(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

13: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 20:52:47.54 ID:FbWgj1FP0

――――第十九話

              『Non-stop Battle Run』――――――――――





              意思は止まることを知らず
             ここではない何処かを目指して



14: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 20:54:22.48 ID:FbWgj1FP0
現在、この学園都市では大きく分けて三つの戦闘が同時に進行していた。

エクスト、モララー、レモナが暴れている南方。
ミルナ、トソン、フォックスが戦っている西方。
ブーン、ツン、スズキ、ハロー、そして渋澤が介入する東方。

戦闘の中心は、ハインと特に仲が良かった面々だ。
突如として送られてきたメールによって、ハインと同じく身の危険を感じたメンバーは、
この騒動の早期解決を願い、ギコに全てを託して戦っている。

そのギコの目的は二つ。
ハインの捜索と、クーに会うこと。

(;゚Д゚)「ハァ、ハァ……!」

息を荒くして走っているのは、ギコ=レコイドその人だ。
工業区画特有の入り組んだ歩道をひたすらに駆ける。

工場や倉庫、工房などが並び立つここは、
それらの背の高さもあって、結果的に作られる死角も多い。
誰にも見つからずに移動するには、まさにうってつけのルートである。

近くには大型車両が走る広い道路もあるが、
誰かに見つかってしまうリスクを考えれば、多少走り辛くとも、こちらの道の方に利があった。



15: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 20:56:17.61 ID:FbWgj1FP0
と、ギコがいきなり方向転換する。
靴を地面に滑らせ、急ブレーキ。
止まった視線の先には、小さな工房が入口を開けて構えていた。

(,,゚Д゚)「…………」

周りを警戒しながら、工房の中へ身を滑らせる。

中は、昼間だというのに薄暗かった。
まず見えるのは、使い道がよく解らない大型の機械だ。
そして左右を見れば、この工房で作られたらしいパーツ類が棚に並べられている。

「お、ギコじゃねぇか」

声が掛かった。
振り向けば、工房の少し奥に中年の男が座っていた。
作業中だったのか、彼は厚い手袋を外しながらこちらにやって来て、

「どうした、そんなに慌てて。
 それにさっきから外が騒がしいみてぇだが……何かあったのかよ?」

(;゚Д゚)「え? メール、届いてないんスか?」

「メール? いつもの話だが、女房以外からは来ねぇのよコレが」

ははは、と笑う男の前で、ギコは何かを考えるように腕を組んだ。

(,,゚Д゚)(もしかして職員には届いてないのか……?)



18: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 20:58:25.50 ID:FbWgj1FP0
しかし、緊急Lv3のメールは都市に住む全員へ送らなければならない規則がある。
そうなっていないということは、

(,,゚Д゚)(やっぱり、あのメールは生徒会が出したわけじゃなさそうだな)

「……で、ここに何か用かい?
 ここは製造と改良を司る場でねぇ。
 生憎、お前さんのような生身で前を目指すようなガキに、してやれることなんてねぇんだがよぅ。
 あ、まずい茶くらいなら出せるが――」

(;゚Д゚)「あーいやいや、お構いなく。 ちょっとハインを探してるだけッスから」

「ハインリッヒ?
 アイツなら、数日前にローラーブレードの整備に来たっきりだがよ」

(,,゚Д゚)「そうッスか……」



19: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:00:30.75 ID:FbWgj1FP0
匿っている可能性も否めないが、なるべく知人は疑いたくない。
彼の言葉を信じることにしたギコは会釈を一つ。
ハインを探すために工房を出て行こうとする彼の背中に、声が掛かる。

「よく解らんが……あんま根を詰め過ぎずにな、ギコ。
 慌てりゃ慌てるほど、見えるモンも見えなくならぁよ」

(,,゚Д゚)「……うッス」

振り向かずに頷いた。
道の左右を確認し、誰もいないことを確認して走り出す。

(,,゚Д゚)(次は教育区画……いや、まずは北へ回ってみるか)


前へ。

今は、とにかく前へ。


出来ることの少なさに焦りを覚え、
しかし慌てないよう、ギコは無心に前を目指していった。



21: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:02:11.06 ID:FbWgj1FP0
ギコの目指す、学園都市北部。
そこには都市の管理運営を司る小さな区画が存在している。
役所や墓地、医院、そして少しばかりの森林があるだけの簡素な場所。

故に、普段は生徒の姿をあまり見かけることはない。
そこに、ハインがいた。

从 ゚〜从 ムシャムシャ

立ち並ぶ木々の陰に腰を落とし、バッグからパンを取り出して食べている。
左手には白色のナイフ『Silver Sweet Edge』が握られており、彼女が警戒心を無くしていないのが解る。
見つかった時、すぐに行動するための最低限な配慮だ。

从 ゚〜从(しっかし、マジでどーしたもんか……)

既に都市の大部分が騒ぎに包まれている。
いずれ、この人気の少ない区画にも生徒が姿を見せるだろう。



24: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:03:21.34 ID:FbWgj1FP0
从 ゚∀从(でも――)

見つかるだけならば問題はない。
こちらにはローラーブレードがあるし、補給用カートリッジも充分に持っている。
クックルの『黒翼』レベルの速度が相手でない限りは、逃げ切る自信はあった。

だが、ハインが警戒しているのは生徒だけではない。
この状況を仕組んだ存在こそが、最も危険なのだ。
おそらく今、水面下で自分を捕らえるために動いて――


と、その時。


从;゚∀从「え?」

視線。
鋭い感覚が、ハインの背を貫いた。

誰かに、見られている。



26: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:05:18.97 ID:FbWgj1FP0
从;゚∀从(誰だ……!?)

