(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 5: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:06:22.39 ID:ljtxHXQy0
―――第二話
『ギコとハインとおねーさんと』―――――――
真実は意外なところに落ちている
ほら、君の背後にも
- 7: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:08:11.32 ID:ljtxHXQy0
- 学園都市VIPから北東へ向かうことしばらく。
魔道列車で平原を抜け、山間を行き、そして見えてくるのは広大な大地だ。
ゲハ地方と呼ばれるそこには、
三つの街都が集合したことで生まれた大きな国が存在する。
地方名からそのまま『ゲハ』を名乗る大国は、大陸屈指の技術国でもあった。
その理由として挙げられるのは、国の中で日常的に行われている技術競争だ。
三つの街都を代表していたそれぞれの企業体が、
合併後は国内で火花を散らし合っているのである。
任天商会。
Sold/Nybel(ソルド・ニュベル)。
そして、×BO×(サイドクロスビーオー)。
最近、特に盛んなのはデバイスの開発らしく、
常に新しい商品が出回っては消えていく、を繰り返している。
その中でも特に売れ行きの良かった商品が、ゲハを出て他国へ流通していくのだ。
- 10: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:10:46.19 ID:ljtxHXQy0
- 厳しい競争を勝ち抜いただけあって、その商品の性能は凄まじいの一言だ。
難点を挙げるとすれば高額であることなのだが、
競争を経て高レベルにまとまった性能を前にすると頷くしかない。
しかしそのため、あまり金を持っていない学園都市へ流れることはなかった。
他国から来た商人がたまに売りつけようとするくらいだが、
当然、普通に買うより更に高くつくので、生徒身分で手を出す者はいない。
(,,゚Д゚)「――とまぁ、ゲハについてはそういう感じかな。
つまり学生である俺達にはあまり接点のない国でもある」
規則正しいリズムで小さな振動を起こす魔道列車の車内。
ゲハについての情報を映す携帯端末を片手に、ギコはそう言って言葉を切った。
隣の席に座るハインが、うんうん、と頷き、
从 ゚∀从「金持ちが使うデバイスってわけね」
(,,゚Д゚)「軍も優先的に使ってるみたいだけどな。
それだけ性能や信頼感が高いってことだろうな」
- 11: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:12:13.28 ID:ljtxHXQy0
- そういう話になってくると、軍部のスパイであった彼女の方が詳しいかもしれない。
どの程度の位にいたのかは解らないが、軍部に所属していた以上、
何らかの事情や情報は知っているだろう。
聞いてみたいのだが、しかしギコはそれを止めた。
その代わりとして、
(,,゚Д゚)「えっと、ミリアリーさんだっけ? こんな感じで良かったっすか?」
と、前に座る青髪の女性を見た。
彼女は腕と足を組んだ姿勢で、ハインと同じように満足そうに頷く。
ル(i|゚ ー゚ノリ「うむ。 良い勉強になった」
美しい、という言葉がぴったり合うような女だ。
顔から身体から何もかもが整っており、黒を基調とした軽装がそのスリムさを際立たせる。
触ってみたくなるような青い髪は、後ろでポニーテールという形を作ることでその身を揺らしていた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「それと私のことは『ミリア』で構わない。
私に近しい人は、そう呼んでくれる」
(;゚Д゚)「近しい、って……まだ出会ってちょっとなのに大袈裟な」
ル(i|゚ ー゚ノリ「巡り会わせが悪いのか、皆、すぐに私の傍からいなくなるのでな。
だから少しでもこうして言葉を交わしたなら、私にとっては近しい者だよ」
从 ゚∀从「……何か理由や事情がありそうだけど、聞かない方がいいよな?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そうしてもらうと助かる」
- 15: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:14:25.51 ID:ljtxHXQy0
- 身のこなしからして只者ではないと解っていた。
少なくとも、戦いに身を置いたことが何度かあるのだろう。
これ以上聞くのは、彼女にとっても自分達にとっても良くないことだ。
こういう者が持つ過去や事情は、
大概の場合、触れてはならない事柄や感情で埋め尽くされている。
ル(i|゚ ー゚ノリ「しかし君達はどうしてゲハへ?
ギコ君の今の説明の通り、学生が行くような国ではないだろう?」
(,,゚Д゚)「あー……ちょっとした試験ってやつっす。
目的はゲハじゃなくて、その付近にある森林地帯で……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「森林地帯……?」
少し考え、
ル(i|゚ ー゚ノリ「もしやと思うが、迷動神樹か?」
(,,゚Д゚)「そうっす」
ル(i|゚ ー゚ノリ「成程、この地方における一つの特色だな。
資料上での知識しかないが、
確かにアレは学生にとって良い相手になるかもしれぬ」
- 16: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:16:22.65 ID:ljtxHXQy0
- 从 ゚∀从「……逆に聞いていい? ミリアさんはどうしてゲハに?」
と、言葉を挟んだのはハインだ。
さっきから敬語の欠片も使ってないが大丈夫なのだろうか。
自分も似たようなものだが。
ル(i|゚ ー゚ノリ「私もゲハ自体に用があるわけではない。
ちょっとした仕事でね。 終わらせたらすぐ次へ行かねばならん」
どうやら彼女は気にしていないようだ。
こういう時、ズバズバ切り込めるハインの気質が羨ましくなる。
(,,゚Д゚)「じゃあ、俺達と似たようなものっすか」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そうらしい。 まぁ、そもそも私はデバイスを使わない主義でな。
おそらくは君達以上に、あの国とは接点がないだろう」
確かに、彼女の服にはハードポイントが見受けられなかった。
もしかしたら携帯端末すら持っていないのかもしれない。
- 18: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:17:57.22 ID:ljtxHXQy0
- ふと目を上げると、こちらを見て微笑するミリアと視線がかち合った。
ル(i|゚ ー゚ノリ「女性を無遠慮にじろじろ見るのは頂けないな、ギコ君」
(;゚Д゚)「!? あ、ご、ごめんなさい!」
从 ゚∀从「何? 溜まってンのかギコ?」
(;゚Д゚)「ぐぉぉぉ……!?
