( ^ω^)と世界樹のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:04:45.56 ID:e/tvrbTy0

秋晴れの空、らんらんと水面に日差しを受け返す大河。
緩やかに、音もなく流れていく。

その岸辺で遠く対岸を眺めながら、ぼんやりと釣り糸を垂らす男がひとり。

( ^ω^)「おー、今日もいい天気だおー」

その男の名前はブーン。
そして彼の目の前の水面には、満面の笑みではしゃぐアヒルが一羽。

ヽ('∀`)ノ「わーい! キャッキャッ!」

( ^ω^)「ドクオ。遊ぶのはいいけど、魚もちゃんと獲ってくれお?」

('A`)「あー? なに言ってんだよ? 俺はちゃんとやってるよ?
   ほら。うおえ! うげぇええええええええええええええええ!」

岸に戻ってきたアヒルはくちばしの奥に羽先を突っ込むと、
聞いているこっちが不快になる嗚咽をひとつ漏らし、胃から数匹の魚を吐き出した。

眉をひそめてブーンが言う。

(;^ω^)「魚を獲ってくれるのはありがたいんだけど……それはどうにかならんかお?」

('A`)「どうにもなりません」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:07:16.37 ID:e/tvrbTy0

ふんぞり返ったアヒルにため息をひとつ漏らし、釣り糸を引き寄せた。
木針につけていたはずの餌は綺麗さっぱりなくなっていた。

「魚も器用なもんだ」とまたため息を深くついて、
岸辺の石の下から餌になる虫を拾い上げ、木針にとりつける。

心無しがっくりとうなだれたその背中を羽差し、アヒルが腹を抱えて笑った。

('∀`)9m「ゲラゲラゲラwwwwこの調子じゃボウズだなwwwww
     超ダセーwwwwボウズが許されるのはお子さままでだよねーwwww」

( ^ω^)「……」

ヽ('∀`)ノ「なにその目wwwwww悔しかったら釣ってみろwwwwww
      やーいやーいwwwwwwおちんちんびろびろーんwwwwwww」

羽を広げいち物を露出したアヒルを前に、
ブーンはかげろうのごとくゆらりと立ち上がり、空を見上げ、呟いた。

(  ω )「まったくだお……まったく……その通りだお……」

そして、アヒルをつかみ上げた。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:09:12.72 ID:e/tvrbTy0

('A`)「おい、子分」

( ^ω^)「なんですかお、親分」

アヒルの低い声を受け、さらに低い声でブーンが答えた。
アヒルは羽の付け根をすくめ、笑う。

('∀`)「なんだ、自分の身分わかってんじゃん。安心したよ」

( ^ω^)「あたりまえじゃないですかお、親分」

そう言ってにこりと笑うブーン。
アヒルは安心したのか、それからゆっくり天を仰ぐ。

('A`)「ああ……空がきれいだな。
   あまりにきれいすぎて、なぜかさかさまに見えるよ」

( ^ω^)「そりゃそうでしょうね、親分」

愛おしげなまなざしでアヒルを見つめたブーン。
アヒルはほほを赤らめて目をそらし、照れくさそうに言った。

(/A/)「と、ところでさ、ブーン君! なんで僕、また縛られてるのかな?」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:11:23.03 ID:e/tvrbTy0

( ^ω^)「親分はさっき、僕をけなしてくださいましたお。
     悔しくもありがたいお言葉でしたお。そこで僕はハッと気づいたんです」

('A`)「うんうん。なにかな? なにかな?」

( ^ω^)「確かに僕は釣りが下手ですお。
     だけどそれは僕の技術の他に、餌の問題でもあるんじゃないかと」

('A`)「なるほど、なるほど。それは冷静な分析だね」

逆さ釣りのまま、アヒルが羽を組みコクコクと頷く。
ブーンは優しみの中に悲しみを隠した笑みを浮かべた。

( ^ω^)「だから、餌を変えようと思うんですお」

('A`)「へー。非常に合理的な考えだね。でも、その餌ってもしかして……」

( ^ω^)「アヒルですお」

そしてブーンは縄をグルグルと振り回し、アヒルを天高く放り投げた。

( ^ω^)「親分! 立派な大物に食べられてくださいお!」

(;゚A゚)「ちくしょー! てめー絶対ロクな死に方死ねーぞ! 
    あああああああああああああああああああああああああああああああ」

バシャンと盛大なしぶきをあげ、餌は河へと着水した。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:14:02.21 ID:e/tvrbTy0

