(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

2: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:09:37.91 ID:aAkUhH6X0

――――第二十話

              『Non-stop Shadow Truth』――――――――――





              答えの在り処に意義はなく
             知った時、どうするかが重要で
             僕らは大事な決断を迫られる



4: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:11:08.66 ID:aAkUhH6X0
晩春の陽ざしの中、都市を疾走する生徒がいた。
建物から建物へと飛び移り、まるで空を飛んでいるかのように走っている。

着地すれば金属の擦れ合う音。
跳躍すれば地面を叩く靴の音。
浮遊すれば布が風に揺れる音。

川 ゚ -゚)「…………」

裾の長い特別な制服を着ているのは、生徒会長であるクーだ。
身の丈を軽々と越える突撃槍を背負った彼女は、しかし軽快に都市を跳び行く。
その表情こそ無だが、内心では少しばかりの焦りを感じていた。

川 ゚ -゚)(東ではない……。
     そして見かけた生徒に聞く限り、ハインの姿を見た者はいない)

となると北だろう。
あそこは普段から人気の少ない区画だ。

少ない情報から判断したクーは、先ほどから進路を北にとっていた。



14: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:19:05.77 ID:aAkUhH6X0
この都市に、敵が入り込んでいる。

これもまた聞いた話だが、東西で戦闘が起こっているらしい。
幸い、近くにいた生徒会のメンバーと教師が抑えに掛かっているが、
そこから思うのは微かな焦りと、一つの過去だ。

過去。

今のクーが、クー=ルヴァロン学園生徒会長である理由の一つ。
その過去があるからこそ、彼女は頑なに学園都市を守ろうとする。
たとえ誰からの同情や同意を得られないとしても、彼女は自分が卒業するまでこの都市を守ることを誓っていた。

だから、駆ける。
ハインリッヒを探して、こうして汗をも浮かべながら。
彼女を保護することが正しくないとしても、自分の想いに正直でいるために。

この積み重ねで許してもらえるだろうか、とは最初から思っていない。
それほどクーの犯した罪は、自分の中で重く圧し掛かっている。
何故なら、

川 ゚ -゚)(私は――)


……同級生を殺してしまったのだから。



17: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:20:42.23 ID:aAkUhH6X0
いや、正確に言えば『その人の未来を奪った』だ。
決して本意ではなかったものの、だからと言って許されるようなことではない。

もっと自分に力があれば。
もっと自分が冷静であれば。
もっと、もっと自分が速ければ。

川 ゚ -゚)「…………」

思い、しかし胸に湧く苦味をかき消すように小さく首を振る。

過去は充分に後悔した。
だから、もう繰り返させない。

誰かが誰かを失うのは、とても悲しいことなのだから。

知る者などほとんどいない想いを胸に、クーは更に加速する。
最初から全力疾走だったため足が疲労を訴えているが、無視。
学園施設の集う教育区画の外壁を駆け抜け、遂に北区を視界に入れた。



18: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:22:06.54 ID:aAkUhH6X0
高い位置に立って素早く見通す。
右手の方から医院や役所、墓地、そして森林公園へ視線を滑らせ、

川 ゚ -゚)「!」

一度通り過ぎかけたものの、クーは小さな違和感を見逃さなかった。
普段と同じに見える森林公園だが、よく見れば木々や葉の隙間が妙に黒い。
まるであの中だけ夜になっているようだ。

もはや考えるまでもない。
敵はあそこにいる。

背負ったランスを右手に持ち上げ、そして一度振ることで腕に慣らし、

川 ゚ -゚)「間に合えよ……!」

跳躍。

高く跳んだクーは、ランスの切っ先を下にして森林公園へと飛び込んでいった。



20: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:23:35.92 ID:aAkUhH6X0
『影が落ちてくる』。
そんな摩訶不思議な光景を前に、まず身を動かしていたのはギコだった。

(;゚Д゚)「危ねぇ!!」

从;゚∀从「!?」

飛び込んできたギコが両肩を押してきた。
抵抗する間もなく足が地面を離れ、二人はもつれ合うように転倒する。
直後、今の今まで足を置いていた場所に影が落ちて、

从;゚∀从(なんだ!? 影が……溶けて……!?)

どろり、と広がった。
スライムのような粘着性を持つ影らしい。
それが、周囲にある木々からゆっくりと粘り落ちてくる。

(;゚Д゚)「ハイン逃げるぞ! 立てるか!?」

从;゚∀从「あ、あぁ……でもアレって――」

(;゚Д゚)「だからこそ逃げるんだよ! 俺達じゃ太刀打ちできない!」

どうやらギコも影の正体に心当たりがあるらしい。
その慌て様から、ハインは自分の予測と同じであることを察する。
それは、

从;゚∀从(あの夜、俺達に襲いかかって来た影……!)



21: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:25:07.72 ID:aAkUhH6X0
確信がある。
あれほどの嫌な気配を見誤るわけがない。

足を踏み入れれば二度と戻ってこれないような深い闇。
それが、逃げるギコとハインを追い詰めようと地を這い、そして木々から滴り落ちてくる。
スピードこそ遅いが、確実にこちらの逃げ場を削ろうとしている動きだ。

从;゚∀从「ってかこの方角で良かったっけ!?」

(,,゚Д゚)「任せろ! こう見えても方向感覚には自信がある!」

こちらの手を取り、引っ張りながら走るギコが強く頷く。
言葉を証明するように、やがては木々の終わりが見えてきた。
背後へは振り向かない。
だが、

(;゚Д゚)「――っとぉ!?」

急ブレーキ。
もうすぐ脱出出来る、という思惑を裏切るようにして、目の前に影が落ちてきた。

前方は影、そして後方も影。
このままでは逃げ場が無くなる。
そんな現実から逃げるように、ギコは横への退避を選んだ。

(,,゚Д゚)「!?」

左手へ身を向け、そして見る。
その方向の先に誰かが立っているのを。



23: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:26:37.99 ID:aAkUhH6X0
( `ハ´)「――――」