腰を少しだけ上げて構える。
神経回路にパルスが走り、身体が臨戦態勢に入ったことを知らせてきた。

しかし、ここで慌てて音を出したりしてしまえば、一層のピンチがやってくるだろう。
湧き上がる焦りを噛み殺しながら、ハインは息をひそめて周囲を見る。

木々と雑草が茂る森林部は隠れる場所に困らない。
故にここを選んだわけだが、逆を言えば誰かが近付いてきても察知しにくいとも言える。
まずったかな、とハインは心の中で反省し、

从;゚∀从(お?)

そして気付いた。
感じる視線を辿るように、その方角を見る。
確信出来るほどの察知能力を持っているわけではないが、なんとなく解った。


――遠い?


周りの木々ではない。
もっと遠くから、その人物はこちらを見ているようだ。



28: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:07:13.54 ID:FbWgj1FP0
不思議と敵意はないように思える。
かといって友好的でもない。

どちらかと言えば、ハインを見定めようとしているような色を持っている。

从 ゚∀从「……?」

よく解らないが気になる。
腰を上げたハインは、草木を掻き分けて視線を辿った。
少し歩けば木々は途切れ、目の前に道と広い場所が現れる。

墓地だ。
十字架や墓石が並んでいる。
数は少ないが、しかし周囲の静寂が、ここは死者の眠る地だと教えてくれた。
そしてハインは見る。

墓地を越えた更に先。
フェンスと林を挟んだ向こう側に、一つの建物があるのを。
三階建ての施設は白色で、上部に大きなレッドクロスがあるのは、

从;゚∀从(医院か……って、あれは――)

遂に視線の主を見つけた。
視界を拡大し、遠くに見える医院を見据える。

三階の左端の窓に、人影があった。



32: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:12:16.69 ID:FbWgj1FP0
窓ガラスに光が反射して、うっすらとしか見えない。
しかし誰かがそこにいて、自分を見ているのを確信する。

从;゚∀从「……?」

医院に誰か知り合いでもいただろうか。
いや、それ以前に、隠れていたハインをどうやって見つけたのか。
あの距離からこちらまで、数百メートルはあるというのに。

そしてハインは気付いていなかった。
医院の方へ神経を集中していたため、
自分が道側から見えてしまうほどの位置に立っていることを。

从;゚∀从「あ」

すぐ近くに気配を感じた時には、全てが手遅れだった。

(;゚Д゚)「……あ」

道の真ん中で荒い息を吐いているのはギコ。
彼は両膝に手をついた状態で、こちらを唖然と見ていた。

どうやら、互いの発見は同時に行われたらしい。



38: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:18:39.43 ID:FbWgj1FP0
从;゚∀从「ギ、ギコ……!」

まずい。

どうすればいいのか解らない。
彼が、こちらのことをどう判断しているのか。
あのメールを鵜呑みにして、自分を探していたのならピンチだ。

从;゚∀从「えーっと……その、なんだ」

(,,゚Д゚)「…………」

从;゚∀从「今日も良い天気だなぁ、なんて……ははは」

(,,-Д-)「…………」

小さく肩を落としたギコが、こちらへやって来る。
呆然とするハインを前にして、ギコはその華奢な腕を掴み上げた。

从;゚∀从「やっ――」

いきなりの乱暴に対し、反射的に腕を振った。
しかしギコの握力からは逃げられない。
更に強く腕を握った彼は、引っ張り、ハインを自分に近づけ、

(#゚Д゚)「何やってんだよ、この馬鹿……!」

と、木々の中に引きずり込んだ。



46: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:22:51.03 ID:FbWgj1FP0
从;゚∀从「え? え?」

わけも解らず引っ張られていくハイン。
しばらく草木を行き、道側から完全に見えなくなる位置でギコは足を止める。
再びハインの腕を引き、目の前に置き、

(;-Д-)「まったく……見つけたのが俺で良かったものの。
     他の奴に見つかってたら大変だったぞ、お前」

从;゚∀从「はい?」

(;゚Д゚)「状況が解ってねぇわけないよな? こんなところで隠れてたんだから。
    だったら迂闊に顔を出すんじゃないっての」

こつん、と頭に拳が乗った。
軽い振動を感じ、そしてハインは理解する。

从;゚∀从「……俺を捕まえに来たんじゃないのか?」

(,,゚Д゚)「あぁ」

迷いのない返事に嬉しくなり、

从 ゚∀从「じゃあ、俺の味方なのか?」

と聞けば、

(,,-Д-)「……いいや」

とギコは答えた。



51: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:27:33.99 ID:FbWgj1FP0
从;゚∀从「……どういうこった?」

