( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:24:31.85 ID:x5ZSzTRC0
- 宿屋の内装は質素なものだったが、風呂は広く快適な入浴が出来そうだった。
- 汚れた服を下取りに出して、新しい服に着替えたばかりにも関わらず、風呂を見つけるや俺たちはすぐさま裸となり、風呂へ直行した。
- 五日ぶりの風呂は気持ちよかった。
- 俺もクーもきれい好きという訳では無いが、手でゆっくりと体を撫でたり、お互いの体をつつきあったりして、長く湯につかっていた。
- 湯けむりが視界を覆う感覚を存分に楽しんだあと、タオル片手にすがすがしい気分で部屋に戻る。
- 『げ!』
- バックリーフをひっくり返し、中のものを物色している男を見つけたとき、浮き上がっていた足も地についた。
- クーは悲鳴も出ないらしく、タオルを胸の部分で抑えながら絶句していた。
- 俺はというと、タオルは手に持っていたが隠す気にもならず、固まっている男と裸のまま見つめ合っていた。
- 男が逃げだそうとする素振りを見せた瞬間、意識のピントが合い、条件反射で男の首根っこを捕まえた。
- 俺と同い年くらいで、歯並びが異様に悪い男だった。
- 『ごめんなさい! 出来心だったんです!』
- 出来心でやったにしては、逃げだそうとしたときの動きが随分と俊敏だった。
- おそらく常習犯だろう。
- それにしても、そんなに俺のことが怖いのか。
- 背中だけだった紋様が、二の腕や脇腹まで伸びているのが原因かな。
- 片目が塞がっているのが強面に見えたからかもしれない。どちらにしろ、ちょっとショックだ。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:26:11.81 ID:x5ZSzTRC0
- #18
- *――ガンパウダーマーチ――*
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:28:05.70 ID:x5ZSzTRC0
- ベッドの足に縛り付けておいて、その間に服装を整えた。
- 血が止まるまできつく縛っておいたから、男は縄をほどいてやるまで、恨めしそうな目つきで体を震わせていた。
- 男はモコロコと名乗った。俺より一つ歳上らしいが、盗人だけに容赦は出来ない。
- 警所につきだしてやろうか考えるも、可哀想になるくらい卑屈な態度に出られたので、ならばと交換条件を出してみた。
- 有益な情報を与えてくれるなら、見逃してやるというものだ。
- 『この街のことなら何でも訊いて下さいよ。娼婦の数まで答えられまさあ』
- ( ´_ゝメ)「用心棒を雇いたいんだ。
- この街にいる用心棒と、どれくらいの金額なら連れて行けるか教えてくれ」
- 『ヴァルガロンには結構な数の用心棒が滞在してますよ。
- でも用心棒ってやつぁよそからよそへすぐに流れちまうから、腕の良い奴ほど早めに唾つけとかないと』
- ( ´_ゝメ)「今誰がいるんだ」
- 『名が通ってるやつなら、タロサ兄弟や、マルダレってやつがいます。
- でもこいつらは相当な額を積まないと動かないんで、相応の資金が必要ですよ』
- マルダレだったら聞いたことがあった。大柄でスキンヘッドの頭に入れ墨をした男だとか。
- 元々武闘家だったらしく、その界隈ではかなり有名な男だ。
- ( ´_ゝメ)「どれくらいの金が必要だ。パダ山脈を越えたいんだが」
- 『マルダレだったら100、タロサ兄弟なら150は覚悟しておかないと駄目ですね』
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:30:31.62 ID:x5ZSzTRC0
- 考える余地も無いくらい法外な額だったが、逆にあきらめがつくというものだ。
- 用心棒の話はそれくらいにして、今度は手っ取り早く金を稼ぐ方法を訊いた。
- 『危険をいとわないのであれば、賞金首モンスターで稼ぐのが一番早いですよ』
- やはり、というかそれしか無いだろうな。
- 賞金首モンスターというのは体の部位が高く売れるモンスターのことだ。
- モンスターを倒し、売れる部位だけを専門の店で買い取ってもらい、金を稼ぐ。
- ハンターの職業がまさにこれだが、ハンター以外の者でもかまわず買い取ってくれる為、俺でも利用出来る。
- 『パダ山脈に行けばノックスやパランザーがいる。数多く仕留めたいならコチェットバスも良いです。
- ダンナが腕に自信があるなら、Cクラスのドムやヴァギュオヴァギュラを狙うのも有りかと』
- ( ´_ゝメ)「そこら辺は買い取り屋で相談する。あとはパダ山脈全域の詳しい地図が欲しい。
- 生息するモンスターと村の情報も。それと、用心棒を一目見ておきたいな」
- 『ならニッカバーっていうでかいバーに行けば、全部叶いまさあ。
- あそこは旅人や流れの商人がいるし、用心棒もよく行く。少なくとも一つくらいは目当てのもんはありますよ』
- ヴァルガロンは巨大な交易の街だ。たどり着いて初日だが、店と人間が四散している為何処に行けばいいか迷っていた。
- モコロコの言う言葉が確かなら、そのニッカバーには是非足を運びたい。
