(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

4: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:06:42.47 ID:mMc+i0cb0

――――第四話

             『理由の理由』――――――――





            人って案外適当で
               それでも
        いつかきっと見つかると信じて



5: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:08:22.84 ID:mMc+i0cb0
その時、一瞬だけ時間が止まったような気がした。

川 ゚ -゚)「…………」

(;^ω^)(な、ナマ生徒会長だお……! いつ見ても美しいおハァハァ)

ξ;゚听)ξ(……流石と言うか、やっぱり他の生徒とは違うわね。
       出来れば繋がりを作っておきたいけど、それはそれで気が滅入りそうだわ)

(;゚Д゚)(なんか背後に良からぬ気配を感じる)

从;゚∀从(え? 何? 何なの?)

学園生徒会長であるクー=ルヴァロンを一目見て、その雰囲気に圧倒された。
明日から五年生、つまり最高学年として引き続き生徒会長を続ける予定の彼女は
既に、他生徒とは一線を画した空気を纏っている。

黒髪が風になびく。
続いてコートが揺れる。

春の兆しを見せる敷地内に、その黒を基調とする乱れはやけに目立っていた。



9: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:10:32.16 ID:mMc+i0cb0
クーの視線は、ハインを見ている。
資料上でしか知り得ない情報と、彼女を見た時の印象とを比べているのだろうか。

沈黙が少し続き、ハインが居心地悪そうに身じろぎした時、言葉が来る。

川 ゚ -゚)「君が今年から二年に編入する……ハインリッヒ=ハイヒール、といったか」

从;゚∀从「あ、えと……初めまして。
      明日からお世話になりますです」

川 ゚ -゚)「あぁ。
     私はクー=ルヴァロンという。 明日から五年だ。
     そして、この学園の内務を司る『学園生徒会』の生徒会長を務めている」

从;゚∀从「よ、よろしくお願いしますです」

川 ゚ -゚)「途中編入で色々と大変なこともあるだろう。
     何かあったら遠慮なく生徒会や同級生、先輩を頼るといい」

何故なら、と言い

川 ゚ -゚)「この学園で向上に励む者達はライバルであり、しかし敵ではないのだから」



10: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:12:55.27 ID:mMc+i0cb0
勘違いする新入生は意外に多いという。

武装学園都市が作られた理由と経緯から、自分以外の生徒は競争相手――つまりライバルとなる。
それが『好敵手』という認識であれば良いのだが、しかし中には完全に『敵』と見なしてしまう者もいた。

そういう考えを持ってしまった生徒は、
自分が上へ行くために他人を、時には友すらも蹴落とすことに力を入れるらしい。

力を求める姿勢としては間違っていないかもしれない。

しかし、ここはあくまで学園都市である。
一つの集団に属している以上、『敵か味方か』を語るならば、周囲の皆は間違いなく味方なのだ。

川 ゚ -゚)「都市とはいえ、ここに住む者達の大半は十代の少年少女だ。
     良く言えば発展途上、悪く言えば未熟。
     だから、この学園都市では皆で助け合いながら……解るか?」

从;゚∀从 コクコク

(;゚Д゚)(相変わらず会長オーラすげぇ)

今まで強気だったハインが黙って首を振っている。
それほどまでに、クー=ルヴァロンの存在はハッキリとしていた。



12: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:15:34.51 ID:mMc+i0cb0
ハインは思う。
不思議な声だ、と。

明らかに硬く、重圧感のある声なのだが、どこか優しい。
厳しい表情の裏側で、本当に生徒を大切に想っている心遣いが解る。

从;゚∀从(うわー、まずいだろ……女の人なのに惚れそうだ)

とにかくかっこいいのだ。
容姿も、声も、格好も、何もかもがパーフェクトで
着ているコートの迫力もあってか、後ろから見れば美男子にも見えるかもしれない。

从 ゚∀从(でも――)

気になるところがない、というわけでもなかった。

とりわけハインが気になったのはクーの目である。
程よく整った双眸に、言葉にはできない微かな違和感を抱いたのだ。


……見られてる?


