(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

6: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:02:13.88 ID:7EsB3AWF0

――――第一話

             『青い髪の女』――――――――――






              初めまして
             御久しぶりです



11: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:04:31.87 ID:7EsB3AWF0
早朝。
まだまだ強い夏の日差しを受ける建物があった。

瓦屋根を持つ北方系の建物の名は、『修練館』という。
学園敷地内の一角に、それと同型の建物が十棟並んでいる。

人の気配は無い。
木々のざわめきや、鳥のさえずりが時間を動かしている。
学園の校門が開いた直後の時間ということもあって、敷地内には用務員くらいしかいないのだ。

しかし、音が響いている。

音の出所は修練館だ。
三号館と表記された看板の建物から、音が聞こえる。
どうやら、内部にある訓練用広間の一つの窓が開いているらしい。

弾けるような軽い音がメインだ。

たまに、重く響くような音が重なる。

それらが一定のテンポで連続し、早朝の静けさを破ろうと躍起になっている。



15: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:06:11.57 ID:7EsB3AWF0
修練館は三階構成になっている。
一つの階層につき、訓練用広間は六部屋、つまり修練館一つに広間は十八だ。

その中の一階、最も出入口に近い広間では、

(,,゚Д゚)「――ッ!」

ギコ=レコイドが一人、、拳を無心に振るっていた。

彼の視線の先には立てた丸太がある。
簡単には倒れないよう、しっかりと固定された訓練用の丸太だ。
それを前にして、ギコは拳を握り、軽く身体を上下させてテンポを刻んでいる。
そして、

(,,-Д-)「――ッ!!」


打撃する。


丸太はギコの拳を受け、身を硬く震わせることで応える。



20: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:08:43.55 ID:7EsB3AWF0
更に、打撃。

右のフックを放ち、間髪入れずに左を叩き込む。

今度は正面から右拳を、人体に例えるなら鳩尾部分へ。
手のひらを上にし、下から潜らせるような打突は、その急所に対して最も効果のある打ち方だ。
もし目の前にいるのが人間であれば、今頃は膝を折って動けなくなっていることだろう。

衝撃に、丸太が振動する。
小さな震えを見ながら、ギコは一歩下がった。

深呼吸。
拳は構えたまま。
何度か、ギコの呼吸だけが続く。

前へと出ている左足が、確かめるように床を踏みにじる。
そして、一際大きな吐息を示すように腰が落ち、

(#゚Д゚)「ッ!!!」

一気に行く。
右のストレートが炸裂。

打音。



25: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:11:22.46 ID:7EsB3AWF0
それだけに終わらない。
外側へ捻りこんでいた左足首が、ギコの半身を誘導する。
そこから放たれるのは、相手にとって視界外から来る右のハイキックだ。

更に打音。

放った右足に引っ張られるように、ギコの身体が背中を向く。
しかし次の瞬間、右足が地面に落ちると同時に左足が浮き、丸太へと蹴撃を叩き込む。
変則系のバックキックは、中身が詰まっているはずの丸太の形を一瞬だけ変えた。

反転し、ギコの身体が正面を見る。
一呼吸も間もなく、更なる打撃が連続した。


打音。

打音、打音。

打音打音、打音。


打音打音打音打音打音打音打音打音――……!!



27: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:13:40.43 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「――っく!!」

不意に、ギコが苦しげな息を漏らした。
体内にある酸素のみで激しい運動を強いたため、身体が限界を迎えたのだ。
弾かれるように数歩下がり、そこでようやく、は、と長い息を吐いた。

額と頬に汗が滲み始める。
それを手の甲で拭い、更に深い息を吐く。

何度か繰り返す頃には、呼吸は元のテンポを取り戻していた。

(,,゚Д゚)「ふぅ……まぁ、前よりは長く打てたかな」

連打とは、基本的に無酸素運動の中で行われる。
息を吸う暇があるなら拳を放て、というのはよく言われる言葉だ。
これを長く出来るようなればなるほど、自分の攻撃時に相手を圧倒出来るチャンスが増える。

格闘における基本中の基本だ。

体力というステータスが、最も深く直結する技能といえるだろう。



33: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:17:08.66 ID:7EsB3AWF0
無論、これだけでは駄目だ。
今は相手が丸太だから良いが、人間相手では簡単には通用しない。
入りのタイミングから、足捌き、重心、虚実の混合、呼吸の把握など、まだまだ絡む要素は多い。

だが、それらも何もかも、この基本の連打が出来ていなければ意味がない。
拳を安定して放つことが出来るからこそ、下半身や目、精神が活きてくるのだ。
よく言われる『基本が大事』という言葉は、そういう意味である。

と、そこで背後から気配が一つ。

爪'ー`)y-「――やぁ、精が出るねぇ」

広間の出入口。
そこに、生徒会副会長のフォックスが飴を咥えて立っていた。
ギコの発する熱気の中、彼はのん気に欠伸をしながら近づいてくる。

爪'ー`)y-「今日は早いねぇ。 しかも修練館使っての鍛錬か」

(;゚Д゚)「……うっす」

見られていたことに気付けなかったギコが、バツの悪そうな表情で頷いた。
それを見たフォックスは苦笑して、

爪'ー`)y-「別に最初から見てたわけじゃないから安心して。
      ところで、やっぱりこんな早朝からやってるのは――」

(,,゚Д゚)「今日から二学期っすから。
    また授業が始まって、生徒会の雑事もあるから、朝くらいしか時間がなくて……」

爪'ー`)y-「そっかぁ。 いや、良いことだと思うよ、うん」



35: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:20:58.04 ID:7EsB3AWF0
竜の襲撃から数月が経っていた。
時は既に、夏の終盤である。

襲撃の翌日から開始された都市の修復は、思いのほか時間を要した。
一学期の最中であるため、学生には授業があり、それぞれの修練やアルバイトもある。

それでも生徒達は積極的に手伝いを行ったが、
竜によってつけられた傷跡は予想以上に多く、深かった。

結局、作業はかなり長引くことになる。
後に控えていた夏季休暇と重なってしまうほど、だ。

夏季休暇は一月分の長さを誇る長期休暇であるため、帰省する生徒や職員も少なくない。
そのため、更に作業期間は延びるだろう、と職員会議などでは懸念が為されていた。
修繕作業は基本的に給金が出ず、長引けば長引くほどモチベーションに関わってしまうからだ。

しかし、予想外の事態が起きる。

本当に必要な帰省を控えている者以外のほとんどが、都市に残ってくれたのだ。
世話になり、そしてこれからも世話になる都市を放ってはおけなかったらしい。

無邪気に喜ぶ残留メンバーの中、クーが嬉しそうに頷いていたのをギコは覚えている。



38: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:23:13.19 ID:7EsB3AWF0
(,,゚Д゚)「確か生徒会詰所の方も先日、修繕完了したんですよね?
    俺はずっと都市部の修復に出てたんで、ついこの間に知ったんですけど。
    しかも元通りじゃなくて、更に広くリフォームされたんだとか……」

その理由は一つだ。

爪'ー`)y-「竜との戦いの後、クー生徒会長が謳った『武装都市化計画』。
      その関係で生徒会も構成員が見直されて、役職とか増えたんだよね。
      だから、その分だけ詰所の拡張が為された、と」

この都市の正式名称は『武装学園都市VIP』だが、
実際のところは防衛用の兵器すら保有出来ない、名ばかりの都市であった。

学生主体、戦争介入不可という独特のルールが存在するからである。

しかし竜の襲撃があった。
防衛用の装備すらない都市にとって、抗う術はほとんど無いに等しい。

地下で発見された機械人形Gの助けがなければ、おそらく壊滅的な被害を受けていたことだろう。



41: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:25:02.07 ID:7EsB3AWF0
これを受け、対竜戦の後、クーは高らかに宣言した。

『武装都市化計画』。

上級生を中心に部隊編成を行い、
有事の際に連携して動くための訓練を取り入れる、というのが主な内容だ。
いつ襲撃を受けても、せめてこの都市だけは存続させられるようにするためのものだ。
もちろん学園都市である以上、専守防衛の思想が基礎にある。

