( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:19:08.27 ID:om5ik3Ez0
- 人間の感覚が最も鋭くなるのは死の危機に瀕した時だと聞いたことがあるが、今がまさにそうだ。
- 毛むくじゃらの化け物は発情したウサギみたいに、興奮した顔で爪を地面に突き立てていた。
- 前足の筋肉が異様に発達しているのは、突進が最大の武器だからだ。
- ミ゚益゚彡「グゥオオォォォォ」
- 涎まみれの口から生臭そうな吐息がはき出された。
- あの細菌だらけの牙でやられるくらいなら、喜んで蘭子の餌になるね。
- とはいっても蘭子だって歯磨きしてないだろうから、大して変わらないだろうけど。
- さあ、どう生きようか。
- 今までの戦闘で培った経験から言えば、こういう時勝とうなんて考えてはいけない。
- 逃走も同様に愚かな選択肢だと知っておく必要がある。
- 生き延びること。戦闘時の思考の根幹を成すのはそれのみだ。
- 大丈夫、結果は後からついてくる。
- 生か死か、わかったもんじゃないんだけどな。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:19:32.14 ID:om5ik3Ez0
- #12
- *――ブレイバー――*
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:22:48.36 ID:om5ik3Ez0
- ドレッドマギーは大型の肉食獣で、世界中に生息しているモンスターだ。
- 体長4メートル。体も口も牙も爪もでかいが、目と耳は小さくて丸っこいという、アンバランスなやつ。
- 体表は紫色の毛で覆われていて、急所が分かりづらいがダメージにはめっぽう弱い。
- 問題は長い前足の攻撃と、一撃必殺の突進をどうやって躱すかである。
- 今持っている武器は竜紋の短剣、煙玉、目つぶし、etc。
- 致命傷を与えることが出来るのは短剣での攻撃のみだが、眉間か心臓でなければ意味が無い。
- 例え首をかっ切っても差し違える覚悟でやつは爪を振るうだろう。
- 小さなダメージを蓄積させるには、確実にやってくる反撃を躱す準備をした上での話になる。
- ミ゚益゚彡「グアァ――――――ッ!」
- 木漏れ日の光線が降り注ぐ真昼の森で、マギーは高らかに吠えた。
- 巨体の割に臆病で、人を襲うことなんてまずないとされているマギーが、逃げることもせず臨戦態勢を取っている。
- 人間みたいに個性があるのかもしれないな、という分析をしている間に、初撃の時間がやってきた。
- マギーが前屈みになり、体を丸めた次の瞬間、前足の筋肉がはち切れそうな程膨張した。
- 生えそろった体毛の間から、皮膚が直に見えるくらい膨らんだ筋肉は、跳躍と同時に破裂したように萎んだ。
- 地面すれすれを滑空していったマギーは、ついさっきまで俺がいた場所を通過し、大木に頭を打ち付けた。
- ( ;´_ゝ`)(危なかった。今のは危なかったぞ)
- 痛いくらいに心臓の鼓動が早い。
- 恐怖と安堵が心を半分ずつ占めていた。
- マギーに気がつかれる前に、素早く木の裏に身を隠す。
- 緑色のコケが生えた樹木に背中をつけると、服がしっとりと湿り気を帯びた。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:24:54.84 ID:om5ik3Ez0
- 近くに小川が流れていて、水の流れる音がさらさらと聞こえてくる。
- 光の柱が生える鮮やかな緑色の楽園は、雰囲気だけなら心地よい空間だった。
- マギーがいなければクーや蘭子と一緒にのんびり散歩でもしたい場所だ。
- ミ゚益゚彡「グァァ」
- しこたま頭を打ったマギーは、こちらに背中を向けたまま動かないでいた。
- 攻撃のチャンスのように思えたが、足が出なかった。こちらの攻撃を誘っているように見えたからだ。
- マギーレベルのモンスターにそこまで知能があるとは思えないのだが、第六感が危険を察知している。
- 身を低くして木の陰を移りながら、マギーと距離を取った。
- ミ゚益゚彡「……」
- じっと観察していると、うずくまっていたマギーは目を覚ましたように立ち上がった。