お、おおおお前なぁ! ストレートにも程があるだろっ!
いや、回りくどかったら良いってわけじゃないけど!」
从 ゚∀从「あー、すまんギコ。 そういう意味で言ったんじゃねぇんだ」
(,,´Д`)「…………」
一瞬、ぐったりした表情を見せたギコだが、
(;゚Д゚)「……って、あれ!? じゃあどういう意味!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ……ハインリッヒ君。 彼と一緒にいると楽しかろう?」
从*゚∀从「解る? すげー楽しいぜ」
何か通じ合うものがあるのか、意味ありげな笑みを浮かべる女二人。
それを横目に、顔を赤くしたギコは咳払いして端末へ目を落とす。
- 19: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:19:51.70 ID:ljtxHXQy0
- 時刻的には、そろそろ到着だ。
窓から見える景色は、濃緑よりも空の色や平原の色が多くなっている。
先頭車両からは、もう大国『ゲハ』の一部が見えているかもしれない。
と、そこでタイミング良く、到着を知らせるアナウンスが流れた。
魔道列車の速度が目に見えて落ちていく。
(;-Д-)「ようやく着いたか……。
入国手続きがあるから、ちゃんと学生証を準備しておけよ?
一応、学園側から連絡は行ってるはずだけど、だからこそちゃんとしなきゃな」
从 ゚∀从「うぃー」
ル(i|゚ ー゚ノリ「うむ」
そしてハインとミリアが、また視線を合わせて微笑する。
顔がまた赤くなりそうになりつつ、しかしそれを見せないよう、ギコはさっさと席を立った。
- 21: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:21:47.84 ID:ljtxHXQy0
- 入国手続き自体はすぐに終了した。
途中、ミリアとはぐれて――というか彼女が勝手にいなくなって――しまったが、
それ以外は特に問題なく進んでいくことに、二人はなんとなく安堵の息を吐く。
ここでのミスは学園の評価を落とすことに繋がるので、尚更だった。
そして到着から四半刻ほど後。
ステーション出口から、ギコとハインが荷物を担って出てきた。
从 ゚∀从「意外と早く終わったな、手続き」
(,,゚Д゚)「身分証明と持ち物検査くらいだったしな。
これが普通の入国だと、色々面倒なことさせられるところだったよ」
从 ゚∀从「学園様々だー。 感謝しとかないと」
(,,-Д-)「それは帰ってからで充分です」
言い、ギコは端末を開く。
画面には試験の概要が細かく表示されている。
(,,゚Д゚)「ここからは全て俺達の判断で行動だ。
試験内容を確認するぞ」
从 ゚∀从「おう」
(,,゚Д゚)「目的は、ゲハ地方の森林地帯に生息している『迷動神樹』。
その枝をそれぞれ一本ずつ確保し、学園へ持って帰ること。
期間は明日の夕刻までで、その間の判断や行動は全て生徒の責任の下で行われる、と」
- 23: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:23:45.31 ID:ljtxHXQy0
- 从 ゚∀从「意外と期間短いのな」
(,,゚Д゚)「それだけ簡単なミッションってことだろう。
ミッションを完遂出来るかってより、
むしろ学園から離れた地での判断や行動を試すって感じかな。
トラブル起こしたらアウトだし」
从 ゚∀从「ふーん。
で、まずはどうするんだ? 早速ゲットしに行く?」
(,,゚Д゚)「いや、まずは宿の確保。 それから情報収集だ。
一言で森林地帯って言っても広大だし……目星はつけておきたい。
適当にさまよって無駄な時間かけた挙句、遭難でもしたらシャレにならん。
ついでに必要そうなのも買っておきたいしな」
うーむ、と唸って端末に表示された地図とにらめっこ。
ふと隣を見ると、ハインが小さく目を見開いていた。
- 25: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:25:40.56 ID:ljtxHXQy0
- (,,-Д゚)「……なんだよ?」
从 ゚∀从「いや、随分と頼りになるなぁ、って」
(,,-Д-)「普段は頼りにならんのね」
从;゚∀从「そこまでは言ってねぇって」
(,,-Д-)「はいはい、どうせ頭は良くないし、助けられてばかりですよー」
从 ゚∀从「拗ねるなよー。 でもそんなところも可愛いぞぉー?」
(;゚Д゚)「や、止めろよ! 可愛いとか言うなよ! 言うなよ!」
从 ゚∀从「こいつ照れてやんのwwwwwwwwwww」
ぐぁ、と身をのけぞらせながらも、ギコは小さな嬉しさを感じていた。
編入してから対竜戦までのよそよそしかった態度とは異なる今のハインが、
とても彼女らしく、そしてその隣にいれることに、確かな居心地の良さがあるからだ。
こいつと友達になって良かった。
なんとなく、そう思える。
- 27: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:27:53.15 ID:ljtxHXQy0
- しかし、頬が緩みそうになるのを堪えながら周囲を見ると、
(;゚Д゚)「あ」
こちらのやり取りを、微笑ましそうに見ている人々が少々。
人の往来が多いステーション前でこんなことをしていては、当然である。
しかも彼らの表情は、学園都市でも何度か向けられた色とほとんど同じだ。
つまり、
……学園都市VIPの連中はイチャイチャ気質、などという誤解を与えてはならん!
何故なら、
……俺の周りにいる連中とか、モテないからな!!