(,,゚Д゚)「俺はお前の無事を確かめに来た。
    けど、それはお前を守るってことじゃあない」

腕を組み、

(,,゚Д゚)「俺は何も知らないし、解らない。
    だから知りたいんだ」

何を。
そんなもの、考えるまでもない。
答えを示すように、ギコは懐から携帯端末を取り出す。
メールを開き、

(,,゚Д゚)「教えてくれ。
    ここに書いてあることは本当なのか? それとも嘘なのか?」

从;゚∀从「……!」

(,,゚Д゚)「本当はクー生徒会長に聞こうと思ってた。
    でも、お前を先に見つけたからお前に聞く。
    教えてくれ。 俺はお前の味方をしても良いのか?」



58: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:33:21.96 ID:FbWgj1FP0
真正面から来る問いかけには、微塵の揺らぎもない。
彼は本当に知りたくて、この質問をしているのだ。
たとえハインが嘘を言うとしても、おそらく彼は何一つ構わないだろう。

迷いを拭い去りたいのだ。
解らないことが嫌なのだ。

从 - 从「…………」

気持ちは解る。
知らない、ということは不安に繋がるだろう。
自分だってそうなのだから。

(,,゚Д゚)「…………」

从 - 从「俺は……」

どうすべきか。
本当のことを言うべきか、それとも嘘を吐くべきか。
いや、既に状況は最悪に近いことから、下手に嘘を吐いても後でバレるだろう。
そうすれば、きっとギコは自分を軽蔑する。

不思議と、それは嫌だと思い、

从 - 从´)「俺は――!」

(;゚Д゚)「――ハイン!?」

影が、落ちてきた。



61: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:35:14.07 ID:FbWgj1FP0
<_;プー゚)フ「ぬおおおおおおおおっ!!?」

生活区画の一角では、エクストの大声が響き渡っていた。
声と同時にエクストの大柄な身体が転がり、土煙を立てながら路地を行く。
すぐさま立ち上がった彼は、痛む箇所を抑える暇もなく飛び退いた。

剣先が来る。

それを間一髪で避けたエクストは、背を寮の壁にぶつけて身を止めた。
前方、追い詰めるように立つは、先輩である四年生の生徒だ。

<_;プー゚)フ「お、おおお俺生きてる? 今生きてる!?
         生きてるって素晴らしい!?」

「安心しろ。 可愛い後輩を殺すつもりなどない」

<_;プー゚)フ「そりゃありがてぇが――」

「だが痛い目は見てもらう」

<_;プー゚)フ「やっぱそうなるかよ!」

言うと同時、上級生が走り込んできた。
まったく容赦がない。



63: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:36:49.25 ID:FbWgj1FP0
壁を背にしている以上、これ以上の後退は不可能。
左右への逃げ道は、上級生の実力を考えれば虎穴と判断出来る。
ならば、

<_#プー゚)フ「ふンがっ!!」

大剣を横に構え、上から落ちてくる刃を受け止めた。
華奢な刀身からは想像出来ないほどの衝撃が走り、

<_;プー゚)フ「――ってぇ!?」

思わぬ力で弾き飛ばされる。
ガードをこじ開けられたエクストは、目の前で上級生が身を翻すのを見た。

横薙ぎの鋭い斬撃。
右の脇腹狙いだ。

痺れる腕を抑えつけながら、エクストは直感する。

刃引きが施されているので斬られることはないが、
あの勢いなら骨の一本や二本は持っていかれるだろう、と。



64: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:38:30.51 ID:FbWgj1FP0
だから、身を捻った。
咄嗟に選んだ回避行動だ。
背を向けようとする動きに刃が迫り、

<_;プー゚)フ「ッ!!」

擦過する。
鈍い、火傷をしたような痛みを背寄りの脇腹に得た。
しかしそれは、掠るだけに終わった、という無事の事実でもある。

確認したエクストは、脱兎の如くその場から駆け出した。
壁を背にしている状況では不利と見て、大剣を振り回せる広い場所を目指す。

一瞬の空白後、背後から地を蹴る音が一つ。
耳に入れたエクストが、舌打ちしながら背後へ振り返り、その動作を使って大剣を振るった。

金属音。

たった一足で追いついてきた上級生の剣が、火花を咲かせてぶつかる。

「良い反応だ。 だが――」

声に被さるように音が一つ。
それは硝子が割れるような高い音で、

<_;プー゚)フ「――っくそッ!!」

同時、余裕をもって受け止めたはずの大剣が、容易く弾き飛ばされた。



66: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:40:20.78 ID:FbWgj1FP0
先ほどのガードを崩された時と同じだ。
重量の関係上、あり得ない結果。

だが、そのあり得ない結果を導き出せる理屈がある。
それは、

<_;プー゚)フ「衝撃強化系の術式か……!?」

「惜しいな。 衝撃変換系だ。
 ぶつけ合った時、その攻撃力の余差を衝撃に変換している」

鋭い剣線が複数。
受け止める度、大剣が大きくブレる。

己の腕力のみでは制御出来ず、エクストは全身で抑えにかかった。
そうでもしないと、今にも大剣が手から離れてしまいそうだったからだ。

「俺の剣と腕力では、その重い大剣を弾くことなど出来はしない。
 だから腕力強化を掛け、大剣の優位性である重量を打ち消している。
 あとは技術の問題だ」

更に衝撃。
上級生の剣というより、
自分の大剣に押されるように、エクストの身体が後退していく。

「そして上回った分の攻撃力は衝撃換算され、お前の剣を弾き飛ばす」



68: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:42:45.54 ID:FbWgj1FP0
<_;プー゚)フ「そうかい……!
         まともにぶつけ合うのがキッツいわけだ!」

