( ^ω^)と世界樹のようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:13:22.80 ID:zv1xf1iR0

緑の草原の上を、ゆるやかな風が渡っていく。
異境の衣で身を包み、腰に刀を差した男がひとり、その中を歩いている。

空の上を流れる雲さえ、男には追い越せる気が……しなかった。

( ´ω`)「おー、腹減ったおー」

男の名前はブーン。
そして、彼の頭の上には一羽のアヒル。

('A`)「まったくだ。もう一歩も動けない」

( ^ω^)「ドクオ……おまえはこの二、三日、
     僕の頭の上から一歩たりとも動いちゃいないお」

('A`)「ああ、ブーン……俺はもうダメだ……。
   俺の遺体は、黄金の墓の下に埋めて大地へと還してくれ」

( ^ω^)「とんでもない。僕がおいしくいただくお」

頭にのせたアヒルの死を願いつつ、まっすぐに前を見つめるブーン。
その視線の先に、一本の木が、その中に散らばった赤い色が映った。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:16:35.07 ID:zv1xf1iR0

( ゚ω゚)「……ドクオ! くだものが生ってるお!」

щ(゚A゚ щ)「オーケーカモーン! YOU! やっちゃいなYO!」

高枝に生る赤い果実を目にするやいなや、
アヒルは頭の上から飛び降り、ブーンの手のひらへと立ち位置を変えた。

助走をつけるように木へとまっすぐに走り出したブーンは、
アヒルの乗った手を大きく振りかぶり、気合の雄叫びをあげる。

( ゚ω゚)「おいしょーっ!」

(゚A゚)「ヒャッハーッ!」

大砲から放たれる弾丸のように放り投げられたアヒルは、
斜め一直線に高枝へと向かい、いくつかの果実を丸いくちばしでくわえる。
そして、放物線を描きながら地面へと落ちる最中、くるりとひねりを加えた一回転をし。

ヽ(゚A゚)ノ「……はいっ!」

( ゚ω゚)「十点満点だお!」

落下点である木の向こうへと走り込んでいたブーンの頭に、羽を広げて着地した。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:19:47.75 ID:zv1xf1iR0

その日から数日、木の下で野営することにしたひとりと一羽。

その間、ブーンはアヒルをなんども放り投げ、
アヒルがとってきた実を保存が利くよう加工した。

夕方になると火を焚き、獣が寄りつかないようにして、寝床を整える。

('A`)「ホントたくましくなったよな、おまえ」

( ^ω^)「それほどでもないお」

たき火を前にし、その日十数個目の果実を口にしながらアヒルが呟く。

('A`)「最初の方は本気で死にかけてたのになぁ。
    いやはや、俺の教育の成果はすごい。つまり、俺がすごい」

旅の途中で作った木刀で素振りをしながら、ブーンは笑いを返した。
その後、たき火を前に汗をふき、
生の果実の最後の一個を口にしながら、もう一度笑いかけた。

( ^ω^)「ムカつくけど、その通りだお。僕が生きてるのはドクオのおかげだお」

('A`)「まったくだぜ。ホント、いろいろあったよなぁ」

たき火に赤らんだアヒルが遠い目をする。
その濁りの中に、ブーンもそれまでの日々を思い映した。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:21:45.69 ID:zv1xf1iR0

あの森を出てから、数えきれないほどに満ちては欠けた月。
流れていったいくつかの季節は、川底の石のごとく少年を磨いてくれた。

例えば。

(´・(ェ)・`)「すみません。ちょっと道をお尋ねしますが……」

(;^ω^)「ア、アヒルさん! この凶悪な動物はなんだお!」

('A`)「そいつはどう猛な熊だ! しかし大丈夫! この俺に任せろ!」

( ^ω^)「さすがは親分! どうすればいいんだお!?」

('A`)「まずは縄を用意する!」

( ^ω^)「はいですお!」

('A`)「次におまえを木に縛る!」

( ^ω^)「なるほど! それから!」

('A`)ノシ「レッツアディオス!」

( ゚ω゚)「うあああああああああああああああああああああああああああああ」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:24:43.24 ID:zv1xf1iR0