ミルナやハロー、エクスト辺りが聞けば、泣きながら殴られるかもしれないことを思いつつ、
(;-Д-)「……行くか」
从;゚∀从「そ、そだなー」
妙な使命感を得ながら、ギコとハインはその場からそそくさと退散していった。
- 29: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:30:28.50 ID:ljtxHXQy0
- 図書館や役所などを駆け回った結果、
目的である迷動神樹は、ゲハを北西に出た場所にある森林に多いと判明した。
その他、その神樹について調べたことで解ったのは、
(,,゚Д゚)「生きて動いている木、か……。
考えてみれば凄いことだよな」
从 ゚∀从「この世に魔粒子なんつーモノが蔓延してから、
その影響をモロに受け、遺伝子やら何やらに変化をきたした動植物。
一般に『バラエティモンスター』なんて呼ぶんだが……」
ギコの方を見て、
从 ゚∀从「俺は実際には見たことねぇ。 ギコは?」
(,,゚Д゚)「ん、俺もだ」
二人はゲハの北西門の前にいた。
この門を出ることで、ゲハの都市部から森林地帯へと向かうことが出来る。
そこへ行くためには大型旅客輸送車両を利用するのが一番らしく、
傍には停留所を示す看板が一つ立っている。
- 32: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:32:32.24 ID:ljtxHXQy0
- 時刻は昼時を過ぎたところだ。
既に腹ごしらえしているし、森林に入るための荷物や装備も用意している。
あとは旅客輸送車両に乗り込んで出発なわけだが、
(,,゚Д゚)「……で、だ」
言い、そして背後へ振り向きながら、
(;゚Д゚)「どうしてミリアさんがいるんすか……?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「気にすることはない」
魔道列車の時と同じように、腕と足を組んでベンチに座っているミリア。
ギコ達がここへ辿り着いた直後、いきなり姿を見せたのだ。
从;゚∀从「いや、すげー気になる。
入国手続きの時にはぐれちまったのに、
どうして俺達がここにいるのが解ったんだ?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「森林地帯へ行く、と言っていたのは誰だった?
少々調べれば北西へ向かうことなど誰でも解ること。
本当は先回りして驚かそうと思ったのだが、少々遅れてしまった」
(;゚Д゚)(意外と子供っぽい……)
- 34: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:34:58.60 ID:ljtxHXQy0
- 从 ゚∀从「じゃあ、ついでにもう一つ。 何しにここへ?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「無論、ついて行くため」
自信満々な言葉に、ギコとハインは一瞬言葉を失った。
(;゚Д゚)「……仕事は?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「今日明日中に終わるのだろう? ならば問題ない」
从;゚∀从「……でも、助けを借りるわけには」
ル(i|゚ ー゚ノリ「手出しはせんよ。 それに同行すら駄目なのなら、
ここへ来るまでに使った公共機関や、情報収集に立ち寄った図書館等、
それら全ても『助け』になると思うのだが、どうか?」
(;゚Д゚)「……理由は?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「うむ、単純な興味だ」
駄目だ。
手強いというか鉄壁である。
- 36: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:37:21.39 ID:ljtxHXQy0
- ギコとハインの舌では、彼女を言い負かすことは出来ないだろう。
ハローなら何とか出来るかもしれないが、彼女は今、別場所で試験を受けている。
どうしたものか、と顔を見合わせる二人に、ミリアは笑みを浮かべた。
ル(i|゚ ー゚ノリ「もしや二人きりの方が良かったのだろうか?
そうであるなら、私は邪魔者として去るのも仕方ないが……」
(;゚Д゚)「それは違う!」
从;-∀从「馬っ鹿……」
(;゚Д゚)「あ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ならば、同行を断る理由はないと見るが?
他に何かあるのならば聞こう。
それで私が納得するかどうかは、また別問題だがね」
不敵に口端を吊り上げる彼女の自信は、見ての通りだ。
こちらとしては完全にお手上げである。
- 39: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:41:08.46 ID:ljtxHXQy0
- (;゚Д゚)「あー……まぁ、そこまで言うなら構わないっすけど、
いくら学生の試験とは言え、危険が伴うっすよ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「構わん。 自分の身は自分で守るさ」
と、彼女は傍に置いてある荷物からあるものを取り出した。
それは、
从 ゚∀从「刀……?」
しかも、通常のタイプと比べて随分と長い。
ミルナが使っている『不見』もなかなかだが、ミリアの刀はそれすら超えるサイズだ。
これでは逆に扱いづらいのではないのかとも思える。
しかしミリアは、そのイメージを払拭するように力強く掲げ、
ル(i|゚ ー゚ノリ「長らく私の命を守ってくれている得物でね。
これがあれば……まぁ、竜でも出てこない限りは大丈夫だろう」
竜、という単語に、小さくハインが眉をつめた時。
低く唸るような駆動音を引き連れ、四角い形をした大型旅客運送車両がやって来た。
都市外、しかも森林地帯方面へ出る車両であるためか、乗客は少ない。
- 41: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:43:09.47 ID:ljtxHXQy0
- (,,゚Д゚)「……よし、色々あったけどこれからが本番だ。
気を引き締めていくぞ」
从 ゚∀从「おう。 ちゃっちゃと終わらせようぜ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ、楽しみだな」
(;-Д-)「…………」
どうにも自分は女性に頭が上がらないというか、空回りしてしまうというか。
いや、しかし昨今の女性の強さは皆の知るところであり、仕方ないことなのだろうか。
などと複雑な心境を浮かべつつ、ギコは二人を引き連れ、車両へと乗り込んでいった。
- 45: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:45:52.88 ID:ljtxHXQy0
- ところ変わって学園都市VIP。
正午を回り、活気に溢れている商業区画を歩く二人がいる。
それは多くの買い物袋を手に提げた、
(゚、゚トソン「これで必要な備品は買い揃えましたね。
あとはPCの増設パーツ、ですか」
隣を歩くのは、
川 ゚ -゚)「うむ。 生徒会再編の影響で扱うデータが増えたからな。
これを機会に性能強化をしておきたい」
生徒会のトップと、委員長系の第三処機隊長。
有名人である二人が周りに与えるプレッシャーはかなりのもので、
実際、二人が歩く先は、割れるように生徒達が避けていく。
当てられるのは憧れ、そして少しの畏怖がこもった視線だ。
それが前方どころか後方、そして左右と、全方位から向けられてくる。
しかし普段から慣れているのか、二人は気にした様子もなく歩き続けていた。
- 48: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:49:20.96 ID:ljtxHXQy0
- その中で、ふとトソンが小さく言葉を放った。
(゚、゚トソン「……会長、一つ聞いても良いですか?」
川 ゚ -゚)「あぁ」
(゚、゚トソン「ハインリッヒのことですが……。
彼女を学園都市の外へ出しても良かったのですか?