黒い布を羽織った長身の男。
布の隙間から軍服のような服が見え隠れしているが、それどころではなかった。

男の纏う空気の不穏さに、ギコは言葉を交わさずとも臨戦態勢に入る。
それは身の危険を感じた動物のような反応に近い。
本能レベルで、あの男の脅威を感じとってしまったのだ。

(;゚Д゚)「お前は……誰だ?」

( `ハ´)「…………」

返答は無い。
代わりとして男の右手が上がり、その先をギコへと向ける。
すると、右腕の周囲空間に歪みが生じた。

大気を無理に捻ったような音。
歪みの中心が黒に染まり、それは一つの点として集約される。

直後、黒点は『矢』という形を為して発射された。



25: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:28:39.74 ID:aAkUhH6X0
从;゚∀从「ギコ!!」

(;゚Д゚)「ぬぉっ!?」

間一髪で避けることが出来た。
ほとんど何も見えなかったが、咄嗟に腰を落としたのが幸いしたのだ。

影の矢は頭上や肩を掠り、背後にあった木に突き刺さると同時に影となって消える。

発動スピード、飛来速度共に申し分ない性能。
それが術式であることに疑いようはなく、
同時に、学生程度の実力では抗えない相手であることの証明となった。

気付けば、既に周囲を影に囲まれている。
緑色の方が少ないくらいだ。

(;゚Д゚)(まずったな……。
    なんとかして、せめてハインだけでも逃がすべきだったか)

過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
後悔は性に合わないと自覚しているギコは、現状をどうにかするために動こうとする。
即ち、あの不気味な男を抑え込むことだ。



28: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:30:37.75 ID:aAkUhH6X0
( `ハ´)「…………」

(,,゚Д゚)「どうあっても自分の仕事を果たすつもりだな?
    学生相手じゃ恐れも警戒も必要ない、ってか……」

自分はまったくその逆だというのに。
沈黙も、言葉を交わす必要すらないと思われている証拠だ。

(,,-Д-)(でも、引き下がれないんだよな……我ながら損な性格だことで)

拳を握った。
足を引き、左半身を向けるように構える。
僅かに折れている膝は、いつでも動けるようにスタンバイしているからだ。

相手の男に小さな変化が見て取れた。
片眉を軽く上げたのは、おそらく驚きを得たからだろう。

そしてギコは、ここにきて初めて男の声を聞くことになる。

( `ハ´)「……少年」

見た目よりも老いた声だった。
合図とするように、ギコの視線に強さが宿る。

(#゚Д゚)「タダじゃあ答えてやらねぇよ!!」

行った。



30: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:32:29.77 ID:aAkUhH6X0
影混じりの地面を蹴飛ばし、一気に間合いを詰める。
拳主体で戦うギコにとって、まずはこの距離を無くすことから始めなければならない。

前方、男が流れるように身構えた。
隙がない。
だが、突っ込む。

(#゚Д゚)「はぁぁぁぁっ――!」

息を一旦吐いて、細く吸う。
胸というよりも腹に空気を詰め込むイメージで力を入れ、そして腰を捻った。

左拳を放つ。

助走した上での打撃。
身体ごと突っ込んでくる攻撃は、実は素人が思う以上に避け辛い。
任侠系ジャンルの書物などで『腰にドスを構えて突っ込む』という表現が出てくるが、
あれはあれで、確実に敵へダメージを与える方法としては間違っていないのだ。

( `ハ´)「…………」

男は避ける素振りを見せず、ただ構えているだけ。
次の瞬間、ギコと男の間合いが限りなく小さくなる。

クロスレンジ。

拳やナイフが最も得意とする範囲に入ったことで、ギコの身体は反射的に腰を入れて打撃を放った。
間合いが近い故、拳の発射から到達まで秒も掛からない。



32: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:34:20.22 ID:aAkUhH6X0
だが、

(;゚Д゚)「!?」

突き抜けた。
腹部狙いの一撃が、男の身体に触れることなく背後の空間へ投げ出される。
羽織っていた布が拳に絡み付いただけの感触に、ギコは目を見開いた。

驚いている暇などない。
そのことを思い出すのに、僅かな時間が掛かってしまった。

風。
冷えている。
右側から、食い込むように。

(; Д )「――ごがっ!?」

右脇腹に男の放ったカウンターフックがめり込んだ。
急所を穿たれた時の独特な痛み。
それが肋骨をすり抜け、肺にまで到達した後に反対側へと突き抜ける。

身体から力が消えた。
支えようと足に力を入れるが、膝が言うことを聞いてくれない。

たった一撃。
決してギコの耐久力が低いわけではない。
あの男の、急所を正確に捉える能力が非常に高いのだ。



34: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:35:46.69 ID:aAkUhH6X0
うつ伏せ気味に倒れる。
そして男の膝が背中に乗り、完全に固定された。

(;゚Д゚)「ぐっ……げほっ、くそぉ……!」

( `ハ´)「……少年」

(;゚Д゚)「あ?」

( `ハ´)「一つ問う。
     何故、この状況で立ち向かってきた?
     学生とはいえ学園都市の生徒……実力差も解らぬ子供ではあるまいヨ」

少し訛りのある喋り方だった。
次いで首筋に冷たい感触が追加される。
答えねば殺す、というメッセージに、ギコは渋々口を開いた。

(;゚Д゚)「ハインを逃がすために決まってんだろ……!」

( `ハ´)「では更にもう一つ。
     何故、あの娘を逃がそうとする?」

妙な質問に、ギコは内心で首を捻った。
男の言葉は続く。

( `ハ´)「我々が彼女を狙う理由など知らないだろう。
      彼女が何者なのかも知らないだろう。
      それでも彼女を逃がすため、私に立ち向かったのは何故カ?」