尚、改編後の生徒会役員は以下の通りである。

生徒会長(総隊長):クー=ルヴァロン
副生徒会長(副隊長):フォックス=ヴェルヘルン

第一戦闘処理機動隊(第一処機)隊長:武術専攻学部の五年生
第二戦闘処理機動隊(第二処機)隊長:武術専攻学部の四年生
第三戦闘処理機動隊(第三処機)隊長:トソン=シティビレッジ
第四戦闘処理機動隊(第四処機)隊長:術式専攻学部の五年生
第五戦闘処理機動隊(第五処機)隊長:術式専攻学部の五年生
第六戦闘処理機動隊(第六処機)隊長:科学技術学部の五年生
第七戦闘処理機動隊(第七処機)隊長:一般教養学部の四年生

会計:ミセリ=デュアル
会計補佐:空席
監査:G

生徒会専属遊撃:ヒート=ルヴァロン
生徒会専属遊撃:ギコ=レコイド
生徒会専属遊撃:空席



44: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:27:25.01 ID:7EsB3AWF0
第一から第七まで新設された『処機(ショキ)』という役職は、
主に有事の際、クーやフォックスの指示を仰ぎ、連携して動く戦闘部隊のことだ。

第一、第二は、前線に出る近接を担当。
第三は、遠距離攻撃を主とする前線援護を担当。

第四は、術式による攻撃、及び援護を担当。
第五は、術式による防御、及び援護を担当。

第六は、都市の設備や機材等の運用を担当。
第七は、情報や放送、運搬、医療を担当。

として、それぞれ隊長を頭に選ばれた隊員達が続く。

更に生徒会運用の要となる会計、サポートの会計補佐、そして公平判断を下す監査。
最後に、生徒会の雑事を主に担当する生徒会専属遊撃が続く構成だ。

これらの構成は日常において意味を持たないが、
都市外からの脅威があった場合、上記の指揮系統を基準として動くことになっている。
もしあの竜のような害が来たとしても、以前よりは格段に素早く、確実に動けることだろう。

最近では機械人形Gに手伝ってもらい、都市各部の地下発掘も行われていた。
狙いは、要塞都市に使われる予定だった防衛装備だが、もし危険かつ強力な兵器が見つかった場合は、
丁寧に分解して別途利用、もしくは売却による資金源とすることになっている。

とはいえG自身のデータ形式が古く、年数経過による欠損も多いため、
作業自体はあまり進んでいないのが現状だが。



48: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:30:13.96 ID:7EsB3AWF0
ともあれ、竜の襲撃からこの都市は大きく様変わりした。
より強く、より逞しく、そして何かを守れるように。

それを為したクーの手腕とカリスマにも驚かされたが、何より思うのは、

(,,゚Д゚)「……でも、こうやって武装都市化できるのが竜のおかげなんて皮肉ですよね」

爪'ー`)y-「もうちょっとポジティブに受け取ろうじゃないか。
      皮肉とかじゃなくて、丁度良かった、と……ね?」

生徒会側の見解は、『竜の襲撃は何者かに仕組まれている』というものだ。

あまりにタイミングが不自然であったし、
希少である竜があんな簡単に姿を見せるのはおかしいからだ。

もし地下に潜り、しかし本国へ情報を持ち帰るのを拒否したハインの始末が目的ならば、
あの竜を送り込んできたのは本国である『チャンネル・チャンネル』ということになる。

事実、不自然な点はあった。
襲撃時、学園都市は最も近い位置にある本国所有の軍事基地に救援を呼んでいたが、
彼らが到着したのは、既に竜を倒してしまった後である。

もはや邪推の域に入るかもしれないが、
それが、ハインを確実に始末するための遅延であるとしたなら?
この事実もまた、本国への疑念に拍車を掛けた。



53: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:34:32.63 ID:7EsB3AWF0
しかし、立場的に弱い学園都市が真相を問いただしたところで、
有耶無耶にされるのは目に見えていた。

どうするのか。

クーの出した答えは意外なものだった。

『竜など知らない』という本国の態度を、逆に利用したのだ。
敢えて『竜の襲撃は自然のものだった』として振舞い、学園都市の脆弱性を謳ったのである。

あのような災害が二度とないとは言い切れない。
故に、竜害を経験した都市として、これからはある程度の備えが必要だ、と。
そういった言葉を並べ、本国に武装化の規制緩和を願い出たのだ。

難儀するだろうと思われていた規制緩和は、しかしあっさりと許可が出た。

もちろん他国や他都市を攻撃範囲に入れてしまうような兵器は禁止されているが、
地下から出土したとされる『田代砲』の管理運用はこちらに任されることとなる。
故意に竜を送った手前、『竜の被害は二度と出ない』と言い切ることが出来なかったのだろうか。

ともあれ、相手のブラフを利用した案は見事に通り、
この学園都市は、本当の意味で武装学園都市VIPとして動き始めたのであった。

(;゚Д゚)「――っと、そろそろ一時限目が始まる時間か。
    俺、もう行きますね」

爪'ー`)y-「りょーかい。 んじゃ、後で生徒会詰所で会おう」



58: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:38:32.98 ID:7EsB3AWF0
頷いたギコは、床に放っていた荷物を片付け始める。
そんな彼の背中を見ながら、フォックスはあることに気付いた。

爪'ー`)y-「……あれ、ギコ君? もう汗引いたの?」

(,,゚Д゚)「へ?」

ギコは首をかしげ、すぐに戻し、

(;゚Д゚)「えーっと、やっぱり朝の時間程度じゃウォーミングアップにしかならないみたいで。
     もうちょっと時間があったら身体も起きるんだけどなぁ……。
     っと、じゃあ、また後で!」

爪'ー`)y-「あー、うん。 疲れたからって授業中は居眠りしないようにね」

そっちこそ、とギコは苦笑。
まとめ上げた荷物を肩に、駆け足で訓練用広間を出る。
それを見送ったフォックスは、先ほどまでギコが殴っていた丸太へ視線を向ける。

爪'ー`)y-「……確か学期毎に、訓練用資材って全交換されるんだよねぇ」

そこにあるのは、表面塗装の多くを剥がされている、新品であったはずの丸太であった。

爪'ー`)y-「都市の変化と共にギコ君も変わりつつあるってことか。
      何が契機なのかは知らないけど、本気になれるっていうのは良いことだね」



60: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:40:28.01 ID:7EsB3AWF0
修練館を出ると、強い日差しがギコを迎えた。
しかし先ほどまで熱気の中で鍛錬していた彼にとって、この気温はむしろ涼しく感じる。
もうすぐ一時限目が始まる時間ということで、既に外には生徒の姿が多く見受けられた。

その中を、ギコは小走りに駆けていく。

歩いても充分に間に合う距離と時間なのだが、
先ほどの修練で身体に火が入り掛けており、それを鎮める意味でのジョギングだ。

(,,゚Д゚)「――――」

ふと周りに目を向ける。
二年に上がりたての頃は満開の桃色を見せ付けていた並木道。
しかし、今は緑色をメインとした清々しい光景になっている。

(,,゚Д゚)「……もうすぐ、夏も終わりだよなぁ」

今年の夏は生徒会の仕事ばかりだった気がする。
都市復興はもちろん、いつもの見回り、再編された生徒会の雑事処理、そして、

(,,゚Д゚)(ちょっとした時間を見つけて始めた修練、か。
     以前に比べて無駄に充実してンなぁ俺……)



64: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:43:38.38 ID:7EsB3AWF0
本日から二学期だ。
午前は授業がメインになるし、午後は生徒会の仕事がある。
その中で自分の修練時間を見つけていかないとな、と心の中、一人思う。

修練、つまり己を鍛えることだ。
今までは生徒会の仕事を優先していて、あまりやる時間はなかった。
そんな彼が、どうして自分を鍛えることに意識を向け始めたのかと言えば、

(,,゚Д゚)(本気、か)

既に数月も前の話だ。
いきなり竜が襲ってきて、学生達は自分らの都市を守るために抵抗した。

ギコは、その中で走り回り、そして最後に――

思い、小さく首を振る。
果たしてアレが本気だったのかと、確信が持てないからだ。

ズボンのポケットに手を入れ、手のひらで包み込めるほど小さな尖った石を取り出す。

竜との戦いで気絶して、目が覚めたら握っていたものだ。
これを見せた時、モララーは嬉しそうに頷いていた。
結局、これが何なのかは教えてくれないままだったが、どうも何かの証拠らしい。
よく解らないが、とりあえず大事に持ってみている。

それを軽く握り、ギコは思う。

(,,-Д-)(本気を出せたかすら解っていないなんて、それを本気って言えるのか……?)