だったら、と息を吸い、

<_#プー゚)フ「俺の方も奥の手を使わせてもらうぜ!!」

瞬間、エクストの速度が爆発的に上がった。

肩部に装着しているオプションパーツが起動したのだ。
レクリエーションの時、渋澤を出し抜こうとして使った速度強化系の術式。
数秒――いや、一秒ほどの速度強化だが、その効果は音速に近いスピードを術者に与える。

布を引き裂くような音が響き、エクストは一瞬で上級生の横へ移動する。
既に腕は大剣、オフェンスキープを振りかぶった状態だ。

<_#プー゚)フ「ん〜〜――っろっしょいッ!!」

「――む!」

上級生が反応するのと、大剣が振られるのは同時。
金属同士が軋みをあげる。



71: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:44:17.10 ID:FbWgj1FP0
「っ……!」

そして上級生の剣が大きく弾き飛ばされる。
バランスを崩した相手を見据え、エクストは大剣を振り抜き、その反動を利用して回転。
歯を剥いた笑みを見せながら、再び振りかぶり、

<_#プー゚)フ「予想通り!
         衝撃変換の術式を剣に付加してンなら、その効果は防御の時にも表れちまう!
         そうだろ先輩!?」

「成程、そこまで見抜いてきたか……!」

再び、刃の激突。
散った火花が地面を跳ねる。
またもや上級生の剣が、余計に弾かれた。

重量と遠心力、そして上段からの位置エネルギーを最大限に利用したエクストの斬撃。
対し、腕力を上げて咄嗟に構えた上級生の防御。

どちらが強力かなど問うまでもない。
激突に勝った方の攻撃力が衝撃に変換され、相手に圧し掛かる。

記述容量の問題で法則だけを付加しているため、その効果は彼我区別なく発揮されているのだ。



75: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:45:44.29 ID:FbWgj1FP0
だが、そんな状況でも上級生の冷静さは失われない。

「流石は2学年最強と名高いエクスト=プラズマン、だな」

<_#プー゚)フ「褒めても何も出ねぇぜ! 俺ァ叩き斬るしか能がねぇからな!」

「あぁ、だから代わりに言ってやろう。
 そして言ったはずだ」

一息。
そして反撃の動きに移りながら、

「――あとは技能の問題だ、と」

快音。
頭の芯まで届く音の中、エクストは感じて、そして見た。
己の身体が吹っ飛ばされ、そして上級生の一撃を繰り出し終わった格好を。

<_;プー゚)フ「なっ――!?」

と言った時には、浮いた身体が背中から落ちていた。

距離にして3メートルは飛ばされている。
何が起こったのかまったく解らない。



76: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:47:22.49 ID:FbWgj1FP0
「力で全てが決まるのは遊びの中だけだ。
 そして剣とは、力で斬るものではない」

<_;プー゚)フ「な、何をしやがった……!?」

「戦いの中でそれを問うのは無駄だ。
 この程度の技も見切れないのなら、先はないぞ」

術式か、技術か、技能か、仕掛けか。
様々な要因が考えられる以上、現時点で正解を出すのは難しい。
ただ一つ解るのは、あの上級生は自分よりも強い、ということだった。

周囲に聞き耳を立てれば、別々の場所から音が響いてくる。

何かを防ぐような硬い音の連続。
もはや聞き慣れた術式の起動音。

しかしそのリズムは、エクストにも解るほど乱れていた。

<_;プー゚)フ(アイツらも苦戦してるっぽいな……。
         モラっちはともかく御嬢も苦戦ってよっぽどだぞ、おい)

負けるにしても、ギコのことを考えればもう少し時間を稼ぎたいところだ。
どうしたものかと立ち上がろうとした時、背後に気配を感じた。



77: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:48:55.43 ID:FbWgj1FP0
<_プー゚)フ「?」

前を警戒しつつも少しだけ後ろを見れば、そこには女の子の足があり、

ノパ听)「……エクストッ、なんでこんなところに座ってるんだっ? お尻が汚れるぞっ?」

と、よく見知った声が頭の上から降って来た。
彼女の属しているグループを思い出したエクストは、先手必勝とばかりに言葉を連ねる。

<_;プー゚)フ「見りゃ解るだろうが。 ピンチなんだよピンチ」

ノハ*゚听)「おぉッ、お前ほどの男が危機かぁッ!」

<_;プー゚)フ「なんでそんな嬉しそうなんだよ!
         まぁいいや、手ェ貸せ。 ダチのピンチは救ってやるのも一興だろう?」

ノパ听)「うーん……ッ」

<_プー゚)フ「あ? 何だよ?」

ノパ听)「私、生徒会メンバーだしッ」

<_;プー゚)フ「おいおい、ダチが上級生に追い詰められてンだぜ?
         どっちが大事よ?」

ノパ听)「生徒会ッ」

<_;プー゚)フ「正直だなお前! ヒートらしいけど!」



79: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:50:03.04 ID:FbWgj1FP0
と、エクストが突っ込みながら振り返る。
下から見上げる視線の先、ヒートがそこに立っているわけだが、