( ;ω;)「アヒルさん! 僕を囮にするなんてひどいお!」

(;'A`)「おまえ、よく助かったなぁ……」

( ;ω;)「まったくだお!」

('A`)「まあまあまあ。それよりお詫びにこれ食べろ」

( ^ω^)「お? なんだお? おいしいのかお?」

('A`)「うん、多分おいしい」

( ^ω^)「どれどれ……ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

('A`)「……どうだ? うまいか?」

( ^ω^)「うまいおwwwwwwwwたまらんおwwwwwwww」

('A`)「……」

(;^ω^)「だけどwwwwwww笑いがwwwwwww
     やめられないとまらないwwwwwwwwwなにこれwwwwwwwwww」

('A`)「うーむ……やっぱりワライダケだったのか……勉強になったなぁ」

(;^ω^)「ちょwwww死ねアヒルwwwって先に行くなwwww助けろちくしょーwwwwww」

夢まぼろしのような森の姫との夜は、嗚呼、遠く。
大自然の死線をくぐり抜けた少年は、すっかりたくましい青年へと成長していた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:26:58.47 ID:zv1xf1iR0

(  ω )「……」

('A`)「ホント、いろいろあったぜ。懐かしいもんだ」

( ^ω^)「いやいや、そんなことないですお親分。
      僕には昨日のことのように思い出されますお」

(/∀/)「ふひひ! お、親分だなんて……そ、その通りじゃない!」

アヒルの隣に歩み寄ったブーンは、つんつんデレデレするアヒルを持ち上げた。

( ^ω^)「親分、僕は本当に感謝してますお」

(うA;)「うう……俺はいい弟子を持ったなぁ……
    な、泣いてなんかいないんだからねっ!」

( ^ω^)「わかってますお、親分」

(うA`)「そ、そう? でもさ……なんかこう……
    両足の自由が利かないんだよね……感動のせいなのかなぁ……」

( ^ω^)「その通りですお、親分」

しかし、アヒルは縄でしばられ逆さ釣りにされていた。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:29:07.34 ID:zv1xf1iR0

('A`)「……ねえ、ブーン君? 君は僕になにするつもりなのかな? かな?」

( ^ω^)「いえね、ちょっとアヒルが食べたくなったんで」

('A`)「うんうん」

( ^ω^)「焼くんですお」

ブーンは逆さに吊ったアヒルを、たき火の上へとご招待した。

(;'A`)「ちょwwww熱いってばwwww燃えてきたぜうひょーwwwww」

( ^ω^)「そりゃ火の上は熱いでしょうお。あたりまえじゃないですか親分」

(;'A`)「ちょwwwwwブーン君wwwww僕との思い出はどうしちゃったのwwww」

(  ω )「だから、昨日のことのように思い出せますって。
     ホント、昨日のことのように……」

(゚A゚)「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」

その日、草原に立つ一本木の下からはおいしそうな匂いとおそろしい悲鳴が漂っていたと、
後日、近所に住むのオオカミ(無職童貞)は語った。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:32:36.37 ID:zv1xf1iR0

それから数日を歩き続けたブーンは、
干した赤い実がきれるころになって畑にたどり着き、そのむこうに小さな村を見つけた。

見張りの青年に自分が旅人と告げて、縄で縛ったアヒルと腰の刀を見せれば、
呼ばれて現れた村長に労をねぎらわれ、空き家を貸し与えられる。

( ^ω^)「村に拠るたび思うんだけど……」

('A`)「んあ? なんだ?」

( ^ω^)「どうして僕たち、いつも歓迎されるんだお?」

村長宅での食事会ののち、そばに刀を置き、空家のくたびれた木壁に背を持たれたブーン。
敷かれた唯一の布団にもぐりこんだアヒルが、枕に頭をうずめて言う。

('A`)「ひとつは、俺たちが旅人だからだな」

( ^ω^)「お? 旅人ってそんなに偉いのかお?」

('A`)「偉いっていうわけじゃないだろ。まー、白鳥の俺にはよくわからんが、
   たぶん村人にとっては、旅人が届けてくれる情報がありがたいんだろうな」

アヒルがガーとひとつあくびをする。ブーンが首をかしげながら続けた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:35:22.98 ID:zv1xf1iR0