視界に収める意味ではない。
もっと深い、言ってしまえば内面を透かされているような感覚に近い。
観察というより、見定めといった方が納得できるかもしれない。

初対面の相手に向けるような目、とは言いにくかった。



13: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:18:20.73 ID:mMc+i0cb0
从;゚∀从(まさか、な)

少し嫌な予感がした。
クー=ルヴァロンが、自分の正体を見破ったのではないか、と。

从 ゚∀从(いや……ありえねぇ、か。
      ただ見られただけで見抜かれるような、そんなもんじゃねぇ)

しかし何にせよ、この生徒会長と接触するのは控えた方が良さそうだ。
自分のことを抜きにしても、相性的に苦手なタイプな気がする。

川 ゚ -゚)「ふむ」

从;゚∀从(?)

ふと、雰囲気が変わった。
僅かに細められていた目が、元の形へ戻ったのだ。
普通の人間では解らないような変化だったが、ハインは確かに見た。

从 ゚∀从(どういうことだ?
      諦めたのか……?)

川 ゚ -゚)「ともあれ、我々は君の編入を歓迎する。
     明日から共に頑張ろう」

从;゚∀从「ぁ……は、はいっ」



14: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:20:23.03 ID:mMc+i0cb0
焦りが混じった、しかし元気な返事にクーは頷く。
そして腕を組み、申し訳なさそうに

川 ゚ -゚)「すまないが、これから事前に受け取った資料の確認を行いたい。
     生徒会室へ一緒に来て欲しいのだが……」

从;゚∀从(早速かよ……)

しかし、仕方ない。
情報を確認することは大切だ。
生徒会長として、むしろ褒められるべき責任感だろう。

クーの視線が、ハインの後ろにいるツン達に移った。

ξ゚听)ξ「あ、大丈夫です。
      私達、これから商業区画へ買い物へ――」

言いかけた時だ。
割って入るように、一つの電子音が甲高く響く。

出所はギコでもツンでもなく、クーの内ポケットだった。



17: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:23:53.46 ID:mMc+i0cb0
川 ゚ -゚)「む」

懐から取り出したのは携帯端末。
生徒の間では『OZシリーズ』と呼ばれているものだ。

それはギコの持つタイプより数世代新しい機種で、よりコンパクトな形をしていた。

数世代、といっても機能的に大きな違いがあるわけではない。
どの機種でもウインドウの展開は可能で、容量や搭載できる機能に差がある程度だ。
今でも、ギコが古い機種を愛用している理由の一つである。

しかしクーは威厳を保つためとして、常に最新機種を持つよう心掛けていた。

言動から、こういった細かい機械に弱いイメージが先行するかもしれないが
実は生徒会メンバーの中でもミセリに次ぐほど知識が深い。

興味無さげに、ミセリと最新機種について語るクーの姿は必見である。

川 ゚ -゚)「……む」

届いたメッセージを読んだクーの眉が、僅かに歪んだ。

(,,゚Д゚)「どうかしたんすか?」

川 ゚ -゚)「すまない……先生方から呼び出しが掛かってしまった。
     急な会議があるらしい」



20: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:27:47.15 ID:mMc+i0cb0
学園生徒会長は多忙である。
生徒だけでなく教師に混じっての仕事も多い。
若者と大人の間に入って取り持つような、そんな難しいポジションだ。

そんな彼女が、突然の呼び出しを受けるのはよくあることだった。

(,,゚Д゚)「あぁ、いつもの急な会議っすね」

川 ゚ -゚)「その言い方は……。
     いや、もはや言葉が破綻するほど頻繁に行なわれるから仕方ないか。
     規模が大きい故、その分だけトラブルも発生しやすくなる、ということだな」

小さく苦笑したクーは、ハインへと向き直り、

川 ゚ -゚)「ここまで来させておいて悪いのだが、話はまた明日にしよう。
     ハインリッヒは……そうだな、始業式が終わったら生徒会室へ来てくれ。
     ギコ、頼んだぞ」

(,,゚Д゚)「うぃっす。 お任せあれ」

ギコの返事に頷き、クーは校舎群へ向かって歩き始める。
コートの裾を揺らしながらの背中は、ホールドされているランスと相まって柱のように真っ直ぐだ。

从 ゚∀从(油断できねぇな……気をつけねぇと)

