( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:11:28.88 ID:FGx+Eqqu0

 賭け事は良くないなんて誰が決めた事なんだ。
人生なんて全てがギャンブルみたいなもんだろう。
どんな顔で生まれるか、何の才能を持っているか、生まれてみないとわからない。
この世に誕生した時点でギャンブルは始まっているんだ。

 努力が一番という人もいるがどんなに努力しても出来ない事は出来ない。
運の要素が絡まない事なんて何一つとて存在し得ないのだ。

 ボードに積まれたコインの山を見て、自分の強運が天に導かれたものだと確信していた。
初めてカジノという場所に行き、見た事も無い大金を目の前にして、俺は悟ったんだ。

 力ある者は勝つ『運命』に置かれ、力無き者は負ける『運命』にあるのだと。
不自然が支配する人間社会で唯一存在する自然は人間の『運』。
『運』がもたらす摂理の中で、勝ち組と負け組が決まるのもまた自然なのだ。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:11:56.79 ID:FGx+Eqqu0













#5

*――セイントギャンブラー――*



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:15:09.08 ID:FGx+Eqqu0

 シャンデリアの明かりは太陽よりも眩しく、煌びやかで下品だ。
このカジノの天井にもシャンデリアが取り付けられている。
光力が若干弱く設定してあるのか、目がくらむ程の眩しさは無い。
それでも自分が大富豪にでもなったかと錯覚するような魔力がシャンデリアにはあった。

 正直な話俺は貧乏だ。
王様から貰った旅の資金は、節約しなければあっという間に無くなってしまうはした金だった。
一日二食と決め、余計なものは何一つ買わない生活を続け、旅を続けている状態である。
そんな俺がカジノに出かける事になったのにはある理由がある。
簡単な話で、無料でゲームが出来る招待券を偶然手に入れたからだ。

 少々話は変わるが、酒場での情報収集で最も大切な事は何か、分かるだろうか。
答えはこれも情報だ。基本的に情報は交換されるものであり、欲しい情報と等価値の情報を相手に与える必要がある。

 俺の持っている情報とはすなわち旅の話である。
リスキーな旅ではないので血湧き肉躍るような冒険話は出来ないが、それでも数分間相手を楽しめるだけの物語は語れる。

 平和な街暮らしの人間相手であれば、俺でも出来るような冒険話で十分なのだ。
この街でも俺は酒場でせっせと情報を集めていた。モンスターが多数生息している危険な地域。
盗人に狙われないようにする為の秘訣。安宿や良質な古道具を売ってくれる店などの情報である。

 話を聞く相手はマスターや街に店を構える商人に絞っていて、老人や子供は通常避ける。
ところがその日、酒場にてとある老人が俺に旅の話をして欲しいとせがんできたのである。
大した情報は期待出来なさそうな感じがしたが、頼まれたのに断る事は出来ない。
実際に経験した話を少し味付けして、老人の顔が笑顔に変わるまで冒険の話をしてやった。

 案の定何の情報も手に入れる事は出来なかったが、代わりに良いものを貰った。
それがカジノの招待券という訳だ。タダ同然で手に入れたんだから、使わないのは勿体ない。
あまり期待もせず、1ゲームしたらさっさと帰ろうと思ってカジノへ出かけ、今に至る。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:17:13.77 ID:FGx+Eqqu0

 ボードに座っている俺の周りには、大勢の人だかりが出来ている。
山積みのチップの間から顔を出している俺は、自分でも気色悪いだろうと思うくらい顔がにやけていた。

 1ゲームで帰ろうと思ったが、最初のゲームでボロ勝ちしてしまったのだ。
タダで貰った10枚のコインが、たった一回のゲームで80枚になった。
今帰るのは勿体ないだろうと考え、もう一度だけゲームに挑戦する事にした。
次のゲームでコインは246枚になり、有頂天になった俺はもう一度だけと決め半分のコインを賭ける。
すると三回目のゲームで計438枚のコインが手元に残った。

 この時点で俺の周りには徐々に野次馬が集まり、帰るに帰れなくなった。
はやし立てる野次馬の期待に応えなくてはいけないという使命感が芽生え、さらにゲームを続けていく。
勝ったり負けたりを繰り返し、順調にコインの枚数を増やしていき、現在3184枚のコインを保持している。

 全てのコインを金に換算すれば955200Gだ。
普通にゲームを楽しんでいる金持ちにすれば大した額じゃないかもしれないが、俺には大金以外の何物でも無い。
薄汚れた旅人がこの枚数のコインを持っているのは珍しいらしく、野次馬の数も半端じゃなくなってきた。

(´・_ゝ・`)「次のゲームはどうされますか?」

 無表情のディーラーが俺に向かって尋ねる。
既に帰るという選択肢が完全に欠落している俺は、無言で頷き、ゲームを続行した。
カードをシャッフルしている間に、ウェイジャーの額を手元のパネルで入力する。
3184枚の内アンティによって5枚のコインを失い、残った内の1179枚を賭け、カードが配られるのを待った。