68: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:46:45.53 ID:7EsB3AWF0
何が本気なのか。

何を以って本気と言うのか。

何かを得て、そこで本気だと思えるのか。


今までは、
『男には理由もなく殴らなきゃいけない時がある』
という父親の言葉を追っていた。

意味も解らず、しかしその時が来れば解るのだろう、と勝手に思っていた。


どうなのだろう。
本気とは、どういうことだろう。


今まで考えてもみなかった。
気付いてから数月、相変わらず答えは出ない。
そもそも答えなどあるのかすら、解らない。



71: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:49:46.01 ID:7EsB3AWF0
竜と対峙した時を思い出す。

あの時、都市とハインを守りたい一心で吼えた。
あれだけは嘘偽りのない本心だったと、今でも確信している。

しかしその後、呆気なく気絶してしまった。

友人達は、本気の要求する力に身体が追いついていなかった、と言っていた。
それはつまり、自分の鍛え方が足りなかったということだろう。
だからギコは修練時間を増やすことを意識し、

(,,゚Д゚)(まだ何も解らないけど、やれることはやっておこう。
    そう、思ったんだよな)

身体を鍛えたら本気が出せるのだろうか。
それすら解らないが、可能性を一つ一つ確かめていくことに異論はない。

走る。

胸の内の引っ掛かりを意識し、それがあることに小さな安堵と不安を覚えながら。

今はただ、走る。



73: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:51:48.49 ID:7EsB3AWF0
二年生校舎前には、既に多くの生徒の姿があった。
まだ授業開始まで少し余裕があるためか、ほとんどが立ち止まっての雑談中だ。
何人かが地面に伏しているのは何か馬鹿をやった結果なのだろう。

(,,゚Д゚)「さて、と……」

服装を整えたギコは、校舎前にある掲示板へ向かう。
予定を組み立てるための情報チェックだ。

広報部の発行している『エブリディ情報野郎』に目を通す。

(,,゚Д゚)「えーっと、何々……?
    学園ニュース:
    『都市復興、予定していたほぼ全ての作業を完了。
     主な監督者であるトソン=シティビレッジ(4年生)の総評(主に愚痴だったので7割カット版)』
    『探し人:アラマキ学園長(累計89度目 記録更新中) 見かけた方は教職員まで』

    都市内ニュース:
    『教導境界線 VS JaneStyle……街の若者に聞いてみた!』
    『OMU飯屋に新メニュー! オムライス(難)の正体とは!?』

    都市外ニュース:
    『チャンネル・チャンネルで虫アクセが流行。 「マジキチ」「ありえん」などの声が多数』
    『東方にある小さな街都にて富豪の変死体。 犯人は噂の殺人双子?』
    『南方の夜流雄(ヤルオ)国にて大型航空艦建造中? 「無邪気な姉妹」に対抗か』……かぁ」



79: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:56:06.69 ID:7EsB3AWF0
基本的には重要なニュースほど上に来る仕組みだ。
中心は学園内の情報で、次に都市全体の、更には都市外の情報と続く。

つまり今朝のニュースで最も重要性が高いのは、都市復興が終わった、という情報だ。
皆が頑張ってくれたおかげで、どうやら安心して二学期を迎えられそうである。

(,,゚Д゚)(ざっと見る限り、俺に関係あることはないなぁ。
    学園長が見つからなかったら生徒会が駆り出されるかも、ってくらいか)

色々とどうしようもない老人だが、最終的にはしっかりやる人だ。
きっと、午前の授業が終わるまでには捕まっていることだろう。

(,,゚Д゚)(となると、修練はいつやるかねー……生徒会の仕事もあるしなぁ)

などと考えていると、


从 ゚∀从「――よっ。 おはよーさん」


笑みを浮かべたハインリッヒが隣に立っていた。
半袖の夏服が似合う清清しい笑顔に、ギコの思考が一瞬だけ止まる。



82: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:57:32.72 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「お、おう。 おはよう」

从;-∀从「いやーまだ暑いよな。 登校してきただけなのに汗かいちまった」

(;゚Д゚)「こら、そーやってスカートをパタパタするのは止めなさい。
    はしたないでしょ」

从 ゚∀从「大丈夫大丈夫、見えやしねぇよ」

言いきった直後、小さく弾けるような音が一つ。
何だ何だと周りを見てみると、

「ゲット……ッ!」

と、うつ伏せで倒れていた生徒の一人が親指を立てていた。
手には、画像撮影機能付きの携帯端末が握られている。

从#゚∀从「…………」

「うぐあああああああっ!! だが本望――っ!!」

一瞬で事態を把握したハインが無言で蹴りを入れ始めたのを見て、
いつものことだと苦笑しつつ、

(,,゚Д゚)(アイツもちょっと変わったよなぁ)



85: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 21:59:12.12 ID:7EsB3AWF0
自分の正体を晒して吹っ切ったせいか、
対竜戦の後から、ハインはギコ達と行動を共にすることが多くなった。

元から明るい性格なため、少なくともギコの友人らとは完全に打ち解けているようだ。
竜との戦いで見せた根性で評価が上がっていたが要因として挙げられるだろう。
それに、彼女の正体をクーが丁寧に説明したことも響いているようだ。

スパイとしての日が浅く、未熟だった、などと身も蓋もない内容だったが。

しかし、良いことだな、と思う。
彼女から歩み寄ってくれたのは、こちらをある程度は信じてくれている証拠だ。

本国からスパイとして派遣されてきたハインは、
しかし学園都市で生きることを決め、ここで本格的に暮らし始めた。
それ自体は良いことなのだが、いくつかの疑問が同時に出る。

ハインが簡単にこちらへ鞍替えしたこと。
竜以降、刺客と呼べるような敵が現れなかったこと。
そして、

(,,゚Д゚)(……ハイン自身が、本当にそれで良いのか、ということ)



86: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:00:36.30 ID:7EsB3AWF0
元々はチャンネル・チャンネルで暮らしていたのだ。
向こうの暮らしや交友関係があっただろうし、それをあっさり捨てたのが納得いかない。
一度だけ本人に聞いてみたことがあったが、彼女は小さく苦笑して首を振るだけだった。

それもあってか、一部の生徒達はハインを信用出来ずにいるようだ。
簡単に裏切った人間が、またこの都市を裏切らないとは限らない、と。
目立った動きはないのが幸いだが、かと言って油断も出来ない。

守ってやれるのは自分だ。
あまり認めたくないが、生徒会の中でも暇な部類に入る自分なら出来ることだ。

ハインの本心や気持ちは解らない。
けれど彼女は、竜と戦う前に交わした約束を守ってくれた。
だから、今度は自分が彼女に対して何かを果たさなければいけない。

(,,゚Д゚)「――っと、もうこんな時間か。
    ほらハイン、そこくらいにしといて授業行くぞ」

从#゚∀从「ハァ、ハァ……おう」

なんだか地面に倒れている生徒の数が増えている気がするのは、
きっと朝の修練でアドレナリンが出た影響なのだろう、と思い込むことにする。

荷物をまとめ、他生徒達の作る流れに乗るように、二人は校舎へと足を進めていった。



91: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:04:01.51 ID:7EsB3AWF0
学期が変わったからといって、授業環境に変化は少ない。
強いて言えば体感温度が変わったくらいだ。

教室へ入ったギコとハインは、友人らが集まっている一角へ行く。

<_プー゚)フ「おーっす、おはよーさん」

目敏く気付いたエクストが片手を上げて挨拶。
習うように、その場にいた他の友人達もこちらを見る。
そのほとんどが都市修復作業のため、夏季休暇中も顔を合わせていた面々だった。