今の彼女が、軍部から狙われる身であるのは確実なはずですが」
クーの表情は変わらない。
そのことに、トソンは根拠のない安堵を得る。
我らが生徒会長の表情に変化がないということは、何か考えがあるのだろう、と。
川 ゚ -゚)「狙われる身にある、か。
あの竜の一件から考えても、そう判断するのが普通だろうな」
(゚、゚トソン「ですよね……では、どうして?」
川 ゚ -゚)「……しかし、ハインリッヒが狙われているという明確な証拠はない。
竜は確かに来た。 そしてハインリッヒを優先して狙った節もある。
しかしそれは所詮、状況的な証拠に過ぎない」
一息。
川 ゚ -゚)「誤解を恐れずに言うならば、彼女が外に出ることで状況が動くかもしれない。
そういうことだ」
- 52: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:53:11.55 ID:ljtxHXQy0
- (゚、゚トソン「……ハインリッヒを餌にして確証を掴む、と?」
伺うような声に、クーは苦笑を見せた。
川 ゚ー゚)「トソン、お前はストレートだな」
(゚、゚;トソン「あ、申し訳ありません……!」
川 ゚ -゚)「良いんだ。 咎めているわけじゃあない。
そこがお前の良いところだと思うし、きっと学園のためにもなる」
(゚、゚;トソン「……あう」
敬愛する生徒会長からそんなこと言われ、動揺しない者はいないだろう。
例外に漏れず、トソンは顔をほのかに赤くしつつ、小さく俯いた。
川 ゚ -゚)「だがな、トソン。 別にハインリッヒをただ餌とするつもりではないぞ」
(゚、゚トソン「え……?」
川 ゚ -゚)「いいか? 私もお前も、他の皆も、ハインリッヒも、誰もかも。
いずれは学園を卒業し、何か目標を持って、あの広い外界へ行く時が来るんだ」
(゚、゚トソン「…………」
- 54: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:56:16.10 ID:ljtxHXQy0
- 川 ゚ -゚)「しかし卒業したからと言って、
それまで得てきた様々な関係や状況が崩れるわけじゃない。
特に私達は、学園地下の問題を解決しない限り、そのことが卒業後も尾を引くことになるだろう。
そうなった時、自分の身は自分で守れるくらいにはなっていないといけない」
つまり、
川 ゚ -゚)「私はハインリッヒに強くなってもらいたい。
もちろんお前も、ギコも、皆もだ。
だから出来る限りのことをしようとも思っている」
その視線は前を見たまま。
僅かな揺らぎもない。
自分の隣にいるこの人は、本気でそう思っている。
本気で自分達や学園のことを思ってくれているのだ。
昔から解っていたことだが、やはり目の前で言われると再実感する。
(-、-トソン「会長……ありがたいことだと思います。
そして私もそれに応えられるよう、頑張りたいです」
川 ゚ -゚)「あぁ、頼りにしている」
それに、と付け足し、
川 ゚ -゚)「ハインリッヒのことは心配ない。 ギコがついているしな」
- 57: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 21:58:33.93 ID:ljtxHXQy0
- (゚、゚トソン「……しかし会長。
もしもの時、彼がハインリッヒを守れるとは思えないのですが」
川 ゚ -゚)「厳しいな、トソンは。
だがまぁ……事実としてはその通りだろう」
対竜戦の時、ギコが気絶してしまったことを二人は知っている。
トソンは鍛錬不足だと思ったものだが、クーは少し事情を知っているが故、何も言わなかった。
ただ、目が覚めて生徒会詰所へやってきた彼へ、頑張ったな、と一言告げただけだ。
ギコの能力は決して低くはない。
特別生徒会メンバーに在籍していることが何よりの証拠である。
……他の者に比べ、力の振るい方に強い迷いがあるだけの後輩。
自分の力を――更に言えば出力を――制御出来ていないのだ。
対竜戦の気絶の理由の一つは、そういうことだとクーは思っている。
今は発展途上かもしれないが、迷いを断ち切った時、彼はきっと強くなるだろう。
思いながら、クーは言う。
川 ゚ -゚)「だから『保険』を掛けておいた。
もし何らかの力が動いたとしても何とかなる程度の、な」
(゚、゚トソン「保険、ですか……」
川 ゚ -゚)「そう心配そうな顔をするな、トソン。
シナー殿の紹介だが、かなり信頼出来る保険だ」
- 59: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:00:14.50 ID:ljtxHXQy0
- シナー、という人名になおさら顔をしかめさせるトソンだが、
絶対の信頼を置くクーが言うのなら、反論するわけにもいかない。
トソンはシナー一味がどうしても気に入らなかった。
彼の部下であるニダーも、雇われているという阿部も、どこか怪しいところがあると思えてならない。
それが熟練の戦士のみが醸し出せる空気なのか、
本当に怪しい動きをしている証拠となるのか、
まだ己を未熟とするトソンに、その判断は下せない。
そんなことを考えていると、右手の方角から二人に声が掛かった。
|(●), 、(●)、|「――おや、生徒会長さん。 お買い物ですか?」
(゚、゚トソン「ダディ先生……」
大柄な身体を持つ科学技術学部の教師だ。
その巨躯に似合わぬ柔和な性格が人気で、トソン自身も彼に悪いイメージはない。
そんなダディは買い物終わりなのか、両手に随分な荷物を抱えていた。
- 61: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:01:57.66 ID:ljtxHXQy0
- 川 ゚ -゚)「えぇ、生徒会の活動に必要な備品などを。
もしかしたら、これから忙しくなるかもしれないので」
|(●), 、(●)、|「武装都市化計画は貴女が発端でしたね。
確かに今の時代、守る力は必須となっています。
その最先端を率先して行く貴女の行動力と判断力には、いつも感心させられますよ」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます。
ですが、まだまだ埋めるべき穴はあります……この都市も、私達も」
|(●), 、(●)、|「慢心しないのも貴女の美点だと思いますよ。
……さて、ところでもう昼食は摂りましたか?」
問われ、クーとトソンは顔を見合わせ、そして二人で首を縦に振った。
するとダディは嬉しそうに頷き、
|(●), 、(●)、|「私も実はまだでしてね。 良ければ御一緒しませんか?