- 『これは忠告ですが、パダ山脈を越えるなら、種々の解毒薬としっかりとした装備が必要です。
- 街の北側にダイヴァーって商店通りがあって、そこには腕の良い鍛冶屋や防具屋、雑貨屋、薬屋があります。
- 街を出る前に一度は寄っていくのが良いですね』
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:32:46.93 ID:x5ZSzTRC0
- ( ´_ゝメ)「色々と悪いな。それでだ、ちょうど時間も良い頃だし、今からニッカバーへ行こうと思う。連れて行け」
- 『え!?』
- 俺の役目はここまでですと言わんばかりに話を締めくくろうとしたので、固い釘を刺しておいた。
- モコロコは痩けた頬をさらに萎ませて、半開きになった口から嗚咽に近いうめき声をはき出した。
- もの凄く嫌そうだが、利用出来るものは利用しよう。悪人のリサイクルは、地球にも俺にも優しいのだ。
- *―――*
- モコロコは顔の広い男だった。
- 先導させて街を歩いている途中、同じような風体をした連中から何度も声をかけられていた。
- モコロコに訊いたところ、普段は街の情報屋として日銭を稼いでいるから、顔を知られているとのこと。
- 盗人は副業のようだ。どうりですぐに捕まえられた訳だ。
- 『これでも疾風のモコロコって呼ばれて、旅人の間じゃ少し知られてたんですよ。
- 俺がトロいんじゃなくて、ダンナが速すぎるだけです』
- 逃げ足だけで疾風という通り名がついて、恥ずかしくないのだろうか。
- クーと目を合わせて、モコロコには見えないように苦笑いを交わした。
- それにしても、このヴァルガロンという街は歩いているだけで面白い。
- とっくに日も落ちているというのに、通りには絶えず人が行き交い、店も閉める気配を見せない。
- 褪せたレンガ塀の前では、芸者の集団が視線と盛況を集めていた。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:35:22.10 ID:x5ZSzTRC0
- また単なる旅人だけではなく、ハンター、用心棒、流れの武闘家や、怪しい武芸者が腐るほどいる。
- パダ山脈は修行の場としても知られていた。彼らの多くは挑戦者としてこの街に来ているのだろう。
- かくいう俺も挑戦者の一人なのだが、道を行き交う者たちの眼光の鋭さを見て、甘い考えで旅をしてきた自分が恥ずかしくなる。
- いよいよ死ぬかもしれない冒険も佳境に入ってきた感じがするのだが、恐怖は感じていなかった。
- おそらく、俺は自分が死ぬことよりも、
- 川 ゚ -゚) <お金稼ぐなら、私も働くよ>
- ( ´_ゝメ) <ああ。頼りにしてる>
- 何億倍も恐怖していることがあるから、ひたすら前に進めるのだと思う。
- モコロコが立ち止まった。
- 『ニッカバーはここです』
- 見上げた建物は、富豪の屋敷のような木造の二階建てのバーだった。
- 段差になったポーチタイルの両側には、ボトルの形をした花入れと、気取らない色をした花がさしてある。
- 数段上った先で、綺麗にコーティングされた木製のドアの片方が開いたままになっていた。
- 忙しそうに立ち回るウェイターが見える。中で起こっているから騒ぎで耳が痛い。
- 『二階の立ち飲みは安いんで、俺もよく来るんですよ』
- ( ´_ゝメ)「悪いなモコロコ。案内させた上に奢ってもらうなんて」
- 『さあ俺が案内するのはここまで……え?』
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:38:23.60 ID:x5ZSzTRC0
- 川 ゚ -゚)「あぅ」
- ( ´_ゝメ)「さ、入るぞ」
- モコロコが『鬼!』と叫んだような気がするが、ニッカバーが震えるほどの一際大きい歓声によってかき消された。
- 嫌がって逃げだそうとするモコロコを引きずりながら、蒸し暑い熱気に包まれた店内に足を踏み入れた。
- *―――*
- 酒はたしかに安いが、質は期待していた程では無かった。
- まあタダ酒に愚痴を言っていてもますます不味くなるだけだ。
- 川*゚ -゚) <バーに来るの久々。おいしいね>
- クーは酒に弱い癖にペースを考えずに飲むところがあるので、ほどほどにしておけと釘を打っておいた。
- モコロコはかなり度数の高い酒を注文し続けている。飲んでないとやっていられないという感じだ。
- ( ´_ゝメ)「今日は用心棒は来てるか?」
- 早くも目尻が下がり、上気した顔を見せているモコロコは、手すりに腕と顎を乗せて目線を階下に泳がせた。
- モコロコの横で、手すりに背中を預ける。肩越しに下の連中を見下ろした。
- 『いますいます。カウンター席で一人で飲んでるのがマルダレ。
- 入り口に近い席にいる、おんなじ顔した二人がタロサ兄弟です。あっ』
- ( ´_ゝメ)「どうした」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:40:09.65 ID:x5ZSzTRC0
- 顔を上げたモコロコは、手すりから身を乗り出す勢いで顔を出し、それから目を細めて何かを注視した。
