('A`)が青い花を追うようです

1: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:05:31.27 ID:SCe5evHE0
足の踏み場も無いくらいに荒らされた部屋の中、
藍色の制服を着た人間たちが、所狭しと動き回っている。
いかにも高級そうな壷や壁画が、完全な姿を保てていないまま地面に散乱していた。

その中に、ただひとつ、ぴくりとも動くことの無い人体がある。

瞼はもう二度と開くことはない。
その表情は、すべての苦しみを味わったかのような苦痛の表情。
身体に血痕は一つも無い代わりに、首筋にはしっかりと縄の後が残っていた。

胸には鈍い様子で光っている、国を代表するバッヂ。
今回の事件の仏、斎藤またんきは、最近テレビにもよく姿を出す、国会議員であった。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/26(日) 22:06:42.05 ID:SCe5evHE0
('A`)「死因は絞殺っつーことで結果出ました」

(´・ω・`)「みたまんまだろ。今回は血が出てなくて良かったな」

(;'A`)「ぐ……」

表情一つ変えることなく、ショボンさんが俺に皮肉を言う。
前の事件で血を見て倒れた時以来、決まってショボンさんはこれを言うようになった。

(´・ω・`)「仏さんは国会議員か……」

('A`)「最近はニュースでよく取り上げられてますね。
    何でも、裏金問題やらなんちゃらで……」

(´・ω・`)「恨みはたくさん持ってるって訳か」

('A`)「はい……それより、一番気になることが。」

斎藤またんきの死体を見下ろしながら言う。
隣でショボンさんが座り込みながら、俺の言葉に続いた。

(´・ω・`)「これか」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/26(日) 22:07:57.43 ID:SCe5evHE0
ショボンさんが指差す先にあるのは、一本の青い花。
魂の抜けた被害者の体の上に、静かに置いてある。

('A`)「明らかに不自然に置かれた花……
   恐らく犯人が残したものだと思います」

(´・ω・`)「この花は何の種類か分かるか?」

('A`)「あ、まだ現場検証の途中ですので……もう少し待ってください」

ショボンさんが立ち上がり、一人でどこかに歩き始める。
俺が後ろから着いていこうとすると、ショボンさんは小さく右手を上に上げた。

('A`)(俺はあっち見るから、お前はあっちを見ろ、ね……)



5: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:09:06.71 ID:SCe5evHE0
ショボンさんと一緒に仕事をするようになってから、二年が経過した。
それはつまり、俺がこの職についてから、二年が経ったということ。
ここにいる警官の中で、一番経験が浅いのは、明らかに俺だった。

('A`)(殺人事件自体、あんまり慣れてねーしな)

普段は、盗みとか自殺の現場検証のみ。
俺にとってこういう殺人事件は、不謹慎ながらも心が落ち着かない物であった。

('A`)(さーて、調査調査っと……)

殺された斎藤さんの自宅の中を、俺は目を凝らして歩き始めた。



6: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:10:02.67 ID:SCe5evHE0




('A`)が青い花を追うようです



第一話『青い花』



7: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:12:37.36 ID:SCe5evHE0
調査が一通り終わった夜、署内の自販機の前には、俺とショボンさんの二人だけがいる。
俺は小さくため息を着きながら、ショボンさんに愚痴を零した。

('A`)「結局なんも見つかんなかったっすね……」

(´・ω・`)「そういう時もあるさ。そう簡単に事件が解決すると思うな」

('A`)「またまた。伝説の垂れ眉様が何を言ってるんですか」

俺が軽く笑いながら言うと、隣の伝説の刑事が俺の頭をたたく。

(´・ω・`)「次その名前で呼んだらぶっ殺すぞ」

(;'A`)「あいたた……分かりましたよ」

この伝説の刑事、ショボンさんが担当した事件で、未解決の物は一つも無い。
並み外れた調査力、間違いのない的確な判断。
そして何より、長年の経験によって培われた、刑事の勘。
普段冗談の一つもいえないおじさんを、俺は誰よりも信頼し、尊敬を置いていた。



8: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:15:10.45 ID:SCe5evHE0
(´・ω・`)「それにしても、確かに不気味な現場ではあったな」