36: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:37:09.19 ID:aAkUhH6X0
(,, Д )「…………」

組み伏せられたままのギコは無言。
膝が更に背中に食い込み、苦痛が追加された。
対してギコは一つの反応を示す。

笑み。

この男は知らないのだ、と。
そんな問いの答えなど、この都市の生徒なら誰もが持っているというのに。
だからギコは言ってやった。

(#゚Д゚)「教えてやるよ影男……!」

腕を地面につき、立ち上がろうとしながら、

(#゚Д゚)「そんなの簡単だ! 友達を守りたいからだよ!!」

从;゚∀从「――!」

一気に上半身を跳ね上げる。
だが、それよりも早く男の膝が背中に食い込んだ。



39: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:38:45.50 ID:aAkUhH6X0
更なる問いが来る。

( `ハ´)「友? 出会ってたった一季ほどしか経っていないのに友だと?」

(#゚Д゚)「じゃあアンタはどの程度一緒にいたら友達だと思うんだ?
    そんな基準を設けてるのか!? そんなのが友達だって言えるのか!?」

歯を軋ませ、

(#゚Д゚)「それにハインだけじゃない……!
    この都市にいる奴ら全員が、友達であり、仲間だ!
    生徒会メンバーとして、その仲間が誰かに襲われそうになってるのを黙って見てられるか!!」

首元に影で出来た刃を当たられているにも関わらず、ギコは懸命に抗おうとする。
それが、今の言葉が本気なのだということを示していた。

( `ハ´)(…………)

男は内心で納得する。
学園都市という性質が強く出ている、と。
コミュニティに属する人間としては決して悪くないが――

そして答えが来る。
しかし、それは男の声ではなく。


「――よく言った、ギコ」



43: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:40:19.97 ID:aAkUhH6X0
( `ハ´)「……!」

凛とした女の声が上から来た。
気配に気付いた男がギコから離れる。

そして直後、頭上を覆っていた影が一条の光によってブチ抜かれた。

甲高い音。
影の欠片が舞い散り、更にその中を一人の制服姿が降下する。

川 ゚ -゚)「……ッ」

着地したのはクー=ルヴァロン。
彼女はギコにもハインにも視線を向けず、すぐさまランスを音立てて構えた。
少し離れた位置に退避した、影を操る男へ細く鋭い目を向ける。

既に戦闘態勢に入っていた。
影の男とは別の冷たい空気が追加される。

(;゚Д゚)「か、会長……!?」

どうやってここが解ったのだろうか。
そして、何を思って飛び込んできたのか。

いきなりのことに混乱するが、しかし彼女はこちらを見ない。



46: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:42:03.66 ID:aAkUhH6X0
川 ゚ -゚)「…………」

( `ハ´)「……武装学園都市VIP、その生徒サイドで最高権力・戦闘力を持つ生徒会長カ」

川 ゚ -゚)「解っていることをいちいち言う必要はない。
     故に――」

クーが動いた。
深い姿勢を作り、そのまま一切の迷いなく突撃する。
ランスの重みと速度に任せた突進だ。

川 ゚ -゚)「――私がこうして貴様を攻撃する理由も、言う必要などない……!」

速い。

身体強化か速度強化系の術式を受けているのか、最初からフルスピードだ。
速さのみを求めた無駄のない前屈姿勢を保っての疾駆。
男が一歩足を下げて迎撃の構えを作った時には、既にランスが放たれていた。

( `ハ´)「!」

風を捻りながら迫る切っ先。
続いて硬い金属音が鳴り、更に擦るような音が被さる。

男の眼前に湧いて出た影が、突き込まれたランスをギリギリで逸らしたのだ。



48: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:43:53.80 ID:aAkUhH6X0
しかし、クーの動きは止まらない。
かわされたと見るや否や、腰を回してランスを手元に回収して再撃しようとする。

( `ハ´)「――!」

一瞬早く男の手が動き、足下が波立つ。
男の操る影が、いつの間にか地面に展開していたのだ。

川 ゚ -゚)「む」

危険を感じたクーはその場で跳ぶ。
頭上にあった太い木枝を右手で掴み、しなりの反動を使って後方へ退避。
一瞬前までクーがいた位置を、影の刃が貫いた。

( `ハ´)(良い反応をしている……流石は学園の頂点、カ)

川 ゚ -゚)「……ふむ」

安全だと思われる間合いまで退いたクーは、ランスを再び構え、

川 ゚ -゚)「成程な……予め己の周囲に影を配置していた、というわけか。
     いや、それだけでは説明がつかないな」



51: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:45:16.89 ID:aAkUhH6X0
周囲を見る。
足元だけではなく、木々の隙間や頭上すらも影が覆っていた。
これだけの影を生み、操作するには相応の魔力が必要とされるだろう。
総合的に燃費が悪過ぎる。

川 ゚ -゚)「生み出した影は実は少量で、
     本当の影に紛れ込ませることで消費を抑えているのか……?」

( `ハ´)(ほぅ……)

