(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 4: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:09:21.15 ID:PgnU9TlF0
――――第七話
『ギコの戦い』――――――――
求めているから?
- 7: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:11:36.68 ID:PgnU9TlF0
- 反応できたのは、日頃の訓練の賜物、としか言い様がなかった。
(;゚Д゚)「――くっ!」
視線の先から鋭い軌道で飛んでくる刃に対し、ギコは咄嗟に右手を跳ね上げる。
いきなりの不意打ちを、正確に叩き落とすなどという芸当はまだ出来ない。
出来るのは、致命傷を喰らわぬようにすることだけだった。
右手を前へ振るう。
手の甲を、来る切っ先にぶつけるように、だ。
ど、という音と、右手に弾けるような感触が来たのは同時。
从;゚∀从「!?」
握っていた携帯端末が離れ、硬い地面へ落ち、
そして自由となった右手に鋭い痛みが来た。
- 9: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:13:37.80 ID:PgnU9TlF0
- (;-Д゚)「ぐっ……ぅ……!」
貫通はしていない。
角度が良かったのか、刃は手の甲を手首方向へ切り裂くのみに終わった。
軌道を変えられたナイフは、そのまま逸れて落ち、金属音を立てながら転がっていく。
从;゚∀从「ギコ!?」
(;゚Д゚)「大丈夫だ! だから近付くな!」
これで終わりとは思えなかった。
わざわざ魔法を使って強制移動させ、ただの一撃で済むわけがない。
こんなところに移動させたのは人目につくのを避けるためだ。
不意打ちで仕留められなければ、今度は別のものが来るはず。
もっと、堂々とした襲撃が。
( )「――――」
来た。
闇の中から現れたのは、黒い衣を頭から羽織った人影だ。
様子をうかがうギコ達の方へ、一歩一歩ゆっくりと歩いてくる。
- 10: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:17:00.64 ID:PgnU9TlF0
- (;゚Д゚)「お前……何だ? 俺達に何をしたい?」
右手から流れる血が殺意を証明しているようなものだが、ギコは敢えて問いかけた。
( )「――――」
返事はない。
しかし解ることはある。
(;゚Д゚)「……都市の住人じゃないな?」
学園都市で売られている武具の全てには、『刃引き』が施されている。
術式などを行使するデバイスには、デフォルト設定で非殺傷モードが掛けられている。
これは、外から武器を持ち込んでも同じ処置が為される決まりだ。
都市とはいえ学園の名を冠している以上、命のやり取りは原則として禁止されている。
この制限が解かれるのは、学園生徒会と教職員陣、そして学園長の三許可が出た時のみ。
つまり基本、この都市で人を殺せるような武具を持っている、ということは
外部から隠し持ってきた、ということに繋がる。
それだけで罪に問われるような行為だ。
(;゚Д゚)(いや、今は都市の住人かなんて関係ない……!)
それよりも現状を脱することを考えるべきだ。
相手の殺意は明確で、これで悪戯だと言えるのならば相当な馬鹿か修羅だろう。
- 13: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:19:07.37 ID:PgnU9TlF0
- 周囲に障害物はほとんどなく、唯一の出入り口である屋上口は敵の背後。
相手は黒布を羽織り、ナイフを持っていると思われるが、それだけとは限らない。
そして自分はハインを背に置き、ほとんど丸腰である。
不利な状況だ。
このままハインを連れて逃げるのは難しい、と判断する。
(;゚Д゚)(あんまり気は進まないが……)
右手から落ちた携帯端末を探す。
あった。
右後方に落ちている。
(,,゚Д゚)「……ハイン」
从;゚∀从「え?」
(,,゚Д゚)「いいか?
俺が時間を稼ぐから、お前はあの携帯端末で助けを呼べ。
トソン先輩でも誰でもいい」
本当はこの都市の治安を守る、職員としての大人が属する警備隊の方に知らせるべきだろうが、
この都市に常駐している警備員は『とある事情』で少し不安がある。
そういう理由もあって、機動力にも優れる生徒会に知らせる方が賢明だという判断だった。
- 17: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:20:47.23 ID:PgnU9TlF0
- 从;゚∀从「待てよ、ギコはどうすんだ。
相手は刃引きされてねぇナイフとか持ってるじゃねーか。
時間を稼ぐったって刺されりゃ怪我するし、下手すれば死ぬぞ……」
(,,゚Д゚)「何とかする。 死なない程度に頑張る」
やるしかない。
現状、全力を尽くすしか道はない。
从;゚∀从「頑張る、って……」
(,,゚Д゚)「いいから。
手段を選んでる余裕はないぞ」
突き放すように足を踏み出す。
すると、黒布の人影に新たな動きがあった。
( )「……ホルホル」
それは何かの言語か笑い声か。
聞いたこともない声音と同時、黒布が大きく揺れる。
布の隙間から見えたのは、先ほどのものより長く太いナイフだ。
- 19: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:22:57.40 ID:PgnU9TlF0
- (,,゚Д゚)(……接近戦か?)