<_プー゚)フ「あ」

ノパ听)「っ?」

そして彼は、落胆も露わに言う。

<_#プー゚)フ「なんだスパッツかよ期待させやがって……!」


ノパ听)


直後、女子生徒の言葉にならない悲鳴が響き、鈍い打撃音が炸裂した。



81: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:51:24.44 ID:FbWgj1FP0
晩春の陽射し、そして遠く水の香りが漂う。
そんな中でミルナは空を見上げていた。

雲が流れている。
風が強いのか、今日は少しばかり流れが早いようだ。
ようやく鈍痛が治まってきた身体で、ミルナはそんなことを思う。

( ゚д゚ )「――む」

ゆっくりと上半身を起こした。
身体の上に乗っていた砂埃や資材の欠片が、ぱらぱらと音を立てて落ちていく。
腕を上げれば、あの衝撃の中でも手放さなかった長刀が握られていた。

と、鼓動のような痛みが腹に来る。
見れば鳩尾辺りに、土を擦りつけられたような痕。

つい先ほど、剣撃の隙を突かれて強烈な蹴りを喰らった結果である。
踏ん張る暇もなかったミルナは、そのまま資材置き場に背中から突っ込んだのだ。

全身を打った際の痛みは鎮まったが、今度は腹が悲鳴をあげ始めている。



83: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:52:52.64 ID:FbWgj1FP0
痛みを無視しつつ、軽く身を捻る。
感覚から、大した怪我はしていないと判断。
ならば、残る痛みは我慢すればいい、とミルナは立ち上がった。

( ゚д゚ )「…………」

前方では戦闘が続いている。
ミルナが吹っ飛んだ後も、一度として止まっていない。

( ゚д゚ )(俺など、相手からすれば雑魚の一人なのだろうな……)

小さな疎外感を胸に、ミルナは再び戦列に加わるため、足を踏み出す。
その震動が腹の鈍痛を呼ぶが、やはり無視。
長刀を持ち上げ、もう片方の手を柄に添え、正眼に構え、そして思う。

( ゚д゚ )(これは他人の戦い……。
    ギコが前へ行くための障害を、俺が引き受けた。
    故に勝とうとも、直接得られるものなどないだろう)

だが、

( -д- )(……俺が負けるということは、ギコの敗北に繋がる)

ギコがこの場から離脱出来ている時点で、この戦いの勝敗に意味は無い。
しかし引き受けた以上、自分はギコの代理としてここに立っている。

ならば、せめて負けるわけにはいかない。

改めて気合を入れ直す。
長刀を一振りし、ミルナは再び戦闘へ入っていった。



87: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:54:14.35 ID:FbWgj1FP0
ミルナが蹴り飛ばされてからも戦いは続いていた。
前衛がいなくなったため、次に黒布の男が狙うのはトソンだ。
弓を主武器とする彼女を、ナイフを構えて追う。

弓とナイフ。

範囲も狙点も何もかもが異なる武器同士。
その場合、まず有利になるのが射程の広い方だ。

(゚、゚トソン「……!」

故にトソンは、出来るだけ接近されないよう、ステップを踏みながら射撃していた。
相手を直接狙うのは当然として、しかし時に足下にも射撃することで前進の邪魔をする。
ナイフが最も得意とする間合いに入らぬよう、工夫を織り交ぜながらの戦闘だ。

(   )「…………」

(゚、゚トソン(しかし、やはり強いですね。
     これまでの攻撃の中、本気で狙ったものもありましたが――)

ただ一つとして直撃がとれない。
良くて掠る程度だ。

屋上での一件でも同じことを思ったが、相手の技量は並どころの話ではなかった。
もしギコがあのまま戦っていれば、今頃は重傷を負わされていただろう。



90: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:56:41.47 ID:FbWgj1FP0
(゚、゚トソン「――と」

敵が高速で接近してきた。
バックステップで距離をとり、矢を射かけ、相手の間合いに入らないようにする。
状況的にナイフ投擲の可能性は低いため、警戒は対接近寄りだ。

投げてくるとすれば、ここぞという時だろう。
黒衣の男の実力から考えて、無駄に武器を減らすようなことはしないはず。

(゚、゚トソン「まぁ、そんな時など与えるつもりはありませんが」

充分な距離をとったトソンは、機械弓に備えられた機能を起こした。

折り畳まれていた両端が展開し、元から長かった弓は更にその身を長くする。

弦が、新たな端へ移動。
自動でセッティングされ、僅か数秒で撃てる状態を完成させた。

懐へ手をいれ、何かを取り出す。
手軽な魔力供給を目的としたマジック・カートリッジだ。
円筒状の、長さ7センチ程度の『丙型』と呼ばれるそれを、機械弓のスロットに一つ接続。