- すると今度は手すりに隠れるようにしゃがみ、手すりの隙間から下の様子をうかがい始めた。
- ( ´_ゝメ)「どうしたんだ」
- 『ダンナ。ラッキーかどうか知りませんが、今日はどえらいやつが来てますよ』
- ( ´_ゝメ)「誰が来てるって?」
- 川 ゚ -゚) <どうしたの?>
- 俺とクーはモコロコの横にしゃがみ、同じように手すりの隙間から下を覗いた。
- モコロコの視線を追うと、銀髪の男と、金髪の男の二人が隅のテーブルにいるのが目についた。
- 周りの喧騒には目もくれず、二人で時折言葉を交わしながら、静かに酒を口に運んでいる。
- この距離でも、彼ら二人がただ者ではないということがわかった。
- 『銀髪の男は通称棺桶死オサム。サロンシティのヴァンパイアって呼ばれてる用心棒です』
- ( ´_ゝメ)「強いのか」
- 『用心棒の中でもトップクラスです。普段はBクラス専門のハンターをやってるやつです』
- ( ´_ゝメ)「金髪の方は?」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:42:09.08 ID:x5ZSzTRC0
- 『あいつは疾風のエクスト。けんかっ早くて有名な用心棒です。オサムと並べる数少ない男ですよ』
- ( ´_ゝメ)「おまえと名前が被ってるぞ」
- 『お、俺は逃げ足専門でさあ。次元が違いますよ。
- まさかこの街に来てたなんてなあ。すげえなあ。サイン貰おうかなあ』
- 出来れば彼らの内一人を雇っておきたいところだが、費用を考えると難しそうだ。
- とりあえず今日は顔を見られただけで良しとしよう。当面の課題は短期間で金を稼ぐことだ。
- 川*゚ -゚)「あぅぅう! あぅあぅ!」
- 『何言ってるかわかんねえよ姉ちゃん! まあ飲め飲め!』
- 川*゚ 0゚)「あぃあぉう」
- 気がつけばクーは見知らぬ男たちと酒を酌み交わしていた。
- 止めたいが、楽しそうなので放っておくことにしよう。
- モコロコは上機嫌になり、20杯目のカクテルをウェイターに頼んでいた。
- せっかくタダで飲める機会だし、今日は俺もペースを崩して飲むようにするか。
- 加護の影響かただ単に酒に強くなっただけか、いくら飲んでも酔いつぶれるようなことは無くなった。
- 空気が甘くなり、地面が柔らかくなる感覚が楽しめなくなったのは辛いが、以前より酒の味を堪能出来るようになったのは嬉しいことだ。
- 『ところでダンナ、名前聞いて無かったね』
- ( ´_ゝメ)「兄者だ」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:45:44.30 ID:x5ZSzTRC0
- 『聞いたことねえなあ。きっと腕利きのハンターなんでしょ?』
- ( ´_ゝメ)「勇者だよ」
- 『冗談も上手いなあダンナは』
- たばこをくわえたモコロコは、火打ち石を使い手慣れた動作で火をつけた。
- 壊死が進んでいる歯の隙間から白い煙が宙を漂う。
- 匂いが変だな。ただのたばこじゃ無さそうだ。
- ( ´_ゝメ)「ほどほどにな」
- モコロコは唇をまくり上げ、猿のように笑った。
- 人のものを盗むのはいただけないが、話してみると愛嬌のある男だった。
- 『ダンナ。旅の話でもして下さいよ』
- 今のこいつなら、何の話をしても笑って聞いてくれそうだ。
- 遠い地にある、名前を持たない街の話からしてやろうと口を開きかけたとき、階下からグラスの割れる音が響いた。
- 体の芯に届くような騒ぎに包まれていたニッカバーの空気が、一瞬にして流れを止める。
- 空気がざわめく中、クーの音程を無視した鼻歌が目立って大きく聞こえた。
- *―――*
- 『てめえ何しやがる!』
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:48:32.11 ID:x5ZSzTRC0
- 二階で飲んでいた者たちが一斉に手すりに駆け寄った。
- 人をはねのけ、階下の状況を確認すると、タロサ兄弟の片割れが一人の女に向かって怒鳴り散らしているところだった。
- 『女でも容赦しねえぞ!』
- タロサ兄弟の内、一人がワインを頭から被っているようだ。
- 白い肌着が紫色に変色し、癖毛の髪からぽたぽたと滴が落ちていた。
- 『やばいっすよあの女』
- モコロコの言う通りだ。女は連れと一緒にいる訳では無く、一人で飲みに来ているようだった。
- 激昂するタロサ兄弟を止めようとするものなどおらず、野次馬が三人を囲っている。
- 盛り場でのもめ事は基本的には見て見ぬふりをするのだが、状況が状況だけに、手を貸すべきだろう。
- 手すりから離れ、階段を下りようとしたとき、『おお』という歓声に近い叫びが上がった。
- 唸るような悲鳴も耳に届く。これは誰の悲鳴なんだ。
- 「無礼者! 身分をわきまえろ!」
- 次に聞こえたのは女の声だった。
- 何が起こっているのか理解出来ないまま階段を駆け下り、一階のテーブルに飛び乗って野次馬の向こう側を覗いた。
- ξ#゚听)ξ「酒くらい一人で飲ませろ!」
- タロサ兄弟に絡まれていた女が、股間を押さえて悶絶するタロサ兄弟の片割れに向かって怒鳴っていた。