それならありがたい。
ハインが狙われる可能性が低くなる。
あとは、こちらが意地でも張り付いていけばいい。
( )「!」
動きは直後。
影は黒い衣をはためかせ、猛然とギコへ走り寄って来た。
(,,゚Д゚)「ッ!」
対する動きは前傾姿勢。
両の拳を軽く開いたまま、ギコも立ち向かうように前へ。
出来る限り、後ろにいるハインから距離をとるためだ。
月光を反射して刃が閃く。
その残光を瞳に映しながら、地上の光も届かぬ屋上で二つの影が走った。
- 21: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:24:46.87 ID:PgnU9TlF0
- ( )「――!」
まず、布が大きく開いた。
刃が来る。
逆手に握られたナイフが、切っ先を下にして。
地を這うような動きから、上へと切り裂く軌道だ。
前進の勢いを重ねた『人を殺すため』のナイフの振るい方。
防御する暇も与えないような速度で、股下から首までのいずれかを断つエグい方法である。
(;゚Д゚)「ぬぁっ!!」
咄嗟に、右足で強く地面を蹴った。
身体を刃から逃がすように投げる。
最初から、まともに交戦するつもりはない。
こちらは自分とハインを守り切ればいいのだ。
冷たい空気が右半身を撫でたが、果たしてそれだけに終わる。
左手から着地。
衝撃を受け止め、足をついてバランスを支える。
- 22: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:27:33.42 ID:PgnU9TlF0
- (;゚Д゚)「あ、危ねぇ……って、うぉ!?」
息をつく暇はない。
既に、黒衣の影が追撃に来ていた。
限られた時間の中、ナイフか、と警戒するのは当然。
だが、まんまとその隙を突かれてしまった。
(;-Д゚)「がっ!?」
蹴りだ。
上半身ばかりに目がいっていたギコの脇腹に、敵の爪先が入った。
すぐに身体に力を入れたが、崩れたバランスは戻せない。
(;゚Д゚)「く……そっ!」
衝撃によろめきながらも何とか耐える。
ここで倒れてしまえば、それだけハインへの危険が高まるからだ。
- 24: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:29:24.89 ID:PgnU9TlF0
- 見れば、彼女はギコの落とした携帯端末を操作していた。
(;゚Д゚)(けど――)
今メールが送られたとして、
生徒会の連中がここへ駆けつけるまで、どれほどの時間が掛かるだろうか。
その間、ハインを守りながら何とかしなければならない。
(;゚Д゚)(難問だな……!)