(;'A`)「あぶっ! おべっ! ちょっ! 沈む沈むっ!」

( ^ω^)「親分! それは気のせいですお!」

(;゚A゚)「ざっけ! んぬぁ! 足縛るのはっ! あんまりだろっ!」

( ^ω^)「おお! さすがは親分名演技! どっからどう見てもおぼれたアヒル! 
     大物も思わずやらないか! 構わずホイホイとつられちゃいますお!」

(゚A゚)「……」

もはや声も出せなくなったのか、アヒルは無様に羽をばたつかせ、
短い首を水面に出したりひっこめたりだけを続ける。

ブーンはアヒルを生かさず殺さず、巧みに縄で浮き位置を調整しながら、
大物の釣り上がる瞬間をいまかいまかと待ち望んだ。

そしてアヒルが息も絶え絶えになったころ、無様なその身体が不意に水面から消える。

同時に握ったブーンの荒縄に、グッと力強い手ごたえが走る。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:15:54.22 ID:e/tvrbTy0

( ^ω^)「かかったお! 親分! いま助けますお!」

しかし水中からの力はあまりに強く、アヒルをなかなか引き上げられない。
引いては戻され、引いては戻され、一進一退の攻防は続き、アヒルが沈んでおよそ一分。

このままじゃ、アヒルが死ぬ。

自分で餌にしておきながら背中に寒気を感じたブーンは、
縄を極限までピンと張りつめ、足を木の根のように地面へと踏ん張りつけると、
全身の力以上のなにか感じ取りつつ、雄たけびをあげて縄を引き上げた。

(;゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚A゚)゚・*:.。..。.:*・゜゚・*


手ごたえが急に無くなった。
水面からは、流れ星のように雫の尾を引き、跳ねるように姿を現したアヒルと。


*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(´゚ω゚`)゚・*:.。..。.:*・゜゚・*


謎の男が、ひとり。

身体ごとひっくり返ったブーンを中心に大空に鮮やかな弧を描き、地面へと激突した。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:18:00.75 ID:e/tvrbTy0

打ち揚げられたアヒルは脳天から着地をきめ、
遠心力で餌から引きはがされた魚、いや男は、ゴロゴロと岸辺を転がっていった。

ブーンが慌てて駆け寄ると、
アヒルはくちばしから舌をデロンと出し、ピクピクと痙攣していた。
慌てて縄を解きほほをひっぱたけば、幸いなことにすぐさま意識を取り戻した。

(;A;)「ひどいじゃない! 死ぬかと思ったじゃない!」

(;^ω^)「すまんかったお……ちょっと冗談がすぎたお……」

下げた頭を丸いくちばしで数度小突かれたあと、頭をあげた。
アヒルも羽で涙をぬぐいながらそちらに目をやる。

よっつの眼差しが向けられたのは、当然、一点だ。

(´゚ω゚`)「……」

釣れ上がった、得体の知れない男。
濡れそぼった身体でぬらりと起き上がり、ひとりと一羽へ音もなく歩み寄ってくる。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:21:07.29 ID:e/tvrbTy0

(´゚ω゚`)「アヒル……四日ぶりの……めし……」

額に張り付いた髪の下の目は生気を失った白一色。
どうやら完全にイってしまっているようだ。

それだけでも十分に危険、しかしさらに危険なことに、男は腰に刀をぶら下げていた。
そして、イってなお手慣れた手つきで、それを抜く。

(' ('A`∩「テイクオフ!」

アヒルが回れ右をして河へと飛び立ち、けれどすぐさまボチャンと落ちた。

その音を背中に聞きつつ、退くことなく腰の刀に手をやったブーンはというと、
縛り付けられたようにジッと、迫りくる男の顔を注視していた。

この男の、このイッた目を、いつかどこかで見たことがある。
そう、確か、あのとき、あの森で。

(;゚ω゚)「……あ、あんたは!」

曖昧な記憶がハッキリとした線で描き出されたときには、すでに遅かった。

手にした刀を上段に振りかぶった男は、太い両刃のその重みに
引きずられるよう弓なりにのけぞり、そのまま仰向けに倒れ落ちていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:23:28.43 ID:e/tvrbTy0

