう。
(,,゚Д゚)「幸せそうな顔してるだろ……本当に幸せなんだぜ、こいつ」
( ^ω^)「お?」
(,,-Д-)「いや、何でもない」
( ^ω^)「???」
- 45: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:46:00.98 ID:ymojIxEJ0
- ξ゚听)ξ「えー……っと、ここが貴女の部屋ね」
通知書に書いてある番号と、目の前にある扉の番号を見比べ、ツンはそう結論付けた。
ここは寮の一階、その隅に位置する部屋の前だ。
学園都市で暮らすための荷物を抱えたハインとツンが、確認し合って頷いた。
呼び鈴を鳴らす。
同居者が部屋にいるかもしれないからだ。
小気味良い音が聞こえ、ややあって扉の向こうから物音がした。
「はいはーい、今開けるよー」
そして扉が開き、
(*゚∀゚)「お?」
一人の女子生徒が顔を出した。
大きな荷物を持つツンとハインを見て、首を捻る。
从;゚∀从「えーっと……。
今日付けで学園都市VIPに編入となった、ハインリッヒ=ハイヒールと言いますです。
それで、割り当てられた寮の部屋がここみたいで――」
ぎこちない自己紹介と事情説明を開始したハインの横、ツンが一瞬だけ表情を固める。
視線は、部屋から出てきた女子生徒へ向けられていた。
ξ゚听)ξ(この人……)
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:47:24.06 ID:ymojIxEJ0
- (*゚∀゚)「なるほど、生徒会が言ってたのは君のことだったんだ!
さぁさ上がって上がって! 荷物持ってあげるよ」
一方的にだが知っている顔だ。
現二年、つまり明日から三年生となる、
(*゚∀゚)「あ、私の名前はツー=メイル。
ツー先輩って気軽に呼んでいいよ!」
从 ゚∀从「よろしく御願いしますです、ツー先輩」
(*゚∀゚)「ウッヒョー! 先輩だなんてくすぐったいぜー!!」
从;゚∀从「えー」
ξ゚听)ξ(ツー=メイル……やっぱりだわ。
噂に聞く『二年前の事故』の関係者で――)
……武術専攻学部にいながら、戦いを捨てている生徒の一人。
- 50: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:49:08.79 ID:ymojIxEJ0
- 詳しい話はツンも知らなかった。
二年前と言えば、自分やブーンがこの学園に来るよりも前の話である。
ただ一つ彼女が知っているのは、
ξ゚听)ξ(……その事故があったから、今の生徒会長がいる、ということ)
長身で、長い黒髪を持つ学園生徒会長の姿を思い出す。
何事にも動じそうにない彼女に、そして自分の前で快活に笑うツーに、一体何があったのか。
(*゚∀゚)「ん? なんか顔に付いてる?」
ξ;゚听)ξ「あ、いえ……何でもありません」
(*゚∀゚)「???」
ξ゚听)ξ(戦いを捨てたくらいだから、もっと塞ぎ込んでるのかと思ってたけど……)
ツーにとっては大したことではなかったのだろうか。
いや、しかしそれでは戦いを捨てている意味が解らない。
武術専攻学部に所属しながら戦うことを拒否するなど、よほどのことであるはずだからだ。
ξ゚听)ξ(……食えない先輩、って認識で正解かな)
単に心が強いのか。
それとも逆に、心の弱さを隠しているのか。
どちらにせよ、ツンは何となく彼女のことが好きになれなかった。
- 52: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:51:25.46 ID:ymojIxEJ0
- 寮に入ってから数十分が経つ。
ξ゚听)ξ「あ、いたいた」
从 ゚∀从「すまん、少し遅くなっちまった」
意外と時間を食ってしまった。
ツーの熱烈な歓迎を断り切れず、一息ついてしまったからだ。
その間ずっと外で待っていたギコとブーンは、戻ってきたツン達を恨めしそうに見る。
(;゚Д゚)「随分と遅かったな」
( ^ω^)「待ちくたびれたおー」
ξ゚听)ξ「ギコ君はともかく、ブーンはいつも私に迷惑かけてるんだから、このくらい我慢出来るでしょ?」
(;^ω^)「う……それ言われると何も言えないお」
从 ゚∀从「なぁ、ツン。
興味本位で聞くんだが、例えばどんな迷惑をかけられてるんだ?」
ξ゚听)ξ「そうねぇ……約束の時間に来ないのは当たり前だし、忘れ物は多いし、
慌てん坊だし、目を離すとすぐ何処か行くし、馬鹿だし――」
( ;ω;)(事実だけに何も言い返せないお……)
- 55: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:53:17.00 ID:ymojIxEJ0
- 次から次へと出てくるツンのブーンに対する評価。
彼が涙目になるもの仕方ない、と思えるほどに連射されている。
しかし、それは逆を言うなら――
从 ゚∀从(ブーンのことをよく見てる……ってことだよな?)
