(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

2: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 20:49:48.69 ID:ISYyTi/H0

――――第十三話

              『思い信じて立ち向かえば』――――――――――






              そこには一体何が見える?



7: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 20:52:10.44 ID:ISYyTi/H0
夜闇の底に光と音がある。

学園都市の至る場所から、人の生み出す光が。
学園都市の至る場所から、人の生み出す音が。

一般的な夕食の時間を過ぎて尚、都市は活発に動いていく。
その中央区画、つまり学園敷地内は特に騒がしい状態だ。

人のざわめき、指示の声、痛みを訴える声、金属音、接続音、作業音。

動いている若者の多くは、一般教養・錬石専攻・科学技術学部の生徒だ。
渋澤の『鉄拳』によって叩き潰され、気絶したまま運ばれてきた武術専攻・術式専攻学部の生徒達の介抱、
そして同じく『鉄拳』や戦闘によって壊された施設などの修復を行なっている。

( ´_ゝ`)「おぅーい、そっち終わったらこっちも頼む」

( ´∀`)「了解ですモナー」

今、クックルの『黒翼』の余波によって割れた校舎の窓ガラスを片付けているのは、
兄者率いる科学技術、錬石専攻学部の生徒達である。

近くで倒れていたクックル本人は、今しがた運ばれていったばかりという状況だ。



11: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 20:53:52.45 ID:ISYyTi/H0
( ´_ゝ`)「ふふふ……3回目ともなれば慣れたものだ。
     見よ、この手際を」

( ´∀`)「流石は留年しただけはありますモナ兄者先輩」

(*´_ゝ`)「や、やめろぃ、褒めるでないわ」

( ´∀`)「あははちっとも褒めてませんモナ」

( ´_ゝ`)「……お前、時々ニコやかな顔でセメント発言するよな」

言いながらも、砕けたガラスの破片を回収していく。
科学技術学部の根性的な科学力で修復した後、明日の朝までに元通りにしておく手筈だ。

と、ガラスの破片を拾っていく途中、兄者の手が柔らかいモノを掴んだ。

( ´_ゝ`)「んお?」

  ,,,,.,.,,,,
 ミ・д・ミ ホッシュホッシュ!
  """"

( ´_ゝ`)「OK、毬藻ゲット――って、すまんすまん間違えた」

慌てて離してやると、緑色のモサモサした物体は一目散に転がっていった。
向こうに仲間がいたのか、複数の小さな動く気配があり、やがては消えていく。



12: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 20:55:44.12 ID:ISYyTi/H0
『魔粒子』という革新的なエネルギーが普及してから、ああいう不思議な生物を見るようになった。

今の緑色のは『ほっしゅ毬藻』と呼ばれ、誰もいない場所を留守番するかのように住処とする生物だ。
餌を求めてか、こうして人のいる場所でも見かけることも稀にあり、
女子生徒の間では、触ることが出来れば幸運が訪れる、などと言われているらしい。

( ´_ゝ`)(欲張りなことだよな。
     あの毬藻を見かけた時点でかなりの幸運だってのに、更に幸運を求めて……)

やれやれ、と屈んだ体勢から立ち上がった兄者は、面倒そうに腰を叩いた。

( ´_ゝ`)「しかし武術専攻、術式専攻の連中は野蛮でいかん。
     この窓ガラスを粉砕したのも一人の生徒の仕業だと聞く。
     確か……クックル=スドゥリーだったか」

( ´∀`)「僕の友達の友達ですモナ」

( ´_ゝ`)「『黒翼(コクヨウ)』……半鳥系亜人の憧れそのもの、か。
     まだまだ未完成のようだが」

周囲を見る。

『黒翼』によって生まれた力場の爪痕が、ありありと見て取れた。



15: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 20:58:33.08 ID:ISYyTi/H0
クックルが立っていたと思われる地点を中心として、扇型範囲に破壊の跡が刻まれている。
後方へ出力を集中している証拠だ。

( ´_ゝ`)「見たところ『より速く飛ぶこと』に主眼を置いているな。
     しかし出力配分に無駄がある……今度、暇があれば見てやるのも面白そうだ」

科学を学ぶ者として興味深い対象なのだろう。
分野は異なるが似たような類であるモナーには、その衝動だけを理解することが出来る。
個人の好みについては不可侵だと解っている彼は、だから肯定も否定もせず頷くだけだ。

やがて、モナーは近くに誰もいないことを確かめ、

( ´∀`)「ところで、気になっていたことがあるんですモナ」

( ´_ゝ`)「ん? どうしたね? スリーサイズは秘密だよ?」

( ´∀`)「……その殴られた痕のような傷は何なんですかモナ?」

上機嫌だった兄者の表情が固まる。
振り返り気味の顔、その右頬に一つの傷がある兄者は、一瞬だけ止まり、しかし笑みを浮かべ、

( ´_ゝ`)「……んー、まぁ、アレだ。 ちょっと弟と喧嘩しちまってな。
     まぁ俺が一方的に殴られてただけなんだけどさ」

( ´∀`)「あれ? 弟さんがいるんですかモナ?」



19: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:01:36.52 ID:ISYyTi/H0
( ´_ゝ`)「あれ、言ってなかったっけ。 双子の弟がいるんだよ俺。
     これがまたクソ真面目な奴でな。
     性格がまったく違うくせに、顔だけは似ちゃってるのよ」