後ろ姿を見送りながら、ハインは小さく心に決めた。



24: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:31:07.85 ID:mMc+i0cb0
学園生徒会長の背が小さくなった頃、ツンが肩の力を抜きながら口を開いた。

ξ;゚听)ξ「……はぁ、緊張した。
       下手に走り回ったりするより、よっぽど疲れるわね」

(;^ω^)「威圧感が半端なかったお」

隣ではブーンが、やはり同じように力を抜いて吐息している。

(,,゚Д゚)「さて、しかし……どーすっかね。
     時間的にもタイミング的にも中途半端になっちまった」

ξ゚听)ξ「私達と一緒に商業区画へ行く?」

(,,゚Д゚)「んー、あそこは案内したい所が多いからな。
    怪物専門店に、人体パン屋、迷宮書店、冥土カフェ、ゾイフル……とても今からじゃ回りきれない。
    となると、やっぱり明日のための学園案内かね」

( ^ω^)「でも、学園も負けず劣らず広いお。 まさか夜まで引っ張り回すつもりかお?
      荷解きもしないといけないだろうし……」

あ、とギコが言う。
どうやら、そこら辺のことは考えていなかったらしい。

从 ゚∀从「あー、うん。 悪いけど、今日はちょっと早めに帰りたいかな」

(,,゚Д゚)「そっか……」

从;゚∀从(いきなり生徒会長と会っちゃったしなぁ)



25: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:33:10.53 ID:mMc+i0cb0
意気揚々と案内をしてくれたギコを知っているだけに、
ハインは、少し悪いかな、と思い直し、

从 ゚∀从「なぁ、この『教育区画』の全体図みたいなの、ある?
      今日のところは、それを読んで明日に備えたいなぁ、なんて」

ξ゚听)ξ「あるわよ。 ちょっと待ってなさい」

シロクロ門の傍には守衛用の小さな小屋がある。
ツンはその扉を勝手に開き、中から何かを持ち出してきた。
それは一冊の薄い冊子で、

ξ゚听)ξ「これ、教育区画の案内図が載ってるパンフレットよ」

从 ゚∀从「勝手に取ってきていいのかい?」

ξ゚听)ξ「本当は外来の人に渡すものなんだけどね。
      だから校舎の中とか、そういう詳しい部分は記載されていないけど、
      区画内に配置されてる施設の位置とかは解るから、帰って予習しておくといいわ」

从 ゚∀从「おぉ、本当だ……ありがとな、ツン。
      これがあれば、明日から迷惑をかけることなんかなくなるぜ」



26: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:34:57.38 ID:mMc+i0cb0
ハインの言葉に、ギコが首を振った。

(,,゚Д゚)「や、迷惑ってことはないぞ」

( ^ω^)「じゃあ、面倒かお?」

(,,゚Д゚)「少し」

从 ゚∀从



从 ;∀从

(;゚Д゚)「う、嘘ですっ! すっげー楽しいです!!」

まさかいきなり泣かれるとは。
半分冗談で言ったギコは慌てて、むしろ逆効果っぽいフォローを施す。
その変わり様は傍から見れば滑稽なもので、しかし次の瞬間、

从 ゚∀从「はっは、嘘泣きでしたー。
      そのくらいで泣き崩れるほど弱くはねぇ!」

(;゚Д゚)「なん……だと……」



28: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:36:28.08 ID:mMc+i0cb0
( ^ω^)「おぉっ!? 本当に泣いてたかと思ったお!
     ハインちゃんSUGEEEEEEEEEEEE!!」

从*゚∀从「いやぁ、それほどでもあるかなぁ」

ブーンに褒められて恥ずかしそうにはにかむハインの背後。
何故か、ギコとツンが神妙な表情を浮かべている。

(;゚Д゚)(っていうか――)

ξ;゚听)ξ(本当に涙流してたわよね、今……)

一粒や二粒なら解る。
しかし、今の彼女が流した涙の量は『嘘泣き』の範疇を超えていた。
咄嗟に涙を分泌させる技術は驚きだが、量が多過ぎるではないだろうか。


一瞬、得体の知れない感覚が背を撫でる。


(;゚Д゚)(――って、いやいやいや、何の感覚だよ)