(,,゚Д゚)「おぉ、なんか懐かしい顔もいるなー」

ハハ ロ -ロ)ハ「ふふふ私ね? 私のことね?
        えぇ、帰省したものね! 皆を裏切って帰省したものね!
        さぁ煮るなり焼くなりしなさい――!」

(;゚Д゚)「やだよ、後が怖いから」

( ・∀・)「皆、おはよう。 ちょっといいかな?」

( ゚д゚ )「どうした?」

( ・∀・)「あー、うん。 解ってる人もいるとは思うんだけど――」

その時、教室の扉が音立てて開かれた。
廊下から慌てて入ってくる生徒がいるのは、教師が近付いてきている証拠だろう。

( ・∀・)「ごめん、昼食時にしようか」



94: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:06:27.34 ID:7EsB3AWF0
(,,゚Д゚)「? あぁ」

( ^ω^)「先生が来るおー。 席に着くおー」

ブーンが呑気に言うと、それに呼応するように教室の扉が再び開かれた。
皆が私語を中断し、それぞれの席へ腰掛け、入ってきた教師を迎える。
もちろんギコとハインも同じように座り、そして前を見て、


( ^ハ^)「――はい、まずは初めましテ。
     今日から二年生のいくつかの授業を受け持つことになったシナーというアルよ。
     短い間かもしれないが、よろしく頼むアル」


(;゚Д゚)「「え”」」从∀゚;从


どこか見覚えのある男が立っていた。
目はにこやかで、裾の長い特徴的な服を着ている男だ。
老いを感じさせない妙な清々しさを身体全体で演出しており、しかし、


……シナー!?



98: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:08:34.41 ID:7EsB3AWF0
あまりの清涼感に一瞬判断を迷ったが、どう見てもシナーだ。
もちろん、初めて出会った時にあった威圧感はまったくない。
黒いローブも、中に着ていた軍服も今はない。

だが、今はにこやかに曲げられているが、
あの目の奥にある冷たさは、忘れようと思っても忘れられるものではなかった。

信じられないが、やはりあの清々しい中年教師はシナーであることに間違いない。

周囲、なんとも味わい深いオーラを纏う教師に、
女衆が興味深げな声を上げ、男衆が戦慄している。

しかしその中で、動けないのはギコとハインだ。
二人は目を見開き、口を小さく開けたまま、身動きすらしない。
そのことに気付いているのは、教壇に立つシナーだけだ。

( ^ハ^)「さぁ、新任教師であるワタシに質問したい気持ちも解るが、
     まずは今日の授業を消化しようではないカ。
     そうじゃないと、ワタシが渋澤先生に怒られてしまうからネ、ハハハ」

少し騒がしくなった教室で、ゆっくりと授業が始まっていく。


(;゚Д゚) ポカーン

从 ゚Д从 ポカーン


二人は、まるで時間が止まっているかのように身を固め、しばらく動くことをしなかった。



102: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:10:26.95 ID:7EsB3AWF0
その後のことなど覚えていない。
ただ、午前授業終了のチャイムが鳴った直後、ギコとハインは一目散に教室を飛び出した。
顔には焦りとも、恐怖とも呼べる表情が張り付いている。

(;゚Д゚);゚∀从「「――!!」」

まだほとんど人影のない廊下を、二人は競うように疾走。
そして一階への階段を駆け下りながら、

从;゚∀从「ギ、ギ、ギコ!? お、俺の見間違えじゃなかったら――」

(;゚Д゚)「解ってる! 解ってるから何も言うな……!」

やばい、やば過ぎる。
まさかシナーがあんな大胆な潜入行動に出るとは。
教師として現れるなど、予想の範疇外であり、むしろ反則だろうアレは。

(;゚Д゚)(ここ最近、姿を見ていないと思っていたら――!)

油断していた、と痛感しながら角を曲がれば、

(;>Д<)「っ!?」

思わぬ衝撃が来た。
瞬間的に、身体の前面に柔らかさと程よい熱を得る。

誰かと正面からぶつかってしまったのだ。



106: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:12:11.82 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「っててて……」

从;゚∀从「お、おい大丈夫か? そっちの先生も……」

ツンとした痛みを鼻に感じながら、前を見れば、

|(●),  、(●)、|「えぇ、私は大丈夫ですよ。 君はどうかな?」

と、知っている男が手を差し伸べてきていた。
特徴的である大きな顔に微笑を乗せた男の名を、ギコが言う。

(;゚Д゚)「す、すみませんダディ先生……急いでたもので」

|(●),  、(●)、|「何を急いでいるのかは知りませんが、少々慌て過ぎですねぇ。
          今度からはもうちょっと速度を落とした方が良いでしょう」

落とせば走って良いのだろうか。
思うが、口にはしない。

以前からこの教師は、こういうスタンスなのだ。



111: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:13:41.84 ID:7EsB3AWF0
『ダディ先生』と呼ばれ、その人柄から親しまれているこの男は、
主に地理や科学関係の授業を受け持つ理系教師である。

証拠に、左腕で抱えているのは、先ほどまで使っていたであろう大型の地図だ。

おそらくこの先にある準備室へ片付けに来ていたのだろう。
非戦闘系の教師である彼が、それ以外の用事でこの校舎へ来ることは滅多にない。

そういう理由もあって、
ギコはダディ先生とあまり顔を合わせたことがなかった。
関係があるとすれば都市復興作業の時、資材のことなどで世話になったくらいか。

そんなことを思っていると、ダディは笑みを浮かべてこちらの肩を軽くはたき、

|(●),  、(●)、|「怪我はないようですね。 良かった。
         では、慌てずに行きなさい」

(,,゚Д゚)「あ、はい……すみませんでした」

なんと心の広い教師なのだろう。
もし渋澤であったら、五発は堅い。

科学技術学部の連中を少し羨ましく感じつつ、ギコとハインは頭を下げて駆け出した。



115: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:16:35.32 ID:7EsB3AWF0
|(●),  、(●)、|「やれやれ、元気が良いですねぇ……」

それを苦笑しながら見送るダディ。
落としかけた地図を抱え込み、準備室へ行こうとする。

すると、ギコとぶつかった角から、今度は別の人物が姿を見せた。

( `ハ´)「……!」

|(●),  、(●)、|「おや」

少しでも急いでいれば再びぶつかっていただろう。
珍しいこともあるものだ、と感心しながら、ダディは身を動かして道を譲る。

( `ハ´)「…………」

律儀に頭を下げたシナーは、ギコ達を追うように校舎の出口へ行こうとして、

( `ハ´)「!」

しかし、いきなり足を止めた。
その動きで振り返り、視線を向ける先にはダディがいる。
当然、その顔には疑問が浮いている。



121: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:19:17.15 ID:7EsB3AWF0
|(●),  、(●)、|「? 何か?」

首をかしげるダディに、シナーは黙ったままだ。
数秒の沈黙。
不意に、シナーが言葉を作った。

( `ハ´)「貴様……」

|(●),  、(●)、|「え?」

( `ハ´)「――貴様、何者ダ?」

先ほどまでの彼のものではない、鋭く刺さるような言葉。
それが、疑惑の視線と共にダディを貫くように向けられる。

沈黙。

授業が終わり、廊下に生徒達の声が響き始める。
それに押されるように、ダディは苦笑した。

|(●),  、(●)、|「何者、と問われても……ただの教師としか答えられません」

( `ハ´)「……そうカ」

言い、シナーが身を翻す。
彼が去っていくのを、地図を抱えたダディは見つめるのみ。

それだけだった。



125: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:21:00.67 ID:7EsB3AWF0
校舎を出て、進行方向を北へ向けて走る。
しばらく行けば一つの建物が見えてきた。

修繕改築された生徒会詰所だ。
再編の関係もあって、以前に比べて大幅にグレードアップしており、
入口には、『生徒会詰所・改』と大胆な筆字で描かれた看板が立てかけてあった。