小さなウインドウが生まれ、外部から魔力を追加されたことを示す。



93: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:58:22.01 ID:FbWgj1FP0
(   )「――――」

トソンの企みを察した男が、更に速度を上げた。
準備中であることが解っているのか、真っ直ぐにこちらへ来る。
だから、トソンは見もせずに言う。

(゚、゚トソン「副会長、出番ですよ?」

爪'ー`)y-「こういう時だけ役職で呼ぶんだよねぇ。
      ほんとプレッシャーだよ」

既にフォックスも動いていた。
銀の腕輪を見せつけるように掲げ、術式を起動させる。

小さな光。
瞬間、

(   )「!?」

男のバランスが崩れた。
見れば、その右足が地面に埋まってしまっている。
小さな落とし穴にはまってしまったかのような光景だ。



96: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 21:59:46.13 ID:FbWgj1FP0
爪'ー`)y-「地面の『硬度値』と『密度値』に干渉。
      まるで女性の胸のように柔らかくしましたよ、ってねぇ?」

(゚、゚トソン「あのように足を埋められるほど、胸は柔らかくはありません。
     所詮は男の幻想ですね」

爪'ー`)y-「え? ――……あ、そっかぁ!」

(゚、゚トソン「まず貴方から始末します」

爪'ー`)y-「断言系!」

(;゚д゚ )「? なんだこの状況は……?」

(゚、゚トソン「ようやく戻ってきましたか。
     まぁ、これで終わらせるつもりですが」

弓懸を装着した手で、その張りを確かめるように弾く。
すると、き、というしなりの音が返り、トソンは納得したかのように頷き、
魔力で編まれた弦を弾くため、特殊な弓懸を装着した右の手を添えた。

既に黒衣の男は自由になっている。
しかしそれまでの時間は、トソンにとって充分な隙であった。

同時、複数のウインドウが展開。
その一つが、黒布の男を捉え、

(゚、゚トソン「穿ちます――!!」



101: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:01:51.52 ID:FbWgj1FP0
光矢が発射された。
弦を弾く軽い音に乗り、凄まじい速度で走る。
一拍遅れて強い風が生まれた。

(゚、゚トソン(出来る限りの最大の攻撃! これで少しはダメージを……!)

確信した時。

(   )「……!」

黒布の男が動いた。
足を止め、腰を落とし、深く構える。
前から来る光矢に対し、正面から向かい撃つ姿勢だ。

(゚、゚トソン(馬鹿な)

丙型カートリッジを丸々一本消費した一撃は、直撃すれば地面が削れるほどの威力を生む。
それをまともに迎撃するとなると、よほど防御機能に優れた術式などがなければ、
まず無事では済まないだろう。

男がナイフを水平に構える。
そして光矢が迫り、


《――――――》


光の爆発が視界を一瞬で覆い尽くした。
衝撃の余波で土が弾け、舞い上がり、少し遅れて小雨のように降ってくる。



104: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:04:44.92 ID:FbWgj1FP0
爪'ー`)y-「ナイスヒット」

(;゚д゚ )「何という威力だ……」

軽く拍手を送るフォックスと、呆けた顔で土煙を見るミルナ。
異なる反応だが、二人ともトソンの射撃の結果に対している。

(;゚д゚ )「武器を機械技術で強化する……いわゆる『機装』、か」

爪'ー`)y-「おっ、よく見てるねぇ。
      『機装』はメンテナンスが面倒なところが難点だけど、
      逆に外部からの魔力供給によって、能力に汎用性を持たせられるんだよね。
      更には――」

( ゚д゚ )「――弦や矢も魔力で生成しているから、
     魔力が切れない限りは安定して射続けられる、でしょう?」

爪'ー`)y-「そゆこと。
      対となる『魔装』に比べれば、その汎用・安定性が際立つ。
      僕が思うに、彼女の選択は正解だよ」

(゚、゚トソン「……………」

しかし、そのトソンだけは険の表情を崩さず、弓も下げずに見ていた。
直前に見た悪い予感を確かめるために。

その空気を察したのか、フォックスとミルナも言葉を止めて警戒する。



105: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:06:46.57 ID:FbWgj1FP0
(   )「…………」

果たして、トソンの予感は正しかった。
土煙を割いて現れた黒布に、三人は驚きの表情を作る。

まさか外れたのか。
いや、地面は光の爆発によって表面を削られている。
敵はその中にいながら、大したダメージを受けていないのだ。

砕ける音。

見れば男が構えていたナイフが、その形を保てずバラバラになって地面に落ちている。
続いて、その足下にマジック・カートリッジが計五つ、やはり音を立てて落ち、転がった。

(゚、゚;トソン「……!」

そのカートリッジを見て、トソンは更に驚愕する。
形状から、自分が使った丙型よりも更に大きな容量を持つ、
『丁(テイ)型』のマジック・カートリッジであることを見抜いたからだ。

相手はおそらく魔力を使った術式か何かで、トソンの攻撃をナイフ一本と引き換えに防いだのだ。
しかし、

(゚、゚トソン(……どういうことでしょうか。
     乙型一つ分の攻撃に対し、丁型五つ分の防御を展開した?
     いえ、それでは効率が悪過ぎる)