(;´∀`)「あー……もしかして、今までたまに見かけてた真面目そうな兄者先輩って……」

( ´_ゝ`)「白衣着てなかったら俺じゃないよ。
     ん? いや待て、その言い方だと俺が普段から真面目じゃないみたいじゃないか?」

( ´∀`)「…………」

( ´_ゝ`)「…………」

その時だ。
気まずい沈黙を裂くように、轟音が響く。
もはや聞きなれた音の正体は、

( ´_ゝ`)「渋澤先生の『鉄拳』か。 今は誰が戦ってるんだろうか」

( ´∀`)「聞いたところによるとギコ達らしいですモナ」

( ´_ゝ`)「あぁ、アイツらか」

ふむ、と鼻を鳴らし、

( ´_ゝ`)「騒がしい連中だが……それだけバイタリティに溢れている、ということだろう。
     渋澤先生も大変だな。 あんな野蛮な馬鹿共を一度に相手せねばならんとは。
     心中察するよ」

と、不敵な笑みを浮かべて呟いた。



21: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:03:39.14 ID:ISYyTi/H0
戦場と化した北中庭では、激しい動きが複数存在した。
渋澤を中心として、三人ほどの生徒達が戦っている。

( ・∀・)「――!」

一人は白い杖を持った少年だ。
彼は前で戦う二人をサポートするように立ち回っている。
少し離れた視点から戦場を見ることで、状況に適した指示を発していた。

(#゚д゚ )「おぉ……!!」

一人は長刀を武器に戦う少年だ。
身の丈ほどもある刀を、身体の一部のように自在に振り回している。
圧倒的な力量差のある渋澤へ、恐れも無く立ち向かっていた。

(#゚Д゚)「このヤロっ!」

一人は左手に黒いグローブを装着した少年だ。
怪我している右手を庇いながら、軽快な動きでステップを刻む。
『理由』がある今、彼の頭から加減という二文字は消えていた。

三人は、拙いながらも連携を意識しながら立ち向かっていく。



23: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:06:21.24 ID:ISYyTi/H0
それらを迎え撃っているのは、たった一人の教師だ。
 _、_
( ,_ノ` )「踏み込みが甘い! タイミングも悪い! ついでに気迫も根性も足りん!」

適度に挑発しつつ、来る攻撃を捌いていく。
若い頃に鍛え上げた肉体を主に、刃に対してはナイフを使って。

別方向、しかもランダムタイミングで迫る攻撃を、その場から一歩も動かずに防ぎ続けていた。

( ・∀・)「ミルナ! 今だ!」

( ゚д゚ )「今度は同時に仕掛けるぞギコ! 状況を活かす!」

(,,゚Д゚)「りょーかい!!」

言いながら、ギコは左手に拳を作った。
何度か握り、開き、感触を確かめながら走る。

ミルナとは何度か戦ったことがあった。
呼吸は何となく解るし、双方とも協調性はある方なので問題ない。

即席のコンビとしては、良い方だと言える組み合わせだろう。



25: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:08:05.42 ID:ISYyTi/H0
正面、渋澤はどちらにも反応出来るよう、横を向いて構えた。
左手にナイフを握っているのは、その方向から来るミルナの刀に対するためだ。
普段の言動から適当で雑に見える渋澤だが、その動き一つ一つは理に適っている。

(,,゚Д゚)(なんだかんだ言って学ぶ点は多いよな……!)

伊達に教師をやってはいない、といったところか。
半ば感心しつつ、ギコは行く。

右手は怪我によって使えない。
だが、それでも戦える技術は持っている。
元より本気で戦うことを控えている自分にとって、この程度はハンデにもならない。
 _、_
( ,_ノ` )「刀と拳のサンドウィッチか。 良い組み合わせだな。
    出来れば濃い目のソースが欲しいところだが……」

(#゚д゚ )「欲しいならくれてやる――」

(#゚Д゚)「――苦い敗北の味をな!!」

二人同時にぶつかった。
リーチのあるミルナはショートレンジ、拳主体のギコはクロスレンジの間合いからの攻撃だ。
立ち位置が違えばタイミングもズレるため、コンビを組んでの襲撃ならば最適の選択と言える。



27: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:10:40.60 ID:ISYyTi/H0
 _、_
( ,_ノ` )「っとっと」

結果から言えば、二人の攻撃はあっさりと防がれた。
刀はナイフに、拳は掌に進路を阻まれる。
だが、

(#゚Д゚)(この程度は予想済みだ!)