(,,゚Д゚)(だろうな。 でも本人に言うと必ず否定するのがお約束)
ξ゚听)ξ「……二人とも何か言いたそうね?」
从;゚∀从「な、何でもねぇぞ! なぁ!?」
(;゚Д゚)「あぁ何でもないな! 何でもない!」
首を左右に高速で振る二人に対して、ツンは溜息を一つ。
言われ慣れているのか、すぐに気を取り直して、
ξ゚听)ξ「で、これからどうするの?
今いる生活区画を除けば、あとは教育、工業、商業区画が残ってるけど」
(,,゚Д゚)「ん? あぁ、そうだな……」
言ったギコは、時間を確認するため携帯端末を取り出した。
それを見たハインが軽く目を見開く。
从 ゚∀从「あ、それって端末? 見たことねぇタイプだな」
- 56: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:55:41.56 ID:ymojIxEJ0
- (,,゚Д゚)「ん? これか?
ここで独自開発された『OZシリーズ』っていってな。
基本的に生徒用で、都市内でしか通信できないようになってるんだけどな」
ギコには詳しい仕組みなど解らないが、これは『魔術機械』と呼ばれるアイテムの一種だ。
魔力的な技術――つまり『魔術』を使用した特殊な機械のことを言い
ここ十数年で急速に発達してきているとか何とか。
今ギコが持っている携帯端末の他、
兵器や武具はもちろん、人々の生活にも浸透しつつある可能性に満ちた技術である。
ギコが持つのは比較的古い型だ。
古ければ古いほど容量が少なくなり、その分だけ搭載できる機能の選択も削られるが
自分にとってはこのくらいの方が使いやすい、という理由で古いタイプを使い続けている。
ξ゚听)ξ「未だにギコは『OZ-Ver.3』を使ってるのよね。
今年の夏にはVer.7が出るっていうのに」
(,,゚Д゚)「あんまり容量多くても何を搭載すりゃいいのか解らん。
メールの受信、送信と時計機能が積めるほどの容量があれば何でもいいだろ」
携帯ゲーム『ブロック直し』や、『マザコン的着信音』など誰が使うのだろうか。
ネタが尽きてきたのか、特に最近は妙な機能ばかりが開発されている気がする。
- 60: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 21:58:23.41 ID:ymojIxEJ0
- 从 ゚∀从「それ、ここで買えるのか?」
(,,゚Д゚)「今度連れて行ってやるよ。
持っておくと何気に便利だからな」
ただ、と言い、ギコは携帯端末を操作。
すると、青色に近い三次元ウインドウが画面から飛び出してきた。
(,,゚Д゚)「これを開発したため、OZシリーズは電気じゃなく魔力を使う。
三次元ウインドウを使うと内蔵魔力が消費されるから気をつけてくれ」
从 ゚∀从「おぉ、携帯端末からウインドウかよ! 初めて見たぜ!」
ξ゚听)ξ「機構の小型化が成功したからね。
あんまり大きいのが出せないのが難点だけど、充分に実用可能よ」
从 ゚∀从「へぇ〜……学園都市って案外すげーなぁ」
( ^ω^)(もはやちんぷんかんぷんだお)
(,,゚Д゚)「さて、あんまりgdgd話してるわけにもいかん。
さっさと次に行くトコを決めないとな」
端末に写る時計をチェック。
ハインが来たのが昼過ぎで、それから既に数時間が経っていた。
- 62: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:00:45.85 ID:ymojIxEJ0
- (,,゚Д゚)「ううむ……他の三区画全てを今日中に周るのは無理っぽいな。
明日から授業が始まるし、とりあえず教育区画を優先したいんだけどいいか?」
从 ゚∀从「ん、任せる」
( ^ω^)「おっおっ、了解だお」
ξ゚听)ξ「じゃあ、シロクロ門まで一緒に行きましょう。
そこで分かれて商業区画の方へ買い物に行けば、私達の目的も達成できるわ」
( ^ω^)「その発想はなかったお! ツンすげー!」
从 ゚∀从(なんか犬みてーだな……)
(U^ω^) わんわんお!