- 二階から見たときは町娘かと思ったが、皮の胸当てやホルダーリーフを見る限り、旅人かハンターのように見える。
- 歳は俺と同じくらいか。よく見ると背中に、女の細腕には似つかわしくない剣を背負っていた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:50:28.94 ID:x5ZSzTRC0
- 『うるせえ! バーに一人でいたら声くらいかけるだろうが!』
- ξ゚听)ξ「え、そういうものなのか?」
- 『てめえ、俺ら兄弟を舐めんじゃねえぞ!』
- ワインを被っていた方が、女に猛然と掴みかかっていった。
- 今度こそ助けなくてはならないと思ったが、俺の左目に、タロサ兄弟の動きにしっかりと反応する女が映った。
- 女は間合いに入るやいなや、鋭い肘鉄を相手の胸にえぐりこみ、肘鉄に使った腕をそのまま裏拳に移行させた。
- 裏拳は顔面に入り、血しぶきと砕けた歯が口から飛び出した。
- 吹っ飛んだ男はテーブルの上を滑り、野次馬の足下まで転がっていった。
- ξ;゚听)ξ「大丈夫か?」
- 静まりかえった中、女の心配そうな声が場の空気とはちぐはぐに響いた。
- ここまでするつもりは無かったらしく、どうしていいかうろたえている。
- 『くそ! 兄貴を! よくも!』
- 股間を押さえて悶絶していた方が立ち上がり、怒りに身を任せて口から泡を飛ばした。
- 女は既に闘う気は無いらしく(最初から無かったかもしれない)、構えも取らず困った顔で視線を泳がせている。
- タロサ兄弟の弟の方が、腰に巻いていた鎖を手に取り、胸の位置で構えた。
- 鎖の先には鉄球がぶら下がっている。構えを見て、何らかの武芸をやっているとわかった。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:52:31.02 ID:x5ZSzTRC0
- 先に動いたのは予想外に女の方だった。タロサ弟は受ける準備をしておらず、動きが一拍遅れた。
- 鎖を振りかぶる隙すら無く、女のつま先を伸ばした前蹴りがみぞおちに深くめり込んだ。
- 男はくの字に体を曲げ、足が地面から浮き上がった。足を投げ出しうつぶせで倒れると、弟は動かなくなった。
- 『この女強いぞ』
- 『すげえ……』
- 女の一連の動きを見て、俺は確信に感じたことがある。
- こいつは間違いなく加護か、加護に近い力を与えられているはずだ。
- 動きはそこまで卓越したものでは無いのに、人間離れした反射神経と超人的な筋力をしているのがその証拠だ。
- だとすると、こいつはひょっとすると神官連の手先か。
- 助けるかどうかは、もう少し様子を見てからにしよう。
- 『そこまでだ、女』
- 野太い声がカウンター席の方から聞こえた。
- 入れ墨入りのスキンヘッドが、野次馬の壁より頭三つ分高い場所から女を睨みつけている。
- 視線を女に固定したまま、巨大な肉の壁が野次馬をかき分けて、人で出来た円形のリングに押し入ってきた。
- 『俺はマルダレ。今はこの店の用心棒として雇われている。
- ここでのもめ事は俺が仕切ることになっている』
- 見た目の割に理知的な雰囲気のマルダレは、女からの返答を待った。
- 女は忙しなく瞳を動かしながら、落ち着かない様子で聞き返した。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:54:36.70 ID:x5ZSzTRC0
- ξ;゚听)ξ「何でこんなことになってるんだ? 悪いのは私か?」
- 面食らったのはマルダレだけでは無く、俺も含めた野次馬全員だった。
- ひそひそ声だが、女に対してのヤジがそこかしこから聞こえ始める。
- 女にも当然その声は届いていて、困惑に拍車をかけていた。
- ξ;゚听)ξ「私が悪いのであれば謝る。だが私は何にもしてないぞ」
- マルダレと野次馬は息のあった動作でタロサ兄弟のなれの果てを指さした。
- ξ;゚听)ξ「してなくは……無いけどでも、悪いのはそっちだ。
- 店の修理代ならちゃんと払うから、帰してくれないか?」
- 『もういい』
- 盛り場でのルールは法ではなく、店側が決めた罪と制裁である。
- ここまで暴れてしまっては、金だけ払って帰してもらうなんてことは出来ない。
- けじめと称してその場でわかりやすい罰が下されなければ、ことは収まらないのだ。
- 女は諦めたように肩を落とすと、脱力した両腕を体の前で緩く構えた。
- マルダレはやや腰を落とした姿勢で、高い位置に両腕を開いて構えている。
- 女性の平均的な身長くらいしかない女とマルダレでは、子供と大人くらいの身長差があった。
- 『俺は名乗った。おまえの名前は』
- ξ゚听)ξ「ツンデレ」
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:56:35.56 ID:x5ZSzTRC0
- 空気が体にまとわりついてくる重圧感を二人から感じた。
- 特にマルダレは流石に元武闘家ということもあり、人と戦い慣れているのが見ているだけでわかる。
- 目を合わせているにも関わらず、相手の足先、手先、膝の動きにも注意を注いでいた。
