( ФωФ)さとりごころのようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:40:34.93 ID:WOj/BkIM0
序章 暗闇語り
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:43:13.36 ID:WOj/BkIM0
-
見えないとはたしかに不便なのだろう。
しかし逆に見えすぎるというのもなにかと困りものだと思う。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:46:40.38 ID:WOj/BkIM0
- そんなことを考えながら夜道を歩く。
この町は比較的、田舎なほうだと思うので夜は暗い。
街灯は温泉と商店街、あとは町の出入り口付近を精力的に照らしているのだが。
逆にいえばそれ以外の場所では精力的じゃないということだ。
そばにある街灯を見上げる。
百メートル毎にあるかないかのそれは、点滅して今にも切れそうだ。
もし車で事故を起こしたら、役場のほうに文句が飛んでいくだろうな。
以前、車が畑に突っ込んだが、車の持ち主が逆に畑の主に謝られたことがあった。
夜中で灯りの少ない道でのできごとだった。
畑の主いわく「こんな暗いところでごめんなさい」だそうだ。
その翌日、彼らはそろって役場に文句を言いにいったのは今でも笑い話として語られる。少なくとも私たちの間では。
と、そんなこともありながらいまだに街灯整備してないのは、流石、お役所仕事というべきか。
おかげで私は点滅してる領地を抜け、暗闇の中を歩き続けなければならない。
ここら一帯は畑が多く、遮蔽物が極端に少ない。
夜目が利いていてもきつい闇なので、気を抜くと私も畑に突っ込んでしまいそうだ。
徒歩だから畑自体には問題ないが、川や用水路に落ちたら目も当てられない。
気をつけて歩こうと思う。
ゆっくり足を進めると、ニット帽のボンボンが揺れるのを感じた。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:50:03.83 ID:WOj/BkIM0
- ニット帽は私にとって必要なものだ。
だからわりとお洒落なものを作ってもらっている。
茶と白で編みこまれ、耳あての先には三つ網に結われた毛糸。
頭部のてっぺんに垂れ下がっている赤い振り子状の飾り。
特に振り子の先端についてあるボンボンは、暇を持て余すとつい弄くってしまう。
おかげでボンボンの形が崩れてしまうことも多々ある。
ちなみに今日、姉さんにボンボンを付け直してもらった。
このニット帽で数えるとかれこれ三度目だ。
お姉ちゃん大好きー(はーと)、とでもいってやればよかったのだが私の柄じゃない。
ありがとう、とだけ言っておいた。
大体、私が姉さん大好きなのは周知の事実ですし!
言ってもいまさらな気がしますし!!
はーとをつけて話しても喜ばれるけど、もっと喜んでほしいですし!!!
だから密かにお返しを考えてたり。
はーとをつけて話すのはその時でいいと思う。……まあ、つけて話すとするならね。
しかしお返しは何がいいんだろうね?
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:53:29.26 ID:WOj/BkIM0
- lw´‐ _‐ノv「んー……服?」
呟いた言葉を耳にいれ、自然と自分の格好を確認する。
服装はわりと普通でいっていると思う。
今の季節は暑いのでTシャツに短パン、あと動きやすいようにスニーカーを履いている。
そして腰には目的を完遂するためのものが掛けられている。
パッと見てあまり参考にならなかった。
なら下着とかがいいのかな。
今、身につけているのはスポーツブラと……
lw´‐ _‐ノv「……いかんいかん。
自主規制、自主規制っと」
破廉恥なことは一人で、しかも外ではなるべく考えないようにしている。
つい独り言として漏れてしまうかもしれないし、誰かに私の考えを見透かされそうだからだ。
……家に帰ってから考えるとするかな?