('A`)「不気味……ですか?」

(´・ω・`)「あぁ、不自然な点が多いんだよ。あの現場には」

手に持つ缶コーヒーをもう一口飲みながら、ショボンさんは話を続けた。

(´・ω・`)「まず、犯人の手がかりとなるものが少なすぎる。異常にだ。
      ……まぁ、これは念密な計画さえあれば、そんなに珍しいことではない」

(´・ω・`)「──だが、他の全てが、おかしすぎるんだ」

もう一口、コーヒーを口に含めるショボンさん。
そこで話を止めたショボンさんに、俺は当然の疑問を投げかける。

('A`)「他の全てって……えっと……何ですか?」

疑問を投げかけると同時に、ショボンさんの拳骨が俺に飛んでくる。
予想はしていたが、その拳骨は何度受けても痛みに慣れることは無い。



11: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:16:57.00 ID:SCe5evHE0
(´・ω・`)「だからお前はいつまでも新入って呼ばれるんだよ」

(;'A`)「サーセン……」

(´・ω・`)「違和感を感じないのか?あの部屋の状況に」

(;'A`)「……」

(´・ω・`)「あれだけ"一つも"証拠を残さないで殺しを出来る人間が、
      部屋を荒らした状態にするか?」

確かに、言われてみれば、どこか違和感を感じることはある。
盗まれたと思われる物は一つもなく、明らかに、殺しを目的とした犯行なだけにだ。

(´・ω・`)「それに、あの青色の花」

一息置いて、続く。

(´・ω・`)「あれは間違いなく、意味のある花だ。
      何かを伝えようとしているか……」

(´・ω・`)「もしくは自分を定義づける何かか、だ」



12: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:18:44.58 ID:SCe5evHE0
('A`)「自分を、定義づける……?」

(´・ω・`)「いるんだよ。そういう奴が。
      自分を漫画の主人公か何かと勘違ってる野郎がよ」

もう一度、ショボンさんは缶コーヒーを口につける。
思いっきり傾けた後、空となった缶を、ゴミ箱へと投げ捨てた。

(´・ω・`)「簡単に言うと、"シンボル"だ。
      自分の存在を定義づけるマーク」

('A`)「ああ、なるほど」

ようやく理解した俺に、ショボンさんがため息を着く。
溜息を着くときは、まだ何となく元気がある時だ。
本当に怒っているときのショボンさんには、話しかけることができない。

(´・ω・`)「こういうパターンはな、決まって続きがあるんだよ」



13: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:19:59.20 ID:SCe5evHE0
('A`)「それって──」

(;´ー`) 「ショボンさん、ドクオ!大変ダーヨ!」

俺の言葉を遮る様に、一人の男が駆けてくる。
先輩刑事である、シラネーヨ刑事。
俺らの前で止まり、彼は口を開いた。

(;´ー`) 「殺人事件発生ダーヨ!被害者は警察の副長官!
      俺らの上司ダーヨ!」

上司と言っても、俺たちの直接的な上司になる訳ではない。
ずっとずっと上の存在の、警察のトップ2。
その警察のトップ2が、殺された。

(;´ー`) 「場所は副長官の自宅。それと、被害者の死体の上に……」


(;´ー`) 「青色の花が、置いてあったそうダーヨ」



14: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/26(日) 22:21:29.51 ID:SCe5evHE0
俺とショボンさんは、同時に立ち上がる。
飲みかけのCCレモンを一気に飲み干し、缶をゴミ箱に捨てる。
シラネーヨ刑事の後ろにつき、俺たちは走り出した。

(´・ω・`)「ドクオ」

('A`)「はい?」

(´・ω・`)「この事件、思ったよりもでかいぞ」

走りながら言うショボンさんの表情は、読むことができない。
どこか寂しそうで、それで、どこか嬉しそうな表情で。

('A`)「それは、伝説の垂れ眉様の勘でございますか?」

(´・ω・`)「……馬鹿野郎ッ」

さっきと同じように怒鳴るショボンさん。
しかし今度は、俺の頭に拳骨が飛んでくることは無かった。


第一話 終



戻る第二話