- 忙しなく辺りを見渡す様子を見た限りでは、あまりダメージは見えない。
- やはり罠だったか。早計に走らなかったことを心の底から安堵した。
- ( ´_ゝ`)(長期戦になりそうだな)
- 全ての攻撃がほぼ一撃必殺の威力を持つマギーを相手に、焦りは最大の愚行である。
- 長期戦を見越して、予めウェストリーフに水と食料を詰め込んでいた。
- マギーの動向に注意し、見つからないように移動しつつ、隙を見つける。
- おおよそ勇者とは思えない戦い方だが、勝てば官軍。命を大事に、だな。
- *―――*
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:27:23.06 ID:om5ik3Ez0
- 差し込む木漏れ日が細く、随分と角度がついた頃になっても、戦況は変わらなかった。
- 草を踏み分け俺を捜すマギーに、影から影を移動しマギーから逃げ回っている俺、という図。
- いい加減諦めて隙を見せて欲しいのだが、マギーの辛抱強さは想像以上のものだった。
- 休憩を取ることにし、マギーがぎりぎり見える程度の距離に移動した。
- 倒木の後ろでウェストリーフを広げ、固いパンとかりかりのベーコン、水筒を出す。
- 夜になれば勝ち目はほぼ無くなると見ているので、日が暮れるまで戦うつもりは無い。
- だからこの食料は一回分である。
- ( ´_ゝ`)(何でこんなことになったんだろうな)
- サラダ平野を抜けた先にある、リーベンヤルスクという村に、三日前たどり着いた。
- 畜産物で有名なリーベンヤルスクで、美味いステーキとワインでも楽しもうと期待していた。
- ところが村ではある問題が起きていて、お上品なディナータイムを楽しんでいる場合では無かったのだ。
- 『勇者様。折り入ってお願いが……』
- 俺に面と向かって勇者“様”とのたまうのは、十中八九モンスター関係の依頼をしてくるやつだ。
- ハンターに頼むと値がはるからだろう。俺を便利屋のようにこき使い、さらにそれを当然だと思っている。
- 伝記に載っている勇者様はさぞかし都合の良い好青年だったんだろうが、俺を同列に考えないで欲しい。
- そういうわけで最初は何やかんやと理由をつけて断っていたが、最近ではなるべく受けるようにしている。
- 俺だって役に立ちたいという気持ちはあるし、感謝されればそれなりに嬉しい。
- だが一番の理由は、シェルジアで出会った闇鴉のことだ。圧倒的な殺気に、戦わずして負けた。
- それから恐怖で眠れない日々が続いたが、日が経つにつれて悔しさに変わっていった。
- もっと強くなりたい。誰かを護れる力が欲しい。
- 柄にも無いことだが、そう思うようになったんだ。だから、モンスター退治は好都合な修行だった。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:32:51.53 ID:n1dTy63e0
- ただマギーが相手だとは思っていなかったので、俺はとてつもない窮地に陥っているというわけだ。
- モンスターの情報は図書館の資料で勉強していて、弱点や習性、その他諸々の特徴は知っている。
- マギーのことも大方分かっており、前述した通りむやみやたらに人を襲うようなやつではないはずなんだ。
- 今までの旅でマギーと出会ったときだって、戦闘になる前にこっそりと逃げていた。
- 例えこちらの存在に気がついていようが、危害を与えなければ逃げられるのだ。
- でなければ俺は今まで十数回以上は死んでいる。まさかそのマギーと戦う日が来ようとは。
- ミ゚益゚彡「……」
- ミ゚益゚彡「……」
- 遠くの木々の間から、慎重に辺りをうかがっているマギーの姿が見える。
- 牛より大人しいマギーが、獲物を探してうろついてるのが恐ろしい。
- リーベンヤルスクの家畜がマギーに襲われ始めたのは、一ヶ月程前かららしい。
- 多くの農家が被害に遭い、困っていた所に運良く(俺にとっては悪く)俺がやってきた。
- モンスターに詳しくない村人は、四本足で毛むくじゃらのモンスターとだけ俺に伝えた。
- 人間の村に下りてくる野生のモンスターは、大したことないやつが多い。
- だからてっきり、マギーと似た姿をしているメージマージかウルフトロール辺りだと思った。