(;^ω^)「旅人の情報がかお? でも僕は、
     みんなが喜ぶような情報なんて持ってないと思うお」

('A`)「あくまでおまえにとってはな。
   でも、村に生まれて村で一生過ごしちゃう村人にとっては、
   おまえの話は聞いてるだけでもおもしろいんだろーよ」

(;^ω^)「それなら、みんなも旅に出ればすむ話だお」

('A`)「そうだな。でも、なんだかんだで村人はいまのままで幸せなんだろうよ。
   ヒトってやつは変化を嫌うからな。よほど切羽詰まってない限り、
   あるていど満足してりゃ、生き方をかえようとは思わねーんじゃねーか? 
   そう考えりゃ旅人なんて、おまえなんて、よっぽどの変わりモンさ。
   白鳥の俺には、ま、よーわからんことだがな」

そう言ってアヒルは、顔を反対側に向けて黙った。
ブーンはしばらくアヒルの声を待って、やがてあきらめ、ぼんやり虚空を眺めて考える。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:38:22.93 ID:zv1xf1iR0

ブーンの国には、おそらくこの世のほとんどを手中に収めていた遠い故郷には、
旅なんて概念は過去の遺物でしかなかった。

いまいる「最後の大陸」より、多分よっぽど広い領土をもっていたにも関わらず、
いや、むしろだからこそ交通手段は発達し、金さえあればという条件付きだが、
国の端から端までを数日で横断することができた。

これは軍に入って知った事だが、情報も電波に乗ってどこでもすぐに届くらしかった。
飛行兵器の存在を考えれば、ヒトが空を飛ぶ日も遠くない、むしろそこまで来ているのだろう。

一方で、ここの人々はどうだろう。

村と村との間には広大な自然が横たわっており、
行き交うヒトなんていまのところ出会ったことがなかった。ヒトは人里にしかいなかった。

なるほど、アヒルの言うとおり、旅人とはよほどの変わりモノのようだ。
でも、ならばなぜ、旅人が変わりモノと呼ばれるほどにここのヒトは旅をしないのだろうか。

簡単だ。これもアヒルの言うとおり、ヒトは変化を好まないからだ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:40:00.11 ID:zv1xf1iR0

よほど切羽詰まってない限り、ヒトは変わらないし、変わろうともしない。

ブーンだって、スラムの生活が幸せだったなら軍になんて入りはしなかった。
おそらくは、軍に入った新兵の大半がブーンと似たりよったりの動機だったはずだ。

そして軍を旅と置き換えれば、この大陸のヒトにも同じことが言える。

この大陸のみんなはあるていど幸せで、変わる必要なんてないのだろう。

だから村から離れない。旅する必要なんてない。
よその村を襲いもしないし、いまあるモノだけで満足している。

なんと穏やかで、幸せで、恵まれた大陸だろうかと思った。
同時に、発展しているはずの自分の故郷はなんと哀れかと思った。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:41:34.72 ID:zv1xf1iR0

故郷では、ヒトの生きられる時間がかつてに比べて大幅に延びたらしい。

けれどその大半はブーンや彼の母のように幸せにはなれず、
国はヒトと機械、コンクリートで溢れかえった。

自然を削りつくし、しまいにはこの世のほとんどを占める国土でも収まりきれなくなり、
いまや海を越え、ヒトを犠牲にしてまで、この「最後の大陸」を手に入れようとしていた。

それほどまでの変化を求めるのは、それほどまでに切羽詰まっているからに他ならない。

そして、いまのところ切羽詰まってなんかいないゆるりとしたこの大陸では、
だから変わりモノの旅人が珍重される。もたらす変わった話が、情報が好まれる。

しかし、それでは説明がつかないこともある。

( ^ω^)「でも、なんで村の人は僕を……敵の僕まで歓迎してくれるんだお?」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:44:38.63 ID:zv1xf1iR0

('A`)「そんな身なりに刀までぶら下げてりゃ、
   そりゃあ、おまえの正体なんて分かんねーさ」

思わず口に出したブーンの言葉に、アヒルがけだるそうに答えた。

('A`)「そうそう、言い忘れてたけど、
   おまえが歓迎されるもうひとつのわけが、その刀だよ」

(;^ω^)「お、これが、かお? なんでだお?」

アヒルの言葉に視線を落とす。床に置いた、森の入口で拾った刀。

('A`)「おまえはたぶん森の姫さんにでも貰ったんだろうが、よく考えてみろ。
   これまで行った村の中で、刀なんて持ってるやつがどのくらいいた?」

(;^ω^)「お……村の長老とか……そこの道場の師範さんくらいしかいなかったお」

('A`)「そうさ。刀をもってる奴なんて、そんくらいのモンさ。
   しかもそれが変わりモンの旅人となりゃあ、そりゃおめー、神人の従者か、
   鬼女の里の武人か、そこに剣を習いに行く村一番の若いやつくらいしかいねー」