その傍には見知った顔がいる。
会計のミセリだ。

ミセ*゚ー゚)リ「あれ? ギコ君にハインリッヒさん? どうしたの、そんなに急いで……」

(;゚Д゚)「ミ、ミセリ先輩……! 会長はいますか!?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? うん、さっき来たばかりだよ?
      ほら、新しく追加された三階の私達の会室に――」

(;゚Д゚)「――あざっす!!」

言い、二人は生徒会詰所へ駆け込んでいく。
そんな慌しい光景を見送ったミセリは、小さく首をかしげて、

ミセ*゚ー゚)リ「……どうしたんだろ? まぁ、いつも通りの騒々しさだけど」



127: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:22:19.36 ID:7EsB3AWF0
改築後の生徒会詰所は、階層ごとに役割が決まっていた。


まず一階部が司るは、『応対』と『内務』だ。
生徒会役員一、二年生の仕事場でもあり、大概の来客や雑務はここで処理される。

もちろん重要案件などは上へ通されることになるが、
生徒会としての内務は、基本的に一階事務が受け持つことになっていた。


二階部は、七つの会議室と一つの大会議室を持っている。
つまり戦闘処理機動隊(処機)に選ばれたメンバーの活動の場だ。
処機として動く事態が起きた場合などは、ここに集まって何かを決めることになっている。

動くのは有事限定なので、普段はあまり人のいないフロアでもあった。


そしてギコ達が目指す三階部は、

(;゚Д゚)「――会長!!」

(゚、゚トソン「静かにしなさい、ギコ。
     ここは生徒会の中枢、特別生徒会室ですよ?」

扉を開けば、まず飛んできたのはトソンの諌めの声だった。
事務仕事をしていたのか、なんと眼鏡を掛けたレアモードである。

写真に収めることが出来れば小遣い稼ぎにもなるが、しかしそれどころではない。



130: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:23:55.16 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「た、大変なんです会長!
    あのシナーがすごい笑顔で教室に現れて授業したんですよ!」

川 ゚ -゚)「なんとも平和な光景だな」

从;゚∀从「あー、確かにあの時に比べれば……って、違くね!? なんか違くね!?」

などとやっていると、

( `ハ´)「――ワタシがどうかしたアルか?」

と、いきなり真後ろに気配が現れた。
反射的に振り向けば、予想通り、シナーがこちらのすぐ背後に立っている。
身長差のせいで見下ろされる形になり、それが更に焦燥感を煽ることとなった。

(;゚Д゚)「で、出たぁ――!?」

从;゚∀从「おわぁっ!?」

二人が驚愕に声をあげ、しかし、

川 ゚ -゚)「ご苦労だったな、シナー殿。 どうだった?」

と、何故か慌てる様子もないクーが問うた。
完全に置いていかれる形となったギコとハインを間に、会話が続いていく。



132: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:25:57.05 ID:7EsB3AWF0
( `ハ´)「なかなか新鮮なものであったアルよ。
     生徒達もしっかり話を聞くし、多大な好奇心を持っていることがよく解ったアル。
     まぁ、若干二名ほどの生徒はまったく授業を聞いていなかったようだが?」

そう言ってシナーはギコとハインを見る。
すると二人は、スイッチが入ったかのように目を何度か開け閉めして、ようやく現状を理解した。

(;゚Д゚)「えっと……まさか、とは思うんですけど……」

川 ゚ -゚)「うむ。 シナー殿にはこの学園の臨時教師となってもらった。
     流石に何もさせずにいてもらうのは申し訳ないし、もったいないからな。
     学園側としては、このような優秀な人物に教師をやってもらうのは貴重で幸いなことだ」

从;゚∀从「……!?」



134: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:27:22.02 ID:7EsB3AWF0
良いのか、と思うが、クーは笑みを浮かべ、

川 ゚ -゚)「安心しろ。 既にシナー殿達とは交渉済みで、今はもう敵対関係にはない。
     彼らの目的は学園地下の秘密を守ることで、しかし私達は既に知っているのだから。
     そして私は、あの地下の真実を外へ漏らすことはしたくないと思っている」

それはつまり、

川 ゚ -゚)「目的が似ている以上、敵対する理由もないだろう……そういうことだ。
     もちろん完全に信用しているわけではないがな」

( `ハ´)「本人を前によく言う」

川 ゚ -゚)「本人の前だから言ったんだ」

言葉の応酬はあれど、そこに殺気や闘争の意思は感じられない。
クーはともかく、シナーも学園側と敵対するつもりは本当にないらしい。
状況的に見ても、確かに利害は一致しているように見える。

しかし、一つ疑問があった。

(;゚Д゚)「……でもどうしてシナー……さん? は、この都市に残ってるんスか?
    しかも教師って仕事まで……」

( `ハ´)「あの地下のことを外へ漏らされては適わんからナ」



136: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:29:09.91 ID:7EsB3AWF0
( `ハ´)「今までであれば、真実を知るワタシ達が学園都市を見張っていれば良かったアル。
     誰にも地下階層の存在すら知られていない現状、
     もし仮に何かの事情が重なって近付かれたとて、はぐらかすのは簡単ネ。
     それよりも大きな騒ぎを起こしてやればいいアル」

言われ、ギコは春期に起きた事件を思い出す。
端末のネットワークを司る施設に細工を施し、生徒会を騙って都市中を混乱させたあの時だ。
シナーの言う通り、その混乱ばかりを見ていて、彼らの動きにほとんど気付けなかった。

( `ハ´)「……しかし、秘密の共有者が増えたアル。
     この都市の機能の大部分を占める学園、その中枢である生徒会に、ナ。
     当然、情報が漏れる確率は上がるだろウ? それにワタシが一番懸念しているのは――」

言葉を繋げるようにクーが言う。

川 ゚ -゚)「――既に情報が漏れているかもしれない、か」

(;゚Д゚)「! もしかして、あの竜が来たのが……?」

クーは、うむ、と頷き、

川 ゚ -゚)「アレは一応、厳重に捕縛して科学技術学部の教師や職員に任せている。
     まだ詳しい結果は出ていないが……それ以前に、いきなり竜が現れ、ハインリッヒを狙い、
     そしてそれを、本国側が『自然災害』だと言い切ったことが気になる」

そのあたりの話は既に知っている。
本国が怪しいからこそ、クーはこの都市の強化を謳ったのだ。
その影響で、生徒会などに大幅な再編が行われているのは前述の通りである。



140: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:32:12.92 ID:7EsB3AWF0
川 ゚ -゚)「あれから数月経つ。
     未だ竜の襲撃以外は目立った事件は起きていない。
     だが、もしあの竜が本国からの刺客で、学園地下の秘密を知ろうとしているのなら、
     またいずれ何かの襲撃があってもおかしくはないだろう」

( `ハ´)「可能性として、最もあり得るのは軍部の連中だろうナ。
     いきなり竜をぶつけたところから見て、あまり手段を選んでいるとは言い難い。
     そうなると……」

(;゚Д゚)「……また、あの時みたいなことが起きる」

川 ゚ -゚)「そして厄介なのは、あの竜のように無差別に都市を攻撃してくることだ。
     事情を知っている私達が狙われるならともかく、何も知らない生徒達が巻き込まれる。
     あまり考えたくはないが、その可能性は高いと判断した」

从 ゚∀从「成程、だから教師役か」

頷いたのは、黙って聞いていたハインだ。

从 ゚∀从「少しでも生徒達の生存率を上げるため、ってやつかい?
      随分と御優しいことをしてくれるじゃねぇか」

( `ハ´)「…………」

挑発するような言葉に、しかしシナーは、

( `ハ´)「……色々と勉強になったからナ。 そのついでダ」

と、小さく呟くことで会話の終了を示した。



142: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:33:51.40 ID:7EsB3AWF0
<_プー゚)フ「んでさー」

という声が出たのは、騒がしく広い場所だった。

学園敷地内にある食堂施設の一角だ。
周囲は、午前の授業が終わったということで、腹を空かせた生徒達が雑談しながら食事を摂っている。
その騒がしさに負けないよう声を上げたのはエクストだ。