身を回した。
放った左手を回転の勢いで引き戻し、更に踵を滑らせる。
その場で一回転して放たれたのはバックハンドブローだ。

同じくミルナも動いていた。
打ち払われた刀を手際よく構え直し、再び斬撃を放つ。

(#゚Д゚)「「ッ!!」」( ゚д゚#)

しかし、今度は手応えがなかった。
 _、_
( ,_ノ` )「――こっちだ」

渋澤は背後へ軽く跳んでいた。
結果、二人の攻撃は外れ、空振りの音を奏でる。

そして更なる音を聞いた。



28: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:13:05.81 ID:ISYyTi/H0
 _、_
( ,_ノ` )「ほぅーら、もたもたしてると――!!」

(;゚д゚ )「っ! 来るぞ!!」

(;゚Д゚)「おう!!」

地面を蹴り飛ばす。
離れた直後、打撃が地を叩いた。

振動、音、大気の破裂が同時に生まれ、周囲の何もかもを震わせる。


――――『鉄拳』。


鉄の拳と呼ばれるソレは、文字通りの力を生む。
巨人の一撃と見紛う粉砕力に耐えられる者など、この学園都市にはほとんどいないだろう。
それでいてノータイム発動、更には不可視だというのだから手に負えない。

見えない打撃が地面を叩き、空気を弾き、浮いた砂埃を周囲にブチ撒ける。

(;゚Д゚)「相変わらずの威力……っ! けど、いい加減慣れてきたぜ!」

着地したギコは、その場に留まらないよう疾走した。
一点を中心とした範囲に打撃を落とすのだから、立ち止まらなければいい。



29: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:15:05.30 ID:ISYyTi/H0
( ゚д゚ )「だが……!」

なかなか攻め込めない。
『鉄拳』も厄介だが、その使い手である渋澤本人の戦闘力も高いのだ。
『鉄拳』の威力を知っているギコ達は、せめてそれに当たらないよう走るしかない。
それを一歩も動かす目で追う渋澤は、笑みを浮かべ、
 _、_
( ,_ノ` )「それがお前らの本気か? その程度か? ん?」

む、と眉を立てるギコとミルナ。
エクストに比べればマシだが、それでも単細胞の類に入る彼らは、単純に挑発に乗ってしまう。
それを上手く制御するのは、少し離れた場所で杖を構えるモララーだ。

( ・∀・)「まさか。 まだ手札はありますよ!」

モララーの右手が素早く上げられた。
同時、別の気配が出現する。

距離にして約70、高度5。

瞬間的に気配を察した渋澤は、その方角へ目を向け、確信した。
 _、_
( ,_ノ` )「――ッ! っとぉ!」

身を逸らすのと、何かが目の前を通過するのは同時だった。



31: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:17:14.07 ID:ISYyTi/H0
 _、_
( ,_ノ` )「狙撃……スズキか!
    相変わらず良い狙いをしているが、気配と緊張で丸解りだったぞ!」

「す、すみませんでありますー!!」

遠くから聞こえてきたスズキの謝罪に、モララーは内心で頷いた。
あまり実戦慣れしておらず、今までの不運体質のせいで土壇場に弱いのだから仕方ない、と。

今ではモララーの結界術式である程度の被害は防げているが、
やはり、彼女の心に刻まれた不運に対する恐怖は一朝一夕で拭えるものではない。
狙撃は外れてしまったけど、あとで褒めてあげよう、とモララーは思う。

(;・∀・)「しかし銃弾すら避けますか……今のはちょっと自信あったんだけど」
 _、_
( ,_ノ` )「お前とスズキの関係、装備や戦法も知っていたからな。
    予測は立てるのは簡単だった」

(;・∀・)「うーん……困ったなぁ」
 _、_
( ,_ノ` )「で、お前の作戦ってのは終わりか?」

( ・∀・)「あ、はい。 っていうか囲んだ時点で終わってたんですけどね。
     あれ以上の策となると、一気に勝負を決められるような仕掛けとか必要ですし。
     でも生半可な作戦だと、むしろ逆効果でしたよねー……」
 _、_
( ,_ノ` )「俺を欺くには経験が足りんわなぁ。
    しかし囲まれたのは、マジで最後まで気付かなかったが」



32: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:18:59.60 ID:ISYyTi/H0
それは解っている。
だから、渋澤は一歩も動かない。
仕掛けた生徒の作戦に、敢えてハマったままの状態で戦ってくれているのだ。

生徒の本気を正面から受け止める気質は、まさに教師の鑑と言えるのかもしれない。

( ・∀・)(けど、それって――)

(,,゚Д゚)「……嘗められてるってことだよな、つまりは」

( ゚д゚ )「生徒なのだから仕方あるまい。
    俺達に出来るのは、その評価を覆そうとすることだけだ」

( ・∀・)「流石はミルナ。 良い感じで現実主義だね」

(,,゚Д゚)「普段はあんなに妄想世界大好きなのにな。
    今だから言うけど、お前、自己紹介の時のアレはねぇよ。
    ハインが良い奴だったから良かったけど、普通は甘引きどころじゃないと思う」

( ゚д゚ )「ならば言い返させてもらうが、お前もなかなか酷かったぞギコ。
    もちろん個性が薄い、という意味でな。
    おそらく一番覚えられていないと思うのだがどうだろうか」

(#゚Д゚)「そのくらいで良いんだよ、堅実だし。
    間違ってもお前みたいなマイナスアピールはしない」

(#゚д゚ )「マルガとマルゴがマイナスだと……?
    一体お前の脳はどうなっている? そうか駄目か!」

(;・∀・)「あのー……フツーこの場面で言い合いを始めますか君ら」



37: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:21:02.32 ID:ISYyTi/H0
モララーが呆れていると、低い声が割り込んでくる。

 _、_
( ,_ノ` )「……そろそろ気が済んだか? いいな? いいよな? じゃあいくぞ」


(;,゚Д゚)「「え?」」( ゚д゚;)