(´^ω^`)「うまいのうwwwwwwうまいのうwwwwww
     ヒトの情けが身にしみるのうwwwwwwwwwwww」

真昼の空の下でたき火を囲み、
男は焼いた魚(アヒルの胃からこんにちわ)にむさぼりついていた。

みごと骨だけになった川魚が次々に河へと還されていく。
その様子とあまりの食いっぷりの良さに、思わずブーンは微笑んでしまい、

( ^ω^)「おっおっお。清々しいくらいの食いっぷりだお」

('A`)「……俺らの分も食われてるけどな」

( ^ω^)「……」

('A`)「ねぇ、ブーン。なんでこいつ助けんの?」

そしてアヒルは空になった腹をグーと鳴らし、憎々しげに男を見ていた。

その視線が、男の股、ではなく腰にぶら下げられた長く太い刀へと向けられる。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:24:38.51 ID:e/tvrbTy0

(;'A`)「なあ、こいつ絶対にヤバいって! 隙見てトンズラここうぜ? な?」

その声は決してひそめられたものとは言えなかったのだが、
魚を胃におさめることに夢中の男にはさっぱり聞こえていないようだった。

アヒルはその様子を見て、逃げだす準備はオーケーだと言わんばかりに羽先をピンと立てる。

( ^ω^)「それは……できないお」

(;'A`)「なんでだよ!?」

けれどブーンは、言葉と裏腹にアヒルの言うことに内心ではもっともだと同意しながら、
いまにも逃げ出したい気持でいる自分を奮い立たせるように、
胸の内でなんどもなんども、目の前の男に貴重な食べ物を恵んでやったわけを反芻していた。

この男こそが、あの森に道を開くなにかを握っているはずだ、と。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:28:35.02 ID:e/tvrbTy0

忘れてはいない。忘れようもない。

フィッシングした男は、あの異様な化粧こそしていなかったものの、
森で出会った歌舞伎ものに間違いはなかった。

旅人として存えたいまでも、まざまざと思い出すことができる。

霧の晴れた森の穴の中、
燃えるような瞳と凍えるようなまなざしで自分を見下し「殺せ」と迫ったあの青年と中年、
そして彼女の間に割って入ったあの男が、一触即発の中で彼女を守るように立ったあの男が、
理由は定かではないが、いま、目の前にいる。

あの場にいた人物とその言動、
それと以前のアヒルの話から察するに、この男は彼女の従者に違いない。
ならば少なくとも、この男は敵ではない。
自分は彼女に助けられたのだ。どう悪く見積もっても殺されることはないはずだ。

そしてこの男なら、あの場所へ続く道を知っている。
そうでなければ彼女の従者とは呼べないし、
なによりあのときあの場所にいるはずがなかっただから。

頭の悪い自分にだって、こんな簡単なことくらいはさすがに推測できる。
そうだ、これは簡単なことだ。間違いない。間違いないんだ。

( ^ω^)「僕のこと……覚えてるかお?」

なんども自分に言い聞かせ、ブーンは静かに口を開いた。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:30:00.97 ID:e/tvrbTy0

(´・ω・`)「ん?」

たき火の向こう側で、最後の魚を骨だけにして男がぬっと顔を上げた。

日差しの下でも赤く照らされたのがわかる男は、
まじまじとブーンの顔を、そしてブーンの腰の刀を見やった。

(´・ω・`)「……なんとまあ、あの時の」

(;'A`)「えっ!? なに? 知りあいなの? ねぇ!? こいつ誰!?」

その一言に、アヒルが目を丸くしてふたりの顔をガーガーと見比べる。
ふたりは意にも介さず、しばらくの間互いの顔を見つめ続けた。

しょぼくれた眉毛の下の瞳に、メラメラと燃えるたき火の炎が映って見えた。

やがてアヒルの声もやみ、訪れた沈黙にブーンが耐えられなくなったその時、
手にした最後の魚の骨を河へ投げ捨て、キッと、鋭いまなざしと口調で男が声を上げた。

(´・ω・`)「まさか生きていたとはな。とっくに野たれ死んだばかり思っていた。
     しかもその腰の刀……荒巻か……いくら探しても見つからないはずだ」

たき火が激しくゆらめいたのは、その迫力のせいだったのだろうか。
しかしこのチャンスを逃すことなどできるはずもなく、震えをかみ殺しブーンが続ける。

(;^ω^)「……ツンが逃がしてくれたんだお……死ぬわけにはいかないお」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:32:51.31 ID:e/tvrbTy0