中らずと雖も遠からず 、といったところだ。
たった一回の攻防でそこまで推測したのなら上出来である。
しかし、それ以上は身の危険を冒さねば辿り着け――

川 ゚ -゚)「――試してみるか」

小さく呟き、膝を曲げて腰を落とした。
逆再生するように跳ね上げれば、それは真上への跳躍となる。

( `ハ´)「! 何を――」

川 ゚ -゚)「簡単だ。 影は光を嫌う」

空中で身を捻ったクーは、ランスの切っ先を真下へ向けた。
抱え込むようにして安定を図る姿勢は、まるで大砲を構えているかのようだ。
そして甲高い音が一つ鳴る。

術式の起動音。



52: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:47:12.87 ID:aAkUhH6X0
(;゚Д゚)「……!!」

クーが取得しているクラスは、
4thクラス『近接長柄(ショート・シャフト)』の他にもう一つある。
術式使いの証である、3rdクラス『概念系魔法(イデア・アーツ)』だ。

ギコは屋上での戦闘を思い出す。
あの時に見せた技術は、近接長柄(ショート・シャフト)によるもの。
だが、今から発するのは概念系魔法(イデア・アーツ)の方で――

(;゚Д゚)「ハイン! 伏せろ!!」

从;゚∀从「え?」

咄嗟に振り返り、呆然と突っ立っているハインへ声を掛けた次の瞬間。


《 Get Set ―――――――術式プログラム選択=概念系魔法類【イデア・アーツ】
  Code【9M】 ――――――陣型紋章形成/魔力弾/高速連射
  All Ready―――――――Execution=【九連魔弾射出魔術陣】――》


クーの背後に光が展開した。
それは円状に広がり、幾何学的な模様を描く。
術式の確定及び安定を行なうための紋章《エンブレム》だ。

円周部には合計九つの小さな円が散りばめられており、それぞれが順番に発光し始める。
それは時計周りで点灯していき、灯る毎に甲高い音が重ねられていった。



55: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:49:05.91 ID:aAkUhH6X0
川 ゚ -゚)「行け――!!」

直後。
ランスを突き出したクーが吼え、背後の紋章が最大限の光を生む。
応じるように、その九つの小円から光弾が連続して放たれた。

大気を貫く九連音。
一撃を放つ度に紋章が回転する光景は、回転式弾装のようだ。

放たれた魔力弾は、上から地上へと降り注ぐ。
しかしそれは男を狙った軌道ではなかった。
全て地面に落ちた魔力弾は破壊音を立てて破砕し、周囲に強烈な光をブチ撒ける。

その光を中心に、森林公園に存在する影が一斉に散った。
光を嫌がるように木の後ろへと逃げていく。

だが、その場に留まる影もあった。
光を浴びて尚、そこに居続ける不自然な黒色がいくつか。
それこそが、

川 ゚ -゚)「貴様の生み出した偽物の影というわけか」

( `ハ´)「……正解、と言っておこうカ」



56: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:50:39.93 ID:aAkUhH6X0
右腕を振るった。
すると影が反応を示し、男の足元へと寄って来る。
それは男の本物の影と溶け合い、同化してしまった。

どうやら普段は自分の影に紛れ込ませているらしい。
影の通じるところに偽物の影を仕込めるのなら、足下だけではなく身体にも注意を払わなければならない。

しかし、これで仕掛けの大部分が判明したも同然。
概念系と操作系の複合術式だとクーは判断する。
厄介な術式であることには変わりないが、正体が解れば咄嗟の対処もしやすいだろう。

川 ゚ -゚)「…………」

再びクーがランスを構える。
話し合うという考えは持っていないようだ。
そこに、ギコは疑問を持つ。

(;゚Д゚)(どうして何も聞かないんだ……?
    ハインが狙われてる理由も、男の正体についても……)

攻撃する手にまったくの迷いがない。
まるで、都市から排除すべき対象であると解っているかのように。



58: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:52:09.77 ID:aAkUhH6X0
(;゚Д゚)(! まさか――)

つい先ほどの言葉を思い出す。
クーは男に対し、こう言った。


――解っていることをいちいち言う必要はない。


まさか、と二度思う。
まさか彼女は、ギコの知らない間に何かを知っていたのか。
だからあの男を敵だと確信し、こうして理由も聞かずに戦っているのか。

ギコの思考を繋げるように、男が口を開いた。

( `ハ´)「……随分と激しい気性の生徒会長アル。
     まるで気高き狼……いや、大事なモノを守らんと躍起になる獅子カ」

川 ゚ -゚)「…………」

( `ハ´)「しかしそれは、裏返せばただの短慮とも言えるアル。
     その少女を守ることが、果たしてどうなるか知りもせず――」

遮るようにクーの言葉が来た。

川 ゚ -゚)「――知っている、と言ったらどうする?」



60: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:54:33.16 ID:aAkUhH6X0
それは意外な言葉だった。
ギコはおろか男も反応出来ずにいる。
男の眉が少し動き、どういうことかと視線を送る。

川 ゚ -゚)「私は、全てではないが知っている上で行動している。
     ここへ来たのは大切な部下であるギコを助けるためだが、
     それ以外にも一つ目的がある」

ランスを構えたまま、

川 ゚ -゚)「学園都市の地下に何があるのか、知りたいんだ」

(;゚Д゚)「え……?」

( `ハ´)「貴様……」

男の纏う空気が変わった。
冷たい静寂から、鋭い激流へ。



63: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:56:05.67 ID:aAkUhH6X0
( `ハ´)「それがどういうことになるのか解らず、
      ただ自分の欲求を満たすためにその少女を守るのカ?
      学園都市をまとめる地位にいる者として、その選択は愚かとしか言いようがないアル」

川 ゚ -゚)「……違う」

( `ハ´)「何が違う、と?」

川 ゚ -゚)「学園都市を守る者として、生徒を統率する者として、
     己の足下に何が在るのかも知らないで、知ることすらいけないことだと目を背けることをしたくない。
     たとえそこに危険なモノがあるとすれば、だからこそ何が在るのかを確かめておきたい。
     『学園生徒会長』としてな」