(;・∀・)「あ」

容赦無く、『鉄拳』がブチ込まれた。



42: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:23:05.38 ID:ISYyTi/H0
『鉄拳』の音が響く数分前。
ギコとミルナ、モララーが渋澤へ立ち向かっているのを見ている者がいた。
金髪ダブルドリルヘアのツンと、そわそわした様子のブーンだ。

ξ゚听)ξ「そろそろ出番ね。 準備はいい?」

( ^ω^)「お願いするお!」

白い指輪がはめられた左手を掲げるツン。
数歩の距離を開けて立つブーンへ向けて、術式を起動する。
まず指輪が淡い光を生み、

ξ゚听)ξ「毎度のことだけど動かないでね」

( -ω-)「おっ」

予めプログラムしておいた術式が発動する。
ツンの手元にウインドウが生まれ、文字を流し始めた。

《 Get Set ――――――――術式プログラム選択=干渉系魔法類【フィアレンス・アーツ】。
  Code【Leg=S-Lv1-180】――脚部性能強化/付加レベル1/接続時間3分。
  ……Target? 》

ξ゚听)ξ「ホライゾン=インサイドウィステリアよ」

《All Ready――Execution=【ブーン専用強化Ver.A】――》



43: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:24:51.39 ID:ISYyTi/H0
ブーンの足が光に包まれた。
粒子が柔らかく浮遊し、集結し、確定する。

( ^ω^)「おっおっおっ」

脚部の性能――攻撃力、防御力、反応等――を1段階、3分の間だけ強化する術式だ。

ツンがブーンのために組んだプログラムの一つで、効果自体は低いものの、その分長く戦えるよう設定されている。
性能強化重視で速攻型のVer.Bでも良かったが、ギコとミルナと共に戦うことを考えれば、
出来るだけ長くプレッシャーを与え続けられるVer.Aの方が良い、という判断からだ。

3分という時間は決して長くない。
しかし、これでも効果と時間を上手く振り分けた方なのだ。
原因はデバイスである白い指輪にある。

ξ゚听)ξ(やっぱり指輪型は小さいから、単純に魔力容量が少ないのよね。
      強化内容を充実させれば、その分だけ接続時間が短くなる……)

術式を扱う者なら誰でも感じるジレンマだ。
そして、総量の決まっている魔力をどう振り分けるのか、
というのは術者の腕の見せ所であり、楽しみでもある。

ξ゚听)ξ(1年の頃は良かったけど、これからを考えると新しいのが欲しいかな。
      またアルバイト始めなきゃ)

思うと同時、手元のウインドウに『Completion』と表示された。



45: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:27:04.33 ID:ISYyTi/H0
特に大きなエラーは無し。
日頃から調整しているのだから当然だ。
素早く確認したツンは、

ξ゚听)ξ「強化完了。 いいわブーン。 遅れた分を結果として取り戻してきなさい」

( ^ω^)「合点承知だお!」

強化を受けたことで調子に乗ったか、勢い良く駆け出すブーン。

両手を翼のように広げた姿勢。
ブーンは脚力強化時、この格好で走った方が速いことを知っている。
これは、手を振る速度よりも足の速度が勝るためだった。

ξ゚听)ξ(……さて、あとは見守るだけね)

ツン本人に戦闘能力はない。
強化までが己の仕事だ。
もちろん他のこともしたいと思うが、その役目は未だ見つかっていない状態だった。

手元に浮かぶウインドウを見る。
隅に表示されたゲージが少しずつ減っているのは、術式がブーンと接続中であることを示していた。
これが空になれば、再び魔力を充填するまで、デバイスに登録された術式は使えない。

ふぅ、と小さな溜息をついたツンは、

ξ゚听)ξ「……で、貴女はどうするの?」

从 ゚∀从「ん? あぁ、俺?」



47: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:29:34.38 ID:ISYyTi/H0
少し離れた場所にハインがいる。
戦闘が始まっているにも関わらず、彼女はずっと立ちすくんだままだった。

从;゚∀从「あー、いや、だって……怖いじゃん? アレ絶対痛ぇよ? プチってさぁ」

ξ゚听)ξ「誰だって怖いわよ。 怖いけど、行くんじゃない」

从 ゚∀从「……どうして?」

敢えて問いかけてみると、ツンは顔に苦笑を浮かべた。

ξ゚听)ξ「昨日の自分よりも前へ進みたいからよ。
      この都市の皆は馬鹿が多いから、何かに挑むことで確かめないと不安なの。
      昨日の自分とは違うんだ、って」

从 ゚∀从「…………」

ξ゚听)ξ「編入生である貴女はどうなのかしらね。
      昨日の自分と同じであることが許せるのなら、私からは何も言うことはないわ」

でも、と続け、

ξ゚听)ξ「もし前進を望むのなら、せめて見ておきなさい。
      負けると解っていても立ち向かうことで、心の安寧を望む馬鹿達をね」

从 ゚∀从「…………」

返事はない。
何かを考えているのか、ハインは真っ直ぐにギコ達を見つめたままだった。



49: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:31:47.29 ID:ISYyTi/H0
破砕音――が、響かなかった。