そう結論付けて夜道を歩く。
家がある方角の真逆を進み続ける。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/01(木) 23:56:54.24 ID:WOj/BkIM0
- 早く家に帰って先ほどの件をじっくり考えたい。
考えたいのだが、今は生憎、見回りの最中なのだ。
見回り経路はまず、町の北から中央へ。
そして中央までいって人に会ったら、東に進む。
以上の手筈になっている。
この町は四方が山に囲まれている。
主に四つの山に囲まれており、それぞれ、北は『兄者山』、東は『弟者山』、北西は『姉者山』、南西は『父者山』と呼ばれている。
山々に囲まれているおかげで、この町の外へ通じる道は山裾となっている南部と西部の二本しかない。
地形的に閉鎖感漂う町であり、それを払拭するためにバスや役場などの公共施設は南西に集中している。
要は外面を気にしているわけだ。
気にしなくても閉鎖感があるのは住人全員が認めていると思うよ。
兄者山と弟者山の間、町の北東には通称『妹者丘』があり、その山と丘の後方には『母者山』という大きな山がある。
妹者丘にはかつて秘湯と呼ばれていた温泉があって、その温泉を経営するようになってからはこの町の収入源となっている。
人がよく来るため、その温泉の近くには小規模だが商店街がある。
そして今挙げたところは街灯君が頑張っているわけだ。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:00:20.34 ID:/n8W6tLi0
- じゃあ、中央部ではどうだろうか?
それは見たとおりだろう。
田畑が多く、灯りも少ない。
あるとしたらせいぜい、十字路とその脇に根を張る一本杉くらいだろう。
それが私が住む小さな町、分雲町だ。
lw´‐ _‐ノv「……ん?」
暗闇を進み続けて、灯りに照らされている一本杉が見えた。
さらにいえば一本杉の下に見覚えのある人影が見えた。
その人影まで駆け寄る。
(´・ω・`)「おっす」
lw´‐ _‐ノv「おっす、今来たところだよ」
(;´・ω・)「知ってるから」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:06:52.37 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「で、見かけた?」
(´・ω・`)「今日は見てないよ」
lw´‐ _‐ノv「そか」
(´・ω・`)「見つけても多分教えないよ」
lw´‐ _‐ノv「……」
(´・ω・`)「僕が片付けちゃうから」
私より少し背の高い、同い年の生意気な少年は私に敵意をぶつける。
彼はショボン……初めて聞く人はあだ名かと思うだろうが、実は本名だったりする。
正式名称は芭盆寺 処本(ばぼんじ しょぼん)といい、寺の技術の結晶である。
なんでもTさんの遺伝子を使って生み出された擬似生命だとか。
ちなみに彼の遺伝子を回収するために寺は一時期、三桁在住していた坊さんが一桁になってしまったとかなんとか。
この生物は彼ほどではないが法力が使えるらしい。
本物と比べると劣化してるといわれているが、それでも彼は非常に強い。
その気になればあの大きな母者山だって消し去ることが……
(;´・ω・)「まって、何そのトンデモ設定は!?」
lw´‐ _‐ノv「……」
口に出してしまってたらしいね。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:10:13.01 ID:/n8W6tLi0
- lw´‐ _‐ノv「奴らを片付けるといったんだから、邪気眼レベルかそれ以上の設定がないとつまんなくない?」
(;´・ω・)「つまらなくていいと思うけど」
lw´‐ _‐ノv「……」
(;´・ω・)「……」
流石ショボン。
つまらないことを平然と言ってのけるその姿勢は、まさにボケ殺しの鏡だね。
おかげで会話が止まってしまった。
神様、これが私の幼馴染です。
良く言えばつまらないハゲ、悪く言えば情けないハゲ。
一応こんなでも寺の跡取りというのが悪い冗談だと思います。
この男がハード設定の人生ゲームをクリアできるとはとても思えません。
(´・ω・`)「……ふぅー。
とりあえず何か出たとしても僕が片付けるよ。
だから帰っていいよ。
うろつかれても邪魔なだけだし」
しかも私を敵視してるし。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:13:29.90 ID:/n8W6tLi0
- 敵視されてる理由はよく知らない。
知ろうと思えば知る方法があるけど、その手はあまり使いたくないのでやっぱり知らないのだ。
なので知らないままでいいと思う。
とはいえ私も人間してるので、たまに設定をハードのさらに上の難易度にしてやろうと思わなくもない。
さしあたっては、眉毛を剃ってにこやかな眼差しにして語尾に「お」をつけるような人物に矯正してだな……
(;´・ω・)「やめて」
lw´‐ _‐ノv「……」
またみたいだね。
この独り言を吐く癖、本当にどうにかならないものかな?