思わず自分ツッコミを一つ。
根拠も何もない不思議な感覚に、ギコは思い違いだと考え直した。
まだ出会って間もない人に対して失礼である、と。

ξ゚听)ξ「…………」

ただ、隣にいるツンはしばらく表情を崩さなかったが。



30: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:38:26.83 ID:mMc+i0cb0
結局、都市案内は明日以降に持ち越しとなった。

そろそろ陽が落ちる時間だ。
教育区画、商業区画、工業区画のどれを案内するとしても、終わるのは夜になってしまうだろう。

寮の門限は決められていないものの、転入生が初日から夜遅くまで都市を徘徊するのは良くない。
更には部屋に帰っての荷解きや、同室であるツーとのコミュニケーションの時間も必要なはず。

そういった事情もあって、ギコはハインを寮へ送っていくことになった。
ツンとブーンは当初の目的である買い物をしに、今から商業区画へ向かうとのこと。
というわけで、四人は学園の入り口であるシロクロ門の前にいた。

ξ゚听)ξ「じゃ、私達はこっちだから」

( ^ω^)ノシ「また明日だお!」

東、つまり商業区画へ続く道に立つのはブーンとツンだ。
これから何かを買いに行くらしいが、詳細は知らない。

(,,゚Д゚)「おーっす」

从 ゚∀从ノシ「今日は二人とも、ありがとな!」

南、つまり生活区画へ続く道に立つのはギコとハインだ。
この広い学園都市で迷わないよう、彼女を寮へ送っていくことになっている。



32: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:40:18.74 ID:mMc+i0cb0
さっさと先を歩くツンと、何度か振り返ってこちらに手を振るブーンが見えなくなった頃、
ギコとハインも寮へ向かうために歩き始める。

学園から寮へ戻るということは、行きに通った坂道を下るということだ。
上りがキツいのは当然だが、実は下りも侮れない。

ハインがそのことを思い知ったのは、歩き始めてから少し経った時である。

从;゚∀从「わっ、とっと……下りは下りで意外と力を使うんだなー」

(,,゚Д゚)「足腰にくるだろ?
    慣れない内はゆっくりでいいから、足首とか痛めないように歩こう」

身体が前へ倒れないようにバランスを整えた上で、前を目指して歩くのだ。
普段の歩き方では使わない筋肉を使うため、その分だけ疲れやすい、というわけである。

从;゚∀从「こんな道を毎日歩いてたらマジで体力つきそうだぜ。
      でも明日から大丈夫かなー……」

(,,゚Д゚)「はっきり言って慣れないとキツいかも。
    俺も昔から鍛えてたつもりだったけど、最初の方は大変だった」

あの頃は、特に息も乱れず登校する先輩達に恐怖したものだ。
今ではコツのようなものを掴んでおり、あまり疲れずに移動することが出来る。

これも一つの成長具合を計る物差しなので、ギコはこの道を歩くのは嫌いではなかった。



34: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:42:15.21 ID:mMc+i0cb0
少しだけ歩調を緩める。
夕方になりつつある空を見上げながら、その雰囲気に浸るように。

しばらく無言で歩いていると、ハインがふと口を開く。

从 ゚∀从「……あ、そうだ」

(,,゚Д゚)「?」

从 ゚∀从「聞いても良いのか解らねぇけど……。
      自己紹介の時、お前は『理由』がないと力を振るえないって言ったよな?」

(,,゚Д゚)「……ん、言ったな」

その制約を抱えてから、もうすぐ一年になる。
おかげで他の生徒達より『武績』が少なく、生徒会の仕事による報酬に頼っている状況だ。
もし自分が生徒会の試験に落ちていたら、と思うとゾッとする。

从 ゚∀从「……良かったら聞かせてもらえるかい?」

(,,-Д゚)「あんまり面白い話じゃないけど、それでいいなら」

从 ゚∀从「うんうん」

本当に面白くないんだけどな、と思うも、自分に興味を持ってもらえることが少し嬉しかったり。

別に一目惚れだとかそういうものではないつもりだが、
やはりせっかく出会ったのだから好んでほしい、と思うのは贅沢なのだろうか。



36: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:44:46.53 ID:mMc+i0cb0
ともあれ、ギコは少しの緊張を感じながら話し始める。