ご存知かもしれませんが美味しいお店がありましてね。
そこで、ちょっとお話でもしましょう」
二人に断る理由は、なかった。
- 66: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:04:03.79 ID:ljtxHXQy0
- ダディに連れられて向かったのは、商業区画と生活区画の境付近だ。
都市の東南東方角に位置するここは、
数月前の対竜戦の被害を多く受けた地域でもある。
今はもう復興されており、元の、とまではいかないが、竜の傷跡は見受けられない。
途中、ブラブラしていたフォックスを見つけたので、
買った備品類を生徒会詰所に持っていっておいてもらえるか頼んだところ、
心底面倒そうな表情を見せたのだが、ダディが買い物袋から飴玉を出すと快く引き受けてくれた。
(゚、゚トソン「モノで釣られるなんて……安い男ですね。 二つの意味で」
と、トソンが鋭い言葉を放ったが、
爪'ー`)y-「この飴の価値が解らないなんて、乏しいねトソン君は。 二つの意味で」
と、ヘラヘラ笑いながらフォックスは去っていった。
よく解らないが、ダディの持っていた飴は相当に彼の好みだったのだろう。
あとでダディに詳細を聞いておこう、とクーは思う。
- 68: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:07:17.92 ID:ljtxHXQy0
- ともあれそんなこんなで辿り着いたのは、
(゚、゚トソン「――ふむ。 OMU飯屋ですか」
かつて竜の被害を受けそうになったところを、その寸前で救われた店舗だ。
この店の前に竜が落ちたらしいが、もうその跡は残っていない。
ただ、いつも通りの活気があるだけだ。
|(●), 、(●)、|「来たことありますか?」
川 ゚ -゚)「一度だけ」
(゚、゚トソン「私も友人と何度かありますね。
ここのオムライスはとても美味しかった記憶があります」
|(●), 、(●)、|「それは良かった。 では早速入りましょうか」
嬉しそうに頷くダディを先頭に店内へ入ると、
<_プー゚)フ「いらっしゃいませー!
って、あら? 会長さんに先輩、しかも先生っすか!」
川 ゚ -゚)「君は確か……ギコの友人だったか。 ここで働いているのか?」
<_プー゚)フ「そっす。 ささ、こちらへどうぞ」
- 70: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:09:43.68 ID:ljtxHXQy0
- 店内は明るい雰囲気に包まれていた。
オレンジとホワイトを基調とした壁や天井に加え、
装飾するように引かれている赤いラインが、場のメリハリを生んでいる。
昼食を摂っていた生徒達がこちらに気付き、
慌てて会釈を送ってくるのを、クーは苦笑しながら手で制す。
<_プー゚)フ「んじゃ、こちらに――」
案内された席は、店の最奥だった。
生徒会長とそのメンバー、更に教師という組み合わせから、
何か重要な話があるのではないか、というエクストの判断によるものだろう。
しかし、そこには先客が座っていた。
<_;プー゚)フ「ありゃ……?」
川 ゚ -゚)「ん?」
爪゚ -゚)「――おや、奇遇ですね……まる」
- 73: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:11:41.05 ID:ljtxHXQy0
- そう言ってこちらへ顔を向けたのはGだ。
学園地下で発見された機械人形で、現在は生徒会の監査という役職持ちだ。
相変わらずの西洋鎧姿だったが、
その外装は、錆だらけだった当時とは異なり、新品同様の輝きを取り戻していた。
術式による洗浄と加工による賜物だった。
彼女の座るテーブルには、オムライスの乗った皿が一つ。
そして手にはスプーンがあり、
川 ゚ -゚)「……G。 お前、食事出来たのか?」
爪゚ -゚)「一応は、まる
腹部にある保存用エリアに溜めておき、あとでまとめて排出ですが、まる」
(゚、゚;トソン「…………」
<_;プー゚)フ「…………」
黙った一同に対し、Gは小首をかしげ、
爪゚ -゚)「もちろんブチ撒けるような下品な真似は致しません、まる
保存用エリアは袋状の構造を持っているので、腹部を開いて取り出します、まる
後は袋を洗浄し、また腹部へ戻すわけです、エコロジーですね、クエスチョンマーク」
- 75: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:13:41.49 ID:ljtxHXQy0
- この妙な喋り方は、決して煽ろうとしてやっているわけではない。
学園都市が要塞都市として建造されていた頃の名残である、田代砲を使った折、
無理が響いて言語野に異常をきたしてしまっているのだ。
どうも句点や感嘆符などを、そのまま言葉として出力してしまうらしい。
だから今の『エコロジーですね』の語尾は上がらず、ただ同意を求める意味に聞こえるが、
最後に付いた『クエスチョンマーク』という単語からして、おそらく確認口調のつもりだったのだろう。
ぶっちゃけ解りにくいにも程がある。
しかし、ブラックテクノロジーの塊であるGを修理出来る者などいるわけもなく、
数月経った今でも彼女はこの調子なのである。
微妙にうんざり感が漂い始めた店内、Gは周囲を見渡し、
爪゚ -゚)「……何かまずかったでしょうか、クエスチョンマーク」
(゚、゚;トソン「い、いえ、大丈夫ですよ」
|(●), 、(●)、|「さて、ともあれ座りましょうか。
貴女も生徒会役員の一人ですし、構いませんか?」