一応気をつけてるつもりなんだけど。
そのおかげで自身の秘密を漏らしたことはなくとも、たまに考えが口を伝わって出るのは問題だと思う。
そんなんだからシュールってあだ名をつけられるんだよねぇ。
思わずため息をついたら、ショボンが私を意外そうな目で見ていた。
(´・ω・`)「ため息ついてどうしたの。
疲れたのなら家に帰ってヒートさんに癒してもらったら?」
lw´‐ _‐ノv「いや、疲れてないよ。
ただ自分に嫌気が差しただけだから」
(´・ω・`)「へぇ?君にしてはいいこと考えたね」
そのイガ栗頭の毛、一本一本丁寧に毟り取りたいと思うのはなんでだろうね?
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:16:47.42 ID:/n8W6tLi0
- (´・ω・`)「とにかく。
君の出る幕はないよ。
あとの余生を神社でゆっくり過ごしなよ」
わざと言ってるのだろうか?
……言ってるんだろうね、残念ながら。
だから私もはっきり言ってやることにした。
lw´‐ _‐ノv「お気遣いありがとさん。
でもその案は遠慮させてもらうよ」
(´・ω・`)「へぇ?君になにかできるとも?」
lw´‐ _‐ノv「できるよ。
じゃあ逆に聞くけど、ショボンにはなにかできる?」
(´・ω・`)「……」
ショボンは顔色を変えずに口を閉ざす。
同業者には教えたくないということだろうか?
まあいい。彼がどういう考えだろうが、私の考えは変わらない。
かつての誓いを思い出すように心の中で反芻する。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:20:10.21 ID:/n8W6tLi0
-
lw´‐ _‐ノv「ウツロは私が倒す」
それが私の役割だと信じているから。
だからどんなに敵意をぶつけられても引かない。
私の決心をへし折ろうとしても無駄だよ。
(´・ω・`)「……チッ」
私の言葉を聞いたショボンは舌打ちして背を向ける。
彼の進行方向は西、私の予定の進行方向とは逆だ。
とりあえずは了承してくれたみたいだ。
別に了承してもらわなくとも勝手に行動するけど。
十字路の一本杉は風に吹かれて怪しく揺れる。
私はその下でショボンの背中が小さくなるのを確認して、東へ進む。
lw´‐ _‐ノv「やれやれ」
ショボンにも困ったものだ。
駆除対象は共通なのだから共闘できないものか?
……無理そうだね。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:23:29.05 ID:/n8W6tLi0
- さてさて、またもや暗い夜道を一人きりで歩く。
今日はまだ獲物に会ってないので、この先で会えればいいなと少し思う。
ウツロは早めに見つけたほうがいいから。だからできるだけ多めに会いたい。
奴らにしてみたら、私なんかには会いたくないだろうけどさ。
まあ出会ってしまったのならそういう運命だってことで諦めてもらうとしてだな……
lw´‐ _‐ノv「?」
今、視界におかしなものが映った。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:26:52.19 ID:/n8W6tLi0
- 追われている誰かと追っている何か。
こんな夜に?
こんな暗いのに?
そしてなんであんなに必死に?
自然と私の足が動き出した。
予感がしたのだ。
だから直感にしたがって、走りながら腰に手を宛てる。
そのどちらかがウツロならそれでよし、運命だと思っ
lw;‐ _‐ノv「え?」
頭が追いつかない。
私は今、ありえないものを目撃した、と思う。
追っていた何かが突如、淡い光となって消えたのだ。
追われていた誰かは力尽きたように地面に腰を下ろす。
……これは話を聞く必要があるね。
頭の中でこっそりに呟く。口には出さなかった。
地面に腰を下ろしてる男にゆっくり近づく。
私の腰には二本ある小刀の拵がバッテンを作っている。
私はそのうち一本を静かに抜いた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/02(金) 00:29:29.49 ID:/n8W6tLi0
-
( ФωФ)さとりごころのようです
戻る/一章 一話