(´・ω・`)「……ツン? ふーん……なるほど、ツン、ねぇ……」

男がぴくりと眉間を寄せた。
思わず逃げ出そうとした両足をブーンは必死に押さえつける。
ちなみにアヒルはもういなかった。ドボンと着水音だけが聞こえた。

そして短くも長い再びの沈黙を経て、男は突如満面の笑みを浮かべる。

(´^ω^`)「そうかそうか! せっかくツン様が救ってくださった命、大事にしなきゃな!」

(;^ω^)「おっ……そ、その通りだお! だから死ぬわけにはいかなかったんだお!」

それからもニコニコと絶えることのない笑顔を受けて、一気にブーンがまくしたてる。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:34:14.31 ID:e/tvrbTy0

(;^ω^)「僕はもう一度ツンにあってお礼が言いたいんだお!
     それで、いまの元気な姿みせて安心してもらって、また一緒に笑いたいんだお!」

(´^ω^`)「うんうん! そうかそうか!」

(;^ω^)「だ、だからツンの従者さん! お願いだからツンに会わせてくださいお!
     どうか……どうかお願いしますだお!」

そしてブーンは膝をつき、深々と身体を折り曲げ、地面に額をこすりつけた。
擦り切れるほどに強く、激しく、願いを乞うた。

(´^ω^`)「よーし! わかったわかった!」

その必死さに心打たれたのか、男はポンとひざを叩き、刀を引き抜きつぶやいた。

(´・ω・`)「ぶち殺してやる」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:37:04.58 ID:e/tvrbTy0

聞こえた声にピクリと止まり、恐る恐る地面から顔を上げれば、
目の前にはごうごうと燃え盛るたき火の炎が、その先につや消しの漆黒の刀身が。

そして、イッた目をした男の顔があった。

(´゚ω゚`)「ツンツンツンツンうるせーんじゃファッキンマゲッツ!
    かぐわしき森の姫様を呼び捨てとは、それだけでぶち殺死に値するわ!」

右手に握られた刀が、肩が、眼が、怒りのためかプルプルと震える。
ブーンは立ち上がれないままずるずると後ずさり、途切れ途切れに釈明する。

(;^ω^)「だ、だって……ツンがそう呼べって言ったんだお!」

(;´゚ω゚`)「!!」

その一言に、刀を振りかぶろうとした男の両腕から力がガクリと抜け落ちた。
そのまま顔をうつむかせ、肩を深く落とし、死に体の虫の音のような声を漏らす。

(´ ω `)「ああ……思い出した……ぜーんぶ……思い出しましたわ……
     おまえ……ツン様とひと月過ごしたんだよな……ふたりっきりで……
     ツン様、言ってたよ……楽しそうに……」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:39:27.75 ID:e/tvrbTy0

(´ ω `)「そうだった……こうも言われたっけ……
     もしおまえに会うようなことがあれば……飯のひとつでも恵んでやれって……
     いいなぁ……そんなに気にしてもらって……おまえ……いいよなぁ……」

彼女はいまでも自分を覚えていてくれて、おまけに気づかいまでしてくれている。
落ちる雨粒を受け止める地面のように、男を介した彼女の言葉がブーンへと染みわたっていく。

それは森を出て以来一番の喜びをもたらし、
ブーンは思わず飛び上がりそうになり、けれど喜びはすぐに霧散した。

(´゚ω゚`)「ああああああああああああああああああああああああああ!
     殺してやる……絶対殺してやるうううううううううううううううう!」

(;゚ω゚)「どわああああああああああああああああああああああ!」

振り上げなおした刀をむやみやたらに振り回し、男が猛然と襲いかかってきたからだ。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:40:37.23 ID:e/tvrbTy0