彼の眼前には見知った顔がいくつもあった。
ギコやハインを含む、いつものメンバーが円形のテーブルの席についている。

既にほとんどの皿は空になっているが、食の細いツンとスズキはまだ食器を握っており、
単純に食事量の多いヒートとクックルがガツガツと料理を口へ放り込んでいる状況である。
他の皆は食後のドリンクを飲んでいたり、デザートを食べたりしながら、エクストの声を聞く。

<_プー゚)フ「夏期っつーことで、お前らそろそろランクアップ試験とかどうなんよ?」

( ・∀・)「そうそう。 さっき僕もそれが言いたかった」

<_プー゚)フ「おいおいパクんなよ! 俺のファンか!? そうなんだな!?」

( ・∀・)「控え目に言ってぶっ飛ばすよ?」

というやりとりを傍目に、皆が顔を合わせる。

( ゚д゚ )「確かに、もうそんな時期だな」

( ^ω^)「おっおっ、都市の復興とかで忙しかったからすっかり忘れてたお」



143: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:35:43.64 ID:7EsB3AWF0
( ゚∋゚)「申請自体は二学期の初めから受け付けているらしい。
     あとは武績が決められた一定の数値以上を示していれば、いつでも試験を受けられる、だったか。
     もちろん受けられる時期は決まっているが」

( ・∀・)「しかも時間が掛かるから一日潰れるけどね。
     受けたい授業がない日を選ぶのがベスト、かな……もったいないけど」

<_プー゚)フ「俺としちゃあ、面倒な授業を受けなくて良いから問答無用で嬉しかったけどなぁ」

エクストのぼやきに、再び皆が顔を合わせる。

そういえば彼は既に2ndクラスだった。
一年生の冬期に試験を受け、それに通っているのだ。
現状、このメンバーで彼以外に2ndクラスは存在しない。

「……余裕こきやがって、って思ってみんとす。 思うだけ。 俺優しいから」
「……ってかアイツ最近調子乗ってね? 二年に上がってから負け続きなのに」
「……ストレートに言うけど馬鹿のくせに生意気ね」
「……ふぉあっふぁっふぉふぉッ」

<_プー゚)フ「お前ら言いたい放題だなぁ。
         あとヒート、テメェは呑み込んで喋ろ」

と言うエクストの表情には、確かに余裕があった。
3rdクラスの試験のためにまだ武績を溜める必要がある彼は、
これから試験を受ける連中に比べ、プレッシャーも何もないからだ。



148: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:37:58.72 ID:7EsB3AWF0
<_プー゚)フ「ま、せいぜい頑張るこったな。
         試験は、俺にとっちゃ余裕だったが、お前らにはちと厳しいレベルだろうし、
         何より早くしねぇとどんどん離されちまうぜ? 俺に」

直後、食堂の一角で、殺気とも闘気とも言える気配が生まれ、
周りでノホホンと食事を摂っていた生徒達の動きが、緊張によって止まった。
しかしそれも一瞬で、すぐに元の雰囲気へと戻っていく。

それを、男って単純ね、と半目で見ていたツンが、皆を見て言う。

ξ゚听)ξ「……ところで、別にランクアップ試験を受けるのはいいんだけど、
      皆、ちゃんと武績は溜めておいてるんでしょうね?」

( ・∀・)「一年生の間、ちゃんとやっていれば誰でも溜まるでしょ。
     問題は――」

と、モララーがギコとハインを見た。

从 ゚∀从「?」

( ・∀・)「そこの二人はどうなんだろうね?
     ギコは生徒会の仕事優先だから武績取得率が低いし、
     ハインは編入生だから、一年生の間に頑張るってことが出来なかったし……」

( ゚д゚ )「もし今回の試験にも間に合わなければ、次は冬期になるぞ。
     ランクアップ試験が受けられるのは夏期と冬期の一定期間だけだからな」

(;゚Д゚)「ううむ、それは困る……」



150: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:40:22.37 ID:7EsB3AWF0
もしそうなれば、かなりの遅れをとってしまうことになる。
ランクが上がれば上がるほど、次のランクアップへ必要な武績量が増えるため、
出来るだけ早く2ndクラスへ上がっていた方が後々困らずに済むのだ。

理想は一年次の冬期。
通常は二年次の夏期。

2ndクラスへ挑戦する時期の目安だ。
そういう意味では、今のところエクストが頭一つ抜き出ている状況ではあるが、
皆が3rdクラスへ上がる頃にはランク的な差は無くなっていることだろう。

2ndへ上がるのが遅くなっていても、
前述の通り、3rd、4thへの必要な武績が多いため、
最終的には、先を行った者へ追いつくことが可能であるからだ。

しかし、それは外面的な意味での話である。

当然ながら、そこに至るまでの経験が存在するのを忘れてはいけない。
同じクラスだとしても、実力に大きな差がある生徒がいるのはこのためだ。

クラスはあくまで『実力の目安』を知るための要素に過ぎない。
だが、それすらも疎かにしていては、強くなることなど決して出来ない。
『実力の目安』ということは、自分の実力を最も手早く提示することが出来る、ということだからだ。

そのことを思いながら、ギコは懐へ手を入れた。



152: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:42:49.82 ID:7EsB3AWF0
(,,゚Д゚)「んー……」

取り出した生徒カードの表面に指を当てると、
生体情報を感知したカードが、その生徒のステータスを数値化して表示する。
久々に見る自分の情報を眺めながら、

(,,゚Д゚)「なぁ、2ndクラスに必要な武績ってどのくらいだっけ?」

爪;゚〜゚)「……ギコ君、それでも生徒会役員でありますか?」

(;゚Д゚)「忘れたものは仕方ないだろー」

|゚ノ ^∀^)「ふふ、それだけ仕事熱心ということですわね。 これをどうぞ」

隣に座っていたレモナが、携帯端末からウインドウを展開して見せてくる。
ランクアップに必要な武績の数値が、リストになって表示されていた。
ギコの目が、その数値と、カードのステータスを何度か行き来して、

(,,゚Д゚)「えーっと……おっ、問題ないな。 春期の時点でもう超えてたみたいだ」

ノパ〜゚)「ふぉふぇふぁひゅんひふぉふぃふぉふぉふぁふぁふぁふぃッ――」

( ゚д゚ )「凄いな。 まったく何を言っているのか解らんぞ」

ミルナに指摘され、ヒートは眉を立てた表情で口を高速に動かし始めた。
詰め込んだ料理を味わいつつ、美味しそうに、それでいて一気に飲み込み、

ノパ听)「それは、春期のギコの働きが評価されて武績が与えられたからなッ」



156: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:44:23.40 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「え? ……聞いとらんぞ?」

ノパ听)「それはそうだッ!
     姉さんやトソン先輩から、秘密にするよう言われてるからなッ!」

自信満々な言葉は、しかし皆に疑問を与えることになる。
しばらく考え、やがて代表するようにモララーが、

( ・∀・)「……それ、ギコの前で言っていいの?」

ノパ听)「ふぉふぁっ?」

ξ;゚听)ξ「もう口に詰め込んでる! 早っ!」

( ゚∋゚)「ふぃあ、ふぁふぇふぁふぁふぉふぉふぉ――」

<_;プー゚)フ「オメェもかよっ!!」

怒られた二人は、少ししょんぼりしてから口の中のものを呑み込んだ。
そして、

ノパ听)「…………」

一瞬固まり、

ノハ;゚听)「――言っちゃったッ!!!」



160: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:45:46.95 ID:7EsB3AWF0
(;゚Д゚)「はい?」

ノハ;゚听)「ギコに秘密だったのに言っちゃったッ! もう終わりだ……ッ!!」

うあー、と両手で頭を抱えて苦悩する馬鹿娘。
それを皆が半目で見て、それぞれの個性が出た溜息を吐く。
今後、この娘に迂闊なことは言いまい、と心に決めつつ。

(,,゚Д゚)(……ま、何も知らないで喜ぶよりマシだけどな)

ヒートの軽い口、というより勢いのおかげで、
何も気にすることなくランクアップ試験を受けることが出来そうだ。
試験が終わったら、生徒会メンバーに一方的な礼を言いに行こう、と思う。