拳を握る。
だが、打つ気は今のところない。
馬鹿げた話だが、この状況においても『我慢』することが出来ていた。
( )「ホルホルホル」
黒衣の頭部から奇妙な声が作られる。
そして再び、獣のような攻撃が再開された。
- 26: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:32:16.34 ID:PgnU9TlF0
- 夜という時間になっても生徒会室の明かりは消えていなかった。
居残りを続けるクーを筆頭に、トソンやミセリ、フォックスが始業式の事後処理を行なっている。
(゚、゚トソン「ん?」
トソンの携帯端末が鳴ったのは、そろそろ仕事を切り上げて帰ろうかと思った時だった。
(゚、゚トソン「……メール?」
ミセ*゚ー゚)リ「え?」
爪'ー`)y-「おや、ミセリ君以外からメールなんて珍し――ぐはっ」
とりあえず失礼発言したフォックスを張り倒し、メールを開く。
『たすけてください』
簡潔な一文。
これだけなら何が何なのか解らないが、送り主を見てトソンの目が見開いた。
(゚、゚トソン「ギコ=レコイドから……救援要請、ですか?」
- 29: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:34:41.15 ID:PgnU9TlF0
- トソンの言葉に、今度はミセリが反応した。
彼女は、え、と前置きして、
ミセ*゚ー゚)リ「ギコ君からトソンにメールなんて半年振りくらいじゃない?」
川 ゚ -゚)「…………」
(゚、゚トソン「会長、これは――」
川 ゚ -゚)「――あぁ、気になるな」
クーが立ち上がった。
彼女はPCの電源を落とし、生徒会長用のコートを手に取る。
顔を見合わせて頷いたトソンとフォックスも、外へ出る準備を始めた。
川 ゚ -゚)「ミセリ、メールの発信場所を特定してくれ」
ミセ*゚ー゚)リ「はいはいー、今やってまーす」
既に動いていたミセリは、PCのボードを白く細い指で軽快に叩いていく。
次々に展開していくウインドウの一つを手にとって、
ミセ*゚ー゚)リ「場所は……商業区画ですね。
ここからなら直接走っていった方が早いと思いますよ」
川 ゚ -゚)「解った。
それと巡回中のヒートを呼び戻しておいてくれ。 全員で行く」
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:37:02.91 ID:PgnU9TlF0
- 爪'ー`)y-「……随分と警戒してますね?」
川 ゚ -゚)「私の勘に過ぎないが予兆はあった。
本国に嫌な動きがある。 それと関係があるかもしれん。
だから教師や職員にはまだ知らせなくていい」
爪'ー`)y-「解りましたけど……。
単なる学園都市の生徒会長が集めて良い情報じゃないですって、それ」
川 ゚ -゚)「気にするな。 さぁ、行くぞ」
ランスを背負ったクーを先頭に、生徒会メンバーが施設を飛び出していく。
夜闇を中を走る四人の速度は高速だ。
居残って鍛錬していた下級生が、その速度に驚くのをフォックスが横目に見て、
爪'ー`)y-「あんまり目立つのは好きじゃないんだけどねぇ。
ほら、僕って生徒会の中ではミステリアスなポジションでしょ?」
(゚、゚トソン「本気で言ってるなら驚きます。 わぁすごい」
爪'ー`)y-「……少しくらいノッてくれてもいいじゃない」
(゚、゚トソン「というか、半分本気だったでしょう? わぁすごい」
爪'ー`)y-「今度は先行的に驚かれてしまった。 しかも屈辱」
- 34: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:40:16.39 ID:PgnU9TlF0
- 後方で馬鹿をする二人の前、クーとミセリが走る。
クーは背にランスを、ミセリは脇にノートPCを抱えていた。
シロクロ門を出た一団は、東へ進路をとる。
ミセ*゚ー゚)リ「会長、あの建物から一気に行けます」
川 ゚ -゚)「解った」
跳躍。
鍛えられた足腰が、クーの身を夜空へと打ち上げた。
続いてフォックスが続き、トソンがミセリの手をとって跳ぶ。
爪'ー`)y-「良い季節になったねぇ……冬季だったら凍えてたよ」
(゚、゚トソン「もう少し緊張感を持ってください」
跳躍した四人を、まだ冬の色を残す夜風が制服や髪を叩いた。
一定の浮遊が続き、やがては勢いを失って落ちる。
落下の先は、ミセリが指定した建物の屋根だ。
着地、そして再び跳ぶ。
建物から建物へ移り行き、止まる間もなく先を目指していく。
川 ゚ -゚)「――ん?」
途中、着地の姿勢をとろうとしたクーが何かに気付いた。
- 35: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:42:17.61 ID:PgnU9TlF0
- (゚、゚トソン「どうしました?」
川 ゚ -゚)「……見られている」
(゚、゚トソン「え?」
川 ゚ -゚)「すぐに出て正解だったか。
案外、私達が思っている以上の事が動いているのかも知れんな」
爪'ー`)y-「…………」
果たしてクーはどこまで知っているのか。
普段から仕事に対する相談を受けたりするフォックスだが、この答えは解らないでいる。
おそらく単独で色々と調べているのだろう。
爪'ー`)y-(……見習わないとねぇ)
一年間。
クー生徒会長がこの学園にいられる時間だ。
以降、彼女は卒業し、都市の外に出て己の道を歩く。
今のまま、彼女に頼りっ放しではいけない。
爪'ー`)y-(やれやれ。 先が優秀だと後続が大変だぞ、と)
新しい飴を取り出しながら、フォックスは小さな溜息を吐いた。
- 37: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:44:24.15 ID:PgnU9TlF0
- 未だ、ギコと黒衣の男の攻防は続いていた。
メールを送って既に数分が経過している。
その間にも、殺意の篭もる攻撃を回避し続けるギコだが、
(;゚Д゚)(ちっくしょ……!