爪゚ -゚)「どうぞ、まる」
そう頷いたGの隣にダディが。
正面の二つの席に、クーとトソンが並んで座る。
- 78: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:15:54.48 ID:ljtxHXQy0
- <_プー゚)フ「んじゃ、また後で注文とりに来まっす」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
爪゚ -゚)「――少々お待ち下さい、まる」
<_プー゚)フ「え?」
何だ、とエクストどころかクー達もGを見る。
彼女は無表情のまま、こう告げた。
爪゚ -゚)「――オムライス、非常に美味でした、まる
店長様にそう伝えておいて頂けますか、クエスチョンマーク」
<_;プー゚)フ「え、あ、りょ、了解ッス……」
どこか納得いかない様子で店の奥に引っ込むエクスト。
少しして『やった!』とか『やっぱりオイル入れて正解だった!』とかいう声が聞こえてくる。
トソンが半目で店の奥を見つめる横、クーが問うた。
川 ゚ -゚)「G……味が解るのか」
爪゚ -゚)「肯定です、まる
これでも舌の機能も疑似的に発揮されておりますので、まる
若干、油臭かったところ以外はとても美味しかったと思います、まる」
- 85: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:21:17.85 ID:ljtxHXQy0
- 言葉に、クーは苦笑しつつ、
川 ゚ -゚)「お前とは出会って数月だが、知らないことの方がまだ多いな」
爪゚ -゚)「ならば分解しますか、クエスチョンマーク」
川 ゚ -゚)「してどうにかなるのなら、是非ともさせてほしいところだ。
しかし技術も知識も足りないし……君も嫌だろう?」
爪゚ -゚)「そうですね、まる」
(゚、゚;トソン(この二人、どこか似てるような……)
|(●), 、(●)、|「さて、と……まずは注文しましょうか。 メニューはこれですね。
全てオムライス、サイドメニューもオムライス、デザートもオムライス。
選び放題ですね?」
川 ゚ -゚)「私はオムライスがいいな」
(゚、゚;トソン「会長、わざわざ付き合わなくて大丈夫ですよ。
ところでダディ先生……話とは、何なのですか?」
問われたダディは、メニューを下ろしながら、
|(●), 、(●)、|「簡単なことですよ。 これからについて、です」
と、笑みを浮かべた。
- 89: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:22:49.38 ID:ljtxHXQy0
- (;゚Д゚)「ううむ」
という唸るような声が聞こえたのは、大自然の中だ。
まず見える光景としては、葉に遮られ線となった陽光が降り注いでいる。
足元には草木が茂る緑のカーペットをベースとして、
周囲、たたずむ様に木々が黙って点在している。
響くのは静寂。
しかし、無音ではない。
僅かな木々のざわめきが、人の立ち入らない緩やかな時間を表現している。
そんな中を、ギコとハイン、そしてミリアが歩いていた。
先頭を歩くのはギコで、彼はペンで地図にチェックを入れつつ、
(,,゚Д゚)「けっこう奥まで来たが……見つからないのはどういうことだ?」
从 ゚∀从「動いてるからすぐ解るって話なのになー」
ル(i|゚ ー゚ノリ「確かに、動く気配は感じられない」
周りを見渡してみるが、同じような景色ばかりだ。
地図をちゃんとチェックしながら歩かないと迷ってしまうだろう。
- 91: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:24:15.18 ID:ljtxHXQy0
- 森林地帯へ入って既に一刻は経っている。
その間、出会ったものと言えば臆病な小動物くらいだ。
すぐに見つかるものだと思っていた二人は、その認識を改め始めていた。
そのまま歩き続けても、動いている木とやらは見つからなかった。
地図に書き込んである情報を頼りにしているのだが、どうもハズレらしい。
長く歩き続けて疲労も少しある。
ギコ達は、最後のチェックポイントで休憩することを決めた。
もしかして、という思いもあったが、最後のポイントに辿り着いても動く木は姿を見せない。
ミリアが近くにある石に腰を下ろすのを傍目に、二人は地図を睨んで相談を始めた。
(,,゚Д゚)「……さて、どうすっかな。
ゲハで集めた情報だとここら辺なんだけど、いないっぽい。
このまま先に進んでみるか、それとも別の場所へ行ってみるか」
从 ゚∀从「……にしても、なんだか足下が安定しねぇな」
(,,゚Д゚)「ん?」
下を見れば、確かに地面が荒れている。
今まで通ってきたルートに比べて凹凸が多く、
土も柔らかい部分や硬い部分が、はっきりとしていた。
どうも今までと雰囲気が異なるように思えるが、しかし周囲に生物がいる気配はまったくない。
- 94: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:26:00.80 ID:ljtxHXQy0
- 从 ゚∀从「で、ここ周辺はもう大体歩いたのか?」
(,,゚Д゚)「ん。 ほら、ここにチェックを入れれば――」
と、ギコの手が止まった。
从 ゚∀从「どした?」
(;゚Д゚)「え、っと……あれ? おかしいな」
釣られるように地図へ視線を落とすと、おかしなことになっていた。
ギコの握るペンの先が、最初のポイントを指しているのだ。
从;゚∀从「……お前、地図も読めねぇの?」
(;゚Д゚)「ち、違う! ちゃんと授業で習ったよ!