今度は、ハインへ視線が集まった。
編入生である彼女の武績は、

ハハ ロ -ロ)ハ「……で、ハインはどうなの? 今カード持ってるわよね?」



163: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:47:27.80 ID:7EsB3AWF0
从 ゚∀从「え? あぁ、これだろ」

(,,゚Д゚)「そうそう」


「で、これをどーすりゃいいのか? 適当に触ればいいのか?」

「乱暴にするなよー。 ほら、そこを触るんだ。 出るから」

「ん、ここか? こうでいいのか? それとも、こう?」

「いや、もうちょっとこっちで……あ、そうそう。 そんな感じ」

「へぇ〜、こんなので良いんだ。 けっこー簡単なんだな」

「触る分には、な。 それに簡単じゃないと困るだろ?
 でも中身は色々と複雑で――っと、出た出た。 どうだ?」

「おぉっ、前に見たのと同じだ。 白をベースにしてるから見た目も良いよなぁ」


「「「…………」」」


モララー達どころか、周りで食事中の生徒達の動きすら止まる中、
ギコはハインは椅子を並べ、生徒カードの操作方法と詳細を教えている。



168: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:50:16.93 ID:7EsB3AWF0
(,,゚Д゚)「……とまぁ、大体はそんな感じだな。
    あとはそこの先部分を――って、お前らどうした?」

ようやく静けさに気付いたギコが、怪訝そうな表情で首をかしげる。

( ・∀・)「いや、随分と君ら仲良くなったよねー、って」

(,,゚Д゚)「そうか?」

从 ゚∀从「元からこんな感じだよな?」

すると、皆が一歩引き、

<_;プー゚)フ「おいおいおい普段からアレかよっ! 放置してていいのか風紀的に!?」

( ゚д゚ )「何故ギコなのだ何故ギコなのだ何故ギコなのだ何故ギコなのだ何故ギコなのだ――」

( ゚∋゚)「ふぃふぉふぉふぁふぁふぁふぁふぁふふぉーふぁふぁー」

ハハ ロ -ロ)ハ「まったくウチの男衆はすぐに正気を失って――ギコ死ね! 死ぬがいい!!」

|゚ノ ^∀^)「あらあら、皆さんいつにも増して過激ですわね。
     ふふ、周りの視線が心地良いですわ。 チクチクしてますの」

ξ;--)ξ(一刻も早くこの魔境から逃げ出したい……)



174: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:53:37.07 ID:7EsB3AWF0
ともあれハインの方も規定以上の武績が溜まっていたようだ。
ただ、編入生というポジションからスタートだというのに、
もうランクアップ試験を受けられるほどの武績をいつ稼げたのか、ということに疑問が残る。
しかしそれは、カードと端末を繋ぎ、カード内の詳しい情報を見ていたハインが解消した。

从 ゚∀从「……あ、なんか一度、武績がたくさん入ってる日があるっぽい」

爪*゚〜゚)「いつになってるでありますか?」

从 ゚∀从「えーっと……レクリエーションの次の日だな」

モララーが納得したかのように頷いた。

( ・∀・)「成程ね。 ハインに対する渋澤先生の評価が高かったんだ。
     まぁ、あれだけのものを見せられたら認めるしかないだろうしね」

(;゚Д゚)「俺も頑張ったのになぁ」

<_プー゚)フ「あ? ギコ坊はオメェ、鉄拳で潰されたり殴られたりしたんだろ?
        駄目だなお前! かませ犬かっ!」

(;゚Д゚)「真っ先に撃沈したお前に言われたくねぇ――!!」

彼らの中では、いつも通りの騒ぎ。
友人同士でふざけ合うのは楽しいことだし、考えの確認という意味もある。
このようなことを繰り返していく内に、相手のことが段々と解っていくものなのだ。



178: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:55:25.50 ID:7EsB3AWF0
だが、そのいつも通りの騒ぎに対し、違和感を得ている者がいた。

ξ゚听)ξ「……?」

何かがおかしい。
いつも通りなのに、いつもな感じがしない。
まるで、大切なものがすっぽりと抜け落ちているような――

ξ゚听)ξ「!」

少し考えれば、すぐに答えに行き着いた。
隣にいるブーンの声が、先ほどからまったく聞こえていないのだ。

ξ;゚听)ξ「ブーン? どうしたの?」

と、心配になって視線を向けると、


( ゚ω゚)


目を見開いたブーンが、椅子に座って俯いていた。
顔色は悪く、額と頬に汗が流れ、その肩は小刻みに震えている。



182: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:57:47.90 ID:7EsB3AWF0
ξ;゚听)ξ「!? ちょ、ちょっとブーン!?」

叫ぶような声に、他の皆もブーンを見る。
いくつもの視線が集まっているというのに、ブーンは震えたまま動かない。
視線はただ一点、自分の足下を見ているだけだ。

(;・∀・)「ブーン? どうしたのさそんなに震えて……」

爪;゚〜゚)「じ、尋常じゃない震えでありますよ?」

心配するように声にも反応がない。
怪訝そうに顔を見合わせた皆は、そこでようやく重大な事態が起きていると判断した。

<_;プー゚)フ「お、おい内藤! どうしたんだよ!? 腹でも痛ぇのか!?」

ハハ ロ -ロ)ハ「凄い汗ね。 顔も青い。 これが本当の顔面Blu-rayってやつかしら。
       ともあれ医療に詳しい人、いない?」

(;゚Д゚)「外傷とかは対処出来るが……」

ノハ;゚听)「わ、私、先生呼んでくるッ!!」

流石に危険と感じたか、食事の止めたヒートが勢いよく立ち上がった。
彼女の足と体力ならば最速で助けを呼べるだろう、と皆も頷く。



184: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 22:59:24.78 ID:7EsB3AWF0
だが、それを止める動きがあった。

(((( ゚ω゚)))) プルプル

ブーンだ。
走り出そうとしたヒートへ、待った、と手を広げて制止する。
その動きに、ツンが心底心配そうに彼の顔を覗き込んだ。

ξ;゚听)ξ「ブーンどうしたのよ!? どこか悪いの!?」

( ゚ω゚)「…………」

小さく口が動いた。
何か言葉が出ようとしている。

( ゚ω゚)「……た……た……」

ξ;゚听)ξ「た!?」

( ゚ω゚)「……足りない、お」

何が、と皆が首を捻った時だ。
ブーンが、下げていた手に持っていたモノを掲げる。
それは彼の情報が記された生徒カードだった。



188: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:00:39.08 ID:7EsB3AWF0
(;・∀・)「……まさか」

( ゚ω゚)「武績が……次の試験を受けるのに必要な武績が……足りてないお……」

沈黙。
ギコ達どころか、野次馬と化していた周囲の生徒達の動きも止まる。
ブーンの発する『プルプル』という擬音以外、音も動きも生まれない。

それが五秒経ち、二十四秒経ち、一分と七秒が経過した頃。


ξ゚听)ξ

( ゚ω゚)


ξ--)ξ =3

(((( ゚ω゚)))) プルプル


ξ^竸)ξ ニコッ

(;^ω^) ニコッ


計り知れない衝撃と怒声が、広大な食堂の隅にまで響き渡った。



194: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:03:14.52 ID:7EsB3AWF0
それからしばらく後。
既に陽が頂点を過ぎ、沈み始めようとしている時間。
教職員の仕事場である職員棟の入口に、ギコ達が集まっていた。

(,,゚Д゚)「……で、今からランクアップ試験の受付をするわけだけど」

皆を見て、

(;゚Д゚)「結局、ブーンはどうなったんだ?」

( ・∀・)「あの後、ツンがブーンを首締めながら連れて行くっていう器用なことしたでしょ?
     そこで解ったんだけど、ブーンが足りない武績ってあとちょっとなんだよね。
     で、すぐここで課外活動の受付をして、今は都市内を走り回ってるんじゃないかなぁ。
     だから今日中に受付は出来ると思うよ。 ツンもついてるし」

