( ^ω^)ストロベリーフィールズで逢いましょう

129: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:45:33.28 ID:/mu+h/Pq0






「駄目だお、おっさん」

(メ●ω●)「あ、お前、どこに行ってたんだよ」

「巻き戻して見なくちゃ」

(メ●ω●)「巻き戻し? ああ…… テープのことか」



俺はデッキの巻き戻しボタンに手を伸ばした。
きゅるきゅると、具合悪そうにデッキは働く。
しばらくデジタルの表示画面がせわしなく動くのを見ていたが、とある地点で動きが止まった。
さらに調子悪そうな音を響かせる。俺は停止ボタンを押して機械を止めた。




(●ω● )「おいガキ。壊れちまったぞこのテープ」

(メ●ω●)「……って、また消えやがった」

(メ●ω●)「しょうがない。ここから見てみるか」



133: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:48:41.50 ID:/mu+h/Pq0
※ ※ ※





(,,゚Д゚)「おっさん」




おっさんとは俺のことか? まだ若いつもりでいるんだけどな。
まあ、若い奴に言わせれば30歳を越えた人は皆、おっさんおばさんか?

ところで、こんな夜の如何わしい街で声をかけるなんて、
よっぽどの用があってだな? そうなんだな?


俺は振り返った。ネオンに包まれ、一人の若者が立っていた。
外人みたいな金髪。淀んだ瞳。だらしない衣服。手にしているのはパイプ棒。
ほら、おいでなすった。
日本の未来を担う奴等の落ちこぼれ。 


(メ●ω●)「何の用だクソガキ。俺は忙しいんだ」



135: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:52:27.64 ID:/mu+h/Pq0
(,,゚Д゚)「うってくれよ」


売ってくれ。だか、打ってくれ。だかは知らないが、意味は通じた。
しかし俺は勿論とぼける。


(メ●ω●)「何のことやら」

(,,゚Д゚)「見たんだよ! あんたがそこの通りで取引してるところ。頼むよ。金はある。
     今すぐくれ。じゃなきゃ死ぬ。いや、俺が死ぬ前にお前をコロス!!!!」

(メ●ω●)「やってみろよ」

俺は挑発的に両手をだらんと広げた。 
その瞬間、ガキがパイプを振り上げ、突撃してくる。
間合いは約5メートル。 俺の脚の長さは…… 何センチだったかな。知らん。



137: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:55:36.76 ID:/mu+h/Pq0

などと考えているうちに、俺の蹴りはガキの鳩尾を強打していた。
ヤク中は動きが鈍い上に体が脆い。
ガキはその場に蹲って、汚い粘液を吐き散らした。


(メ●ω●)「金はあるって言ったな。なんぼや」

(,,゚Д゚)「あう…… うあ……」


蹲った身体を捩じらせ、ガキはポケットから皺くちゃになった千円札を数枚取り出す。


(メ●ω●)「はん」

(メ●ω●)「足らねぇよ」


(,,;Д;)「いっ…! あぁ…… あぁあああ……」



139: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:58:32.66 ID:/mu+h/Pq0
するとガキはおいおいと泣き始めた。
呂律が回らない舌。情緒不安定。浸かってるな、こいつ。

(メ●ω●)「じゃあな」

厄介に巻き込まれるのはごめんだ。俺は背中を向け歩き出そうとする。
しかし、ガキがズボンの裾を掴んで妨害する。



(メ●ω●)「離せよ」

(,,;Д゚)「チ、畜生……!!!」

(,,;Д;)「にくい! にくいよおおおお」

(メ●ω●)「薬がか」

(,,;Д;)「ちげぇ! 自分がだよ!!」



140: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:02:06.33 ID:/mu+h/Pq0

ガキは涙と鼻水で顔をグタグタにさせて喋る。

(,,;Д゚)「ほんの遊びだったんだ…… 好奇心だったんだ……」

(メ●ω●)「皆そう言うね。面白いほどに」

(,,;Д゚)「苦しい…… 苦しいよおっさん……」

(,,;Д゚)「助けてくれよ……」


俺はこいつが面白いと思った。 
麻薬に手を出しておきながら、しっかりとその非も悔やんでいる。

いや、それよりも……
他人に対して、こんなに自分の哀れさと弱さを曝け出せるその若さが、何故か俺の歩を止めた。


(,,;Д゚)「ああ… ううううう……」

(メ●ω●)「汚い唾ひっかけるなよ。とりあえず手離せ」

(メ●ω●)「その足りない頭、掴まれていないほうの足で、揺らされてもいいのか」



142: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:04:30.82 ID:/mu+h/Pq0

ガキはゆっくりと手を離し、地べたに両肘を付けた。そしてまた泣き始める。
その姿が、脱落者のテンプレートにハマりすぎていて、俺は面白くそれを見ていた。
だが、ずっとそんな姿を見ているのも意味がないので、一言こぼした。


(メ●ω●)「おいクソガキ」

(,,゚Д゚)「いっ!」

(メ●ω●)「名前は?」

(,,゚Д゚)「ギ… 義児だ」

(メ●ω●)「故郷は?」

(,,゚Д゚)「美府県……」

(メ●ω●)「両親は?」

(,, Д )「いねえ…… 死んだ……」


ここで自分も親無しの身分であるとふと思い出し、悔しいことに少し同情を覚えた。
それにしてもこいつの弱弱しい瞳は何だろう。
苛立つほどに弱い視線。



143: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:07:45.27 ID:/mu+h/Pq0
(メ●ω●)「今いくつだ?」