 結果は、惨敗。1184枚を失い、俺の残りのコインは2000枚きっかりとなった。
今帰ってもまだ600000G手に入れる事が出来る。どうする、帰るか。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:19:10.54 ID:FGx+Eqqu0

( ´_ゝ`)「ゲームを続けます」

 考えるまでも無い。元々10枚のコインだったんだ。このチャンスを逃す手は無い。
保身を考えると人間は弱くなる。アンティの残りである1995枚全てをウェイジャーにすると、野次馬が一斉に唸った。

 このテーブルでは手持ちのコイン全てを賭けると勝った時の取り分が2倍になるルールがある。
今度こそ最後のゲームと考え、大一番の賭けに出る事にした。
シャッフルされたカードが配られる間、俺の心臓は弾けてしまうのでは無いかと思うくらい高鳴っていた。

 もう一度言おう。俺は勝つ『運命』の中にあり、神でさえ覆せない摂理の中にある。
ゲームが終わった時、俺の手元には11172枚のコイン、金額に換算すると3351600Gが残った。

 3351600G。俺は今まさしく、流れに乗っている。
もしも次10倍勝ちの当たりが出て、全てのコインを賭けた時の2倍ボーナスがつけば、20倍。
67032000Gを手に入れられる。考えるだけで頭がくらくらするような額だ。

 このテーブルのマキシマムベットは2000枚だが、勝利した次のゲームで全てのコインを賭ける場合、上限が無くなる。
まさしく今の俺にぴったりのルールじゃないか。ここで逃げる奴は屑だ。人間のゴミだ。
努力すれば何でも出来るというのは運に見放された負け組の戯れ言である。
本当に勝てる人間はこういう時勝負に出て、勝利を手にする選ばれしソルジャーなのだ。

( ´_ゝ`)「続けます」

(´・_ゝ・`)「OK」

 シャンデリアの光は俺のような人間にこそ相応しい。
あくまで店の照明なのだが、この時ばかりは俺だけを照らすスポットライトのように感じた。
生まれるべくして生まれた勝利者、栄光を掴み取るべき人間、俺という支配者の為にあるのだと。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:22:04.31 ID:FGx+Eqqu0

 『おお――――!』

 野次馬たちがとうとう叫んだのは、俺がゲームを終えた瞬間だった。
手元に輝く145236枚のコインと、コインが示す43570800Gの価値にである。

(;´・_ゝ・)

 ずっと無表情を貫いていたディーラーの顔に汗が浮かんできた。
フロアマネージャーらしき男が彼に耳打ちをする。
思った通り、ディーラーは俺にもうやめた方が良いと促してきた。
今まで一般市民たちのなけなしの小遣いを貪り取ってきたカジノに、遠慮するつもりなど毛頭無い。

( ´_ゝ`)「続けます」

 涼しい顔でウェイジャーを決める。ベットはもちろん全てのコインだ。
不幸な人生だと嘆いていたのが嘘のようだった。俺の幸福は今この場に集中していたらしい。
ならば今までの分を全て取り返すだけ。何も間違ってなどいないんだ。

 次勝てば最高871416000G、最低でも174280200G手に入れられる。
もう旅の資金を気にして生活する必要は無い。一日三食どころか五食も六食も食べられる。
最高級の宿のスウィートルームを巡る旅なんかも良さそうだ。
毎日高級料理を食べ続け、装備も一流のものを揃えられる。

 そうだ、用心棒を何人か雇おう。これからモンスターが出た時は彼らに頼めばいいんだ。
考えるだけで楽しい旅になりそうだ。勇者に選ばれた時はどうしようかと思ったが、なんてことはない。
この日この為に俺は旅に出たんだ。俺は選ばれし者、聖なる賭博師なのだから。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:23:22.82 ID:FGx+Eqqu0


*―――*


 ギャンブルなんて最低だ。あんなものに現を抜かすのは生きている人間のやる事じゃない。
結局最後はこつこつと頑張ってきた人間が報われるんだ。
たった数分で大金が稼げるなんて夢見がちな馬鹿しか考えない愚行なんだ。

▼・ェ・▼「クゥーン」

 カジノの外に出たとき、夜の冷気と共に蘭子が迎えてくれた。
俺のかけがえのないペットであり、とても金には換えられない大切な相棒である。

( ´_ゝ`)「ごめんな。待たせちゃって。宿を探そうか」

▼・ェ・▼「ワン!」

 急に腹が減ってきた。この街なら夜でもやっている惣菜屋かパン屋があるはずだから、寄ってみるか。
いや、あまり金に余裕が無いな。今日は何も食べずに、明日の昼まで待っておくか。

 腹が減るのは生きている証拠だ。空腹のおかげで俺は生きている実感を味わえるのだ。
普通の人間よりよほど生を体感出来る時間が長い俺は幸せ者なんだな。うん、きっとそうだ。

 腹が減るのは人の摂理。誰もが摂理の中でしか生きられない。
突然大金が手に入るような事が無いのも、摂理の内なんだ。

 頬を伝う涙も、体を撫でる冷たい風も、きっと生きてるって事なんだ。
全然わからないけど、そういう事にしておこう。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:25:01.96 ID:FGx+Eqqu0


#セイントギャンブラー

終わり



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