- これだけ警戒しているとなると、生半可な相手であればまず後の先を取られるだろう。
- マルダレの体格から繰り出される攻撃となれば、下手すれば致命傷にもなり得る必殺の一撃だ。
- ツンデレもそれがわかっているから、攻めきれずにいた。
- 辛抱強いマルダレは、体を微かに上下させつつ相手の出方を待ち続けている。
- 二人は無言で均衡した戦いをしていた。何かしらの契機が無ければ、この立ち会いはしばらく続くだろうと思われた。
- 「あぇっおぁ!」
- この世のものとは思えないほど奇妙なくしゃみが二階から聞こえた。
- 二人は一瞬そちらに気を取られたが、寸秒の差でマルダレの方が早く動いた。
- ツンデレが意識的な防御に入ったのは既にマルダレの間合いになった後だった。
- 豪腕をコンパクトに振り下ろしての打撃はかわす暇を与えず、ツンデレは両腕を交差させ顔の前で防いだ。
- マルダレは腰の位置まで降ろしていたもう一方の拳を、間髪入れずに振り上げる。
- ツンデレは体を捻りながら横に跳ぶことで、顔の皮一枚を犠牲にし何とかかわしきった。
- 振り上げた拳を降ろすことなく、マルダレは裏拳による第三撃目をツンに向けて放った。
- しかしツンデレは既に体勢を立て直しており、その大ぶりの一撃を紙一重で交わすと、脇腹に拳ををねじ込んだ。
- 大口を開けて痛みに悶絶したマルダレは、膝を折って床に丸まった。
- 野次馬は息を呑んだまま誰も声を発しなかった。今の一連の動きが見えたやつが何人いることだろうか。
- 盛り場の喧嘩とは思えないほど高水準の戦いだった。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 20:58:22.74 ID:x5ZSzTRC0
- ξ;゚听)ξ「あのさ、もう帰っていいか?」
- きょろきょろと周りを見渡す動きに合わせて、赤茶けた色をしたおさげが左右に振れた。
- 誰かが返事をしようにも、小声で話すことさえ憚られる重い空気だ。
- 『う、うちの店で、よくも!』
- ただ一人、はげ上がった頭まで赤く怒張させている店の店主が、まん丸い体を震わせて声を張り上げた。
- バーのマスターというより、頑固な職人という感じの中年の男だ。いつの間にか人だかりの中心に出ていた。
- 『きょ、今日はオサムさんとエクストさんが店に来られてるんだぞ!
- もう怒った! お二方、謝礼ははずみますのでこの女に痛い目見せてやって下さい!』
- 二人の名前を出すと、大人しくしていた野次馬たちが途端に騒ぎ出した。
- ツンデレは二人を知らないらしく、一人だけ取り残されたようにうろたえているのが不憫だ。
- 二人がかりでやろうというのなら、もう見物している場合ではないな。少し手を貸してやるか。
- 『あのう、マスター』
- 野次馬の一人が申し訳なさそうな顔をしながら前に歩み出た。
- 高ぶった感情を抑えられないらしく、マスターは無関係であろうその男にまでにらみを利かせている。
- 『オサムさんとエクストさん、さっきまでいたんですけど、用事を思い出したって言って帰りましたよ』
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:00:16.80 ID:x5ZSzTRC0
- マスターは二度聞き返し、男の言葉の意味を理解すると、茫然自失のまま固まった。
- 野次馬たちは首を傾げながらさっさと解散を始めている。
- おかしいな、あるはずのイベントがこの後あったような気がするんだが。
- 川*゚ -゚) <喧嘩、終わった?>
- 二戦目のゴングを鳴らした張本人が、いつの間にか目の前で小首を傾げていた。
- 帰ろうとせがまれたが、マスターの前でどうしていいかわからず途方に暮れている女に用がある。
- クーを近くの椅子に座らせて、まだマスターと向かい合っているツンデレの元へ向かった。
- *―――*
- 後ろから近づくと、あと2、3歩の距離というところで気配を悟られ振り向かれた。
- どういう感じで話すのがいいかな。とりあえず気さくな感じを努めようか。
- ( ´_ゝメ)「やあ。さっきの見てたんだけど、かなり強いね」
- ξ゚听)ξ「え……ああ、いや相手があまり強くなかったから」
- 数人がかりによって運び出されているタロサ兄弟とマルダレを一瞥した。
- 三人とも対人戦闘において名のある兵(つわもの)たちだ。
- ( ´_ゝメ)「いや、強いよ。武術か何かやってたの?」
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:04:16.55 ID:x5ZSzTRC0
- ξ゚听)ξ「ああ。訓練は小さいときからやっていた」
- ( ´_ゝメ)「どこで?」
- 答えようとした女の表情に猜疑の色が浮かんだのがわかった。
- 早くも怪しまれているようだ。
- ξ゚听)ξ「ところで、おまえは誰?」
- ( ´_ゝメ)「俺はこの街の情報屋だよ。モコロコって名前だ」
- まだ名前を明かす訳にはいかない。
- この女が神官連の手先かどうかを見極めなくてならない。
- ξ゚听)ξ「……そう。知ってると思うが私はツンデレだ」