- マギーに負けず劣らず巨体のモンスターたちだが、勝てない相手では無い。今までだって何度も戦った。
- マギーが相手だと知っていれば、百戦錬磨のいい訳の達人の俺が、依頼を受けるはずが無い。
- しかし本当に疑問だ。どうしてマギーは家畜を襲ったりしたんだろう。
- どうして俺を見ても逃げだそうとせず、すぐさま戦うことを選んだんだろう。
- マギーに聞くわけにもいかないが、気になっていまいちモチベーションが上がらない。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:35:45.51 ID:n1dTy63e0
- ミ ゚益゚ 彡
- ( ´_ゝ`)
- ミ#゚益゚ 彡
- ( ;´_ゝ`)
- 戦闘中に他のことを考えるのは今後絶対やめにしようと心に誓った。
- いつの間にか近づいていたマギーと目が合った。流石にこの距離では向こうもこちらに気がついたようだ。
- ゆっくり、確実に俺を目指して歩いてくる。隠れるのはやめにして、やつの前に姿を現した。
- やつとの距離はおよそ30メートル。これ以上近づかれると突進が避けられない。
- マギーが歩いてくるのと同じスピードで後ろへ下がった。逃げ腰の俺を見て、マギーの歩みが早くなる。
- しけった落ち葉が踏みつぶされる音が、六つ分の足の数だけ交わる。
- 薄暗い森のひんやりとした空気が震えているように感じた。
- 対峙する俺とやつの間に、常に木を一本以上挟むようにして、距離を保って移動する。
- 突進対策だが、中々功を奏している。マギーの苛立ちが目の充血に表れていた。
- だがこれではいつまで経っても戦いは進展しない。それどころかいずれは追い詰められるだけだろう。
- 何か策を考えなければならないが、あいにくマギー対策の道具を一つも持ってきていないので、何も手が無い。
- 一旦村に戻って体勢を整えた方が良いかもしれないと、考え始めた時だった。
- マギーの第二撃が始まった。
- ミ゚益゚彡「グァァァァァァ!」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:37:38.63 ID:n1dTy63e0
- 突進程のスピードはまるで無いが、駆け足気味で距離を詰めてきた。
- とっさの判断で背中を向けて駆けだした。敵前逃亡では無く、あくまで戦略的撤退として。
- 真っ直ぐに逃げることはせず、右に左に方向転換しつつ、倒木を飛び越え、なるべく狭い道を選んで走った。
- マギーが俺を見失ってくれれば良かったのだが、しつこく俺を追ってきている。
- 徐々に足音が近づいてくるのがわかり、恐怖で焦って足がもつれた。
- ミ゚益゚彡「ガァッ!」
- ( ;´_ゝ`)(近い!)
- 首だけを後ろに向け、マギーとの距離を確認した。やつは俺のほんの十数メートル後ろにいた。
- 走りながら、ベルトにくくりつけていた煙玉を手に取る。
- 従来のように火を付ける必要が無く、玉から出ているヒモを引っこ抜けば、数秒後に煙が出てくる優れものだ。
- 両手に煙玉を持ち替え、口にヒモを挟み、同時に歯で引き抜いた。
- 後ろを見ずに煙玉を一つ、投げるのではなく下に落とすように設置した。
- ( ;´_ゝ`)(神様。俺そんなに悪いやつじゃないから、ご加護をくれよ)
- 茂った雑草の中でくすぶる煙玉から、白い白煙がぽつぽつ噴き出し始める。
- 同じタイミングでヒモを引き抜いたので、手に持っているもう一つの煙玉からも煙が出始めた。
- ミ゚益゚彡「アアァガァァァァ!」
- 薄い煙の幕の向こうでマギーが吠えた。距離はもう10メートル程度しかない。
- マギーが助走の体勢に入った時、手に持っていた煙玉を、思いっきり頭上に投げ放った。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:41:06.22 ID:n1dTy63e0
- マギーがかがみ、前足の筋肉に力を込めているのが確認出来た。
- 地面に落とした煙玉は、立ちこめた白煙によって既に見えなくなっている。
- マギーの姿も同様に煙によって隠れていった。
- ( ;´_ゝ`)(逃げろ逃げろ避けろ避けろ!)