いつも以上に体力の消耗が激しい!)
身体が重い。
足に、粘るような重さを得ている感覚がある。
更には怪我をしている右手の熱さが、逆に身体の冷えを強調していた。
息を吐く。
しかし、すぐに吸う。
肺が酸素を求めて止まない。
( )「…………」
(;゚Д゚)(これが命を賭けた実戦……嫌な空気だな)
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:47:00.54 ID:PgnU9TlF0
- このような戦いは初体験だった。
学園でやるような戦いは、命の保障が為されている児戯なのだ、と今更ながらに痛感した。
かと言って、学園でやることが馬鹿らしいとは思わない。
あれはあれで痛いし、楽しいし、真剣になるべきものだ。
基礎を覚え、経験を積むことは、将来に際して必ず役に立つ。
だが、
(;゚Д゚)(学園での空気とはまるで違う……!
訓練の先に実戦があるんじゃなくて、もはや別物だ!)
ギコは痛感する。
ここには訓練では味わえない要素がある、と。
血の匂いや、刃で風切る本気の軌跡、身に感じる冷たい気。
その全てが『後戻りの出来ない戦い』だと知らせていた。
一瞬の判断が結果を決めてしまうような、そんな儚さだ。
そんな状況に初めて身を置いたギコが、いつも通りに戦えるわけがない。
- 43: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:48:49.01 ID:PgnU9TlF0
- ( )「ホルホルホルホル」
彼のぎこちなさに気付いたのだろう。
笑いのような声を一層高くした黒衣の男が、身を躍らせてギコへ迫る。
(;゚Д゚)「ッ!?」
思わず背後へ一歩。
すかさず敵が踏み出し、手に持ったナイフを振るう。
引いた構えから前へ突き出す動きは、ギコから見れば点の範囲を持つ攻撃だ。
だから、というように半身を引いた。
動きから生まれるのは、刃に対して横への回避だ。
刺突に対する理想的な動作。
しかし理想的過ぎた。
(;-Д゚)「ぐぬッ!?」
深い衝撃がギコを襲う。
突き出したナイフを追うように来た黒衣が、ギコの避けた方向に拳を放っていたのだ。
フック気味の殴打は、まるで最初から避けられるのが解っていたかのような動きだった。
- 45: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:50:56.55 ID:PgnU9TlF0
- (;-Д゚)「げほっ……これが大人の戦い方ってやつかよ!」
ギリギリでガードを間に合わせていたギコは、吹っ飛ぶ身体を押さえつけて着地。
視線を上げれば、黒衣が大きく翻っているのが目に入った。
(;゚Д゚)(この動きは――!?)
( )「――っ!」
間合いは遠い。
そこから鋭い動作を為すということは、
(,,゚Д゚)(遠距離攻撃……投げナイフか!)
果たして予測は正解だった。
月光を反射しながら来る刃に対し、ギコはヘッドスライディングのようにして跳ぶ。
直後、足を置いてあった部分に金属の跳ねる音が鳴り響いた。
(;-Д゚)(準備の良いこった――って感心してる場合じゃない!)
咄嗟の回避を、敵が予測していないわけがない。
事実、身を起こそうとしているギコに近付いてくる音がある。
- 46: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:52:50.74 ID:PgnU9TlF0
- ( )「!!」
(;゚Д゚)「ぐぅぅ……!」
当然のようにして追撃が来る。
慌てて身体を起こしたギコは、怪我をしている方の右手も使って全力で動いた。
そうでもしなければ、ナイフの餌食になってしまうからだ。
休む暇がない。
何とか背に壁が来ないように逃げてはいる。
しかし、それよりも先に体力が尽きそうだった。
日頃の鍛錬で鍛えているつもりだが、休み無しでは流石に厳しい。
(;゚Д゚)「ハァ、ハァ……!」
( )「ホルホルホル」
(;゚Д゚)「少しは、ハァ、休ませろっての……!」
身体に重さを感じる。
特に違和感があるのは足だ。
粘りつくような感触が、下半身を覆っている。
このままではまずい。
追い詰められているのが、じわじわと自覚できていた。
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:54:51.74 ID:PgnU9TlF0
- そして疲労は運動だけでなく思考をも妨げ、致命的な隙を生み出すだろう。
学生同士の戦いなら気を付けていれば何とかなる範疇だとは思うが、
相手の実力を考えれば、その時こそが決着の瞬間だ。
だから、動きを緩めるわけにはいかない。
(;-Д゚)(でもこのままじゃあ……!)