(,,゚Д゚)「俺な、学園都市に来る前……小さい頃から親父に色々と鍛えられてたんだ」

从 ゚∀从「父親に?」

(,,゚Д゚)「『男なら強くあれ』ってな。
    とにかく、よく笑うオヤジだよ」

空を見上げる。
軽く目を閉じ、過去を思い出すように

(,,-Д-)「最初は小突きあったりジャレあったりしてたんだけど、いつしかマジ殴りするようになってきてなぁ。
     俺もムカついたから殴り返そうとして、でも全然当たらなかった。
     よくカウンター入れられて吹っ飛んでたっけ」

从;゚∀从「ず、随分とアグレッシブな親父さんだな……」

(,,゚Д゚)「若い頃は大陸を旅してたらしくて
    だからなのか知らんがメチャクチャ強くて豪快で……カーチャンもそこに惚れたのかな。
    んでまぁ、息子である俺にも強く育ってほしかったんだと思う」

今思えば、父親なりの愛情表現だったのかもしれない。
息子に何かしてやりたかった気持ちの表れだったのかもしれない。

まだ幼かった当時のギコに伝わったかと問われれば、確実に『NO』だが。



38: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:46:38.04 ID:mMc+i0cb0
(,,゚Д゚)「ここの学園に入学したのも親父の勧めだった。
    本当は馬鹿親父の思うとおりになるのはムカついて嫌だったけど、
    俺自身、さっさと暑苦しい親から離れたかったし――」

从 ゚∀从「?」

(,,゚Д゚)「――もうその頃には、自分の力を無視できないようになっててな」

从 ゚∀从「…………」

ハインは何も言わない。
表情を変えないままギコを見ている。
その視線をむず痒く感じたギコは、頬を掻きながら

(,,-Д-)「何て言えばいいのかな。
     小さい頃から鍛えられてたせいか、もう鍛錬しないと落ち着かない身体になってて
     そして、いつの間にか得ていた力で……」

从 ゚∀从「……何が出来るのか、を探したい?」

窺うような問いに、ギコは苦笑。
そして首を横に振った。

(,,゚Д゚)「惜しい。 ちょっと違う」



41: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:48:42.12 ID:mMc+i0cb0
从 ゚∀从「力の使い道を探してんじゃねぇのか?」

それもある。
この都市で育てた自分の力を、何処でどのように使うのか。
つまりは『将来何になりたいか』という疑問に対する答えが、未だ空白ということだ。

だが、焦りはない。
自分は明日から二年生で、まだ卒業まで四年もあるのだ。
これから見聞きしたり体験することが、将来の標になることを期待している自分もいる。

期待する、ということは、望んでいる、ということに等しい。

よって、その点においては大丈夫だとギコは思っている。
望んでいる限りは諦めることもないだろう、と。

だから、というように、ギコは今抱えている『迷い』を打ち明けた。

(,,゚Д゚)「この学園に入学するために街を出る時、見送りに来てた親父に言われたんだ。
    『男は理由も無しに拳を振るってはいけないが、しかし理由も無しに振るうべき時がある』って。
    どういうことか聞いたんだけど、親父はただ笑うだけでなー」

从 ゚∀从「はぁ……って、おい、まさか――」

(,,゚Д゚)「解らないままにしておくのは悔しいから、入学してからずっとその答えを探してる。
    俺が『理由』無しに拳を振るわない理由だ」



43: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:50:18.16 ID:mMc+i0cb0
そして、と続け

(,,゚Д゚)「『理由も無しに振るうべき拳』っていうのは、
    『どうしても振るわないといけない拳』じゃないかと俺は思ってる。
    だから、俺は正当な理由がない時以外、絶対に拳を使わないようにしてんだ。
    拳を振るうのを我慢できるってことは、きっと『理由も無しに振るうべき拳』じゃないだろうから」