- 頭から飛び込むようにして横っ飛びに跳躍した。土の地面を鳴らした足音が地震のように聞こえてくる。
- 地面に倒れながら、頭を抱えて伏せた瞬間、煙の中からマギーが突進してきた。
- 目標の俺がいないことを知ると、足で地面をえぐりながらブレーキをかけた。
- うつぶせで横たわっている俺に土のシャワーが降り注ぐ。
- ミ゚益゚彡「グァ……!」
- 空振りに終わった二度目の突進の直後、空に飛ばしていた煙玉がマギーの眼前に落ちた。
- もくもくと吹き出る煙にマギーの体が覆われ、やつの視界を完全に奪う。
- 飛び跳ねるように体を起こすと、鞘から短剣を引き抜き、煙を迂回して背後へ回った。
- 頭隠して尻隠さず。白煙からはみ出しているマギーの後ろ足を狙い、短剣で素早く二度切りつけた。
- ミ゚益゚彡「アァグァァ!」
- 今まで聞いていた咆哮とは違う、悲痛なうめき声が聞こえた。
- 追撃しようかと一瞬迷ったが、白煙の中で光る赤い眼がこちらを捉えたのが見え、即座に身をかがめた。
- 前足の爪が、頭のすぐ上で空気を切り裂いたのを肌で感じ、冷や汗が吹き出る。
- 立ち上がり低い姿勢を保ち、足音を立てないように注意してその場から離れた。
- 後ろ足につけた傷は深く、マギーはしばらく煙の中から出られないようだった。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:44:42.48 ID:+jSnCPht0
- 攻撃ではなく、逃走の好機と考え、やや離れた場所の草むらに体を潜り込ませる。
- 息を殺して煙が薄れるのを待った。
- マギーの姿が見えてくると、逃げる体勢を取りつつ反応をうかがった。
- どうやらこちらの居場所には感づいていないようだった。
- さっき傷をつけた後ろ足を引きずりながら、きょろきょろと周りを探っている。
- 短剣はあまり攻撃力は無いが、この竜紋の短剣で付けた傷は見た目以上の効果を発揮する。
- 何故なら竜紋シリーズの武器には例外なく、魔法使いによって呪術がかけられているからだ。
- この短剣には“部分機能麻痺”の効果がつけられている。これで後ろ足は使えないだろう。
- しかし効果は10程度しか持たない。今からは短期決戦となる。
- 握りしめていた短剣についていた血を服の袖で拭った。
- マギーが後ろを向いている時だけ移動するようにして、距離を詰めていく。
- 特別聴覚や嗅覚が鋭くないマギーでも、ばれずに近づくのは10メートルが限界だ。
- 心を落ち着け、息が乱れないようにして、機を待った。
- ミ゚益゚彡「……」
- ミ ゚益彡
- ( ;´_ゝ`)(よし)
- マギーの視線が横を向いた瞬間、拾った木の棒を斜め上に放り投げた。
- 放物線を描いてマギーの頭上を越し、向こう側の草むらに落ちる。
- 棒が木の葉を揺らした音に、マギーが反応し顔を向けた。
- 木の陰で覗いていた俺は、足音で気付かれるのを覚悟で大股で接近を始めた。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:46:59.39 ID:+jSnCPht0
- あと5メートルという所でマギーの顔がこちらを向き、その小さな瞳が揺れ動いた。
- 人間が驚いた時と同じ表情に見えた。
- 革袋に入れていた目つぶしの粉を握りしめ、顔に向かって投げつける。
- 巨体に釣り合わないうめき声が甲高く響いた。俺には、泣いているようにも聞こえた。
- 竜紋の短剣で右の前足を切りつけ、一旦後ろに下がる。
- マギーは大きく体をぐらつかせ、座り込むように体を沈めた。
- 唯一使えるもう一方の前足で、必死に虚空を切り裂いている。
- マギーの攻撃が当たらない範囲から、短剣を振るい、体に傷を付けていった。
- 肉が避けた部分から、赤い血がどくどくと流れ落ちる。
- 短剣を突き刺す度に、マギーの動きが鈍くなっていった。
- やがて残った前足も動かなくなった。
- 犬のお座りの体勢で、力無く地面にへたり込むマギーに、もう戦う力は残っていなかった。
- 人間と同じ色をした血が、円上に地面を黒く染めている。
- ミ゚益゚彡「……」
- とどめを刺そうとしている俺を、マギーは何かを訴えかける目で見ていた。
- 命乞いのそれとは違う、別の光が宿っていた。
- このまま放置しても、マギーは死ぬだろう。
- だが逃げてはいけない気がした。最期を看取らなければならない気がした。