と、モララーが職員棟の入口を見た。
術式強化を受けたガラスの向こうには一つの窓口があり、
その上に『ミッション受付』と書かれた看板がある。

ノパ听)「ここって課外活動の受付だよなっ? ここでいいのかっ?」

(,,゚Д゚)「おいおい大丈夫か生徒会役員さん。
    ランクアップ試験だって都市外に出るんだぞ?
    だから一括で処理できるように統括されてたんだって」

|゚ノ ^∀^)「あら、ランクアップに必要な武績を憶えていなかったギコにしては、
     随分と詳しく覚えていらっしゃるようで」

(;゚Д゚)「ぐっ……い、いいから入るぞ!」



197: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:04:47.52 ID:7EsB3AWF0
と、ブーンとツンを除いたメンバーで入口へ向かうギコ達。
先行していたギコが扉に手を掛けようとした時、その手が空を掻いた。
棟の中から出てきた生徒が、先にガラス扉を引いて開いたのだ。


(´<_` )「…………」


(;゚Д゚)「え?」

(´<_` )「ん?」

(;゚Д゚)「えーっと……あれ?」

从;゚∀从「? ???」

よく見知った顔だ。
始業式の時の騒動で知り合いになった、あの白衣の留年変人。
彼が、呆然とするギコの前で足を止め、眉をひそめている。



201: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:06:08.26 ID:7EsB3AWF0
(,,゚Д゚)(いや、違う……?)

顔は兄者だが、服装が違った。
彼はいつも白衣を着ている。
しかし、目の前にいる男子生徒はギコと同じ夏服で、

<_プー゚)フ(あれは……バックラー、か? 戦士系だよな)

その鍛え上げられた右腕に小さな盾が装着されている。
防御範囲こそ小さいものの、その軽さで素早い防御が可能なシールドだ。
これを兄者がしているところは見たことがない。

しかも、腕章は『M-3』と表示されている。
この男は武術専攻学部の三年生なのだ。

(´<_` )「何か俺に用か?」

(;゚Д゚)「え、あ、いや……あれれ?」



205: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:07:33.61 ID:7EsB3AWF0
ギコの反応に、男子生徒は小さく吐息した。
うんざり、という表情だ。

(´<_` )「お前らもアレか。 兄者と見間違えでもしたか?」

从;゚∀从「じゃあやっぱり――」

(´<_` )「あぁ。 俺は弟の方だ」

一息。


(´<_` )「――あのクソ野郎の、な。 恥ずかしくて言いたくもないが」


(;゚Д゚)「なっ……?」

(´<_` )「お前ら、兄者とつるんでたりするのか?
     それなら言っておいてやる。 止めておけ、と。
     アイツと関わるとロクなことにならんし、馬鹿が移るぞ」



209: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:09:20.58 ID:7EsB3AWF0
こちらの意見をまったく聞かない物言いだ。
というか、彼の言い分の半分ほどは納得できてしまう。
完全に不利だ。何がだ。よく解らん。

そして兄者に似た生徒は、唖然とするギコの横を通り抜け、そのまま行こうとする。
しかし、

( ゚д゚ )「待て」

と、後ろにいたミルナが彼を止めた。

(´<_` )「何か?」

( ゚д゚ )「……確かに俺達は兄者を見知っている。
    だから彼の友人として聞かせてもらいたい」

鋭い視線を向け、

( ゚д゚ )「時折、彼の顔などに真新しい傷や殴られた痕が見受けられる。
    聞けば『やんちゃな弟と喧嘩した』らしいが……それは本当なのか?」

(´<_` )「…………」

( ゚д゚ )「一応、これでも武術専攻学部なんでな。
    傷の度合いから相手の意識を読み取ることが出来る。
    アンタ、本当に『喧嘩』したのか?」



212: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:12:55.62 ID:7EsB3AWF0
男子生徒は何も言わない。
ミルナはそれを睨み続け、他の皆もその行方を見届けようとする。
やがて、男子生徒は口端を歪め、苦笑し、

(´<_` )「……身に覚えがないな」

( ゚д゚ )「どういうことだ」

(´<_` )「そもそも喧嘩すらした覚えがないのでね。
     大方、どこかで転んだり実験に失敗したのが恥ずかしくて、俺のせいにしてるんだろうさ。
     まったく、困った兄だよな?」

最後の疑問形は、念を押すような色が込められていた。
これ以上の追求は止めておけ、という脅しだ。
流石に鈍感ではないミルナも、気配を感じ取って汗を浮かべる。

結局その後、彼は何も言わずに行ってしまった。
あのエクストですら噛みつこうとしなかったのは、理由がある。

……おそらくだが、あの男子生徒は、自分達の誰よりも強い。

そう思わせる何かがあったのだ。

从;゚∀从「ギコ……」

(,,-Д-)「解らないことを言っても仕方ない。
     今の俺達に必要なのはランクアップだ。 行こう」

何か事情があるのかもしれない。
そう思い、後ろ髪を引かれる思いで、ギコ達は受付へと向かっていった。



216: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:15:50.39 ID:7EsB3AWF0
翌日。

早朝の学園都市。
三つあるステーションの内、北東にあるステーションにギコとハインの姿があった。
両者とも制服で、少し大きめの荷物を肩や背に担っている。

(,,゚Д゚)「よし、準備はいいな?」

从 ゚∀从「いいぜ!」

そして二人が見るは、ステーションに止まっている魔道列車だ。
黒を基調とした色合いに対し、赤のラインが走っているのが印象的である。

荷物や地図を確認した二人は、互いに頷き、列車へと乗りこんでいった。



225: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:21:19.57 ID:7EsB3AWF0
列車内は意外に広い。
縦長い空間の中、ボックス席が左右に並んでいる。

その間をギコとハインが進み、
時折、手に持っているチケットを確認しながら席を探す。
ほとんど席は埋まっておらず、車内は駆動音の響きが大部分を占めていた。

(,,゚Д゚)「っと、ここだな」

从 ゚∀从「よっしゃ窓際とったー!」

(;゚Д゚)「子供かよ……」

二人で並んで座り、荷物から携帯端末を取り出した。
何度かボタンを叩くと一つのウインドウが展開し、それを改めて読む。

从 ゚∀从「場所はここから北東のゲハ地方。
      ランクアップ試験内容は、『迷動神樹(メイドウシンジュ)』の枝を入手すること、か」

ううむ、と唸り、

从 ゚∀从「でもまさか二人で受けられるとは思わなかったなぁ」

(,,゚Д゚)「ツンとブーンみたくチームで動く奴らもいるしな。
    まぁ、その分だけ難易度はちょっと上がるんだけど」

从 ゚∀从「で、北東方面へ行くのは俺達だけ、と。 寂しいねー」

(,,゚Д゚)「一人じゃないだけマシだろ」



231: ◆BYUt189CYA :2009/07/19(日) 23:27:23.34 ID:7EsB3AWF0
南のステーションからは、ミルナ、ヒート、レモナ、ツン&ブーンが。
北西のステーションからは、クックル、ハロー、モララー&スズキが。

それぞれ試験を受けるため、同じように都市外へ出ようとしている頃だろう。

(,,゚Д゚)「スムーズに行けたとしても丸一日掛かるからな。
    まず向こうに着いたら宿の手配からしとかないと」

从 ゚∀从「……相部屋?」

(;゚Д゚)「な、なんでだよ馬鹿! お母さんはそんなの許しませんよ!」

从 ゚∀从「えー、いいじゃんいいじゃーん」

(;゚Д゚)「駄目です! それに、スムーズに行かなかったらたぶん野宿だしな。
     色々と覚悟しておいた方がいいぞ」

そんなことを言い合っていると、ふと後方から足音が響いてきた。
音の小さな、落ち着いた綺麗な足音に、ギコの耳が微かに反応する。
相応の熟練者――渋澤やシナーが立てる音に似ていたからだ。

足音の主はゆっくりとこちらへ近づき、そして隣で止まった。
何だ、と見上げると、そこには、

ル(i|゚ ー゚ノリ「――乗客が少ないのは寂しいことだ。 ゲハ地方まで長旅になる。
       少々、話相手になってはもらえないだろうか?」

と、青い髪の女が、小さな笑みを浮かべて立っていた。



戻る第二話