響いたのは、頭の上からの別音と衝撃だ。
『鉄拳』が落ちたことで発生したものだとは思うが、しかし位置がおかしい。
何より、

(;゚Д゚)「……無事?」

(;゚д゚ )「……む」

ガードするように掲げた腕をどけてみれば、ギコとミルナはまったくの無傷でそこに立っていた。
助けようとしたのか、二人の腕は互いの服を掴んだままだ。

反射的に見上げる。
同時、ガラスが砕けるような音が鳴り、光の粒子が散った。
降り注ぐ光粒を浴びながら見るのは、

( ・∀・)「まったく……戦いの途中で言い合いするなんて勘弁してほしいよ」

モララーだ。
その姿勢は、杖を横にして突き出す構え。

どうやら彼の結界術式が、ギコ達を助けてくれたらしい。



51: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:34:01.56 ID:ISYyTi/H0
(;゚Д゚)「モララー……た、助かった」

( ・∀・)「いやいや、こっちも実験成功して良かったよ」

(;゚Д゚)「は?」

( ・∀・)「君を守った結界は、対『鉄拳』用にプログラムした上方限定の術式なんだ。
     今日の夕方に完成したばかりで……実は初めての使用なんだよね、今のが」

それはつまり、もしプログラムにミスがあった場合、ギコは助かっていなかった、ということだ。
背中に冷たい汗が流れるのを自覚しながら、ギコは平静を保った上で言う。

(,,゚Д゚)「……まぁ、結果的に成功したっぽいから文句は言わん。
    助けてくれてありがとう」

( ゚д゚ )「うむ」

( ・∀・)「流石だギコ、ミルナ。 男らしいね。
     そして――」

( ^ω^)ノシ「遅れてすまんこってすおー!!」

ブーンが走ってきた。
速度が普段と違うのと、足に淡い光が灯っていることから強化術式を受けているのが解る。
『お馬鹿さん』というイメージが強いブーンだが、なんだかんだ言って戦力になるのは確かだ。



55: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:35:48.43 ID:ISYyTi/H0
(,,゚Д゚)「お、やっと来たか遅刻魔」

( ・∀・)「これで前衛が揃った。 戦力的には申し分ない」

これで渋澤の前に立つ生徒は4人となる。
ギコを中央として、サイドにブーンとミルナ、そして少し後方にモララーという陣形だ。
更には術式使いのハローとツン、狙撃担当のスズキが後方に控えている。

( ・∀・)「良い布陣だね。
     切り込み隊長としてエクストとクックル、そしてレモナが揃っていれば完璧だった」

(,,゚Д゚)「……ある意味、そいつら既に役目こなしてね? レモナ除いて」

( ・∀・)「確かに良い役割だったよ。 特にエクストはね。
     彼の働きのおかげで色々と確信を持てた。
     そして僕達は、それを活かす」

ギコ、ミルナ、ブーンがまとめて挑めば、流石の渋澤も油断出来なくなるだろう。
自分達のグループではエクストの戦闘力ばかりが目立つことも多いが、
実のところ、ギコ達も平均以上の能力を持っていることを、モララーは知っている。

それぞれ我が強いのがネックだが、それをまとめるのが自分の仕事だ。



58: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:38:46.10 ID:ISYyTi/H0
( ・∀・)「いいかい? 互いの位置を確認し合いながら動くんだ。
     一人一人がバラバラに立ち向かっても勝てない相手だからね」

(,,゚Д゚)「わーってるよ。 俺らもそこまで馬鹿じゃ――」

(#`ω´)「一番手! ブーン行きますおー!!」

(;゚д゚ )「む?」

足並みを揃えようとした矢先、ブーンが飛び出した。
というより、こちらに走って来た勢いをそのままにした突撃だ。

(;・∀・)「あ、あれ……? あれぇー!? 僕今ちゃんと言ったよね!? ねぇ!」

(#`ω´)「遅れた分をまずは取り戻すんだお!
      あと作戦があるから大丈夫だお!!」

(,,゚Д゚)「作戦……?」

ツンが何か入れ知恵したのだろうか。
『鉄拳』について何か気付いていた彼女なら、攻略の糸口を掴んでいるのかもしれない。
.  _, ,_
ξ゚听)ξ ?

向こうを見れば、何故か訝しげな表情をしているツンが見えた。



60: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:40:48.18 ID:ISYyTi/H0
ブーンは、走りながら思う。

( ^ω^)(ここで『鉄拳』を防げばヒーローだお!!)

出来る。
確信がある。
ツンの術式なら可能なはずだ。

彼女の術式強化は、単純な攻撃力と防御力、速度など増大させる。
そこに疾駆の勢いを重ねて蹴りを放てば、『鉄拳』だって跳ね返せるはずだ。
日々の鍛錬は欠かしていないし、ツンの術式だから大丈夫、という気持ちもある。

視界の端でツンを見れば、彼女は物凄い勢いで首を横に振っていた。
あれは――

( ^ω^)(――『やってやれないことはない』ってことかお!?)