- 眉間に刃が突き刺さる直前まで、マギーはじっと俺の瞳を見つめていた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:50:02.98 ID:+jSnCPht0
- *―――*
- 村に帰る途中、夕焼けに染まる森の中で、一匹のドレッドマギーと出会った。
- ミ,,゚Д゚彡「ギャァァ。ガァッ、ガァァ」
- まだ体の小さい子供だった。
- マギーは長寿のモンスターだ。大体1000年近く生きるらしい。
- その割に子供の期間は少なく、およそ20年で成獣となる。
- だから子供のマギーは貴重で、毛皮などが高く取引されている。
- 足にまとわりつくマギーの子供を、見て見ぬふりをして通り過ごす。
- 考えつくのは悪い発想ばかりだった。
- こいつの親を俺が殺した。あり得ない訳では無い。
- むしろそうじゃない確率が低すぎて、泣きたくなってくる。マギーは群れるモンスターじゃない。
- しかし自分の子供であるならば別だろう。まだ子供を育て終えていないマギーを、俺が、この手で。
- ( ´_ゝ`)(だからどうした。俺は悪くない)
- 森から出たのが運の尽きなのだ。人間と戦うことを選び、そして死んだ。
- 卑怯な戦い方ではあったかもしれないが、生きるか死ぬかの戦いにルールを設ける方がどうかしてる。
- 誰も悪くないはずだ。俺も、マギーも、マギーの子供も。
- だから頼むから、
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:52:30.25 ID:+jSnCPht0
- ミ,,゚Д゚彡「ガァァ、ガァァ……」
- そんな悲しそうな声で鳴かないでくれ。
- *―――*
- 『いやはや、見事なお手並みですな』
- 切り取ったマギーの牙を見せると、リーベンヤルスクの村長は歓喜に声を震わせた。
- 『お連れ様は宿でお待ち頂いておりますじゃ。
- 今日は勇者様たちの為に宴会を開こうかと思っているのですが、どうされますかな?』
- ( ´_ゝ`)「では、ご馳走になります」
- 食欲は無かったが、食える時に食っておくのは旅の基本だ。
- それに宿でお待ち頂いている俺のお連れ様は、胃の大きさを疑う程の大食漢なのだ。
- 『あのモンスター……。マギーでしたかな?
- あいつのせいで事業が進んでいなかったので、勇者様には感謝の言葉もありませんですわい』
- 青黒い空に浮かぶ月と、はげ上がった村長の頭が被る。いやそれよりも、事業とは何だ。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:56:59.21 ID:+jSnCPht0
- ( ´_ゝ`)「事業って、何かやってるんですか?」
- 『焼畑ですじゃ。山ごし(林業)より儲かるもんで、結構前から森の一部を使ってやっとったんじゃよ』
- ( ´_ゝ`)「……なるほど」
- 『ささ、勇者様、わしの家に案内するでな』
- 山々の中腹に、山肌が見えていた所が数カ所あったのは、焼畑をやっていたからなのか。
- すると自然のバランスが崩れたことで、マギーの行動に異変が起こったのかもしれない。
- 森の動物たちがよそに移り、今までのように獲物が取れなくなったマギーが、子供の為に家畜を襲った。
- 子供の為に人と戦い、子供の為に逃げることもせず、子供の為に死んだ。
- だとしてもやはり俺には関係無い。自然保護主義者では無いし、博愛思想も持ちあわせていない。
- そもそもこの村が何をしていたって、旅人の俺に口を出す権利なんて無いだろう。
- さあ宴会に行こう。ワインを飲んで、ステーキを食って、焼畑とやらで作った作物を味わおう。
- きっと今頃、親の死体の横でマギーが鳴いている。もう動かない死体の前で、マギーが泣いている。
- 俺は悪くない。マギーも悪くない。マギーの子供も悪くない。作物を作ったこの村も悪くない。
- 一番悪いのは、きっと誰も悪くないことなんだろう。
- 矛先が定まらない憎しみと、やり場の無い悲しみは、何処にも捨てることが出来ないから。
- ただ一つ、引っかかることがある。マギーは子供を護る為に戦った。
- だが俺は、一体何を護る為に戦ったんだ?
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/16(火) 21:58:19.73 ID:+jSnCPht0
- #ブレイバー
- 終わり
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