C/ l
し−し−J
从*゚∀从(や、やべぇ、飼いたいかも……)
(,,゚Д゚)(ヒートといいコイツといい、なんか俺の周りには犬系が多いよなぁ)
- 64: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:02:31.99 ID:ymojIxEJ0
- 寮を出た四人は、再びサウス・メイントスリートへ。
今度は北――つまり都市の中心を目指して歩き始めた。
周囲、やはり脇道に入るよりも人が多くいるように感じられる。
(,,゚Д゚)「とりあえず、この都市は中心から四方へ伸びる四つのメインストリートが基準だ。
迷ったらここに出ることを一番に考えると早いと思う。
人も多いから、簡単に尋ねられるし」
从 ゚∀从「まるで源流だな。
頂上を水源として川が四方へ……そこから都市中に枝分かれてる、ってか」
(,,゚Д゚)「表現としちゃ間違ってはいない」
ξ゚听)ξ「そして水源たる頂上、それがこの学園都市の中枢である『教育区画』よ。
学園の施設のほとんどがそこに存在するわ。
校舎も、学食も、模擬戦場も、大講堂も……何もかもね」
从 ゚∀从「ということは皆は毎日、この坂道を通って学園へ通ってるんだな?」
ハインは足元を見た。
雨天時の滑り止めのために少し凹凸がある地面は、都市の中心へ向かって斜めに傾いていた。
生徒は、この坂を毎日歩くことで足腰を鍛えるのだという。
- 66: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:04:17.49 ID:ymojIxEJ0
- ( ^ω^)「通学するだけである程度の基礎体力がつくんだお!
特に僕なんか足をよく使うから、とてもいい感じなんだお!」
从 ゚∀从「足……?」
(,,゚Д゚)「ブーンは足技が得意でな。
動きが面白いから一見の価値が……けどまぁ、俺より弱いんだなぁこれが」
(;^ω^)「ぐぐっ……いつか追い抜いてやるお」
(,,゚Д゚)「楽しみにしとくよ。 俺も理由を作っておかなきゃな」
何となく嬉しそうに笑うギコの背後、ツンが誰にも気付かれないよう吐息した。
ξ゚听)ξ(まだバレていないみたいね。
ブーンことホライゾン=インサイドウィステリアの『特性』のことは)
ツン以外は誰も知らないだろう。
ブーンという少年が、ただ人懐っこいだけの生徒ではない、ということを。
観察力の高い教師は見抜いているかもしれないが、競争相手ではないので無視の対象だ。
- 68: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:05:34.05 ID:ymojIxEJ0
- 武術専攻学部に所属している以上、今もギコが言った通り戦うための技術を持っている。
そして彼を幼い頃から知っているツンは、彼に関する『とある法則』を理解していた。
ξ゚听)ξ(いくらギコ君でも知られるわけにはいかないわ。
もしかしたら別パーティになって敵対するかもしれない。
それに、ブーンの力を一番引き出せるのは私だけなんだから……)
隠し事は嫌いだ。
けれど、己が不利になる情報を与えるのも嫌いだった。
だから彼女は、損得にならない情報のみの正々堂々を心がけている。
この隠し事はいつかへの布石。
必ず花開くときが来るはず。
ただ、
(;^ω^)(……なんか背中がムズムズするお?)