(,,゚Д゚)「……17」

(メ●ω●)「学校には行ってないのか?」

(,,゚Д゚)「……中学は卒業したぜ」

(,,゚Д゚)「てめぇ…… なんでそんな話ばかり聞きやがるんだ」

(メ●ω●)「いや、俺は薬を売る相手には必ず顧客リストを作るんだ」

(メ●ω●)「だからお前の身の上を……」


再び俺の裾に力が加わる。 黒い瞳と白い瞳の境界線が淀みを増す。


(,,゚Д゚)「う、売ってくれるのか!!??」

(メ●ω●)「嘘に……」


       決まってんだろ!!!



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/30(日) 02:10:03.17 ID:/mu+h/Pq0
鈍い音と共にガキの体躯は沈んだ。
ガキは粘液と共に血もどうやら吐いていたようだが、どうやら意識はまだ持っていた。


(メ●ω●)「おいクソガキ」

(,, Д )「う、あああっ……」

(メ●ω●)「悔いてるか」

(,, Д )「あう……」

小さく首を縦に振る。
その姿はやはり弱く、まるで子猫でも虐めてる気分で、俺は自分自身に虫唾が走っていた。


(メ●ω●)「お前にはなにがある?」

(,, Д )「ああぁ……?」

(メ●ω●)「お前にはなにが残っている」



146: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:11:18.16 ID:/mu+h/Pq0
(,,゚Д゚)「俺には…… なにもねェ」

(,, Д )「夢も…… 希望も…… 家族も…… 友人もっ……」


しんみり語ってんじゃねぇよ! と言わんばかりに、俺はガキのわき腹を蹴り上げた。
ひくひくと痙攣が起ったが、経験上から判断すると、まだ死なないだろう。


(メ●ω●)「痛いか」

(,, Д )「いてぇ…… いつか…… ぶっ殺す…… ううっ」

(メ●ω●)「その意気だ」

(,, Д )「あん?」

(メ●ω●)「夢も希望もなくても、その身体があるじゃねぇか」

(メ●ω●)「へらず口を叩ける頭もな」

(,, Д )「……」



147: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:13:46.37 ID:/mu+h/Pq0
(メ●ω●)「全部失ったと思っても、まだ残ってるもんがあんだよ。
       そして、どんなに屑でも絶対失っちゃいけないものがな」

(メ●ω●)「テメェ自身だよ」

(,,;Д )「いっ…… ひっ、ひっ……」





「俺式療法だ。 血吐くくらいコキつかってやる。来い」

  「……」

「立てよ。このゴミクズ。まずはゴミが名前から取れるまで頑張れ」








俺にしてみりゃ唯の気紛れ。 まるで捨て猫でも拾うような感覚だった。本当に。
あの夜。 自分で言った台詞を思い返し、部屋で吹き出してしまった。
過去を捨てた男が、何を言っているのだろうか。いや、捨てざるを得ないこの俺が……



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/30(日) 02:15:16.45 ID:/mu+h/Pq0
※ ※ ※







ふと気がつくと、場面はまた病室に戻っていた。
巻き戻した部分を全て再生してしまったわけだ。
このテープは、そう、「俺の記憶」。しかし、それを見てどうしろと?


空の色は少しも変わらない。時空が歪んでいること、ここは幻想であることを認識する。


俺はとりあえず停止ボタンを押した。
巻き戻そうとしても、あの箇所で止まってしまうだろう。


(メ●ω●)(……さて、どうしたもんかね)


「おいすー!」


(メ●ω●)「おい坊主、テープ壊れてるぜ」



149: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:16:16.21 ID:/mu+h/Pq0
「え? 壊れてる?」

(メ●ω●)「ああ。巻き戻そうとしても止まっちまうんだ」

「キカイなんて、叩けばなおるお!」


そう言って少年は、デッキを引きずり出して上部をガンガンと叩いた。
そしてボタンを押す。 すんなりとデッキは巻き戻し作業をつっかえずに続けた。
こちらを向いて、白い歯をこれ見よがしに出して笑う。
いい笑顔だ。 自分とは、思えないね。


「それじゃ、またね!だお!」

(メ●ω●)「おい、待てっつーの」

「しーっ! いま、かくれんぼやってるんだお! 見つかったら大変だお!」


その言葉を残し、少年は消えた。 ……まあいい。夢の中だ。どんなことでも起きる。
俺はテレビの方に向き直した。

いつの間にか、テープは全部巻き戻されていた。



151: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 02:18:10.41 ID:/mu+h/Pq0
再生ボタンを押した。
途端に傷が痛み出す。デッキから電流が発せられ、それが頬に届いたような感覚だった。
しかし今は、その画面に映る全てを受け入れるしか…… ないか。








( ^ω^)「とれてるお〜??」

「撮れてるよー! 今録画ボタン押したから! はい、どうぞ!」

( ^ω^)「ないとうすいへいだお!」

( ^ω^)「しょうらいの夢は……」







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