空をめちゃくちゃに割くその切っ先をブーンは死に物狂いで避け続け、
しかし連続する攻撃に身体がついていかず、体勢を崩し地面に尻をついてしまう。

もはや理性を失った男はラリった目から涙をこぼし、見下ろし、大声で叫ぶ。

(´゚ω゚`)「てめぇ、ツン様とあんなことやこんなことしたんだろ!
    幼児プレイに巫女さんプレイ! 足で踏んだり踏まれたり!!
    おまけに膝枕で耳掃除プレイまでしたんだろうがああああああああああ!
    うんらやんますぅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

( ^ω^)「うわぁ……さすがのぼくでもそれは引くわ……」

もちろんそんなことはしていないし、考えたことすらない。
ブーンは冷めた目で男を見上げた。

(´・ω・`)「……」

そこで自分の言動にハッとした男は、
赤らめた顔を震えながらうつむけ、けれどか細くも続ける。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:44:03.56 ID:e/tvrbTy0

(´ ω `)「……聞いたな? 君、聞いちゃったよね?」

( ^ω^)「ええ。そりゃもうばっちり」

そして男は涙をぬぐうと、とたん冷静な武人の目になり、
身体の震えを瞬時に止め、手にした刀を天高くかざし、言った。

(´・ω・`)「わが名はショボン。誇り高き三世の守人がひとり。
     秘め事を聞かれた以上、われ全身全霊を込めて貴君を打ち滅ぼそう」

(;^ω^)「ふざけんなwwwwwwあんたが勝手に言ったんだろwwwwwww」

(´゚ω゚`)「うけけけけけ! 問答無用! とうっ!」

刀を手に飛び上がろうとした男と、手をかざし必死の制止を試みるブーン。
その刹那だった。

ヽ('A`)ノ「ちょっと待った―――――――――――――――――っ!」

ふたりの間に颯爽と、一羽のアヒルが立ちふさがった。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:45:46.84 ID:e/tvrbTy0

アヒルはブーンに尻を向け、男に向かってくちばしを開く。

('A`)「話はすべて聞かせてもらった。その上でひとつ、貴君に申し上げたい事がある」

(´・ω・`)「……なかなかにやんごとなき口上……うむ、聞こうか」

アヒルの声に刀を下ろし、目の色を変え向き直った男。
アヒルはまるであの森の一幕のように、ひるむことなく悠然と言った。

('A`)「貴君、見たところ、かなりの身分のものと心得る」

(´・ω・`)「ほう、わかるか?」

('A`)「ああ、一目瞭然だ。沈みゆく太陽の傾きよりも急な眉、
  その下の死んだ魚のように輝く瞳、そして月よりも眩いその広い額。
  どう見ても誇り高き武人です。本当にありがとうございました」

( ^ω^)「……」

このアヒル、いつか必ず食ってやる。目の前の尻を見つめブーンは思った。

けれど男の方はというと、その一言にスッと刀を戻した。
そのまま座り込み、アヒルと目線を合わせる。どうやら真剣に話を聞くつもりらしい。

同じ高さとなった男の両目をジッと見つめ、
もったいぶった沈黙のあと、アヒルが言った。

('A`)v「しかし、それにしては見合わぬ言動、貴君にはふたつある」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:48:05.12 ID:e/tvrbTy0

片羽の先で器用にVを作って男を差し、
残ったもう片羽の先でブーンを差し、言う。

('A`)「ひとつ。聞けばこのふぐりの恩人、
  なにやら貴君の主のようだが……しかし、その申しつけになぜ背く?」

(;´゚ω゚`)「!」

その瞬間、男が全身からドッと汗をふき出したのが傍目のブーンにもわかった。
それほどまでに、男の変化は顕著だった。

('A`)「そして、ふたつ。その申しつけにより食べ物を恵むべきふぐりに、
   こともあろうか食べ物を恵んでもらったのは……どこのどいつだ?」

(;´゚ω゚`)「!!」

そして、吹き出た汗も瞬時に乾いたと思わせるほどに男の顔は青ざめる。
間髪入れず、アヒルがトドメの一言を放った。

(゚A゚)「それなのにまさか刀まで向けるとは……貴君も武人なら恥を知れい!」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:48:41.82 ID:e/tvrbTy0