106: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:08:19.54 ID:FbWgj1FP0
採算が合わない。
丁型カートリッジは、家電類などの動力に使われるほどの容量を持っているのだ。

まさか最低でも、その丁型五本を消費しないと発動しないのか。
あれだけの技量を持つ男が、そんな限定的なモノを使うだろうか。

否。

あんな過消費装備を好んで使うのは、
何も知らない初心者か、もしくは派手好きな馬鹿くらいだ。

基本的に状況を予測して組まれる術式プログラムの観点から見ても、
たとえ何かに対する防護的な用意だとして、しかしここで使用するのはおかしい。
敵の動きから推測できる経験量から、トソンの射撃に慌ててしまったというのも考えにくい。

(   )「…………」

(゚、゚トソン(……何かを隠していますね。
     それも重大な何かを)

相手が再びナイフを構えたのを見て、トソンも弓を構える。
隣に来たミルナも、長刀を構えて再び臨むつもりだ。

沈黙。

しかし、長くは続かない。



108: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:09:56.76 ID:FbWgj1FP0
教師・渋澤。
武装学園都市に勤める職員の一人。
主な業務は、教育区画内にて生徒の教育を行なうこと。

その奇異な能力のおかげで『打撃系先生』と呼ばれることもあり、
実際、生意気な生徒をぶっ飛ばしている光景がよく見られる。

武術専攻学部担当だけあって実力は非常に高く、
都市全体での単体戦闘力ランキングでは、鼻歌混じりに上位へ食い込める実力を持っている。
もちろん彼よりも力を持つ教師は他にいるが、総合的な戦力で見れば、おそらく彼がトップに立つだろう。

その根底を支えているのが、彼固有の能力である『鉄拳』である。

「「――!」」

風。
そして打撃音。
地が震える。
 _、_
( ,_ノ` )「っは」

N| "゚'` {"゚`lリ「くくっ」

前者は挑発の笑み。
後者は余裕の笑み。

年齢にして決して若くはない二人の男が、学園都市の南東部を戦場として争っている。



110: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:11:30.36 ID:FbWgj1FP0
現在、押しているのは渋澤。
片手をポケットに突っ込んだ状態で、後退する阿部を追い詰めようとしている。
もちろん、その手段は『鉄拳』だ。

N| "゚'` {"゚`lリ「『鉄拳』……噂通りの性能、そしてえげつなさだ」
 _、_
( ,_ノ` )「お前さんの存在に比べりゃあ小さなもんよ」

N| "゚'` {"゚`lリ「んん? 俺のことを知っているのか?」
 _、_
( ,_ノ` )「俺みたいな根っからの戦闘系が知らんわけないさ。
    『救世の血筋』……こんなところで何やってンだい。 分野が違うだろ」

N| "゚'` {"゚`lリ「光栄な話だ。
         『あの』渋澤に名を覚えられているとは、な」
 _、_
( ,_ノ` )「……喋りが過ぎたかねぇ。 一回黙るか?」

『鉄拳』発動。
阿部の立つ位置を中心として、不可視の圧が落ちる。
半径二メートルほどをカバーするこの技から逃れる術は、決して多くはない。

N| "゚'` {"゚`lリ「まいったね、どうも」

阿部は動かなかった。
代わりとして右腕を振り、それが握る鉄槍を地面に打ち付ける。

穂先を上にして立つ槍の上に、圧が落ちた。



115: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:13:28.24 ID:FbWgj1FP0
大気すら震わせる衝撃。

だが、

N| "゚'` {"゚`lリ「ふぅ……これは何とも、近くで見ると大迫力だな」

打撃の中心にいたはずの阿部が、そこに立っていた。
身を軽く屈めた姿勢は、おそらく立てた槍よりも頭を低くするためだろう。

つまり彼は、槍一本で『鉄拳』を防いだのだ。

爪;゚〜゚)「ど、どうして……!?」

少し離れて見ているスズキが驚く。

当然だ。
あれだけ猛威を振るっていた『鉄拳』が、狙った敵を叩き潰せなかったのだから。
隣に立つハローも、一言すら発することなく動かない。



117: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:15:30.78 ID:FbWgj1FP0
 _、_
( ,_ノ` )「厄介、としか言い様がないな」

N| "゚'` {"゚`lリ「体質でね」

『鉄拳』の衝撃を受け止め、未だ震える槍を握る。
軽く振り回してみれば、ひゅ、と風切の音を立てて元に戻り、

N| "゚'` {"゚`lリ「嘘、偽り、隠匿、虚構……。
         そんなニセモノの力は、俺を前にすると効果が減衰してしまう。
         つまり逆を言えば、貴方の能力とは――」
 _、_
( ,_ノ` )「ちょっと黙ろうか若僧」

『鉄拳』。
再び打撃力が落ちる。

今度は槍で防ごうとせず、阿部は背後へ跳ぶことで回避。
目の前の地面が震え、砂煙を舞い起こす。
 _、_
( ,_ノ` )「逃がさん」

渋澤の声を聞くと同時、右方向から攻撃の気配が来た。
大気を押し退けてくるそれは、見えないが、迫ってくる壁を連想させる。



119: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:17:31.71 ID:FbWgj1FP0
対し、阿部は槍を振り、その石突を真横からの『鉄拳』に激突させた。