- ( ´_ゝメ)「ひょっとして、聖騎士団の人だったり?」
- ξ;゚听)ξ「いや……違う」
- どうも嘘がつけない性格らしいな。
- ロマネスクの言葉で、聖騎士団が加護を受けていることは知っていた。
- 戦い方から加護を受けた者だと考えたが、憶測は間違っていなかったようだ。
- ( ´_ゝメ)「じゃあ何なのかな」
- ξ゚听)ξ「ただの―――旅人よ」
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:07:32.83 ID:x5ZSzTRC0
- 何故聖騎士団であることを隠すのかわからない。
- 素性がばれるとまずいことがあるのか。このまま探りを入れても無駄そうだが、さてどうしようか。
- 鳴き声が聞こえた。カラスのせき立てる鳴き声が。
- 右腕が震える。
- ξ;゚听)ξ「何だ。どうした」
- ( ;´_ゝメ)「何でもない」
- 成長し続ける黒の紋様が、体の右半分を食い散らかしている。
- 心臓が不規則な鼓動を始め、頭に霧がかかったような感じで思考が鈍くなってきた。
- 少し前から突発的に起こるようになった発作だった。
- ξ;゚听)ξ「おまえ」
- 左目がうずき、手で押さえた。ツンデレが後ずさりを始めている。
- もう少しだけ話を続けたかったが、今日は無理そうだ。
- ξ;゚听)ξ「―――闇鴉――か?」
- ( ;´_ゝメ)「なに?」
- 耳鳴りのせいでよく聞こえなかったが、闇鴉という言葉だけは聞き取れた。
- あるはずのない左目が熱い。右腕が勝手に動き始めた。
- 自分の意志では無く短剣の入ったホルダーに手が伸びている。
- ξ゚听)ξ「答えろ!」
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:09:52.98 ID:x5ZSzTRC0
- ツンデレは背中の剣を引き抜き、切っ先を俺に向けた。
- 錯乱していた意識が悪意の形で固まろうとしている。
- 俺の右手は、気がつくと短剣を握っていた。
- ξ#゚听)ξ「おまえが闇鴉なのか!?」
- ( ´_ゝメ)「ごちゃごちゃうるせえんだよ」
- 敵意のある人間に対し紋様は呼応する。
- 完全に戦闘態勢に入ったツンデレは、先ほど放ったよりも倍くらいある威圧感を体から発した。
- やはり騎士は剣術が本分らしく、剣を持つことで一本の針金のような鋭い気迫を身に纏っていた。
- ξ#゚听)ξ「会いたかった。無残に散った同胞の魂を、おまえの死で飾ろう」
- ツンデレが中段で構えている剣が、目の前で膨れあがるような錯覚を覚えた。
- 一瞬にして詰められた間合いから、横薙ぎの斬撃を脇腹に放たれる。
- 後ろ向きの跳躍でかわしきり、グラスが散乱するテーブルの上に飛び乗った。
- ツンデレは振り切った剣を上段で構え直し、踏み込みと同時に俺の下腹部を狙って垂直に振り下ろした。
- 迷いの無い一撃だった。足場が不安定なテーブルの上だった為、再び後ろに退いて避けるしか無かった。
- 剣が振り下ろされると、テーブルは木片を飛ばしながら砕け散り、二つに断裂した。
- 俺とツンデレの間に障害物は無くなった。さらに後ろは壁で、逃げ場が無い。
- 突きの姿勢のまま突進してくるツンデレに対し、今一度短剣を強く握り直した。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:14:35.07 ID:x5ZSzTRC0
- 切っ先が間合いに入った瞬間、逆手で持った短剣で切っ先をえぐるように弾いた。
- 突きの軌道がそれ、ツンデレの全身が手の届く距離まで近づく。
- 剣を握っている両腕を手刀で弾き、剣を手から離させた。
- 立ち止まったツンデレは、落とした剣を拾う素振りは見せず、格闘で闘う構えを見せた。
- 彼女が前後の足を組み替えた直後、腰に巻いている布の下から、彼女の白い太ももがのぞいた。
- 蹴りが来るとわかった。
- 腰を落として頭を低くすると、頭の上、拳一つ分くらいの場所をとてつもない速さの蹴りが通過していった。
- まともに喰らえば頭が吹き飛ぶくらいの威力がありそうだ。
- 体勢を整えられるまえにツンデレの軸足を掴み、安定を奪った上半身に体ごとぶつかった。
- 小さな体格をしている癖に、岩石にぶつかったような感触がした。
- 床に押し倒し、もがくツンデレの手足を制してから、馬乗りの体勢に移行する。
- カラスの鳴き声が聞こえる。
- 逆手に持っている短剣を、ツンデレの顔の前でちらつかせた。
- 毅然とした表情でなおももがこうとする彼女に、死に対して恐怖を感じているような様子は無かった。
- ξ#゚听)ξ「殺すなら殺せ! 同胞をやったように!」
- 殺してやるよ。短剣を振り上げて構えた。
- 女の白い肌が赤く染まるのを想像すると、興奮によって左目ががうずいた。
- カラスが一層激しくわめき立てる。視界が黒い霧に覆われ始めた。
- 体の中で、殺意と悦楽が膨れあがるのを感じた。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:17:02.28 ID:x5ZSzTRC0
- 「あぁああぁぁあぁああ!」
- クー?