そこまで言って、アヒルは眠そうに羽で目をこすった。
しかし、ブーンは聞き覚えのある単語に震えて思わず立ち上がり、構わず尋ねる。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:47:07.06 ID:zv1xf1iR0

(;^ω^)「し、神人の従者って……旅……するのかお?」

('A`)「んあ? 俺もあったことないけど、どうもそうらしいぜ。
   なんでも神人はあの山、ほら、姫さんの森のむこうにめちゃくちゃ高い山あったろ?
   あそこに縛りつけられて動けないんだそーな。子どもん頃、かーちゃんが話してくれたよ。
   そんかわりに従者が村々をまわって、いろいろと村人を助けてくれるんだってよ。
   従者がいるから、村のやつらは、ほら、おまえらが昔攻めてきただろ?
   そんでいくつか村がやられたろ? だけど、あーやって安心し切ってんだよ」

流暢に話すアヒル。そこでブーンは震えをとめ、改めて感嘆の声をあげる。

( ^ω^)「ドクオって……本当に物知りだおね」

('A`)「バーカ。俺がどんだけ旅してると思ってんだ。それよりもう寝ようぜ」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:48:47.80 ID:zv1xf1iR0

( ^ω^)「あ、じゃ、最後にひとつ教えてくれお。
     その……鬼女……武人の里って、なんだお?」

('A`)「こっから西にある二番目に高い山にある村のこと。
   このまま歩きゃいずれ着くだろ。ここの村長も飯んとき言ってたろ?
   この村の道場主もそこで修行してたって。
   明日にでもそこ行って稽古つけてもらえよ。だからもう寝よーぜ」

( ^ω^)「お……そうだおね」

西と言えば、ブーンが行軍してきた方角。思い出してはみたものの、
武人になんて出会わなかったし、小競り合いのひとつも起こってはいなかった。

そのとき野営した、いくつかの廃村のひとつがそうだったのだろうか。

だとしたら、武人もたいしたことはないのかもしれない。
それ以前に、どうしてこの平和な大陸に、武人なんてものが必要なのだろうか。

ああ、そっか。僕たちみたいなやつが攻めてくるからか。

勝手に納得したブーンは立ち上がって灯篭の火を消し、
腕を組んで木壁にもたれ、静かに目を閉じた。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:50:25.56 ID:zv1xf1iR0

('A`)「よう、どうだった?」

(ω ^)^「すごかったお……ぼっこぼこにされちゃったお……」

('∀`)「ふひひwwww その面見りゃわかるってwwwwwwww」

翌日、稽古を終えて声をかけると、
けだるそうに道場の内塀に拠りかかっていたアヒルが笑った。

井戸水で顔を冷やし、道場の縁側に腰をかける。
あまり高くない塀のため、縁側からは村人の行き交いがよく見えた。
眺めながら、ブーンが言う。

( ω^)^「剣の才能……そんなにないって言われたお……」

('A`)「あらまー。そりゃどんまい」

( ^ω)^「でも、ひたすらわら木でも打ち込めば、
      どんなやつでもそこそこはやれるようになるって言われたお」

('A`)「へー。そりゃすごいねー」

縁側に腰掛け、ぶっきらぼうに答えて短足をブラブラさせるだけのアヒル。
不機嫌そうな不細工面に、ブーンは意地悪く笑って問いかけた。

( ^ω^)「おっおっお。ドクオは村じゃいつもつまんなそうだお」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:54:32.57 ID:zv1xf1iR0

('A`)「あのなー、あたりまえだろ?
  ガキには追いかけまわされるし、ひとりのときは食われかけたし。
  だいたい言葉が通じねーしな。おまえも村じゃ俺に話しかけんな。
  ひとりごと言ってるようにしか見えねーぞ」