流石はツンだ。
自分の術式に自信満々らしい。
更に確信を持って、行く。

(#^ω^)「覚悟するお先生! 今必殺のぉ――!!」

右足を大きく引き、

(#`ω´)「スーパーホライゾンキィィィィック!!!」

オーバーヘッド気味の蹴りが、彼の真上へ向かって放たれた。



62: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:42:13.47 ID:ISYyTi/H0
対し、何コイツおもしれぇ、と顔に描いてある渋澤も『鉄拳』を発動させていた。
タイムラグ無しで落ちる不可視の圧は、あらゆるものを叩き潰す。

小細工無しの、力と力の勝負だ。
 _、_
( ,_ノ` )「言ったからにはやって見せろよインサイドウィステリア!!」

(#`ω´)「その名で僕を呼ばないでほしいですおッ!!」

二つの力が激突した。
足と圧がぶつかり、大きな音を立てる。


(#`ω´)「――っ!!」


一瞬の膠着。
足を振り上げた形で止まったブーンは、息を吐くと同時に吸い、更に力を込めた。
ぎ、という軋みの音、視界すらブレてしまいそうな衝撃の中、



…………あ。



66: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:44:33.74 ID:ISYyTi/H0
ブーンは気付く。
更には流れるように悟る。
そして、素直に言葉にした。


(;^ω^)「……やっぱり駄目っぽい」


(;゚Д゚)「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

ぐしゃ、という生々しい音の中に消えるブーン。
『鉄拳』の重圧に耐え切れなくなった身体が、あっさりと地面へ叩きつけられた。

激音。

(;゚Д゚)「…………」

(;゚д゚ )「…………」

(;・∀・)「…………」
  _、_
(;,_ノ` )「…………」

煙が晴れれば結果が出る。
卍形という情けない格好で倒れていたブーンは、そのまま動くことをしない。

誰がどう見てもリタイアだった。



70: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:46:27.69 ID:ISYyTi/H0
沈黙が訪れる。
やがて我に返った彼らは、集って額を突き合わせ、

(;゚Д゚)「……アイツ何だったんだろ」

(;゚д゚ )「というか、これだけのために4レスも消費したわけだが」
 _、_
( ,_ノ` )「つまり何が悪かったんだ? 頭か? 頭だな?」

( ・∀・)「それもありますけど……おそらく術式強化した足と『鉄拳』の攻防力計算に失敗したんじゃないかと。
     ほら、よく言うじゃないですか。 『頭の悪い奴ほど誰にでも突っかかる』って」

(;゚Д゚)「うわー……基本だぞ、基本」

ちらり、と四人でツンの方を見る。

彼女は『orz』のポーズで落ち込んでいた。
いつも元気に揺れるツインテールも、この時ばかりは無気力に垂れ下がってしまっている。
今落ち込まれると後が怖いわけだが、ギコ達は敢えて目を逸らすことで路線を戻した。
どうせ殴られるのはブーンだ。

( ・∀・)「まぁ、遅かれ早かれこうなることは解ってたし……気を取り直して再開だ」

( ゚д゚ )「うむ。 そろそろ本気で戦わないと色々まずいしな」

(;゚Д゚)「あぁそうd……って、何がだよ」



73: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:48:23.75 ID:ISYyTi/H0
円陣を組んでいた四人の内、ギコ、ミルナ、モララーがその場を離れる。
一人取り残された渋澤も跳ぼうとして、
  _、_
(;,_ノ` )「っと!?」

しかし片足を取られ、体勢を崩した。
 _、_
( ,_ノ` )「これは……!?」

何かが足首を掴んでいる感触があった。
予想外の抵抗に倒れかけた身体を立て直し、そして足元を見る。
そこにあったのは、


――触手!?


ポリゴンテクスチャーで構成されたような、電子的な触手が地面から生えていた。
合計3本のそれは、しっかりと渋澤の右足首を捉え、更には地面の中に引きずり込もうとしている。
一見してホラーな光景に、渋澤は視線を感じて顔を上げた。
その先にいたのは、

ハハ ロ -ロ)ハ「Don't get overconfident yet……油断大敵とはこのことね、先生」
 _、_
( ,_ノ` )「ハロー、お前の仕業か……!」



78: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:51:06.24 ID:ISYyTi/H0
ふふ、と笑うハロー。
手に持っているのは赤色のスティックだ。
それを魅力的な唇にを押し当て、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

ハハ ロ -ロ)ハ「現象系魔法《フェノメノン・アーツ》。
       ある程度の戦場予測が必要な部分もある術式だけど――」

口端を吊り上げ、

ハハ ローロ)ハ「――ハマれば効果抜群よ?」

一気に引き絞られた。
巻きつかれた右足が、地面の中へと引きずり込まれていく。
傾きかかっていた体勢が更に崩れていった。

( ゚д゚ )「っ!!」

(,,゚Д゚)「もらったぁぁぁ!!」

そこを見逃すような生徒達ではない。
何より、そう教えたのは渋澤自身だ。
 _、_
( ,_ノ` )「だが――!」

金属同士がぶつかる音と、骨肉同士がぶつかる音が同時。
ど、と、き、という音が重なり、異音となってその場に響く。



80: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:53:50.61 ID:ISYyTi/H0
(;゚Д゚)「げっ……」

同時に繰り出した攻撃は、やはり同時に防がれていた。
左手のナイフと右手で作った拳によって、だ。
足を取られていて尚、バランスを保持したまま防御するとは流石である。
 _、_
( ,_ノ` )「さて」