頷き、

川 ゚ -゚)「だから私はハインリッヒの保護を行なう。
     彼女が、『この都市の地下の秘密を探る』という目的を持っている限りは」

(;゚Д゚)「!?」

知らない事実に、ギコは反射的にハインを見る。
ハインは僅かに目を伏せ、耐えるように身体を浅く抱いていた。
知られたくないことを知られたような、悪いことをして怒られるのを恐れる子供のような反応は、
クーの言った言葉が事実であることを示していた。



69: ◆BYUt189CYA :2009/02/15(日) 21:59:18.56 ID:aAkUhH6X0
川 ゚ -゚)「ギコ、今まで黙っていて済まない。
     実は彼女が編入した直後に問い質し、私のみがこの事実を得ていた」

(,,゚Д゚)「! それってもしかして――」

ギコは思い出す。
始業式が終わった後、クーはハインと生徒会室へ呼び出して二人だけで話をしていた。
ハインの様子がおかしかったのは、そのことをクーへ教えてしまったからだったのかもしれない。

どうしてそうなったのかは解らない。
しかし、クーが大体の事情を知っていることは確かだ。

( `ハ´)「つまり……己の欲求ではなく、あくまでこの都市のためだ、と?」

川 ゚ -゚)「そのつもりで行動するためにも、都市の地下の真実を知りたい。
     何も知らずに何かを守れるとは思えないからな。
     だから――」

ハインを見て、

川 ゚ -゚)「――本国である『チャンネル・チャンネル』。
     その軍部から送られてきたスパイであるハインリッヒ=ハイヒールを、私は保護する。
     彼女に協力を仰ぎ、地下の真実をこの目で見るために」



9: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:04:33.52 ID:rZvjqMgw0
从;゚ -从「…………」

(;゚Д゚)「……!」

本国からのスパイ。
それは、生徒達へ送られたメールの内容と一致している。
ギコは反射的に顔を上げた。

(;゚Д゚)「ちょ、ちょっと待て。
     じゃあ、あのメールの内容の方が正しいっていうのか!?」

川 ゚ -゚)「そういうことになるな。
     そして、そのメールを送って都市を混乱させたのが、この男だ」

( `ハ´)「…………」

(;゚Д゚)「そんな……」

川 ゚ -゚)「そして『本当の情報』をメールに乗せて配信したのは――」

( `ハ´)「――本当だろうと嘘だろうと、
     学園都市をしばらくの間混乱させることが出来れば、それで良かったアル。
     邪魔が入らねば、そのままハインリッヒを捕らえて去り、
     この都市には一人の行方不明者が出るのみに留まるアル」

だが、その企みは生徒達によって狂わされた。
男の予想を上回る行動で、こうしてハインの捕縛を邪魔されている。
特に、クーが事情を知っていたのは予想外とだったことだろう。



10: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:06:16.15 ID:rZvjqMgw0
男は内心で深い息を吐いた。
落胆や憤りではなく、微かな驚きによるものだ。

特に問題なくハインを捕縛出来ると考えていた彼に対し、
実はその反対――つまり今の状況を予測していた者がいたからだ。

( `ハ´)(流石、と言うよりあるまいカ。
     随分と長い付き合いだが、『彼女』はまだまだワタシを驚かしてくれるアル。
     となれば――)

(;゚Д゚)「だとすると、コイツらの方が正しい……?」

川 ゚ -゚)「おそらく、な。
     だが、そこから先は私にも判断が出来ない。
     ハインリッヒが調べようとしている地下に何があるのかが解らねば、な」

男が何を思ってハインを止めようとしているのか。
学園都市の地下に何が眠っているのか。
その答えによってはこの男が敵にもなるし、味方にもなるだろう。

それは彼女、ハインにも同じことが言える。

川 ゚ -゚)「ハインリッヒ、一つ確認しておきたい」

从;゚ -从「…………」

川 ゚ -゚)「君の負う任務の内容は『学園地下の秘密を探る』だが、
     君自身は、その地下の概要を知らないんだな?」



13: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:08:01.96 ID:rZvjqMgw0
クーの視線に、ハインは恐る恐る、といった様子で頷いた。

从;゚ -从「あ、あぁ……俺は何も知らねぇし、軍部も知らねぇ。
      だからこそ、それを探るために俺が派遣されたんだ」

言ったハインは、何故か窺うような目をしていた。
その動作が再びギコに疑問を投げかけることになる。

(;゚Д゚)(何だ……? どうしてそんなに申し訳なさそうにするんだ?
     ハイン、お前は一体何を思って……?)

川 ゚ -゚)「そこに一つ疑問がある。
     この学園都市を作ったのが本国であることなど誰でも知っていること。
     では何故、その本国の軍部が学園都市の地下の秘密を探るのか?」

( `ハ´)「…………」

男は答えない。
だから、というようにクーが続ける。

川 ゚ -゚)「軍部ですら知らない何かが、この都市の地下に存在するのか?
     そもそも、この学園都市には不可解な謎がいくつかあるのだ」



14: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:10:15.30 ID:rZvjqMgw0
それは、

川 ゚ -゚)「ここより北東に『プラス』と呼ばれる街があり、南西には『マイナス』と呼ばれる街がある。
     この二つの街は古くより深い交流を行なっていた。
     互いの街の間にあるのは一つの低山のみで、故に行き来も容易く、
     この二つの街は助け合いながら存在してきた。
     だが――」

一息。
小さく息を吸い、そして地面を指差した。

川 ゚ -゚)「――今より四十数年前、
     二つの街の間にあった低山を基部として、学園都市が作られた。
     わざわざ『プラス』と『マイナス』の主交流路を潰してまで、だ」