更なる攻撃を回避しようと、足に力を入れた時だった。
(;゚Д゚)「!?」
がく、と膝が折れる。
思うように力が入らなかったのだ。
返ってくるのは痺れるような痛みと、泥沼に足を突っ込んだような感覚。
ギコの頭の中で警鐘が鳴り響いた。
慌てて手をつき、その場から逃げようとする。
布が空気を叩く音が、やけに近くで聞こえた。
- 52: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 20:58:26.95 ID:PgnU9TlF0
- ( )「――――」
(;゚Д゚)「しまっ……!?」
既に接近されている。
ナイフを振り上げ、そのまま体重をかけて落とす姿勢だ。
位置が少し手前になっているのは、足を狙っているからだろう。
腕の力で逃げようとするが、速度が違い過ぎた。
(;゚Д゚)「う、ぁ――!?」
刃が落ちる。
秒にも満たない後に、足からは鮮血が吹き出すだろう。
激痛がギコを襲い、黒衣の男はようやくギコにとどめを刺せるはずだ。
(;゚Д゚)(駄目、だろ)
それは、
(;゚Д゚)(俺が死んだら、誰がハインを――)
次に狙われるのはハインだ。
自分が死ねば、彼女を守る人間がいなくなる。
……それは駄目だろう!?
- 53: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:00:37.51 ID:PgnU9TlF0
- 瞬間、音が弾けた。
( )「ッ!?」
思わぬ衝撃に、黒衣の男の体勢が崩れる。
落ちかけていたナイフの軌道が逸れ、硬い地面に火花を散らせた。
(;゚Д゚)「……!」
見上げる姿勢のギコは見ていた。
頭に、淡い光を発する何かがヒットしたのだ。
そしてそれが、携帯端末の生み出した可触ウインドウであることを。
緊張でスローとなった視界の中、ウインドウに『馬鹿』と書かれているのが解った。
頭部に激突したウインドウは、自身の存在を維持することができずに壊れていく。
魔力で構成されたことを示すように、青白い粒子が砕け、夜空に溶けていった。
幻想的ともいえる光景を見ながらも、ギコは慌ててその場から退避し、
(;゚Д゚)「あの馬鹿――!」
ウインドウを寄越した人物は誰か、などと問いかけるまでもない。
今、この場で携帯端末を持っているのは、
从;゚∀从「あ」
ギコ達とは少し離れた位置で、ハインが携帯端末片手にこちらを呆然と見ていた。
- 55: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:02:41.98 ID:PgnU9TlF0
- ハインは、妙にクリアになった頭で考えていた。
……何やってんだ、俺。
武器もないのに敵の気を引きつけてしまった。
奴が『自分を狙ってここにいる』ことに気付いていたというのに。
このままギコを囮にしておいて、自分が助かることだけを考えていれば良かったのに。
从;゚∀从(馬鹿か俺は……!?)
思うが、既に遅い。
初めて受けた攻撃があんなふざけたものだったのが頭にきたのだろうか、
黒衣に遮られて見えない顔が、こちらを見た気がした。
( )「…………」
金属が擦れる音。
布の奥で、複数のナイフが音を立てているのだ。
厄介だな、と思う。
布に遮られているため、相手がどれほどの量と質のナイフを持っているのか解らない。
解らない以上、こちらは予測を立てるか、後手に回り続けるしかない。
- 56: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:04:51.36 ID:PgnU9TlF0
- 从;゚∀从(せめて俺の武器がありゃあな……!)
学園都市へ入る際、入都管理員に渡したっきりだ。
おそらく非殺傷システムを組み込むためで、それがハインの手元に戻るのは早くて明日。
アレがあれば対抗できるのだが、無い物をねだっても仕方ない。
( )「…………」
黒布が、ゆらり、と。
ハインの方へ向き直ったのは明白で、身体が一気に緊張するのが解った。
だが、次の瞬間、
(#゚Д゚)「――お前の相手は俺だろうがっ!!」
( )「ッ!?」
背後から、ギコの足払いが炸裂した。
が、という鈍い音を立て、黒衣の男のバランスが僅かに崩れる。
(#゚Д゚)「アイツに手を出したければ、まず俺をぶっ飛ばしてからにしろ!