金属が軋む音。

その反動をバネとして逆方向へ移動した。
空中で身を捻り、着地し、
 _、_
( ,_ノ` )「悪いな。 そこはアウトだ」

N| "゚'` {"゚`lリ「――!」

体勢すら整わない阿部目掛け、待ち構えていたかのように『鉄拳』が襲い掛かった。
ノータイムで放つことの出来る点を最大限に利用した連続攻撃。
予測してない限り、逃れることは出来ない。

撃音。

今度こそ、阿部が打撃の中に消えた。



123: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:19:22.05 ID:FbWgj1FP0
爪*゚〜゚)「……!」

スズキが息を呑む。

(#)ω-)「お……?」

その気配を察したブーンが仰向けに倒れたまま、傍にいるツンへ問う。
後頭部に柔らかい感触を感じながら、

(#)ω-)「今の音は? ど、どうなったお……?」

ξ゚听)ξ「いいの。 ブーンは休んでなさい。
      私が膝枕をしてあげるなんて、後にも先にも滅多にないんだから」

言いながら、ツンは内ポケットから布を取り出す。
治癒速度上昇、疲労回復系の術式が登録された湿布だ。
『根性』などと書かれたそれを頬に貼ってやると、ブーンは嬉しそうな笑みを浮かべ、

(#)ω-)「……ってことは、またいつかしてくれるのかお?」

ξ--)ξ「アンタがさっきみたいに私を助けてくれたりしたら、だけどねー」



125: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:21:24.54 ID:FbWgj1FP0
(#)ω-)「これはその対価かお?
      ツンはいつも厳しいけど、でもちゃんと評価はしてくれて……。
      相変わらずしっかり者だお」

ξ゚听)ξ「そっちも相変わらず呑気ね。
      女に介抱されるなんて、ちょっと情けないわよ。
      さっきまでの、ちょっとカッコ良かったブーンは何処へ行ったのかしら」

(#)ω^)「え? カッコ良かったかお? えぇ? 照れるお〜」

ξ--)ξ「……やれやれ」

無茶をしたブーンを、自分が介抱する。
学園都市に来る前から変わらない行為に、ツンは小さく吐息。
その息の色は安心なのか、それとも諦念なのかは解らない。

ξ゚听)ξ「……ん」

風が頬を撫でる。
少し砂の混じった微風は、渋澤達のいる方角から来ていた。
正面から受け止めるように、ツンは顔だけをその方向へ向ける。

結果が、そこにあった。



135: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:27:51.00 ID:FbWgj1FP0
N| "゚'` {"゚`lリ「……っく。 流石に効くな」

『鉄拳』の直撃を受けた阿部は、その場に片膝をついていた。

N| "゚'` {"゚`lリ「シックザールがないと迎撃は厳しい、か。
         一応は効果減衰してるはずなんだが……。
         やはり、それだけ強力だということだな」
 _、_
( ,_ノ` )「先生ナメんなコラ。
     っつーかあんなモン持ってきたら、マジで半殺しどころじゃ済まんぞ?
     ありゃあ加減して相対できるような武装じゃねぇからな」

N| "゚'` {"゚`lリ「大丈夫だ。
         別にこの都市を破壊しに来たわけじゃあない」

代わりの装備が、あの鉄槍なのだろう。
特殊な能力はないようだが、やたらと頑丈なようだ。
 _、_
( ,_ノ` )(まぁ、頑丈じゃないと耐えきれねぇだろうからな)

そして、それよりも気になることがある。
 _、_
( ,_ノ` )「……破壊しに来たわけじゃない、だぁ?
     じゃあお前、一体ここに何をしに来てるんだ?」

N| "゚'` {"゚`lリ「はっはっは」
 _、_
( ,_ノ` )「調子乗って余計なこと言っちゃったようだねぇ」



152: ◆BYUt189CYA :2009/01/25(日) 22:34:55.02 ID:FbWgj1FP0
爽やかに笑う阿部に、渋澤も笑みを送る。
そして急に真顔になり、
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、そんなこたぁ生徒会にでも任せておきゃいい。
     たとえお前が都市に害を加える気がなくとも、見逃しはしねぇさ」

N| "゚'` {"゚`lリ「……もし、この行為が学園都市VIPを救うものだとしても、か?」

ハハ ロ -ロ)ハ(この都市を救う……?)

どういうことだろうか。
思えば、彼の行動は不自然な点が多い。
刺客であるなら、姿を見られた時点でまずいというのに、未だ堂々と立っている。
しかも半裸で。

N| "゚'` {"゚`lリ「もし、貴方の行なう行動が、
         結果的に学園に危機を呼ぶものだとしたら、
         学園に勤める教師として、どうするつもりだ?」
 _、_
( ,_ノ` )「……愚問だな」

一息。
 _、_
( ,_ノ` )「テメェは俺の生徒を傷つけた。
     誰かを殴り飛ばす理由なんて、そんなモンだろ?」

『鉄拳』が動き始める。
狡猾な笑みを浮かべた阿部に向かって、再び打撃が開始された。



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