(,,゚Д゚)「!」

その話に聞き覚えがあった。
春期の始め、トソンがギコにぼやいていた内容。
それは、

川 ゚ -゚)「――まるで、そこに作らなければならない理由があったかのように」



17: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:12:13.82 ID:rZvjqMgw0
( `ハ´)「…………」

川 ゚ -゚)「記録によれば、そこにあったのは名もない低山だ。
     そして、その低山を基部として作られたのが学園都市VIPなら、
     地下とはつまり、元々は低山の内部のことを意味する。
     故に私はこう予測した」

男を睨み、

川 ゚ -゚)「その低山の中に『何か』があり、
     それを理由として学園都市が作られたのではないか、と」

放たれた言葉に、返事を寄越す者はいなかった。
ギコもハインも、そして言葉を向けられた男も黙っている。
風が葉を揺らす音が響き、しかし、

( `ハ´)「――成程、成程ナ」

と、男が深く頷いた。
肯定とも否定とも言えない曖昧な反応だ。

クーの推測を聞き、その内容を楽しんでいるようにも見える。



18: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:13:41.43 ID:rZvjqMgw0
不気味とも言える反応に対し、クーは眉一つ動かさず、

川 ゚ -゚)「私は知りたい。 自分の足下に何があるのかを。
     この都市を守っていくためにも」

( `ハ´)「そのために少女を保護し、そして都市を脅威に晒すカ?」

川 ゚ -゚)「……やはり貴様は知っているのだな。
     この都市の地下に何があるのか」

知っているからこそ阻止しようとする。
誰かに知られてしまった時、何が起きるのかを理解しているから。

川 ゚ -゚)「よほど大切な『何か』らしいな。
     貴様のような大物が出張ってきているのが良い証拠だ」

(;゚Д゚)「お、大物? 会長はアイツが誰か知ってるんすか?」

川 ゚ -゚)「あの顔に見覚えはないか?
     ……とはいえ、最後に表へ出ていたのは十年以上も前だが」

言い、クーは携帯端末を取り出した。
片手で軽快に操り、一つのウインドウを展開する。
離れた者にも見えるよう拡大表示されたのは、古いニュース記事の一部。



20: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:15:21.68 ID:rZvjqMgw0
そこに、影の男に似た顔があった。
皺などは今に比べて少なく若い印象を与えるが、写っているのは確かにあの男だ。
そしてギコは、彼が着ている服や周囲の光景を見て、

(;゚Д゚)「え……!?」

从;゚ -从「!!」

川 ゚ -゚)「本国である『チャンネル・チャンネル』の軍部、その陸軍に所属する幹部の一人。
     それが目の前にいる影使いの男の正体、リトガー=シナーだ」

( `ハ´)「…………」

川 ゚ -゚)「もっとも、この記事を最後として表に姿を見せなくなったがな。
     死亡説も流れたが、まさかこんな誘拐紛いのことをやっていたとは」

クーの皮肉に、一つの反応があった。

離れて立つシナー。
ふ、と息を漏らして肩を揺らし始めた。
笑いという動作に、クーが眉をひそめる。

川 ゚ -゚)「何がおかしい」

( `ハ´)「……いや、確かにそうだと思っただけアル。
     陸軍時代のことを思い出すことで、今の自分の惨めさが笑えてきた。
     敵味方から恐れられた過去に対し、今では学生に気味悪がられるとは、ナ」



22: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:16:57.39 ID:rZvjqMgw0
だが、と続け、

( `ハ´)「それでもワタシは満足アルよ。
     ここにはない事実を知る『彼女』に振り回され、
     そして、常に新鮮な状況に身を置ける現状が」

川 ゚ -゚)「その『彼女』とやらが現状に大きく関与しているようだな。
     正体は――」

( `ハ´)「――誰だと思うカ?」

川 ゚ -゚)「…………」

シナーの挑戦的とも言える問い。
微かな違和感を覚えつつも、クーは浅く腕を組んで思考する。



26: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:18:30.07 ID:rZvjqMgw0
今まで出揃っている情報を交えつつ、そして出てくる答えとは、

川 ゚ -゚)「貴様は、学園の地下に何があるのかを知っているのだったな」

だとすると、

川 ゚ -゚)「話は簡単だ。
     それを封じるか隠すためかは解らないが、
     少なくとも学園都市の設立に関わっていなければ、前提として地下のことなど知る由もない。
     そして……貴様ほどの男が関わっている以上、地下の秘密とはよほど重要だというのが解る」

ならば、

川 ゚ -゚)「それほどの情報を知る人物は限られるだろう。
     そして、ハインリッヒの正体から見れば更に範囲を狭めることが出来る」

从;゚∀从「え……?」

川 ゚ -゚)「君は本国軍部からの任務を負っていたな?
     つまり、軍部自体は都市の地下に何があるのかを知らない、ということだ」

(;゚Д゚)「? で、でもそれっておかしくないっすか?
    このオッサンは陸軍幹部で……あれ? どうなってるんだ?」

川 ゚ -゚)「それはシナー自身から聞くのが早いだろう。」
     そして更にその人物が、リトガー=シナーという人材を下に置くほどの権限を持っているとなれば、
     もはや答えは目の前にしかない」



27: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:20:06.37 ID:rZvjqMgw0
一息。
組んだ腕を解き、右手を上げ、五指を広げた状態でシナーへ向け、

川 ゚ -゚)「本国軍部、その開発部に所属する科学者……通称『プロフェッサーK』。
     学園都市という構想を現実にした、いわばこの都市の生みの親。
     貴様の呼ぶ『彼女』の正体だ」