無視して行こうものなら、しがみ付いてでも――っぐぁ!?」
口上に割り込むように蹴りが返される。
(;-Д゚)「痛って……!」
从;゚∀从(何やってんだ、あの馬鹿!)
- 58: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:06:38.98 ID:PgnU9TlF0
- あんな簡単なカウンターを喋ることに集中して喰らうなんて。
ガードしているものの、衝撃は受け流せていないだろう。
蓄積したダメージは、やがて軋みとなって身体を覆っていき、動作の遅延を生み出す。
つまり彼は、まったく意味のないダメージを負ったことになるのだ。
从;゚∀从(避けられる攻撃を、どうして――)
そこまで言って、ハインは思考を凍らせた。
一つの事実に思い当ったからだ。
从;゚∀从(アイツ、もしかして……まさか……)
突然の戦闘が始まってから今までという間。
思い返してみれば、
……ナイフによる攻撃を受けていない?
- 59: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:08:31.86 ID:PgnU9TlF0
- 蹴りなどの致命傷にはならない打撃はもらっている。
しかしそれも全て何とかガードして、深いダメージが入らないようにしていた。
おそらくナイフのみに集中しているのだろう。
だから他の攻撃に対して反応が遅れ、しかしギリギリで防御を間に合わせているのだ。
口で言うのも訓練でも簡単だが、突然の実戦の中で行なっているとすれば驚嘆に値する。
(#゚Д゚)「ハインには指一本触れさせねぇ――!」
( )「ホルホルホル」
从;゚∀从「あ……!」
だが、所詮は学生だ。
実戦の中で生きているであろう黒衣の男に、追いすがることは出来ても勝てるわけがなかった。
( )「――!」
(;゚Д゚)「うぉっ!? ……って、え?」
ひゅ、という細い音。
重なるように、深いくぐもった音。
そして更に、
(; Д )「っ――っぐぇっ!?」
まさに刹那の出来事だった。
ナイフの切っ先をスウェーバックで避けたギコの腹に、今度こそ蹴りが入る。
無防備な腹に爪先がめり込む音は、ど、とも、ご、とも聞こえる音だ。
- 60: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:10:42.41 ID:PgnU9TlF0
- たまらず転倒。
背から落ちたギコに、黒衣の男が、
( )「…………」
動かなかった。
从;゚∀从「え――」
そして、代わりといった様子でこちらに向き直る。
もはや邪魔は排した、と言わんばかりに。
从;゚∀从(どういうことだ? なんでトドメを刺さない?)
違和感がある。
そもそもあれほどの武器と技量があるなら、もっと早くに決着がついてもおかしくなかった。
鍛えているとはいえギコはまだまだ未熟なのだから、黒衣の男からすれば楽な相手だったはず。
となれば、
从 ゚∀从(手加減していた……?)