一瞬の停滞の後、渋澤が動いた。
まず右手を素早く薙ぎ、拳を合わせていたギコの体勢を崩し、

(;゚Д゚)「っとぉ――っぐぁ!?」

上半身を倒しかけた腹に、無事な方の左足を叩き込んだ。

思わず身を折って苦痛の息を吐くギコ。
急所に入れたので、しばらく立つことも出来ないだろう。
 _、_
( ,_ノ` )「そろそろ片付けないとなぁ?
    他にも見てやらんといかん生徒はいるわけだし、お前らだけに構ってるわけにもいかん。
    まぁ、興味深いのは確かだが」

そうして、渋澤はミルナと正面から向き合った。



84: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 21:56:33.63 ID:ISYyTi/H0
(;゚д゚ )「ギコ……! くっ!」

自分が標的となったことを悟ったミルナは、表情を険に変えて刀を構え直した。
渋澤が本格的に動く前に、下段からの切り上げを繰り出す。
だが、
 _、_
( ,_ノ` )「さぁ、個人授業の開始だ」

(;゚д゚ )「っ!? 手合わせの最中に何を!」

容易く往なされた。
バランスを崩されたミルナは、素早く右足を出すことで踏みとどまる。
更に左足を出し、それを足場として振り返り、不意打ちの一撃。

しかしこれも受け止められる。
驚きに見開かれるミルナの目を、渋澤は覗き込むように見ながら、
 _、_
( ,_ノ` )「年長の忠告は聞いとくが吉だと知れ。
    いいか? 解ってるとは思うが……お前、向いてねぇだろうがよ」

(;゚д゚ )「なっ……」
 _、_
( ,_ノ` )「剣線に迷いはないが、明確な意思と覚悟がまったく見えない。
    サムライらしくないよな?」



89: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:01:03.59 ID:ISYyTi/H0
弾く。
腕の力だけで押されたミルナは、一歩二歩と足を下げた。
再び構えるが、その顔に浮かぶ動揺は隠し切れていない。

(;゚д゚ )「……っ」

教師に心の内を指摘されたのがショックだったのだろう。
痛いよな、と半ば同情の念を得ながら、渋澤は言葉を続けた。
 _、_
( ,_ノ` )「そもそもサムライってのは、主のために心身を捧げて仕え尽くす者のことを言うよな。
    西方で言い返れば『騎士』だが、騎士道に対して武士道という言葉がある通り、
    その根本部分には意外と相違が多い。 文化、土地、歴史による相違だ」

一息。
 _、_
( ,_ノ` )「ミルナ、お前よぉ……特別な人はいるか?」

(;゚д゚ )「…………」
 _、_
( ,_ノ` )「お前がサムライ目指してるのは知ってる。 だからこそ教師として教えてやろう。
    今のお前に足りねぇのは『他人』さ。
    もっと外の世界に目を向けてみろよ」

(;゚д゚ )「……俺はまだまだ未熟者だ。
     他人に目を向ける余裕など、ない」
 _、_
( ,_ノ` )「そうかい」



93: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:03:29.20 ID:ISYyTi/H0
と、渋澤が勢い良く右足を上げた。
草に引き込まれようとしていた足は、半ば地面に埋まった状態から一気に解放される。
己の役目を破られた触手は、光の粒子となって消えていった。

ハローが小さく驚いているのを横目に、
 _、_
( ,_ノ` )「じゃあ、そのまま一生未熟者でいるつもりか?」

( ゚д゚ )「っ!」
 _、_
( ,_ノ` )「いいか? 失敗することは悪いことじゃないんだ。
    お前の過去に何があったのかなんて詮索はしねぇが、今のお前は明らかに恐れているよな。
    『変化』か『未来』か……その刀に揺れる人形が良い証拠じゃねぇのか」

長刀の柄に揺れるは、『百合少女マルガとマルゴ』だ。
二つの人形は表情を変えることなく、その顔に笑みを貼り付けている。
 _、_
( ,_ノ` )「幻想は嘘を吐かないし、裏切りもしない。
    しかし変化もしないよな。 解ってるんだろ?」

( ゚д゚ )「……俺は」
 _、_
( ,_ノ` )「伝えられることは伝えた。
    今からお前に敗北を突き付けるから、よく噛み締めて考えるこったな」

『鉄拳』発動。
照準は当然、ミルナの立つ位置だ。



94: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:06:10.84 ID:ISYyTi/H0
戦意喪失したか、彼は刀を下げた格好でこちらを見ている。

( ゚д゚ )「俺は……どうしたら――」
 _、_
( ,_ノ` )「迷え探せよ先行き不明の若輩者。
    考える時間が多分にあるのも、学生身分の特権さ」

そして打撃が叩きこまれた。
無抵抗に重圧を受けたミルナは、為す術もなく崩れ落ちて気絶する。
次に起きた時、彼が何を思って行動するかは、もはや彼自身の判断に委ねられることとなった。
 _、_
( ,_ノ` )「ったく……若いってのは良いねぇ。 羨ましいねぇ。
     なまじ答えを知らないだけに迷う迷う」

これで二人。
ブーンとミルナがリタイアだ。

結果、前衛の半数以上を奪われた生徒達の要は、ギコのみとなる。

(;゚Д゚)「っぐぅ……ミルナもやられたのかよ」

しかしそのギコも、腹部のダメージによって顔をしかめている。
何とか立ち上がれるまでに回復したようだが、今までのようには動けないだろう。



95: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:08:18.97 ID:ISYyTi/H0
(;・∀・)「うわ、まずいなー……ハローとスズキは戦えるかい?」