( `ハ´)「…………」

(;゚Д゚)「え? え? つまり……どゆこと?」

川 ゚ -゚)「逆から考えればいい。
     『プロフェッサーK』は地下の秘密を知りながら、その上に学園都市を作った。
     まるで封印でもするように、な。
     そして、最近になって地下の情報を得た軍部が、正体を探るために動き始めた」

言葉を区切り、クーはハインへ視線を向ける。
その動きで、ギコは思考の欠片が一つの形になるのを自覚した。

(;゚Д゚)「その軍部から送られてきたのがハイン……。
    んで、秘密が洩れるのを防ごうとしてるのが、そのオッサンってわけか。
    でも二人とも同じ本国所属っすよね?」

川 ゚ -゚)「シナーの方が本国の意を無視して動いているのだろう。
     だが『プロフェッサーK』と同じく開発部に所属しているとは考えにくいな。
     おそらくは――」



29: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:21:48.46 ID:rZvjqMgw0
推論に続く声が来る。
それは、今までクーの言葉を黙って聞いていたシナーだ。

( `ハ´)「――『D・I機関』。
     それが、今のワタシが属している組織アル」

川 ゚ -゚)「む……? そんなことを喋っても良いのか?」

( `ハ´)「もはや誤魔化しなど利かぬ状況。
     我が主の予測は正しかった、ということアルか」

(;゚Д゚)「へ?」

( `ハ´)「良いだろう。
     学園生徒会長の言い分は理解したアル。
     ワタシとて、無駄な戦闘や問題を起こしたくはない」

右腕を勢い良く振るう。
いつの間にか携帯端末が握られていた。
ギコ達の持つOZシリーズとは違う、シンプルなタイプだ。



30: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:23:18.25 ID:rZvjqMgw0
( `ハ´)「ならば、控えていたもう一つの選択を実行するアル。
     『これから知ることを絶対に口外しない』。
     それを守れるのであれば、一部の者にだけ真実を見せるアル」

川 ゚ -゚)「……随分と条件が軽いな」

( `ハ´)「どうせアレを見れば口も閉ざすことになるアル。
     何も知らずに地下を調べられるより、ワタシが同伴した上で正しい真実を伝えるのも、
     また一つの抑止力に繋がるアル」

主がそう言っていた、とは言わなかった。
この聡明な生徒会長に余計な情報を与えるのは危険だという判断だ。

川 ゚ -゚)(ふむ……)

そんな思惑など露知らず、クーはシナーの言葉の意味を考える。

確かに良い条件だ。
納得も出来る。

こちらは既に、地下に何かがあると勘付いている。
たとえここでシナーが釘を刺したとしても、クーが素直に従うかは解らない。
そこで逆に正体を明かすことで納得させ、危険性の理解を求めてきたのだ。

つまりは秘密の共有である。
良い手だ、とクーは判断。
だが、

川 ゚ -゚)(肝心な部分をはぐらかされたな……)



35: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:25:04.34 ID:rZvjqMgw0
まだまだ知りたいことはあった。

男の口から出た『D・I機関』についても、『プロフェッサーK』についても、
そして、この学園都市が作られた『経緯』や『根拠』についても、
まだまだ解らないことがある。

特に『D・I機関』についての情報が欲しい。

彼女自身が持つ情報ルートで名前だけは聞いたことがあったが、
実際の概要を知らなければ、シナーや『プロフェッサーK』の本意も解らない。
本国の意から逸脱した組織であることは、もはや間違いないのだが。

しかし、これ以上踏む込むとなると相応のリスクを負わなければならないだろう。
シナーはそれを望んでいないだろうし、今の目的は地下の秘密を知ることだ。

他の気になることは追々調べていけば良い。
その情報と直結しているであろうシナーを目の前に捉えただけで、今回は充分だと言える。
あとは、この問題の中で彼を逃がさないようにしなければならない。

腕を組んで少し考えたクーは、ハインへ目を向けた。

川 ゚ -゚)「ハインリッヒはそれで良いのか?」

从;゚ -从「俺は……」



38: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:26:49.70 ID:rZvjqMgw0
彼女は少し迷い、

从;゚ -从「俺は、地下に何があるのかを調べ、そして本国へ情報を持ち帰るのが任務だ。
      だったら断る理由はねぇよな」

川 ゚ -゚)「だが、学園側の同意の上となると問題になるだろう。
     君がコソコソしていたのも、学園側の人間に知られることなく済ませたかったからだ。
     何か秘密を探る時、そういう条件は必須だろうからな」

从;゚ -从「それは――」

川 ゚ -゚)「……まぁいい。 何とかなるだろう」

考えがあるのか、クーは会話を打ち切る。
その考えがどのようなものなのかは、ギコには見当もつかなかった。
何とかなる、と言ったのだから、何とかしてくれるのだろう、と漠然と思う。

ともあれ、どうやら話は決まりそうだった。
この場にいる3つの立場の人間の利害が一致しつつある。

もちろん小さな食い違いこそあるだろうが、それはそれぞれが把握しているだろう。



41: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:30:08.81 ID:rZvjqMgw0
(,,゚Д゚)「会長……」

川 ゚ -゚)「すまないな、そういうことで話がまとまりそうだ。
     だが、それもこれも君がハインリッヒを守っていたからだ。
     礼を言う」

(;゚Д゚)「あ、いや、その……」

どうなんだろう、と思う。
自分はがむしゃらに、ただ自分の思いに従ってハインを助けただけだ。
クーの思惑など先ほどまで知らなかったし、今も賛同すべきか迷っている。
正直言って、いきなり話が進み過ぎてついていけていない。