- 川;゚ -゚)「あああ! ああぁぁ!」
- 唯一霧が晴れている視界の中心に、クーがいた。
- そうだ、俺はクーと一緒に今まで旅をしてきて、これからもずっと一緒に旅をするんだ。
- ヴィラデルフィアに行って、彼女の呪いを解く方法を探して。
- それから弟者も助けないといけない。なんだ、色々とやることがあるじゃないか。
- 押し寄せてきた波が引いていくように、黒い霧が視界から消えていく。
- 全身から力が抜けていくと、唐突な虚脱感に包まれた。
- 良かった。
- 俺はまだ、俺でいられる。
- *―――*
- ニッカバーから出たときに、いつの間にかモコロコがいなくなっているのに気がついた。
- 今更あいつのことを話題にする空気でも無いから、忘れることにしようか。
- ξ;゚听)ξ「迷惑をかけた。まさかおまえが勇者だったとは思わなかった」
- ( ´_ゝメ)「いや、いいよ。何しろエセ勇者だ」
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:20:40.40 ID:x5ZSzTRC0
- 危うく殺すところだった引け目があるので、怒る気にもならない。
- クーがいなければ、本当に危なかった。
- 川 ゚ -゚) <もう落ち着いた?>
- ( ´_ゝメ) <ああ。ごめん。心配かけた>
- _,
- 川 ゚ -゚) <許す>
- 俺たちは飲み屋街を抜けて、比較的静かな通りを三人で歩いていた。
- まだ意識がぼんやりとしている内に、自分が勇者であることをツンデレにばらしてしまったが、今のところ問題は無さそうだ。
- ξ゚听)ξ「勇者。どうして私に嘘をついたんだ?」
- 神官連に追われているから、と言っていいのだろうか。
- 勇者ということがばれても、ツンデレに敵意は感じない。
- ひょっとすると、ロマネスクが俺を捕まえようとしたのは、やつ単独の意志だったのだろうか。
- 神官連そのものが敵という訳では無いのか。
- わからない。
- 一体俺は誰と戦っているんだ。
- ( ´_ゝメ)「神官連に追われているかもしれないんだ」
- ξ;゚听)ξ「追われている?」
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:23:13.36 ID:x5ZSzTRC0
- 下手に誤魔化すよりは、包み隠さず話しておく方が有益だと判断しよう。
- 家火が並ぶ住宅地の通りで、考え込むツンデレの顔がぼんやりと浮かび上がった。
- ( ´_ゝメ)「俺の事情は全て話す。だから、おまえが知っていることも聞かせてくれ」
- ξ;゚听)ξ「ああ。話せることは全て話そう」
- 訊きたいことは山ほどある。神官連、闇鴉、パラドックス。
- 全ての謎が明らかになる期待などしていないが、考える為の足がかりすらも無い状態で、これらの情報は貴重だ。
- ツンデレには、闇鴉に出会ったこと。ラシャトリカで闇鴉が襲撃してきたこと。
- ロマネスクに捕まえられそうになったこと。死の間際で司教が言った言葉。
- そして背中に闇鴉と同じ紋様があることなど、全て伝えた。
- 闇鴉のことはクーにはまだ伏せているままだが、既に耳が全く聞こえない状態なので、隣にいても話すことが出来た。
- ツンデレは腕を組み、眉を寄せて唸っている。
- ( ´_ゝメ)「何かわかることはあるか?」
- ξ゚听)ξ「話せる範囲で良いなら教えよう。私も、あまり込み入ったことはわからないが」
- さっきから話せることというのを強調しているが、知っているが話せないことでもあるのだろうか。
- いや、疑っていても仕方無い。今は素直に耳を傾けよう。
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:26:53.30 ID:x5ZSzTRC0
- ξ゚听)ξ「とりあえず私のことだが、私は聖騎士団第十五番隊特待騎士をしていた。
- 聖騎士団は知っているな?」
- ( ´_ゝメ)「ああ。神官連直属の部隊だ」
- ξ゚听)ξ「ヴィラデルフィアだけではなく、世界中に点在する神殿を警護する部隊だ。
- 第十五番隊の二十余名はある任の為に、火の神殿があるドラリッドに行っていた」
- ドラリッドは元々行く予定だった場所だが、神官連が待ち構えているのを恐れて寄るのを諦めた街だ。
- ξ゚听)ξ「任とは、神殿の警護。そして闇鴉の討伐だ」
- ざわめく風が街路樹を揺らした。
- 瞳に焼き付いている、闇鴉の幼い少女の姿を強く思い出した。
- ξ゚听)ξ「ヴィラデルフィアに帰国したロマネスク様の報告で、闇鴉は密かに全世界指名手配となったんだ」
- ( ´_ゝメ)「ロマネスクが既にヴィラデルフィアに帰っているのか?」
- ξ゚听)ξ「そうだ。魔法使いが起こした魔法陣によって、いくつかの主要神殿はヴィラデルフィアと直通している。
- ヴィラデルフィアに近いラシャトリカとドラリッドにも、それぞれ魔法陣が設置されていた。