さらにふてぶてしい表情で返したドクオの言葉に、ブーンは思わず目を見開く。

(;^ω^)「お? ドクオの言葉って、ほかの人にはわかんないのかお?」

(;'A`)「あたりまえだろ……って、ま、まさかおまえ!
    いままで気づいてなかったんか!? どんだけ鈍いんだよ!?」

(;^ω^)「え? お? だ、だって、村長さんとは普通にしゃべってたじゃないかお!」

('A`)「そりゃあ、村長になるくらいのやつだからな。俺の言葉もわかんだろ。
   だけど、そんなやつはヒトのごく一部だ。たいがいはわかんねーよ」

(;^ω^)「そ、そういうもんなのかお?」

(#'A`)「だーかーら! あたりまえっつってんだろ! そうだな、たとえばほら。
   むこうの縁側に座ってるばーさん、ほら、こっちみて笑ってるやつ。
   おーい、ばーさーん、まだ死なねーのかー? せいぜい長生きしろよー!」

そう叫んだアヒルの声に、おばあさんが手を振り「ありがとう」と笑った。
しかし往来の村人は振り返りもしない。ブーンへと向き直り、アヒルが言う。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:57:43.74 ID:zv1xf1iR0

('A`)「な? 俺の言葉がわかんのは、
   あーいう年季の入った年寄りか、よっぽどおかしな奴くらいさ」

( ^ω^)「おー……、じゃあ、僕はおかしいのかお?」

そこでアヒルは、村に来てはじめて大声で笑った。

('∀`)「あたりまえだろwwwwww森の姫さんの森を出てきてwwwwwww
   しかも刀まで貰ってくるような奴がwwwwおかしくないわけがねえwwwww」

その一言に、ブーンはたまらず落ち込んだ。

弟からはうとまれて、軍に入っても話し相手ひとり作れなくて。
さらには味方から攻撃されて、そうやって捨て石にされた。

それを、頭が悪いせいだとばかり考えていた。

だけど、そうなったのはそのせいだけじゃなくて。
あたりまえのことができなくて。思えばそれが一番の理由かもしれない。
そしてあのとき死ななかったように、あたりまえじゃないことができてしまって。

それをおかしいというのなら、おかしくなんてなりたくなかった。

ここや他の村人たちのように、普通に笑って、普通に生きていたかった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/19(日) 23:58:52.99 ID:zv1xf1iR0

('A`)「……ま、深刻に考えんなって」

落としたブーンの肩に、アヒルがポンと羽をのせる。

('∀`)「だからおまえは生き延びて、こーやって旅してんだ。
   とりあえず、いまはそれでいいじゃねーか。な?」

アヒルは縁側を降りると、門外へと向けて尻を振りはじめた。

('A`)「それより食べもんわけてもらって、明日にはここを出ちゃおーぜ? 
   旅人なんて所詮はよそ者。すぐに飽きられて迷惑がられるのがオチってもんさ。
   冬はまだまだ遠いんだし、長居する理由もないだろ?」

( ^ω^)「おお……そうだおね」

そう言って力なく笑いかけたのは、アヒルの言葉に同意したからではなく。
ヒトの怖さを、辛かったあの日々を、思い出してしまったから。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 00:01:23.84 ID:y2g6asXS0

その晩、食事会にて村長に出立を告げた。

名残りを惜しんでくれた彼は、袋いっぱいの食べ物を手土産に、
翌朝、村と草原の境目まで、村人たちを呼んで見送りをしてくれた。

草原の中に入り、頭の上からアヒルが言う。

('A`)「さーて、これからどこに行く?」

( ^ω^)「うーん……そうだおねぇ……」

そう言って口ごもってはみたけれど、
行きたいところなんてはじめから決まっていた。

だけど、いまはまだ、そこにたどり着けないような気がした。
道はまだ、通じていない気がした。

なぜだかわからないけど、そんな気がした。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/20(月) 00:03:16.11 ID:y2g6asXS0

日がのぼりきり、光が真上から草原へと降り注ぐ。
見上げて目を細めたブーンは、人里より落ち着いてしまっているいまの自分に苦笑いした。

( ^ω^)「……どこだっていいお。
     しばらくは……このまま流れていたい気分だお」

('∀`)「ふひひwww なーに黄昏ちゃってんだかwwwwww」

そうやって、この世に残された最後の大自然を歩くひとりと一羽。

山を越え、森を抜け、河をまたぎ、平野を渡り、
ときどき村に立ち寄って、あてのないさすらいは続いていく。



                                     第01話 「最後の大陸」 おわり



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