だから、頷くことは出来なかった。

そんな曖昧な反応に、クーは苦笑を浮かべる。
どうやらこちらの困惑など御見通しなようだ。

うろたえるギコを余所に、シナーが端末を指で操作している。
何をしている、というクーの視線に、シナーは首を振り、

( `ハ´)「この都市に散っているワタシの仲間を止める必要がある。
     そして――」

いきなり左手を動かした。
跳ね上げるように肩の位置まで上げ、そしてある場所を指し示す。
木々や雑草しかないように見えるそこに、いくつかの影が飛び掛かった。

( `ハ´)「――そこでコソコソしているネズミ。 姿を見せるアル」



44: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:31:42.28 ID:rZvjqMgw0
擦過音。
紙を擦るような音と同時、草むらから何かが飛び出て来た。
それは猫のような軽快なステップで転がり出て、

/ ,' 3「ふーむ……バレちゃったようだねぇ」

と、のんびりとした口調でそう言った。

小柄な老人だ。
北方でよく見る着物を纏っている。
彼は袖についた土埃を払い、ううむ、と一つ唸ると、クーが肩をすくめた。

川 ゚ -゚)「流石に勘付かれていたか」

( `ハ´)「いくら生徒会長とはいえ、この都市の全権を任されているわけではない。
     今回の件が都市に深く関わることだと解っていたなら、
     より判断権限の高い者を連れて来るのは当然アル」

/ ,' 3「まぁ、そういうことじゃなぁ」

間延びした口調で笑う老人。
なんとも場違いな雰囲気に、先ほどまでこの場が緊張に包まれていたことなど忘れさせてくる。
その正体を、ギコが口走った。

(;゚Д゚)「学園長……!?」



47: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:34:24.87 ID:rZvjqMgw0
アラマキ学園長。

学園長とはその名の通り、学園を統率する役職のことだ。
生徒側の代表である学園生徒会長に対し、 学園長は職員などの大人側の代表とも言えるだろう。
その小柄な外見からは想像も出来ないが、実質上、この学園都市で最も高い権力を持っていることになる。

/ ,' 3「久々だねぇ、ギコ=レコイド君。
    去年の冬季にあった大模擬戦以来かな?」

(;゚Д゚)「ど、どうも……」

/ ,' 3「ふぉっふぉ、そんなに緊張しなくてもいーよ。
    一昨年から優秀な生徒が生徒会長やってくれてるおかげで、ワシほとんど仕事してないから。
    なんかもう学園長室で茶飲んでるだけのジジイだから」

これで偉かったりするから世の中解らないものである。
実際、ギコはこの老人がまともに仕事をしているのを見たことがなかった。

式典等は全て生徒会に任せているし、特に授業を受け持っているわけでもない。
たまに修練館などに現われては、茶を片手にボーっと訓練の様子を眺めていたりする程度だ。

そんなわけで、ギコの中では『どーにも胡散臭い爺さん』というイメージが固着している。



48: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:37:34.78 ID:rZvjqMgw0
/ ,' 3「さて、と――」

その胡散臭い爺さんが、顎に蓄えた白髭を扱きながら周囲を見た。
視線はクー、ギコと続き、ハインで少し止まり、そしてシナーで完全に停止する。

/ ,' 3「春季あたりから、どーにもコソコソ嗅ぎ回っておるようじゃの、リトガー」

( `ハ´)「……その名で呼ぶカ」

/ ,' 3「そりゃあなぁ。 ワシ、あの後のことはなんも関与しとらんし」

どうやら二人は顔見知りのようだ。
会話から察するに陸軍時代、つまり十年以上前からの関係らしい。

/ ,' 3「しっかしどーよ? ワシの生徒は優秀じゃろ?
   隠密技に優れたお主が足を掴まれるとは、いやはやワシも鼻が高いのぅ」

トソンがこの場にいれば、いいから仕事をして下さい、と呟いたことだろう。
だが生憎、この場にセメント属性を持つ者はいなかった。
代わりとでもいうようにシナーが鼻を鳴らす。

( `ハ´)「ふン、相変わらず阿呆をやっているアルな」

するとすかさず、

/ ,' 3「お主も相変わらず陰険なことやっとるのぅ」

まるで予め決めていたかのような速度での返答だ。
やはり随分と古い付き合いのようだ。



51: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:39:18.22 ID:rZvjqMgw0
直後、電流が走ったかのような感覚が駆け巡った。
一瞬遅れ、それがシナーの発する怒気であることに気付いたギコが息を呑み、
先ほどの戦闘は手加減していたのだと思い知らされる。

そしてしばらくの間、逃げ出したくなるような冷たい沈黙が続いたが、

川 ゚ -゚)「……話を進めたいのだが、どうだろうか」

というクーの冷静な声によって、とりあえず治まることとなった。

( `ハ´)「まぁ、いい。
     ここへ来た時からこの無能老人と顔を合わせることは覚悟していたアル。
     それよりも今は地下のことアル」

川 ゚ -゚)「学園側の意見は先ほど言った通りだ。
     ただしここで駄目だと言われたとしても、私は意地でも地下の秘密を探るつもりだがな」

从;゚ -从「地下の秘密が知れるなら、俺の方は願ったり叶ったりだ。
      過程はともかく、な」

( `ハ´)「ふむ」

/ ,' 3「ええと、ワシは――」

( `ハ´)「――黙れ無能」



56: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 21:43:10.42 ID:rZvjqMgw0
体育座りで嘘泣きを始めた学園長を無視し、シナーはクー達へ視線を向けた。
目には光があり、それはまるで威圧するような冷たさを放っている。

(;゚Д゚)「…………」

( `ハ´)「少々時間を与えよう。
     その間に、学園生徒会長が信の置ける者のみ学園地下の入り口に集めるアル」

一息。

( `ハ´)「……そこで、この学園の抱える事実を御見せしよう」



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