何故、と疑問が出る。
ここまでしておきながら何故、と。
しかし、悠長に考えている時間はなかった。
そうしている間にも黒衣の男がハインの方へ歩み寄っているのだ。
- 61: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:12:24.65 ID:PgnU9TlF0
- ( )「…………」
从;゚∀从「くっ」
抵抗手段は――ない。
先ほど投げてぶつけたウインドウも、相手が油断しきっていたから当たったのだ。
目の前で投げようものなら、その隙に間を詰められて終わりだろう。
残る選択肢は逃げることだ。
だが、ここはどこかの建物の屋上である。
出入り口は黒衣の男を越えた先にあり、あとは転落防止のフェンスが囲っているだけ。
更に距離を詰められようとしている現状、もはや逃げるには時間が足りない。
从;゚∀从(……万事休すってか)
そう思った時だった。
- 64: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:14:52.74 ID:PgnU9TlF0
- ( )「……!」
突然、黒布が鋭く動いた。
頭部を回す動きは、視線を北の方へ向けるものだ。
そしてバックステップ。
黒い布がはためき、何事かと首をかしげたハインの目の前に、
从;゚∀从「うぉぁっ!?」
光が突き刺さった。
ざ、という音を以って屋上の床を貫いた光は、矢の形を持っている。
しかしそれも束の間で、すぐに粒子となって空間に溶けていった。
从;゚∀从「これは――」
狙撃だ。
しかも、ひどく正確な。
黒衣の男と彼女の間に割り込むような一撃は、少しでも狙いが逸れればハインに当たっていたかもしれない。
それを解っていながらの判断は、己の腕に相当な自信がある証拠だった。
- 65: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:17:34.20 ID:PgnU9TlF0
- ギコ達のいる建物から北へ100メートルほど離れた地点。
また別の建物の屋上に、夜風を浴びながら構える狙撃手がいた。
(゚、゚トソン「…………」
トソンだ。
弓の使い手の彼女が、南にある建物へと得物を向けている。
膝をつき、長弓を突き出すような格好だ。
左手に弓掛けの役割を持つ手甲を装着し、右手は弦を摘み、力強く引き続けている。
弓の持ち手部分には、小さなウインドウが三つほど浮かんでいた。
一つは赤いウインドウで、距離数字などの情報を流し続けている。
一つは白いウインドウで、拡大表示された100メートル先の光景を映している。
一つは青いウインドウで、白いウインドウに重なって十字の照準線を表示している。
(゚、゚トソン「っ!」
拡大表示された映像が敵を捉えた瞬間、弦を強かに弾いた。
魔力で結い上げられた光の矢は、末端から粒子を零しながら狙った場所へ真っ直ぐと飛ぶ。
意識は、男がハインへ気を取られている隙を狙っていた。
- 66: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:19:52.12 ID:PgnU9TlF0
- 拡大表示されたウインドウの中、黒衣の男が光矢をステップで回避するのが見えた。
(゚、゚トソン(……やりますね)
先手をもらったつもりだったが、相手はこちらが射る直前に気付いた。
おそらく微細な気配を読んだのだろう。
狙撃手でありながら、気を読まれたのは屈辱に等しい。
まだまだ修行が足りない、と思う。
だが、トソンは軽く首を振り
(゚、゚トソン「今という状況において後悔など要りません。
要るのは、己が出せる最大の結果のみ……!」
射撃する。
今度は複数だ。
一射目を回避されることを前提として、その避けた先を予測しながら発射する。
きゅ、という絞るような高い音が、その場に五つ連続した。
- 67: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:21:34.45 ID:PgnU9TlF0
- トソンは結果を拡大表示で見る。
間断なく放った五連射に対する、黒衣の反応と行動を。
(゚、゚トソン「……ふむ」
残念ながら全て回避されていた。
屋上に、新たな穴が五つ増えただけに終わっている。
それはつまり、敵がこちらの予測を上回っていた、ということだ。
レベルが違う。
学生身分で敵う相手ではないらしい。
そんな結果に対し、しかしトソンは笑みを浮かべた。
(゚、゚トソン「これで時間と距離を稼ぐことが出来ました。
この勝負、私の負けですが――」
立ち上がり、
(゚、゚トソン「――私達の勝ちです」
- 68: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:23:32.30 ID:PgnU9TlF0
- 从;゚∀从「うひゃ〜……」
光の五連射が来たのを、ハインは驚きの表情で見ていた。
狙いは全て黒衣の男へ向けられている。
微妙に軌道がズレているのは、回避されることを考えてのことだろう。
だが、敵は避け切った。
ステップに身を伏せることを合わせ、三次元的な回避をとったのだ。
結果、その場からあまり動くことなく危機をやり過ごしている。
( )「…………」
増援が来たことを悟ったのか。
黒衣の男の動きに、更なる鋭さが追加されようとしていた。
今までのような手加減を捨て、本気で動こうとしている。
状況が悪くなる前に、さっさとハインを――
「――とぉぉぉぉおおおおおりゃあああああああッ!!!」
从;゚∀从「あ? なんだ!?」
- 69: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:25:07.14 ID:PgnU9TlF0
- 動きに被さる声が来た。
それは月を浮かべる夜空からで。
ノパ听)「はぁッ!!」
ハインの眼前、一人の少女が降ってきた。
炎のような赤色の髪が舞い、着地の音に遅れて落ちる。
すぐさま立ち上がり、
ノパ听)「学園生徒会実働隊員が一人、ヒート=ルヴァロン……参 上 ッ!!」
びしぃ、とポーズを決めるヒート。
その横、静かに降り立ったのはフォックスだ。
爪'ー`)y-「君はホント騒がしいね。
あの会長の妹さんだとは思えないなぁ」
ノパ听)「フォックス先輩ッ、褒めるのは勝ってからにしてくださいッ!