ただの固執だ。
父親の言葉を理解できない自分が悔しいから、理解するために制限を掛けている。

答えを得ても自分にメリットがあるのかすら解らない、一見すればまったくの無駄な拘りだった。

从 ゚∀从「……別に、正当な理由がある時だけ、って限定しなくてもいいんじゃねーか?
     我慢できるっつーことは『理由も無しに振るうべき拳』じゃないってことだから
     それさえ解れば、あとは――」

勝手だろ、と言いかけたハインの口が止まる。
おそらく先ほどの言葉を思い出したのだろう。

(,,゚Д゚)「『男は理由も無しに拳を振るってはいけない』。
     これもまた親父の言葉で、そして俺もそれは正しいと思ってる。
     だから俺は理由がない限りは誰も殴らない」

从 ゚∀从「…………」



45: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:52:58.07 ID:mMc+i0cb0
言い切った。

こうやってハッキリと説明するのは二度目だ。
あの時は、言葉を向けた人以外の皆にかなり笑われた。

不思議と悔しい思いはなかった。
自分自身が、ある意味で本気じゃなかったからだと思う。

しかし、あの後で相手に言われた言葉は、ギコにとって大きなものだった。

从 ゚∀从「…………」

ふと横を見れば、顔に微笑を浮かべたハインがこちらを見ていた。
その目つきが何だかくすぐったくて、ギコは思わず顔を背ける。
すると、ハインは唐突に笑い始めた。

(;゚Д゚)「……な、なんだよ。
     言っとくが変だってことは自分でも解ってるんだからな」

从 ゚∀从「はは――はははは、あははははは!!
      ギコ! おまえ面白ぇーな! はっきり言って馬鹿じゃねーの!?」

(;゚Д゚)「馬鹿……って、えぇぇぇ……?」



46: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:54:35.77 ID:mMc+i0cb0
从 ゚∀从「普通、そこは反抗するところだろ?
      自分を理不尽に殴って鍛えてきた父親の言葉だ。
      俺がもしギコだったら、絶対に反抗して理由も無く人を殴るだろうさ」

それはそれでどうなのだろうか。
思わず否定しかけるが、自分がそうなっていたかもしれない、ということを考えると口が止まる。

言い掛けた言葉を呑み込み、

(,,゚Д゚)「……いや、まぁ、うん」

自分の中にある考えを見つめ、

(,,゚Д゚)「あんな親父だけど、言ったことに嘘は一つもなかったからな。
    だから、こんなにムキになってまでも理解しようとしてるんだと思う」

正直に言った。
今、自分が話している相手は父親ではなくハインだ。
つまらない意地を張る必要はまったくない。



48: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:56:20.19 ID:mMc+i0cb0
从 ゚∀从「そっかそっか。 なんだかんだ言って認めてんだなー」

(,,゚Д゚)「認めてはないぞ。
    いつか、今まで殴られた分をやり返すつもりだしな」

从 ゚∀从(……認めてるからこそ、リベンジかまそうとするんじゃねーのかねぇ)

思うが、口にはしなかった。
言えばきっとギコは頑なに否定するだろう。
自分の気持ちに気付き、素直に認めることが出来るまでは、だ。

それに、他人である自分が伝えても意味が無いだろう。

从 ゚∀从「しっかし意外だったなぁー。
     暗い過去があって、トラウマで拳を振るうことが出来ないのかと思ってた」

(,,゚Д゚)「そりゃ悪かったな」

从 ゚∀从「でも、逆に面白い話だった。 ありがとな」

(,,-Д゚)「……どーも」

そして、ハインが見ていない間に首を傾げる。
何やら楽しそうで嬉しそうな彼女を理解できないからだ。

(,,゚Д゚)(まぁ、会った時から色々と『変わってる』のは解ってたけどさ)



50: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 21:58:26.94 ID:mMc+i0cb0
大陸の中では珍しい学園都市に足を踏み入れても物怖じしない気概。
誰とでも仲良くなれそうな性格と、コロコロ変わる表情。

ブーンとヒートを足して2で割り、そこに得体の知れないモノをブレンドしたような。
そんな失礼千万な印象をギコは持っていた。
知られれば、きっと彼女は笑いながら殴ってくるだろう。