だってここを来たらこうだから、ほら、向こうに目印になる岩が――」
という言葉も止まる。
同じように見てみれば、そこには巨木があった。
身体を動かして向こう側を見ると、ギコの言う巨岩が見えるが、
(;゚Д゚)「……おかしいな。 今さっきまでここから見えてたのに」
- 99: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:29:05.74 ID:ljtxHXQy0
- 理解できない不思議な光景。
どこか空気が変わった、かのように思える。
从;゚∀从「これって……」
訝しげな表情を浮かべるハイン。
向き直ったギコは、そこで妙なものを彼女の背後に見た。
(;゚Д゚)「っ!?」
一瞬で思考が戦闘モードへ切り替わる理由となるそれは、
(;゚Д゚)「――ハイン、避けろ!!」
从;゚∀从「え? って、うぉ!?」
木だ。
それが、ほとんど真上からこちらへと振り下ろされてきていた。
- 102: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:30:33.80 ID:ljtxHXQy0
- その太さや長さから鑑みて、当たれば無事に済まないのは明白。
「「――ッ!?」」
ギコの声と、ハインが気付き、身をかわすのはほとんど同時だった。
直後、ハインとギコがいた場所に太い幹が叩きつけられる。
撃音。
地面に散っている草や葉、そして土が爆発したかのように巻き上げられる。
ギリギリで回避したギコ達が、それを目前で見ながら驚きに声を放つ。
全てを見ていたミリアが、刀を手に立ち上がった。
ル(i|゚ ー゚ノリ「大丈夫か」
(;゚Д゚)「今のは危なかった……! ってか、どうなってんだ!?」
从;゚∀从「まさか……」
ギコは左手に黒のグローブを。
ハインは右手にSilverSweetEdgeを。
それぞれ手早く装備しながら、状況を把握した。
周囲にある木々が、風もないのに音立てて揺れている。
それだけではない。
根を蛇のようにうねらせながら、不自然に移動しつつある木もある。
威嚇するような動きは、敵意を明らかにこちらへ向けていた。
- 105: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:31:55.50 ID:ljtxHXQy0
- その意味を、ハインが口にする。
从;゚∀从「群生してたっていうのかよ……!」
(;゚Д゚)「つまりこの一帯が全て迷動神樹の巣ってわけか!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「成程、気付かれないように配置を変え、ここまで誘い込んだわけか。
どうりで命の気配があり、しかし動きの気配がなかったわけだ」
気付いてたのか、と思うが、教えられては助けになってしまう。
ミリアはそれが解っていて口を閉ざしていたのだろう。
从;゚∀从「――! 来るぞ!」
右手の方にある木が、大きくしなった。
背を逸らすような動きから繰り出されるのは、
その反動を最大限に利用した、強烈な叩きつけの一撃だ。
(;゚Д゚)「っ!!」
背後へ身を飛ばして回避。
目前、太い幹が地面を殴打し、先ほどとは比べものにならない破壊を生む。
ブチ撒けられた土や葉から顔を守りながら、
从;゚∀从「うひゃぁ……コイツらから枝をとれっていうのかよ?
無茶じゃね?」
(;゚Д゚)「いや、生徒に出来ないことを試験にするわけがない……と思いたい」
曝ク;゚∀从「願望かよっ!」
- 107: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:33:54.55 ID:ljtxHXQy0
- 見た目と数に惑わされては駄目だ。
確かに数こそ多いが、動き自体は鈍い。
攻撃も、速度とインパクトは凄まじいだけで、それ以外は特に警戒することもないはず。
落ち着いて戦えばやれる。
渋澤先生とタイマン張るよりよほどマシだ。
見えない拳より、見える幹の方が対処しやすいに決まっている。
そう思い、ギコは周りへ忙しなく視線を飛ばした。
(,,゚Д゚)(遅いっていっても周りを囲まれてるからな……。
一番怖いのは、やっぱり死角からの不意打ちか)
ぎし、という音が左後方から響く。
すぐに反応出来るよう腰を落としながら振り向くと、
ル(i|゚ ー゚ノリ「――私か」
少し離れた位置に立つミリア目掛け、迷動神樹の身が振り下ろされた。
しかし彼女は長刀を手に提げたまま動こうとしない。
不敵な笑みを浮かべたまま、衝撃の中へと消えていった。
- 111: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:35:16.81 ID:ljtxHXQy0
- もう三度目となる撃音が、鼓膜を震わせる。
(;゚Д゚)「ミリアさん……!?」
从;゚∀从「……!」
だが、
ル(i|゚ ー゚ノリ「――私の名を呼んだかね?」
信じられない光景だった。
土煙に消えたはずのミリアが、身を倒した巨木の上に立っている。
右手には長刀が、左手にはその鞘が握られており、
斬。
という音と共に、硬く太いはず幹が、真ん中から横一直線に断ち切られる。
一瞬遅れ、切断面から透明な液体が溢れ、水音を立てながら土を湿らせた。
斬撃が見えなかった。
いや、倒れる前に斬っていたのだろうか。
それすらも解らない。
圧倒的、という言葉が浮かぶ。
身のこなしから只者ではないと思っていたが、まさかここまでとは。
- 114: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:37:20.79 ID:ljtxHXQy0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「……ふむ、これか」
ミリアが、いつの間にか左手に一本の細い枝を持っていた。
そして彼女はこちらを見て、
ル(i|゚ ー゚ノリ「まずは私が試験をパスしたようだな?」
(;゚Д゚)「!!」
从;゚∀从「ちっ、しれっと言ってくれる……!」
挑発を受けたハインが、白いナイフを横に構えた。
それはレクリエーションの時に見たものと同じで、
《 Get Set ―――――――術式プログラム選択=現象系魔法類【フェノメノン・アーツ】。
Code【ReSu-300】―――複製召喚/現界時間5分。
All Ready ――――――Execution=【Gale of White Thunder】――》
彼女の術式が起動する。
- 116: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:39:14.63 ID:ljtxHXQy0
- まず足元、直径1メートルほどの光の円が展開。
ハインを真下から照らす光は、彼女の足に纏わりつき、膝から下を埋め尽くした。
そして弾けるような音と共に光が消え、
从 ゚∀从「行くぜ白雷……!!」
これまで何度か見た機械式ローラーブレード。
それを魔力でコピーしたものが、彼女の両足に装着されていた。
从 ゚∀从「いちいち履き替えてる時間はねぇからな!