この通り、当の本人はのん気なものであったが。
- 71: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:09:37.36 ID:ymojIxEJ0
- 生活区画の案内をしながらの徒歩は、思いのほか時間がかかってしまった。
ふと気付けば坂を上り切ろうとしている。
足を止めると、痺れるような疲労が思い出したかのように両足を走った。
ξ;゚听)ξ「ふぅ……久しぶりに歩くと結構堪えるわね」
( ^ω^)「この感覚がたまらんお」
しばらく故郷へ帰っていたため、ここを歩くのは数週間振りだ。
上り切るまでに息が上がってしまうのも仕方ないだろう。
けろっとしているのは、春期休暇中も生徒会の仕事で走り回っていたギコのみである。
(,,゚Д゚)「ハイン、大丈夫か?」
从;゚∀从「あぁ……と、言いたいところだが、ハァ、ちょっとキツい。
お前らすげーなぁ……」
(,,゚Д゚)「最初は誰だってそんなもんさ。
むしろ、その程度なら上々だと思うぞ」
ξ゚听)ξ「そういえば一年生の時、この坂を全力疾走で駆け上がって倒れた新入生がいたわね」
(;゚Д゚)「う、うっさい! あの頃はまだまだ若かったんだよ!」
ξ゚听)ξ「今も若いでしょーが。 しかも頭に馬鹿の付く」
从;゚∀从「馬鹿若い……」
(;゚Д゚)「いいとこねぇなぁ、俺……」
- 74: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:12:26.99 ID:ymojIxEJ0
- (,,゚Д゚)「さて、目的地にご到着だ」
見上げた先、坂を上り終えたところに『教育区画』がある。
都市の中心を占める『教育区画』は、学園の機能に特化している区画だ。
先ほどツンが言ったとおり、校舎も何もかもが教育区画に存在する。
そして、その入口を果たしているのは、
从;゚∀从「これは……門か? デケェな」
そこには、白と黒のコントラストで彩られた巨大な門があった。
(,,゚Д゚)「学園名物の一つかな。
正式な名称はないんだが、皆は『シロクロ門』だとか呼んでる」
教育区画へ出入りするためのアクセスポイントは、それぞれ東西南北に一つずつ存在する。
その内、最も生徒を迎える率が高い南側の門だけ、このように豪華な修飾を施されていた。
もはや巨柱とも呼べる門の足には、大胆な字で『VIP学園』と刻まれている。
この荘厳な門のために、わざわざ他方角から回り込んで学園に入る物好きも少なくないらしい。
(,,゚Д゚)「まぁ、実は他にも理由があるんだけど」
从 ゚∀从「理由? それって――あ」
問おうとしたハインの口が止まる。
視線は、門を越えた先に向けられていた。
- 77: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:15:04.74 ID:ymojIxEJ0
- 彼女の視線を追えば、教育区画――つまり学園の方から一人の生徒が歩いてきている。
続いてブーンとツンが気付き、僅かに身を固めた。
あの能転気少年と強気少女をも緊張させるほどの人物とは、
川 ゚ -゚)「――む」
長くしなやかな黒髪を揺らす女性。
校章の他にも様々な章を付けた、専用のコートを羽織る姿は威風堂々を体現している。
その背には、優に二メートルは越えようかという長さのランスを背負っていた。
从;゚∀从(ほぇ〜……)
ただ歩いているだけだというのに、何だかオーラすら見えそうな光景。
見惚れる四人の内、最初に反応したのはギコで、
(,,゚Д゚)「会長、どうしてここに……?」
うむ、と頷いた彼女は
川 ゚ -゚)「仕事が終わり、少し手が空いてな。
お前達が帰ってくる前に散歩でもしようと思ったのだが、
タイミング的に丁度良かったようだ」
- 78: ◆BYUt189CYA :2008/09/07(日) 22:18:01.45 ID:ymojIxEJ0
- クー=ルヴァロン、20歳。
生徒内での最高権力を持つ学園生徒会、その生徒会長を務める生徒。
容姿端麗、成績トップクラスの、隙がまったくない完璧超人。
そして、
(,,゚Д゚)(――現・学園内においての最強、か)
ギコは、この先輩に憧れて生徒会へ入っている。
いつかクー=ルヴァロンに追いつくため、日々を鍛錬に費やしている。
気付けば、右拳が強い握りを得ていた。
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