今褒められると私、調子に乗って凄いことなりますからッ!!」
爪'ー`)y-「褒めてない褒めてない」
- 71: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:27:45.71 ID:PgnU9TlF0
- 一拍遅れて、ノートPCを抱えるミセリも姿を見せた。
ミセ*゚ー゚)リ「貴女がハインリッヒちゃんだよね? もう大丈夫だよ」
从;゚∀从「え、あの……」
(゚、゚トソン「救援要請のメールを送ってきたのは貴女でしょう?
あの馬鹿後輩が、たとえピンチでも私に敬語を使うのはあり得ないですから」
从;゚∀从「うぉ!? いつの間に後ろに!?」
(゚、゚トソン「そして――馬鹿後輩、いつまで寝ているつもりですか」
厳しい声が向けられた先。
倒れていたギコが、身を起こして頭を振っていた。
(;-Д゚)「……くそっ、なんて様だ」
(゚、゚トソン「そうですね。
たった一人の女の子も護れない貴方は、正直言って男としてどうかと思います」
しかし、と続け
(゚、゚トソン「悔しいと思うのならば挽回してみせなさい。
幸いにも機会はあります」
言葉が終わると同時。
最後の一人が、悠然とした空気を纏って降り立った。
- 74: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:29:19.91 ID:PgnU9TlF0
- 背にランスを背負った女性は、
学園生徒会長のみが着ることの出来るコートを羽織っていた。
各部に取り付けられた金属パーツ、学園記章、その他装備が金属音を奏でての堂々たる登場だ。
夜闇によく馴染む黒髪が、ギコの方を見る。
川 ゚ -゚)「ギコ、大丈夫か?」
(;゚Д゚)「なんとか……情けない姿を晒しちゃったみたいっすけど」
川 ゚ -゚)「だがハインの身は無事だ。
お前の頑張りは形として証明されている。 よくやった」
(゚、゚トソン「まぁ、最後は私の狙撃が無ければ危なかったのですが」
川 ゚ -゚)「そうだな。 トソンもよくやった」
(゚、゚;トソン「え……ぁ、いや、そういう意味で言ったのではなくてですね……」
爪'ー`)y‐「ほらほらほら、そんなコトよりすることがあるでしょーが」
フォックスのツッコミに、皆が見る。
トソンの射撃によって位置を後方へ下げた黒衣の男を。
- 76: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:31:04.32 ID:PgnU9TlF0
- ( )「…………」
いきなり現れた予想外であるはずの増援に対し、男は無言のままだ。
一気に数を増やしたギコ達を、黒布越しに見ているのが解る。
それでも動きがないということは、この戦力差で戦うつもりなのだろうか。
川 ゚ -゚)「こちらは学園生徒会だ。
どんな理由があろうとも生徒に危害を加えたならば、罪人と見なして捕らえる必要がある。
出来れば大人しくしてほしいのだが――」
( )「…………」
クーの言葉を途切るように男が腕を振った。
布が弾ける音を起点として、黒衣の周囲に異変が生じる。
床を覆うように敷かれていた影が、いきなり波打ち始めたのだ。
(゚、゚トソン「あれは……!」
川 ゚ -゚)「どうやら、そのつもりはないようだな」
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/09/28(日) 21:32:38.83 ID:PgnU9TlF0
- ふぅ、と溜息を一つ。
目を瞑って軽く俯いたクーは、一息で再び敵を見る。
川 ゚ -゚)「総員、戦闘を開始する。
己の命を守ることを第一と考え、しかし己のすべきことを怠るな」
ノパ听)「了解ッ!!」
爪'ー`)y-「把握」
(゚、゚トソン「了解しました」
ミセ*゚ー゚)リ「はーい」
(,,゚Д゚)「うっす!」
ほぼ同時に来たそれぞれの『了解』の意に、クーは満足気に頷き、
川 ゚ -゚)「ならば武装解除を許可をする!
各々、役目を果たせ!」
「「応ッ!!」」
瞬間。
クーを含む六人が、己が役を為すために散る。
――夜の中、この学園における『戦闘』が開始された。
戻る/第八話