問いかけると、

爪;゚〜゚)「や、やれと言うのなら頑張ってみるであります」

ハハ ロ -ロ)ハ「正面から殴り合うようなTypeではないのだけどね。
       何かする前に叩き潰されて終わりだと思うわ」

狙撃ポジションであった校舎屋上から下りてきたスズキと、ハローが頷いた。

彼女が言う通り、二人は力と力の比べ合いが苦手な技能の持ち主だ。
加えて防御系術式使いである自分や、補助系術式を扱うツンも戦力外と言っていい。
ガツン系近接馬鹿のエクストやクックルがいないのが、今更ながらに悔やまれる。

そして何より懸念すべきは、渋澤が仕上げに入ろうとしている点だ。
悠長に話し合いや作戦を立てる時間などない。
 _、_
( ,_ノ` )「あとはギコを倒せばチェックメイトのようだな。
    それでも尚、叩き潰されたいと望む奴がいるなら相手になるが……」

(;゚Д゚)「うわ、なんか雑魚的な言い方されてないか俺!? 」

だが、事実だった。
今のギコなど簡単に倒せるのが渋澤の技量である。
怪我をしていなくても負け確定なのだから、怪我をしている現状で何とか出来るとは思えない。



98: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:10:11.65 ID:ISYyTi/H0
(;゚Д゚)(でも――)

エクストは仲間の力を借りず、単独で戦った。
クックルはハローとミルナを活かすため、一人で立ち向かった。
ブーンは情けないやられ方をしたが、『鉄拳』に対して正面から挑んでいった。
ミルナは己の弱さを突かれ、そして半ば納得しながら沈んだ。

(;゚Д゚)(俺だけ何もしてないじゃないか……!)

このまま『鉄拳』が落ちてくるまで待つしか出来ない、のだろうか。

右手は使えない上、腹部の鈍痛は未だ苦しみを訴えてくる。
まともに動けない状況なのは、自分が一番解っていた。
しかも共に並んで戦える仲間はおらず、やるとしても一対一で正面からだ。

(;゚Д゚)(でも……!)

思う。
感情が湧く。

この感情の名を、ギコはよく知っていた。


……悔しい。



99: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:11:50.32 ID:ISYyTi/H0
力を持っていない自分が。
力も持たずに望む自分が。
力が何たるかを知らない自分が。


……悔しいよな。


(#゚Д゚)「――っ!!」

声が漏れるのも構わず立ち上がる。
少し膝が震えたが、拳で叩くことで黙らせた。
そんなギコの行動を見た渋澤は、ふ、と笑い、
 _、_
( ,_ノ` )「そうまでして立ち向かうか。 若い、若いよなぁギコ」

(#゚Д゚)「……うるさい。 そっちが来ないならこっちから行ってやる」
 _、_
( ,_ノ` )「くく、可愛いこと言うじゃないか。
     知ってるか? 俺にもそんな時代があったもんよ」

どこまでも余裕を見せる渋澤。
虚勢ではなく本当に心に裕りがあるのだから、苛立ちも一入だ。
震えながらも挑もうとするギコはもはや、屈したくない、という意地のみで立っているに等しい。

だが、それを止める動きがあった。



103: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:15:32.08 ID:ISYyTi/H0
从 ゚∀从「…………」

ハインだ。
今まで傍観していた彼女が、いつの間にかギコの隣に立っていた。

(;゚Д゚)「ハ、ハイン? 何を……?」

从 -∀从「……借りを返すぜ」

(;゚Д゚)「へ?」

从 ゚∀从「良いから休んでろよ。 ちょーっとだけやる気も出たしな」

そう言い残して歩き出す。
ポケットから生徒カードを取り出し、そのままホルダーへ。
空気の抜けるような音と共に、ハインの武器が解放された。
それは、

(;゚Д゚)「……!」

( ・∀・)(ナイフか……しかも随分と大きい)

肉厚の刃を持つ白銀のナイフ。
短剣、ダガーと呼んだ方が似合うような大きさだ。
ハインの痩躯に似つかわしくないそれが、彼女の手に握られていた。



106: ◆BYUt189CYA :2008/12/06(土) 22:20:43.02 ID:ISYyTi/H0
 _、_
( ,_ノ` )「どうした編入生? 俺の『鉄拳』はかなり痛いが、大丈夫か?」

从 ゚∀从「だろーな。 見てりゃ解るよ」

思う。
面倒なことだ、と。

本当は何もせずに終わるつもりだった。
ここで下手に仲間意識を持たれては、後の行動に支障が出る。
だから弱者のフリをして傍観していたのだが、

从;゚∀从(……あーあ、なんでだろうなぁ)

自然と身体が動いていた。
ギコを助けるつもりでも、渋澤を倒すつもりでもない。
しかし気付けば、歩き始めていたのだ。


……ただの気まぐれだろうよ。


そう思い込むことにした。
ついでに、胸の内にある小さな熱も無視することにした。
無視した上で、好戦的な笑みを浮かべ、

从 ゚∀从「行くぜ。 ちょっくら相手してくれよ先生」

言い、たった一人で立ち向かうため、ハインは大型ナイフを構えた。



戻る第十四話