(,,゚Д゚)「……ん、そろそろ曲がるぞ」

从 ゚∀从「お? そっか?」

いつの間にか結構歩いていた。
話しながらだと、やはり時間を短く感じてしまうものだ。
サウス・メインストリートを南下していた二人は、先ほどの女子寮を目指して脇道へ入る。

すでに陽は半分以上、その身を地平線の向こうへ沈めていた。

(,,゚Д゚)(確かここだったよな)

ハインがこれから住み込む寮は、通りから程良く近い場所にある。
まだこの都市に不慣れな彼女にとっては幸いなことだろう。

もしかしたら、生徒会長であるクーが調整してくれたのかもしれない。



51: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:01:03.79 ID:mMc+i0cb0
(,,゚Д゚)「おーっし、着いたぞ」

从*゚∀从「うおおっ! ありがとなギコ!
      俺一人だったら絶対迷ってたぜ!」

(,,-Д-)「いえいえ……女の子を無事に送り届けるのは男の義務ですから」

从 ゚∀从「ははは、似合わねぇー」

はは、と笑ったハインは寮の入り口へ行く。
寮に入るための自動ドアを開きながら、こちらへ振り返り、

从 ゚∀从「こんな俺だけど、明日からよろしくな!」

(,,゚Д゚)「おう。 明日の朝、迎えに行くから寝坊すんなよ」

从 ゚∀从「するかっ!」

そして閉じられるガラス扉。
小走りする音が小さく聞こえ、やがては聞こえなくなった。
最後まで騒がしい女の子である。



52: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:02:55.70 ID:mMc+i0cb0
音が無くなったことを確認したギコは、来た道を引き返し始める。
夜が来つつある道の中で思うのは

(,,-Д-)「……ううむ、騒がしい奴が来たもんだ」

だが、決して苦手な騒がしさではなかった。
むしろ『楽しい』と思っている自分がいる。

(,,゚Д゚)「――――」

少し歩いて、ふと気付く。
ハインがいなくなった途端、一気に周囲が静かになった気がした。
彼女がこの都市へ来る前――それこそ昨日までの静けさだというのに。

(;゚Д゚)「なんか調子狂うなぁ」

感想を漏らし、続いて懸念するのは、

(,,゚Д゚)(明日は始業式……そして俺は二年生、か。
    何事もなく終われば良いんだが)



53: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:04:50.67 ID:mMc+i0cb0
この学園の主だった行事は、学園生徒会が主体で行なうことになっていた。
始業式だけでなく、武踏祭、卒業式などの行事も同様だ。
よって教師陣はサポートという姿勢を崩さないようにしている。

しかし生徒会とはいえ、若者の集まりだ。
ミスにミスが重なって問題が起こることもあるだろう。

(,,゚Д゚)「……ま、心配はしないけどな」

現生徒会のメンバーにはクーやフォックス、トソン達がいる。
性格に問題が多い連中だが、高い能力を持っていることに疑いはない。
彼らがいる以上、さして大きなトラブルは起きないはず。

そのはずなのだが、



……残念ながら、ギコの願いは違った意味で破られることとなった。



54: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:06:48.39 ID:mMc+i0cb0
武装学園都市VIPから北東へしばらく行くと、一つの街が見えてくる。

決して大きくはないものの、活気溢れる街都の名は『プラス』といった。

以前は住人が細々と暮らしていく程度の規模だったのだが、
南西に学園都市が建造されてからは、VIPへのアクセスポイントを持つ、ということで
一気に観光都市化した、商魂たくましい街である。

夜になっても人の声が止まない通りの脇に高級なホテルがあった。
一泊するだけでも結構な額が掛かる、完全に金持ち観光客用の宿泊施設だ。

その一室。
薄暗い室内に、男がいる。

( `ハ´)「…………」

彼は特に何をするでもなく、ただ窓際に寄って街を見下ろしていた。
様々な物音、光、そして魔術によって宙に浮くカラフルなウインドウ。

この街の人々の逞しさを表現するような光景に、男はただ黙って視線を向けていた。



56: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:08:38.99 ID:mMc+i0cb0
N| "゚'` {"゚`lリ「……ふぅ、流石は金が掛かっているだけあるな。
         なんだか水さえも高級に感じる」