- 魔法使いと一緒に移動すれば、魔法使い以外の者でも魔法陣による転移が使える」
- 司教が俺の来訪を完全に予測していたのは、魔法使いによる先読みの力だと考えていた。
- やはりあのとき、ラシャトリカには先読みが使えるレベルの魔法使いがいたんだ。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:29:11.53 ID:x5ZSzTRC0
- ξ゚听)ξ「闇鴉の脅威に本格的に動き出したのは割と最近だ。
- やつのせいで、神官連はいま迷走している。何しろ情報が少ないからな。
- 今現在わかっているのは、各地の神殿を狙って移動しているということだけだ。
- ロマネスク様はおまえの身を案じて、少々強引にだが保護しようと思ったんだろう。
- おまえの言う通り神官連の指示ではなく、ロマネスク様独断での行動だ」
- ( ´_ゝメ)「じゃあ、神官連から追われる心配は無いのか」
- ξ゚听)ξ「わからない。今はまだ大丈夫だろうが、いずれそうなるかもな。
- だが神官連が本気で狙うとしたら、きっと私の方だ」
- ツンデレが聖騎士団であったことを隠していた理由がここでわかった。
- 同じ立場かもしれない俺に対してなら、話していいと思ったのだろう。
- どうして神官連から狙われているかというのが気になったが、話す気が無さそうなのでひとまず置いておいた。
- ( ´_ゝメ)「それで、ドラリッドに行っているはずのおまえがどうしてここに」
- ツンデレの顔が曇った。伏し目がちに口を閉じる。
- 彼女が重い口を開いたのは、少し間が空いてからだった。
- ξ゚听)ξ「十五番隊は全滅し、火の精霊クラークは消滅した。生き残ったのは私だけだ」
- 前から千鳥足の酔っぱらいが歩いてきたが、俺たちの様子を見るとそそくさと道を空けて通り過ぎていった。
- 無残に散った同胞というのは、きっと十五番隊のことだ。
- ξ゚听)ξ「私は闘うことすら出来ずに敗北した。
- 誰も護れない騎士など必要無い。だから聖騎士団をやめて、今は一人で闇鴉を追っている」
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:32:34.60 ID:x5ZSzTRC0
- 顔を上げた彼女の表情に、決意と憎しみの感情がこもっていた。
- 一時の激情ではなく、根の深い憎悪が満ちているのを感じる。
- 完全な勘だが、彼女は同胞の命だけではなく、さらに大切な何かを失ったんじゃないだろうか。
- ξ゚听)ξ「闇鴉はいずれ、ヴィラデルフィアの大神殿に現れるだろう。
- 私はこれからヴィラデルフィアに向かう。おまえはどうするんだ」
- ( ´_ゝメ)「もちろん行き先は同じだ」
- ξ゚听)ξ「勇者としての使命か。立派なものだ」
- ( ´_ゝメ)「違う。個人的に色々と用があってな」
- クーの為に、弟者の為に、俺は旅を続けている。
- 世界は二人のついでみたいなものだと考えていた。これが立派な勇者の姿勢であるはずが無い。
- ( ´_ゝメ)「神官連は、俺に対して何か隠していることがあるだろう?
- それとパラドックスの意味も教えてくれ」
- ξ゚听)ξ「知らない」
- やはり嘘をつくのが下手だ。
- だがニッカバーでついた嘘と違って、潔い響きがあった。
- ξ゚听)ξ「―――それだけは話せないんだ。すまない」
- きっぱりと言い捨てる様は、逆にこざっぱりとしていて気持ちが良かった。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:34:17.79 ID:x5ZSzTRC0
- ξ゚听)ξ「勇者。どうせ目的地が同じなら、一緒に行動をしないか?」
- こちらから誘うまでもなく、向こうから話を持ちかけてくれたのは有り難かった。
- 彼女も彼女で、時間の余裕は無さそうだ。
- ( ´_ゝメ)「ああ。そうしよう」
- 「あぅ!」
- そういえばクーがいないと思い出し、声のした後ろの方を振り返った。
- 十数メートル後方で、坂道にへばっているクーが恨めしそうな目つきでこちらを睨んでいた。
- しまった、話に夢中で歩くのが速かったみたいだ。
- ( ´_ゝメ)「ツンデレ」
- ξ゚听)ξ「ツンで良い」
- ( ´_ゝメ)「聖騎士団は、禁術の呪いを解く方法とか知らないのか?」
- ξ゚听)ξ「禁術? すまん。聞いたことが無い。本当だ」
- ( ´_ゝメ)「そうか。わかった」
- もう歩けないという意思表示か、クーは石畳の通りに座り込んでいる。
- 上っていた坂を後戻りして、クーの元へ向かった。
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/28(木) 21:35:47.14 ID:x5ZSzTRC0
- #ガンパウダーマーチ
- 終わり
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