問題になる制限時間は、それまでに終わらせればそれで済むだろ!」
疾走開始。
ハインの意思を受け、回転し始めたローラーが土に噛み付き、
从#゚∀从「――っ!!」
爆発的な加速を乗り手に送った。
- 119: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:40:42.91 ID:ljtxHXQy0
- 行くのは正面。
ハインの加速を認識した迷動神樹が、身を反らして迎え撃つ。
反動に乗った幹が放たれ、ハインが軽い跳躍で回避した。
衝撃。
迷動神樹が叩きつけられる。
その間に、体勢を戻したハインがステップを刻み、
从 >∀从「っとりゃ!」
地面に寝る形になっている迷動神樹の幹に、果敢にも飛び乗った。
だが、
从;゚∀从「――うぉっ、おぉ!?」
構わず迷動神樹が身を起こした。
ハインは振り落とされる前にナイフを幹に刺し、身体を固定する。
それが知覚出来ているのか、対する巨木は勢いに任せて身を振り回し始めた。
傍から見れば凄まじい光景である。
木とは、ただ黙って立ち尽くすイメージが多くの人にはあるだろうが、
今、そのような木が、物凄い勢いで枝葉ごと己を振り回しているのだ。
- 123: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:43:13.24 ID:ljtxHXQy0
- (;゚Д゚)「ハイン……!」
当然、幹にしがみ付いている彼女は大変なことになっている。
ナイフ一本を両手でホールドしてはいるが、
あのままではいずれ刃が抜けるか、折れるかしてしまうだろう。
特に彼女の持つ『SilverSweetEdge』は術式機構とリボルバーが仕込まれているため、
耐久力的に考えた時、後者の確率の方が高くなる。
何とか助けてやりたいが、
ル(i|゚ ー゚ノリ「ギコ君、こちらにも来たぞ」
周囲にいる迷動神樹はそれを許さない。
仲間を倒された恨みからか、より過激に動き始めている。
ル(i|゚ ー゚ノリ「私は手を出さん。 ただ、己の身を守るだけに刃を振るう。
それでいいな?」
(,,゚Д゚)「もちろん!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……そして一つ問いたい。
君は今、ハインリッヒ君を助けようとしたか、と」
(;゚Д゚)「え」
- 127: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:45:33.84 ID:ljtxHXQy0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「二人一組で受けた試験ならともかく、君達の場合はそれで良いのか?
もちろん試験のルール的な意味ではない。
君自身が、そして彼女がそれで良いと思うのかな?」
つまりミリアはこう言いたいのだろう。
この程度の危機、誰の助けも借りずに乗り越えられなければ、
そもそも試験として意味がないのではないか、と。
確かに、ギコとハインが一組になって試験を受けたのには特別な理由がある。
それが無ければ、例えばミルナやヒートのように一人で受けなければならなかったのだ。
(,,゚Д゚)「――――」
迷動神樹の動きに気を配りながらハインを見る。
彼女は暴れまくる巨木に必死にしがみつき、何とかしようとしている。
食いしばっている歯が見えるが、助けを求める声はない。
その代わり、
……助けはいらねぇよ。 だからお前はお前で頑張れ。
そう、言われた気がした。
- 132: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:47:32.25 ID:ljtxHXQy0
- (,,゚Д゚)「――!」
だからギコは、拳を構えながらハインへ背を向ける。
己へとにじり寄ろうとしている迷動神樹へ強い視線を向けた。
それを見たミリアが、別の木と相対しながら笑みを浮かべる。
ル(i|゚ ー゚ノリ「頑張りたまえよ、若者」
(,,゚Д゚)「うっす……」
今、自分は圧倒的に不利だ。
ミリアのような刃は無く、ハインのような機動性も無い。
頼れるのは鍛えた身体と、握った拳だけ。
敵は、自前の質量をそのままに叩きつけてくる巨木。
ガードすればそのまま潰されるだろうし、近付けば身を振り回して攻撃してくる。
しかもそれが周りに何体もいるのだ。
(,,゚Д゚)(でも、なんとかしてやる……!)
- 135: ◆BYUt189CYA :2009/08/01(土) 22:48:30.13 ID:ljtxHXQy0
- 思い出せ。
熟練のナイフ使いと戦ったことがある。
見えない鉄の拳に立ち向かったこともある。
竜と正面から相対し、拳を放ったこともある。
だから、行けるとも――!!
ギコが前へ身を飛ばすのと、迷動神樹が身をしならせるのは同時。
直後、叩きつけから発生する轟音が鳴り響く。
(#゚Д゚)「おぉ――……ッ!!」
それが、戦闘開始の合図となった。
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