(´;ω;`)「あああああああああああああああああああああああああああああああ」

男はなみだを流して頭を抱え、それきり嗚咽を漏らすだけでぴくりとも動かなくなった。
アヒルはその様子を一瞥してふり返り、ブーンに向けて羽先をグッと立てる。

('A`)「とりあえず、これで大丈夫だろ」

( ^ω^)「……ドクオ」

そのときのアヒルは、なぜかはわからないがブーンには白鳥のように気高く思えた
というのはフェイクで、やっぱりどう見ても口だけ良く回る不細工なアヒルだった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:51:43.05 ID:e/tvrbTy0

それから一定の距離を置き、ブーンとアヒルは男の挙動を見守った。

しばらくの間なんの反応も示さなかった男を心配し、
ブーンが恐る恐る近づいたそのとき、男がうつむいたままつぶやいた。

(´ ω `)「おもしろき ことも無き世を 尻の穴」

(;^ω^)「お?」

(;'A`)「あ?」

そして顔をあげ、力なく微笑み。

(´^ω^`)「辞世の句だ。ツン様に……伝えくれ」

刀を抜き、己の腹へと切っ先を振り下ろした。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:53:36.10 ID:e/tvrbTy0

(;゚ω゚)「バカ! なにやってんだお!」

あとから思い返してみれば、相当に危険なことだった。

それでもためらうことなくブーンは振り上げられた男の両腕へと飛びかかり、
腹へと目指された切っ先の進路を固い地面へ変えることに成功した。

この男を殺してはならない。

それは男が彼女への貴重な手がかりということが理由ではなく、
ただ単純に、この男が死ねば彼女が悲しむと、はっきりとそう思えたからだ。

しかし、身の危険も顧みない行動をとらせるほどの強い想いも忘れさせてしまう出来事が、
ブーンとアヒルの目の前で起こる。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:54:22.11 ID:e/tvrbTy0

(;゚ω゚)「……!」

(;゚A゚)「おわっ!」

進路を変えられた切っ先が地面へと突き刺さった瞬間、大地が震えた。
誇張ではない。まるで砲弾が着弾したかのごとく、激しく、鈍く、大地が震えたのだ。

そしてその震源は、男に、男が握る刀に、男が突き刺した地面に、間違いはなかった。

(;゚A゚)「おい……冗談だろ……なんなんだよこれは!」

(;゚ω゚)「……僕が知るわけないお」

なぜなら、男が深々と突き刺した刀の前後およそ五メートルにわたり、
地面がまっすぐに、真っ二つに、ぱっくりと裂けていたのだから。

ひとりと一羽はしばらくの間、ただ呆然と、その裂け目を眺めるしかできなかった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:55:46.78 ID:e/tvrbTy0

(´ ω `)「武人として……腹を切ることさえ……許されぬのか……」

自らツバまで刺し込んだ刀を引き抜く力もないらしく、
男は柄から手を離し、ガクリと地面に手のひらをついた。

河へととどいた裂け目の中へ、水が隆々と流れ入ってくる。

おそらく振動で尻もちをついたのだろう。
情けなくへたり込んだままのアヒルはひとしきりその様子を眺めたあと、
滅多に見せない表情を作り、ブーンにむかって問い正した。

('A`)「おい、ブーン……もう一回聞くぞ」

これでも長い付き合いだ。言葉と言葉の一瞬の間から、
先ほどのアヒルの口上が場を切り抜けるためのでまかせだったことを、
そしていまアヒル言わんとしていることを、ブーンはすぐさま理解した。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/23(木) 16:56:40.57 ID:e/tvrbTy0

('A`)「こいつ、いったいなにものだ?」

予想と寸分違わぬ言葉を受け、けれどなにも答えられずに目をそらした。
その先には、うなだれたままピクリともしない男と、突き刺された一本の刀。

こいつ、いったいなにものだ。

彼女の付き人。神人の従者。
そんなこと、ブーンにだって分かっている。

こいつ、いったいなにものだ。

けれどなお、そう問わずにはいられなかった。




                             第02話 「腹ぺこ侍」 おわり



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