と、室内にあるシャワー室から別の男が出てくる。
頭にタオルを掛けてはいるが、首から下は何も羽織っていなかった。

( `ハ´)「…………」

窓際の男はそれを見て、しかし何も言わずに視線を戻した。
見られた男の方は『自信あるんだが』と呟きながら、全裸のまま椅子に腰掛ける。

N| "゚'` {"゚`lリ「えーっと。
        ところでアンタ、どちらの名で呼べばいいのかい?」

( `ハ´)「……シナー」

N| "゚'` {"゚`lリ「OK、シナー。
         しかし、色々な意味で有名なアンタと一緒の部屋に泊まれるなんて……光栄だな」

ふふ、と微笑む男は、変態の体現である。



58: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:10:43.04 ID:mMc+i0cb0
( `ハ´)「それは性的な意味か?
     こちらも知ているアルよ。 阿部……お前の性癖のこと」

N| "゚'` {"゚`lリ「一時的に仕事を共にするんだから調べられて当然、か。
        でも、これを見てくれないか」

股間を指差す。
足の付け根の間にぶら下がっている物体には、あるべき硬さが微塵もなかった。
ただ重力に従って、椅子の生地の上で力無くうな垂れている。

N| "゚'` {"゚`lリ「残念なことだが、今の俺にとってアンタは眼中にない。
         もちろん、以前の俺だったら速攻でベッドに引きずり込んでいるだろうけどね」

( `ハ´)「その前に八つ裂きにしてやるし、今のお前の状態が解ているから同じ部屋にしたアル。
     そして、ワタシにはオマエの事情など理解出するつもりはない。
     しかし利害は一致した……それだけヨ」

N| "゚'` {"゚`lリ「利害……武装学園都市VIP、か。
         功績は何度か噂に聞いているが、アンタが出てくるほどなのかい?
         いくら武装都市とはいえ、住人のほとんどが子供だろうに」

問いに、シナーは首を振る。

( `ハ´)「確かに子供……しかし油断禁物。
     特に四年から上の生徒は、そこらのゴロツキでは歯が立たないアル」



63: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:13:37.13 ID:mMc+i0cb0
四年生ともなれば十九歳、五年生に至っては二十歳越えがほとんどだ。
いくら学生とはいえ、その歳になるまで学園で揉まれていれば強くもなる。

特に武術専攻学部や術式専攻学部には、既に単体で強力なスキルを持っている者も多い。

( `ハ´)「そして最もな脅威は、その結束力。
      中に甘く、外に辛い。
      一度外敵と見なした存在に対しては、全ての生徒の敵意が向けられるアルよ」

言葉に、あぁ、と阿部が頷いた。

N| "゚'` {"゚`lリ「そういえばいつかのニュースであったな。
        学園都市VIPに入り込んだ十人組の武装強盗グループが、
        たった一晩で全員、半殺しの末に捕らえられた、と……こりゃ迂闊に手を出せないか」

流石に二人で行くには分が悪い。

というか、それが出来ない『別の理由』を阿部は知っていたが
それを口にすることはなかった。



64: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/13(土) 22:17:36.74 ID:mMc+i0cb0
N| "゚'` {"゚`lリ「……だからと言って何もしないのかい?」

( `ハ´)「もう既に一つ手を打てある。
      まずはこれで出方を見るつもりヨ」

N| "゚'` {"゚`lリ「ふむ……まぁ、俺は俺の目的を果たせれば良いんだが――」

そこで言葉を切った。
軽く目を瞑り、航空魔道艇の中で言葉を交わした少女を思い出し、

N| "゚'` {"゚`lリ「――でも少しだけ興味あるよ、武装学園都市VIP。
        何も知らず、ただ何かを望むために力を求めるチャイルド・コミュニティ、か。
        果たして俺に何を見せてくれるのか……」

顔を伏せ、くつくつと笑う。
それは玩具を与えられた子供の笑みに似ていた。

( `ハ´)(……学園都市)

迂闊には動けない。
彼の『主』が深く関わる場所だ。
事は慎重に進めなければ、それこそ自分の身が危うい。

二人の悪鬼の思惑が、部屋の闇でそれぞれ蠢きつつあった。



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